説明

重合可能なイオン性液体およびそれを用いた重合体

【課題】リチウムイオン二次電池で用いられるリチウムイオン伝導性セパレータ、燃料電池のプロトン伝導体やクロマトグラフィーの充填物等として使用することができる、イオン性液体部位を高分子骨格に導入した機能性高分子材として利用するため、二重結合を有する新規な重合可能なイオン性液体、およびそれを用いた重合体の提供。
【解決手段】下記の(A)〜(C)を有するカチオン部分と、アミノ酸由来のアニオン部分と、から構成されるイオン性液体を提供する。(A)アレーン基(B)アレーン基に結合する二重結合含有基(C)アレーン基に結合するイミダゾリウムまたは誘導体、第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムからなる群から選ばれる基

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合可能なイオン性液体およびそれを用いた重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
力学的強度や加工性を向上させる目的でイオン性液体を高分子化する試みが近年行われている。一般には高分子化合物は液体とならない場合が多いが、低いガラス転移温度を有するイオン性液体モノマーを単位構造とするため、高分子化イオン性液体と呼ばれる。イオン性液体部位を高分子骨格に導入することのメリットは、機能性高分子材料として利用できることにある。
【0003】
例えば、リチウムイオン二次電池で用いられるリチウムイオン伝導性セパレータ、燃料電池のプロトン伝導体やクロマトグラフィーの充填物等として使用すること期待できる。
【0004】
近年、アミノ酸に基づく性質をイオン性液体に付与できるため、アミノ酸をアニオンとするイオン性液体(アミノ酸イオン性液体)が提案され(例えば、特許文献1または2)、注目を浴びているが、高分子化アミノ酸イオン性液体の報告例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−269414号公報
【特許文献2】特開2008−285414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、二重結合を有する重合可能な新規イオン性液体、およびそれを用いた重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1は、下記の(A)〜(C)を有するカチオン部分と、アミノ酸由来のアニオン部分とから構成されるイオン性液体である。
(A)アレーン基
(B)アレーン基に結合する二重結合含有基
(C)アレーン基に結合するイミダゾリウムまたは誘導体、第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムからなる群から選ばれる基
【0008】
本発明の2は、上記イオン性液体を重合してなる重合体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、安価で容易に入手できるアミノ酸を構成部位に有する高分子化アミノ酸イオン性液体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】VBI―Ser()の1H−NMRチャートである。
【図2】Poly(VBI−Ser)()の1H−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の1において、(A)アレーン基は、芳香族によって構成される原子団であって、少なくとも(B)と(C)の原子団に結合している基である。アレーン基はπ電子が非局在化し、環上にわたって分布しており、6員環である必要もなく、5員環の芳香族化合物、単一環のみならず、ナフタレン、アントラセン等の複数環も含む。また、π電子が非局在化している限り複素環も含む。また、イオン性液体となる限り、(B)および(C)以外の置換基があってもよい。
【0012】
具体的には、ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン、ピリジン等を骨格として持つアレーン基があるが、反応を進めやすいことからベンゼンであることが一般的である。アレーン基の好適な具体例を以下に示す。
【0013】
【化1】

