説明

重合体分散物及び電気触媒インク

液体媒体中に一種以上のプロトン伝導性重合体材料を含んでなる重合体分散物、及び液体媒体中に一種以上の電気触媒材料及び一種以上のプロトン伝導性重合体材料を含んでなる電気触媒インクを開示する。重合体分散物及び電気触媒インクは、プロトン性酸をさらに含んでなる。これらの分散物及び/またはインクを使用して製造された電気触媒層、ガス拡散電極、触媒作用を付与したメンブラン及びメンブラン電極アセンブリーも開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体分散物、電気触媒インク及びそれらの製造方法に関する。さらに、本発明は、重合体分散物または電気触媒インクの、燃料電池及び他の電気化学的装置に使用する触媒層構造の製造における使用に関する。
【0002】
燃料電池は、電解質により分離された2個の電極を備えてなる電気化学的電池である。燃料、例えば水素またはメタノール、がアノードに供給され、酸化体、例えば酸素または空気、がカソードに供給される。これらの電極で電気化学的反応が起こり、燃料及び酸化体の化学的エネルギーが電気的エネルギー及び熱に変換される。
【0003】
プロトン交換メンブラン(PEM)燃料電池では、電解質は、電気的には絶縁性であるが、イオン的には伝導性である固体重合体メンブランである。典型的には、プロトン伝導性メンブラン、例えばペルフルオロスルホン酸材料を基材とするメンブラン、が使用され、アノードで発生するプロトンがメンブランを横切ってカソードに送られ、そこで酸素と結合して水を形成する。
【0004】
PEM質燃料電池の主要構成要素は、メンブラン電極アセンブリー(MEA)と呼ばれ、実質的に5つの層から構成されている。中央層は重合体メンブランである。このメンブランの両側に、典型的には白金系電気触媒を含んでなる電気触媒層がある。電気触媒は、電気化学的反応の速度を速める触媒である。最後に、各電気触媒層に隣接してガス拡散材料がある。ガス拡散材料は、多孔質で、導電性である。ガス拡散材料は、反応物を電気触媒層に到達させ、電気化学的反応により発生した電流を通す。
【0005】
MEAは、幾つかの方法により構築することができる。電気触媒層をガス拡散材料に施し、ガス拡散電極を形成することができる。2個のガス拡散電極をメンブランの両側に配置し、一つに張り合わせ、5層MEAを形成することができる。あるいは、電気触媒層をメンブランの両面に施し、触媒被覆されたメンブランを形成することができる。続いて、ガス拡散材料を、触媒被覆されたメンブランの両面に付ける。最後に、片側が電気触媒層で被覆されたメンブラン、その電気触媒層に隣接したガス拡散材料、及びメンブランの反対側にあるガス拡散電極からMEAを形成することができる。
【0006】
電気触媒層は、通常、電気触媒反応箇所と接触しているプロトン伝導性重合体を含む。これによって、プロトンがアノード反応箇所から、重合体メンブランを通して、カソード反応箇所に効率的に運ばれる。プロトン伝導性重合体を触媒層中に取り入れることにより、触媒の利用効率が改良される、すなわち触媒反応に実際に関与する白金系触媒の比率が増加する。触媒利用効率は、触媒、気体状反応物、及びプロトン伝導性重合体間の3相界面により影響を受ける。触媒利用効率を改良することにより、白金系触媒の量を増加せずに、MEA性能(特定電流密度における電池電圧として測定)を高めることができる。
【0007】
プロトン伝導性重合体を電気触媒層に取り入れる一つの方法は、電気触媒、プロトン伝導性重合体及び溶剤を含む電気触媒インクを調製し、このインクを好適な基材、例えばガス拡散材料メンブランまたは転写フィルム、に付与する方法である。プロトン伝導性重合体を電気触媒層に取り入れるもう一つの方法は、プロトン伝導性重合体の分散物を予備形成した電気触媒層に付与する方法である。ヨーロッパ特許第731520号明細書は、電気触媒インク及び/またはプロトン伝導性重合体分散物を使用し、インクまたは分散物中の溶剤が主として水性である、電気触媒層を製造する方法を開示している。大量の有機溶剤の取扱及び廃棄に関連する問題が解決されるので、工業的製造には、水性分散物及び/またはインクを使用するのが好ましい。
【0008】
本発明者らは、改良された水性重合体分散物及び電気触媒インクの製造を研究した。これらの分散物及びインクを使用し、改良された性能及び/またはより安定した性能を有する電池構成部品を製造できることが好ましい。
【0009】
したがって、本発明は、液体媒体中に一種以上のプロトン伝導性重合体材料を含んでなり、該液体媒体中の有機成分の総量が10重量%を超えない重合体分散物であって、該重合体分散物が、プロトン性酸をさらに含んでなることを特徴とする、重合体分散物を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、液体媒体中に一種以上の電気触媒材料及び一種以上のプロトン伝導性重合体材料を含んでなり、該液体媒体中の有機成分の総量が10重量%を超えない電気触媒インクであって、該電気触媒インクが、プロトン性酸をさらに含んでなることを特徴とする、電気触媒インクを提供する。
