説明

重合性カルボン酸誘導体およびそれを含有する接着性組成物

【課題】歯科治療において、分子内に酸性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーおよび水を必須として含む接着性組成物棚寿命および接着性能の向上および水を含まない接着性組成物の接着性の向上。
【解決手段】一般式[1]:


[式中、Rは重合性基を示し;Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示す。で表される、分子内に重合性基とカルボン酸を有する化合物またはその塩である重合性ホスホン酸誘導体を含む接着性組成物の提供。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体に関する。さらに、本発明は、前記重合性カルボン酸誘導体を含有し、歯質と歯科用修復材との接着において、強力な接着性を発現しうる接着剤またはプライマーのごとき接着性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科臨床では、歯牙のう蝕部を除去して窩洞形成し、窩洞の歯科用接着剤処理後、コンポジットレジンを充填するう蝕治療がなされている。しかし、これらの材料の歯質接着性が不十分な場合、歯髄刺激や二次う蝕やコンポジットの脱落などが問題となっている。
【0003】
歯科用接着剤では、従来、分子内に酸性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーなどの接着性モノマーを必須として含む1液性のセルフエッチングプライマーや1液性の1ステップボンディング材などが提案され製品化されているが、強い酸性溶液中で(メタ)アクリレート系モノマーなどのエステル結合が加水分解することや接着剤と歯質との接着界面での加水分解などにより接着性が低下するといった問題がある。
最近、接着性に対する不安要素を解決するため、酸性基を有する(メタ)アクリルアミド系モノマーに関する技術が多く開示されている。
【0004】
マクロモレキュール・ケミストリー・フィジックス200巻、1062−1067頁(1999年)には、エステル結合を有さないホスホン酸基含有モノマーが加水分解による接着劣化を防ぎ製品の棚寿命を改善するという報告がある。
【0005】
特開2003−89613号公報およびジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ、83巻、特別号、演題No.#2661には、N−メタクリロイル−ω−アミノアルキルホスホン酸およびN−メタクリロイルグリシンを含むセルフエッチングプライマーが、加水分解による接着性能の劣化を改善することが報告されている。
しかし、N−メタクリロイル−ω−アミノアルキルホスホン酸の例えばN−メタクリロイルアミノエチルホスホン酸は水系プライマーでの加水分解安定性に優れるものの疎水系レジンに溶解しない欠点がある。
【0006】
最近、いわゆる加水分解安定性を標榜する接着性モノマーが数多く報告されている。そのような接着性モノマーは、特開2006−176511号公報、特開2006−176522号公報、特開2006−199695号公報、特開2006−514114号公報、および特開2006−520344号公報などにより報告されている。
【0007】
この中で、特開2006−176511号公報、特開2006−176522号公報および特開2006−520344号公報で開示されている化合物は分子内にリン酸エステル基を有するため、そのC−O−P結合が加水分解されるリスクがある。
【0008】
特開2006−199695号公報および特開2006−514114号公報で開示されている化合物は、加水分解安定性が期待できるが、水や疎水系レジンへの溶解性に疑問が残る。
【0009】
このように、従来、水系のセルフエッチングプライマーや1液性の歯科用1ステップボンディング材における加水分解による製品棚寿命の悪化によって接着性能が低下する問題を解決するため種々の接着性モノマーが提案されているが、十分とはいえない。
【0010】
【特許文献1】特開2003−89613号公報
【特許文献2】特開2006−176511号公報
【特許文献3】特開2006−176522号公報
【特許文献4】特開2006−199695号公報
【特許文献5】特開2006−514114号公報
【特許文献6】特開2006−520344号公報
【非特許文献1】マクロモレキュール・ケミストリー・フィジックス200巻、1062−1067頁(1999年)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ、83巻、特別号、演題No.#2661
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来、強い酸性溶液中で、分子内に酸性基を有する(メタ)アクリレート系モノマーなどの接着性モノマーのエステル結合が加水分解されることや接着剤と歯質との接着界面での加水分解などの接着性に対する不安要素を解決するため、酸性基を有する(メタ)アクリルアミド系モノマーに関する接着性モノマーが種々提案されているが、上記のような問題を解決するのに十分とはいえない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である特有の重合性カルボン酸誘導体を新規に提供すること、さらに前記重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物が、歯質と歯科用修復材との接着において、強力な接着性を発現し、酸性の組成物においても加水分解安定性を発揮しうることを確認して、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である特有の重合性カルボン酸誘導体、および前記重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物は、従来の課題を解決し、接着性組成物の棚寿命を維持し接着性能を維持し、患者のう蝕の治療や歯の保存をより確実なものとするため、歯科医療に大きく貢献できる価値の高いものである。
【0014】
本発明の分子内に1つのN−(メタ)アクリロイル基を有するアミノアルキルトリメリット酸およびその酸無水物である重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物は、接着性組成物に水を含む場合も水を含まない場合も、該接着性組成物の棚寿命を維持し接着性能を維持するため、歯科分野に限らず、整形外科や一般産業分野の接着剤、塗料、ラッカー等の分野で使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
すなわち、本発明は、一般式[1]:
【化7】