【0014】
(B)アレーン基に結合する二重結合含有基とは、重合性の二重結合を基内に有する原子団である。重合性の二重結合は、重合する限り二重結合含有基のどこに存在しても良いが、一般には末端、すなわち、アレーン基と結合する反対側に存在することが好ましい。また、直鎖型のみならず、分岐型の基であってもよい。
【0015】
具体的にはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が一般的であるが、反応のしやすさ等からエチレン基がアレーン基に直接結合しているものが好ましい。
【0016】
(C)アレーン基に結合するイミダゾリウムまたは誘導体、第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムからなる群から選ばれる基は、アレーン基に結合し、カチオンとなる基である。イオン性液体となりうる限り、アレーン基に直接結合するのみならず、分岐若しくは直鎖のアルキル鎖を介して結合していても良い。また、置換基、分岐等を有していても良い。
【0017】
一般的なものとしては、アレーン基にイミダゾリウム、第4級アンモニウム、第4級ホスホニウムが直接結合しているものが挙げられる。
【0018】
具体的なカチオン部分は、スチレンやα−メチルスチレンにイミダゾリウムまたは誘導体、第4級アンモニウム、第4級ホスホニウムの1種類以上が結合したものが良い。これらは、ハロゲンイオン、アルキル硫酸イオン、アルキル亜硫酸イオン等の負イオンと塩をつくる。特に好ましいのは、1−(4−ビニルベンジル)−3−ブチルイミダゾリウムクロリドである。
【0019】
本発明においてアニオン部分は、アミノ酸由来のものである。かかるアミノ酸は、アミノ基とカルボキシル基を有すれば、天然アミノ酸であっても、合成によるアミノ酸であってもよく、またアミノ酸の誘導体であっても良い。
【0020】
好ましいアミノ酸としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、アスパラギン酸、プロリン、2−アミノ酪酸、2−アミノイソ酪酸、2−アミノシクロペンタンカルボン酸などが挙げられる。
【0021】
本発明の1のイオン性液体は、通常の方法で合成できるが、アミノ酸がアニオンカチオンのいずれにもなる可能性があるため、まず、アミノ酸を陰イオン交換樹脂に吸着担持させる。ここで、吸着担持とは、イオン交換樹脂のイオン交換基へ目的とするイオン性液体のアニオン部位を構成する基がアニオンの形で化学的または物理的に結合または作用することをいう。その後、アミノ酸が吸着担持された陰イオン交換樹脂にカチオン部分とハロゲン等の負イオンの塩を溶媒に溶かし、接触させる。流出物はイオン交換により、前記塩のカチオン部分とアミノ酸のアニオン部分が会合し、イオン性液体となり、溶媒を除去することによりイオン性液体を回収することが出来る。
【0022】
以下、本発明の1のイオン性液体の好適な合成方法について、より詳細に説明する。
【0023】
まず、陰イオン交換樹脂にアミノ酸を吸着担持させる。すなわち、アミノ酸を溶媒に溶解し、陰イオン交換樹脂に接触させる。この際、陰イオン交換樹脂のイオン交換基は、水酸基(−OH)が吸着担持されている。かかる陰イオン交換樹脂としては市販のものが存在するが、必要に応じて陰イオン交換樹脂に水酸化ナトリウムの水溶液を接触して調製しても良い。アミノ酸はナトリウム等の塩の形で接触させるよりもカルボキシル基が酸性のまま接触させることが良い。
【0024】
陰イオン交換樹脂にアミノ酸を吸着担持させる際には、アミノ酸のカルボキシル基がイオンの状態で存在する。ここに、イオン性液体のカチオン部分とハロゲンイオン等との塩を反応させる。塩としてはハロゲン化塩を使用するのが好ましい。イオン性液体のカチオン部分とハロゲン化物イオンとからなる塩は、純水を溶媒にして前記のイオン交換樹脂と接触させるのがよい。但し、化合物の種類によっては、イオン交換樹脂に影響しない範囲でアルコールと水の混合物を使用することも可能である。
【0025】
これらの反応は、イオン交換樹脂の特性から室温、具体的には20〜35℃程度で反応させるのが良い。
【0026】
こうして、イオン性液体のカチオン部分とハロゲン化物イオンとからなる塩を接触させた後、溶媒を除去すると本発明の1のイオン性液体を得ることが出来る。
【0027】
本発明の2は前記のイオン性液体を重合してなる重合物である。
【0028】
重合方法は重合性二重結合を重合させる方法が任意で使用でき、電磁波を用いた重合でも、熱重合でも可能であるが好ましくは、ラジカル開始剤を使用することがよい。
【0029】
ラジカル開始剤としては、10時間半減期温度が160℃以下の有機過酸化物またはアゾ化合物等が好ましく用いることができ、具体的には例えば、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオキシアセテート、t−ペルオキシオクトエート、t−ブチルペルオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾビスイソブチレート等が挙げられ使用に際しては1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
前記ラジカル重合開始剤の使用量は本発明のイオン性液体100重量部に対し10重量部以下、特に好ましくは5重量部以下である。
【0031】
また、重合時には共重合モノマーとして本発明のイオン性液体以外のモノマーを共存させることも可能である。
共重合可能なモノマーとしては特に制限はないが、希望とするイオン伝導度を損なわない程度の配合にすることができる。
【0032】
さらに、形状を持って使用したい場合には、加熱重合または共重合をさせる時に、例えば前記モノマーとラジカル重合開始剤とを直接所望の型枠内に仕込み、好ましくは0〜200℃、1〜48時間加熱することにより重合させることができる。
【0033】
この際重合系は、例えば窒素、二酸化炭素、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。
【0034】
重合体の数平均分子量(Mn)は1000〜100000程度であり、Mw/Mnは1〜2程度である。
【0035】
本発明の2の重合体は、本発明の1のイオン性液体を重合させることにより得られる。
重合方法は、任意であるが、ラジカル開始剤を使用した重合が好ましく使用できる。例えば、100℃以下で分解の始まるアゾ系の化合物を用い、80〜120℃で反応をさせる。この際、必要に応じ窒素置換を行っても良い。この際溶媒を使用して反応させるのが一般的である。反応溶媒は、例えば純水、トルエン、ベンゼンにジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、およびp−クロロアニリン、DMFなどが使用される。混合して使用しても良い。
【0036】
反応の時間は1時間から20時間程度が一般的である。
また、この際、必要に応じ他の重合性モノマーや反応停止剤などを共存させても良い。
反応終了後、溶媒を除去することにより、本発明のイオン性液体の重合物を得ることが出来る。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
[重合性アミノ酸イオン性液体の合成]
【化2】


イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、SA10AOH)10.3gにイオン交換水を加えスラリー状とし、内径2cmのクロマトカラム管に充填した。L−セリン(3.15g、30mmol)をイオン交換水(20mL)に溶解させ、得られた水溶液を上記カラム管に展開した。この際、出てきた水溶液を繰り返し展開した。次に、1−(4−ビニルベンジル)−3−ブチルイミダゾリウム クロリド()(以下、VBICと略す)(2.51g, 9.13mmol)をイオン交換水(20mL)に溶解させ、得られた水溶液を上記カラム管に展開した。この際、出てきた水溶液を繰り返し展開した。得られた水溶液を濃縮し、そこにMeCN:MeOH=20mL:5mLを投入し、未反応のL−セリンを析出させろ別し、ろ液をロータリーエバポレーターで水を除去後、真空ポンプで減圧乾燥することにより、黄色の粘性液体である1−(4−ビニルベンジル)−3−ブチルイミダゾリウム−(L−セリン)()(以下、VBI−Serと略す)を収率95%(2.98g)で得た。得られた化合物のH−NMRを図1および以下に示す。
H−NMR(DO、600MHz、ppm):δ=7.21−7.39(6H、m)、6.57(1H、m)、5.71(1H、d)、5.19(1H、d)、5.19(3H、m),4.02(2H、t)、3.54−3.63(3H、m)、3.20(2H、t)、1.67(2H、m)、1.10(2H、m)、0.75(3H、t)
【0038】
[高分子化アミノ酸イオン性液体の合成]
【化3】


窒素雰囲気下、摺付き試験管にVBI−Ser()(4.0mmol)、水溶性ラジカル重合開始剤VA−086(和光純薬工業(株)製)(0.12mmol)およびDMF/水=2mL/2mLの混合溶媒を入れ、磁気攪拌子を入れた後、三方コックを取り付けた。真空凍結脱気により窒素置換を行った後、95℃で10時間加熱撹拌した。反応の進行に伴い、反応溶液に粘性が見られた。反応終了後、溶媒を留去することにより目的の骨格を有するPoly(VBI−Ser)()を淡黄色固体として得た。得られた化合物のH−NMRを図2および以下に示す。
H−NMR(DO、600MHz、ppm):δ=5.81−7.61(6H、br)、5.24(2H,s)、3.98(2H、br)、3.38−3.89(3H、m)、0.21−1.89(10H、br)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(C)を有するカチオン部分と、アミノ酸由来のアニオン部分と、から構成されるイオン性液体。
(A)アレーン基
(B)アレーン基に結合する二重結合含有基
(C)アレーン基に結合するイミダゾリウムまたは誘導体、第4級アンモニウムおよび第4級ホスホニウムからなる群から選ばれる基
【請求項2】
請求項1に記載のイオン性液体を重合してなる重合体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−285508(P2010−285508A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139495(P2009−139495)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】