説明

重合性組成物、樹脂成形体、及び積層体

【課題】高周波領域での誘電正接が極めて小さく、配線埋め込み性に優れた積層体の製造に有用な、重合性組成物、架橋性樹脂成形体、及び架橋樹脂成形体、並びに、それらを用いてなる積層体を提供すること。
【解決手段】シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及びN−置換モノマレイミド化合物を含有してなる重合性組成物、該組成物を用いてなる架橋性樹脂成形体及び架橋樹脂成形体、並びに少なくとも、前記架橋性樹脂成形体、又は前記架橋樹脂成形体を積層してなる積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の材料等として好適に用いられる、重合性組成物、架橋性樹脂成形体、架橋樹脂成形体、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化時代を迎え、情報伝送は高速化・高周波化に動き出し、マイクロ波通信やミリ波通信が現実になってきている。これらの高周波化時代の回路基板は、高周波における伝送ロスを極限まで軽減するために誘電正接の小さい材料が求められている。誘電正接が小さい樹脂材料としてはシクロオレフィンモノマーを重合したシクロオレフィンポリマーが注目されている。
【0003】
シクロオレフィンポリマーを用いてなる回路基板用材料として、例えば、特許文献1には、耐熱性に優れたシクロオレフィン系の架橋樹脂成形体や架橋樹脂複合材料が記載されている。該文献にはまた、それらの製造に好適に用いられる重合性組成物や架橋性樹脂成形体(プリプレグ)が記載されており、前記組成物には、架橋反応速度を向上させる目的で架橋助剤が添加されること、架橋助剤として、例えば、マレイミドなどのイミド化合物が用いられることが記載されている。一方、特許文献2には、射出融着性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得る観点から、架橋助剤としてビスマレイミド化合物が好適に用いられることが、特許文献3には、特定構造のビスマレイミド化合物を用いることにより、樹脂組成物(ワニス)粘度を特異的に低減でき、しかも石英ガラス繊維/ポリオレフィン繊維と併用することにより得られる硬化物の誘電正接を小さくできることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/016991号パンフレット
【特許文献2】特開2003−171511号公報
【特許文献3】特開2008−266408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、高周波領域での誘電正接が極めて小さく、さらに配線埋め込み性に優れた積層体を得る目的で、特許文献1に記載の重合性組成物に対し、特許文献2や3に記載されるようなビスマレイミド化合物を適用して重合性組成物を調製し、次いでかかる組成物を用いてプリプレグを作製し、当該プリプレグをプリント配線板製造用基板に積層し加熱架橋して積層体を製造したところ、ビスマレイミド化合物は基材樹脂への相溶性が悪く、得られた積層体は実用上利用できないことが明らかとなった。
本発明の目的は、高周波領域での誘電正接が極めて小さく、配線埋め込み性に優れた積層体の製造に有用な、重合性組成物、架橋性樹脂成形体、及び架橋樹脂成形体、並びに、それらを用いてなる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、ビスマレイミド化合物ではなく、モノマレイミド化合物であるN−置換モノマレイミド化合物を用いて重合性組成物を調製し、該組成物をガラスクロス等の繊維状強化材に含浸させた後に重合してプリプレグを作製し、次いで該プリプレグを積層して加熱架橋することにより、所望の特性を有する積層体が得られることを見出した。本発明者は、かかる知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
〔1〕シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及びN−置換モノマレイミド化合物を含有してなる重合性組成物、
〔2〕シクロオレフィンモノマーが、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーを含むものである前記〔1〕記載の重合性組成物、
〔3〕充填剤をさらに含んでなる前記〔1〕又は〔2〕記載の重合性組成物、
〔4〕充填剤の配合量が、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して50重量部以上である前記〔3〕記載の重合性組成物、
〔5〕連鎖移動剤をさらに含んでなる前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の重合性組成物、
〔6〕前記〔1〕〜〔5〕いずれかに記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂成形体、
〔7〕前記〔1〕〜〔5〕いずれかに記載の重合性組成物を塊状重合し、架橋してなる架橋樹脂成形体、並びに
〔8〕少なくとも、前記〔6〕に記載の架橋性樹脂成形体、又は前記〔7〕に記載の架橋樹脂成形体を積層してなる積層体、
が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高周波領域での誘電正接が極めて小さく、配線埋め込み性に優れた積層体の製造に有用な、重合性組成物、架橋性樹脂成形体、及び架橋樹脂成形体、並びに前記積層体が得られる。本発明の積層体は、優れた誘電特性を示し、配線埋め込み性にも優れるため、プリント配線基板材料として好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の重合性組成物は、シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及びN−置換モノマレイミド化合物を含有してなる。
【0010】
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとは、炭素原子で形成される脂環構造を有し、かつ該脂環構造中に重合性の炭素−炭素二重結合を有する化合物である。本明細書において「重合性の炭素−炭素二重結合」とは、連鎖重合(メタセシス開環重合)に関与する炭素−炭素二重結合をいう。
【0011】
シクロオレフィンモノマーの脂環構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環及びこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。本発明に用いるシクロオレフィンモノマーとしては、得られる架橋樹脂成形体の機械的強度を向上させる観点から、多環のシクロオレフィンモノマーが好ましい。各脂環構造を構成する炭素原子数に特に限定はないが、通常、4〜30個、好ましくは5〜20個、より好ましくは5〜15個である。シクロオレフィンモノマーは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭素数1〜30の炭化水素基や、カルボキシル基、酸無水物基などの極性基を置換基として有していてもよい。
【0012】