[式中、
Rは重合性基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
各Xは、それぞれ互いに独立して、酸素原子または硫黄原子を示し;
各Yは、それぞれ互いに独立して、同一であってもまたは異なっていてもよい有機基を示し;
各Zは、それぞれ互いに独立して、同一であってもまたは異なっていてもよく、さらに任意に選ばれる一部のZまたは全てのZは、重合性基およびカルボン酸基以外の有機基である置換基を1以上有する有機基を示し;
pは1から10の整数であり;
qは1からpまでの整数であり;
ここに、pが1であるとき、qは1であって、
は酸素原子または硫黄原子を示し;
は有機基を示し;
は酸性基および重合性基以外の有機基である置換基を1以上有する有機基を示す。]で表される化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体を提供する。
【0016】
さらに、本発明は、一般式[1]においてとりわけ下記の一般式[2]:
【化8】

[式中、
Rは重合性基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
Xは酸素原子または硫黄原子を示し;
Yは水素原子または有機基を示し;
Zは重合性基およびホスホン酸基以外の置換基を1以上有する有機基を示し;
ここに、
YおよびZは、それらが結合する窒素原子と一緒になって、環状有機基を形成してもよい。]で表される化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体を提供する。
【0017】
さらに、本発明は、一般式[1]または[2]において、特に下記の一般式[3]:
【化9】

[式中、
Rは重合性基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
およびXは、それぞれ互いに独立して、酸素原子または硫黄原子を示し;
およびYは、それぞれ互いに独立して、水素原子または有機基を示し;
およびZのいずれかまたは両方は、炭素原子または有機基を示し、さらに重合性基および酸基以外の置換基を1以上有してもよい有機基を示し;
ここに、
およびY、Z、Zは、それぞれの置換基が複数で環状有機基を形成してもよく、
rは0から3の正の整数を示す。]で表される化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、一般式[1]〜[3]において、特に下記の一般式[4]:
【化10】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはカルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を置換基に有する芳香族の基を 含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;
は水素原子または有機基を示し;
nは1から20の正の整数を示す。]で表される化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、一般式[1]〜[4]において、特に下記の一般式[5]および/または一般式[6]:
【化11】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物および/または
【化12】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;
nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物である重合性カルボン酸誘導体を提供する。
【0020】
さらに、本発明は、一般式[1]〜[6]の化合物の塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ZnおよびCdよりなる群から選ばれる金属原子との塩、またはアミン塩であることを特徴とする重合性カルボン酸誘導体を提供する。
【0021】
本発明は、一般式[1]〜[4]の重合性カルボン酸誘導体が、下記の一般式[5]および/または一般式[6]:
【化13】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;
nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物であるの重合性カルボン酸誘導体および前記重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物および/または
【化14】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物であるの重合性カルボン酸誘導体および前記重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物を提供する。
【0022】
本発明化合物の一般式[1]〜[6]で表される重合性カルボン酸誘導体の合成はいかなる合成方法を用いてもよい。
例えば、本発明化合物のN−(メタ)アクリロイル基を有するアミノアルキルトリメリット酸及びその無水物の合成方法は、ジアミン化合物の一方のアミノ基を保護基で保護します[一般式7]。とます。この化合物のもう一方のアミノ基と(メタ)アクリル酸クロリドを反応させることにより一般式[8]の化合物を得ます。保護基を除去して一般式[9]の化合物を得ます。一般式[9]の化合物に無水トリメリット酸クロリドを反応させることにより一般式[10]の化合物を得ます。さらに、一般式[10]の化合物を加水分解することにより、一般式[11]の本発明化合物を合成することができる。
【0023】
具体的に、一般式[11]の本発明化合物であるN−(メタ)アクルアミド基を有するトリメリット酸及びその無水物の合成経路における各単位反応は、
(1)ジアミン化合物への保護基の導入[一般式7]
【化15】

