説明

重力沈降槽および無灰炭の製造方法

【課題】重力沈降槽に流入するスラリーによって、底部に沈降した固形分濃縮液が攪拌されることを抑止した重力沈降槽、および、それを用いた無灰炭の製造方法を提供すること。
【解決手段】石炭と溶剤とを混合したスラリーに含まれる固形分を沈降させて固形分濃縮液と上澄み液とに分離する圧力容器11と、圧力容器11にスラリーを供給する供給管15とを備えた重力沈降槽3において、供給管15に、本体部21と本体部21に接続され水平方向に延在するノズル部22とを設け、さらに当該ノズル部22に複数の孔23を設けることにより、底部に沈降した固形分濃縮液が攪拌されることを抑止した。また、無灰炭を製造するにあたり、上述の重力沈降槽3を備えた無灰炭製造装置100を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭と溶剤とを混合したスラリーを固形分濃縮液と上澄み液とに分離するための重力沈降槽、および石炭から灰分を除去した無灰炭を得るための無灰炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭は、火力発電やボイラーの燃料、または、化学品の原料として幅広く利用されており、環境対策の一つとして石炭中の灰分を効率的に除去する技術の開発が強く望まれている。例えば、ガスタービン燃焼による高効率複合発電システムでは、LNG等の液体燃料に替わる燃料として、灰分が除去された無灰炭を使用する試みがなされている。
【0003】
無灰炭の製造方法としては、石炭と溶剤とを混合して調製されたスラリーを加熱して、溶剤に可溶な石炭成分(以下、溶剤可溶成分)を抽出し、溶剤可溶成分を含む上澄み液と灰分等の溶剤に不溶な石炭成分(以下、溶剤不溶成分)を含む固形分濃縮液とに分離した後、上澄み液から溶剤を分離して無灰炭を得る方法が知られている(例えば、特許文献1)。また、スラリーを固形分濃縮液と上澄み液とに効率的に分離する方式として、重力沈降法を用いる重力沈降槽が知られている(例えば、特許文献2、3)。
【0004】
しかしながら、特許文献2、3に記載された重力沈降槽においては、スラリー供給管の吐出口が下方向に開口し、その吐出口からスラリーが勢いよく吐出されるので、スラリーの流れが一点に集中して、重力沈降槽下部に沈降していた固形分濃縮液が攪拌される問題がある。
【0005】
そこで、上記課題の解決を試みた技術として、スラリー供給管の吐出口より下方側に板材を備えており、それによりスラリーの流れを分散させる効果がある重力沈降槽等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−227718号公報
【特許文献2】特開2007−735号公報
【特許文献3】特開2009−214000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のスラリー供給管の吐出口より下方側に板材を備えた重力沈降槽においては、板材の上にスラリー中の固形分が堆積してしまうという問題があり、最終的にはスラリー供給管の吐出口が閉塞してしまうことが考えられる。また、本発明者らは、スラリーの流れを分散させる方法として、可動装置や構造が複雑な装置を導入することも検討したが、重力沈降槽内は高温高圧であるため、導入は困難である。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、重力沈降槽に流入するスラリーによって底部に沈降した固形分濃縮液が攪拌されることを抑止した重力沈降槽、および、それを用いた無灰炭の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の重力沈降槽は、石炭と溶剤とを混合したスラリーに含まれる固形分を沈降させて固形分濃縮液と上澄み液とに分離する圧力容器と、前記圧力容器に前記スラリーを供給する供給管とを備えた重力沈降槽において、前記供給管は、本体部と当該本体部に接続され水平方向に延在するノズル部とを有し、当該ノズル部には複数の孔が設けられていることを特徴とするものである。
【0010】
この構成によると、スラリーを複数の孔から圧力容器内に均一に吐出することができるので、スラリーの流れを分散させることが可能となる。その結果、底部に沈降した固形分濃縮液が攪拌されることを抑止することができる。
【0011】
また本発明において、前記複数の孔は、水平方向に対して斜め下方に前記スラリーが噴出する位置に設けられていることが好ましい。
【0012】