【0011】
本発明者らは、本発明の重合体分散物及び電気触媒インクを使用して製造したメンブラン電極アセンブリーは、現状技術水準により製造された重合体分散物及び電気触媒インクを使用して製造したメンブラン電極アセンブリーと比較して、性能が改良されていること、及び/または性能がより安定していることを見出した。さらに、本発明の分散物及びインクのレオロジー特性は、先行技術の分散物及びインクのレオロジー特性とは大きく異なっており、これによって、改良された電気触媒層を製造する方法を開発することができる。
【0012】
日本国特許第2005123106号明細書は、プロトン性酸を含んでなる触媒インクを開示している。しかし、本発明者らは、日本国特許第2005123106号明細書の触媒インクは、水性インクではなく、液体媒体が大量の有機成分を含むと考えている。有機性インクに対する酸の添加は、本発明者らが発見した、水性インクにおけるインク特性に対して同じ効果を示さない。
【0013】
分散物及びインク中のプロトン伝導性重合体材料は、酸性基を含むが、プロトン性酸は、追加の酸性成分である。用語「プロトン性」は、その酸がプロトン供与体、すなわちブレンステッド酸、であることを単に確認するために使用する。プロトン性酸は、重合体状材料ではなく、鉱酸、例えば硝酸または硫酸、であるのが好適であり、好ましくは硝酸である。
【0014】
プロトン性酸中の酸性プロトン数と、一種以上のプロトン伝導性重合体材料上の酸性プロトン数の比は、少なくとも0.5であるのが好適であり、好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは少なくとも1.2、最も好ましくは少なくとも1.4である。この比は、10未満であるのが好適であり、好ましくは5未満、最も好ましくは2未満である。本発明者らは、分散物またはインク中にプロトン性酸が存在することにより、分散物またはインク中の一種以上のプロトン伝導性重合体材料の構造が変化し、この効果は、プロトン性酸の量が増加するにつれてより顕著になることを見出した。この酸は、分散物またはインクの粘度も変化させ、大量の酸(例えば5を超える比)を加えることにより製造されたゲル状分散物またはインクは、通常の付与工程、例えばスプレーまたは印刷、には好適ではない場合がある。プロトン性酸中の酸性プロトンの数は、分散物またはインク中のプロトン性酸のモル数及びプロトン性酸の式から容易に求められ、例えば1モルの硝酸(HNO)は1モルの酸性プロトンを与える。一種以上のプロトン伝導性重合体上の酸性プロトンの数は、プロトン伝導性重合体の当量(EW)から容易に決定される。EWは、NaOH1モルを中和するのに必要な、酸形態にある重合体の重量(グラム)として定義される。ほとんどの市販されているプロトン伝導性重合体のEWは、公開されている。一種以上のプロトン伝導性重合体上の酸性プロトンのモル数は、重合体のグラムで表した量を、EWで割った数である。
【0015】
好適な電気触媒材料は、担持されていない電気触媒金属でもよいし、あるいは導電性基材、例えば高表面積粒子状炭素、上に担持された電気触媒金属でもよい。好ましい電気触媒金属は、他の貴金属、例えばルテニウム、と合金化することができる白金、または卑金属、例えばモリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル、クロムまたはチタン、である。電気触媒材料が担持された触媒である場合、金属粒子の炭素担体材料上への装填量は10〜100重量%、好ましくは15〜80重量%である。
【0016】
好ましいプロトン伝導性重合体材料は、過フッ化スルホン酸重合体、例えばNafion(商品名)、Flemion(商品名)及びAciplex(商品名)、である。プロトン伝導性材料の当量は、800〜1400が好適であり、好ましくは850〜1250である。
【0017】
液体媒体中の有機成分の総量は、10重量%を超えず、好適には5重量%を超えず、好ましくは1重量%を超えない。好ましい実施態様では、液体媒体は、有機成分を全く含まない。液体媒体は、少なくとも90重量%が水であるのが好適であり、好ましくは少なくとも95重量%が水であり、最も好ましくは99重量%が水である。好ましい実施態様では、液体媒体は100重量%が水である。
【0018】
