説明

酸素運搬の循環時間測定方法および装置

【課題】 生体の各種臓器に対する酸素運搬能力(酸素伝播時間)を検出するための指標となる生体パラメータとしての血流の循環時間を、血中酸素濃度の変化として、生体に対し無侵襲にして、簡便かつ連続的に測定することができ、しかも低コストに製造することができる酸素運搬の循環時間測定方法および装置を提供する。
【解決手段】 センサ(S1 、S2 、…Sn )を用いて生体から抽出した動脈血の吸光度信号に基づいて酸素飽和度(Φ、SpO2 )の変化を算出する装置において、生体への吸気酸素量を変化させると共にその変化させた時点を基準点とし、該基準点から動脈血の酸素飽和度(Φ、SpO2 )が変化する時点までの時間を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の各種臓器に対する酸素運搬能力(酸素伝播時間)の指標となる血液の酸素運搬の循環時間を、血中酸素濃度の変化として捕え、生体に対し無侵襲に測定することができる酸素運搬の循環時間測定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来において、心拍出量は、生体の各種臓器に対する酸素運搬能力の指標として、重要なパラメータである。この心拍出量の測定は、カテーテルを心臓まで挿入して、熱希釈法で測定する方法が一般的に知られている。この熱希釈法は、生体に冷水を注入するため、生体に対する侵襲が甚だしく、しかも高価となる難点がある。
【0003】
そこで、低侵襲的な測定方法として、パルス式色素希釈法、インピーダンス法、経食道超音波ドプラー法、CO2 Fick 法等が実用化されている。しかしながら、前記パルス式色素希釈法は、色素の血管内投与が必要であり、連続測定ができない難点がある。また、前記インピーダンス法は、被験者の体に種々の電極や輸液ラインが繋がっているような状況では、精度が悪くなる難点がある。さらに、前記経食道超音波ドプラー法は、食道プローブを挿入するので、麻酔下でしか測定できない難点がある。そして、前記CO2 Fick法は、挿管患者でのみ測定可能であり、心拍出量が変化しているときには精度が悪くなる難点がある。
【0004】
従来、生体の静脈内に色素を注入して心拍出量を測定する心拍出量計が提案されている(特許文献1参照)。すなわち、この特許文献1に記載される心拍出量計は、生体の一部の静脈に一定量の色素を注入し、前記生体の他の一部の動脈に到達した前記色素を検出して、前記色素の注入終了時から到達した前記色素の検出を開始するまでの時間Ta (平均循環時間)と、検出した色素濃度が最高となるまでの時間Tp とを求めて、心拍出量を測定するように構成したものである。
【0005】
また、高齢者において、動脈硬化性心血管疾患が脂肪の大きな原因となることから、潜在性動脈硬化症を検出する方法として、下肢上肢血圧指数(足首/上腕血圧指数)を測定することにより、全身の心血管系の健康状態を迅速かつ容易に検査し得るので、死亡率や罹患率を低減するために特別な治療を要する個人を同定するのに役立つことが知られている。
【0006】
そして、前記下肢上肢血圧指数を測定する装置として、全身の動脈硬化度を評価することができる指標として知られている脈波伝播速度関連情報を測定することにより、下肢上肢血圧指数が正常値であっても、その値が全身に動脈硬化が進んでいるためであるかを判断することができるように構成した下肢上肢血圧指数測定装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
さらに、従来において、動脈血と静脈血が混在した生体組織中の血液の酸素飽和度は、これにより酸素摂取率の概略値が分かり、また酸素消費量を求めるための重要な値であることから、生体組織中の血液の酸素飽和度を測定する酸素飽和度測定装置が提案されている。
【0008】
そして、前記酸素飽和度測定装置として、(1) 波長が異なる複数種の光を生体組織に照射する光源部と、(2) この光源部からの光を前記生体組織を介して受取り電気信号に変換する受光部と、(3) この受光部の出力信号に基づき各波長について前記生体組織による吸光度を求める吸光度検出手段と、(4) この吸光度検出手段が求めた各波長の吸光度において、動脈血の脈動による吸光度差よりも大きい吸光度差が生じる各波長に共通の2時点を設定する2時点設定手段と、(5) 前記吸光度検出手段が求めた各波長の吸光度における、前記2時点設定手段が設定した2時点の吸光度差に基づいて、前記生体組織中の血液の酸素飽和度を求める酸素飽和度検出手段を設けることにより、センサの取り付け部位が限定されることなく、また測定誤差が大きくなるなどの問題点を解消できるように構成した酸素飽和度測定装置が提案されている(特許文献3参照)。
【0009】
【特許文献1】特許第3028152号公報
【特許文献2】特許第3140007号公報
