説明

酸触媒として使用する前に陽イオン交換樹脂を安定化する方法および化学プロセスにおける安定化した陽イオン交換樹脂の使用

化学プロセスにおいて触媒を使用する前の触媒の貯蔵中の触媒の劣化を防ぐ方法であって、触媒を酸化防止剤で処理し、次に使用するまで処理した触媒を貯蔵することからなる。安定化処理した触媒は、ビスフェノールAを製造するプロセスのような、有機化学製品を製造するプロセスにおいて使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強酸イオン交換樹脂を酸化分解による劣化から守るために酸触媒として使用する強酸イオン交換樹脂を安定化する方法、および化学製造プロセスにおける安定化したイオン交換樹脂の使用に関する。特に、本発明は、酸触媒として使用する強酸イオン交換樹脂を酸化防止剤で処理し、当該樹脂を酸化分解による劣化から守る方法、および化学製造プロセスにおける当該処理したイオン交換樹脂の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン・ジビニルベンゼン型の強酸イオン交換樹脂のような重合体イオン交換樹脂は、たとえばビスフェノールAやフェノールのアルキル化のような種々の有機化学製品の製造において触媒として使用されている。これらの触媒は、使用する前の製造、貯蔵、取り扱い、処理、洗浄、および乾燥の間に酸化を受けやすい。酸化分解による劣化は、重合体樹脂から低分子量および中分子量の酸性物質の放出、たとえば低分子量の有機スルホネート、スルホン化オリゴマーおよびスルホン化ポリスチレン重合体の放出に至る。たとえば、ビスフェノール製造プロセスへのこれらの酸性成分の放出は、望ましくない不純物や着色物の生成に至り、規格外製品の製造に帰着する場合がある。
【0003】
イオン交換樹脂の貯蔵の前および貯蔵中に、洗浄の前および洗浄中に、乾燥の前および乾燥中に、ならびに化学製造プロセスにおけるイオン交換樹脂の使用の前に、イオン交換樹脂を酸化分解による劣化から守る必要がある。
【0004】
米国特許第4,973,607号明細書には、陽イオン交換樹脂を酸化防止剤で処理することにより陽イオン交換樹脂を酸化に対して安定化させ、次に安定化した酸化防止剤処理陽イオン交換樹脂をもっぱら水用途に使用する方法が開示されているが、そこでは安定化の目的は安定化した樹脂の使用中に樹脂の分解を防ぐことである。
【0005】
米国特許第4,973,607号明細書には、ビスフェノールAまたはフェノール・アルキレーション製造のような接触化学プロセスにおける酸化防止剤で安定化したイオン交換樹脂の使用が開示されていないし、安定化の目的が触媒として使用する前の陽イオン交換樹脂の劣化を防ぐことであることも開示されていない。化学プロセスにおいて触媒として使用中の陽イオン交換樹脂の酸化分解は、一般に産業界では問題にされていない。なぜならば、酸素は通常引火性を配慮して化学製造プロセスから遮断されるからである。また、ビスフェノールAの製造のような多くの化学製造プロセスでは、触媒は、通常非常に良い酸化防止剤でもあるプロセス流に浸されている。したがって、化学プロセスにおいて使用する前に触媒を安定化させる必要は産業界においてまだある。
【0006】
米国特許第4,973,607号明細書はまた、酸化防止剤による安定化が、触媒として使用する前に、イオン交換樹脂をより洗浄しやすくすることを認識していない。さらに、米国特許第4,973,607号明細書は、浸出しうる物質が酸性であるかもしれないことも、また、たとえばビスフェノールA製造プロセスやイオン交換樹脂が触媒として使用される他のプロセスにおいてこの酸性物質の放出が著しい製造上の問題を引き起こすかもしれないことも認識していない。たとえば、スタールブッシュ(Stahlbush)ら,「陽イオン交換樹脂からの浸出物の予測と同定(Prediction and Identification of Leachables from Cation Exchange Resins)」,第48回国際水会議の議事録(Proceedings of 48th International Water Conference),1987年11月2〜4日、および「IEX’88−工業用イオン交換(Ion Exchange for Industry)」(エム・ストリート(M. Streat)編,エリス・ホーウッド(Ellis Horwood),チチェスター(Chichester),1988年)中のスタールブッシュ(Stahlbush)ら,「陽イオン交換樹脂からの分解生成物の同定、予測および結果(Identification, Prediction and Consequence of the Decomposition Products from Cation Exchange Resins)」には、陽イオン交換樹脂の酸化によって生成される浸出物について記述されており、樹脂の促進老化試験について記述されており、種々の型の樹脂によって生成される浸出物のレベルについて記述されており、そして陰イオン交換樹脂がより高分子量のスルホン化ポリスチレン浸出物を吸着するのに効果的でないことが示されている。
【0007】
特開2002−1132号公報、特開2002−1133号公報および特開2002−1134号公報には、特にアミノチオール助触媒で修飾されたビスフェノールAイオン交換樹脂触媒のアミノチオール助触媒のチオール部分の劣化について述べられているが、イオン交換触媒自体の劣化の防止については教示していない。
【0008】
イオン交換樹脂触媒は、プロセスの操業に影響を及ぼしうる汚染物質を除去するために、通常、使用する前に洗浄される。使用する前の触媒の洗浄を最適化する方法は、これまでにも、たとえば欧州特許第765685号明細書、米国特許第6,723,881号明細書、米国特許第5,723,691号明細書、特開2000−143565号公報、および特開平09−010598号公報に開示されている。米国特許第6,723,881号明細書には、触媒調製手順の一部として、水洗工程における「溶存酸素がない水」の使用が開示されている。その触媒調製手順は、触媒製造プロセスの一部として生じる含有オリゴマーを除去するのに効果的であると教示されているが、触媒の劣化については米国特許第6,723,881号明細書では論じられていない。
【特許文献1】米国特許第4973607号明細書
【特許文献2】特開2002−1132号公報