【00244】
(2)(メタ)アクリル酸クロリドとの反応によるアミド化反応[一般式8]
【化16】

【00255】
(3)保護基の除去[一般式9]
【化17】

【00266】
(4)無水トリメリット酸塩化物との反応[一般式10]
【化18】

【00277】
(5)加水分解[一般式11]
【化19】

【00288】
さらに、本発明は、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体を提供する。
【002929】
本発明は、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩であるラジカル重合性カルボン酸誘導体、および前記ラジカル重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物を提供する。
【0030】
一般式[5]および/または一般式[6]:
【化20】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;
nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物および/または
【化21】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;
nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物であるの重合性カルボン酸誘導体または、そのカルボン酸基のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアミン塩はいかなる合成法で製造してもかまわない。
【0031】
本発明の重合性カルボン酸誘導体の一般式において、「有機基」なる用語は、脂肪族基、環状基、または脂肪族と環状基との組合せ(例えば、アルカリールおよびアラルキル基)として分類される炭化水素基(炭素と水素以外に、任意の元素、例えば、酸素、窒素、硫黄、リンまたはケイ素が含有されていてもよい。)を意味する。本発明において、この有機基は、硬組織表面のためのエッチング剤が生成するのを妨害しないものである。
【0032】
本発明の重合性カルボン酸誘導体の一般式において、「環状基」なる用語は、閉環した炭化水素基を意味し、それらは、脂環式基、芳香族基、または複素環式基に分類される。その重合性の基が、エチレン性不飽和基であるのが好ましい。このエチレン性不飽和基が、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基またはビニル基であることがより好ましい。
【0033】
本発明において、(メタ)アクリロイルは、メタクリロイルおよびアクリロイルの双方を意味しており、例えば、4−[2−(N−メタクリロイルアミノエチルアミノ)]−トリメリット酸、4−[3−(N−メタクリロイルアミノプロピルアミノ)]−トリメリット酸、4−[3−(N−メタクリロイルアミノ−iso−プロピルアミノ)]−トリメリット酸、4−[4−(N−メタクリロイルアミノブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[4−(N−メタクリロイルアミノ−iso−ブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[5−(N−メタクリロイルアミノペンチルアミノ)]−トリメリット酸、4−[5−(N−メタクリロイルアミノ−iso−ペンチルアミノ)]−トリメリット酸、4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[6−(N−メタクリロイルアミノ−iso−ヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[10−(N−メタクリロイルアミノデシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[10−(N−メタクリロイルアミノ−iso−デシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[2−(N−メタクリロイルアミノエチルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[3−(N−メタクリロイルアミノプロピルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[3−(N−メタクリロイルアミノ−iso−プロピルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[4−(N−メタクリロイルアミノブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[4−(N−メタクリロイルアミノ−iso−ブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[5−(N−メタクリロイルアミノペンチルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[5−(N−メタクリロイルアミノ−iso−ペンチルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[6−(N−メタクリロイルアミノ−iso−ヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[10−(N−メタクリロイルアミノデシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[10−(N−メタクリロイルアミノ−iso−デシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、またはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアミン塩である。
【0034】
本発明の分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体は、4−[2−(N−メタクリロイルアミノエチルアミノ)]−トリメリット酸、4−[4−(N−メタクリロイルアミノブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[10−(N−メタクリロイルアミノデシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[2−(N−メタクリロイルアミノエチルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[4−(N−メタクリロイルアミノブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[10−(N−メタクリロイルアミノデシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、およびこれらのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩またはアミン塩が特に好ましい。
【0035】
本発明は、本発明化合物の一般式[1]〜[6]および[8]で表される、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物に関する。
【0036】
