説明

重質炭化水素油の水素化処理方法

【課題】重質炭化水素油の水素化処理において、脱硫、脱メタル処理を長期間に渡り行うことができる重質炭化水素油の水素化処理方法を提供すること。
【解決手段】重質炭化水素油を、水素分圧4〜20MPa、水素/油比400〜3000NL/L、温度300〜450℃、液空間速度0.05〜5h−1で、前段、中段、後段の複数からなる触媒と順次接触させて水素化処理する方法であって、各触媒の無機酸化物担体には酸化亜鉛を所定量含有させ、それぞれ特定の比表面積、細孔容積、平均細孔直径、および平均細孔直径±1.5nm(前段触媒に関しては±2.0nm)を有する触媒を用いる水素化処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫黄分、ニッケル、バナジウムなどの重金属分を含有する重質炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重質炭化水素油は、直接脱硫装置(直脱)にて水素化処理され、その直脱生成油は流動接触分解装置(Fluid Catalytic Cracking:FCC)の原料あるいはC重油基材として使用される。このガソリン基材となるFCCガソリンの低硫黄化、C重油の低硫黄化を達成し、付加価値の高い燃料油を得る必要があるため、直脱生成油の低硫黄化が求められている。
【0003】
重質炭化水素油の水素化処理は、触媒の存在下行われる。この触媒は、重質炭化水素油由来のコークやニッケル(Ni)、バナジウム(V)などの金属分(メタル)が触媒上に堆積することで、逐次劣化する。通常、触媒活性の低下を補うために、温度を除々に上げながら運転を行っており、運転上限温度となった時点が触媒寿命となる。
【0004】
重質炭化水素油の水素化処理における触媒劣化のメカニズムは、複雑であり、反応条件、運転期間が影響し合いながら劣化が進行する。一般的に、反応初期にはコーク堆積により急激に劣化が起こり、反応中期では、細孔入口へのメタル堆積に起因する反応物の拡散速度低下と触媒上に堆積したコークの質の変化により比較的緩やかな劣化が起こり、反応後期にはメタルが細孔入口を閉塞することで急激に劣化が進行するとされている。
【0005】
細孔閉塞が起きた時点での、触媒に堆積した金属量を、触媒の金属許容量(メタル許容量)としている。この金属許容量は触媒寿命の重要な因子であり、耐メタル性能を示す。ただし、金属分の堆積量が金属許容量以下であっても、反応中期の金属分およびコークによる劣化で運転上限温度を迎えた場合、触媒寿命となる。重質炭化水素油の性状が重質化すると、金属分による劣化、コークによる劣化いずれの面からも触媒に負荷がかかり、触媒寿命に影響を与える。
【0006】
従来、重質炭化水素油の水素化処理方法として複数の提案がある。例えば、前段や中段に、担体中に亜鉛を含有させ特定の活性金属種および特定の細孔径を有する触媒を用い、後段においても、特定の活性金属種および特定の細孔径を有する触媒を用いて重質炭化水素油を処理することで、劣質な重質油の処理量の増加に対処するための水素化処理方法が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、前段に担体中に亜鉛を含有させ、特定の物性を有する触媒、中段にリンを一定量含み、該リン原子が均一に分散されており、特定の物性を有する触媒、後段に特定の物性を有する触媒を用いて重質炭化水素油の水素化処理を行うことで、脱硫、脱メタル処理を長期間に渡り処理するための水素化処理方法が提供されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−248460号公報
【特許文献2】特開2006−342288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1、特許文献2に記載の方法は、重質炭化水素油(常圧蒸留残油あるいは減圧蒸留残油)の水素化処理方法として有効と考えられる方法である。しかし、近年、原料となる重質炭化水素油について、性状がより重質なものを処理することが要望されている。
【0010】