【特許文献3】特開2002−1133号公報
【特許文献4】特開2002−1134号公報
【特許文献5】欧州特許第765685号明細書
【特許文献6】米国特許第6723881号明細書
【特許文献7】米国特許第5723691号明細書
【特許文献8】特開2000−143565号公報
【特許文献9】特開平09−010598号公報
【特許文献10】米国特許第4564644号明細書
【特許文献11】米国特許第5834524号明細書
【特許文献12】米国特許第5616622号明細書
【特許文献13】米国特許第4419245号明細書
【特許文献14】米国特許第4427794号明細書
【特許文献15】米国特許第4444961号明細書
【特許文献16】米国特許第3922255号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第1222960号明細書
【特許文献18】欧州特許出願公開第0552541号明細書
【特許文献19】米国特許第5081160号明細書
【特許文献20】欧州特許第1078941号明細書
【特許文献21】米国特許第4400555号明細書
【特許文献22】米国特許第6703530号明細書
【特許文献23】米国特許第6307111号明細書
【特許文献24】米国特許第6465697号明細書
【特許文献25】米国特許第6737551号明細書
【非特許文献1】スタールブッシュ(Stahlbush)ら,「陽イオン交換樹脂からの浸出物の予測と同定(Prediction and Identification of Leachables from Cation Exchange Resins)」,第48回国際水会議の議事録(Proceedings of 48th International Water Conference),1987年11月2〜4日
【非特許文献2】「IEX’88−工業用イオン交換(Ion Exchange for Industry)」(エム・ストリート(M. Streat)編,エリス・ホーウッド(Ellis Horwood),チチェスター(Chichester),1988年)中のスタールブッシュ(Stahlbush)ら,「陽イオン交換樹脂からの分解生成物の同定、予測および結果(Identification, Prediction and Consequence of the Decomposition Products from Cation Exchange Resins)」
【非特許文献3】ヘルフェリヒ(Helfferich)著,「イオン交換(Ion Exchange)」,マグロウヒル出版(McGraw-Hill Book Co., Inc.),1962年,p.26−47
【非特許文献4】デクスター(Dexter)ら著,「重合体の科学と技術の百科事典(Encyclopedia of Polymer Science and Technology)」,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons, Inc.),2002年
【非特許文献5】トーマス(Thomas)ら著,「カーク・オスマー化学技術百科事典(Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology)」,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons),2002年
【非特許文献6】アッシュ(Ash)、マイケル(Michael)およびアイリーン(Irene)著,「酸化防止剤とオゾン亀裂防止剤目録(The Index of Antioxidants and Antiozonants)」,ガウアー(Gower),1997年
【非特許文献7】イー・ティー・デニソブ(Denisov, E.T.)著,「酸化防止剤ハンドブック(Handbook of Antioxidants)」,シーアールシー・プレス(CRC Press),1995年
【非特許文献8】「商用酸化防止剤とオゾン亀裂防止剤目録(Index of Commercial Antioxidants and Antiozonants)」,グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals),1983年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来の既知の技術は、触媒を使用する前に触媒から浸出物質(leachable material)を除去する方法に関する。工業において必要なことは、浸出物質が最初に生成されるのを、すなわちイオン交換樹脂を触媒として使用する前に浸出物質が生成されるのを防ぐ方法である。上記の従来の既知の技術は、浸出物質が生成された後に浸出物質を除去するために使用される方法に関する。
【0010】
したがって、イオン交換樹脂を触媒として使用する前にイオン交換樹脂の劣化を防ぐためにイオン交換樹脂を安定化する経済的な方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、酸触媒として使用する強酸イオン交換樹脂を酸化分解による劣化から守るために強酸イオン交換樹脂を安定化すること、および安定化したイオン交換樹脂を化学製造プロセスにおいて使用することである。
【0012】
使用する前の貯蔵中のイオン交換樹脂触媒の劣化は、たとえば酸素遮断包装、不活性ガスシール(inert gas blanketing)もしくは真空包装、または酸素が触媒に接触するのを妨げるその他の方法を用いることにより、酸素の不存在下で樹脂を貯蔵することによって防止することができる。
【0013】
本発明の別の態様は、化学プロセスにおいて触媒を使用する前、酸素の存在する環境との接触にさらされるかもしれない触媒の貯蔵中に、触媒の劣化を防ぐ方法であって、触媒を酸化防止剤で処理することを含む。この場合は、酸化防止剤で処理した触媒は、その後、次に使用するまで酸素との接触を防ぐための特別の予防措置を講じずに貯蔵することができる。
【0014】
また、本発明の別の態様は、触媒を使用して化学プロセスにおいて化学製品を製造する方法であって、(a)触媒を酸化防止剤で処理すること、および(b)化学プロセスにおいて化学製品を製造するために当該触媒を必要な反応原料に接触させることを含む。
【0015】