この構成によると、例えばスラリーが真下に噴出する位置に複数の孔を設けた場合と比較して、各孔からのスラリーの吐出量を略均等にすることが可能となる。また、ノズル内に固形分が堆積することもない。
【0013】
また本発明において、前記圧力容器が円筒状であるとともに、前記ノズル部が当該圧力容器の内壁面に沿って一周するように環状に形成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によると、複数の孔を圧力容器内の水平方向平面に均等に配置することができ、スラリーをより均一に吐出することができる。
【0015】
また本発明において、前記ノズル部の末端部は、上方に折り曲げられた後、下方に折り曲げられて形成された屈曲部を有し、さらに前記ノズル部の末端に孔が設けられていることが好ましい。
【0016】
この構成によると、屈曲部の上流側にスラリーが堆積してノズル内の圧力が高まり、各孔からのスラリーの吐出量をより均等にすることができる。また、ノズル部の末端に孔(吐出口)を有しているので、例えば複数の孔が閉塞を起こした場合であっても、ノズル部末端の孔(吐出口)がスラリーの逃げ口となり、スラリー供給管が閉塞してしまうことを防止できる。
【0017】
また、本発明の無灰炭の製造方法は、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製するスラリー調製工程と、前記スラリー調製工程で得られたスラリーを加熱して溶剤に可溶な石炭成分を抽出する抽出工程と、前記抽出工程で得られたスラリーを、上述の重力沈降槽により、固形分濃縮液と上澄み液とに分離する分離工程と、前記分離工程で分離された上澄み液から溶剤を分離して無灰炭を得る無灰炭取得工程と、を備えることを特徴とするものである。
【0018】
この製造方法によると、分離工程において固形分が十分除去された上澄み液を得ることができ、灰分が十分に除去された無灰炭を効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スラリー供給管は水平方向に延在するノズル部を有し、かつ当該ノズル部に複数の孔が設けられているので、スラリーを複数の孔から圧力容器内に均一に吐出することができ、底部に沈降した固形分濃縮液が攪拌されることを抑止することができる。また、その結果、灰分が十分に除去された無灰炭を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る重力沈降槽を用いた無灰炭の製造装置を示す模式図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態に係る重力沈降槽の正面図であり、(b)は(a)のA−A断面図である。
【図3】(a)は図2の斜視図であり、(b)は(a)に示したスラリー供給管のB−B拡大断面図である。
【図4】(a)及び(b)は、本発明に係る重力沈降槽の変形例を示した斜視図である。
【図5】本発明に係る重力沈降槽と従来の重力沈降槽とでの重力沈降槽内での固形分の濃度割合を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係る重力沈降槽を用いた無灰炭の製造装置を示す模式図である。
【0022】
無灰炭の製造装置100は、原料となる石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製するスラリー調製槽1と、調製されたスラリーを加熱して溶剤可溶成分を抽出する抽出槽2と、重力沈降を利用してスラリーを溶剤不溶成分を含んだ固形分濃縮液と溶剤可溶成分を含んだ上澄み液とに分離する重力沈降槽3と、上澄み液を濾過する濾過フィルター4と、濾過された上澄み液を一旦貯留する受器5と、上澄み液から溶剤を分離して無灰炭を得る溶剤回収装置6と、固形分濃縮液を一旦貯留する受器7と、固形分濃縮液から溶剤を分離して副生炭を得る溶剤回収装置8とを備えている。なお、濾過フィルター4、受器7および溶剤回収装置8は、必要に応じて設置されるものであり、設置されていなくてもよい。
【0023】
ここで、スラリーに含まれる溶剤不溶成分(固形分)とは、溶剤により石炭成分の抽出を行っても、溶剤に溶解されずに残る灰分や当該灰分を含む石炭(即ち、副生炭)などの石炭成分であり、分子量が比較的大きく、架橋構造が発達した有機成分に由来するものである。一方、溶剤可溶成分とは、溶剤により石炭の抽出を行うことにより、溶剤に溶解され得る石炭成分であり、分子量が比較的小さく、架橋構造が発達していない石炭中の有機成分に由来するものである。
【0024】
(重力沈降槽の構成)