本発明においては、前記シクロオレフィンモノマーとしては、得られる架橋樹脂成形体の架橋密度の向上による機械的強度及び耐熱性の向上の観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーが好適に用いられる。本明細書において「架橋性炭素−炭素不飽和結合」とは、メタセシス開環重合には関与せず、架橋反応に関与する炭素−炭素不飽和結合をいう。「架橋反応」とは橋架け構造を形成する反応をいう。本発明においては、架橋反応とは、通常、ラジカル架橋反応又はメタセシス架橋反応、特にラジカル架橋反応をいう。
【0013】
前記架橋性炭素−炭素不飽和結合としては、芳香族炭素−炭素不飽和結合を除く炭素−炭素不飽和結合、すなわち、脂肪族炭素−炭素二重結合又は三重結合が挙げられ、本発明においては、通常、脂肪族炭素−炭素二重結合をいう。架橋性炭素−炭素不飽和結合を有するシクロオレフィンモノマー中、該不飽和結合の位置は特に限定されるものではなく、炭素原子で形成される脂環構造内の他、該脂環構造以外の任意の位置、例えば、側鎖の末端や内部に存在していてもよい。例えば、前記脂肪族炭素−炭素二重結合は、ビニル基(CH=CH−)、ビニリデン基(CH=C<)、又はビニレン基(−CH=CH−)として存在し得、良好にラジカル架橋性を発揮することから、ビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましく、ビニリデン基として存在するのがより好ましい。
【0014】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、特に、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。「ノルボルネン系モノマー」とは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーをいう。例えば、ノルボルネン類、ジシクロペンタジエン類、及びテトラシクロドデセン類などが挙げられる。
【0015】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、3−ビニルシクロヘキセン、4−ビニルシクロヘキセン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロへキサジエン、1,4−シクロへキサジエン、5−エチル−1,3−シクロへキサジエン、1,3−シクロへプタジエン、1,3−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィンモノマー;5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、5−ビニルノルボルネン、5−アリルノルボルネン、5,6−ジエチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中では、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0016】
本発明においてシクロオレフィンモノマーとしては、前記架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーの他、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーが用いられる。
【0017】
架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロペンテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3,5−ジメチルシクロペンテン、3−クロロシクロペンテン、シクロへキセン、3−メチルシクロへキセン、4−メチルシクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロヘキセン、3−クロロシクロヘキセン、シクロへプテンなどの単環シクロオレフィンモノマー;ノルボルネン、5−メチルノルボルネン、5−エチルノルボルネン、5−プロピルノルボルネン、5,6−ジメチルノルボルネン、1−メチルノルボルネン、7−メチルノルボルネン、5,5,6−トリメチルノルボルネン、5−フェニルノルボルネン、テトラシクロドデセン、1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−ヘキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−エチリデン−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、1,5−ジメチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、2−シクロへキシル−1,4,5,8−ジメタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロナフタレン、5−クロロノルボルネン、5−フルオロノルボルネン、5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメチルノルボルネン、5−メトキシノルボルネン、5,6−ジカルボキシルノルボルネンアンハイドレート、5−ジメチルアミノノルボルネン、5−シアノノルボルネンなどのノルボルネン系モノマー;を挙げることができる。これらの中でも、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないノルボルネン系モノマーが好ましい。
【0018】
以上のシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、シクロオレフィンモノマーとして、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの混合物が用いられる。
【0019】
本発明の重合性組成物に配合するシクロオレフィンモノマー中、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーと架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマーとの配合割合は所望により適宜選択すればよいが、重量比(架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマー/架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たないシクロオレフィンモノマー)で、通常、5/95〜100/0、好ましくは10/90〜95/5、より好ましくは15/85〜90/10の範囲である。当該配合割合がかかる範囲にあれば、得られる架橋樹脂成形体において耐熱性や機械的強度がバランスよく向上し、好適である。
【0020】
なお、本発明の重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、以上のシクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0021】
(メタセシス重合触媒)
本発明に用いるメタセシス重合触媒は、前記シクロオレフィンモノマーをメタセシス開環重合可能なものであれば、特に限定されない。
