説明

重合プロテオリポソームを用いたナノ加工膜

【課題】本発明は概して、重合プロテオリポソームを含むナノ加工膜に関する。該ナノ加工膜は、タンパク質を組み込んだUV架橋性リポソームと化学反応性の生体適合性インタースティシャル・マトリクスとを併せ用いる、バイオ−ナノ融合選択性透過膜である。
【解決手段】天然脂質により作製したプロテオリポソームは短寿命であり、高・低温、圧力、イオン強度等のような環境ストレスに対する耐性が低いため、本発明においては、内部をUV架橋した、タンパク質を組み込んだプロテオリポソームを用いた。さらに、両親媒性のブロック・コポリマーにより作製したタンパク質含有小胞は、ポリマーの多分散性が不可避であるゆえに、適切な機能性を達成するためのバッチ間での均質性がより低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合プロテオリポソーム(polymerized proteoliposomes)を含むナノ加工膜である。本発明の実施形態の一つにおいては、該膜はタンパク質を組み込んだ水選択性透過膜である。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載された従来の逆浸透膜には、多官能性アミン・モノマーおよび多官能性ハロゲン化アシル・モノマーのショッテン・バウマン反応を用いた、多孔質膜上のポリアミド表面が存在する。しかしトリメソイルクロリド(TMC)のようないくつかの化学物質は、該化学物質が強い加水分解特性を持つために、タンパク質の機能性を損壊する。このことは、プロテオリポソームの外側空間を充填するために必要なポリアミド・マトリクス中に、タンパク質を組み込んだ重合リポソームをイン・シチュで組み込むことが、不可能でないにしろ困難であることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,878,278号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は概して、重合プロテオリポソームを含むナノ加工膜に関する。該ナノ加工膜は、タンパク質を組み込んだUV(紫外線)架橋性リポソームに化学反応性で生体適合性のインタースティシャル・マトリクス(interstitial matrix)を併せて用いた、バイオ―ナノ融合選択性透過膜である。天然脂質によって作製したプロテオリポソームは寿命が短く、高・低温、圧力、イオン強度等のような環境ストレスに対する耐性が低いため、本発明においては、タンパク質を組み込み内部をUV架橋したプロテオリポソームを用いる。さらに、両親媒性のブロック・コポリマーによって作製したタンパク質含有小胞(proteo-vesicle)は、不可避的に多分散性であるため、適切な機能性を達成するためのバッチ間での均質性が低い。
【0005】
合成された該UV重合性リポソームは、疎水部にUV架橋性の化学構造を持ち、両親媒性のトリブロック・コポリマーによりも、プロテオリポソームを作るための均質性が高い。さらに重合プロテオリポソームは、物理的ストレスに対して強い機械的耐性を持つ。その上、種々の誘導性の共有結合を通じてインタースティシャル・マトリクスに連結するために、または支持膜もしくは基膜の表面を改変するために、該脂質モノマーの親水部の化学構造は改変され得る。
【0006】
本発明の実施形態の一つにおいては、本発明は次のことを達成しようとする;1)従来のポリアミド表面への脂質組み込み、および2)ホモ二官能性のポリエチレングリコール(PEG)架橋剤またはアミン・デンドリマーを用いた、プロテオリポソームのイン・シチュ組み込みのための生体適合性ポリアミド・マトリクス、3)アミン基で修飾したセルロースナノ膜、セルロース混合エステル・ナノ膜、ガラス表面、およびアミンで修飾したシリコン、またはアミン基で修飾され得る何らかの材料への、脂質の組み込み。
【0007】
本発明の実施形態の一つにおいては、組み込まれるタンパク質は、アクアポリン・ファミリータンパク質の構成メンバーである。しかし、本発明がこのタンパク質ファミリーのみに限定されないことは理解されるべきである。所産の膜は、生体に適合するように再構成されたインタースティシャル・マトリクス中の重合化したプロテオリポソーム中に、アクアポリンを介する水選択性輸送による水のバイパス路および空洞を持つ。アクアポリンの機能性によって、この膜は高い水選択性、水透過性、および低いエネルギー要求性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】UV架橋性の官能基が脂質モノマーの疎水部に存在する、リポソーム壁の拡大図である。
