説明

酸素発生剤及び汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方の浄化方法

【課題】土壌・地下水を好気性微生物が活動できる溶存酸素濃度に維持することができ、かつ前記微生物の活動を阻害しないpHを維持し、過剰な栄養塩が残留しない酸素発生剤及び土壌・地下水の浄化方法を提供する。
【解決手段】水と反応して酸素ガスを発生して水中溶存酸素を供給する酸素発生剤において、常温で固体である酸化物と、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好気条件で微生物分解可能な汚染物質により汚染された汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方(以下土壌・地下水)における好気性微生物による汚染物質の分解を促進するために使用する酸素発生剤、及び酸素発生剤を用い汚染物質により汚染された土壌・地下水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱物油、石油(ガソリン、灯油、軽油、重油等)、ハロゲン化炭化水素などで汚染された土壌や地下水の浄化には様々な方法が用いられている。土壌・地下水中に存在する好気性微生物は、鉱物油、石油などの油やトリクロロエチレン(TCE)、ジクロロエチレン(DCE)、ジクロロメタン(DCM)などを生物学的に分解する能力がある。しかし、前記好気性微生物は酸素がないと、汚染物質の分解が停止するか、非常に遅い嫌気反応によって分解されるため、汚染物質の生物分解が十分に行われない場合がある。
そこで、土壌・地下水中に酸素発生剤を注入し、連続的に酸素を発生させることにより、土壌・地下水中の溶存酸素濃度を高め、汚染土壌・地下水中に存在する好気性微生物を活性化し、油などの汚染物質の分解を促進することが行われる。
【0003】
酸素発生剤として、特許文献1には、常温で固体である過酸化物と、常温で固体であるクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸の中から選ばれた少なくとも1種の有機酸及びその塩と、石膏、ゼオライト、活性炭、活性アルミナ、天然又は合成の高分子吸収剤の中から選ばれた少なくとも1種の保水剤からなる酸素発生剤が開示されており、該酸素発生剤は水中に投入することで、前記過酸化物が水と反応して酸素を発生し、該反応によって副生するアルカリ性の物質を前記有機酸及びその塩によって中和して前記水のpHを調整するものである。この技術は魚介類の保存及び輸送用の水中に酸素を供給する酸素供給剤であるが、汚染土壌・地下水中に酸素を供給する酸素供給剤として応用することも考えられる。
【0004】
また、非特許文献1には、CaO(OH)を主成分とし、CaO(OH)とリン酸カリウムとを含む酸素発生剤が開示されており、該酸素発生剤は水中に投入することで前記CaO(OH)が水と反応して酸素を発生し、該反応によって副生するアルカリ性の物質を前記リン酸カリウムによって中和して前記水のpHを調整するものである。
【0005】
【特許文献1】特開平5−229804号公報
【非特許文献1】「OxygenRelease Compound Advanced」、Regenesis社ホームページ、[online]、[平成20年6月20日検索]、インターネット<http://www.regenesis.com/products/enhAer/orcadv/>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、土壌・地下水中に酸素発生剤を注入し、連続的に酸素を発生させることにより、土壌・地下水中の溶存酸素濃度を高め、汚染土壌・地下水中に存在する好気性微生物を活性化し、油などの汚染物質の分解を促進することが提案されるが、これを実現化するためには以下の問題点がある。
酸素の発生工程は、
(A)過酸化物と水の反応により酸素及び副生物であるアルカリ性物質が副生する。例えば過酸化物が過酸化カルシウムCaOである場合には、
2CaO+2HO→2Ca(OH)+O ・・・(1)
(1)式の反応が進行し、酸素とともにアルカリ性の副生物である水酸化カルシウムCa(OH)が発生する。
(B)前記アルカリ性の副生物を中和してpHを調整する。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された酸素発生剤を土壌・地下水中に注入する酸素発生剤として使用した場合、常温で固体であるクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸の中から選ばれた少なくとも1種の有機酸及びその塩にて前記(B)の中和を行うことになるが、前記有機酸は土壌・地下水中で好気的に分解されやすく、発生した酸素を消費してしまうため効率がよくない。
【0008】