次に、本発明の実施形態に係る重力沈降槽3について説明する。図2(a)は、本発明の実施形態に係る重力沈降槽の正面図であり、図2(b)は(a)のA−A断面図である。また、図3(a)は、図2の斜視図であり、図3(b)は(a)に示したスラリー供給管のB−B拡大断面図である。なお、図2(a)および図3(a)においては、内部構成の理解を容易とするため重力沈降槽の一部を透視的に図示している。図2(a)に示すように、重力沈降槽3は、圧力容器11、蓋部12、上澄み液排出管13、排出口14、スラリー供給管15などを備えている。
【0025】
(圧力容器)
圧力容器11は、スラリーを固形分濃縮液と上澄み液とに分離する容器であり、円筒状の胴部11aと、胴部11aの下端側に設けられ下部に向かうにつれて縮径する構成の底部11bとからなる。胴部11aの上端部には、この上端部を密閉する蓋部12が備えられている。なお、圧力容器11は円筒形状に限定されるものではなく、他の形状であってもよい。
【0026】
(上澄み液排出管)
上澄み液排出管13は、圧力容器11の上部に溜まった上澄み液を重力沈降槽3から排出するものであり、蓋部12に貫設され、胴部11aの上方まで延設されている。上澄み液排出管13の末端には流出口13aが設けられ、この流出口13aから上澄み液は排出される。なお、上澄み液排出管13は、胴部11aの側壁に貫設されていてもよい。
【0027】
(排出口)
排出口14は、圧力容器11の下部に沈降した固形分濃縮液を重力沈降槽3から排出するものであり、底部11bの最下部に設けられている。なお、排出口14は、底部11bの側壁に貫設されていてもよい。
【0028】
(スラリー供給管)
スラリー供給管15は、圧力容器11内にスラリーを供給するためのものであり、本体部21とノズル部22とからなる。本体部21は、蓋部12に貫設され、圧力容器11の高さ方向において中央付近(胴部11aの下方)まで延設されている。ノズル部22は、本体部21の末端に接続され、胴部11aの内壁面に沿って水平方向に一周するように環状に形成されている(図2(b)参照)。さらに、ノズル部22には、複数の孔23が設けられている。このように、スラリー供給管15は、水平方向に形成されたノズル部22と複数の孔23とを有するので、スラリーを複数の孔23から圧力容器11内に均一に吐出することができ、スラリーの流れを分散させることが可能となる。その結果、底部に沈降した固形分濃縮液が攪拌されることを抑止することができる。また、ノズル部22が環状に形成されているので、圧力容器11の内径に合わせてノズル部22の径(噴射径)を容易に設定できる。なお、ノズル部22は、曲げ加工により本体部21と一体に形成されているが、配管をつなぎ合わせて形成されていてもよい。また、本体部21は、胴部11aの側壁に貫設され、当該側壁から圧力容器11内に延設されていてもよい。
【0029】
ここで、複数の孔23は、上澄み液排出管13の流出口13aと排出口14との間に設けられていることが好ましい。孔23が、上澄み液排出管13の流出口13aよりも上方に設けられていると、流出口13aから排出される上澄み液中に固形分が多く含まれてしまい、濾過フィルター4が早期に詰まったり、灰分が十分に除去されなくなる可能性がある。
【0030】
また、孔23は、図3(b)に示すように、ノズル部22の配管断面の斜め下方(図3(b)I部)に設けられている。斜め下方に設けられることにより、全ての孔23からのスラリーの吐出量を略均等にすることができる。例えば、孔23が配管断面の真下(図3(b)II部)に設けられている場合、スラリーの吐出量は上流側に設けられた孔ほど多く、下流側の孔ほど減少する。したがって、全ての孔23からスラリーを均等に吐出させることが困難となる。また、例えば孔23が配管断面の真横(図3(b)III部)に設けられている場合、スラリーに含まれる固形分が配管下部に徐々に堆積していき、閉塞を引き起こす可能性が高くなる。
【0031】
また、孔23は、一定間隔毎に設けられていることが好ましい。スラリーを圧力容器11内により均一に吐出することができるからである。また、孔23の数を多くして、かつ孔23の開口面積が小さくすれば、さらにスラリーの流れを分散させる効果が増大する。なお、本実施形態では、孔23をノズル部22の外側に設けているが(図3(a)参照)、孔23をノズル部22の内外どちらに開口させるかは、圧力容器11の内壁面とノズル部22との位置関係、ノズル部22の形状などを考慮して適宜選択すればよく、内側に開口した孔と外側に開口した孔が混在していても何ら問題はない。