【特許文献3】特開2000−107157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、前記特許文献1に開示される、色素希釈法により測定することができる血流の平均循環時間(例えば、静脈に色素を投与してから、耳朶に付けたセンサで前記色素を検出し得る状態に到達までの時間)は、図12の(a)および(b)に示すように、心拍出量と良く相関するパラメータであることが知られている。すなわち、図12の(a)は、平均循環時間(sec )と心係数(l/min /m2 )の関係を示したものであり、また図12の(b)は、身長(M )で補正した平均循環時間(sec/M )と心係数(l/min /m2 )の関係を示したものである。これらの関係から、平均循環時間が心係数と比例することが明らかである。従って、前記血流の平均循環時間は、心拍出量と同様に血流の循環の指標としてのパラメータとすることができる。なお、循環時間と心拍出量とはディメンションの相違する別のパラメータであるが、良く相関するため、血流の循環時間が簡単に無侵襲かつ低コストで連続的に測定できるようになれば、循環モニタとして医療上において心拍出量に代わる有用なパラメータとなることが期待できる。
【0011】
また、前述した血流の循環時間の測定は、心拍出量だけでなく、血流の末梢循環の指標にもなる。例えば、心臓手術後に末梢血管が収縮している被験者において、鼻翼と指先にセンサを設けて従来の色素希釈法によりICG(Indocyanine Green)の到達時間を同時に測定した場合、図13の(a)および(b)に示すような結果が得られる。すなわち、図13の(a)によれば、色素を右心に投与してから鼻翼に到達するまでの平均循環時間は約30秒であり、また図13の(b)によれば、指先に到達するまでの平均循環時間は約160秒である。このように、指先までの循環時間は大動脈から指先まで到達する時間が支配的であり、末梢血管収縮時には非常に時間が掛かることがある。従って、動脈硬化などで血管が閉塞していくと、血流が減少し、その循環時間は遅延することが明らかである。しかしながら、このような循環時間を測定するために、血管内に色素を投与するという従来の測定方法では、生体組織への侵襲が必要であり、また連続的な測定はできないという難点がある。
【0012】
そこで、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、吸気酸素濃度FiO2 などで吸気酸素量を変化させたときには、動脈血酸素飽和度SpO2 は変化する。この動脈血酸素飽和度SpO2 は、現在一般的にパルスオキシメータにより簡便に測定することができる。そこで、前記吸気酸素濃度FiO2 を入力として、出力を動脈血酸素飽和度SpO2 とすれば、これら入出力の関係には正の相関が認められる。すなわち、高い吸気酸素濃度FiO2 では高い動脈血酸素飽和度SpO2 となり、低い吸気酸素濃度FiO2 では低い動脈血酸素飽和度SpO2 となる。例えば、入力として、ステップ状の信号(吸気酸素濃度FiO2 による)を与えれば、出力には、ある遅れ時間を持った応答信号(動脈血酸素飽和度SpO2 による)が得られる。この遅れ時間を測定すれば、酸素吸入→肺→心臓→大動脈→末梢測定部位の間の酸素の伝播時間である循環時間を測定することができることを突き止めた。
【0013】
そこで、本発明の目的は、生体の各種臓器に対する酸素運搬能力(酸素伝播時間)を検出するための指標となる生体パラメータとしての血流の循環時間を、血中酸素濃度の変化として、生体に対し無侵襲にして、簡便かつ連続的に測定することができ、しかも低コストに製造することができる酸素運搬の循環時間測定方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の目的を達成するため、本発明に係る請求項1に記載の酸素運搬の循環時間測定方法は、センサを用いて生体から抽出した動脈血の吸光度信号に基づいて酸素飽和度の変化を算出する装置において、
生体への吸気酸素量を変化させると共にその変化させた時点を基準点とし、該基準点から動脈血の酸素飽和度が変化する時点までの時間を測定することを特徴とする。
【0015】
本発明に係る請求項2に記載の酸素運搬の循環時間測定方法は、前記生体の吸気酸素量の変化を、深呼吸および/または息こらえにより発生させることを特徴とする
【0016】
本発明に係る請求項3に記載の酸素運搬の循環時間測定方法は、前記生体の吸気酸素量の変化を、吸入酸素ガスの濃度変化により発生させることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る請求項4に記載の酸素運搬の循環時間測定方法は、前記センサにより検出測定された動脈血の吸光度に基づく酸素飽和度の変化を、パルスオキシメータを使用して、生体の各部位に装着したセンサにより検出測定される吸光度に基づく減光度比Φないし酸素飽和度血SpO2 として算出することを特徴とする。
