説明

醸造酢の製造方法

【課題】本発明は、原料の糖化、アルコール発酵及び酢酸発酵からなる一般的な醸造酢の製造方法を用いて、原料の素材感を損なうことのない風味良好な醸造酢を製造する方法を確立することを目的とする。
【解決手段】澱粉質原料又は糖質原料を糖化及びアルコール発酵させ、次いで酢酸発酵させて酢酸を生成させる工程からなる醸造酢の製造方法において、酢酸発酵する工程に特定の成分で構成される発酵補助剤を添加することを特徴とする醸造酢の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、醸造酢とその製造方法に関するものであり、詳細には、芋類を原料として得られる醸造酢とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
醸造酢は、一般に、穀類、芋類、豆類又は果実類等の澱粉質原料又は糖質原料を出発物質として、麹又は酵素で糖化した後に、酵母を加えてアルコール発酵させてアルコールを含むもろみを得、これに酢酸菌を加えて酢酸発酵させ、必要に応じてろ過及び加熱殺菌して製造されることが知られている。また、アルコールを含むもろみを蒸留などの方法で精製して精製アルコールとし、これに必要に応じてもろみなどを併用し、酢酸菌を加えて酢酸発酵させる方法等によっても製造されることが知られている。
【0003】
しかしながら、上記した一般的な方法は、原料を糖化する工程、糖化した原料をアルコール発酵する工程及び得られた溶液を酢酸発酵する工程からなり、これら異なる工程を別々に行う必要があることから、雑菌汚染の恐れやこれを防止する手段の採用による製造工程の複雑化を生じるだけでなく、得られる醸造酢の風味、品質の低下が度々問題となることがあった。
【0004】
そこで、従来の一般的な方法に代わる醸造酢を製造する方法が報告されるようになってきている。例えば、製造工程の簡素化を目的とした方法として、原料の糖化、アルコール発酵、酢酸発酵の工程を同一の系内で行う方法(特許文献1)、また、風味良好な醸造酢を得ることを目的とした方法として、さつまいもに紅麹を添加してアルコール発酵を行う方法(特許文献2)、焼酎粕を使用して醸造酢を製造する方法(特許文献3)を例示することができる。
【0005】
一方、本発明者らが知得したところによれば、一般的な醸造酢の製造方法においては、原料の糖化、アルコール発酵及び酢酸発酵の各工程で、それぞれ原料の糖化率、アルコール発酵率及び酢酸の生成量にばらつきが生じる場合があり、これらは特に、原料の種類や使用する原料の濃度等に影響を受けやすく、結果として、風味豊かな醸造酢を製造することができないという問題が生じることがあった。
【0006】
上記工程の中でも特に、酢酸発酵する工程では、原料から調製したアルコール量が不十分であったり、原料に発酵を阻害する物質が含まれる場合には、十分に酢酸を生成させることができないという問題も生じていた。
【0007】
このため、酢酸の生成を促すために酢酸生成能に優れた酢酸菌を選択して使用したり、発酵時間を長くしたりする方法が用いられているが、酢酸の生成量にばらつきが生じるといった問題が解決されるに至らず、良好な風味を得ることができない原因となることも少なくなかった。また、酢酸の生成量を促す別の手段として、原料から得られるアルコールに別途アルコールを添加することにより原料濃度を希釈して使用する方法も用いられているが、原料の素材感が失われる原因となることから必ずしも好ましい方法とはいえなかった。
【特許文献1】特公平4−16152号公報
【特許文献2】特開2002−142748号公報
【特許文献3】特開2003−235538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、異なる3つの工程を伴う従来の方法を用いて、原料の素材感を損なうことのない風味良好な醸造酢を得る方法を確立することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記の点に鑑みて醸造酢の製造方法について鋭意検討した結果、酢酸発酵する工程において、特定の成分からなる発酵補助剤を添加することにより、簡便に同工程における酢酸の生成を促すことができ、酢酸発酵工程において別途アルコールを添加しなくても酢酸生成効率が良く、しかも得られた醸造酢の風味が良いことを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、澱粉質原料又は糖質原料を糖化及びアルコール発酵させ、次いで酢酸発酵させて酢酸を生成する工程からなる醸造酢の製造方法において、酢酸発酵する工程に発酵補助剤を添加することを特徴とする醸造酢の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、上記の方法により得られる醸造酢を含有する飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、酢酸発酵する工程における酢酸の生成を簡便に促すことができ、また、別途アルコールを添加しなくても酢酸生成効率が良いため、原料の種類や原料濃度に関係なく、風味良好な醸造酢を得ることができる。特に、酢酸発酵の効率が悪くなる原料濃度が高い場合に、本発明を適用すれば、原料の素材感を十分に有する良好な醸造酢を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本願明細書において、醸造酢には、食酢品質表示基準において定められる穀類(酒粕等の加工品を含む。)若しくは果実(果実の搾汁、果実酒等の加工品を含む。)を原料とするものの他、芋類、野菜類等の澱粉質又は糖質原料を使用して得られる酢も含まれる。