本発明の目的は、上記従来の状況に鑑み、常圧蒸留残油はもとより、より重質な減圧蒸留残油の水素化処理において、減圧蒸留残油をより多く処理し、かつ脱硫、脱メタル処理を長期間に渡り行うことができる水素化処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の物性を有する触媒を前段、中段、後段にそれぞれ用い、かつその各触媒の担体中に酸化亜鉛を所定量含有させることにより、特に、380℃以降の高温領域で触媒劣化を抑制する効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち本発明は、重質炭化水素油を、水素分圧4〜20MPa、水素/油比400〜3000NL/L、温度300〜450℃、液空間速度0.05〜5h−1で、前段、中段、後段の複数からなる触媒と順次接触させて水素化処理する方法であって、
(a)前段触媒として、
酸化亜鉛を1〜12質量%含有する無機酸化物担体に、触媒基準かつ酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を6〜12質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を1〜4質量%含有させ、
比表面積70〜150m/g、細孔容積0.6〜1ml/g、平均細孔直径15〜35nm、かつ平均細孔直径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が15〜50%、触媒強度が9〜45N/mmである触媒を、触媒全体に対して、容積基準で10〜30%用い、
(b)中段触媒として、
酸化亜鉛を1〜12質量%含有する無機酸化物担体に、触媒基準かつ酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を8〜16質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を2〜6質量%、リンを0.3〜1.8質量%含有させ、
比表面積200〜350m/g、細孔容積0.4〜0.8ml/g、平均細孔直径6〜12nm、かつ平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が50〜90%、触媒強度が9〜45N/mmである触媒を、触媒全体に対して、容積基準で15〜40%用い、
(c)後段触媒として、
酸化亜鉛を1〜12質量%含有する無機酸化物担体に、触媒基準かつ酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を10〜20質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を2〜6質量%、リンを2〜5質量%含有させ、
比表面積180〜350m/g、細孔容積0.4〜0.8ml/g、平均細孔直径5〜10nm、かつ平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が60%〜90%、触媒強度が9〜45N/mmである触媒を、触媒全体に対して、容積基準で40〜70%用いること、
を特徴とする重質炭化水素油の水素化処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、直接脱硫装置による重質炭化水素油の水素化処理において、特定の物性を有する触媒をそれぞれ前段、中段、後段に用い、かつその各触媒の担体中に酸化亜鉛を所定量含有させることにより、特に、380℃以降の高温領域で触媒劣化を抑制し、高い脱硫活性を維持する効果が得られるため、重質炭化水素油の水素化処理において、脱硫、脱メタル処理を長期間に渡り行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】脱硫活性の経時的劣化傾向を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に記載する。
本発明の水素化処理方法では、重質炭化水素油を、酸化亜鉛を含有した無機酸化物担体に水素化活性金属を担持した触媒からなる3種類の触媒(前段触媒、中段触媒、後段触媒)と接触させる。
【0016】
本発明で用いられる3種類の触媒は、それぞれ主に要求される性能が異なる。前段触媒では、主に耐メタル性能および中段以降の触媒を保護するため脱メタル活性が要求され、中段触媒では、耐メタル性能および脱メタル活性、それと同時に脱硫性能をバランスよく有することが要求される。また、後段触媒では、主に脱硫性能が要求される。さらに、3種類の触媒に共通して、ある一定の触媒強度が要求される。以上の観点から各触媒には、特定の物性が要求される。