【0018】
本発明に係る請求項5に記載の酸素運搬の循環時間測定方法は、前記センサが異なる複数の部位に装着された複数のセンサであり、異なる複数の部位における酸素運搬の循環時間を測定することを特徴とする。
【0019】
本発明に係る請求項6に記載の酸素運搬の循環時間測定方法は、前記複数のセンサにより、複数の部位間の循環時間の差を求めることを特徴とする
【0020】
本発明に係る請求項7に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、前記複数のセンサにより測定された減光度比Φないし酸素飽和度血SpO2 の相互相関係数が最大となる時間を求めることにより循環時間の差を求めることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る請求項8に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、生体の各部位に装着して動脈血の吸光度をそれぞれ検出測定するためのセンサと、
前記センサにより検出測定された動脈血の吸光度に基づいて酸素飽和度の変化を算出する酸素飽和度演算手段と、
生体の吸気酸素濃度を変化させた時点を検出する第1の検出手段と、
前記酸素飽和度演算手段により得られる動脈血の酸素飽和度の変化において、前記第1の検出手段による検出時点から、動脈血の酸素飽和度が変化する時点までの時間を測定する循環時間測定手段とを、備えることを特徴とする。
【0022】
本発明に係る請求項9に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、前記第1の検出手段としてフローセンサを使用し、吸気酸素濃度を変化させた時点の検出を前記フローセンサにより呼吸流量または換気量の変化に対応するように設定したことを特徴とする。
【0023】
本発明に係る請求項10に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、前記第1の検出手段として酸素ボンベからの酸素吸気を制御する開閉弁を使用し、吸気酸素濃度を変化させた時点の検出を前記開閉弁の切り替え操作に対応するように設定したことを特徴とする。
【0024】
本発明に係る請求項11に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、前記酸素飽和度演算手段として、パルスオキシメータを使用することを特徴とする
【0025】
本発明に係る請求項12に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、前記センサを異なる複数の部位に装着する複数のセンサで構成し、異なる複数の部位における酸素運搬の循環時間を測定するように設定したことを特徴とする。
【0026】
本発明に係る請求項13に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、前記複数のセンサにより複数の部位間の循環時間の差を求めるように設定したことを特徴とする。
【0027】
本発明に係る請求項14に記載の酸素運搬の循環時間測定装置は、前記複数のセンサにより測定された減光度比Φないし酸素飽和度血SpO2 の相互相関係数が最大となる時間を求めることにより循環時間の差を求めるように設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る請求項1に記載の酸素運搬の循環時間測定方法によれば、簡単な構成により、生体の各種臓器に対する酸素運搬能力(酸素伝播時間)を検出するための指標となる酸素運搬の循環時間を、血中酸素濃度の変化として、生体に対し無侵襲にして、簡便かつ連続的に測定することができる。
【0029】
本発明に係る請求項2ないし4に記載の酸素運搬の循環時間測定方法によれば、生体の吸気酸素濃度の変化を簡便に行い、循環時間を測定するための減光度比Φないし酸素飽和度SpO2 の算出を容易かつ適正に達成することができる。
【0030】
本発明に係る請求項5ないし7に記載の酸素運搬の循環時間測定方法によれば、生体の複数の部位に装着した複数のセンサにより求めた血中酸素濃度により各部位までの酸素運搬状況を把握することができる。例えば、左右の下肢の血流の循環時間を測定して、片側の血流の循環時間が長ければ、血流が減少していることを検出することができる。このことから、血栓やアテロームの発生により四肢の血流が悪くなっている場合も、前記循環時間により検出することができる。
【0031】
本発明に係る請求項8に記載の酸素運搬の循環時間測定装置によれば、簡単な構成により、生体の各種臓器に対する酸素運搬能力(酸素伝播時間)を検出するための指標となる生体パラメータとしての血流の循環時間を、血中酸素濃度の変化として、生体に対し無侵襲にして、簡便かつ連続的に測定することができる装置を、低コストに製造することができる。
