説明

酸素還元用触媒及びその製造方法、酸素還元用電極及びその製造方法

【課題】 高い酸素還元能力を有し、実用性に優れた酸素還元用触媒及び酸素還元用電極を提供する。
【解決手段】 アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の熱処理物を主体とする酸素還元用触媒である。熱処理前において、カチオンによって水溶性ポルフィリン誘導体のアニオン基間及び金属間がそれぞれ結びつけられた二重の規則的構造を有する。この酸素還元用触媒は、水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液にカチオンを加えて反応させ、得られる生成物に対して不活性ガス雰囲気中で熱処理を施すことにより製造される。また、この酸素還元用触媒は、導電性の電極素材に担持させることにより、酸素還元用電極として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の電極等に使用される酸素還元触媒及びその製造方法に関するものであり、さらには、酸素還元用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や環境汚染問題等に対する新技術の開発が様々な分野で進められており、燃料電池の開発もその一つである。例えば高分子電解質型燃料電池においては、酸素触媒能に優れた触媒の開発が実用化の鍵を握っており、白金に代わる新たな酸素極触媒の開発が待たれるところである。白金は高価であり、その存在も偏在していることから、資源の乏しい我が国にあっては、白金に代わる酸素極触媒の開発が必要不可欠である。白金に匹敵する酸素還元能を有する酸素極触媒が開発されれば、前述の燃料電池等の実用化も大きく進展するものと期待される。
【0003】
このような状況から、新規な酸素極触媒について、各方面で検討が進められており、テトラフェニルポルフィリンやテトラメトキシフェニルポルフィリン、さらにはこれらに中心金属やハロゲン元素を導入したポルフィリン誘導体等を酸素還元用触媒として用いることが提案されている。本願発明者らも、これらポルフィリン誘導体よりも酸素還元性能に優れた酸素還元用電極の製造方法を既に提案している(特許文献1等を参照)。
【0004】
本願発明者らによって提案された特許文献1には、メソテトラキス(4−スルフォナトフェニル)ポルフィリンメタルハライドを電極素材に担持せしめ、且つこれを不活性ガス雰囲気中400℃以上800℃付近までの範囲で熱処理する酸素還元用電極の製造方法が開示されている。製造される酸素還元用電極は、酸素過電圧が小さい値でも酸素還元反応を起こすという利点を有している。
【特許文献1】特開昭62−17951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば燃料電池の酸素還元用電極を考えた場合、前述の特許文献1に記載される製造方法で製造される酸素還元用電極であっても酸素還元能が必ずしも十分とは言えず、さらなる改良が望まれる。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、高い酸素還元能力を有し、安価で入手が容易である等、実用性に優れた酸素還元用触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。さらには、係る酸素還元用触媒を利用することで、性能に優れた酸素還元用電極及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前述の目的を達成するために、種々の研究を重ねてきた。その結果、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体にカチオンを作用させることにより、規則性の高い立体構造の形成が促進され、飛躍的に高い酸素還元性能を発揮することを見出すに至った。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。すなわち、本発明の酸素還元用触媒は、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の熱処理物を主体とする酸素還元用触媒であって、熱処理前において、カチオンによって前記水溶性ポルフィリン誘導体のアニオン基間及び金属間がそれぞれ結びつけられた二重の規則的構造を有することを特徴とする。また、本発明の酸素還元用触媒の製造方法は、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液にカチオンを加えて反応させ、得られる生成物に対して不活性ガス雰囲気中で熱処理を施すことを特徴とする。
【0009】
同様に、本発明の酸素還元用電極は、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の熱処理物を主体とする酸素還元用触媒が導電性の電極素材の表面に担持されてなる酸素還元用電極であって、前記酸素還元用触媒は、熱処理前において、カチオンによって前記水溶性ポルフィリン誘導体のアニオン基間及び金属間がそれぞれ結びつけられた二重の規則的構造を有することを特徴とする。また、本発明の酸素還元用電極の製造方法は、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液にカチオンを加えて反応させ、得られる生成物を導電性の電極素材に担持させた後、不活性ガス雰囲気中で熱処理を施すことを特徴とする。
【0010】
本発明の酸素還元用触媒が優れた酸素還元能を示した理由として、規則性の高い立体構造が形成されたことを挙げることができる。アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体にカチオンを作用させると、水溶性ポルフィリン誘導体の側鎖にあるアニオン基と塩を形成し、アニオン基間が結合されて平面的な分子構造を有する水溶性ポルフィリン誘導体分子の面内方向(いわば横方向)の規則的構造を促進する。さらに、これ以外にポルフィリン環の中心にあるM(III)−OH(Mは中心金属)と反応し、金属間でM(III)−O−MII−O−M(III)(MIIはカチオン)なる結合が形成され、水溶性ポルフィリン誘導体分子の厚さ方向(いわば縦方向)の規則的構造が促進される。この結果、ほぼ完全なFace to Face構造が形成されたことになり、ポルフィリン環平面の間で酸素分子が活性化される。
【0011】
例えばコバルトポルフィリンの側鎖を共有結合で連結したFace to Face型の2核錯体を合成し、酸素の4電子還元能を報告した例はあるが、本発明のような側鎖と軸配位子の2点からFace to Face型の錯体が形成された例はない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、白金に匹敵する高い酸素還元能を有する酸素還元用触媒を提供することが可能である。本発明の酸素還元用触媒は、白金のような高価で供給が逼迫した資源を必要とせず、安価で実用性に優れたものである。また、係る酸素還元用触媒を使用することにより、安価で性能に優れた酸素還元用電極の提供も可能となる。
【0013】
また、燃料電池の分野においては、例えば酸性電解質型燃料電池では白金に代わる酸素還元用電極触媒の開発が困難であることが認識されるようになり、アルカリ電解質型の燃料電池を開発する動きがある。本発明の酸素還元用触媒、酸素還元用電極は、このアルカリ電解質型の燃料電池やアルミニウム−空気等の空気電池の触媒、電極としての応用も期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用した酸素還元用触媒、酸素還元用電極、及びそれらの製造方法の実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
先ず、本発明の酸素還元用触媒であるが、本発明の酸素還元用触媒は、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の熱処理物を主体とする酸素還元用触媒である。水溶性ポルフィリン誘導体としては、具体的には、下記(I)式で表される水溶性ポルフィリン誘導体を挙げることができる。
【0016】
【化9】