また、非特許文献1に開示された酸素発生剤を土壌・地下水中に注入する酸素発生剤として使用した場合、リン酸カリウムにて前記(B)の中和を行うことになるが、リン酸カリウムはpH抑制の効果は小さく、充分にpHを下げるためには多量のリン酸カリウムが必要となる。しかし、リン酸カリウムは、前記好気性微生物による汚染物質の分解の後に残存して栄養塩として働いてしまうため、多量のリン酸カリウムを用いると栄養塩が過剰となり好ましくない。
【0009】
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、土壌・地下水を好気性微生物が活動できる溶存酸素濃度に維持することができ、かつ前記微生物の活動を阻害しないpHを維持し、過剰な栄養塩が残留しない酸素発生剤及び土壌・地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
汚染土壌・地下水中に含有される好気条件で微生物分解可能な汚染物質を分解して浄化する好気性微生物を活性化させる酸素を供給する酸素発生剤において、
常温で固体である酸化物と、
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、
リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質と、を含むことを特徴とする。
また、前記常温で固体である酸化物が、過酸化カルシウム、尿素過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は炭酸ナトリウム、カリウム、カルシウムの過酸化水素付加物のうち少なくとも何れか一からなることを特徴とする。
【0011】
前記好気条件で微生物分解可能な汚染物質は、例えば石油(ガソリン、灯油、軽油、重油など)、潤滑油や切削油等の機械油、鉱物油、ハロゲン化炭化水素のうちTCEとDCEとDCM、シアン、農薬、ポリ塩化ビフェニル(PCB)、ダイオキシンなどが挙げられる。
本発明者等は、酸化物と水との化学反応により副生したアルカリ性の物質を中和するために有機酸及びアルカリ中和作用を持つ物質を混合することで、中和に有機酸のみ、又はアルカリ中和作用を持つ物質のみを用いる場合と比較して、注入初期の段階からpH調整効果が高く、しかも少量で好適なpHを維持することが出来ることを見出し本発明を完成した。
本発明によれば、前記常温で固体である酸化物と水とが化学反応して酸素を発生し、該酸素によって好気性微生物が活動することができるようになる。また、前記化学反応によって副生するアルカリ性の物質を前記有機酸及びアルカリ中和作用を持つ物質によって中和することで前記好気性微生物の活動を阻害しないpH10未満に調整することができ、しかも前記有機酸及びアルカリ中和作用を持つ物質を少量に抑えることができるため、有機酸が好気的に分解された場合においても発生した酸素を多量に消費することもなく高効率である。
なお、酸素発生剤を構成する各物質量は、前記過酸化物1に対して、前記有機酸0.06〜0.30、前記アルカリ中和作用を持つ物質0.80〜2.00の重量で混合したものとすると特にpH調整効果が高く好適である。
【0012】
また、前記アルカリ中和作用を持つ物質が、
リン酸塩と炭酸水素塩との混合物であることを特徴とする。
【0013】
前記アルカリ中和作用を持つ物質をリン酸塩と炭酸水素塩との混合物とすると、炭酸水素塩のみを用いる場合よりもpH調整効果が高く、しかもリン酸塩のみを用いる場合よりもリン酸塩の使用量を1/10程度まで減らしても充分なpH調整効果を得ることができる。また、pH調整後に残留するリン酸塩は栄養塩として働くが、炭酸水素塩は栄養塩として働かない。
従って、アルカリ中和作用を持つ物質をリン酸塩と炭酸水素塩との混合物とすることで、リン酸塩の使用量を削減し、酸素発生剤を使用して好気性微生物によって汚染物質を分解した後に過剰の栄養塩が残存することを防止することができるとともに、高いpH調整効果を得ることができる。
なお、酸素発生剤を構成する各物質量は、前記過酸化物1に対して、前記有機酸0.06〜0.30、前記リン酸塩0.06〜0.30、前記炭酸水素塩2.00〜3.50の重量で混合したものとすると特にpH調整効果が高く、しかもリン酸塩の使用量も少なく好適である。
【0014】
また、汚染土壌・地下水中に含有される好気条件で微生物分解可能な汚染物質を、酸素を供給することで活性化させた好気性微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
常温で固体である酸化物と、
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、
リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質とを混合し、
該混合物を1〜5重量%の濃度で水中に分散させ、
該分散水を前記土壌・地下水に注入することを特徴とする。
【0015】
これにより、土壌・地下水中に長期間に渡って安定して酸素を供給することができるため好気性微生物を活性化させ、しかも該好気性微生物の活動を阻害しないpH10未満を維持することができる。従って前記好気性微生物による土壌・地下水中の油などの汚染物質の分解が促進される。