【図2】本発明の実施形態の一つにおける、UV照射による重合プロテオリポソームの再構成の方法を示す図である。
【図3】本発明の実施形態の一つにおける、小胞間の化学的架橋を示す図である。
【図4】本発明の実施形態の一つにおける、MCE(セルロース混合エステル)およびナイロン基膜上のポリアミド薄層を表面修飾するための、親水部(頭部)を持つリン脂質(例えばエタノールアミンリン脂質)を含むアミン。
【図5】本発明の実施形態の一つにおける、基膜上の共有結合マトリクス上に重合プロテオリポソームを連結するための、脂質を組み込んだ基膜。
【図6】UV架橋性のアミン―PEGハイドロゲル・生体適合性インタースティシャル・マトリクスを用いた、重合プロテオリポソームのイン・シチュでの埋め込みを示し、本発明の実施形態の一つにおける、(a)深さ調節可能な型に入った基膜が提供される;(b)重合プロテオリポソームおよびUV架橋性のPEG溶液が基膜上に塗布され、必要な場合はアミン−PEGとリン酸脂質との間にEDCを介する架橋が行われ得る;(c)膜固化のためのUV硬化;(d)型からの加工膜の取り外し;(e)イン・シチュ埋め込みを受けた該膜の断面図である。該基膜は、リポソームおよびハイドロゲルとの架橋を誘導するために、アミン基またはアクリル酸で活性化される。イン・シチュ埋め込みを受けた該膜にはインクジェット印刷技術が使用され得る。
【図7】(a)製織法のための重合プロテオリポソームで被覆した糸、および(b)非製織法による重合プロテオリポソーム間の耐水性繊維状構造物を用いる、基膜を用いない脱塩フィルター加工を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次の本発明の実施形態の詳細な説明と付随する図面から、本発明の特徴および利点が明らかとなろう。
本発明のナノ加工膜を得るために、タンパク質(6)をUV架橋性リポソーム(1)に組み込むことによって、重合プロテオリポソームが最初に形成された。該UV架橋性リポソーム(1)は、天然脂質の構造を模倣した材料を用いた合成物である。図1に示すように、該UV架橋性リポソーム(1)(例えば1−パルミトイル−2−(10Z,12Z−トリコサジイノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−パルミトイル−2−(10Z,12Z−トリコサジイノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン、1,2−ジ−(10Z,12Z−トリコサジイノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、1−2−(10Z,12Z−トリコサジイノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン)は、疎水部(3)にUV架橋性の化学構造(2);10,12−ペンタコサイジン酸(PCDA)およびその親水部の官能基誘導体(蛍光性ジアセチレンモノマー)を持つ。UV架橋性の化学構造が疎水尾部(5)の一つまたは全てに含まれてよいことは理解される。また該UV架橋性リポソームは、親水部(4)を含む。実施形態の一つにおいては、UV架橋性の化学構造(2)は内部架橋のためのジアセチレンを含んでよい。しかし、通常の当業者は本発明の範囲から逸脱すること無くさらなるUV架橋性の化学構造(2)を選択し得るため、本発明はこの特定のUV架橋性の化学構造(2)に限定されない。図1は、疎水部(3)に1−パルミトイル−2−(10Z,12Z−トリコサジイノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(Diyne PE)の構造図を含む本発明の実施形態の一つを示す。この内部UV架橋によって、物理的ストレスに対して強い機械的耐性を持つリポソームが提供される。UV架橋性リポソーム(1)が形成された後、既知の方法を用いて、タンパク質(6)がリポソームの壁に組み込まれる。本発明の実施形態の一つにおいては、組み込むタンパク質(6)としてアクアポリンが使用される。しかし、当業者に既知のように、UV架橋性リポソーム(1)に他のタンパク質(6)が組み込まれ得ることは理解される。ひとたび該タンパク質(6)がUV架橋性リポソーム(1)に組み込まれると、重合プロテオリポソーム(7)を形成するために、該プロテオリポソームはUV照射を用いて重合化される。図2はUV架橋前のプロテオリポソーム(7)を示す。該プロテオリポソームがUV照射された後、リポソーム(1)の疎水部(3)中のUV架橋性官能基(2)によって重合プロテオリポソーム(8)が形成される。