本発明の処理した触媒を使用して化学製品を製造するための化学プロセスの1つの具体例は、たとえばビスフェノールAを製造する方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の1つの目的は、酸触媒として使用する強酸イオン交換樹脂を酸化分解による劣化から保護するために強酸イオン交換樹脂を安定化すること、およびその安定化したイオン交換樹脂を化学製造プロセスにおいて、たとえばビスフェノールAの製造において、使用することにある。
【0017】
本発明を説明する目的で、樹脂の「安定性」とは、貯蔵、取り扱い、処理、および乾燥中に樹脂が分解に耐える性能をいう。分解は主として酸化によって引き起こされ、望まれないカラースロー(color throw)、浸出物(leachables)および高い全有機炭素(TOC)含量に帰着する場合があり、それが次には樹脂性能および認められた品質に影響する場合がある。安定化した樹脂は、貯蔵、取り扱い、処理、および乾燥の際に酸化に耐える。樹脂の安定性を改善することは、長期間の貯蔵、取り扱い、処理、および乾燥の後の酸化分解に耐える樹脂の性能を増強し、その結果、その樹脂を使用に供する際に、カラースロー、浸出物および高TOC量を避けることができる。
【0018】
酸化分解による劣化は、酸素の接触を防ぐための特別の予防措置なしで貯蔵したときにカチオン交換樹脂試料の漸進的な変色として観察することができる。そのような試料を水の中に浸せば、水の変色や、水の酸性度およびTOC量の顕著な増加をもたらすであろう。酸化分解による劣化に耐えるイオン交換樹脂は、よい貯蔵寿命を有すると言われており、貯蔵で著しく変色しないだろうし、水中に置いたときに水の色、酸性度、TOC量の著しい増加を引き起こさないであろう。典型的な安定化していないカチオン交換樹脂は十分な貯蔵寿命を有しておらず、1か月以下の貯蔵でも変色し始める。一方、本発明の安定化した触媒は、通常3か月以上、好ましくは6か月以上、より好ましくは1年超の貯蔵寿命を有するであろう。
【0019】
イオン交換樹脂の劣化を防ぐための本発明の1つの具体例は、樹脂が酸素に曝されるのを防止するような方法で、すなわち次に使用する前に樹脂が酸素と接触するのを防ぐ方法で樹脂を貯蔵することである。酸素との接触を防ぐ様々な手段を用いることができる。その手段としては、酸素遮断包装、不活性ガスシールもしくは真空包装の使用、または酸素が触媒と接触するのを排除するその他の方法の使用が挙げられる。陽イオン交換樹脂はしばしば水に濡らした状態で包装され、使用される包装は、典型的には水の透過を十分に遮ることができるが、酸素の透過を十分に遮ることはできない。本発明のためには、好ましい酸素遮断包装は250cc/m・atm・day以下の酸素透過率を有するであろう。100cc/m・atm・day以下の酸素透過率を有する包装が好ましく、50cc/m・atm・day以下の酸素透過率を有する包装が最も好ましい。
【0020】
ガスシール(blanketing)のための好ましい不活性ガスとしては、酸素含有量が低く、一般に反応しないと考えられているガスが挙げられる。より好ましいガスとしては、たとえば、窒素、アルゴン、二酸化炭素およびそれらの混合物が挙げられる。窒素は最も好ましいガスである。ガスシールに使用されるガスの酸素含有量は好ましくは5%未満であり、より好ましくは1%未満である。不活性ガスシールは、好ましくは上記の酸素遮断包装と組み合わせて使用されるであろう。
【0021】
真空包装を使用する場合は、包装は空気を除去するために吸引する。好ましくは、包装は包装中のガスの圧力が0.25気圧(atm)未満になるように吸引する。より好ましくは、包装中のガスの圧力は0.1気圧未満である。陽イオン交換樹脂を水に濡らした状態で包装する場合は、真空包装中のガスの圧力は、好ましくは、包装の温度における水の蒸気圧より0.1気圧高い圧力を超えないようにする。
【0022】
イオン交換樹脂の劣化を防ぐための本発明の好ましい1つの具体例としては、イオン交換樹脂を酸化防止剤で処理することが挙げられる。酸化防止剤と、その酸化防止剤をイオン交換樹脂に適用するのに必要な工程を以下に記述する。遊離基機構を抑えることによって樹脂の劣化を防ぐために、好ましくはイオン交換樹脂の製造の際に、酸化防止剤をイオン交換樹脂に加える。
【0023】
本発明において使用されるイオン交換樹脂としては、たとえば陽イオン交換樹脂が挙げられる。陽イオン交換樹脂および陽イオン交換樹脂を調製するための方法は、ヘルフェリヒ(Helfferich)著,「イオン交換(Ion Exchange)」,マグロウヒル出版(McGraw-Hill Book Co., Inc.),1962年,p.26−47に例証されるように、その技術分野においてよく知られている。好都合にも、樹脂は、最初に、架橋された共重合体母材(matrix)を調製するために、1つまたはそれ以上のモノビニル単量体と1つまたはそれ以上のポリビニル単量体を共重合し、次いで、その共重合体母材に、陽イオンを交換し得る官能基を付与することにより調製される。好ましいモノビニル単量体としては、スチレンとその誘導体、アクリル酸またはメタクリル酸、アクリル酸またはメタクリル酸のエステル、およびそれらの混合物が挙げられる。より好ましいモノビニル単量体はモノビニル芳香族単量体であり、スチレンが最も好ましい。好ましいポリビニル単量体としては、ジビニルベンゼン(DVB)(45質量%未満のエチルビニルベンゼンを含む商業上入手可能なDVB)、トリビニルベンゼン、およびジアクリレートまたはジメタクリレートが挙げられる。より好ましいポリビニル単量体は、ジビニル単量体、特にジビニル芳香族単量体である。最も好ましいポリビニル単量体はDVBである。第三の単量体を少量加えてもよい。そのような単量体としては、たとえば、ポリアクリロニトリルおよびエチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。そのような単量体の量は、たとえば、10質量%未満であり、好ましくは5質量%未満であり、より好ましくは3質量%未満である。共重合体母材は、好都合に、スルホン酸基、ホスフィン酸基、ホスホン酸基、ヒ酸基、もしくはカルボン酸基、またはフェノール基で機能化される。共重合体母材は、好ましくはスルホン酸基で機能化される。
【0024】
