説明

酸素濃縮装置

【課題】酸素濃縮時の圧力損失を低減でき、少量の酸素吸蔵部材により効率的に酸素を濃縮できる酸素濃縮装置を提供する。
【解決手段】酸素を選択的に吸蔵するセラミック材料を主成分とする隔壁により、流体の流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム形状の酸素吸蔵部材を備え、酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを供給し、酸素吸蔵部材に酸素を選択的に吸蔵させ、酸素吸蔵部材内を0.1〜6.7kPaに減圧して酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着し、酸素濃縮ガスを得る酸素濃縮装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素濃縮装置に関し、さらに詳しくは、酸素濃縮時の圧力損失を低減でき、少量の酸素吸蔵部材により効率的に酸素を濃縮できる酸素濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素は工業的に有用なガスであり、年間約130億m使用されている。利用分野は化学プラント用、医療用等多岐に渡る。酸素は、将来的には石炭ガス化複合発電や合成液体燃料製造等で用いられることが予測されており、今後、需要が劇的に増大するものと推定される。そのため、安価に多量の酸素を製造できる技術が必要とされている。
【0003】
空気からの酸素製造(濃縮)法としては、一般的には、深冷分離法、膜分離法、圧力スイング吸着法(Pressure Swing Adsorption法(以下、「PSA法」と称する))が用いられている。深冷分離法は、空気を液化し、沸点差を利用して各成分を分離するものであり、高純度の酸素や窒素を製造することができる。同法は現在、大容量の高純度ガスを製造する方法として主流であるものの、依然、電力等の動力費が高いという問題がある。膜分離法は、酸素を選択的に透過する高分子薄膜やセラミック製の薄膜を用いて、高濃度の窒素や酸素を得るものである。この方法によると簡便に高濃度の窒素や酸素を得ることができるが、ガスの透過速度が小さいため、大規模設備には適さないという問題がある。PSA法は平衡吸着量や吸着速度の差を利用して特定のガスを分離するものである。
【0004】
PSA法にて酸素を製品として得る場合には、酸素以外のガス成分を選択的に吸着するゼオライト系等の吸着剤を用いるのが一般的である。具体的には、吸着されずに吸着塔を通過して流出する成分(難吸着成分)である酸素を製品として採取する。この場合、ゼオライトの吸着特性により、製品酸素濃度は95体積%となる。この方法によれば、95体積%の酸素を得ることができるが、空気から酸素を濃縮する場合、被吸着物質である窒素の分圧が高いため、大規模酸素製造においては、吸着剤の充填量が膨大になるという問題がある。
【0005】
一方、酸素を窒素に対して選択的に吸着することができる分子篩活性炭を吸着剤に用いた、PSA法による酸素製造プロセスについて検討されている。この場合、吸着剤に酸素を吸着させた後、吸着塔内を減圧することにより、吸着した酸素を製品として取り出すことになる。この方法によると、吸着剤の量を低減することが可能となるが、製品酸素濃度が低いという問題があった(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
近年、高温下において、酸素を選択的に吸蔵することができるセラミック材料(酸素吸蔵セラミック)が注目されている(例えば、特許文献2参照)。酸素吸蔵セラミックとしては、CeO2−aやLaSr1−xCoFe1−y3−z等を挙げることができ、ディーゼルパティキュレートフィルターでの煤燃焼用触媒や酸素透過膜としての応用が検討されている。
【0007】
また、酸素吸蔵セラミックを用いたPSA法による酸素製造プロセスが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平6−142431号公報
【特許文献2】特開2006−176346号公報
【特許文献3】特開2005−87941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3においては、酸素吸蔵セラミックとしてLa0.1Sr0.9Co0.9Fe0.1を用いている。そして、当該酸素吸蔵セラミックをペレット状にしたものを吸着剤として用いたPSA法により、酸素を製造する方法が記載されている。しかしながら、得られる製品酸素濃度は70体積%程度と低いものであった。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、酸素濃縮時の圧力損失を低減でき、少量の酸素吸蔵部材により効率的に酸素を濃縮できる酸素濃縮装置を提供することを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によって以下の酸素濃縮装置が提供される。