(ただし、式中、MはIII価の金属、Xはハロゲン原子、Yはアニオン基を表す。)
【0017】
ここで、ポルフィリンの側鎖(フェニル基の4位)に導入されるアニオン基Yとしては、任意のアニオン基を選択することができるが、例えばスルフォン基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基(−CHPOH)等を例示することができる。後述のカチオンとの反応性等を考慮すると、これらの中ではスルフォン基(−SOH)が最も好ましい。中心金属についても、III価の金属であれば任意であるが、カチオンにより金属間の結合を形成するためには、鉄(Fe)を選択することが好ましい。
【0018】
したがって、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の代表例としては、下記式(II)に示される水溶性鉄ポルフィリンを挙げることができる。式(II)に示される水溶性鉄ポルフィリンは、テトラ(4−スルフォナトフェニル)ポルフィリン鉄(III)クロリドであり、以下においてはFe(III)(TPPS)Clと略して表記する。その他、Fe(III)(TPPS)Clと同じ水溶性で正電荷を有するテトラ(N−メチルピリジニウム−4−イル)ポルフィリン鉄クロリド[Fe(III)(TMPyP)Cl]等にも適用可能である。
【0019】
【化10】

【0020】
前述の水溶性ポルフィリン誘導体は、熱処理前において、カチオンによってアニオン基間及び金属間がそれぞれ結びつけられた二重の規則的構造を有し、これが熱処理後にも維持されることによって、本発明の酸素還元用触媒は、高い酸素還元能を発現する。すなわち、熱処理前に水溶性ポルフィリン誘導体にカチオンを作用させると、カチオンとの相互作用によって、前記水溶性ポルフィリン誘導体分子のアニオン基(例えばスルフォン基)間が結合され、横方向の規則的構造が構築される。前記横方向の規則的構造は、水溶性ポルフィリン誘導体分子の側鎖にあるアニオン基とカチオンとが塩を形成することで構築される。水溶性ポルフィリン誘導体の分子は平面性が高く、平面状の水溶性ポルフィリン分子が面内(前記横方向)において結合することで、平面構造が形成される。
【0021】
それとともに、各水溶性ポルフィリン誘導体の中心金属間においても、カチオンによる相互作用によって連結された形になり、縦方向(平面状の水溶性ポルフィリン誘導体分子の厚さ方向)の規則的構造が構築される。例えば、水溶性ポルフィリン誘導体がFe(III)(TPPS)Clである場合、ポルフィリン環の中心にあるFe(III)−OHとカチオンMIIが反応し、Fe(III)−O−MII−O−Fe(III)が形成されることで縦方向の規則的構造が形成される。
【0022】
なお、前記縦方向の規則的構造の形成については、下記式(III)で示される架橋反応によるものと考えられる。このことは、カチオンによるアニオン基間の結合(反応)では溶液のpH値が変化せず、中性のままであるのに対して、金属(Fe)間の結合では溶液が酸性になることから推測される。下記式(III)で示される架橋反応では、プロトン2Hが放出される形になり、溶液が酸性化することを裏付けている。
【0023】
【化11】