【0010】
図3に示す通り、重合プロテオリポソーム(8)の頭部または親水部(4)は、プロテオリポソーム間またはプロテオリポソーム−インタースティシャル・マトリクス間の外部架橋を通じて連結性を高めるために化学修飾される。該合成脂質の親水部(4)は、多様な多官能性アミン、カルボキシル酸基、およびリン酸基を含み得る。該頭部はヘテロ官能性架橋剤を用いて修飾され得る。例えばN−ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHSエステル)−ビオチンまたはイミドエステル−ビオチンがビオチン化に使用され得る。光反応性架橋剤、ゼロ距離架橋剤、ホモ二官能性架橋剤、ヘテロ二官能性架橋剤、三官能性架橋剤、デンドリマー、および他の既知の化学結合法を含むがこれらに限定されない多種の化学コンジュゲートを用いた共有結合による架橋(11)によって、該修飾は行われる。アミド結合のためのゼロ距離架橋においては、カルボジイミドが使用されてよい。本発明の実施形態の一つにおいては、架橋剤としてEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)塩酸塩が使用される。しかし、本発明の範囲から逸脱すること無く、他のカルボジイミドが使用され得る。2,2’(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)のアミン基は、EDC活性化によって、プロテオリポソームのカルボキシル酸またはリン酸基を共有結合的に架橋するのに有用である。該重合プロテオリポソームは、溶剤および他の反応に対する耐性が高い。従って該重合プロテオリポソームそれ自体が、ミオシン−アクチン繊維間の構造と同様に、該重合プロテオリポソームとポリアミド薄膜との間の優良なリンカーとして使用され得る。図4は、MCE(セルロース混合エステル)およびナイロン基膜(12)上のポリアミド薄層を表面修飾するための、親水部(4)を含むアミンリン脂質(例えばエタノールアミンリン脂質)を示す。ポリアミド薄層にリポソーム(1)を植え込むために、アミンを含む天然脂質およびUV架橋性脂質が使用され得る。マトリクス面の反対側に疎水部(3)を向けたポリアミド・マトリクスを形成するために、一つまたは複数のアミン源が使用される。図5は、UV照射前のプロテオリポソーム(7)、ならびにリポソーム(1)およびリポソームで修飾したポリアミド・マトリクス(12)の内部および外部架橋(9)を含むUV架橋され重合化された最終的なプロテオリポソーム(8)を示す。
【0011】
重合プロテオリポソーム(8)をマトリクス中に埋め込むために、該プロテオリポソーム(7)は基膜(12)上で該マトリクスと同時に混合される。この工程は本明細書中で「イン・シチュ組み込み(in situ incorporation)」と呼ぶ。図6は、ハイドロゲル−プロテオリポソームの加工工程を示す。この工程は次の段階を含む:(a)深さ調節可能な型(14)に入った基膜(13)が提供される;(b)重合プロテオリポソーム(8)およびUV架橋性のPEG溶液が、基膜(13)上に塗布され(15)、必要な場合はアミン−PEGとリン酸脂質との間にEDCを介する架橋が行われ得、UV架橋性のPEGを連結するために、NHS−アクリル酸で活性化した重合プロテオリポソームが使用され得る;(c)膜固化のためのUV硬化;および(d)型からの加工膜の取り外し。図6(e)は、本発明の実施形態の一つの、イン・シチュ埋め込みを受けた該膜の断面図を示す。
【0012】