【0014】
本発明における醸造酢の製造方法は、酢酸発酵する工程において発酵補助剤を添加する以外は、特に制限されるものではなく、従来から行われている方法に準ずるものである。すなわち、澱粉質原料又は糖質原料を蒸煮、粉砕、搾汁したものを麹及び/又は酵素で糖化した後に、酵母を加えてアルコール発酵させ、アルコールを含む発酵液(以下、「もろみ」という)を得、得られたもろみ又はもろみから精製したアルコールに発酵補助剤を添加し、酢酸菌を含む発酵液(種酢)を加えてさらに酢酸発酵させて酢酸を生成させ、これをろ過・殺菌して醸造酢とすればよい。
【0015】
本発明に用いられる澱粉質原料又は糖質原料としては、原料の種類に関係なく適用することができるが、具体的には、例えば、米、麦、とうもろこし、はとむぎ等の穀類、アヤムラサキ、山川紫、ジェイレッド、ベニハヤト、サニーレッドなどの有色甘藷を含むさつまいも類、ジャガイモ等の芋類、りんご、ブドウ等の果実類を用いることができる。なお、さつまいも類は芋類に含まれる。これらは、単独で用いてもよく、また2種以上混合して用いてもよい。
【0016】
本発明の方法は、上記原料のみを使用して素材感を有する醸造酢を得る場合に有用である。一般に、醸造酢の製造においては、糖化、アルコール発酵を経て得られるもろみを酢酸発酵させることにより行われるが、原料の種類によっては、得られるもろみを酢酸発酵しても十分に酢酸が生成されない場合がある。これらの原因は不明であるが、おそらく原料中に酢酸発酵を阻害する物質が含まれていること等が要因と考えられる。本発明者らが知得したところによれば、原料としてアヤムラサキ、山川紫、ジェイレッド、ベニハヤト、サニーレッドなどの有色甘藷を含むさつまいも類等の芋類を原料とした場合は、得られるもろみを酢酸発酵しても十分に酢酸が生成されないことが多いため、本発明の方法を適用することが好ましい。
【0017】
澱粉質原料又は糖質原料の糖化は、従来から行われている方法により行うことができ、澱粉質原料又は糖質原料を蒸煮、粉砕、搾汁したものに、麹及び/又は酵素を加え反応させることにより行うことができる。反応は、例えば、55℃〜60℃で、8時間〜24時間の条件下で行うことができる。
【0018】
糖化された澱粉質原料又は糖質原料のアルコール発酵は、従来から行われている方法により行うことができ、糖化後のものに、酵母を加え発酵させることにより行うことができる。発酵は、例えば、15℃〜30℃で、3日〜15日の条件下で行うことができる。なお、糖化およびアルコール発酵は並行複発酵などの方法により同一の系内で行ってもよい。
【0019】
本発明の方法においては、かようなアルコール発酵により得た、アルコールを含む発酵液(以下、「もろみ」という)又はもろみから精製したアルコールに、発酵補助剤を添加し酢酸発酵させる。酢酸発酵は、従来から行われている方法により行うことができ、酢酸菌を含む発酵液(種酢)を加え、25℃〜35℃で、48時間〜120時間の条件下で行うことができる。ここで、発酵液としては、酢酸菌を含んでいればよく、かかる酢酸菌としては、Acetobacter aceti、Acetobacter pasteurianusが挙げられる。
【0020】
本発明で用いる発酵補助剤としては、アルコール発酵を促進するものであればよいが、酵母エキス、アンモニウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩の群から選ばれる1種又は2種以上を用いて構成されるものが好ましい。ここで、本発明の発酵補助剤に使用するアンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、硫酸アンモニウム等を挙げることができ、カリウム塩としては、塩化カリウム、リン酸三カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等を挙げることができる。また、マグネシウム塩としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等を挙げることができる。中でも特に、酵母エキス、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム及び硫酸マグネシウムからなる発酵補助剤は、醸造酢製造時の酢酸発酵する工程で添加することで、発酵による酢酸の生成を効率的に促進することができ、酢酸発酵処理の効率化を図ることができるので好ましい。
【0021】
醸造酢製造時の酢酸発酵する工程における前記発酵補助剤の添加量は、醸造酢の原料となる素材により好ましい範囲が異なるため実験的に確かめるのが好ましいが、アルコールを含む発酵液中およそ0.005〜0.23w/v%、好ましくは、0.01〜0.10w/v%の範囲になるように添加すればよい。後記実施例に示すとおり、発酵補助剤を0.23w/v%よりも多く添加してもそれ以上の酢酸の生成量を促す効果は期待できず、むしろ得られる醸造酢の風味や品質に影響を及ぼすため、好ましくない。一方、発酵補助剤の添加量が0.005w/v%よりも少ないと酢酸の生成量を十分に促すことができない場合があるので、好ましくない。発酵補助剤として、酵母エキス、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム及び硫酸マグネシウムからなる発酵補助剤を用いる場合、それぞれの質量比率は、酵母エキスの含有比率を1とした場合、リン酸二水素アンモニウム5〜50、リン酸二水素カリウム0.5〜5及び硫酸マグネシウム0.2〜2であることが好ましい。
【0022】