ここで、本発明の接着性組成物は、接着性を発揮する組成物である接着剤および接着剤の接着性を促進する組成物であるプライマーを含む。
【0037】
本発明の「接着剤」とは、歯科用コンポジットレジンとエナメル質や象牙質への接着性を促進しうる歯科用ボンディング剤、金属接着性を向上させるレジンセメントやボンディング剤、アルミナやジルコニアなどの歯科用セラミックス材料や歯科用陶材への接着性を促進させるレジンセメントやボンディング剤、およびフィラーを含有する自己接着性コンポジットレジンなどを示す。
【0038】
本発明の「プライマー」とは、歯科用コンポジットレジンと歯科用ボンディング剤を用いてエナメル質や象牙質への接着性を促進しうるセルフエッチングプライマー、金属接着性を向上させる金属接着プライマー、アルミナやジルコニアなどの歯科用セラミックス材料や歯科用陶材への接着性を促進させるセラミックスプライマーなどを示す。
【0039】
本発明は、一般式[1]〜[6]および[8]で表される、分子内に重合性基とホスホン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体以外の重合性モノマーをさらに含む接着性組成物を提供する。
【0040】
本発明は、さらに、(a)一般式[1]〜[6]および[8]で表される、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体、(b)一般式[1]〜[6]および[8]で表される、分子内に重合性基とホスホン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体以外の酸性基を有する重合性モノマー、(c)酸性基を含有しない重合性モノマー、(d)重合開始剤、および(e)水を含む接着性組成物を提供する。
【0041】
本発明の一般式[1]〜[6]および[8]で表される、分子内に重合性基とカルボン酸基を有する化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体以外の酸性基を有する重合性モノマーは、従来から歯科用接着性モノマーとして使用されているモノマーの中で、特に分子内にリン酸エステル基、ホスホン酸基、ピロリン酸基などのリン酸基、カルボキシル基およびカルボキシル基の酸無水物基、スルホン酸基などを1以上有し、(メタ)アクリロイル基およびN−(メタ)アクリロイルアミド基などの重合性基を含むラジカル重合性モノマー、およびこれら酸性基を有するラジカル重合性モノマーのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアミン塩から選択して使用できる。
本発明において、例えば、メチル(メタ)アクリレートはメチルメタクリレートおよびメチルアクリレートの双方を意味する。
【0042】
本発明の重合性カルボン酸誘導体以外のリン酸基含有ラジカル重合性モノマーとして、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピル−3−ホスホノプロピオネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルホスホノアセテート、4−(メタ)アクリロキシブチル−3−ホスホノプロピオネート、4−(メタ)アクリロキシブチルホスホノアセテート、5−(メタ)アクリロキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、5−(メタ)アクリロキシペンチルホスホノアセテート、6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、ビス[2−(メタ)アクリロキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5−(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、N−(メタ)アクリロイル−ω−アミノプロピルホスホン酸、N−(メタ)アクリロイル1−アミノ−1−ベンジルホスホン酸、N−メタクリロイル1−メチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル1−エチル−1−アミノホスホン酸、N−メタクリロイル1−ブチル−1−アミノホスホン酸、5−(N−メタクリロイル)ペンチル−1−アミノメチルホスホン酸、6−(N−メタクリロイル)ヘキシル−1−アミノメチルホスホン酸、10−(N−メタクリロイル)デシル−1−アミノメチルホスホン酸、6−(N−メタクリロイル)ヘキシル−1−アミノプロピルホスホン酸、6−(N−メタクリロイル)ヘキシル−2−アミノプロピルホスホン酸、10−(N−メタクリロイル)デシル−2−アミノプロピルホスホン酸、およびこれらのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩またはアミン塩等が挙げられる。
【0043】
本発明の重合性カルボン酸誘導体以外の分子内にカルボキシル基およびカルボキシル基の酸無水物基を有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、メタクリル酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、およびこれらの酸無水物、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1、1−ヘキサンジカルボン酸、7−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘプタンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1、1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、N−(メタ)アクリロイルアラニン、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸などのN−(メタ)アクリロイルアミノ酸類、およびこれらのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩またはアミン塩等が挙げられる。
【0044】
本発明の重合性カルボン酸誘導体以外の分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、6−スルホヘキシル(メタ)アクリレート、10−スルホデシル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩またはアミン塩等が挙げられる。
【0045】
これらの本発明の重合性カルボン酸誘導体以外の分子内に酸性基を有するラジカル重合性モノマーは、単独または、適宜組み合わせて使用されるが、中でも6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノアセテート、6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロキシデシルハイドロジェンホスフェート、N−(メタ)アクリロイル1−アミノ−1−ベンジルホスホン酸、N−メタクリロイル1−メチル−1−アミノホスホン酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4−(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物などが好ましい。
【0046】