本発明の重合体分散物及び電気触媒インクでは、一種以上のプロトン伝導性重合体材料の構造が、先行技術の方法による重合体分散物及び電気触媒インクにおけるプロトン伝導性重合体材料の構造と比較して、異なっている。この構造の違いは、遠心分離実験により分析することができ、その際、分散物またはインクは、上澄み液及び固体堆積物中に分離される。上澄み液中のプロトン伝導性重合体の量は、FTIRにより測定することができ、プロトン伝導性重合体粒子間の会合度を示している。プロトン伝導性重合体粒子間の会合度が低い場合、上澄み液中のプロトン伝導性重合体の量が高くなり、反対に、この会合度が高い場合、上澄み液中のプロトン伝導性重合体の量は低くなる。本発明の重合体分散物または電気触媒インクを20℃、15,000G’力で2時間遠心分離し、上澄み液及び固体堆積物に分離した場合、重合体分散物または電気触媒インク中に存在するプロトン伝導性重合体の30%未満、好ましくは20%未満、最も好ましくは10%未満が上澄み液中に残る。
【0019】
電気触媒インクの固体含有量は、15〜50重量%が好適であり、20〜35重量%が好ましい。一種以上の電気触媒材料中の電気触媒金属と、インク中の一種以上のプロトン伝導性重合体の重量比は、3:1〜1:3が好適であり、好ましくは2:1〜1:2である。
【0020】
本発明の別の態様では、本発明の重合体分散物の製造方法であって、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体材料を、有機成分の総含有量が10重量%を超えない液体媒体中に入れて分散物を調製する工程、及び
b)プロトン性酸を該分散物に添加する工程
を含んでなる、方法を提供する。
【0021】
本発明の重合体分散物を製造するための別の方法は、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体を液体媒体中に入れた分散物にプロトン性酸を添加する工程、及び
b)該液体媒体中の有機成分の総量が10重量%を超えないように、該液体媒体中の有機成分の総量を調節する工程
を含んでなる、方法を提供する。
【0022】
一種以上のプロトン伝導性重合体材料を実質的に水性(有機成分の総量が10重量%を超えない)の媒体に入れた分散物は、ヨーロッパ特許第731520号明細書に記載されている方法により製造することができる。市販されているプロトン伝導性重合体材料の溶液は、典型的には有機及び水性溶剤の混合物、例えばイソプロピルアルコールと水の混合物、で提供される。実質的に水性の溶液は、さらに水を加え、有機溶剤を留別することにより調製することができる。あるいは、プロトン性酸の水溶液を市販のプロトン伝導性重合体溶液に加え、有機溶剤を留別することができる。液体媒体中の有機成分の総量は、5重量%を超えないのが好適であり、1重量%を超えないのが好ましい。好ましい実施態様では、液体媒体は有機成分を全く含まない。
【0023】
本発明の電気触媒インクの製造方法は、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体材料を、有機成分の総含有量が10重量%を超えない液体媒体中に入れた分散物を製造する工程、
b)一種以上の電気触媒材料を該分散物に加える工程、及び
c)工程b)の前または後に、プロトン性酸を該分散物に加える工程
を含んでなる。
【0024】
本発明の電気触媒インクのもう一つの製造方法は、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体材料を液体媒体中に入れた分散物にプロトン性酸を加える工程、
b)該液体分散物に含まれる有機成分の総量が10重量%を超えないように、該液体媒体中の有機成分の総量を調節する工程、及び
c)一種以上の電気触媒材料を該分散物に加える工程
を含んでなる。
【0025】
一種以上のプロトン伝導性重合体材料を実質的に水性の媒体中に入れた分散物は、上記のように製造することができる。電気触媒材料は分散物に攪拌しながら加えるのが好ましい。
【0026】
分散物を調製する際に、電気触媒材料を分散物に添加する前に、または電気触媒材料を分散物に添加した後に、プロトン性酸を分散物に加えることができる。本発明者らは、プロトン性酸及び電気触媒材料を添加する順序がインクの特性に重大な影響を及ぼすとは考えていない。電気触媒インクは、使用する前に好ましくは12時間放置する。プロトン性酸中の酸性プロトン数と、一種以上のプロトン伝導性重合体材料上の酸性プロトン数の比は、少なくとも0.5である。
【0027】
本発明は、プロトン伝導性重合体を電気触媒層中に取り入れるための、本発明の重合体分散物を電気触媒層に付与することを含んでなる方法をさらに提供する。本発明は、プロトン伝導性重合体を電気触媒層中に取り入れるための、
a)一種以上の電気触媒材料を本発明の重合体分散物と混合し、電気触媒混合物を形成する工程、
b)該電気触媒混合物を乾燥させ、重合体含浸させた電気触媒材料を形成する工程、
c)該重合体含浸させた電気触媒材料を含んでなる電気触媒インクを調製する工程、及び
d)該電気触媒インクを基材に付与し、電気触媒層を形成する工程
を含んでなる、方法も提供する。