メタセシス重合触媒としては、遷移金属原子を中心にして、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ。)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては、好ましくはタンタルが挙げられ、6族の原子としては、好ましくは、モリブデン及びタングステンが挙げられ、8族の原子としては、好ましくは、ルテニウム及びオスミウムが挙げられる。
【0022】
これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体が好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウムカルベン錯体は、塊状重合時の触媒活性に優れるため、架橋性樹脂の生産性に優れ、残留未反応モノマーに由来する臭気が少ない架橋性樹脂を得ることができる。また、8族のルテニウムやオスミウムの錯体は、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも架橋性樹脂の生産が可能である。
【0023】
ルテニウムカルベン錯体の具体例としては、以下の式(1)又は式(2)で表される錯体が挙げられる。
【0024】
【化1】

【0025】
式(1)及び(2)において、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20の炭化水素基を表す。X及びXは、それぞれ独立して任意のアニオン性配位子を示す。L及びLはそれぞれ独立して、ヘテロ原子含有カルベン化合物又はヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。また、RとRは互いに結合して、ヘテロ原子を含んでいてもよい、脂肪族環又は芳香族環を形成してもよい。さらに、R、R、X、X、L及びLは、任意の組合せで互いに結合して多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0026】
ヘテロ原子とは、周期表15族及び16族の原子をいう。ヘテロ原子の具体例としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、砒素原子、セレン原子などが挙げられる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子及び硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。
【0027】
ヘテロ原子含有カルベン化合物は、カルベン炭素原子の両側にヘテロ原子が隣接して結合した構造を有するものが好ましく、さらにカルベン炭素原子とその両側のヘテロ原子とを含んでヘテロ環が形成された構造を有するものがより好ましい。また、カルベン炭素原子に隣接するヘテロ原子に嵩高い置換基を有するものが好ましい。
【0028】
ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、以下の式(3)又は式(4)で示される化合物が挙げられる。
【0029】
【化2】

【0030】
式(3)又は式(4)において、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子;ハロゲン原子;又はハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子若しくは珪素原子を含んでもよい、環状又は鎖状の、炭素数1〜20個の炭化水素基を表す。また、R〜Rは任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0031】
前記式(3)又は式(4)で表される化合物の具体例としては、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1−シクロヘキシル−3−メシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
【0032】
また、前記式(3)又は式(4)で示される化合物のほかに、1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン、N,N,N’,N’−テトライソプロピルホルムアミジニリデン、1,3,4−トリフェニル−4,5−ジヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン、3−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−2,3−ジヒドロチアゾール−2−イリデンなどのヘテロ原子含有カルベン化合物も用い得る。
【0033】
前記式(1)及び式(2)において、アニオン(陰イオン)性配位子XとXは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、弗素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、カルボキシル基などを挙げることができる。これらの中でもハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0034】
また、中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ配位子であればいかなるものでもよい。その具体例としては、カルボニル類、アミン類、ピリジン類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、チオエーテル類、芳香族化合物、オレフィン類、イソシアニド類、チオシアネート類などが挙げられる。これらの中でも、ホスフィン類、エーテル類及びピリジン類が好ましく、トリアルキルホスフィンがより好ましい。
【0035】
前記式(1)で表される錯体化合物としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(3−フェニル−1H−インデン−1−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−フェニルエチリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)[(フェニルチオ)メチレン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチル−4,5−ジブロモ−4−イミダゾリン−2−イリデン)(2−ピロリドン−1−イルメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物及びヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物が各々1つ結合したルテニウム錯体化合物;
【0036】
ベンジリデンビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)ビス(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリドなどの、ヘテロ原子含有カルベン化合物以外の2つの中性電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物;
【0037】
ベンジリデンビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデンビス(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)ルテニウムジクロリドなどの、2つのヘテロ原子含有カルベン化合物が結合したルテニウム錯体化合物;などが挙げられる。
【0038】
前記式(2)で表される錯体化合物としては、(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(フェニルビニリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(t−ブチルビニリデン)(1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ビス(1,3−ジシクロヘキシル−4−イミダゾリン−2−イリデン)フェニルビニリデンルテニウムジクロリドなどが挙げられる。
【0039】
これらの錯体化合物の中でも、前記式(1)で表され、かつ配位子として前記式(4)で表される化合物を1つ有するものが最も好ましい。
【0040】
メタセシス重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常、1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0041】
メタセシス重合触媒は所望により、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では、工業的に汎用な芳香族炭化水素や脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素の使用が好ましい。また、メタセシス重合触媒としての活性を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、液状の可塑剤、液状のエラストマーを溶剤として用いてもよい。
【0042】
また、メタセシス重合触媒として、5族及び6族の遷移金属原子の錯体を用いる場合には、メタセシス重合触媒はモノマーに溶解して用いるのが好ましいが、生成物の性質を本質的に損なわない範囲であれば少量の溶剤に懸濁又は溶解させて用いることができる。
【0043】
(架橋剤)
架橋剤は、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体において架橋反応を誘起する目的で使用される。従って、該重合体は、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。ここで「後架橋可能な」とは、該樹脂を加熱することにより架橋反応を進行させて架橋樹脂になし得ることを意味する。前記重合体を基材樹脂とする本発明の架橋性樹脂成形体は、加熱により溶融し、高粘度であるため、その形状は保持する一方、任意の部材を接触させた場合、その表面では、該部材の形状に対し追従性を発揮し、最終的に架橋して硬化する。本発明の架橋性樹脂成形体のかかる特性は、本発明の架橋性樹脂成形体を積層し、加熱して溶融、架橋して得られる積層体において層間密着性の向上に寄与するものと考えられる。
【0044】
架橋剤としては、ラジカル発生剤が好適に用いられる。ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物、及び非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物、及び非極性ラジカル発生剤である。
【0045】
前記有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;3,3,5,7,7−ペンタメチル−1,2,4−トリオキセパン、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリパーオキソナン、3,6−ジエチル−3,6−ジメチル−1,2,4,5−テトロキサンなどの環状ペルオキシド類;などが挙げられる。これらの中でも、メタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシド類、ペルオキシケタール類、及び環状ペルオキシド類が好ましい。
【0046】
前記ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
前記非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
これらのラジカル発生剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明に用いる架橋剤がラジカル発生剤の場合、その1分間半減期温度は、硬化(本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体の架橋)の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは120〜250℃、より好ましくは150〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。ラジカル発生剤の1分間半減期温度については、例えば、各ラジカル発生剤メーカー(例えば、日本油脂株式会社)のカタログやホームページを参照すればよい。
【0048】
本発明の重合性組成物への架橋剤の配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0049】
(N−置換モノマレイミド化合物)
本発明に用いられるN−置換モノマレイミド化合物は、反応性流動化剤として機能する。前記の通り、本発明の重合性組成物を重合反応に供して得られる重合体は、後架橋可能な熱可塑性樹脂となる。本発明において「反応性流動化剤」とは、かかる重合体中において、流動化剤として重合体のガラス転移温度(Tg)を低下させ、当該重合体を基材樹脂とする本発明の架橋性樹脂成形体を加熱溶融させた際、該成形体表面の、当該表面に接触させる任意の部材の形状に対する追従性を向上させる一方、架橋剤により架橋反応が誘起された後においては当該反応に関与して重合体への結合反応性を示す単官能化合物をいう。
【0050】
N−置換モノマレイミド化合物は反応性流動化剤として機能することから、例えば、当該化合物を含む前記重合体を基材樹脂とする本発明の架橋性樹脂成形体を回路基板などと積層する際、該成形体を加熱することで容易に溶融積層することができ、しかも得られる積層体においては充分な層間密着性と配線埋め込み性が得られる。さらに、N−置換モノマレイミド化合物は、積層する際の加熱で架橋剤により誘起される架橋反応に関与して重合体への結合反応性を示すため、架橋反応の進行と共に、重合体中、遊離の状態で存在するものが減少し、架橋反応の終了時点では実質的に遊離の状態で存在するものがないと考えられる。従って、いわゆる可塑剤のように、得られる積層体の耐熱性を低下させる因子となることがない。むしろ、N−置換モノマレイミド化合物は、得られる積層体において、耐熱性や耐クラック性を高める効果を奏し得る。
【0051】
本発明に用いられるN−置換モノマレイミド化合物は、具体的には、以下の式:
【0052】
【化3】

【0053】
で表される構造を有する化合物であり、架橋剤により架橋反応が誘起された際、当該化合物は、重合体(シクロオレフィンポリマー)中の架橋性炭素−炭素二重結合などと反応して重合体に結合するものと考えられる。
【0054】