【0032】
また、ノズル部22の末端部は、上方に折り曲げられた後、下方に折り曲げられて形成された屈曲部24を有している。この構成により、屈曲部24の上流側に、スラリーが堆積してノズル部22内の圧力が高まり、複数の孔23からのスラリーの吐出量をより均等にすることができる。さらにノズル部22の末端に孔(吐出口)25を有し、当該孔(吐出口)25は下方側に開口しているので、例えば複数の孔23が閉塞を起こした場合であっても、孔(吐出口)25がスラリーの逃げ口となり、スラリー供給管15が閉塞してしまうことを防止できる。なお、屈曲部24や孔(吐出口)25は必要に応じて設置すればよく、設けていなくてもよい。
【0033】
ところで、圧力容器11内は、溶剤可溶成分の再析出を防止するため、図示しない加熱手段、加圧手段などによって、保温・加圧しておくことが好ましい。保温温度は、300〜420℃の範囲が好ましく、圧力は、1.0〜3.0MPa程度にすることができ、1.7〜2.3MPaの範囲が好ましい。
【0034】
(変形例)
図4は、本発明に係る重力沈降槽の変形例を示した斜視図であり、上述した実施形態とは形状が異なるスラリー供給管を備えたものである。なお、図4においては、内部構成の理解を容易とするため重力沈降槽の一部を透視的に図示している。図4(a)に示した重力沈降槽は、スラリー供給管15aの本体部21a末端から2方向に分かれるようにノズル部22aが形成されている。ノズル部22aの2つの末端部には、それぞれ屈曲部24aと孔(吐出口)25aが設けられている。なお、2つの孔(吐出口)25aは、本体部21aの末端から略半周した位置に設けられている。図4(b)に示した重力沈降槽は、スラリー供給管15bの本体部21bが蓋部13bの略中央付近に貫設され、本体部21bの末端から放射状に4方向にノズル部22bが形成されている。ノズル部22aの各々の末端部には、各々屈曲部24bと孔(吐出口)25bが設けられている。なお、ノズル部22bは4方向に限られるものではなく、また放射状でなくてもよい。
【0035】
(無灰炭の製造方法)
次に、無灰炭の製造方法について説明する。本発明に係る無灰炭の製造方法は、スラリー調製工程、抽出工程、分離工程、および無灰炭取得工程を備え、必要に応じて副生炭取得工程をさらに備えるものである。
【0036】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程は、石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製する工程であり、スラリー調製槽1で行われる。石炭原料としては、幅広い品質の石炭を使用することができ、例えば、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭等が好適に用いられる。
【0037】
溶剤は石炭を溶解するものであれば特に限定されないが、石炭由来の2環芳香族化合物が好適に用いられる。この2環芳香族化合物は基本的な構造が石炭の構造分子と類似していることから石炭との親和性が高く、比較的高い抽出率を得ることができる。石炭由来の2環芳香族化合物としては、例えば、石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油であるメチルナフタレン油、ナフタレン油などを挙げることができる。
【0038】
溶剤の沸点は、特に限定されないが、例えば抽出工程での抽出率および無灰炭取得工程での溶剤回収率の観点から、180〜300℃、特に230〜280℃のものが好適に用いられる。
【0039】
溶剤に対する石炭原料の濃度は、特に限定されないが、乾燥炭基準で10〜50重量%の範囲が好ましく、15〜35重量%の範囲がより好ましい。
【0040】
(抽出工程)
抽出工程は、スラリー調製工程で得られたスラリーを加熱して、溶剤可溶成分を抽出する工程であり、抽出槽2で行われる。スラリー調製槽1で調製されたスラリーは、ポンプ等によって、抽出槽2に供給され、抽出槽2に設けられた攪拌機で攪拌されながら所定温度に加熱保持されて抽出が行われる。なお、スラリーは、一旦予熱器(不図示)に供給されて所定温度まで加熱された後、抽出槽2に供給されてもよい。
【0041】
抽出工程でのスラリーの加熱温度は、溶剤可溶成分が溶解され得る限り特に制限されず、例えば溶剤可溶成分の十分な抽出の観点から、300〜420℃の範囲が好ましく、350〜400℃の範囲がより好ましい。加熱時間(抽出時間)もまた特に制限されるものではないが、十分な溶解と抽出率の観点から5〜60分間の範囲が好ましく、20〜40分間の範囲がより好ましい。なお、予熱器(不図示)で一旦加熱した場合の加熱時間は、予熱器での加熱時間および抽出槽2での加熱時間を合計したものである。