重合プロテオリポソーム技術のさらなる適用においては、重合プロテオリポソームで被覆した加水分解ナイロン糸が、図7で示すように形成され得る。該加水分解ナイロン糸(16)は、該重合プロテオリポソームとの共有結合により架橋するためのカルボキシルおよびアミン基を表面に含む。図7は、(a)製織法(17)のための重合プロテオリポソームで被覆した糸(16)、および(b)非製織法、例えば架橋UV光照射、による重合プロテオリポソーム間の耐水性繊維状構造物を含む、基膜を持たない脱塩フィルター加工物を示す。
【0013】
本発明の別の実施形態においては、リポソームに組み込んだアクアポリン・ファミリータンパク質を含む重合プロテオリポソームは、水のみを通す安定なフィルムを生じ、従って透析によって水浄化、脱塩、および分子濃縮を簡易化する上記の織物構造および不織布構造を含む膜に成形され得る。該アクアポリンは、水性溶液からの細菌、ウィルス、鉱質、タンパク質、DNA、塩、界面活性剤、溶解ガス、およびさらにはプロトンを含む全ての汚染物質の通過を排除するが、またアクアポリン分子はその構造ゆえに水分子を輸送することができる。液圧または浸透圧のために、水は該膜を特定の方向に通り抜ける。水浄化/脱塩は、アクアポリンを充填した剛性膜により中心で分離された二槽式装置によって行われ得る。該膜自体は水に対して非透過性であり、槽内の汚染水を浄水から隔離する。純水のみが二槽間を流れることができる。例えば膜の片側の海水または他の汚染水が適当な圧力下に置かれた場合、純水は自然にもう一方の槽に流入する。従って非飲用水源から浄水が入手され得、または源水が目的の化学物質を含む場合は、水が選択的に除去され、投入槽内には高濃度の所望の化学物質が残され得る。
【0014】
しかし重要なことに、アクアポリンは水に対する選択性以外の理由でも本発明に適している。このタンパク質ファミリーの多くの構成メンバー(例えばアクアポリンZ(AqpZ))は極めて頑丈であり、機能を喪失すること無しに汚染水源の過酷な条件に耐え得る。AqpZは、酸、電圧、界面活性剤、および熱への曝露による変性または綻びに耐える。すなわち該装置は、別の膜を汚損または損壊させる物質で汚染された源水を浄化するために使用され得、常時高温にさらされる場所で使用され得る。AqpZはまた、変異導入可能である。このタンパク質はその最終的な形態および機能に影響する遺伝配列によって宿主細菌中で特異的に発現されるため、該タンパク質の特性を変化させるために、技術者はその遺伝子コードを容易に変えることができる。従って該タンパク質は、該タンパク質の元来の機能とは異なり得る所望の適用を実現するために操作され得る。例えば水チャネルの中心付近の特定のアミノ酸残基を単純にシステインに変化させることによって、生ずる該アクアポリンは、溶液中のいかなる遊離水銀にも結合し、それによる阻害によって水の輸送を止めるだろう。よって膜装置に用いられるそれらの変異体タンパク質は、有害物質の濃度が上昇しすぎた時に単純に水流を止めることで、水サンプル中の水銀汚染を検出することができるだろう。
【0015】
例えば、汚水、塩水、または他のもので汚染された水から完全な純水を高度に効率的に生産することを達成するために、生体成分を利用した方法および装置が開示されている。本発明では生体水輸送タンパク質と外部装置との統合物を提示し、水浄化装置の大量生産が可能な製造法への道筋を示す。
【0016】
本明細書の一部として、米国特許第7208089号「Biomimetic membranes」の内容を明示的に援用する。国際特許出願番号PCT/US08/74163「Biomimetic Polymer Membrane that Prevents Ion Leakage」を、本明細書の一部として援用する。国際特許出願番号PCT/US08/74165「Making Functional Protein-Incorporated Polymersomes」を、本明細書の一部として援用する。米国仮出願番号61/055207「Protein Self-Producing Artificial Cell」を、本明細書の一部として援用する。
【実施例】
【0017】
次は本発明の実施形態の一つの例である。本発明の範囲を逸脱すること無く本実施例の多様な改変が実施され得ることは理解される。
【0018】
1.重合プロテオリポソーム