前記式中、Rは、本発明の効果の発現を阻害しない限り、特に限定されるものではないが、通常、置換若しくは非置換の、炭素数1〜30、好ましくは1〜20、さらに好ましくは1〜10の、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基を示す。置換基としては、例えば、炭素数1〜10の、アルキル基、シクロアルキル基、又はアリール基;フッ素原子、塩素原子、又は臭素原子などのハロゲン原子;カルボキシル基;アミノ基;ニトロ基;クマリン、イミダゾールなどの含複素環状置換基などが挙げられる。
【0055】
N−置換モノマレイミド化合物の具体例としては、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−クロロフェニルマレイミド、N−カルボキシフェニルマレイミド、N−アミノマレイミド、N−ニトロマレイミド、N−(1−ピレニル)マレイミド、N−メチルフェニルマレイミド等が挙げられる。中でも、得られる架橋樹脂成形体及び積層体の誘電正接を小さくする観点から、N−フェニルマレイミド、N−メチルフェニルマレイミド、N−ベンジルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドが好ましい。
これらのN−置換モノマレイミド化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。該化合物の配合量は、所望により適宜選択すればよいが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常、0.1〜100重量部、好ましくは0.5〜50重量部、さらに好ましくは1〜30重量部である。
【0056】
(重合性組成物)
本発明に使用される重合性組成物には、上記のシクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及びN−置換モノマレイミド化合物を必須成分として、所望により、充填剤、重合調整剤、重合反応遅延剤、連鎖移動剤、老化防止剤、及びその他の配合剤等のその他の添加剤を添加することができる。
【0057】
本発明においては、積層体の高機能化を目的として重合性組成物に、充填剤を配合するのが好適である。本発明の重合性組成物は、従来、プリプレグや積層体の製造に用いられている、エポキシ樹脂等を溶媒に溶かしてなる重合体ワニスと比べて低粘度であるため、容易に充填剤を高配合することができる。
【0058】
充填剤としては、無機物であっても有機物であってもよく、所望により適宜選択すればよいが、通常、無機充填剤が好適に用いられる。かかる無機充填剤は、その特性により、例えば、低線膨張フィラー、及び難燃剤等に分類することができる。本発明においては、無機充填剤として各々単独で、又は2種以上を組合わせて用いることができる。
【0059】
低線膨張フィラーは、本発明の重合性組成物に配合することで、得られる積層体の機械的強度を向上させる一方、線膨張係数を低減し得、好適である。低線膨張フィラーの線膨張係数としては、通常、15ppm/℃以下程度である。
低線膨張フィラーとしては、例えば、シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩;などが挙げられ、好ましくはシリカである。
【0060】
難燃剤を本発明の重合性組成物に配合することで、得られる積層体が難燃化され、好適である。難燃剤としては、工業的に用いられるものであれば格別な限定なく用いることができ、リン含有難燃剤、窒素含有難燃剤、ハロゲン含有難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物、などが挙げられる。中でも、ハロゲン含有難燃剤が好ましく、ハロゲンとして臭素原子を含み、不飽和結合を有さない臭素化有機化合物が、架橋反応に影響しないのでより好ましい。かかる臭素化有機化合物としては、デカブロモジフェニルエタン、4,4−ジブロモビフェニル、エチレンビステトラブロモフタルイミド等の芳香族臭素化化合物が特に好ましい。さらに、ハロゲン含有難燃剤として、ハロゲン化トリアリルイソシアヌレートやフッ素化脂肪族樹脂等を用いることもできる。また、難燃剤としては、真比重が2〜3.5の範囲にあるものが好ましい。
【0061】
本発明に使用される充填剤の粒子径(平均粒子径)は、所望により適宜選択すればよいが、粒子を三次元的にみたときの長手方向と短手方向の長さの平均値として、通常、0.001〜50μm、好ましくは0.01〜10μm、より好ましくは0.1〜5μmの範囲である。
【0062】
これらの充填剤は、それぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の重合性組成物に対する配合量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、50重量部以上、好ましくは50〜1,000重量部、より好ましくは50〜750重量部、さらに好ましくは100〜500重量部の範囲である。これらの範囲より少ない充填量では、機械的強度が小さくなったり、線熱膨張係数が大きくなる場合がある。またこれより多い充填量では、配線埋め込み性が不十分となる場合がある。一方、充填剤として難燃剤を使用する場合、難燃剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対し、通常1〜200重量部、好ましくは10〜100重量部である。
【0063】
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させたりする目的で配合されるものであり、例えば、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。これらの重合調整剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合調整剤の配合量は、例えば、モル比(メタセシス重合触媒中の金属原子:重合調整剤)で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
【0064】
重合反応遅延剤は、本発明の重合性組成物の粘度増加を抑制し得るものである。従って、重合反応遅延剤を配合してなる重合性組成物は、後述のようにして架橋性樹脂成形体を作製する際、容易に繊維状強化材に均一に含浸させることができ、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。その配合量は、所望により適宜調整すればよい。
【0065】
本発明に用いる重合性組成物に連鎖移動剤を配合した場合、該組成物を塊状重合して得られる架橋性樹脂成形体の表面では、加熱溶融時の追従性がより向上し得る。それゆえ、連鎖移動剤を配合してなる重合性組成物を用いて得られた架橋性樹脂成形体を積層し、加熱して溶融、架橋して得られる積層体では、層間密着性が一層高まり、配線埋め込み性がより向上するので、好ましい。
【0066】