【0017】
本発明で用いる前段触媒、中段触媒、及び後段触媒の各触媒の無機酸化物担体には、酸化亜鉛を担体基準、酸化物換算で1〜12質量%、好ましくは2〜8質量%含有させる。また、他の無機酸化物担体としては、多孔質のものが好ましく、例えば、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、ボリア、マンガン、ジルコニア等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせても良い。
【0018】
前段触媒については、無機酸化物担体中の酸化亜鉛の含有量が前記範囲内であれば、他の物性値とあいまって触媒強度を維持したまま、平均細孔直径を大きくでき、耐メタル性能、脱メタル活性に優れた触媒が得られる。また、酸化亜鉛の含有量を12質量%より増加させると、平均細孔直径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が減少し、Ni、Vなどの金属化合物の水素化反応に有用でない細孔が増加し、脱メタル活性が低下するおそれがある。
【0019】
中段触媒については、無機酸化物担体中の酸化亜鉛の含有量が前記範囲内であれば、他の物性値とあいまって亜鉛添加に起因すると思われる効果により、活性劣化の起こり難い触媒が得られる。この劣化が起こり難くなるメカニズムについては必ずしも明らかではないが、亜鉛を添加することで、高温領域におけるコーク劣化が抑制されていると推測される。また、酸化亜鉛の含有量を12質量%より増加させると、平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が減少し、硫黄化合物の水素化反応に有用でない細孔が増加し、脱硫活性が低下するおそれがある。
【0020】
後段触媒については、無機酸化物担体中の酸化亜鉛の含有量が前記範囲内であれば、他の物性値とあいまって亜鉛添加に起因する効果により、脱硫性能に優れた触媒が得られる。この脱硫活性向上のメカニズムについては必ずしも明らかではないが、亜鉛を添加することで、後段触媒で主に処理することとなる難脱硫性硫黄化合物の脱硫活性が向上していると推測される。また、酸化亜鉛の含有量を12質量%より増加させると、平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が減少し、硫黄化合物の水素化反応に有用でない細孔が増加し、脱硫活性が低下するおそれがある。
【0021】
本発明で用いる前段触媒、中段触媒及び後段触媒の触媒調製は、通常の方法を採用することが出来る。例えば、無機酸化物担体の主成分としてアルミナを用いる場合を例にとれば、アルミナは、種々の方法で製造することができる。具体的には、水溶性のアルミニウム化合物、例えばアルミニウムの硫酸塩、硝酸塩、または塩化物をアンモニアのような塩基で中和するか、またはアルカリ金属アルミン酸塩を酸性アルミニウム塩または酸で中和する等して、アルミニウムヒドロゲルを得る。通常のアルミナ担体は、アルミナゲルを熟成、洗浄、脱水乾燥、水分調整、成形、乾燥、焼成等の一般的な工程により製造することができる。本発明で用いる酸化亜鉛含有アルミナ担体は、アルミナゲル中に酸化亜鉛を添加して水分調整し、混練工程を上記成形工程の前に付加して製造することが好ましい。得られた酸化亜鉛含有アルミナ担体への、水素化活性金属の担持方法としては、含浸法が好ましい。
【0022】
更に、本発明で用いる前段触媒、中段触媒及び後段触媒は、無機酸化物担体に所定量の活性金属種を担持させる。その活性金属種として、周期律表第6族金属(以下、「第6族金属」という。)から選ばれる少なくとも1種の金属と、周期律表第8族金属(以下、「第8族金属」という。)から選ばれる少なくとも1種の金属を担持させる。第6族金属としてはモリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられ、特にモリブデンが好ましい。第8金属としてはニッケル(Ni)、コバルト(Co)等が挙げられ、特にニッケルが好ましい。なお、本発明において、「周期律表第6族金属」とは、長周期型周期表における第6A族金属を意味し、「周期律表第8族金属」とは、長周期型周期表における第8族金属を意味する(「化学大辞典」,第1版,第3刷,株式会社東京化学同人,1994年4月1日,p.1079−1081)。