これらの分子内に酸性基を有するラジカル重合性モノマーは1以上任意に選択して使用できる。これらの分子内に酸性基を有するラジカル重合性モノマーの配合量は、本発明の接着性組成物の総量に対して、1重量%〜80重量%であり、好適には3重量%〜60重量%であり、特に好適には5重量%〜30重量%である。1重量%未満および80重量%を超えると接着性が低下する。
【0047】
本発明に加えてもよい酸性基を含有しない重合性モノマーが、脂肪族および芳香族の単官能または多官能のラジカル重合性モノマーであり、歯科分野および一般工業界で使用されているラジカル重合性不飽和二重結合を有する、モノマー、オリゴマーおよびプレポリマーから選択して使用できる。また、イオウ原子を分子内に有する重合性モノマー、フルオロアルキル基を分子内に有する重合性モノマー、フッ素イオン放出能を有する官能基を含む化合物も使用できる。これらの酸性基を含有しない重合性モノマーから任意に1以上選択して加えることができる。
【0048】
これらの酸性基を含有しない重合性モノマーの具体的例示としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス{4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル}プロパン;ビスフェノールA−ジグリシジル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロキシエチル−2,2,2−トリメチルヘキサメチレンジウレタンである。
【0049】
本発明の水は、医療用に許容できる水であり、精製水や蒸留水やイオン交換水が好ましい。
【0050】
本発明の重合開始剤は、例えば、過酸化物類、α−ジケトン類、(ビス)アシルホスホンオキサイド類、クマリン化合物、およびチオキサントン誘導体などから任意に1以上選択して使用できる。さらに重合促進剤加えて使用してもよい。市販の歯科用光重合器に用いられているハロゲンランプ、LED、キセノンランプなどの光源を選ぶことなく、優れた硬化特性を得るため、これらの重合開始剤と重合促進剤を複数選択して使用してよい。
【0051】
過酸化物類が、ベンゾイルパーオキサイド、4,4’−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシマレイックアシッドの中からから任意に1以上選択してなることが好ましい。α−ジケトン類が、DL−カンファーキノンまたはベンジルであることが好ましい。(ビス)アシルホスフィンオキサイド類が、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)アシルホスフィンオキサイドであることが好ましい。クマリン化合物が3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)および3,3’−カルボニルビス(7−ジブチルアミノクマリン)であることが好ましい。チオキサントン誘導体が2−クロルチオキサンセン−9−オンが好ましい。
【0052】
その他光重合開始剤として、水溶性光重合開始剤である、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド・ナトリウムおよび2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9H−チオキサンテン−2−イルオキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパンアミニウムクロライドを用いることもできる。
【0053】
本発明に加えてもよい重合促進剤が、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステルなどのアミン類、5−ブチルバルビツール酸、1,3,5−トリメチルバルビツール酸、1−シクロヘキシル−5−エチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸などのバルビツール酸類、およびジ−n−オクチル錫ジラウレートおよびジ−n−ブチル錫ジラウレートなどの有機錫化合物、および2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジンなどのトリハロメチル基置換−1,3,5−トリアジン化合物であることが好ましい。
【0054】
本発明に有機溶剤加えてもよく、なかでもアセトンおよびエタノールが好ましい。
【0055】
本発明にフィラーを加えてもよい。フィラーとして超微粒子フィラー、フッ素徐放性フィラー、ポリマーおよびシリカフィラーであることが好ましい。
【0056】
本発明の接着性組成物の機械的強度、操作性、塗布性、流動性の調整のため、適宜フィラーを配合してもよい。歯科で一般的に用いることができるフィラーであれば用いることができる。超微粒子フィラー、およびフッ素徐放性フィラー、ポリマーおよびシリカフィラーが特に好適である。
【0057】
本発明の接着性組成物のゲル化を防止して棚寿命の安定化のために含まれる重合防止剤としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられるが、ハイドロキノンモノメチルエーテルおよびブチル化ヒドロキシトルエンが適している。
【0058】
以上説明したように、本発明は、成分(a)本発明の重合性カルボン酸誘導体、成分(b)本発明の重合性カルボン酸誘導体以外の重合性モノマー、成分(c)酸性基を含有しない重合性モノマー、成分(d)重合開始剤、および成分(e)水を含む接着性組成物を提供するものであり、ここで、各成分の配合量は、成分(a)〜(d)の総量を100重量%としたとき、成分(a):0.01〜70重量%、成分(b):0.01〜70重量%、成分(c):0.01〜60重量%、および成分(d):0.01〜30重量%であり、好ましくは、成分(a):0.1〜40重量%、成分(b)0.1〜40重量%、成分(c):0.1〜40重量%および成分(d):0.1〜10重量%であって、さらに好ましくは、成分(a):0.1〜30重量%、成分(b):0.1〜30重量%、成分(c):0.1〜30重量%および成分(d):0.1〜5重量%である。さらに、成分(e)水の配合量は、本発明の接着性組成物の総量に対して、0.1〜99.5重量%であり、好ましくは5〜80重量%であり、さらに好ましくは10〜60重量%である。
【0059】
すなわち、本発明の接着性組成物は、必要に応じて非水溶性の酸性基含有ラジカル重合性モノマー、分子内に酸性基を含有しないラジカル重合性モノマー、重合開始剤、フィラー、有機溶剤、変性剤、増粘剤、染料、顔料から適宜選択して加えることができる。
これら剤は歯科分野および一般工業界で使用されている物を用いることができる。
【0060】
本発明の接着性組成物は、実施する態様として、1液性セルエッチングプライマー、1液性1ステップ型のボンディング材として使用して、歯科用コンポジットレジン、低粘度コンポジットレン、レジンセメント、レジンモディファイドグラスアイオノマーセメント、フィッシャーシーラント、歯列矯正用接着剤、歯面コーテイング材、オペーク材などとセットにして使用することができる。
【実施例】
【0061】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
実施例1
4−(6−メタクリルアミドヘキシルカルバモイル)フタル酸{慣用名:4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸}(4−MET)の合成
【化22】