本発明に有用な陽イオン交換樹脂としては、たとえばダウ・ケミカル社(The Dow Chemical Company)から商業上入手できるDOWEX 50WX4、DOWEX 50WX2、DOWEX M−31、DOWEX MONOSPHERE M−31、DOWEX DR−2030およびDOWEX MONOSPHERE DR−2030触媒のようなスチレン・ジビニルベンゼン型強酸イオン交換樹脂が挙げられる。
【0025】
本発明に有用な商業上入手できるイオン交換樹脂の他の例としては、三菱化学工業株式会社製のDiaion SK104、Diaion SKlB、Diaion PK208、Diaion PK212およびDiaion PK216、ローム・アンド・ハース社(Rohm & Haas)製のA−15、A−35、A−121、A−232およびA−131、サーマックス(Thermax)社製のT−38、T−66およびT−3825、バイエル(Bayer)社製のLewatit K1131、Lewatit K1221、Lewatit K1261およびLewatit SC104、イオン・エクスチェンジ・インド社(Ion Exchange India Limited)製のIndion 180およびIndion 225、ならびにピューロライト(Purolite)社製のPurolite CT−175、Purolite CT−222およびPurolite CT−122が挙げられる。
【0026】
本発明に有用なスルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒は、たとえばスルホン化されたスチレン・ジビニルベンゼン共重合体、スルホン化された架橋スチレン重合体、フェノールホルムアルデヒド・スルホン酸樹脂、またはベンゼンホルムアルデヒド・スルホン酸樹脂である。スルホン化されたスチレン・ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。これらの樹脂はゲル、多孔性、または種(seeded)(米国特許第4,564,644号明細書、米国特許第5834524号明細書、米国特許第5616622号明細書、米国特許第4419245号明細書)形態で使用することができる。これらの樹脂は、狭い粒度分布(米国特許第4427794号明細書、米国特許第4444961号明細書、米国特許第3922255号明細書)を持っていてもよいし、広い粒度分布を持っていてもよい。これらの樹脂はまた、スルホン架橋したもの(欧州特許出願公開第1222960号明細書)であってもよいし、殻に官能基をつけた(shell functionalized)もの(欧州特許出願公開第0552541号明細書、米国特許第5081160号明細書)であってもよいし、あるいはベンゼン環あたり1超のスルホン酸基を含んでいてもよい。そして、これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2つまたはそれ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
本発明に使用し得る酸化防止剤としては、可溶性酸化防止剤、結合(bound)酸化防止剤および陽イオン交換樹脂重合体の主鎖に組み入れられた酸化防止剤が挙げられる。可溶性酸化防止剤は、それらを水に溶解させ、次に水に溶解した酸化防止剤を陽イオン樹脂と混合することにより、イオン交換樹脂に適用することができる。過剰の液体を樹脂から排出したとき、陽イオン樹脂が「水に濡れた」状態のままであれば、酸化防止剤の一部は陽イオン樹脂に吸収された水の中に保持されるであろう。もし望むならば、可溶性酸化防止剤は、使用する前に陽イオン樹脂から取り除くことができる場合があり、そのような場合は、酸化防止剤は洗浄によって使用する前に陽イオン樹脂から取り除くことができる。
【0028】
結合酸化防止剤は、陽イオン樹脂のスルホン酸基に酸化防止剤を結合させる官能基を含んでいる。たとえば2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールは、陽イオン樹脂のスルホン酸基に強く結合する弱塩基であるアミン基を含んでおり、強酸を用いることによって、または強酸基を中和すること(中和は陽イオン樹脂を強酸触媒として使用できなくするであろう)によってのみ洗い落とすことができる。
【0029】
共重合によって陽イオン交換樹脂重合体の主鎖に組み入れられる酸化防止剤は、他のモノビニル単量体および/またはポリビニル単量体と反応し樹脂重合体構造の一部になり得る酸化防止剤特性を有する単量体を含む。酸化防止剤活性を有する単量体は、スルホン化の前に、共重合体を調製する際に、イオン交換樹脂の重合体主鎖に組み入れてもよい。たとえば、欧州特許第1078941号明細書には、コモノマーとしてビニルピリジンを含むイオン交換樹脂について記載されており、それにおいては重合体に組み入れられるビニルピリジンは酸化防止剤として作用する。欧州特許第1078940号明細書は、コモノマーとしてフェノール誘導体を含むイオン交換樹脂について記載されており、それにおいては重合体に組み入れられるフェノール誘導体は酸化防止剤として作用する。
【0030】
本発明に有用な酸化防止剤は、長時間、酸化による陽イオン交換樹脂の劣化を遅らせる物質であり、たとえば米国特許第4,973,607号に記載されたものを挙げることができる。さらに、本発明に使用する酸化防止剤としては、デクスター(Dexter)ら著,「重合体の科学と技術の百科事典(Encyclopedia of Polymer Science and Technology)」,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons, Inc.),2002年、トーマス(Thomas)ら著,「カーク・オスマー化学技術百科事典(Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology)」,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons),2002年、アッシュ(Ash)、マイケル(Michael)およびアイリーン(Irene)著,「酸化防止剤とオゾン亀裂防止剤目録(The Index of Antioxidants and Antiozonants)」,ガウアー(Gower),1997年、イー・ティー・デニソブ(Denisov, E.T.)著,「酸化防止剤ハンドブック(Handbook of Antioxidants)」,シーアールシー・プレス(CRC Press),1995年、および「商用酸化防止剤とオゾン亀裂防止剤目録(Index of Commercial Antioxidants and Antiozonants)」,グッドイヤー・ケミカルズ(Goodyear Chemicals),1983年に記載されたものを挙げることができ、それらはすべて引用によってここに含められる。