【0024】
これら横方向と縦方向の規則的構造の形成により、二重の規則的構造(ほぼ完全なFace
to Face構造)が形成される。なお、前記横方向及び縦方向の規則的構造の構築のためのカチオンとしては、種々のカチオンを用いることができるが、例えばCa、Ba、Sr等のアルカリ土類金属イオン、二塩化酸化ジルコニウム、二塩化酸化ハフニウム等のオキソ金属イオン等を挙げることができる。
【0025】
本発明の酸素還元用触媒では、以上のような二重の規則的構造の形成により、ポルフィリン環平面間で酸素分子の活性化、酸素の高効率での還元が達成される。例えば、前記縦方向の規則的構造が形成されることにより、上下のポルフィリン環の窒素原子が整列する形になり、前記酸素分子の活性化、高効率での還元に寄与しているものと考えられる。実際、Fe(III)(TPPS)Clを用いて作製した酸素還元用触媒においては、酸素還元に電位域でFe(IV)(oxo ferryl porphyrin)及びFe(V)(oxo ferryl porphyrin π-cation radical)の生成を間接的に確認しており、シトクロムP450と類似の機構[2Fe(III)←→2Fe(V)]で酸素の4電子還元が進行しているものと考えられる。
【0026】
以上のような本発明の酸素還元用触媒は、アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液にカチオンを加えて反応させ、得られる生成物に対して不活性ガス雰囲気中で熱処理を施すことにより簡単に製造することができる。
【0027】
例えば水溶性ポルフィリン誘導体としてFe(III)(TPPS)Clを使用する場合、Fe(III)(TPPS)Clの水溶液にカチオンを含む溶液を加えて反応させる。カチオン源としては、アルカリ土類金属の塩化物や、前記オキソ金属イオンの化合物等を挙げることができる。Fe(III)(TPPS)Clの水溶液にアルカリ土類金属の塩化物を加えて反応させると、沈殿を生成する。この沈殿を乾燥し、熱処理を施して酸素還元用触媒を得る。前記熱処理は、アルゴン雰囲気中や窒素雰囲気中等、不活性ガス雰囲気中で行う必要があり、熱処理温度は450℃〜750℃の範囲内に設定することが好ましい。より好ましい温度は、700℃前後である。
【0028】
得られる酸素還元用触媒は、酸素還元触媒に要求される4つの能力のいずれについても優れたものである。例えば、酸素還元触媒には、先ず第1に酸素過電圧が小さいことが要求されるが、本発明の酸素還元用触媒は、白金と同程度の性能を有する。第2に、酸素還元触媒には、酸素の水までの4電子還元能が高いことが要求されるが、本発明の酸素還元用触媒は、この点において白金よりも優れた性能を発揮する。第3に、酸素還元触媒は、一酸化炭素等による被毒に強いことが要求される。本発明の酸素還元用触媒は、中心金属である鉄イオン等の一酸化炭素への配位は知られていないことから、一酸化炭素による被毒は白金に比べて低いものと推定される。第4に、酸素還元触媒は、電解液中での安定性に優れることが要求される。本発明の酸素還元用触媒は、アルカリ溶液中での酸素還元能は白金より明らかに優れている。また、金属錯体の場合、アルカリ溶液中での安定性は酸水溶液ほど過酷ではないので、安定性に問題はない。
【0029】
前述の酸素還元用触媒は、例えば燃料電池の酸素極触媒として用いることができる。この場合、前述の酸素還元用触媒を導電性の電極素材に担持させ、酸素還元用電極とすればよい。導電性の電極素材としては、各種金属やカーボンブラック、カーボンファイバ等の炭素材料等、任意の素材を使用することが可能である。
【0030】
酸素還元用触媒を導電性の電極素材に担持させるには、例えばアニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液にカチオンを加えて反応させ、得られる生成物(沈殿)を導電性の電極素材に塗布した後、乾燥する等の手法によって担持させればよい。あるいは、水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液に導電性の電極素材(例えばカーボンブラックやカーボンファイバ)を懸濁させ、カチオンを加えることでカーボンブラックやカーボンファイバ上に生成物を析出させ、担持させるようにしてもよい。
【0031】
前記生成物を導電性の電極素材に担持させた後、熱処理を行うことで生成物を熱処理物(酸素還元用触媒)とし、酸素還元用電極とする。熱処理の条件は前述の通りであり、700℃前後で行うことが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果を基に説明する。
【0033】
酸素還元用電極の作製