【0028】
本発明は、本発明の電気触媒インクを基材に付与することを含んでなる、電気触媒層の製造方法をさらに提供する。該基材は、ガス拡散材料(カーボンブラック及び疎水性重合体の微細孔質層を有していても、いなくてもよい)、重合体電解質メンブランまたは転写フィルムでよい。インクは、当業者には公知のいずれかの方法により、例えば印刷、スプレー、真空堆積またはキャスティングにより、付与できるが、好ましくは印刷により付与する。
【0029】
本発明は、ガス拡散電極の製造方法をさらに提供する。ガス拡散電極は、本発明の電気触媒インクをガス拡散材料に付与することにより、製造することができる。あるいは、ガス拡散電極は、本発明の電気触媒インクを転写フィルムに付与して電気触媒層を形成し、該電気触媒層を該転写フィルムからガス拡散材料に転写することにより、製造することができる。本発明のガス拡散電極は、本発明の重合体分散物を、予備形成されたガス拡散電極に付与することによっても製造することができる。インクまたは分散物の付与は、当業者には公知のいずれかの方法により、例えば印刷、スプレー、真空堆積またはキャスティングにより、付与できるが、好ましくは印刷により付与する。
【0030】
本発明は、触媒作用を付与したメンブランの製造方法をさらに提供する。この触媒作用を付与したメンブランは、本発明の電気触媒インクをメンブランに付与することにより、製造することができる。あるいは、触媒作用を付与したメンブランは、本発明の電気触媒インクを転写フィルムに付与して電気触媒層を形成し、該電気触媒層を該転写フィルムからメンブランに転写することにより、製造することができる。触媒作用を付与したメンブランは、本発明の重合体分散物を、予備形成された触媒作用を付与したメンブランに付与することによっても製造することができる。インクまたは分散物の付与は、当業者には公知のいずれかの方法により、例えば印刷、スプレー、真空堆積またはキャスティングにより、付与できるが、好ましくは印刷により付与する。
【0031】
本発明は、メンブラン電極アセンブリーの製造方法もさらに提供する。上記のようにして製造したガス拡散電極をメンブランと組み合わせることができ、上記のようにして製造した触媒作用を付与したメンブランをガス拡散材料と組み合わせることができる。
【0032】
実験により、本発明の重合体分散物及び電気触媒インクを使用して製造した電気触媒層及びメンブラン電極アセンブリーは、先行技術の触媒インクを使用して製造した電極及びメンブラン電極アセンブリーとは異なった物理的特性を有することが分かる。したがって、さらに別の態様で、本発明は、本発明の電気触媒インクまたは重合体分散物を使用して製造した電気触媒層、ガス拡散電極、触媒作用を付与したメンブラン及びメンブラン電極アセンブリーを提供する。
【0033】
ここで本発明を例により説明するが、この例は、本発明を制限するものではない。
【0034】
水性Nafion(商品名)重合体分散物の製造
水性Nafion(商品名)重合体分散物を、市販のNafion(商品名)溶液(1−プロパノール42〜54%、水40〜50%及びエタノール約2〜3%中固体5重量%、DuPont(商品名)EW 1100)から調製した。この市販溶液に脱イオン水を加え、有機溶剤を蒸留により除去した。
【0035】
比較例1 電気触媒インク
水性Nafion(商品名)重合体分散物(固体11.38%)112.01gを、攪拌しながら80℃に加熱した。この溶液を103.57gに濃縮した。電気触媒(Ketjen(商品名)300JDカーボン上Pt60重量%、20g)を高温溶液(80℃で)に攪拌しながら徐々に加えた。電気触媒を加えた後、溶液を高せん断ミキサーにより65℃で30分間混合した。得られた電気触媒インクは、一晩放置してから使用した。最終的なインクは、固体含有量が26.5%であった。
【0036】
例1 重合体分散物
1M硝酸を、Nafion(商品名)重合体分散物の6種類の試料に攪拌しながら加え、分散物を一晩放置した。重合体分散物に加えた硝酸の量を変え、硝酸と、Nafion(商品名)上の酸性基の比が0.44:1、0.8:1、1.07:1、1.33:1、1.6:1及び6.8:1である重合体分散物を形成した。
【0037】
例2 電気触媒インク
例1で調製した重合体分散物を使用し、電気触媒インクを製造した。電気触媒(Ketjen(商品名)300JDカーボン上Pt60重量%、20g)を重合体分散物に室温で攪拌しながら加えた。電気触媒を加えた後、溶液を高せん断ミキサーにより30分間混合した。このインクの固体含有量は26.5%であった。得られた電気触媒インクは、一晩放置してから使用した。硝酸と、Nafion(商品名)上の酸性基の比は1.6:1であった。
【0038】
例3 電気触媒インク
硝酸と、Nafion(商品名)上の酸性基の比が0.8:1になるように硝酸の量を変えた以外は、例2にしたがって電気触媒インクを製造した。