本発明の方法によれば酢酸発酵する工程における酢酸の生成効率が良いため、原料から調製したアルコール量が十分でない場合においても、また、原料に酢酸発酵を阻害する物質が含まれる場合であっても、効率よく醸造酢を得ることができる。したがって、本発明の方法は、酢酸生成前に別途アルコールを添加せずに行うこともできる。この場合、原料の素材感が失われない醸造酢を得ることができるため特に好ましい。
【0023】
このようにして得られる醸造酢は、調味料としてそのまま使用することもできるが、他の副素材と混合して、加工酢、ドレッシング類、ソース類、スープ類、惣菜、飲料、たれ等の各種飲食品へ利用することもできる。加工酢としては、ポン酢、すし酢、サラダ酢、ラッキョウ酢及びその他の野菜酢漬類、海産酢漬類等が挙げられる。ここで、本発明の方法で得られた醸造酢を飲食品へ利用する場合に混合することができる副原料としては、例えば、砂糖、果糖、異性化糖、ショ糖、フルクトース、パラチノース、トレハロース、ラクトース、キシロース等の糖質、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、パラチニット、還元水飴、還元麦芽糖水飴等の糖アルコール類、スクラロース、アセスルファムK、ステビア、アスパルテーム等の高甘味度甘味料等の甘味料、ビタミンA、ビタミンB類、ビタミンD等のビタミン類やカルシウム、鉄、マンガン、亜鉛等のミネラル類等を挙げることができ、更に各種の香料を加えることも可能である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらになんら制約されるものではない。
【0025】
実施例1 発酵補助剤による効果
Bx50のアヤムラサキ濃縮汁に水を加えてBx20とし、酵母(名称Saccharomyces cerevisiae)を0.02w/v%加えてアルコール発酵を行い、アヤムラサキモロミを得た。このアヤムラサキモロミに、アヤムラサキ酢(同じくアヤムラサキモロミを発酵補助剤を添加せずに酢酸発酵させ、殺菌したもの)を加えて変性アヤムラサキモロミ(酸度1.6w/v%、アルコール7.4v/v%)を得、これを原料として表1に示した配合で種酢、発酵補助剤を添加し、ジャーファーメンターで酢酸発酵を行った。また、比較対照として、発酵補助剤を添加しない系で酢酸発酵を行った。
酢酸発酵は30℃で、アルコール濃度が0.3v/v%未満になるまで行い、発酵終了後の到達酸度および酸度4w/v%に希釈したときの風味の比較を行った。なお、酸度の測定法は食酢の日本農林規格に定められた方法に準じた。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
表2に示すとおり、発酵補助剤の添加による風味面での差は認められなかったが、発酵補助剤を使用することにより、到達酸度も高い酢が得られた。このことは、発酵補助剤の使用により、酢酸生成効率が良好であることを示唆するものである。
【0029】
実施例2
実施例1と同様にして変性アヤムラサキモロミを得、これを原料として表3に示した配合で種酢、発酵補助剤を添加し、ジャーファーメンターで酢酸発酵を行った。
酢酸発酵は実施例1と同様に行い、発酵終了後の到達酸度および酸度4w/v%に希釈したときの風味の比較を行った。その結果を表4に示す。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
表4に示すとおり、発酵補助剤の添加量に応じて酢酸の生成が促進される傾向が認められたが、0.23w/v%以上の発酵補助剤を使用しても、それ以上の酢酸生成促進効果は得られず、却って、得られるアヤムラサキ酢の風味に影響を与える傾向が認められた。
【0033】
実施例3
下記の処方で調合したものを90℃まで加熱し、缶容器にホットパック充填を行い、清涼飲料水を得た。なお、アヤムラサキ酢は、実施例1で得られたものを、ろ過し、酸度5.0に調整して65℃で10分間殺菌処理を施したものを使用した。
【0034】
【表5】

【0035】
実施例4
下記の処方で調合したものを90℃まで加熱し、ペットボトルにホットパック充填を行い、清涼飲料水を得た。なお、アヤムラサキ酢は、実施例1で得られたものを、ろ過し、酸度5.0に調整して65℃で10分間殺菌処理を施したものを使用した。
【0036】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉質原料又は糖質原料を糖化及びアルコール発酵させ、次いで酢酸発酵させて酢酸を生成する工程からなる醸造酢の製造方法において、酢酸発酵する工程に発酵補助剤を添加することを特徴とする醸造酢の製造方法。
【請求項2】
発酵補助剤が、酵母エキス、アンモニウム塩、カリウム塩及びマグネシウム塩の群から選ばれる1種又は2種以上である請求項1記載の醸造酢の製造方法。
【請求項3】
発酵補助剤が、酵母エキス、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム及び硫酸マグネシウムからなるものである請求項1又は2記載の醸造酢の製造方法。
【請求項4】
発酵補助剤を発酵液中0.005質量%〜0.23質量%添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の醸造酢の製造方法。
【請求項5】
澱粉質原料又は糖質原料が、芋類である請求項1〜4のいずれか1項に記載の醸造酢の製造方法。
【請求項6】
芋類が、アヤムラサキである請求項5記載の醸造酢の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により得られる醸造酢を含有する飲食品。