【0023】
前段触媒では、第6族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、6〜12質量%、好ましくは8〜10質量%である。第8族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、1〜4質量%、好ましくは1〜3質量%である。
中段触媒では、第6族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、8〜16質量%、好ましくは10〜14質量%である。第8族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、2〜6質量%、好ましくは3〜5質量%である。
後段触媒では、第6族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、10〜20質量%、好ましくは12〜18質量%である。第8族金属から選ばれた少なくとも1種の担持量は、触媒基準かつ酸化物換算で、2〜6質量%、好ましくは2〜5質量%である。
【0024】
前記第6族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量を前記範囲より減少させると、水素化処理活性が低下する傾向があり、担持量を前記範囲より増加させると、耐メタル性能が低下する傾向がある。また、第8族金属から選ばれた少なくとも1種の活性金属の担持量を前記範囲より減少させると、第6族金属に起因する効果が低下する傾向があり、担持量を前記範囲より増加させると、耐メタル性能が低下する傾向がある。
【0025】
また、本発明において、中段触媒及び後段触媒には、リンを所定量含有させることが必要である。リンの添加方法としては、リン化合物を担体に含浸法や吸着法等で担持させる担持法や、リン化合物と担体とを混練する混練法などの種々の方法が採用できるが、耐金属性をより向上させることができる点で混練法にて坦体に含有させることが好ましい。
【0026】
中段触媒には、リンを触媒基準かつ酸化物換算で、0.3〜1.8質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%含有させる。後段触媒には、リンを触媒基準かつ酸化物換算で、2〜5質量%含有させる。リンの含有量を前記範囲より減少させると、リン添加による脱硫活性向上効果が低下する傾向があり、前記範囲より増加させると、細孔容積の低下により耐メタル性能が低下する傾向がある。
【0027】
さらに後段触媒には、酸量や酸性質を変化させて、運転初期の炭素析出を抑制するために、リチウムなどのアルカリ金属を、触媒基準かつ酸化物換算で、0.05〜0.2質量%程度、含有させることもできる。
【0028】
各触媒の比表面積、細孔容積、および平均細孔直径、平均細孔直径±1.5nm(前段触媒に関しては±2.0nm)の細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合(PSD)、触媒強度の範囲は次の通りである。
【0029】
触媒の比表面積は、前段触媒では70〜150m/gの範囲であり、好ましくは100〜150m/gの範囲である。中段触媒では200〜350m/gの範囲であり、好ましくは240〜350m/gの範囲である。後段触媒では180〜350m/gの範囲であり、好ましくは250〜350m/gの範囲である。
比表面積を前記範囲より減少させると、触媒活性が低下する傾向にあり、増加させると、平均細孔直径が小さくなり、耐メタル性能が低下し、Ni、Vなどの金属化合物の細孔内拡散性の低下により脱メタル活性が低下する傾向にある。
【0030】
触媒の細孔容積は、前段触媒では0.6〜1ml/gの範囲であり、好ましくは0.65〜1ml/gの範囲である。中段触媒では0.4〜0.8ml/gの範囲であり、好ましくは0.5〜0.8ml/gの範囲である。後段触媒では0.4〜0.8ml/gの範囲であり、好ましくは0.4〜0.7ml/gの範囲である。
細孔容積を前記範囲より減少させると、耐メタル性能が低下し、Ni、Vなどの金属化合物の細孔内拡散性の低下により脱メタル活性が低下する傾向にあり、増加させると、表面積が小さくなり、触媒活性が低下する傾向にある。
【0031】