負電荷を有する陰イオン性ポルフィリン[テトラ(4−スルフォナトフェニル)ポルフィリン]から塩化物イオンClを軸配位子とする水溶性鉄ポルフィリン[Fe(III)(TPPS)Cl]を合成した。次いで、合成したFe(III)(TPPS)Clの1mM水溶液に水溶性鉄ポルフィリンとアルカリ土類金属イオン(バリウムイオン)のモル比が1:50となるように塩化バリウム(カチオンはBa2+)を加え、反応させることにより混合溶液を調製した。この反応条件は、前記水溶性鉄ポルフィリンの側鎖がスルフォン酸のナトリウム塩である場合についてのものであるが、側鎖が遊離のスルフォン基である場合には、水酸化バリウムを用い、モル比約1:2で混合溶液を調製した。この混合溶液約100μl(担持される鉄ポルフィリン量が3×10−7mol/cmになるよう調整)を面積0.5cmの炭素電極上に塗布し、乾燥後、アルゴン雰囲気中、700℃で10分間熱処理して酸化還元用電極を作製した。
【0034】
得られた酸素還元用電極を電極Aとする。電極Aと同様にして、塩化バリウムの変わりに塩化ストロンチウムまたは塩化カルシウムを用い、カチオンをSr2+、あるいはCa2+に変え、他は同様にして電極B及び電極Cを作製した。
【0035】
作製した酸素還元用電極の評価
作製した酸素還元用電極(電極A〜電極C)について、酸性溶液(0.5MHSO溶液)中での酸素還元能力を測定した。酸素還元能力の測定は、作製した各電極を酸素飽和0.5MHSO溶液に浸漬し、走査速度10mVs−1のサイクリックボルタンメトリーにより電流−電位曲線を測定することで行った。結果を図1に示す。図1には、比較のため白金担持カーボン電極及びカチオンによる架橋のないFe(III)(TPPS)Clを熱処理した電極(比較例電極)についての測定結果も併せて示す。なお、白金担持カーボン(Pt/CB)電極は、20質量%のPtを含むPt/CBを5mg採取し、5質量%ナフィオン溶液0.31mlに分散した後、分散液10μlを面積0.2cmの炭素電極上に塗布し、常温で乾燥して作製した。また、比較例電極は、1mMFe(III)Cl−TPPS水溶液150μLを0.5cmの炭素電極上に塗布、乾燥した後、アルゴン雰囲気中で熱処理することにより作製した。
【0036】
図1から明らかなように、各電極A〜Cの酸性溶液中での酸素還元能力は、白金担持カーボン電極とほぼ同等の値を示した。また、比較例電極に比べて酸素還元能が高いことも確認された。具体的には、図1に示す電流−電位曲線から、酸素還元の触媒活性を比較することができ、例えば酸素還元のピーク電位がより正のものほど酸素還元の過電圧が小さく、燃料電池の電極に用いた場合、起電力が大きくなる。また、還元ピーク電流が大きいほど、燃料電池の電極に用いた場合、大きな電流が取り出せる。各電極A〜Cにおいては、比較例電極に比べて酸素還元のピーク電位が正であり、白金担持カーボン電極に近い値となっている。また、還元ピーク電流も比較例電極に比べて大きい。
【0037】
次に、電極Aについて、アルカリ溶液(1.0MKOH溶液)中での酸素還元能力を測定した。酸素還元能力の測定は、作製した各電極を酸素飽和1.0MKOH溶液に浸漬し、走査速度10mVs−1のサイクリックボルタンメトリーにより電流−電位曲線を測定することで行った。結果を図2に示す。なお、図2には、比較のため平滑白金電極(0.5cm)及び比較例電極についての測定結果も併せて示す。
【0038】
図2から明らかなように、アルカリ溶液中での測定においても、電極Aは平滑白金電極や比較例電極に比べて酸素還元能力に優れていることがわかる。
【0039】
さらに、電極Aと同様の方法により回転リング−ディスク電極を作製し、酸素還元のディスク電流(Idisc)と過酸化水素酸化のリング電流(Iring)の比率を求めた。その結果、白金を用いた回転リング−ディスク電極では、Iring/Idisc=0.13であったのに対して、本発明の酸素還元用触媒を用いた回転リング−ディスク電極では、Iring/Idisc=0.005であり、過酸化水素をほとんど生成せず、白金より優れていることが判明した。
【0040】
また、酸素還元には酸素を4電子で水にまで還元できる触媒と、 2電子で過酸化水素までしか還元できない触媒とがあり、 有害で過電圧の小さな2電子反応は酸素還元触媒として優れたものではない。前記Iring/Idiscについて、Ba2+架橋鉄ポルフィリン(電極Aと同様の方法により作製した回転リング−ディスク電極)と白金担持カーボン電極(Pt/CB)で比較し、反応電子数を比較すると4.0と3.9となり、Ba2+架橋鉄ポルフィリンの方が優れていることがわかった。
【0041】
表1に、種々の架橋剤(カチオン:M2+及びMO2+)で架橋したFe(III)(TPPS)Clにおける酸性溶液中の酸素還元活性をまとめて示す。
【0042】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】酸性溶液中での酸素還元能力の測定結果を示す特性図である。
【図2】アルカリ溶液中での酸素還元能力の測定結果を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の熱処理物を主体とする酸素還元用触媒であって、
熱処理前において、カチオンによって前記水溶性ポルフィリン誘導体のアニオン基間及び金属間がそれぞれ結びつけられた二重の規則的構造を有することを特徴とする酸素還元用触媒。
【請求項2】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(I)に示される化合物であることを特徴とする請求項1記載の酸素還元用触媒。
【化1】