【0063】
[1A]2−(6−アミノヘキシル)−2−イソインドール−1,3−ジオン(1)の合成11.6g(100mmol)のヘキサン−1,6−ジアミンおよび14.8g(100mmol)の無水フタル酸を酢酸に溶解して110℃で3時間撹拌し、減圧下で酢酸を留去することによって、黄色液体の目的化合物を得た。
収率:90%
核磁気共鳴スペクトル(H NMR、400MHz、CDCl、ppm):δ1.34(m、4H、NH−CH−CH−C−C−)、δ1.62(m、4H、NH−CH−C−CH−CH−C−)、δ2.79(m、2H、NH−C−)、δ3.64(t、2H、NH−CH−CH−CH−CH−CH−C−)、δ7.69(d、2H、aromatic)、δ7.79(t、2H、aromatic)。
【0064】
以上の分析結果から、生成物は2−(6−アミノヘキシル)−2−イソインドール−1,3−ジオン(1)と確認された。
【0065】
[1B]N−6−(1,3−ジオキソイソインドーリン−2−イル)ヘキシルメチルアクリルアミド(2)の合成
21.9g(90mmol)の2−(6−アミノヘキシル)−2−イソインドール−1,3−ジオン、37.4gの炭酸カリウム、14.1g(136mmol)のメタクリロイルクロライドをアセトニトリルに溶解して0℃で24時間撹拌し、減圧下でアセトニトリルを留去した。得られた粗生成物にクロロホルムを添加し、イオン交換水、飽和炭酸水素ナトリウム、希塩酸で順次洗浄し、クロロホルム層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下でクロロホルムを留去することによって、黄色固体の目的化合物を得た。
収率:62%
核磁気共鳴スペクトル(H NMR、400MHz、CDCl、ppm):δ1.36(m、4H、−NH−CH−CH−C−C−)、δ1.53(m、2H、−NH−CH−C−)、δ1.64(m、2H、−NH−CH−CH−CH−CH−C−)、δ1.95(s、3H、−C)、δ3.29(m、2H、−NH−C−)、δ3.67(t、2H、−NH−CH−CH−CH−CH−CH−C−)、δ5.30(s、1H、−C=C)、δ5.66(s、1H、−C=C)、δ7.70(d、2H、aromatic)、δ7.81(t、2H、aromatic)。
【0066】
以上の分析結果から、生成物はN−6−(1,3−ジオキソイソインドーリン−2−イル)ヘキシルメチルアクリルアミド(2)と確認された。
【0067】
[1C]N−(6−アミノヘキシル)メタクリルアミド(3)の合成
17.8g(56.5mmol)のN−6−(1,3−ジオキソイソインドーリン−2−イル)ヘキシルメチルアクリルアミドおよび21.2mLのヒドラジン一水和物をエタノールに溶解して室温で72時間撹拌し、減圧下でエタノールを留去した。得られた組成生物をオープンカラムクロマトグラフィーによって分離することによって、白色固体の目的化合物を得た。
収率:50%
核磁気共鳴スペクトル(H NMR、400MHz、CDCl、ppm):δ1.34(m、4H、NH−CH−CH−C−C−)、δ1.44(m、4H、NH−CH−C−CH−CH−C−)、δ1.95(s、3H、−C)、δ2.67(m、2H、NH−C−)、δ3.31(m、2H、NH−CH−CH−CH−CH−C−)、δ5.30(s、1H、−C=C)、δ5.65(s、1H、−C=C
【0068】
以上の分析結果から、生成物はN−(6−アミノヘキシル)メタクリルアミド(3)と確認された。
【0069】
[1D]N−(6−メタクリルアミノヘキシル)トリメリティックアミド(4){慣用名:4−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)−トリメリット酸無水物}(4−MATA)の合成
3.0g(16.3mmol)のN−(6−アミノヘキシル)メタクリルアミド、2.0g(25.4mmol)のピリジン、3.4g(20.3mmol)の無水トリメリット酸クロライドをジクロロメタンに溶解して0℃で24時間撹拌した。この反応混合物を希塩酸、飽和炭酸水素ナトリウム、イオン交換水で順次洗浄し、ジクロロメタン層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、減圧下でジクロロメタンを留去した。得られた粗生成物をオープンカラムクロマトグラフィーによって分離し、黄色粘性体の目的化合物を得た。
収率:62%
核磁気共鳴スペクトル(H NMR、400MHz、CDCl、ppm):δ1.34〜1.59(m、8H、−NH−CH−C−C−C−C−)、δ1.92(s、3H、−C)、δ3.19〜3.26(m、4H、−NH−C−CH−CH−CH−CH−C−)、δ5.28(s、1H、−C=C)、δ5.68(s、1H、−C=C)、δ7.50(d、1H、aromatic)、δ7.67(d、1H、aromatic)、δ8.10(s、1H、aromatic)。
【0070】
以上の分析結果から、生成物はN−(6−メタクリルアミノヘキシル)トリメリティックアミド(4)と確認された。
【0071】
[1E]4−(6−メタクリルアミドヘキシルカルバモイル)フタル酸(5){慣用名:4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸}(4−MAT)の合成
N−(6−メタクリルアミノヘキシル)トリメリティックアミド(4)を加水分解することによって黄色粉末の目的化合物を得た。
収率:95%