【0039】
例4 電気触媒インク
例1で調製した電気触媒インクに濃硝酸を(約10M溶液)を徐々に加えた。このインクを3時間攪拌した。得られた電気触媒インクは、一晩放置してから使用した。このインクの固体含有量は26.5%であった。硝酸と、Nafion(商品名)上の酸性基の比は1.8:1であった。
【0040】
例5 電気触媒インク
硝酸と、Nafion(商品名)上の酸性基の比が0.8:1になるように硝酸の量を変えた以外は、例4にしたがって電気触媒インクを製造した。
【0041】
遠心分離実験
比較例1及び例2の電気触媒インクの試料を遠心分離実験により分析した。これらのインクを20℃、15,000G’力で2時間遠心分離し、インクを固体堆積物と上澄み液に分離した。遠心分離物からデカンテーションした上澄み液中に残留するNafion(商品名)の量をFTIRにより測定した。1233.5cm−1におけるピーク高さを測定し、これを校正プロットと比較し、上澄み液中のNafion(商品名)濃度を決定した(ピーク高さはNafion(商品名)濃度と正比例する)。上澄み液中にあるNafion(商品名)の量は、上澄み液の重量及びNafion(商品名)濃度の百分率から計算した。最後に、上澄み液中にあるNafion(商品名)の量を、電気触媒インク中のNafion(商品名)量で割ることにより、上澄み液中に残留するNafion(商品名)の百分率を決定した。
【0042】
比較例1のインクに対する実験からデカンテーションした上澄み液中に残留するNafion(商品名)の百分率は40%であった。例2のインクに対する実験からデカンテーションした上澄み液中に残留するNafion(商品名)の百分率は4%であった。本発明のインクから得た上澄み液中に残留するNafion(商品名)の量は、比較例から得た量よりもはるかに少なかった。
【0043】
例1の重合体分散物も遠心分離実験で試験した。Nafion(商品名)水溶液(Nafion(商品名)12.5重量%を含む)に硝酸を様々な量で加え、次いで分散物を20℃、15,000G’力で2時間の遠心分離にかけた。遠心分離物からデカンテーションした上澄み液中に残留するNafion(商品名)の量を表1に示す。
【0044】
表1
硝酸と、Nafion(商品名) 0.44 0.8 1.07 1.33 1.6 6.8
上の酸性基の比
デカンテーションした液中に 79 24 25 10 11 0
残留するNafion(商品名)
の百分率
【0045】
粘度実験
比較例1、例2及び例4のインクの粘度を、レオメーターを使用して試験した。図1は、3種類のインクに対する流動曲線(粘度とせん断応力の関係)を示す。比較例1のインクには2種類の流動曲線があり、第一の流動曲線は、インクを高せん断ミキサーにより18分間混合した後に行った測定を示し、第二の流動曲線は、インクを高せん断ミキサーにより30分間混合した後に行った測定を示す。例2のインクに対する流動曲線は、18分間の高せん断混合の後に記録し、例4のインクに対する流動曲線は、30分間の高せん断混合の後に記録した。これらの流動曲線は、本発明のインクのマクロ構造が比較インクのマクロ構造とは大きく異なっていることを示す。本発明のインクは、著しく高い粘度を有する。
【0046】
図2は、比較例1及び例2のインクに対する振動数掃引実験の結果を示す。弾性率及び粘性モジュラスの測定を各インクに対して示し、本発明のインクのマイクロ構造が著しく弾性であるのに対し、比較インクは粘弾性であることが明らかである。
【0047】
メンブラン電極アセンブリーの製造
電気触媒層を含むメンブラン電極アセンブリーを、比較例1及び例2のインクを使用して製造した。ガス拡散電極は、インクをガス拡散材料にスクリーン印刷により付与して製造した。ガス拡散材料は、カーボンブラック及びPTFEの微細孔質層で被覆されたToray(商品名)TGP-H-060カーボン紙であった。電気触媒インクを、微細孔質層に付与し、白金装填量を0.4gPt/mにした。
【0048】
比較MEA1は、アノード及びカソードを30μm重合体電解質メンブラン(Flemion(商品名)SH-30)と組み合わせ、メンブラン電極アセンブリーを形成することにより、製造した。比較例1のインクを使用し、比較MEA1のカソードを製造した。アノードは、Vulcan XC72R上Pt40重量%触媒を含んでなる標準的なアノードである。
【0049】
例MEA1は、アノード及びカソードを30μm重合体電解質メンブラン(Flemion(商品名))と組み合わせ、メンブラン電極アセンブリーを形成することにより、製造した。例2のインクを使用し、例MEA1のカソードを製造した。アノードは、Vulcan XC72R上Pt40重量%触媒を含んでなる標準的なアノードである。
【0050】
燃料電池における性能