【0011】
[1] 酸素を選択的に吸蔵するセラミック材料を主成分とする隔壁により、流体の流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム形状の酸素吸蔵部材を備え、前記酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを供給し、前記酸素吸蔵部材に酸素を選択的に吸蔵させ、その後、前記酸素吸蔵部材内を0.1〜6.7kPaに減圧して前記酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着し、酸素濃縮ガスを得ることができる酸素濃縮装置。
【0012】
[2] 前記酸素吸蔵部材を200〜450℃に加熱して、酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを供給し、その後、前記酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着する[1]に記載の酸素濃縮装置。
【0013】
[3] 前記酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを101.3〜133.3kPaの圧力で供給する[1]又は[2]に記載の酸素濃縮装置。
【0014】
[4] 前記セラミック材料が、(Ln1−x)(BFe1−y)O及び(Ca1−x)(BFe1−y)O2.5からなる群から選択される少なくとも一種である[1]〜[3]のいずれかに記載の酸素濃縮装置。
【0015】
[5] 前記セラミック材料の酸素吸蔵容量が、200〜450℃、酸素含有ガスの酸素分圧10〜50kPaにおいて、セラミック材料1cm当たり1.8×10−4〜1.0×10−3molである[1]〜[4]のいずれかに記載の酸素濃縮装置。
【0016】
[6] 前記酸素吸蔵部材全体に対する、酸素を選択的に吸蔵する前記セラミック材料の体積比率が25〜80体積%である[1]〜[5]のいずれかに記載の酸素濃縮装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸素濃縮装置は、ハニカム形状の酸素吸蔵部材を備え、酸素を選択的に吸蔵することにより酸素を濃縮するため、ハニカム形状であることより酸素濃縮時の圧力損失が小さく、酸素を選択的に吸蔵することより大規模酸素製造(濃縮)においても酸素吸蔵部材の量を少なくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0019】
本発明の酸素濃縮装置の一実施形態は、図1A及び図1Bに示すような、酸素を選択的に吸蔵するセラミック材料を主成分とする隔壁2により、流体の流路となる複数のセル3が区画形成されたハニカム形状の酸素吸蔵部材1を備え、酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを供給し、酸素吸蔵部材に酸素を選択的に吸蔵させ、酸素吸蔵部材内を0.1〜6.7kPaに減圧して酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着し(脱離させ)、酸素濃縮ガスを得ることができるものである。酸素吸蔵部材1が、流体の流路となる複数のセル3を区画形成する隔壁2により形成されたハニカム形状であるため、ペレット状の酸素吸蔵部材と比較すると、圧力損失を低減することができ、吸蔵された酸素を取り出すときに使用する真空ポンプの電力原単位を低減することが可能となる。ここで、「主成分」とは、80質量%以上含有されている成分をいう。酸素含有ガスとは酸素を含有するガスであり、空気等を挙げることができる。また、酸素濃縮ガスとは、酸素濃度95体積%以上のガスをいう。また、以下、酸素濃縮装置により「酸素濃縮ガスを得る」ことを、単に「酸素を得る」又は「製品酸素を得る」ということがある。図1Aは、本実施形態の酸素濃縮装置を構成する酸素吸蔵部材1の端面を模式的に示す平面図であり、図1Bは図1AのA−A’断面を示す模式図である。
【0020】