【0031】
本発明において使用し得る酸化防止剤としては、たとえば単環または多環フェノール、アミン、ジアミン、ヒドロキシルアミン、チオエステル、亜リン酸エステル、キノリン、ベンゾフラノン、またはそれらの混合物が挙げられる。酸化防止剤は、特に結合または共重合型の酸化防止剤が使用される場合、陽イオン樹脂を使用しようとする化学プロセスにおいて反応しないことが好ましい。本発明において使用できる可能性のある他の型の酸化防止剤は、米国特許第4,973,607号に記載されている。
【0032】
本発明の実施に有用な酸化防止剤の他の具体例としては、米国食品医薬品連邦規則,21CFR182.1 サブパートD−合成保存料,参照 21CFR パート 170−199,2001年4月1日改訂版に基いて、一般に安全と認められている(安全性認定(GRAS))物質である種々の合成保存料が挙げられる。陽イオン交換樹脂用の好ましい合成保存料は、貯蔵を改善するために使用され、長期間の貯蔵用にカラースローおよびTOCを制御するために使用される。典型的な強酸陽イオン交換樹脂への添加剤は、樹脂を安定化し、目に見えるカラースローと抽出できるカラースローの両方を減少させ、かつTOC浸出物の発生を遅らせる。酸化防止剤または保存料は、安全性認定を受けているか、または間接的に食品に接触する用途に使用するために検査され承認されてきた。安全性認定を受けている合成保存料の具体例は、米国連邦規則集第21編,パート182.1 サブパートDに掲載されたものとして、または間接的食品接触用に商業的に検査され承認されたものとして、表Iに見いだすことができる。
【0033】
表I
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
21CFR182.1 サブパートDに掲載されている
安全性認定を受けていることが知られている酸化防止剤・合成保存料
182.3013 アスコルビン酸
182.3041 エリソルビン酸
182.3089 ソルビン酸
182.3109 チオジプロピオン酸
182.3149 パルミチン酸アスコルビル
182.3225 ソルビン酸カルシウム
182.3280 チオジプロピオン酸ジラウリル
182.3637 メタ重亜硫酸カリウム
182.3640 ソルビン酸カリウム
182.3731 アスコルビン酸ナトリウム
182.3739 亜硫酸水素ナトリウム
182.3766 メタ重亜硫酸ナトリウム
182.3795 ソルビン酸ナトリウム
182.3798 亜硫酸ナトリウム
182.3862 二酸化硫黄
182.3890 トコフェロール
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0034】
本発明に使用される保存料の好ましい具体例としては、エリソルビン酸、チオジプロピオン酸、メタ重亜硫酸カリウム、アスコルビン酸およびEthanox 703、パルミチン酸アスコルビル、ソルビン酸、ビタミンE、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(Ethanox 330)、およびプロピオン酸オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)(Ethanox 376)が挙げられる。
【0035】
本発明において使用される好ましい酸化防止剤は、アルベマール社(Albemarle Corporation)からEthanox 703の商品名で売られている酸化防止剤である2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールである。
【0036】
陽イオン樹脂は、好ましくは、使用する前に樹脂の酸化を効果的に防止するために十分な酸化防止剤を含んでいるべきである。結合酸化防止剤を使用する場合は、陽イオン樹脂は、酸性樹脂の官能性を損なうほど多くの酸化防止剤を含むべきでない。酸化防止剤含有量の許容範囲は、陽イオン樹脂の0.001〜10質量%かもしれない。酸化防止剤含有量の好ましい範囲は0.01〜0.5質量%かもしれない。
【0037】
陽イオン樹脂に酸化防止剤を適用するのに種々の方法を使用することができる。たとえば、1つの実施態様においては、酸化防止剤は、まず酸化防止剤の水溶液を調製し、次に溶液中に存在する酸化防止剤の少なくとも一部が陽イオン樹脂によって吸着されるまで酸化防止剤水溶液を陽イオン樹脂と混合することにより、陽イオン樹脂に適用することができる。その後、過剰の溶液を陽イオン樹脂から排出する。
【0038】
酸化防止剤水溶液は、溶液を形成するのに随意のまたは必須の他の成分を含んでもよい。たとえば、酸化防止剤2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールは、水にわずかにしか溶けないので、塩酸のような酸が、酸化防止剤が可溶になるように、アミン塩を形成するために、好ましく使用される。
【0039】
随意に、陽イオン樹脂は、酸化防止剤溶液を適用した後、樹脂から未吸収の酸化防止剤成分を取り除くために、水洗してもよい。2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールのような結合酸化防止剤を使用する場合、あるいは酸化防止剤溶液がさらに陽イオン樹脂を次に使用する際に問題を引き起こすかもしれない他の成分を含む場合は、この水洗工程は特に望ましい。たとえば、2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールの塩酸塩を含む溶液で陽イオン樹脂を処理したときは、塩酸が放出されるかもしれない。したがって、陽イオン樹脂に2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールの塩酸塩を適用した後に、安定化した陽イオン樹脂から塩酸を洗い流すことが好ましい。
【0040】