なお、土壌・地下水中に好気性微生物が存在しない場合又は存在してもその量が少ない場合には、前記混合物を1〜5重量%の濃度で分散させた水中に好気性微生物を添加してから土壌・地下水に注入することもできる。
【0016】
また、汚染土壌に含有される好気条件で微生物分解可能な汚染物質を、酸素を供給することで活性化させた好気性微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
常温で固体である酸化物と、
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、
リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質とを混合し、
該混合物を1〜20重量%の濃度で地上に掘りあげた汚染物質によって汚染された土壌に混合し、酸素を発生させることを特徴とする。
【0017】
これにより、土壌中に満遍なく、長期間に渡って安定して酸素を供給することができるため好気性微生物を活性化させ、しかも該好気性微生物の活動を阻害しないpH10未満を維持することができる。従って前記好気性微生物による土壌中の汚染物質の分解が促進される。
【発明の効果】
【0018】
上記記載のごとく本発明によれば、酸化物と水との化学反応により酸素を発生することができ、該酸素により好気性微生物を活性化させて土壌・地下水中の油などの汚染物質の分解を促進することができる。また前記化学反応により副生したアルカリ性物質を中和することで前記好気性微生物の活動を阻害しないpH10未満を維持することができ、しかも該中和に用いるリン酸塩を少量に抑えることができるため、過剰な栄養塩が残留することもない。
つまり、土壌・地下水を好気性微生物が活動できる溶存酸素濃度に維持することができ、かつ前記微生物の活動を阻害しないpHを維持し、過剰な栄養塩が残留しない酸素発生剤及び土壌・地下水の浄化方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本発明の酸素発生剤は、常温で固体である酸化物と、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質とからなる組成物である。
前記酸素発生剤は水に分散されてから、浄化対象である土壌若しくは地下水に注入される。この酸化剤のうち主として前記常温で固体である酸化物が水と化学反応することにより酸素を発生して土壌・地下水中の好気性微生物を活性化させ、該化学反応により副生したアルカリ性の物質を前記有機酸及びアルカリ中和作用を持つ物質によって中和することで前記好気性微生物の活動を阻害しないpH10未満に調整する。
【0020】
前記常温で固体である酸化物としては、過酸化カルシウム、尿素過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は炭酸ナトリウム、カリウム、カルシウムの過酸化水素付加物などが挙げられる。
【0021】
また酸素発生剤を構成する各物質量は、前記過酸化物1に対して、前記有機酸0.06〜0.30、前記アルカリ中和作用を持つ物質0.80〜2.00の重量で混合したものとすると特にpH調整効果が高く好適である。さらに前記アルカリ中和作用を持つ物質をリン酸塩と炭酸水素塩の混合物とする場合には、前記過酸化物1に対して、前記有機酸0.06〜0.30、前記リン酸塩0.06〜0.30、前記炭酸水素塩2.00〜3.50の重量で混合したものとすると特にpH調整効果が高く、しかもリン酸塩の使用量も少なく好適である。
【0022】
前記酸素発生剤の注入方法としては、以下の方法が挙げられる。
過酸化カルシウム、尿素過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は炭酸ナトリウム、カリウム、カルシウムの過酸化水素付加物のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である酸化物と、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸とを混合した粉体を1〜5重量%の濃度で水中に分散させ、該分散水を土壌・地下水に注入する。このとき、汚染土壌に注入井を複数掘削し、この注入井に混合水溶液を注入するとよい。
また前記分散水に好気性微生物を添加してから、該分散水を前記土壌・地下水に注入することもできる。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例につき説明する。尚、本実施例はこれらに限定されるものではない。
本実施例、比較例及び従来例の酸素発生剤を水中に投入して分散させ、該分散水のpH及び溶存酸素量(DO)を経時的に観察した。
実施例1−1の酸素発生剤は以下の(11)〜(13)を混合したものを用いた。
(11)過酸化カルシウム10g
(12)クエン酸1.2g
(13)リン酸2水素カリウム17.0g
なお、(11)の過酸化カルシウムとしては、過酸化カルシウムを30〜32重量%含む資材である日本パーオキサイド株式会社製パーウェルG31gを用いた。