酸素吸蔵部材1を構成するセラミック材料は、(Ln1−x)(BFe1−y)O及び(Ca1−x)(BFe1−y)O2.5からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。(Ln1−x)(BFe1−y)Oは、一般にぺロブスカイト型酸化物と称される化合物である。Lnは、1種のランタニド又はランタニドの2種以上の組合せを示す。Aは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、1種であってもよいし2種以上の組合せであってもよい。Bは、Ga、Ti、Ni、Cu、Co、Mg、Mn、Zr、Ce、Y、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種を示す。Feは鉄を示す。また、x及びyは、いずれも0以上、1未満の数である。(Ca1−x)(BFe1−y)O2.5は、一般にブラウンミラーライト型酸化物と称される化合物である。Caは、カルシウムを示し、Aはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を示し、1種であってもよいし2種以上の組合せであってもよい。Bは、Ga、Ti、Ni、Cu、Co、Mg、Mn、Zr、Ce、Y、及びAlからなる群から選択される少なくとも1種を示す。Feは、鉄を示す。また、x及びyは、いずれも0以上、1未満の数である。これらのセラミック材料は、温度や酸素分圧の変化に応じて、その構造に酸素イオンを取り込むことができるため、原理的には、酸素のみを選択的に吸着することができる。これにより、大規模酸素製造(濃縮)においても酸素吸蔵部材の量を少なくすることが可能となり、装置を小型化することが可能となる。
【0021】
上記セラミック材料の酸素吸蔵容量が、200〜450℃、酸素含有ガスの酸素分圧10〜50kPaにおいて、セラミック材料1cm当たり1.8×10−4〜1.0×10−3mol(モル)であることが好ましく、2.0×10−4〜8×10−4molであることが更に好ましい。1.8×10−4molより少ないと、高濃度の酸素を得にくくなることがある。セラミック材料の酸素吸蔵容量は多いほど好ましいが、多すぎる場合には材料としての強度が劣りやすくなるため、上限は1.0×10−3mol程度である。
【0022】
酸素吸蔵部材全体に対する、酸素を選択的に吸蔵するセラミック材料の体積比率(酸素吸蔵部材の体積率)は、25〜80体積%であることが好ましく、30〜75体積%であることが更に好ましい。25体積%より小さいと、セルの空間部分が大きくなり、高濃度の酸素を得にくくなることがあり、80体積%より大きいと、圧力損失が大きくなることがある。
【0023】
酸素吸蔵部材により得られた酸素(濃縮された酸素)の酸素濃度(製品酸素濃度)Xは、「X=100×(0.2×(1−V)+(K×22.4×10×T/273)・V)/((1−V)+(K×22.4×10×T/273)・V)」の式により推算することができる。ここで、Vは「酸素吸蔵部材の体積率」、Xは「製品酸素濃度(体積%)」、Kは「セラミック材料1cm当たりの酸素吸蔵容量」、Tは「装置運転温度(K)」をそれぞれ示す。上記式を用いて、V及びKを制御することにより、所望の濃度の製品酸素を、容易に得ることが可能になる。例えば、573Kにおいて、セラミック材料1cm当たりの酸素吸蔵容量が2.1×10−4molのセラミック材料を用いた場合、96体積%の酸素を得るためには、Vの値を0.66以上にすればよいことになる。また、セラミック材料1cm当たりの酸素吸蔵容量が6.3×10−4molのセラミック材料を用いた場合、99体積%の酸素を得るためには、Vの値を0.7以上にすればよいことになる。尚、Vの値が大きすぎると、ガス透過時の圧力損失が大きくなるため、Vは0.8以下が好ましい。
【0024】
図1Aに示すように、酸素吸蔵部材1は、隔壁2の外周を覆うように外周壁4を更に有してもよい。この場合、外周壁4は、上記セラミック材料を主成分とするものであることが好ましい。
【0025】
酸素吸蔵部材1の隔壁2の厚さは、0.2〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることが更に好ましい。0.2mmより薄いと、酸素吸蔵部材1の強度が低下することがあり、5mmより厚いと、酸素吸蔵のポテンシャルは高くなるが、酸素吸蔵材への酸素の取り込み速度が低下し、吸蔵効率が低下することがある。隔壁3の厚さは、ノギスにより測定した値である。
【0026】
酸素吸蔵部材1のセルの開口径は、0.5〜10mmであることが好ましく、1〜5mmであることが更に好ましい。0.5mmより小さいと、ガス流路が狭くなるために圧力損失が大きくなることがある。10mmより大きいと、酸素の取り込み効率が低下することがある(注:吹き抜ける)。セルの開口径は、ノギスにより測定した値である。
【0027】
隔壁の厚さとセルの開口径の両者の関係から、酸素吸蔵部材1の中心軸に直交する断面のセル密度は、1〜500cpsi(0.04〜21セル/cm)であることが好ましく、10〜300cpsi(0.4〜13セル/cm)であることが更に好ましい。
【0028】