【0032】
本発明に係る請求項9ないし11に記載の酸素運搬の循環時間測定装置によれば、生体の吸気酸素濃度を変化させた時点を検出する第1の検出手段を簡便に設定することができると共に、循環時間を測定するための減光度比Φないし酸素飽和度SpO2 の算出を容易化することができる。
【0033】
本発明に係る請求項12ないし14に記載の酸素運搬の循環時間測定装置によれば、生体の複数の部位に装着した複数のセンサにより求めた血中酸素濃度により各部位までの酸素運搬状況を容易に把握できるように構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法および装置の実施例につき、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0035】
(1)システム構成の概要
図1は、本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法を実施する装置としてのシステム構成の概略を示すものである。すなわち、図1において、参照符号10はは生体Body の複数の所定部位における動脈血酸素飽和度SpO2 を測定するためのパルスオキシメータを示し、このパルスオキシメータ10に接続される吸光度検出センサを備え、生体Body の鼻翼Nose に設けた第1のセンサ12と、手の指先Finger に設けた第2のセンサ14と、足の指先Foot に設けた第3のセンサ16とが設けられている。また、生体Body の口Mouthには、酸素供給手段としての酸素ボンベ20が設けられている。
【0036】
なお、動脈血酸素飽和度SpO2 の測定に際し、センサはそれぞれ発光部と受光部とを設け、その間に生体の測定部位を挟むように構成され、発光部には、発光波長が660nmと940nmの2つの発光ダイオードが用いられ、これらは交互に発光するように設定され、また受光部にはホトダイオードが用いられる。このようにして、前記センサの発光部から出て、生体の測定部位を通して受光部に到達した光の強度は、ホトダイオードによって電流に変換され、パルスオキシメータにおいて、さらに電圧に変換されて、それぞれの波長の透過光信号に分離される。そして、これら2つの透過光信号から吸光度の脈波形成分を取り出し、それらの振幅の比すなわち減光度比Φを算出し、酸素飽和度に換算することによって、動脈血酸素飽和度SpO2 が得られる。
【0037】
そこで、前記図1に示すシステム構成において、パルスオキシメータ10により生体Body の各部位における動脈血酸素飽和度SpO2 を測定するに際し、例えば酸素ボンベ20により酸素を吸気させて吸気酸素濃度FiO2 を変化させた場合、生体Body の各部位に設けた第1〜第3のセンサ12、14、16によってそれぞれ検出測定される減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 の時間的変化は、図2に示すようになる。すなわち、図2から明らかなように、生体Body に対して吸気酸素濃度FiO2 を変化させた時点から、それぞれの測定部位における動脈血の酸素飽和度が立上り変化する時点までの時間すなわち血流により酸素が運搬される循環時間を検出することができる。この場合、鼻翼Nose 、手の指先Finger 、足の指先Foot の順番で動脈血酸素飽和度の立上り変化が現れる。特に頭部は、手や足などの抹消血管が収縮して血流が減っている状況でも、血流が維持されるため、鼻翼Nose (頭部)における循環時間は心拍出量と良く相関する。また、前記吸気酸素濃度FiO2 の変化に際しては、吸気酸素濃度をステップ状に変化させることにより、連続的な循環時間の検出を行うことができる(図3参照)。
【実施例1】
【0038】
図4は、本発明に係る血流による酸素運搬の循環時間測定方法の一実施例としての循環時間測定装置を示す系統図である。すなわち、図4においては、被験者の右足指Foot-R、左足指Foot-L、および左手指Fing-Lからなる各測定部位に対して、それぞれ吸光度検出センサS1 、S2 、…Sn と、減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 の測定部M1 、M2 、…Mn とがそれぞれ接続され、さらに前記各測定部M1 、M2 、…Mn を介して、循環時間測定部30および表示部(記録部)32とがそれぞれ接続された構成からなる。
【0039】