連鎖移動剤は、架橋性炭素−炭素不飽和結合をさらに1以上有していてもよい。かかる架橋性炭素−炭素不飽和結合としてはビニル基及び/又はビニリデン基として存在するのが好ましい。連鎖移動剤の具体例としては、1−ヘキセン、2−ヘキセン、スチレン、ビニルシクロヘキサン、アリルアミン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、エチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどの、架橋性炭素−炭素不飽和結合を持たない連鎖移動剤;ジビニルベンゼン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸ヘキセニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、メタクリル酸ウンデセニル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレートなどの、架橋性炭素−炭素不飽和結合を1つ有する連鎖移動剤;アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシランなどの、架橋性炭素−炭素不飽和結合を2以上有する連鎖移動剤などが挙げられる。架橋樹脂成形体及び積層体の強度を向上させる観点から、架橋性炭素−炭素不飽和結合を1以上有するものが好ましく、架橋性炭素−炭素不飽和結合を1つ有するものがより好ましい。
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の使用量としては、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部である。
【0067】
また、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を配合することは、架橋反応を阻害しないで、得られる積層体の耐熱性を高度に向上させることができ、好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤がより好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、所望により適宜選択されるが、配合するシクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常、0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜2重量部の範囲である。
【0068】
本発明の重合性組成物には、その他の配合剤を配合することができる。その他の配合剤としては、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤などを用いることができる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の配合剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0069】
本発明の重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を調製し、別にシクロオレフィンモノマーや架橋剤などの必須成分、及び所望によりその他の添加剤を配合した液(モノマー液)を調製し、該モノマー液に該触媒液を添加し、攪拌することによって調製することができる。
【0070】
(架橋性樹脂成形体)
本発明の架橋性樹脂成形体は、前記重合性組成物を塊状重合することにより得られる。重合性組成物を塊状重合して架橋性樹脂成形体を得る方法としては、例えば、(a)重合性組成物を支持体上に塗布し、次いで塊状重合する方法、(b)重合性組成物を成形型内に注入し、次いで塊状重合する方法、(c)重合性組成物を繊維状強化材に含浸させ、次いで塊状重合する方法などが挙げられる。
【0071】
本発明の重合性組成物は低粘度であるため、(a)の方法における塗布は円滑に実施でき、(b)の方法における注入では、複雑形状の空間部であっても迅速に泡かみを起こさずに重合性組成物を行き渡らせることができ、(c)の方法においては繊維状強化材に対して速やかに満遍なく重合性組成物を含浸させることができる。
【0072】
(a)の方法によれば、フィルム状や板状等の架橋性樹脂成形体が得られる。該成形体の厚さは、通常、15mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは0.5mm以下、最も好ましくは0.1mm以下である。支持体としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、及びナイロンなどの樹脂からなるフィルムや板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、金、及び銀などの金属材料からなるフィルムや板;などが挙げられる。中でも、金属箔又は樹脂フィルムの使用が好ましい。金属箔又は樹脂フィルムの厚さは、作業性などの観点から、通常、1〜150μm、好ましくは2〜100μm、より好ましくは3〜75μmである。金属箔としては、その表面が平滑であるものが好ましく、表面粗度(Rz)としては、AFM(原子間力顕微鏡)により測定される値で、通常、10μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。また、金属箔の表面は、公知のカップリング剤や接着剤などで処理されているのが好ましい。(a)の方法によれば、例えば、支持体として銅箔を用いた場合、樹脂付き銅箔〔Resin Coated Copper (RCC)〕を得ることができる。
【0073】
支持体上に本発明の重合性組成物を塗布する方法としては、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法などの公知の塗布方法が挙げられる。
【0074】
支持体上に塗布された重合性組成物を所望により乾燥させ、次いで塊状重合する。塊状重合は重合性組成物を所定の温度で加熱して行われる。重合性組成物の加熱方法としては特に制約されず、支持体に塗布された重合性組成物を、加熱プレート上に載せて加熱する方法、プレス機を用いて加圧しながら加熱(熱プレス)する方法、加熱したローラーで押圧する方法、加熱炉内で加熱する方法などが挙げられる。
【0075】
(b)の方法によれば、任意の形状の架橋性樹脂成形体を得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、及び多角柱状等が挙げられる。
【0076】
ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造、すなわち、コア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とする成形品の形状にあった空隙部を形成するように作製される。成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。さらに、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し塊状重合することにより、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得ることもできる。
【0077】
重合性組成物を成形型のキャビティー内に充填する際の充填圧力(注入圧)は、通常、0.01〜10MPa、好ましくは0.02〜5MPaである。充填圧力が低すぎると、キャビティー内周面に形成された転写面の転写が良好に行われない傾向にあり、充填圧が高すぎると、成形型の剛性を高くしなければならず経済的ではない。型締圧力は、通常、0.01〜10MPaの範囲内である。重合性組成物の加熱方法としては、成形型に配設された電熱器やスチームなどの加熱手段を利用する方法や、成形型を電気炉内で加熱する方法などが挙げられる。