酸素吸蔵部材1のセル形状は特に限定されないが、中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。
【0029】
酸素吸蔵部材1の外形としては、特に限定されないが、円筒形、楕円筒形、四角筒形等の底面多角形の筒形状、底面不定形の筒形状等を挙げることができる。
【0030】
酸素吸蔵部材の製造方法は、以下の通りである。
【0031】
まず、公知の方法により、上述した(Ln1−x)(BFe1−y)O、(Ca1−x)(BFe1−y)O2.5等のセラミック材料を作製する。例えば、(La0.7Sr0.3)(Ga0.6Fe0.4)Oは、「T.Ishihara、Electrochemical and Solid−State Letters,4(3)E13−E15(2001)」に記載の方法で作製することができる。
【0032】
得られたセラミック材料をトロンメル等により微粉砕し、乾燥させる。粉砕、乾燥後のセラミック材料の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましい。セラミック材料の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布計で測定した値である。粉砕、乾燥させたセラミック材料に添加剤を加えて成形原料とし、成形原料を混合、混練して坏土を形成する。
【0033】
成形原料には、添加剤として、造孔材、有機バインダ、分散媒、分散剤等を添加することができる。
【0034】
造孔材としては、焼成工程により飛散消失する性質のものであればよく、コークス等の無機物質や発泡樹脂等の高分子化合物、澱粉等の有機物質等を、単独で用いるか組み合わせて用いることができる。
【0035】
有機バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を使用することができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。有機バインダの含有量は、セラミック材料100質量部に対して、5〜40質量部であることが好ましい。
【0036】
分散剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を使用することができる。これらは、一種単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
成形原料を混練して坏土を調製する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0038】
次に、得られた坏土を、ハニカム形状に成形してハニカム成形体(ハニカム形状の酸素吸蔵部材)を作製する。ハニカム成形体を作製する方法としては、特に制限はなく、押出成形、射出成形、プレス成形等の公知の成形法を用いることができる。中でも、上述のように調製した坏土を、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることができる。
【0039】
図2に示すように、本実施形態の酸素濃縮装置100は、酸素吸蔵部材を内蔵した酸素吸蔵器11と、酸素吸蔵器11内の酸素吸蔵部材に吸蔵された酸素を取り出すための真空ポンプ12とを備えることが好ましい。そして、本実施形態の酸素濃縮装置100は、酸素吸蔵器11の一方の端部に酸素含有ガスを酸素吸蔵器11内に導入するための吸気ライン13が配設され、酸素吸蔵器11の他方の端部に酸素吸蔵器11内からガスを排出するための排気ライン14が配設されている。そして、排気ライン14に三方弁15が接続され、三方弁15の一方に、真空ポンプ12に繋がる真空ライン23が接続され、残りの一方に、酸素吸蔵器11を通過したガスを外部に流出させるための流出ライン24が接続されている。図2は、本発明の酸素濃縮装置の一の実施形態を模式的に示すフロー図である。
【0040】
酸素吸蔵器11は、筒状の外筒16と、外筒16の内部に配設されたハニカム形状の酸素吸蔵部材とを備え、吸気ライン21から空気等の酸素含有ガスが導入されたときに、酸素吸蔵部材の一方の端部からセル内に酸素含有ガスが流入するように形成されている。酸素含有ガスが、酸素吸蔵部材と外筒16との間を通過してしまわずに、酸素吸蔵部材の一方の端部からセル内に流入するようにするため、酸素吸蔵部材と外筒16との間をO−リングで封止したり、酸素吸蔵部材と外筒16との間の隙間にガラスウール等の充填材を充填したりすることが好ましい。外筒16の材質は金属であることが好ましく、そのなかでも、ステンレススチールであることが更に好ましい。
【0041】
真空ポンプ12の上流側又は下流側に、酸素吸蔵器から排出された酸素を貯留する酸素貯留槽を備えても良い。
【0042】
