説明

重合性リン酸エステル組成物

【課題】水硬性粉体等の分散剤等の製造原料等として好適な重合性リン酸エステル組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表わされるリン酸モノエステル(I)と特定のリン酸ジエステル(II)とを、(I)/(II)=90/10〜40/60の重量比で含有する重合性リン酸エステル組成物。


[式中、Rは、水素原子又はメチル基、Rは、炭素数2〜4のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性リン酸エステルを含有する組成物であり、無機粉体や有機粉体の分散剤として、又高い減水率を有するセメント分散剤用等の原料として好適に使用できる重合性リン酸エステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸モノエステル、リン酸ジエステル等のリン酸エステルは界面活性剤、金属結合材、繊維の帯電防止剤等様々な分野で用いられている。リン酸エステル化は、一般に五酸化リン等のリン酸無水物とリン酸、ポリリン酸等と有機ヒドロキシ化合物との縮合反応により工業的に製造されている。また、リン酸エステルの中でも分子中にメタアクリロイル基等を有する重合性リン酸エステルは、重合性等が優れており、従来、繊維処理剤、塗料、歯科材料等で用いられている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平11-80175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、無機粉体や有機粉体の分散剤用原料として、特に水硬性粉体の分散剤用原料として好適な重合性リン酸エステル組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、下記一般式(I)で表されるリン酸モノエステル(I)と下記一般式(II)で表されるリン酸ジエステル(II)とを、(I)/(II)=90/10〜40/60の重量比で含有する重合性リン酸エステル組成物に関する。
【0005】
【化4】

【0006】
〔式中、R1は、水素原子又はメチル基、R2は、炭素数2〜4のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【0007】
【化5】

【0008】
〔式中、R3、R6は、水素原子又はメチル基、R4、R5は、炭素数2〜4のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【0009】
また、本発明は、上記本発明の組成物からなる無機粉体や有機粉体の分散剤として、又水硬性粉体等の無機粉体の分散剤用原料に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、無機粉体や有機粉体の分散剤として、又水硬性粉体の分散剤原料として好適な重合性リン酸エステル組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
リン酸モノエステル(I)及びリン酸ジエステル(II)において、一般式(I)ないし(II)中のR1、R3、R6は、水素原子又はメチル基であり、R2、R4、R5は炭素数2〜4のアルキレン基である。nはアルキレンオキサイドの平均付加モル数を示し、0.1〜20の数であり、好ましくは1〜10の数である。
【0012】
本発明の重合性リン酸エステル組成物は、無機粉体や有機粉体の分散剤として、又水硬性粉体の分散剤用原料として使用される場合の性能等の観点から、リン酸モノエステル(I)と下記一般式(II)で表されるリン酸ジエステル(II)とを、(I)/(II)=90/10〜40/60、好ましくは80/20〜45/55の重量比で含有する。
【0013】
本発明に用いられる重合性リン酸エステル組成物は、例えば対応する有機ヒドロキシ化合物と、無水リン酸又はオキシ塩化リン等のリン酸化剤とを、リン酸モノエステル(I)とリン酸ジエステル(II)とが上記の割合で得られるような条件で反応させて得られる。有機ヒドロキシ化合物としては、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。好ましくは、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルである。反応時にリン酸(オルトリン酸)が生成するが、本発明の重合性リン酸エステル組成物は、リン酸モノエステル(I)とリン酸ジエステル(II)の合計に対して、リン酸を30重量%以下、更に15重量%以下、特に12重量%以下で含有することが、純度や経済的観点から、好ましい。
【0014】
また、本発明の重合性リン酸エステル組成物は、リン酸モノエステル(I)とリン酸ジエステル(II)の合計に対して、下記一般式(III)で表される化合物を30重量%以下、更に15重量%以下、特に12重量%で含有することが、純度や経済的観点から、好ましい。
【0015】
【化6】