核磁気共鳴スペクトル(H NMR、400MHz、DMSO−d、ppm):δ1.34〜1.59(m、8H、−NH−CH−C−C−C−C−)、δ1.92(s、3H、−C)、δ3.19〜3.26(m、4H、−NH−C−CH−CH−CH−CH−C−)、δ5.28(s、1H、−C=C)、δ5.68(s、1H、−C=C)、δ7.37(d、1H、aromatic)、δ7.68(d、1H、aromatic)、δ7.88(s、1H、aromatic)。
【0072】
以上の分析結果から、生成物は4−(6−メタクリルアミドヘキシルカルバモイル)フタル酸(5)と確認された。
【0073】
実施例2および比較例1
接着性プライマーの調製と接着強さの測定
本発明化合物を含むプライマーを歯科用セルフエッチングプライマーの態様で実施するにあたり、本発明化合物の4−MAT、蒸留水およびアセトンを表1に示す組成で混合して1液性プライマーを調製した。比較として、従来のカルボン酸系接着性モノマーである4−メタクリロキシエチルトリメリット酸(4−MET)を用いて同様に1液性プライマーを調製した。
【0074】
調製された2種のプライマーを使用して、2−ステップにより、エナメル質または象牙質とコンポジットレジンの剪断接着試験を実施した。歯質は人歯に換えて新鮮抜去牛前歯を用いその歯根部を削除して歯髄除去後、エポキシ樹脂包埋して用いた。同牛歯の唇面エナメル質を耐水研磨紙600番で注水下研磨して研磨エナメル質を用意した。同様に歯質を研磨して研磨象牙質を用意した。研磨した歯面を油分のない圧搾エアーで乾燥し、直径4mmの穴あき両面テープを貼りつけ接着面を規定した。次にプライマーを目皿に滴下し、マイクロブラシで接着規定面に塗布し、10秒間こするように処理した後、油分のない弱い圧搾エアーを5秒間ブローして揮発成分を蒸発させた。その表面に光重合型ボンディング剤「フルオロボンドII」(株式会社 松風製)をマイクロブラシで塗布し歯面上に薄く広げた。続いて松風グリップライトII(株式会社 松風製)で10秒間光照射した。その後、直径4mm、高さ2mmのプラスチックモールドを接着規定面枠に固定し、モールド内に光重合型コンポジットレジン「ビュティーフィルII」(株式会社 松風製)を填入し、松風グリップライトIIで20秒間光照射しコンポジットレジンを光硬化後、モールドを除去して接着試験体を作製した。
【0075】
接着試験体を37℃蒸留水中24時間浸漬後、同試験体を剪断接着強さ用冶具にセットし、インストロン万能試験機(インストロン5567、インストロン社)を用い、クロスヘッドスピード1mm/分にて剪断接着強さを測定して、n=8の平均値を求めた。さらに、調製直後のプライマーを使用した場合の「調製直後−接着強さ」に加えて、50℃乾燥機に3ヶ月放置してエイジングした2種のプライマーをもちいて、同様に歯質−コンポジットの接着試験を行って「50℃/3M−接着強さ」を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
本発明の4−MAT含有のプライマーを使用した本発明の接着性組成物(実施例2)の歯質接着強さは、調製直後および50℃/3M後のいずれの場合も高い歯質接着強さを示し、保存安定性が高いことが明らかとなった。しかし、従来のメタクリル酸エステル系の4−METを使用した場のプライマー(比較例)の場合は、50℃/3M後の歯質接着強さが著しく低下した。また、50℃/3M−接着強さにおいて、両者間に統計学的に有意な差が認められた。すなわち、本発明の接着性組成物(実施例2)が従来の接着性組成物(比較例)より保存安定性に優れることが立証された。以上の結果より、本発明の接着性組成物は従来の接着性組成物に比べて、50℃乾燥機に3ヶ月放置してエイジングした場合、優れた保存安定性を示した。
本実験結果より、分子内にアミド基を有するメタクリロイルアミド系カルボン酸モノマーである本発明の4−MATが水系プライマー組成中での加水分解に対する安定性を示したのに対し、従来のメタクリロイルエステル系カルボン酸モノマーである4−METでは加水分解により接着性組成物として接着性能が著しく損なわれた結果によると考えられた。
【0078】
実施例3
本発明化合物の4−MATAを用いて粉液タイプの室温重合性歯科用接着剤を試作調製した。4−MATA(5重量部)、ポリメチルメタクリレート(65重量部)、ポリエチルメタクリレート(28重量部)、シリカフィラー(1.5重量部)、および過酸化ベンゾイル(0.5重量部)を混合して粉材を調製した。
メチルメタクリレート(98重量部)、エチレングリコールジメタクリレート(1重量部)、およびN,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン(1重量部)を混合して液材を調製した。該歯科用接着剤を、粉液比2:1で混合したとき、硬化時間は室温で5分であった。サンドブラスト処理を施した歯科用ニッケル−クロム合金「スマロイニッケル」(株式会社 松風製)に対する剪断接着試験を実施例2と同様に実施した結果、剪断接着強さは、30.5MPaであった。
同様に本発明化合物の4−MATAに換えて、4−メタクリロイルエチルトリメリット酸無水物(4−META)を用いて粉液タイプの室温重合性歯科用接着剤を試作調製して、剪断接着試験を実施例2と同様に実施した結果、剪断接着強さは、28.5MPaであった。
本実験結果より、本発明化合物の4−MATAは、水を含まない接着剤組成物においても接着性能が高いことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