触媒の平均細孔直径は、前段触媒では15〜35nmの範囲であり、好ましくは20〜30nmの範囲である。中段触媒では6〜12nmの範囲であり、好ましくは7〜11nmの範囲である。後段触媒では5〜10nmの範囲であり、好ましくは6〜9nmの範囲である。
平均細孔直径を前記範囲より減少させると、耐メタル性能が低下し、Ni、Vなどの金属化合物の細孔内拡散性の低下により、脱メタル活性が低下する傾向にあり、増加させると、表面積が小さくなり、触媒活性が低下する傾向にある。
【0032】
前段触媒において、触媒の平均細孔直径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合は、15〜50%の範囲であり、好ましくは20〜50%の範囲である。平均細孔直径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合を前記範囲より減少させると、Ni、Vなどの金属化合物の水素化反応に有用でない細孔が増加し、脱メタル活性が低下するおそれがある。
【0033】
中段触媒において、触媒の平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合は、50〜90%の範囲であり、好ましくは70〜90%の範囲である。また、後段触媒では、平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合は、60〜90%の範囲であり、好ましくは70〜90%の範囲である。平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合を前記範囲より減少させると、硫黄化合物の水素化反応に有用でない細孔が増加し、脱硫活性が低下するおそれがある。
【0034】
触媒強度は、前段触媒、中段触媒及び後段触媒で、9〜45N/mmの範囲である。触媒強度が前記範囲より低下すると、工業装置で使用する場合、触媒が粉砕されて触媒床の詰まりを生じるおそれがある。
【0035】
本発明の重質炭化水素油の水素化処理方法において、前段触媒の充填割合は、全触媒容積の10〜30%、好ましくは15〜25%、中段触媒の充填割合は、全触媒容積の15〜40%、好ましくは20〜35%、後段触媒の充填割合は、全触媒容積の40〜70%、好ましくは45〜65%である。この範囲が、触媒系全体の触媒寿命、脱硫活性や脱メタル活性の維持に好適である。
【0036】
本発明における水素化処理条件は、温度は300〜450℃、好ましくは370℃〜420℃、液空間速度(LHSV)は0.05〜5h−1、好ましくは0.1〜0.3h−1、水素分圧は4〜20MPa、好ましくは9〜15MPa、水素/油比は400〜3000NL/L、好ましくは500〜1400NL/Lである。
【0037】
本発明の重質炭化水素油の水素化処理方法で用いる処理対象の重質炭化水素油としては、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油や、これらの混合油等が挙げられる。常圧蒸留残油と減圧蒸留残油とを混合する場合は、その性状にもよるが混合割合としては、減圧残油を1〜60容量%程度、混合することがよく用いられる。
【0038】
本発明では、密度が0.91〜1.0g/cm、特に0.95〜1.0g/cm、硫黄分が2〜6質量%、特に2〜4質量%、ニッケル、バナジウム等の金属分が1〜1500ppm、特に20〜400ppm、残留炭素分が2〜30質量%、特に7〜30質量%の重質炭化水素油に対して効果的である。
【0039】
本発明の水素化処理方法は、前記水素化処理条件で、前記本発明に規定する特定の触媒と硫黄化合物を含む重質炭化水素油とを接触させて水素化処理を行い、当該原料中の硫黄分や重金属分を低減する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
〔触媒の調製〕
<触媒A(前段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で8質量%となるよう酸化亜鉛を添加して水分調整し、混練、成型した後、乾燥、焼成することで酸化亜鉛含有アルミナ担体を調製した。
一方、三酸化モリブデンと炭酸ニッケルを、モリブデン(Mo)含有量が触媒基準、酸化物換算で9質量%、ニッケル(Ni)含有量が触媒基準、酸化物換算で2質量%となるように、イオン交換水に添加し、更に添加した金属化合物が完全に溶解するまでクエン酸を添加して金属化合物の水溶液を調製した。この水溶液を上記酸化亜鉛含有アルミナ担体に滴下した後静置し、その後、乾燥、焼成することで触媒Aを得た。