UV架橋性の化学基(例えばポリアセチレン)を疎水部に持つUV反応性の重合性脂質(例えば、16:0−23:2ジインPC(アバンティ・ポーラ・リピッド社カタログ番号790146)または23:2ジインPC(アバンティ・ポーラ・リピッド社カタログ番号870016)または10−12−ペンタコサイジン酸、ポリジアセチレン等)を、濃度5mg/mlでクロロホルムまたはt−ブタノールに溶解した。薄膜は二つの方法で作製し得る:
a.溶解した脂質溶液を、完全に乾燥したガラス製吸引フラスコに移した。ガラス器内に薄膜フィルムを形成するために、重質ガス(アルゴンまたは窒素ガス)噴流下で緩やかに振とうして該溶液を乾燥した。溶媒を完全に除去するために、乾燥した薄膜フィルムを4時間またはさらに長時間浄化した。
b.t−ブタノールに溶解した脂質溶液が入った丸底フラスコをロータリー・ベーパーに取り付け、約40℃から70℃、減圧下で該溶剤を除去した。該フィルムを約60分、または完全に乾かすためにさらに長時間、乾燥した。該フィルムは直ちに使用するか、または不活性ガス中で−80℃で保存し得る。
【0019】
次に、緩衝液−アクアポリン混合物(緩衝液の必要濃度(100mM MOPS−Na、pH7.5または20mM PBS、pH7.5)、界面活性剤(オクチルグルコシド、トリトンX−100、ドデシルマルトシド等)、およびタンパク質)を、薄膜フィルムを形成したガラス器に加えた。続いて、重質ガス噴流下で、薄膜フィルムとともに該混合物を該溶液が透明になるまで超音波処理した。その後、該溶液をアッセイ・バッファー(50mM MOPS−Na、150mM N−メチル−D−グルカミン、1mM アジ化ナトリウム、pH7.5、または20mM PBS緩衝液、pH7.5)に対して、少なくとも3回新鮮な緩衝液と交換しながら、2日間透析した。透析後、透析された該溶液をアッセイ・バッファーで2回希釈し、0.22μmの使い捨てシリンジ・フィルターでろ過した。UV重合化前に、アクアポリンを組み込んだプロテオリポソームの機能性をストップト・フロー流動光散乱法(SFLS)で測定した。この段階まで、全ての工程は暗室で行わなくてはならない。プロテオリポソームの透水性を計算するためには、リポソームの大きさを計測するために動的光散乱法(DLS)が必要である。
【0020】
重合プロテオリポソームを作製するために、10分間の波長254nmのUV照射によってプロテオリポソームを重合化した。
【0021】
2.プロテオリポソーム間またはプロテオリポソーム−インタースティシャル・マトリクス間の外部架橋を介して連結性を高めるための、脂質モノマー頭部の修飾
共有結合による化学的架橋を構築するために、光反応性架橋剤、ゼロ距離架橋剤、ホモ二官能性架橋剤、ヘテロ二官能性架橋剤、三官能性架橋剤、四官能性架橋剤、デンドリマー、およびその他のような、多様な種類の化学コンジュゲーションを使用した。光反応性架橋剤には、NHS−アクリル酸およびNHS−ASA(NHS−4−アジドサリチル酸)のようなアクリル酸誘導体およびアジ化アクリル誘導体、ならびにビス−[β−(4−アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド(BASED)がある。アミド結合のためのゼロ距離架橋剤には、EDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)塩酸塩、スルホ−NHS(N−ヒドロキシスルホスクシンイミド)を含むEDC、CMS(1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミド)、DCC(ジシクロヘキシルカルボジイミド)、DIC(ジイソプロピルカルボジイミド)、ウッドワード試薬K(N−エチル−3−フェニルイソオキサゾリウム−3’−スルホナート)、CDI(N,N’−カルボニルジイミダゾール)のようなカルボジイミドがある。従来のタンパク質結合法において、EDCはペプチド結合(アミド結合)を作るための生体適合性のメディエータである。この反応では、EDCによって活性化されたカルボキシル酸基またはリン酸基を介する共有結合による架橋(ペプチド結合)に、アミン基が必要である。