【0078】
(c)の方法は、シート状又はフィルム状の架橋性樹脂成形体を得るのに好適に使用される。例えば、重合性組成物の繊維状強化材への含浸は、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、及びスリットコート法等の公知の方法により繊維状強化材に塗布し、所望によりその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を繊維状強化材に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することで重合性組成物を塊状重合させ、所望の架橋性樹脂成形体を得る。
【0079】
繊維状強化材としては、無機系及び/又は有機系の繊維が使用でき、例えば、ガラス繊維、金属繊維、セラミック繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、アミド繊維、ポリアリレートなどの液晶繊維などの公知のものが挙げられる。これらは1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。繊維状強化材の形状としては、特に限定されず、例えば、マット、クロス、及び不織布などが挙げられる。
【0080】
繊維状強化材に重合性組成物を含浸させてなる含浸物の加熱方法としては、例えば、含浸物を支持体上に設置して前記(a)の方法のようにして加熱する方法、予め型内に繊維状強化材を設置しておき、該型内で重合性組成物を含浸させて含浸物を得、前記(b)の方法のようにして加熱する方法などが挙げられる。
【0081】
前記(a)、(b)及び(c)のいずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常、30〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは90〜150℃の範囲であって、かつ架橋剤、通常、ラジカル発生剤の1分間半減期温度以下、好ましくは1分間半減期温度の10℃以下、より好ましくは1分間半減期温度の20℃以下である。また、重合時間は適宜選択すればよいが、通常、1秒間〜20分間、好ましくは10秒間〜5分間である。重合性組成物をかかる条件で加熱することにより未反応モノマーの少ない架橋性樹脂成形体が得られるので好適である。
【0082】
以上のようにして得られる架橋性樹脂成形体を構成する重合体(シクロオレフィンポリマー)は、実質的に架橋構造を有さず、例えば、トルエンに可溶である。当該重合体の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(溶離液:テトラヒドロフラン)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量で、通常、1,000〜1,000,000、好ましくは5,000〜500,000、より好ましくは10,000〜100,000の範囲である。
【0083】
本発明の架橋性樹脂成形体は、後架橋可能な樹脂成形体であるが、その構成樹脂の一部分が架橋されたものであってもよい。例えば、型内で重合性組成物を塊状重合したときには、型の中心部分は重合反応熱が発散しにくいので、型内の一部の温度が高くなりすぎる場合がある。高温部では架橋反応が起き、架橋が生ずることがある。しかし、熱を発散しやすい表面部が後架橋可能な架橋性の樹脂で形成されていれば、本発明の架橋性樹脂成形体は所望の効果を充分に発揮し得る。
【0084】
本発明の架橋性樹脂成形体は、塊状重合を完結させて得られるものであり、保管中にさらに重合反応が進行するという恐れがない。また、本発明の架橋性樹脂成形体は、ラジカル発生剤などの架橋剤を含有してなるが、架橋反応を起す温度以上に加熱しない限り、表面硬度が変化するなどの不具合を生じず、保存安定性に優れる。
本発明の架橋性樹脂成形体は、例えば、プリプレグとして、本発明の架橋樹脂成形体及び積層体の製造に好適に用いられる。
【0085】
(架橋樹脂成形体)
本発明の架橋樹脂成形体は、本発明の重合性組成物を塊状重合し、架橋してなるものである。かかる架橋樹脂成形体は、例えば、前記架橋性樹脂成形体を架橋することにより得られる。架橋性樹脂成形体の架橋は、該成形体を、該成形体を構成する重合体において架橋反応が生ずる温度以上に維持することによって行うことができる。加熱温度は、通常、架橋剤により架橋反応が誘起される温度以上である。例えば、架橋剤としてラジカル発生剤を使用する場合、通常、1分間半減期温度以上、好ましくは1分間半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分間半減期温度より10℃以上高い温度である。典型的には、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分間、好ましくは0.5〜120分間、より好ましくは1〜60分間の範囲である。また、本発明の重合性組成物を、前記架橋性樹脂成形体が架橋する温度以上に維持することにより、具体的には、ここに記載する、温度及び時間で加熱することにより、シクロオレフィンモノマーの塊状重合と、当該重合により生ずるシクロオレフィンポリマーにおける架橋反応とを共に進行させて、本発明の架橋樹脂成形体を製造することも可能である。このようにして架橋樹脂成形体を製造する場合、前記(a)の方法に準じ、例えば、支持体として銅箔を用いれば、銅張積層板〔Copper Clad Laminates (CCL)〕を得ることができる。
【0086】
(積層体)
本発明の積層体は、少なくとも、前記架橋性樹脂成形体、又は前記架橋樹脂成形体を積層してなるものである。両成形体はそれぞれ、連続的に積層されていても、他の層を挟んで間接的に積層されていてもよい。
本発明の架橋性樹脂成形体を積層してなる積層体としては、例えば、前記(a)の方法で得られる、銅箔と架橋性樹脂成形体とが層状に一体化してなるRCCが挙げられる。また、本発明の架橋樹脂成形体を積層してなる積層体としては、例えば、前記(a)の方法に準じて得られる、銅箔と架橋樹脂成形体とが層状に一体化してなるCCLが挙げられる。前記(a)の方法において、支持体として、別途得られた架橋樹脂成形体を用いれば、架橋性樹脂成形体と架橋樹脂成形体との積層体を得ることもできる。
また、架橋性樹脂成形体がシート状又はフィルム状である場合、該成形体、及び所望により、シート状又はフィルム状の架橋樹脂成形体を、任意に積層し、又はさらに、例えば、前記金属箔を積層し、熱プレスして架橋することにより、架橋樹脂成形体を積層してなる、本発明の積層体が得られる。その際、前記RCCやCCLなどの積層体を積層してもよい。熱プレスするときの圧力は、通常、0.5〜20MPa、好ましくは3〜10MPaである。熱プレスは、真空又は減圧雰囲気下で行ってもよい。熱プレスは、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて行なうことができる。
【0087】
本発明の積層体は、低誘電率及び低誘電正接といった、シクロオレフィンポリマーに特有の優れた電気的特性を有しており、高周波領域での誘電正接が極めて小さく、配線埋め込み性に優れたものである。本発明の積層体は、例えば、プリント配線基板材料として好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0088】