(ただし、式中、MはIII価の金属、Xはハロゲン原子、Yはアニオン基を表す。)
【請求項3】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(II)に示される水溶性鉄ポルフィリンであることを特徴とする請求項1記載の酸素還元用触媒。
【化2】

【請求項4】
アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液にカチオンを加えて反応させ、得られる生成物に対して不活性ガス雰囲気中で熱処理を施すことを特徴とする酸素還元用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記カチオンは、アルカリ土類金属イオン、またはオキソ金属イオンであることを特徴とする請求項4記載の酸素還元用触媒の製造方法。
【請求項6】
カチオン源として、アルカリ土類金属の塩化物を加えることを特徴とする請求項4記載の酸素還元用触媒の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(I)に示される化合物であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の酸素還元用触媒の製造方法。
【化3】

(ただし、式中、MはIII価の金属、Xはハロゲン原子、Yはアニオン基を表す。)
【請求項8】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(II)に示される水溶性鉄ポルフィリンであることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項記載の酸素還元用触媒の製造方法。
【化4】

【請求項9】
アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の熱処理物を主体とする酸素還元用触媒が導電性の電極素材の表面に担持されてなる酸素還元用電極であって、
前記酸素還元用触媒は、熱処理前において、カチオンによって前記水溶性ポルフィリン誘導体のアニオン基間及び金属間がそれぞれ結びつけられた二重の規則的構造を有することを特徴とする酸素還元用電極。
【請求項10】
前記導電性の電極素材が炭素であることを特徴とする請求項9記載の酸素還元用電極。
【請求項11】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(I)に示される化合物であることを特徴とする請求項9または10記載の酸素還元用電極。
【化5】

(ただし、式中、MはIII価の金属、Xはハロゲン原子、Yはアニオン基を表す。)
【請求項12】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(II)に示される水溶性鉄ポルフィリンであることを特徴とする請求項9または10記載の酸素還元用電極。
【化6】

【請求項13】
アニオン基を有し中心金属がIII価の金属である水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液にカチオンを加えて反応させ、得られる生成物を導電性の電極素材に担持させた後、不活性ガス雰囲気中で熱処理を施すことを特徴とする酸素還元用電極の製造方法。
【請求項14】
前記導電性の電極素材として炭素材料を用い、前記生成物を炭素材料上に塗布乾燥した後、前記熱処理を施すことを特徴とする請求項13記載の酸素還元用電極の製造方法。
【請求項15】
前記水溶性ポルフィリン誘導体の水溶液に導電性の電極素材であるカーボンブラックまたはカーボンファイバーを懸濁させ、カチオンを加えることでカーボンブラックまたはカーボンファイバー上に前記生成物を析出させることを特徴とする請求項13記載の酸素還元用電極の製造方法。
【請求項16】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(I)に示される化合物であることを特徴とする請求項13乃至15記載の酸素還元用電極の製造方法。
【化7】

(ただし、式中、MはIII価の金属、Xはハロゲン原子、Yはアニオン基を表す。)
【請求項17】
前記水溶性ポルフィリン誘導体は、下記式(II)に示される水溶性鉄ポルフィリンであることを特徴とする請求項13乃至15記載の酸素還元用電極の製造方法。
【化8】


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−75800(P2010−75800A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244954(P2008−244954)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】