【0042】
抽出工程は不活性ガスの存在下で行うことが好ましく、安価な窒素が好適に用いられる。また、抽出工程での圧力は、抽出の際の温度や用いる溶剤の蒸気圧にもよるが、1.0〜2.0MPaの範囲が好ましい。
【0043】
(分離工程)
分離工程は、抽出工程で得られたスラリーから、上述した重力沈降槽3を用いて、固形分濃縮液と上澄み液とに分離する工程である。上澄み液は溶剤可溶成分が溶解された溶液部分であり、固形分濃縮液は溶剤不溶成分を含むスラリー部分である。当該分離工程においては、上述した重力沈降槽3を用いているので、固形分が十分に除去された上澄み液が得られる。重力沈降槽3から排出された上澄み液は、濾過フィルター4で濾過された後、一旦受器5に貯留され、溶剤回収装置6へ供給される。一方、固形分濃縮液は、一旦受器7に貯留された後、溶剤回収装置8へ供給される。
【0044】
(無灰炭取得工程)
無灰炭取得工程は、分離工程で分離された上澄み液から溶剤を分離して無灰炭を得る工程であり、溶剤回収装置6で行われる。
【0045】
上澄み液から溶剤を分離する方法は、一般的な蒸留法や蒸発法(スプレードライ法等)等を用いることができ、分離して回収された溶剤はスラリー調製槽1へ循環して繰り返し使用することができる。無灰炭は、灰分をほとんど含まず、水分は皆無であり、また例えば原料炭よりも高い発熱量を示す。さらに、製鉄用コークスの原料として特に重要な品質である軟化溶融性が大幅に改善され、例えば原料炭よりも遥かに優れた性能(流動性)を示す。従って、無灰炭は、コークス原料の配合炭として使用することができる。また、後述する副生炭と混合することによって、配合炭として使用することもできる。
【0046】
(副生炭取得工程)
副生炭取得工程は、必要に応じて実施され、前記分離工程で分離された固形分濃縮液から溶剤を分離して副生炭を得る工程であり、溶剤回収装置8で実施される。
【0047】
固形分濃縮液から溶剤を分離する方法は、前記した無灰炭取得工程と同様に、一般的な蒸留法や蒸発法を用いることができ、分離して回収された溶剤は、スラリー調製槽1へ循環して繰り返し使用することができる。溶剤の分離・回収により、固形分濃縮液からは灰分等を含む溶剤不溶成分が濃縮された副生炭を得ることができる。副生炭は、灰分が含まれるものの水分が皆無であり、発熱量も十分に有している。副生炭は軟化溶融性は示さないが、含酸素官能基が脱離されているため、配合炭として用いた場合に、この配合炭に含まれる他の石炭の軟化溶融性を阻害するようなものではない。従って、この副生炭は、通常の非微粘結炭と同様に、コークス原料の配合炭の一部として使用することができ、また、コークス原料炭とせずに、各種の燃料用として利用することも可能である。なお、副生炭は、回収せずに廃棄しても良い。
【0048】
(効果)
本発明に係る無灰炭の製造方法においては、上述した重力沈降槽3を用いているので、固形分が十分除去された上澄み液を得ることができ、効率よく無灰炭を製造することができる。また、濾過フィルター4が早期に詰まってしまうことも防止できる。
【0049】
本発明に係る無灰炭の製造方法は、以上説明したとおりであるが、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、石炭原料を粉砕する石炭粉砕工程や、ごみ等の不要物を除去する除去工程や、得られた無灰炭を乾燥させる乾燥工程等、他の工程を含めてもよい。
【0050】
(実施例)
本発明に係る重力沈降槽の効果を確認するため、図1に示した本発明に係る重力沈降槽3と同様の構成を有する重力沈降槽を用いて固形分と上澄み液とに分離した場合と、従来の重力沈降槽を用いて分離した場合とにおいて、圧力容器内の固形分の濃度分布を各々測定し、比較した。
【0051】
石炭原料として瀝青炭を用い、溶剤としてメチルナフタレンH(シーケム社)を用いた。この石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製した。溶剤に対する石炭原料の濃度は、乾燥炭基準で19.5重量%とした。このスラリーを400℃、2.0MPaに昇温昇圧して、溶剤可溶成分の抽出を20分間行った。そして、このスラリーを350℃、2.0MPaに保持された重力沈降槽に供給し、固形分濃縮液と上澄み液とに分離した。なお、圧力容器には、図1に示した圧力容器11と同様の構成を有するものを使用した。また、スラリー供給管には、従来の重力沈降槽で使用される直管形状のスラリー供給管Aと、図1に示したスラリー供給管15と同様の構成を有するスラリー供給管Bの2種類のスラリー供給管を使用した。ここで、スラリー供給管Aは末端に孔(吐出口)を一つ有したものであり、スラリー供給管Bはノズル部に複数の孔を有したものである。なお、スラリー供給管は、A、Bどちらも圧力容器の高さHに対してH×0.6の高さまで延設した。