このように構成された本実施例の循環時間測定装置においては、図5に示すように、被験者の前記各測定部位にそれぞれ吸光度検出センサS1 、S2 、…Sn を装着し(STEP−11)、前記各測定部位における動脈血の減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 を前記各測定部M1 、M2 、…Mn により測定する(STEP−12)。そこで、被験者の吸気酸素量を、深呼吸ないし息こらえにより変化させ(STEP−13)、前記各測定部M1 、M2 、…Mn により測定される動脈血の減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 の波形より部位間の循環時間差を前記循環時間測定部30において計算することができる(STEP−14)。なお、このようにして測定された循環時間差は、前記表示部(記録部)32において、適宜表示ないし記録する。
【0040】
前記本実施例の循環時間測定装置において、被験者が深呼吸を5回行った後、所要の無呼吸状態を保った場合における、被験者の右足指Foot-Rと左足指Foot-Lとについての動脈血の減光度比Φの測定結果は、図6の(a)に示す通りである。そこで、被験者の右足大腿部を120mmHgの圧力で圧迫した場合の前記と同様の測定結果は、図6の(b)に示す通りとなった。このような測定結果により、最大値を示す時間の差を循環時間差とした時に、右足に対する循環時間に遅れ(29秒)を生じることから、右足の血管についての異常を検出することができる。また、別の方法として、2つの部位間で測定したΦまたはSpO2 の相互相関係数を計算し、相互相関係数が最大となる時間を循環時間差とすることもできる。図6の(b)の2つの波形の相互相関係数を図6の(c)に示す。
【実施例2】
【0041】
図7は、本発明に係る血流による酸素運搬の循環時間測定方法の別の実施例としての循環時間測定装置を示す系統図である。すなわち、図7においては、被験者の額Brow 、手指Fing 、および足指Foot からなる各測定部位に対して、それぞれ吸光度検出センサS1 、S2 、…Sn と、減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 の測定部M1 、M2 、…Mn とがそれぞれ接続され、さらに前記各測定部M1 、M2 、…Mn を介して、循環時間測定部30および表示部(記録部)32とがそれぞれ接続された構成からなる。さらに、本実施例においては、被験者の口Mouthに対して、フローセンサ22を設けて、深呼吸や息こらえに際しての呼吸流量や換気量を測定するように構成する。
【0042】
このように構成された本実施例の循環時間測定装置においては、図8に示すように、被験者の前記各測定部位にそれぞれ吸光度検出センサS1 、S2 、…Sn を装着し(STEP−21)、前記各測定部位における動脈血の減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 を前記各測定部M1 、M2 、…Mn により測定する(STEP−22)。そこで、被験者の吸気酸素濃度FiO2 を、深呼吸ないし息こらえにより変化させると共に、この場合における被験者の呼吸流量ないし換気量をフローセンサ22により測定する(STEP−23)。そして、この吸気酸素量を変化させた時点を検出すると共に、前記各測定部M1 、M2 、…Mn により測定される動脈血の減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 の変化、特に立上り変化する時点までの時間、すなわち酸素運搬の循環時間を前記循環時間測定部30において測定することについて、解析時間の設定を行う(STEP−24)と共に、この設定された解析時間の範囲内に前記循環時間の測定を行う(STEP−25、STEP−26)。なお、このようにして測定された循環時間は、前記表示部(記録部)32において、適宜表示ないし記録する。
【0043】
従って、本実施例の循環時間測定装置において、それぞれ測定される循環時間は、呼吸流量ないし換気量と各測定部位における動脈血の減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 との相互相関係数を測定することができ、相互相関係数が最大となる時間を循環時間とすることができる。しかも、得られる循環時間は、心拍出量と相関する中心循環の指標となる。
【実施例3】
【0044】
図9は、本発明に係る血流による酸素運搬の循環時間測定方法のさらに別の実施例としての循環時間測定装置を示す系統図である。すなわち、図9においては、被験者の額Brow 、手指Fing 、および足指Foot からなる各測定部位に対して、それぞれ吸光度検出センサS1 、S2 、…Sn と、減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 の測定部M1 、M2 、…Mn とがそれぞれ接続され、さらに前記各測定部M1 、M2 、…Mn を介して、循環時間測定部30および表示部(記録部)32とがそれぞれ接続された構成からなる。さらに、本実施例においては、被験者の口Mouthに対して、酸素ボンベ20からの酸素ガスO2 と空気Airとの混合比を調製し得る切替弁24を設けると共に、その時の吸気酸素濃度FiO2 を検出する吸気酸素濃度センサ26を設けた構成からなる。