比較MEA1及び例MEA1を、燃料電池中、80℃で試験した。水素をアノードに、空気をカソードに、1.5:2.0の化学量論的量及び湿度100%で供給した。図3は、比較MEA1及び例MEA1の2個の試料に対する、電池電圧(500mAcm−2で測定)が時間と共にどのように変化するかを示す。例1のMEA試料は、電池電圧の経時低下を示さなかった。比較MEA1及び例MEA1の唯一の違いは、比較MEA1のカソードが比較例1のインク(酸を含まない)から製造され、例MEA1のカソードは例2のインク(硝酸を1.6:1の比で含む)から製造されたことである。図3は、本発明のインクが、公知のインクを使用して製造されたMEAよりも安定した性能を有するMEAを与えることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、3種類のインクに対する流動曲線(粘度とせん断応力の関係)を示す。
【図2】図2は、比較例1及び例2のインクに対する振動数掃引実験の結果を示す。
【図3】図3は、比較MEA1及び例MEA1の2個の試料に対する、電池電圧(500mAcm−2で測定)が時間と共にどのように変化するかを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体媒体中に一種以上のプロトン伝導性重合体材料を含んでなり、
前記液体媒体中の有機成分の総量が10重量%を超えないものであり、
前記重合体分散物が、プロトン性酸をさらに含んでなる、重合体分散物。
【請求項2】
前記プロトン性酸中の酸性プロトン数と、前記一種以上のプロトン伝導性重合体材料上の酸性プロトン数の比が、好適には少なくとも0.5である、請求項1に記載の重合体分散物。
【請求項3】
前記プロトン性酸が硝酸または硫酸である、請求項1または2に記載の重合体分散物。
【請求項4】
前記一種以上のプロトン伝導性材料が、一種以上の過フッ化スルホン酸重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の重合体分散物。
【請求項5】
液体媒体中に一種以上の電気触媒材料及び一種以上のプロトン伝導性重合体材料を含んでなり、
前記液体媒体中の有機成分の総量が10重量%を超えないものであり、
プロトン性酸をさらに含んでなる、電気触媒インク。
【請求項6】
前記プロトン性酸中の酸性プロトン数と、前記一種以上のプロトン伝導性重合体材料上の酸性プロトン数の比が、好適には少なくとも0.5である、請求項5に記載の電気触媒インク。
【請求項7】
前記プロトン性酸が硝酸または硫酸である、請求項5または6に記載の電気触媒インク。
【請求項8】
前記一種以上のプロトン伝導性材料が、一種以上の過フッ化スルホン酸重合体である、請求項5〜7のいずれか一項に記載の電気触媒インク。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を製造する方法であって、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体材料を、有機成分の総含有量が10重量%を超えない液体媒体中に入れて分散物を調製し、及び
b)プロトン性酸を前記分散物に添加することを含んでなる、方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を製造する方法であって、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体を液体媒体中に入れた分散物にプロトン性酸を添加し、及び
b)前記液体媒体中の有機成分の総量が10重量%を超えないように、前記液体媒体中の有機成分の総量を調節することを含んでなる、方法。
【請求項11】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを製造する方法であって、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体材料を、有機成分の総含有量が10重量%を超えない液体媒体中に入れた分散物を調製し、
b)一種以上の電気触媒材料を前記分散物に加え、及び
c)工程b)の前または後に、プロトン性酸を前記分散物に加えることを含んでなる、方法。
【請求項12】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを製造する方法であって、
a)一種以上のプロトン伝導性重合体材料を液体媒体中に入れた分散物にプロトン性酸を加え、
b)前記液体分散物に含まれる有機成分の総量が10重量%を超えないように、前記液体媒体中の有機成分の総量を調節し、及び
c)一種以上の電気触媒材料を前記分散物に加えることを含んでなる、方法。
【請求項13】
プロトン伝導性重合体を電気触媒層中に取り入れるための方法であって、
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を電気触媒層に付与することを含んでなる、方法。