ホモ官能性架橋剤には、ホモ官能性NHSエステルである、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)(DSP)、3,3’−ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオナート)(DTSSP)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、スベリン酸ビス(スルホスクシンイミジル)(BS3)、酒石酸ジスクシンイミジル(DST)、酒石酸ジスルホスクシンイミジル(スルホ−DST)、ビス[2−(スクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2−(スルホスクシンイミジルオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ−BSOCOES)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、グルタル酸ジスクシンイミジル(DSG)、炭酸N,N’−ジスクシンイミジル(DSC)、およびビスNHS(PEG)n、ならびにアジポイミド酸ジメチル(DMA)、ピメルイミド酸ジメチル(DMP)、スベルイミド酸ジメチル(DMS)、ジメチル3,3−ジチオビスプロピオンイミダート(DTBT)のようなホモ官能性イミドエステルがある。ヘテロ官能性架橋剤には、NHS−ヒドラジン基(SANH)、NHS−アルデヒド基(SFB)等がある。三官能性架橋剤には、4−アジド−2−ニトロフェニルビオシチン−4−ニトロフェニルエステル(ABNP)、スルホスクシンイミジル−2−[6−(ビオチンアミド)−2−(p−アジドベンズアミド)ヘキサノアミド]エチル−1,39−ジチオプロピオナート(スルホ−SBED)がある。
【0022】
四官能性架橋剤には、4個のビオチンと反応できるアビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジンがある。
【0023】
多くの多官能性アミン、ビオチン、カルボキシル酸、およびリン酸基を、合成脂質の疎水部に付加することができる。さらに、アクリル酸、ジアセチレン、メタクリル酸のような光反応性架橋剤が、プロテオリポソーム間またはインタースティシャル・マトリクス間の架橋を介して膜の固化を誘導するために使用される。
【0024】
3.ポリアミド・マトリクスへの脂質の組み込み
重合プロテオリポソームは、溶解性溶剤および他の反応に対して耐性が高い。従って、UV架橋性脂質(またはリポソーム。次では脂質に関してのみ例示する)自体を、ミオシン−アクチン繊維間の構造と同様に、重合性プロテオリポソームとポリアミド薄層との間の優良なリンカーとして使用し得ることが明らかになった。UV架橋性脂質をポリアミド薄層に植え込むために、エタノールアミンを含有する天然脂質およびUV架橋性脂質を使用した。該エタノールアミン基はポリアミド・マトリクスを形成するために追加のアミン源として使用し、疎水部がマトリクス面の反対側に向くことを予想した。この工程を行うために、MCE(セルロース混合エステル)およびナイロン多孔膜(デュラポアおよびアイソポア膜のような他の膜も使用し得る)を、脂質溶剤溶液中に浸した。続いて該溶剤を蒸発させ、m−フェニレンジアミンのようなジアミン化合物または他の何らかの多官能性アミン中でインキュベーションした。過剰量のアミン源を除去し乾燥した後、ヘキサンのような無極性溶媒に溶解したトリメソイルクロリド(TMC)のような多官能性ハロゲン化アシル(または、アミド結合を形成し得る他の何らかのアシル誘導体)で処理した。該反応は数秒で終了し、過剰量のTMCを脱イオン水中で完全に洗い流した。図4に示す構造が予想された。水接触角測定試験によって、脂質の親水部について予想されるよりも、疎水性が上昇していることが示された。この反応後、脂質含有マトリクスの疎水性が上昇していると考えられた。このことは、予想された通り親水部が外側に向いていることを意味する。
【0025】
4.PEG含有ハイドロゲルまたはアミン・デンドリマーのような生体適合性マトリクスへのイン・シチュ組み込み
インタースティシャル・マトリクスへの重合プロテオリポソームのイン・シチュ組み込みのためには、生体適合性の材料が必要である。ポリエチレングリコール(PEG)およびアミン・デンドリマーは該目的のための優良な候補である。
【0026】