【0045】
このように構成された本実施例の循環時間測定装置においては、図10に示すように、被験者の前記各測定部位にそれぞれ吸光度検出センサS1 、S2 、…Sn を装着し(STEP−31)、前記各測定部位における動脈血の減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 を前記各測定部M1 、M2 、…Mn により測定する(STEP−32)。そこで、前記各測定部M1 、M2 、…Mn における測定間隔を設定する(STEP−33)。そして、予め設定した測定間隔での定時測定時間を判定して(STEP−34)、被験者の吸気に合わせて前記切替弁24を切り替え操作して、1呼吸だけ100%の酸素を吸入させて、吸気酸素濃度FiO2 を変化させる(STEP−35)。そして、この吸気酸素濃度FiO2 を変化させた時点を検出すると共に、前記各測定部M1 、M2 、…Mn により測定される動脈血の減光度比Φないし動脈血酸素飽和度SpO2 の変化、特に立上り変化する時点までの時間、すなわち酸素運搬の循環時間を前記循環時間測定部30において測定する(STEP−36)と共に、この予め設定された測定時間の範囲内に前記循環時間の測定を行う(STEP−37)。なお、このようにして測定された循環時間は、前記表示部(記録部)32において、適宜表示ないし記録する。
【0046】
従って、本実施例の循環時間測定装置において、被験者の吸気酸素濃度FiO2 を変化させた場合の各測定部位における動脈血の減光度比Φと、循環時間との相関は、図11の(a)に示す通りである。また、図11の(b)は、循環時間の測定をより明確にするため、動脈血の減光度比Φについて、所定の閾値に対する差分値を算出して、循環時間との相関を示したものである。また、本実施例の循環時間測定装置においては、被験者の吸気酸素濃度FiO2 を、通常の空気吸入に際し、5分に1回の割合で、100%酸素ガスO2 を約10秒程度でパルス状に切り替えて変化させることにより、5分間隔の循環時間についての間欠測定を行うことができる。この場合、切替弁24の切り替えは自動または手動により行うことが可能である。また、間欠測定を行うことにより、患者に対する呼吸管理を複雑にすることなく、循環時間の測定を行うことができる。
【0047】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前記実施例に限定されることなく、本発明の精神を逸脱しない範囲内において多くの設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法および装置のシステム構成例を示す概略説明図である。
【図2】本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法および装置において、吸気酸素濃度FiO2 の変化に伴う生体組織の各部位における動脈血酸素飽和度SpO2 の変化特性を示す波形説明図である。
【図3】本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法および装置において、ステップ状に入力される吸気酸素濃度FiO2 の変化に対し、動脈血酸素飽和度SpO2 の出力変化特性を示す波形説明図である。
【図4】本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法を実施する装置の一実施例を示す系統説明図である。
【図5】図4に示す循環時間測定装置において、本発明に係る酸素運搬の循環時間測定を行うための操作プログラムを示すフローチャート図である。
【図6】(a)および(b)は、それぞれ図4に示す循環時間測定装置により、深呼吸および息こらえによって生体組織の各部位において測定される減光度比Φの時間的変化を示す特性線図、(c)は(b)の2つの波形の相互相関係数を示す特性線図である。
【図7】本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法を実施する装置の別の実施例を示す系統説明図である。
【図8】図7に示す循環時間測定装置において、本発明に係る酸素運搬の循環時間測定を行うための操作プログラムを示すフローチャート図である。
【図9】本発明に係る酸素運搬の循環時間測定方法を実施する装置のさらに別の実施例を示す系統説明図である。
【図10】図9に示す循環時間測定装置において、本発明に係る酸素運搬の循環時間測定を行うための操作プログラムを示すフローチャート図である。
【図11】(a)および(b)は、それぞれ図9に示す循環時間測定装置により、酸素吸入によって生体組織の各部位において測定される減光度比Φの時間的変化を示す特性線図である。
【図12】従来の色素希釈法により測定された心係数と平均循環時間との関係を示すもので、(a)は男女についてそれぞれの関係を示す特性線図、(b)は心係数と身長により補正した平均循環時間との関係を示す特性線図である。