酸素吸蔵器11に、酸素含有ガスを供給するための装置としては、コンプレッサー等を用いることができる。
【0043】
本実施形態の酸濃縮装置を用いて、空気等の酸素含有ガスから酸素を濃縮する方法(酸素を製造する方法)は、以下の通りである。
【0044】
酸素吸蔵を行うときには、酸素吸蔵器11内の酸素吸蔵部材を200〜450℃に加熱することが好ましく、250〜400℃に加熱することが更に好ましい。加熱の方法としては特に限定されないが、あらかじめ空気等の酸素含有ガスを所定の温度に加熱してから、外部との断熱を施した酸素吸蔵器11に供給してもよいし、または、酸素吸蔵器11を所定の温度に加熱することにより酸素吸蔵器11内部で酸素含有ガスを昇温してもよい。そして、酸素吸蔵器11内の圧力を0.1〜6.7kPaに減圧して5〜30分間保持する。これにより酸素吸蔵器の再生(酸素の脱離)を行う。そして、吸気弁13、排気弁14を開け、三方弁15を、排気ライン22から流出ライン24へと流体が流れる方向に向け(操作し)、空気等の酸素含有ガスを、760〜1000Torr(101.3〜133.3kPa)の圧力で、吸気ライン21から酸素吸蔵器11内に導入し、酸素吸蔵部材内に供給する。101.3kPa未満では酸素含有ガスを供給するのが困難であり、133.3kPaを超えても、酸素吸蔵部材が吸着する酸素量の増加の程度が低い。そして、酸素含有ガスを吸気ライン21から導入し、酸素吸蔵器11から排出される排ガスを、排気ライン22及び三方弁15を経由させて流出ライン24から外部に排出する操作を5〜30分間行う。これにより、酸素含有ガス中の酸素を酸素吸蔵部材に最大限吸蔵させることができる。その後、吸気弁13を閉じ、三方弁15を、排気ライン22から真空ライン23へと流体が流れる方向に向け(操作し)、真空ポンプ12により酸素吸蔵器11内(酸素吸蔵部材内)を3.8〜50Torr(0.1〜6.7kPa)に減圧する。これにより、酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着し、酸素濃縮ガスを得る(酸素を製造する)ことができる。このときの酸素吸蔵部材に含有されるセラミック材料に残存する酸素量は、セラミック材料1cm当たり、1.8×10−5mol以下であることが好ましい。
【0045】
酸素吸蔵器11を並列に2つ備えても良い。これにより、酸素吸蔵工程と、真空ポンプによる製品酸素排出工程とを、2つの酸素吸蔵器により交互に行うことにより、連続的に製品酸素を得ることができる。
【0046】
水や二酸化炭素は、酸素吸蔵部材において酸素の吸蔵を阻害するため、水や二酸化炭素を除去する装置を用いて、酸素濃縮装置に供給する空気等の酸素含有ガスから水や二酸化炭素を、あらかじめ除去しておくことが好ましい。水や二酸化炭素を除去する装置としては、冷却式除湿・炭酸器や分離膜等を挙げることができる。
【0047】
得られる製品酸素の酸素濃度を高くするため、酸素を酸素吸蔵部材で吸蔵した後、酸素吸蔵部材内(酸素吸蔵器内)を減圧して酸素を回収する前に、酸素吸蔵部材内に残存する窒素等の不純物を高濃度酸素でパージすることが好ましい。不純物量は少ないため、パージに用いる酸素量は少量でよい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
セラミック材料として、(La0.7Sr0.3)(Ga0.6Fe0.4)Oを用いた。(La0.7Sr0.3)(Ga0.6Fe0.4)Oは、「T.Ishihara,Electrochemical and Solid−State Letters, 4 (3) E13−E15 (2001)」に基づいて作製した。(La0.7Sr0.3)(Ga0.6Fe0.4)Oの酸素吸蔵容量を測定したところ、400℃、20kPaにおける酸素の吸着量が6.5×10−4mol(モル)であった。酸素吸蔵容量の測定には島津製作所社の自動吸着測定装置ASAP2020を使用した。
【0050】
(酸素吸蔵部材の作製)
得られた(La0.7Sr0.3)(Ga0.6Fe0.4)Oをトロンメル中で玉石を用いて、微粉砕し、乾燥した。次に、原料粉末に対し、造孔剤とバインダーを添加して成形原料を得た。得られた成形原料をニーダーで混練し、混練物を真空脱気して坏土を得た。バインダーとしては、メチルセルロースを用いた。得られた坏土をプランジャー式押出成形機に入れて押出成形し、縦20mm、横20mm、長さ100mmの直方体のハニカム形状の酸素吸蔵部材を得た。隔壁の厚さは0.25mm、セルの開口径は2mm×2mm(正方形)であり、酸素吸蔵部材の体積率は64%であった。
【0051】
(酸素濃縮装置の作製)