ポリエチレングリコール(PEG)は、その可溶性および生体適合性ゆえに、生体分子をコンジュゲートするために利用されてきた。PEGは低い多分散性を示す一種のポリマーであり、UV架橋性試薬、金属キレート剤、蛍光、リガンド等のような反応基を取り込む能力を持つ。さらに、EDCを介するアミン基との生体適合性架橋反応を行えるように、PEGにカルボキシレート基を付加することができる。該PEGポリマーは、メタクリル酸UV架橋性化合物を付加することによって、ハイドロゲルを形成することができる。このPEGハイドロゲル法は以前の研究において、脂質平面膜の固化に使用された。本実施例においては、重合プロテオリポソーム間のナノサイズ架橋スペーサーとして、カルボキシル化またはアミン付加したPEGハイドロゲルを使用した。
【0027】
さらに、アミンを介する多種の架橋剤を用いるイン・シチュ架橋のために、一級アミン官能基を提供する3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)によって、セルロースを含む支持膜を活性化し得る。さらに併せて、UV架橋基を使用し得る。図6はハイドロゲル−プロテオリポソームの加工工程を示す。該重合プロテオリポソーム溶液およびUV架橋性PEGハイドロゲル溶液は、水性溶液である。該溶液は混合され、深さ調節可能な型に入れた基膜上に塗布される。UV硬化後、高度に緻密で固化した膜が形成される。
【0028】
デンドリマーは通常、エチレンジアミン(EDA)およびアクリル酸メチルにより予め構築された、多価のバイオコンジュゲート骨格分子として使用される。デンドリマーのサイズは、合成段階で、G−0(1.4nm、3アミン表面基)からG−4(4.4nm、48アミン表面基)のナノメートル単位で調節できる。これらのデンドリマーは多官能性アミンを付加した構造を持ち、EDCを介するアミド結合形成によるUV架橋性リポソーム親水部(頭部)中のリン酸化またはカルボキシル化基の架橋を介する、生体適合性のインタースティシャル・マトリクスとして使用できる。
【0029】
さらに、EDCを介する反応によりアミン基とのアミド結合を作るために、天然のヘテロ二官能性アミンであるポリ−L−リジンとSMCCとを併せ用いて、タンパク質に対する別の無毒性工程を用いることができる。いずれの材料由来のマトリクスも、重合プロテオリポソームを固定するための軟性クッションとなる生体適合性材料としてよく知られている。
【0030】
5.基膜を含まない逆浸透膜のための加工
重合プロテオリポソーム技術のさらなる適用においては、重合プロテオリポソームで被覆した加水分解ナイロン糸を生産し得る。高温(80℃)における該加水分解ナイロン糸は、その表面にカルボキシル基およびアミン基を含む。以前に言及したゼロ距離結合法と同様に、図7(a)に示すようにEDCを介するアミド結合形成によって、重合プロテオリポソームを活性化された糸上に共有結合で架橋し得る。またはAPTESで活性化されアミン架橋剤と相互作用するセルロース糸を使用してもよい。
【0031】
さらに不織繊維試料に二酸化炭素スプレーを併せ用いて、高密度ポリエチレンが形成され得ることが報告されている(インダストリアル・アンド・エンジニアリング・ケミストリー・リサーチ(Industrial & Engineering Chemistry Research)、1997年、第36巻、第5号、p.1586−1597)。本発明の重合プロテオリポソームは外部環境に対して高い耐性を持つので、それらの高密度ポリエチレン材料とともに使用してもよい。
【0032】
本発明は好ましい実施形態について開示したが、これに対して本発明の範囲から逸脱すること無く、多くの更なる改変および変更がなされ得ることは理解されよう。
【符号の説明】
【0033】
1…UV架橋性リポソーム(またはそのUV架橋性脂質)、2…UV架橋性官能基、3…脂質の疎水部、4…脂質の親水部、5…脂質の尾部、6…組み込まれるタンパク質、7…プロテオリポソーム、8…重合プロテオリポソーム、9…共有結合マトリクス、10…化学コンジュゲートを用いた共有結合による架橋、11…共有結合による架橋のための化学コンジュゲート、12…多孔質基膜、13…基膜、14…深さ調節可能な型、15…重合プロテオリポソームおよびUV架橋性のPEG溶液、16…重合プロテオリポソームで被覆した加水分解ナイロン糸、17…製織法による重合プロテオリポソーム膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム(7、8)を含む膜。
【請求項2】