【0052】
そして、圧力容器内にスラリーを40時間供給後、スラリーの供給を続けた状態で、圧力容器内の固形分の濃度を測定した。測定結果を図5に示す。なお、Hは圧力容器最下部からの測定位置の高さを表す。また、測定はスラリー供給管A、B各々においてn=2行った。
【0053】
スラリー供給管Aを使用した場合には、圧力容器の最上部(H/H=1)において、固形分の濃度が5重量%程度と高く、上澄み液の清澄化が進んでいなかった。また、圧力容器の下方側、例えばH/H=0.2では、固形分の濃度は10重量%程度であり、下方側は固形分の濃縮が進んでいなかった。以上より、スラリー供給管Aを使用した重力沈降槽(即ち、従来の重力沈降槽)では、固形分と上澄み液とがうまく分離されていないことが確認された。
【0054】
一方、スラリー供給管Bを使用した場合には、圧力容器の最上部(H/H=1)において、固形分の濃度が0.5重量%程度と低く、スラリー供給管Aと比較して10倍清澄化されていた。また、圧力容器の中間部にあたる、H/H=0.4付近で急激に固形分の濃度が濃くなり、圧力容器の最下部まで濃度が濃い状態であった。以上より、スラリー供給管Bを使用した重力沈降槽(即ち、本発明に係る重力沈降槽)では、効果的に固形分と上澄み液とを分離できることが確認された。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【0056】
本実施形態や変形例に記載した重力沈降槽においては、いずれもスラリー供給管を1本としているが、スラリー供給管は複数本あってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1:スラリー調製槽
2:抽出槽
3:重力沈降槽
4:濾過フィルター
5、7:受器
6、8:溶剤回収装置
11:圧力容器
12:蓋部
13:上澄み液排出管
14:排出口
15:スラリー供給管
21:本体部
22:ノズル部
23、25:孔
24:屈曲部
100:無灰炭製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭と溶剤とを混合したスラリーに含まれる固形分を沈降させて固形分濃縮液と上澄み液とに分離する圧力容器と、前記圧力容器に前記スラリーを供給する供給管とを備えた重力沈降槽において、
前記供給管は、本体部と当該本体部に接続され水平方向に延在するノズル部とを有し、当該ノズル部には複数の孔が設けられていることを特徴とする重力沈降槽。
【請求項2】
前記複数の孔は、水平方向に対して斜め下方に前記スラリーが噴出する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の重力沈降槽。
【請求項3】
前記圧力容器が円筒状であるとともに、前記ノズル部が当該圧力容器の内壁面に沿って一周するように環状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の重力沈降槽。
【請求項4】
前記ノズル部の末端部は、上方に折り曲げられた後、下方に折り曲げられて形成された屈曲部を有し、さらに前記ノズル部の末端に孔が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重力沈降槽。
【請求項5】
石炭と溶剤とを混合してスラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記スラリー調製工程で得られたスラリーを加熱して溶剤可溶成分を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で得られたスラリーを、請求項1〜4のいずれかに記載の重力沈降槽により、固形分濃縮液と上澄み液とに分離する分離工程と、
前記分離工程で分離された上澄み液から溶剤を分離して無灰炭を得る無灰炭取得工程と、を備えることを特徴とする無灰炭の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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