【0016】
〔式中、R7、R8は、水素原子又はメチル基、R9は、炭素数2〜4のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【0017】
重合性リン酸エステル組成物が含有する化合物の確認は、一般的に31P−NMRから容易に行うことができ、本発明にても同様である。また、副生成物である上記一般式(III)のアルキレングリコールジメタクリレートは、ガスクロマトグラフィーを用いて定量することができる。
【0018】
本発明の重合性リン酸エステル組成物は、重合性基を有する化合物を含有することから、重合禁止剤を含有することが好ましい。重合禁止剤として、ハイドロキノン系、ニトロソアミン系等が挙げられ、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、β−ベンゾキノン、メチル−p−ベンゾキノン、tert−ブチル−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−tert−ブチル−ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,5−ビス(1,1−ジメチルブチル)ハイドロキノン、tert−ブチル−ハイドロキノン、p−ベンゾキノン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン・アルミニウム塩、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチル)ハイドロキノン等が例示される。これらの重合禁止剤の添加量は、リン酸モノエステル(I)とリン酸ジエステル(II)の合計に対し0.0005〜5重量%が好ましく、0.001〜1重量%がさらに好ましい。
【0019】
本発明の重合性リン酸エステル組成物は、繊維処理剤、塗料、歯科材料等の原料等として有用であるが、無機粉体や有機粉体の分散剤用原料として、特に水硬性粉体用の分散剤、特に高い減水性を発現するコンクリート分散剤用の原料等として好適である。
【実施例】
【0020】
実施例1
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル371.5g(2.86モル)と75%リン酸50.5g、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.6gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン(有効分98.5%)178g(1.25モル)を反応系内の温度が60℃を超さないように1時間で仕込んだ。その後、80℃に昇温して5時間反応し、高速液体クロマトグラフィーによりメタクリル酸2−ヒドロキシエチルが1%以下になったのを確認して冷却した。得られた重合性リン酸エステル組成物中のリン酸モノエステル(I)とリン酸ジエステル(II)の重量比、リン酸(オルトリン酸)含量、エチレングリコールジメタクリレート含量を表1に示す。
【0021】
実施例2
冷却水に浸した1000ml容量の反応容器に、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル500g(3.8モル)とハイドロキノンモノメチルエーテル0.6gを仕込み0.5時間撹拌し、五酸化リン(有効分98.5%)185gを反応系内の温度が60℃を超さないように1時間で仕込んだ。その後、80℃に昇温し、5時間反応後、高速液体クロマトグラフィーによりメタクリル酸2−ヒドロキシエチルが1%以下になったのを確認して冷却した。得られた重合性リン酸エステル組成物中のリン酸モノエステル(I)とリン酸ジエステル(II)の重量比、リン酸(オルトリン酸)含量、エチレングリコールジメタクリレート含量を表1に示す。
【0022】
試験例
(1)分散剤の製造
1000ml容4つ口フラスコに水246gを仕込み、攪拌しながら窒素置換をし、窒素雰囲気中で80℃まで昇温した。ω−メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキサイドの付加モル数23)55gと実施例1又は2の重合性リン酸エステル組成物27.9gとメルカプトプロピオン2.2gとをイオン交換水55gに混合溶解したものと、過硫酸アンモニウム3.76gを水45gに溶解したものを、それぞれ1.5時間かけて滴下した。1時間の熟成後、過硫酸アンモニウム1.88gを水15gに溶解したものを30分かけて滴下し、その後、2時間、80℃で熟成した。熟成終了後に20%水酸化ナトリウム溶液でpH5.5に調整し、分散剤となる共重合体を得た。
【0023】
(2)粉末分散性の評価
粉末としてカーボンブラック(HAF)10重量部を用いて、水90重量部、上記で得られた分散剤1重量部の割合で混合して、これをTKホモミキサー(特殊機化工業(株)製)で3000rpm、10分混合することにより水中分散体を得た。これらの水中分散体の分散安定性を以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0024】
*分散安定性
水中分散体の調製後、直ちに100mlの目盛り付き試験管に入れ、25℃の恒温室に静置し、24時間後のカーボンブラック粉末の分散安定性を観察して以下の基準で評価した。
◎全く沈降していない。
○わずかに沈降している。
かなり沈降している。
×完全に沈降している。
【0025】
【表1】

【0026】
ここで、組成物中のリン酸モノエステル(I)/リン酸ジエステル(II)重量比は、31P−NMRから測定したものである。また、エチレングリコールジメタクリレート含量は、以下の条件のガスクロマトグラフィーにより定量したものである。
【0027】
<ガスクロマトグラフィー条件>
・サンプル;ジアゾメタンによりメチル化
・カラム;Ultra ALLOY、15m×0.25mmid×0.15μmdf
・キャリアガス;He、スプリット比50:1
・カラム温度;40℃(5min)→10℃/min→300℃/15min
・注入口温度;300℃
・検出器温度;300℃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるリン酸モノエステル(I)と下記一般式(II)で表されるリン酸ジエステル(II)とを、(I)/(II)=90/10〜40/60の重量比で含有する重合性リン酸エステル組成物。
【化1】


〔式中、R1は、水素原子又はメチル基、R2は、炭素数2〜4のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【化2】


〔式中、R3、R6は、水素原子又はメチル基、R4、R5は、炭素数2〜4のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【請求項2】
前記リン酸モノエステル(I)と前記リン酸ジエステル(II)の合計に対してリン酸を30重量%以下含有する請求項1記載の重合性リン酸エステル組成物。
【請求項3】
前記リン酸モノエステル(I)と前記リン酸ジエステル(II)の合計に対して下記一般式(III)で表される化合物を30重量%以下含有する請求項1又は2記載の重合性リン酸エステル組成物。
【化3】


〔式中、R7、R8は、水素原子又はメチル基、R9は、炭素数2〜4のアルキレン基、nは平均で0.1〜20の数を表す。〕
【請求項4】
前記リン酸モノエステル(I)と前記リン酸ジエステル(II)の合計に対して重合禁止剤を0.0001〜10重量%以下含有する請求項1〜3の何れか1項記載の重合性リン酸エステル組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項記載の組成物からなる粉末用分散剤用原料。

【公開番号】特開2007−131663(P2007−131663A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323407(P2005−323407)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】