リポソームが重合プロテオリポソーム(8)である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
リポソームがさらにリポソーム壁(1)に組み込まれたタンパク質(6)を含んでなる、請求項1または2の膜。
【請求項4】
膜がUV架橋性の化学構造(2)を持つリポソームから形成される、請求項1から3のいずれかに記載の膜。
【請求項5】
リポソームを形成する脂質(1)の一つまたは全ての疎水尾部(5)にUV架橋性の化学構造が含まれる、請求項4の膜。
【請求項6】
前記UV架橋性化学構造(2)が内部架橋のためのジアセチレンを含む、請求項4または5の膜。
【請求項7】
プロテオリポソーム間またはプロテオリポソーム−インタースティシャル・マトリクス間の外部架橋を介して連結性を増すために重合プロテオリポソーム(8)の疎水部(4)が化学的に修飾された、請求項1から6のいずれかに記載の膜。
【請求項8】
合成脂質の親水部(4)が多様な多官能性アミン、カルボキシル酸、および/またはリン酸基を含む、請求項7の膜。
【請求項9】
多種の化学コンジュゲート(11)を用いる共有結合性の架橋によって修飾が行われる、請求項6の膜。
【請求項10】
一つまたは複数の光反応性架橋剤、ゼロ距離架橋剤、ホモ二官能性架橋剤、ヘテロ二官能性架橋剤、三官能性架橋剤、デンドリマー、および他の既知の化学コンジュゲートを化学コンジュゲート(11)が含む、請求項8の膜。
【請求項11】
ゼロ距離架橋アミド結合のためのカルボジイミドを親水部(4)が含む、請求項6の膜。
【請求項12】
架橋剤としてEDC(1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)塩酸塩および/またはアミン架橋剤が使用される、請求項4から11のいずれかの膜。
【請求項13】
重合プロテオリポソーム自体がリンカーとして用いられる、請求項4から11のいずれかの膜。
【請求項14】
修飾された親水部(4)を持つ脂質(1)を含むポリアミド薄層(9)を含んでなる基膜(12)により形成される、請求項1から13のいずれかに記載の膜。
【請求項15】
アミンを含む天然脂質および/またはUV架橋性脂質を含むポリアミド薄層にリポソーム(1)が植え込まれた、請求項14の膜。
【請求項16】
基膜(12)がMCE(セルロース混合エステル)、セルロース膜、および/またはナイロン基膜である、請求項15の膜。
【請求項17】
リポソームで修飾されたポリアミド・マトリクス(12)にプロテオリポソーム(7)が連結された、請求項14から16のいずれかに記載の膜。
【請求項18】
共有結合性架橋のためにカルボキシル基またはアミン基を表面に含む加水分解ナイロン糸および/またはAPTESで活性化されたセルロース糸(16)をプロテオリポソーム(7)が含み、糸の製織(17)またはUV照射による架橋によって膜が形成される、請求項1から17のいずれかに記載の膜。
【請求項19】
重合プロテオリポソーム(8)で膜を形成するための工程であり、
(a)官能基(アミンまたはカルボキシル基)が活性化した基膜(13)の提供;
(b)重合プロテオリポソーム(8)の提供、基膜(13)上へのUV架橋性PEG溶液の塗布、および必要な場合はアミン−PEGとリン酸脂質との間のEDCを介する架橋および/または直接的なアミン架橋;
(c)膜固化のためのUV硬化;および
(d)型からの加工膜の取り外し、の段階を含んでなる工程。
【請求項20】
アクアポリン・タンパク質ファミリーのタンパク質(6)がリポソーム(1)に組み込まれた、膜が水ろ過膜である、請求項1から18のいずれかに記載の膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−516776(P2012−516776A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549234(P2011−549234)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/023043
【国際公開番号】WO2010/091078
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(506400111)
【Fターム(参考)】