随意に、酸化防止剤適用工程は、陽イオン樹脂の製造プロセスにおける既存の工程と組み合わせることができる。たとえば、陽イオン樹脂製造プロセスにおける1つの工程は、硫酸を使用した陽イオン樹脂のスルホン化である。そして、陽イオン樹脂のスルホン化工程の後、硫酸が存在するので、硫酸は樹脂から洗い流されなければならない。2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールの硫酸塩の適用は、水洗工程が完了する前に、行うことができる。その適用は硫酸を放出するので、この硫酸の水洗と、樹脂の製造中に樹脂からの残留硫酸の最終痕跡の水洗を、同時に行うことができる。
【0041】
本発明の安定化した陽イオン樹脂は、触媒を使用し且つ最終用途にかかわらず触媒の酸化を防ぐ必要がある種々の化学製造プロセスにおいて使用することができる。そのようなプロセスとして、たとえば、フェノールとケトンの縮合反応;フェノール/アセトン製造;フェノールまたはクレゾールのアルキル化;アルケンへのアルコールの付加によるメチルt−ブチルエーテル(MTBE)またはその他のエーテルの製造;エステル化またはエステル交換反応によるアクリル酸エステルまたは脂肪族エステルの製造;イソプロパノール製造、ブテンのオリゴマー化;フェニルフェノール製造;MTBEのt−アミルメチルエーテル(TAME)との相互変換、メチルイソブチルケトン(MIBK)製造;オルトフェニルフェノールに還元されるジアノン(dianone)製造;繊維用アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの製造;ならびに二価フェノール 2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン製造を挙げることができる。本発明の酸化防止剤は、カラーおよびアシッドスロー(color and acid throw)が問題になり、よりきれいな、より低着色の溶剤を作る可能性と酸放出の低減を提供するかもしれないプロセスにおいて有用である。
【0042】
安定化した陽イオン樹脂は、酸触媒の存在下でフェノール2モルをアセトン1モルと縮合することにより商業的に製造されている二価フェノール 2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン(通例「ビスフェノールA」という)を製造するプロセスにおいて好ましく使用される。副産物の水1モルが副生する。ビスフェノールAのプロセスはよく知られたプロセスであり、たとえば米国特許第4,400,555号明細書、米国特許第6,703,530号明細書、米国特許第6,307,111号明細書、米国特許第6,465,697号明細書、および米国特許第6,737,551号明細書に記載されている。
【0043】
本発明の強酸陽イオン樹脂は、一般に、上記の酸化防止剤で処理した後、低いカラースローと低いTOC浸出物の両方を示す。そのような利点は、樹脂が貯蔵された後に示される。たとえば、カラースローとTOC浸出物の著しい増加なしに6か月までは貯蔵できる。
【0044】
カラースローの評価に比色定量試験法が用いることができる。そのような試験は、目視観測とともに、製造時の品質が許容できるものであること、そして樹脂が適切に処理され洗浄されたことを保証するために、樹脂を包装する時点で、しばしば適用される。樹脂は、貯蔵すると着色してくることがあるが、それは比色定量試験でも目視観測でも測定が可能である。カラースローはプロセス流に望ましくない有色の物質を与えるかもしれない。
【0045】
陽イオン交換樹脂の酸化安定度を試験する1つの方法は促進老化試験を用いることである。そのような試験の具体例を次に記述する。水で濡らした陽イオン交換樹脂100mLと脱イオン水500mLをジャケット付きフラスコに入れ、混合物を平衡させるために撹拌する。水の最初の試料を分析のために取り出す。フラスコの内容物を80℃に加熱する。内容物を撹拌しながら、純酸素をおよそ50cm/分でフラスコの中に吹き込む。フラスコから水が蒸発による失われるのを防ぐために凝縮器を用いる。フラスコ内容物を7日間、80℃で酸素と接触した状態に維持する。7日の終わりに、水の試料を分析のために取り出す。上記の手順を、以後、促進老化試験という。
【0046】
本発明において、上記の試験における7日後の水の色の増加は、ハンターラブ・カラークエスト(Hunterlab ColorQuest)分析器またはその他の既知の色分析器によって測定したとき、高々500APHAであろう。カラースローの量はまた、適用用途とその適用における合格水準に依存するかもしれない。
【0047】
陽イオン交換樹脂の有機抽出物は、たとえば島津TOC分析器のような多くの既知のTOC試験法を用いて測定することができる。本発明において、上記の試験における7日後の水のTOC量の増加は、島津TOC分析器または同等な機器によって測定したとき、高々500ppmであろう。TOCの量はまた、適用用途とその適用における合格水準に依存するであろう。
【0048】
次の実施例は、本発明を説明するためにここに含まれ、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0049】
パートA:酸化防止剤の適用
実施例1のパートAでは、種々の量の酸化防止剤2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールを、商標DOWEX 50WX4でダウ・ケミカル社(The Dow Chemical Company)によって商業的に販売されているスチレン・ジビニルベンゼンゲル陽イオン交換樹脂に組み入れた。
【0050】
最初の工程で、脱イオン水に所望の量の酸化防止剤と酸を加え、次いでそれらの物質が水に溶解するまで混合物を撹拌することにより、酸化防止剤と酸の水溶液を調製した。
【0051】
第二の工程では、酸化防止剤溶液100mLと充分に洗浄し水に濡らした陽イオン樹脂100mL(80g)をフラスコに混ぜ、30分間撹拌した。30分後、酸化防止剤溶液と陽イオン樹脂を濾過によって分離し、樹脂から酸の痕跡も取り除くために、脱イオン水で陽イオン樹脂を徹底的に洗浄した。
【0052】