【0042】
<触媒B(中段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で8質量%となるよう酸化亜鉛を添加し、リン(P)含有量が触媒基準、酸化物換算で1質量%となるようオルトリン酸を添加して水分調整し、混練、成型した後、乾燥、焼成することでリン・酸化亜鉛含有アルミナ担体を調製した。
上記リン・酸化亜鉛含有アルミナ担体に、モリブデン(Mo)含有量が触媒基準、酸化物換算で12質量%となるようにモリブデン酸アンモニウムをイオン交換水に溶かした溶液を滴下した後静置し、その後、乾燥、焼成することでモリブデン担持リン・酸化亜鉛含有アルミナ担体を得た。
次いで、上記モリブデン担持リン・酸化亜鉛含有アルミナ担体に、ニッケル(Ni)含有量が触媒基準、酸化物換算で4質量%となるように硝酸ニッケルをイオン交換水に溶かした溶液を滴下した後静置し、その後、乾燥、焼成することで触媒Bを得た。
【0043】
<触媒c(中段触媒)の調製>
アルミナゲルに酸化亜鉛を添加しなかったこと以外は、全て触媒Bと同様に調製して、触媒cを得た。
【0044】
<触媒F(中段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で4質量%となるよう酸化亜鉛を添加したこと以外は、全て触媒Bと同様に調製して、触媒Fを得た。
【0045】
<触媒G(中段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で4質量%となるよう酸化亜鉛を添加して酸化亜鉛含有アルミナ担体を調製し、リン(P)含有量が触媒基準、酸化物換算で1質量%となるようオルトリン酸をイオン交換水に添加してモリブデン担持酸化亜鉛含有アルミナ担体に含浸させたこと以外は、全て触媒Bと同様に調製して、触媒Gを得た。
【0046】
<触媒D(後段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で8質量%となるよう酸化亜鉛を添加して水分調整し、混練、成型した後、乾燥、焼成することで酸化亜鉛含有アルミナ担体を調製した。
上記酸化亜鉛含有アルミナ担体に、リチウム(Li)含有量が触媒基準、酸化物換算で0.1質量%となるように硝酸リチウムをイオン交換水に溶かした溶液を滴下した後静置し、その後、乾燥、焼成することでリチウム担持酸化亜鉛含有アルミナ担体を得た。
一方、三酸化モリブデン、炭酸ニッケルおよびオルトリン酸を、モリブデン(Mo)含有量が触媒基準、酸化物換算で15質量%、ニッケル(Ni)含有量が触媒基準、酸化物換算で3質量%、リン(P)含有量が触媒基準、酸化物換算で3質量%となるように、イオン交換水に添加し、更に添加した金属化合物が完全に溶解するまでクエン酸を添加して金属化合物の水溶液を調製した。この水溶液を上記リチウム担持酸化亜鉛含有アルミナ担体に滴下した後静置し、その後、乾燥、焼成することで触媒Dを得た。
【0047】
<触媒e(後段触媒)の調製>
アルミナゲルに酸化亜鉛を添加しなかったこと以外は、全て触媒Dと同様に調製して、触媒eを得た。
【0048】
<触媒H(後段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で4質量%となるよう酸化亜鉛を添加したこと以外は、全て触媒Dと同様に調製して、触媒Hを得た。
【0049】
<触媒I(後段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で4質量%となるよう酸化亜鉛を添加し、且つ、硝酸リチウムを添加しなかったこと以外は、全て触媒Dと同様に調製して、触媒Iを得た。
【0050】
<触媒J(後段触媒)の調製>
アルミナゲルに、亜鉛(Zn)含有量が担体基準、酸化物換算で4質量%となるよう酸化亜鉛を添加し、リン(P)含有量が触媒基準、酸化物換算で2質量%となるようオルトリン酸を添加して水分調整し、混練、成型した後、乾燥、焼成することでリン・酸化亜鉛含有アルミナ担体を調製した。