得られた酸素吸蔵部材を用いて、上述した図2に示すような構造の酸素濃縮装置を作製した。各配管及び酸素吸蔵器の外筒の材質はステンレススチールとした。真空ポンプの下流側に、排出した製品酸素をサンプリングして酸素濃度を測定する四重極子マススペクトル分析装置を取り付けた。得られた酸素濃縮装置を用いて、以下に示す酸素濃縮方法により酸素の濃縮を行い、酸素濃縮過程において、酸素吸蔵器11から排出されるガスの組成の経時変化を四重極子マススペクトル分析装置にて測定した。その結果、酸素吸蔵器11から排出されたガスに占める酸素の割合は97%であった。これにより、本発明の酸素濃縮装置により高濃度の酸素を得ることができることがわかる。
【0052】
(酸素濃縮方法)
酸素吸蔵部材を外筒に装入した後、温度を400℃とした。セル以外の空隙(酸素吸蔵部材と外筒との隙間)はガラスウールを充填し、ガスの流通を低減した。真空ポンプ12により酸素吸蔵器11内の圧力を3Torr(0.4kPa)に減圧し、15分保持する。その後、吸気弁13及び排気弁14を開け、三方弁15を、排気ライン22から流出ライン24へと流体が流れる方向に向けた(操作した)状態で、酸素吸蔵器11に、20%のNと80%のOとを含有する混合ガスを1.0atm(101.3kPa)で導入する。その後、吸気弁13を閉じ、三方弁15を、排気ライン22から真空ライン23へと流体が流れる方向に向け(操作し)て、真空ポンプ12にて酸素吸蔵器11内を3torr(0.4kPa)まで減圧する。これにより、酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着し、真空ポンプの下流側に製品酸素を得る。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の酸素濃縮装置は、低圧力損失で高濃度の酸素を得ることができるため、種々の用途に用いる酸素を製造することができ、特に大規模酸素製造に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1A】本発明の酸素濃縮装置の一の実施形態を構成する酸素吸蔵部材の端面を模式的に示す平面図である。
【図1B】図1AのA−A’断面を示す模式図である。
【図2】本発明の酸素濃縮装置の一実施形態を模式的に示すフロー図である。
【符号の説明】
【0055】
1:酸素吸蔵部材、2:隔壁、3:セル、4:外周壁、11:酸素吸蔵器、12:真空ポンプ、13:吸気弁、14:排気弁、15:三方弁、16:外筒、21:吸気ライン、22:排気ライン、23:真空ライン、24:流出ライン、100:酸素吸蔵装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を選択的に吸蔵するセラミック材料を主成分とする隔壁により、流体の流路となる複数のセルが区画形成されたハニカム形状の酸素吸蔵部材を備え、
前記酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを供給し、前記酸素吸蔵部材に酸素を選択的に吸蔵させ、その後、前記酸素吸蔵部材内を0.1〜6.7kPaに減圧して前記酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着し、酸素濃縮ガスを得ることができる酸素濃縮装置。
【請求項2】
前記酸素吸蔵部材内を200〜450℃に加熱して、酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを供給し、その後、前記酸素吸蔵部材に吸蔵されていた酸素を脱着する請求項1に記載の酸素濃縮装置。
【請求項3】
前記酸素吸蔵部材内に酸素含有ガスを101.3〜133.3kPaの圧力で供給する請求項1又は2に記載の酸素濃縮装置。
【請求項4】
前記セラミック材料が、(Ln1−x)(BFe1−y)O及び(Ca1−x)(BFe1−y)O2.5からなる群から選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の酸素濃縮装置。
【請求項5】
前記セラミック材料の酸素吸蔵容量が、200〜450℃、酸素含有ガスの酸素分圧10〜50kPaにおいて、セラミック材料1cm当たり1.8×10−4〜1.0×10−3molである請求項1〜4のいずれかに記載の酸素濃縮装置。
【請求項6】
前記酸素吸蔵部材全体に対する、酸素を選択的に吸蔵する前記セラミック材料の体積比率が25〜80体積%である請求項1〜5のいずれかに記載の酸素濃縮装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−227553(P2009−227553A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78479(P2008−78479)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】