実施例及び比較例における各特性は、以下の方法に従い測定し、評価した。
(1)誘電正接
積層体から銅箔をエッチングにより取り除いたものを試料として、インピーダンスアナライザー(アジレントテクノロジー社製、型番E4991A)を用いて20℃で周波数1GHzにおける誘電正接(tanδ)を容量法にて測定した。
(2)ガラス転移点(Tg)
前記「(1)誘電正接」で調製した試料から短冊状の試験片(幅4mm×長さ35mm)を切り出し、測定用試験片として用いた。試験片を動的粘弾性試験機(型番:EXSTAR DMS6100、セイコーインスツルメント社製)による測定に供してtanδのピーク値からTgを求めた。
(3)配線埋め込み性
プリプレグシートを回路基板(L/S=30μm、厚さ18μmの配線を15本配置した試験基板)上に重ね、200℃で10分間、3MPaにて加熱プレスを行い積層体を得た。該積層体を、配線方向に対し垂直な方向で任意に3箇所で切断した。得られた積層体の切断面を目視により観察し、回路基板上の樹脂層への配線埋め込み性について以下の基準で評価した。
◎:配線が埋め込まれていない部分がない
×:配線が埋め込まれていない
【0089】
実施例1
ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド 51部と、トリフェニルホスフィン 79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、シクロオレフィンモノマーとしてテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン (テトラシクロドデセン)100部、連鎖移動剤としてジビニルベンゼン 1.7部、架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186 ℃)2部、充填剤としてシリカ125部、N−置換モノマレイミド化合物としてN−シクロヘキシルマレイミド 6.8部を混合してモノマー液を調製した。ここに上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mLの割合で加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。
【0090】
縦300mm 、横300mm 、厚さ0.08mmのガラス繊維強化ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂フィルム(商品番号5310、サンゴバン・ノートン社製)の上に、縦200mm、横200mm、厚さ0.174mmのガラスクロス(商品番号7628/AS891AW、旭シュエーベル社製)2枚を重ねて置き、その上から上記重合性組成物を注いだ。次に、上からもう1枚の上記と同様のガラス繊維強化PTFE樹脂フィルムをかぶせ、ローラーでしごいて重合性組成物を含浸させた。このようにして得られた、重合性組成物のガラスクロス含浸物の上下をガラス繊維強化PTFE樹脂フィルムで挟んだ積層物を、145℃に加熱したホットプレートに1分間貼り付けて重合させた。次いで、上下面のガラス繊維強化PTFE樹脂フィルムを剥がして、架橋性樹脂成形体であるプリプレグシートを得た。
【0091】
次に、作製したプリプレグシート5枚を重ね、さらに12μmF2銅箔(シランカップリング剤処理電解銅箔、粗度Rz=1,600nm、古河サーキットホイル社製)で、積層したプリプレグシートを挟み、205℃で20分間、3MPaにて加熱プレスを行い、架橋樹脂成形体が積層されてなる積層体を得た。得られた積層体から銅箔をエッチングにより取り除き、誘電正接及びガラス転移点を測定した。一方、配線埋め込み性の評価は、前記(3)配線埋め込み性に記載した方法により別途積層体を得、それを用いて評価した。評価結果を表1 に示す。
【0092】
実施例2
N−シクロヘキシルマレイミドの代わりにN−フェニルマレイミド9部を用いたこと以外は実施例1と同様にして積層体を得た。評価結果を表1に示す。
【0093】
比較例1
N−シクロヘキシルマレイミドを用いないこと以外は実施例1と同様にして積層体を得た。評価結果を表1に示す。
【0094】
比較例2
N−シクロヘキシルマレイミドの代わりにm−フェニレンビスマレイミド 10部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。m−フェニレンビスマレイミドは、積層体を構成する架橋樹脂成形体中、基材樹脂と相溶性を示さず、分散性も悪いために積層体についての各評価を行うことができなかった。
【0095】
比較例3
N−シクロヘキシルマレイミドの代わりに1,3−ジイソプロペニルベンゼン6部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】

【0097】
表1より、N−置換モノマレイミド化合物を用いて得られた積層体は、高周波領域で誘電正接(tanδ)が極めて小さく、配線埋め込み性に優れており、Tgも高く維持されており、耐熱性にも優れることが分かる(実施例1、2)。これに対し、N−置換モノマレイミド化合物を用いなかった場合(比較例1)、得られる積層体では配線埋め込み性が悪化し、N−置換モノマレイミド化合物の代わりに架橋助剤として機能し得る二官能化合物である1,3−ジイソプロペニルベンゼンを用いた場合(比較例3)、得られる積層体では、配線埋め込み性は良好であるものの、誘電正接が若干悪化し、Tgが低下して耐熱性に劣ることが分かる。一方、N−置換モノマレイミド化合物の代わりにビスマレイミド化合物を用いた場合(比較例2)、前記の通り、実用上利用可能な積層体が得られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロオレフィンモノマー、メタセシス重合触媒、架橋剤、及びN−置換モノマレイミド化合物を含有してなる重合性組成物。
【請求項2】
シクロオレフィンモノマーが、架橋性炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つ有するシクロオレフィンモノマーを含むものである請求項1記載の重合性組成物。
【請求項3】
充填剤をさらに含んでなる請求項1又は2記載の重合性組成物。
【請求項4】
充填剤の配合量が、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して50重量部以上である請求項3記載の重合性組成物。
【請求項5】
連鎖移動剤をさらに含んでなる請求項1〜4いずれか記載の重合性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の重合性組成物を塊状重合してなる架橋性樹脂成形体。
【請求項7】
請求項1〜5いずれかに記載の重合性組成物を塊状重合し、架橋してなる架橋樹脂成形体。
【請求項8】
少なくとも、請求項6に記載の架橋性樹脂成形体、又は請求項7に記載の架橋樹脂成形体を積層してなる積層体。

【公開番号】特開2011−74292(P2011−74292A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228851(P2009−228851)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】