【図13】従来の色素希釈法により測定されたICG(Indocyanine Green)の到達時間の関係を示すもので、(a)は鼻翼での測定結果を示す特性線図、(b)は指先での測定結果を示す特性線図である。
【符号の説明】
【0049】
10 パルスオキシメータ
12 第1のセンサ
14 第2のセンサ
16 第3のセンサ
20 酸素ボンベ
S1 、S2 、…Sn 吸光度検出センサ
M1 、M2 、…Mn 測定部
22 フローセンサ
24 切替弁
26 吸気酸素濃度センサ
30 循環時間測定部
32 表示部(記録部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサを用いて生体から抽出した動脈血の吸光度信号に基づいて酸素飽和度の変化を算出する装置において、
生体への吸気酸素量を変化させると共にその変化させた時点を基準点とし、該基準点から動脈血の酸素飽和度が変化する時点までの時間を測定することを特徴とする酸素運搬の循環時間測定方法。
【請求項2】
前記生体の吸気酸素量の変化は、深呼吸および/または息こらえにより発生させることを特徴とする請求項1記載の酸素運搬の循環時間測定方法。
【請求項3】
前記生体の吸気酸素量の変化は、吸入酸素ガスの濃度変化により発生させることを特徴とする請求項1記載の酸素運搬の循環時間測定方法。
【請求項4】
前記センサにより検出測定された動脈血の吸光度に基づく酸素飽和度の変化は、パルスオキシメータを使用して、生体の各部位に装着したセンサにより検出測定される吸光度に基づく減光度比Φないし酸素飽和度SpO2 として算出することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の酸素運搬の循環時間測定方法。
【請求項5】
前記センサが異なる複数の部位に装着された複数のセンサであり、異なる複数の部位における酸素運搬の循環時間を測定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の酸素運搬の循環時間測定方法。
【請求項6】
前記複数のセンサにより、複数の部位間の循環時間の差を求めることを特徴とする請求項5記載の酸素運搬の循環時間測定方法。
【請求項7】
前記複数のセンサにより測定された減光度比Φないし酸素飽和度SpO2 の相互相関係数が最大となる時間を求めることにより循環時間の差を求めることを特徴とする請求項6記載の酸素運搬の循環時間測定方法。
【請求項8】
生体の所定部位に装着して動脈血の吸光度をそれぞれ検出測定するためのセンサと、
前記センサにより検出測定された動脈血の吸光度に基づいて酸素飽和度の変化を算出する酸素飽和度演算手段と、
生体の吸気酸素量を変化させた時点を検出する第1の検出手段と、
前記酸素飽和度演算手段により得られる動脈血の酸素飽和度の変化において、前記第1の検出手段による検出時点から、動脈血の酸素飽和度が変化する時点までの時間を測定する循環時間測定手段とを、備えることを特徴とする酸素運搬の循環時間測定装置。
【請求項9】
前記第1の検出手段としてフローセンサを使用し、吸気酸素量を変化させた時点の検出を前記フローセンサにより呼吸流量または換気量の変化に対応するように設定したことを特徴とする請求項8記載の酸素運搬の循環時間測定装置。
【請求項10】
前記第1の検出手段として酸素ボンベからの酸素吸気を制御する開閉弁を使用し、吸気酸素濃度を変化させた時点の検出を前記開閉弁の切り替え操作に対応するように設定したことを特徴とする請求項8記載の酸素運搬の循環時間測定装置。
【請求項11】
前記酸素飽和度演算手段は、パルスオキシメータを使用することを特徴とする請求項8記載の酸素運搬の循環時間測定装置。
【請求項12】
前記センサを異なる複数の部位に装着する複数のセンサで構成し、異なる複数の部位における酸素運搬の循環時間を測定するように設定したことを特徴とする請求項8ないし11のいずれかに記載の酸素運搬の循環時間測定装置。
【請求項13】
前記複数のセンサにより複数の部位間の循環時間の差を求めるように設定したことを特徴とする請求項12記載の酸素運搬の循環時間測定装置。
【請求項14】
前記複数のセンサにより測定された減光度比Φないし酸素飽和度SpO2 の相互相関係数が最大となる時間を求めることにより循環時間の差を求めることを特徴とする請求項13記載の酸素運搬の循環時間測定装置。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−231012(P2006−231012A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−97080(P2005−97080)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】