【請求項14】
プロトン伝導性重合体を電気触媒層中に取り入れるための方法であって、
a)一種以上の電気触媒材料を、請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物と混合し、電気触媒混合物を形成し、
b)前記電気触媒混合物を乾燥させ、重合体含浸させた電気触媒材料を形成し、
c)前記重合体含浸させた電気触媒材料を含んでなる電気触媒インクを調製し、及び
d)前記電気触媒インクを基材に付与し、電気触媒層を形成することを含んでなる、方法。
【請求項15】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを基材に付与することを含んでなる、電気触媒層を製造する方法。
【請求項16】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクをガス拡散材料に付与する、ガス拡散電極の製造方法。
【請求項17】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを転写フィルムに付与して電気触媒層を形成し、
前記電気触媒層を前記転写フィルムからガス拡散材料に転写する、ガス拡散電極の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を、予備形成されたガス拡散電極に付与する、ガス拡散電極の製造方法。
【請求項19】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクをメンブランに付与する、触媒作用を付与したメンブランの製造方法。
【請求項20】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを転写フィルムに付与して電気触媒層を形成し、
前記電気触媒層を前記転写フィルムからメンブランに転写する、触媒作用を付与したメンブランの製造方法。
【請求項21】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の重合体分散物を、予備形成された、触媒作用を付与したメンブランに付与する、触媒作用を付与したメンブランの製造方法。
【請求項22】
ガス拡散電極を、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法により製造し、メンブランと組み合わせる、メンブラン電極アセンブリーの製造方法。
【請求項23】
触媒作用を付与したメンブランを、請求項19〜21のいずれか一項にしたがって製造し、ガス拡散材料と組み合わせる、メンブラン電極アセンブリーの製造方法。
【請求項24】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を使用して製造された電気触媒層。
【請求項25】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを使用して製造された電気触媒層。
【請求項26】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を使用して製造されたガス拡散電極。
【請求項27】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを使用して製造されたガス拡散電極。
【請求項28】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を使用して製造された、触媒作用を付与したメンブラン。
【請求項29】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを使用して製造された、触媒作用を付与したメンブラン。
【請求項30】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の重合体分散物を使用して製造されたメンブラン電極アセンブリー。
【請求項31】
請求項5〜8のいずれか一項に記載の電気触媒インクを使用して製造されたメンブラン電極アセンブリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−540793(P2008−540793A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511801(P2008−511801)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【国際出願番号】PCT/GB2006/050112
【国際公開番号】WO2006/123187
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】