【0024】
また実施例1−2の酸素発生剤は以下の(21)〜(24)を混合したものを用いた。
(21)過酸化カルシウム10g
(22)クエン酸2.4g
(23)リン酸2水素カリウム1.0g
(24)炭酸水素ナトリウム31g
なお、(21)の過酸化カルシウムとしては、過酸化カルシウムを30〜32重量%含む資材である日本パーオキサイド株式会社製パーウェルG31gを用いた。
【0025】
また比較例1−1の酸素発生剤は以下の(31)〜(32)を混合したものを用いた。
(31)過酸化カルシウム10g
(32)リン酸2水素カリウム18.0g
比較例1−1においてはクエン酸は用いなかった。
なお、(31)の過酸化カルシウムとしては、過酸化カルシウムを30〜32重量%含む資材である日本パーオキサイド株式会社製パーウェルG31gを用いた。
【0026】
また従来例1−1の酸素発生剤として、市販の酸素発生剤のうち過酸化物として過酸化カルシウム約10gを含むものを用いた。
【0027】
実施例1−1は、1.5Lの水に、前記組成の酸素発生剤を投入し、2時間攪拌した。
実施例1−2は、1.5Lの水に、前記組成の酸素発生剤を投入し、2時間攪拌した。
比較例1−1は、1.5Lの水に、前記組成の酸素発生剤を投入し、2時間攪拌した。
従来例1−1は、1.5Lの水に、前記組成の酸素発生剤を投入し、2時間攪拌した。
それぞれ室温で21日間静置した。
【0028】
図1に実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1、従来例1−1の実験結果の表を示す。
従来例1−1においては2日目以降でpH10を越え、比較例1−1においては観察初期の2日目〜5日目でpH10を越えたが、実施例1−1及び実施例1−2においては観察期間中常に好気性微生物の活動を阻害しないpH10未満に抑制することができた。このことにより、本実施例においては土壌中の微生物の活動を阻害しないで、土壌中に酸素を供給することができるといえる。
【0029】
過酸化カルシウムとクエン酸、リン酸塩(リン酸2水素カリウム)の3成分の組み合わせ(実施例1−1)では、pHは初期の6〜7日間8以下という微生物の増殖環境として好適なpHを維持できた。このことから実施例1−1の酸素発生剤は例えば酸素発生剤分散水と微生物を共存させて同時に土壌・地下水に注入する場合に好適であるといえる。
【0030】
また、過酸化カルシウムとクエン酸、リン酸塩(リン酸2水素ナトリウム)、炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム)の4成分の組み合わせ(実施例1−2)では、リン酸塩を3成分の組み合わせ(実施例1−1)に比べて約1/10に減らしてもpH10未満に抑えることができた。よって実施例1−2の酸素発生剤は、栄養塩としてリン酸塩が過剰に残存してしまうことを防ぐことができるといえる。
なお実施例1−2においてpH10未満に抑えることはできたが、初期pHを8以下に維持することはできなかった。しかし、実施例1−2に相当する酸素発生剤の分散水を土壌に注入する場合には、土壌の緩衝作用により、土壌中のpHは9未満に抑えられると考えられる。
【0031】
また、実施例1−1、1−2において、クエン酸は、土壌中で好気的に分解されやすい物質であるが、上記のような配合比で酸素発生剤を調製することで使用するクエン酸量は少量でよく酸素を多量に消費せずにpH維持効果を得られた。
クエン酸1gが好気性細菌により分解される際に消費される酸素は、0.3gであることが知られている。過酸化カルシウム1gからは、酸素0.22gが発生する。クエン酸の好気性分解に消費される酸素は、発生する酸素の高々8〜40%と計算される。
更に、酸素発生剤中のクエン酸の大部分は、土壌または地下水中では難水溶性のクエン酸カルシウムになると考えられるので、発生する酸素は次々にクエン酸分解に消費される訳ではなく、本来の目的である汚染物質の分解に優先して有効に使われるものと推測する。
また、クエン酸とリン酸塩を混在させることで、リン酸塩のみでは得られないようなpH調整効果が得られた。
【0032】
なお、少量のクエン酸量でpH維持が可能な配合比として、実施例1−1に相当する酸素発生剤としては、過酸化物(過酸化カルシウム)1に対して、有機酸(クエン酸)0.06〜0.30、アルカリ中和作用を持つ物質(リン酸2水素ナトリウム)0.80〜2.00の重量で混合したものとすると好適である。また実施例1−2に相当する酸素発生剤としては、過酸化物(過酸化カルシウム)1に対して、有機酸(クエン酸)0.06〜0.30、リン酸塩(リン酸2水素ナトリウム)0.06〜0.30、炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム)2.00〜3.50の重量で混合したものとすると好適である。
【実施例2】
【0033】