樹脂上の酸化防止剤の取り込み量は、陽イオン樹脂を処理する前と後の溶液の全有機炭素(TOC)の量を分析することにより見積もった。TOCを使用して見積もった取り込み量は概算値である。TOC測定は樹脂から浸出する成分に反応するかもしれないので、実際の取り込み量は算出された見積もりより大きいかもしれない。処理溶液組成(酸化防止剤溶液)と取り込み量データを表1に掲載する。この結合酸化防止剤の取り込みは、酸化防止剤のアミン基で陽イオン樹脂上の酸性基を部分的に中和することによって達成される。中和された酸性基の割合を計算した。それも表1に記載する。9つの触媒試料を実施例1のこのパートAで調製した。試料1−8は酸化防止剤で処理したものであり、試料9(C)は酸化防止剤を含まない比較試料である。
【0053】
【表1】

【0054】
上記の表1に示されるように、1つ(試料2)以外のすべて試料において、酸化防止剤の90%超が陽イオン樹脂に取り込まれた。表1中の結果は、酸化防止剤の取り込み量が、用いた酸の種類および量によって強く影響されないことを示す。このことは、たとえ酸化防止剤の塩を形成するのに必要な量に対してかなり過剰な量の酸が用いられる場合があったとしても、実証される。
【0055】
パートB:触媒の老化
実施例1のこのパートBでは、酸化防止剤が陽イオン樹脂の劣化を抑えることを示すために、触媒について促進老化試験を行なった。試験は、触媒の老化を模擬するように企画される。
【0056】
触媒試料100mLと脱イオン水500mLをジャケット付きフラスコの中に入れた。その後、フラスコの内容物を80℃に加熱した。内容物を撹拌しながら、純酸素を約50cm/分でフラスコ内容物の中に吹き込んだ。フラスコから水が蒸発により失われるのを防ぐために凝縮器を用いた。フラスコ内容物を7日間までの間、80℃で酸素と接触した状態に維持し、水の試料をpH、TOCおよび色の分析のために定期的に取り出した。
【0057】
色の分析はハンターラブ・カラークエスト(HunterLab ColorQuest)比色計を用いて行った。TOC分析は島津分析器を用いて行った。実施例1のパートAの試料1、2、3および9(C)をこの方法で試験した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の試料9(C)の結果は、陽イオン樹脂がこの試験の酸化条件により実質的な劣化を受けること、および水に浸出する物質が酸性であることを示す。ビスフェノールのプロセスの流れの中へのこの物質の浸出は著しい操業上の問題を引き起こすであろう。表2の試料1、2および3の結果は、これらの試料について溶液の色とTOCの最小量の増加が観察されるだけなので、酸化防止剤が陽イオン樹脂の劣化を抑えることを示す。溶液のpHも、水と陽イオン樹脂の初期の平衡状態の後は、安定していることが示されている。表2の結果はまた、より多くの量の酸化防止剤が陽イオン樹脂の酸化を抑えるのに、より効果的であることを示す。
【0060】
実施例1のパートAの試料5および7も上記と同様に試験した。結果を表3に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
上記の表3に記載された結果は、この実施例1のパートAにおいてHSOとHPOで調製された溶液を用いて適用された酸化防止剤が、HClを用いて調製された溶液を用いて適用された酸化防止剤とちょうど同じくらい酸化を抑えるのに効果的であることを示す。
【0063】
パートC:老化した触媒の洗浄
実施例1のこのパートCでは、ビスフェノールのプロセスで使用するために調製した際、酸化防止剤で安定化した樹脂が安定化しなかった樹脂より容易に洗浄されることを実証するために、試料1および9(C)の老化した陽イオン樹脂を洗浄した。
【0064】
洗浄手順は以下のように行なった。樹脂試料を保持するためにビュレットの底にガラスウールを詰めた目盛ビュレットの中に、触媒試料20mLを入れた。その後、脱イオン水40mLを目盛ビュレットに加え、樹脂を通ってゆっくり流れるようにした。洗浄水を集め、次いでこの実施例1のパートAで記述した試験方法を用いて、pH、TOCおよび色について試験した。各試料について、40mLに分取した脱イオン水を用い、続けて数回の洗浄を行った。結果を表4に示す。
【0065】
【表4】

【0066】
上記の表4に記載された結果は、酸化防止剤で安定化した樹脂では、洗浄水の低水準の色およびTOCがより速く達成されることを実証している。表4の結果は、酸化防止剤で安定化した樹脂では、洗浄水の高いpHがより速く達成されることも示している。
【0067】
40mLに分取した水で7回試料を洗浄した後、老化した触媒試料から水を排出し、次いで、上記の手順を用いて、40mLに分取したフェノールで試料を洗浄した。フェノール洗浄中、各樹脂試料の体積は20mLから13mLまで収縮した。分取したフェノールの試料の色を測定した。測定結果を表5に示す。最初と4番目のフェノールの試料を分取し、80℃で48時間熟成させた。その後、フェノールの色を再度測定した。その結果も表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
上記の試料の何回もの水洗の後でさえ、いくらかの酸性の浸出物がまだ樹脂に残っており、フェノールを変色させた。酸性の浸出物は、高温での貯蔵中にフェノールの着色の増加を引き起こし、未処理の樹脂を洗浄するのに用いたフェノールの着色の増加は、処理した樹脂よりも悪かった。実施例1のこのパートCで行なった試験は、安定化した樹脂は未処理の樹脂より洗浄がより容易であることを実証している。実施例1のこのパートCの結果はまた、何回もの水洗でさえ未処理の樹脂から浸出物をすべて除去するのに不十分であり、浸出物が樹脂と接触したとき浸出物がフェノールに入り込み、フェノールの劣化を引き起こすことがありうることも実証している。
【実施例2】
【0070】
実施例2:ビスフェノールAを製造するための安定化した触媒の使用
2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール1.2グラムを酸性化した水溶液に溶かした。その後、その溶液を、DOWEX 50WX4陽イオン交換樹脂600mLと過剰の水が入った撹拌容器にゆっくり加えた。上記の量の2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールは、陽イオン交換樹脂の酸分の約0.56%を中和するのに十分である。
【0071】
処理した陽イオン交換樹脂を脱イオン水で徹底的に水洗し、次いで密閉したプラスチック容器の中に3か月間貯蔵した。
【0072】
3か月後に処理した樹脂を貯蔵から取り出した。未処理の陽イオン樹脂は通常この長さの期間の貯蔵中に変色するのに対し、処理した陽イオン樹脂は変色していないことが分かった。