[式中、
Rは重合性基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
各Xは、それぞれ互いに独立して、酸素原子または硫黄原子を示し;
各Yは、それぞれ互いに独立して、同一であってもまたは異なっていてもよい有機基を示し;
各Zは、それぞれ互いに独立して、同一であってもまたは異なっていてもよく、さらに任意に選ばれる一部のZまたは全てのZは、重合性基およびカルボン酸基以外の有機基である置換基を1以上有する有機基を示し;
pは1から10の整数であり;
qは1からpまでの整数であり;
ここに、pが1であるとき、qは1であって、
は酸素原子または硫黄原子を示し;
は有機基を示し;
は酸性基および重合性基以外の有機基である置換基を1以上有する有機基を示す。]で表される化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体。
【請求項2】
一般式[2]:
【化2】

[式中、
Rは重合性基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
Xは酸素原子または硫黄原子を示し;
Yは水素原子または有機基を示し;
Zは重合性基およびホスホン酸基以外の置換基を1以上有する有機基を示し;
ここに、
YおよびZは、それらが結合する窒素原子と一緒になって、環状有機基を形成してもよい。]で表される化合物またはその塩である請求項1に記載の重合性カルボン酸誘導体。
【請求項3】
一般式[3]:
【化3】

[式中、
Rは重合性基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
およびXは、それぞれ互いに独立して、酸素原子または硫黄原子を示し;
およびYは、それぞれ互いに独立して、水素原子または有機基を示し;
およびZのいずれかまたは両方は、炭素原子または有機基を示し、さらに重合性基および酸基以外の置換基を1以上有してもよい有機基を示し;
ここに、
およびY、Z、Zは、それぞれの置換基が複数で環状有機基を形成してもよく、
rは0から3の正の整数を示す。]で表される化合物またはその塩である請求項1または2に記載の重合性カルボン酸誘導体。
【請求項4】
一般式[4]:
【化4】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはカルボン酸基および/またはカルボン酸無水物基を置換基に有する芳香族の基を 含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;
は水素原子または有機基を示;
nは1から20の正の整数を示す。]で表される化合物またはその塩である重合性カルボン酸誘導体である請求項1から3いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体。
【請求項5】
一般式[5]および/または一般式[6]:
【化5】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物および/または
【化6】

[式中、
は水素原子またはメチル基を示し;
Wはリン酸基以外の酸基を置換基に有する芳香族の基を含む有機基を示し;
は重合性基および酸基以外の有機基を示し;nは1から20の正の整数である。]で表される化合物またはその塩を示す化合物である請求項1から3いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体。
【請求項6】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、ZnおよびCdよりなる群から選ばれる金属原子との塩、またはアミン塩であることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体。
【請求項7】
4−[2−(N−メタクリロイルアミノエチルアミノ)]−トリメリット酸、4−[4−(N−メタクリロイルアミノブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[10−(N−メタクリロイルアミノデシルアミノ)]−トリメリット酸、4−[2−(N−メタクリロイルアミノエチルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[4−(N−メタクリロイルアミノブチルヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[6−(N−メタクリロイルアミノヘキシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、4−[10−(N−メタクリロイルアミノデシルアミノ)]−トリメリット酸無水物、およびこれらのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩またはアミン塩である請求項1から6いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体を含む接着性組成物。
【請求項9】
請求項1から7いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体以外の重合性モノマーをさらに含む請求項8に記載の接着性組成物。
【請求項10】
(a)請求項1から7いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体、(b)請求項1から7いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体以外の酸性基を有する重合性モノマー、(c)酸性基を含有しない重合性モノマー、(d)重合開始剤、および(e)水を含む請求項8または9に記載の接着性組成物。
【請求項11】
(a)請求項1から7いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体、(b)請求項1から7いずれかに記載の重合性カルボン酸誘導体以外の酸性基を有する重合性モノマー、(c)酸性基を含有しない重合性モノマー、および(d)重合開始剤を含む請求項8または9に記載の接着性組成物。

【公開番号】特開2011−57657(P2011−57657A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229964(P2009−229964)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(390011143)株式会社松風 (125)
【Fターム(参考)】