油によって地下水汚染が発生しているサイトに酸素剤等を地中に注入するための注入井戸及び地下水流動方向下流側1.5mの地点に経過を観測するための観測井戸を設置した。次に、水に分散させてスラリー状とした酸素発生剤(実施例1−2に相当)を注入井戸より注入した後、定期的に観測井戸で地下水を採取し、ベンゼン濃度、GC−FID法による全石油系炭化水素(TPH)、溶存酸素量(DO)、酸化還元電位(ORP)、水素イオン濃度(pH)、PCR法による全細菌数の測定を行った。
【0034】
結果を図2〜図4に示す。
スラリー状の酸素発生剤の注入後、酸化還元電位が徐々に上昇し好気環境に移行するとともに、TPHやベンゼン濃度が減少し施工後約30日でほぼ検出されなくなった。一方、スラリー状の酸素発生剤のDOは20mg/l以上となるが、観測井戸におけるDOは施工前と比較すると上昇したものの2mg/l前後であった。また、この間に全細菌数は、最大1000倍まで増殖した。
これらのことから、酸素発生剤により供給された溶存酸素により好気性微生物が増殖し、地下水中の油類の分解が進んだものと判断される。なお、酸素発生剤にpH抑制を施すことで観測井戸においても極端なpH上昇は確認されなかった。
【0035】
本実施例2においては地下水汚染が発生しているサイトに注入井戸をから酸素発生剤を注入した例を挙げたが、土壌の油汚染が発生しているサイトにおいては、酸素発生剤を1〜20重量%の濃度で地上に掘りあげた油汚染土壌に混合し、酸素を発生させることで、土壌中に満遍なく酸素を行き渡らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1、従来例1−1の実験結果の表を示す。
【図2】実施例2におけるTPH、ベンゼン濃度の結果を表すグラフである。
【図3】実施例2におけるORP、DOの結果を表すグラフである。
【図4】実施例2におけるpH、全細菌数の結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される好気条件で微生物分解可能な汚染物質を分解して浄化する好気性微生物を活性化させる酸素を供給する酸素発生剤において、
常温で固体である酸化物と、
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、
リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質と、を含むことを特徴とする酸素発生剤。
【請求項2】
前記常温で固体である酸化物が、過酸化カルシウム、尿素過酸化水素、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は炭酸ナトリウム、カリウム、カルシウムの過酸化水素付加物のうち少なくとも何れか一からなることを特徴とする請求項1記載の酸素発生剤。
【請求項3】
前記アルカリ中和作用を持つ物質が、
リン酸塩と炭酸水素塩との混合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の酸素発生剤。
【請求項4】
汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方に含有される好気条件で微生物分解可能な汚染物質を、酸素を供給することで活性化させた好気性微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
常温で固体である酸化物と、
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、
リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質とを混合し、
該混合物を1〜5重量%の濃度で水中に分散させ、
該分散水を前記土壌・地下水に注入することで酸素を発生させることを特徴とする汚染土壌又は地下水中のうち何れか一方又は両方の浄化方法。
【請求項5】
汚染土壌に含有される好気条件で微生物分解可能な汚染物質を、酸素を供給することで活性化させた好気性微生物により分解して浄化する土壌・地下水の浄化方法において、
常温で固体である酸化物と、
クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸のうち少なくとも何れか一からなる常温で固体である有機酸と、
リン酸塩、炭酸水素塩、硫酸水素塩、活性白土、酸性白土のうち少なくとも何れか一からなるアルカリ中和作用を持つ物質とを混合し、
該混合物を1〜20重量%の濃度で地上に掘りあげた前記汚染物質によって汚染された土壌に混合し、酸素を発生させることを特徴とする土壌の浄化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−51930(P2010−51930A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222632(P2008−222632)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(508029343)国際環境ソリューションズ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】