【0073】
水で濡らした処理した樹脂213mLを、過剰の水とともに、フラスコに入れた。ジメチルチアゾリジン(DMT)8.47gを、撹拌しながらゆっくりとフラスコに加えた。過剰の水を処理した樹脂から取り除き、次いで、処理した樹脂を脱イオン水で徹底的に水洗した。この樹脂の試料を滴定によって試験したところ、樹脂の酸点の22%が中和されていることが分かった。
【0074】
DMTで促進された陽イオン交換樹脂15mLをジャケット付き連続流れ反応器に入れ、樹脂にフェノールを通すことにより乾燥した。4.05質量%のアセトンを含むフェノールを、水に濡らした樹脂の体積基準で1hr−1の空間時間速度を用いて、反応器に供給した。反応器温度は65℃に維持した。反応器からの生成物を分析したところ、12.4質量%のp,p’−ビスフェノールAを含むことが分かった。選択率は、p,p’−ビスフェノールAに対するo,p’−ビスフェノールAの比率で0.0298であった。アセトン転化率は75%であることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換樹脂触媒を使用する前に陽イオン交換樹脂触媒を酸化防止剤で処理することを含む、陽イオン交換樹脂触媒の貯蔵、取り扱い、処理、および乾燥の間ならびに化学プロセスにおいて陽イオン交換樹脂触媒を使用する前における陽イオン交換樹脂触媒の劣化を防ぐ方法。
【請求項2】
酸化防止剤処理が使用前に触媒中に保持された水に酸化防止剤を溶解させることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化防止剤処理が酸化防止剤で触媒の酸官能基を部分的に中和することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酸化防止剤処理が酸化防止剤の性質を有する単量体を他の単量体と共重合させて陽イオン樹脂共重合体を形成することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(a)陽イオン交換樹脂触媒に酸化防止剤を与えること、および(b)化学プロセスにおいて化学製品を製造するために当該触媒を反応物に接触させることを含む、触媒を使用して化学プロセスにおいて化学製品を製造する方法。
【請求項6】
重合体樹脂の中に酸化防止剤を重合させることにより、当該触媒を酸化防止剤で処理する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
陽イオン交換樹脂が、水酸基含有芳香族化合物とカルボニル基含有化合物との間の反応を触媒して、ビスフェノールを生成する請求項5に記載の方法。
【請求項8】
陽イオン交換樹脂が水酸基含有芳香族化合物のアルキル化を触媒する請求項5に記載の方法。
【請求項9】
イオン交換樹脂触媒を使用してビスフェノールAを製造する方法であって、(a)フェノールとアセトンの縮合反応を触媒するためのイオン交換樹脂触媒を用意すること、(b)この方法においてイオン交換樹脂触媒を使用する前、イオン交換樹脂触媒の貯蔵中のイオン交換樹脂触媒の劣化を防ぐために、酸化防止剤でイオン交換樹脂触媒を処理すること、および(c)処理されたイオン交換樹脂触媒の存在下に20℃から200℃までの温度範囲にある反応域でフェノールとアセトンを縮合させることを含む方法。
【請求項10】
前記処理工程の後に、処理された触媒を脱イオン水で洗浄することを含む請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項11】
イオン交換樹脂触媒がスルホン酸型陽イオン交換樹脂触媒である請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項12】
樹脂触媒がスルホン化されたスチレン・ジビニルベンゼン共重合体である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
酸化防止剤が単環または多環フェノール、アミン、ジアミン、チオエステル、リン酸エステル、キノリン、またはそれらの混合物である請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項14】
酸化防止剤が2,6−ジ−t−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾールである請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項15】
触媒樹脂に組み入れられた酸化防止剤の量が0.001〜10質量%である請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項16】
樹脂が3か月以上貯蔵したとき安定である請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項17】
触媒と接触したときの水の色の増加が、7日間の促進老化試験の間、500APHA未満である請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項18】
触媒と接触したときの水のTOC量の増加が、7日間の促進老化試験の間、500ppm未満である請求項1、5または9に記載の方法。
【請求項19】
化学プロセスにおいて陽イオン交換樹脂触媒を使用する前の貯蔵の間における陽イオン交換樹脂触媒の劣化を防ぐ方法であって、酸素が触媒と接触するのを防ぐことを含む方法。
【請求項20】
酸素遮断包装、不活性ガスシールまたは真空包装を用いて酸素の不存在下で触媒を貯蔵することにより酸素が触媒と接触するのを防ぐ請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2008−528276(P2008−528276A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553155(P2007−553155)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/002279
【国際公開番号】WO2006/083602
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】