一方、三酸化モリブデン、炭酸ニッケルおよびオルトリン酸を、モリブデン(Mo)含有量が触媒基準、酸化物換算で15質量%、ニッケル(Ni)含有量が触媒基準、酸化物換算で3質量%、リン(P)含有量が触媒基準、酸化物換算で1質量%となるように、イオン交換水に添加し、更に添加した金属化合物が完全に溶解するまでクエン酸を添加して金属化合物の水溶液を調製した。この水溶液を上記リン・酸化亜鉛含有アルミナ担体に滴下した後静置し、その後、乾燥、焼成することで触媒Jを得た。
【0051】
〔触媒の性状〕
前段に使用した触媒Aの物理性状を表1に、中段で使用した触媒B、c、F、Gの物理性状を表2に、後段で使用した触媒D、e、H、I、Jの物理性状を表3に示し、また各触媒の酸化亜鉛の担体基準、酸化物換算での含有量および水素化活性金属、リン、リチウムの触媒基準、酸化物換算での含有量を表4に示す。
【0052】
上記触媒の性状は次のように測定した。
比表面積は、触媒を400℃で1時間真空脱気した後、QUANTACHROME INSTRUMENTS社製の表面積測定装置(NOVA−3000e)を用い、窒素吸着法(BET)法で測定した。
細孔容積と平均細孔直径および平均細孔直径±1.5nm(前段触媒に関しては±2.0nm)は触媒を400℃で1時間真空脱気した後、MICROMETORICS社製(AUTOPORE−9520)を用い水銀圧入法で測定した。なお、水銀の表面張力は470dynes/cmとし、接触角は130°とした。
【0053】
触媒強度は、触媒を550℃で1時間焼成した後、ミネベア社製TG−1kNを用い測定した。触媒中の金属分析は、サーモ社製のICP発光分析装置(IRIS Advanage型)を用いて行った。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
〔水素化処理操作〕
実施例又は比較例において、3種類の触媒を固定床流通式反応装置に充填し、下記性状の原料油を用いて、下記反応条件で水素化処理を行い、生成油を得た。
【0059】
<原料油1の性状>
原料油 常圧蒸留残油(60容量%)+減圧蒸留残油(40容量%)
密度(15℃) 0.9764g/cm
硫黄分 3.35質量%
ニッケル分 13ppm
バナジウム分 37ppm
残留炭素分 11.7質量%
【0060】
<反応条件1>
水素分圧 10.3MPa
反応温度 360℃〜400℃
LHSV 0.253
水素/油比 876.2NL/L
【0061】
(実施例1)
上記水素化処理操作において、原料油1を用いた反応条件1の条件下で、前段触媒として触媒Aを、中段触媒として触媒Bを、後段触媒として触媒Dを容積比20:30:50で固定床流通式反応装置に充填し、前段触媒から順次原料油を接触させ、水素化処理を行い、生成油を得た。
【0062】
(比較例1)
上記水素化処理操作において、原料油1を用いた反応条件1の条件下で、前段触媒として触媒Aを、中段触媒として触媒cを、後段触媒として触媒eを容積比20:30:50で固定床流通式反応装置に充填し、前段触媒から順次原料油を接触させ、水素化処理を行い、生成油を得た。
【0063】
(比較例2)
上記水素化処理操作において、原料油1を用いた反応条件1の条件下で、前段触媒として触媒Aを、中段触媒として触媒Bを、後段触媒として触媒eを容積比20:30:50で固定床流通式反応装置に充填し、前段触媒から順次原料油を接触させ、水素化処理を行い、生成油を得た。
【0064】
(実施例2〜6)
前段触媒、中段触媒、後段触媒として下記触媒を容積比20:30:50で用いたこと以外は実施例1と同様にして実施例2〜6の生成油を得た。
実施例2:前段触媒=A、中段触媒=F、後段触媒=D
実施例3:前段触媒=A、中段触媒=F、後段触媒=H
実施例4:前段触媒=A、中段触媒=F、後段触媒=I
実施例5:前段触媒=A、中段触媒=G、後段触媒=I
実施例6:前段触媒=A、中段触媒=F、後段触媒=J
【0065】
〔脱硫活性の評価〕
上記実施例1〜6および比較例1〜2における脱硫活性評価の運転方法には、反応生成油中の硫黄分が0.3質量%になるように、随時反応装置温度を上昇させる方法を用いた。具体的には、一定間隔毎に反応生成油中の硫黄分を測定し、得られた生成油中の硫黄分を用いて要求温度を算出し、反応装置の温度を要求温度に上げる操作を行った。
ここで、要求温度とは、目標硫黄分である0.3質量%を得るために必要な温度であり、算出には下記式1を用いた。
反応生成油中の硫黄分の測定方法はJIS K 2541原油および石油製品硫黄分析試験方法(放射線励起法)によった。
TR=1/(1/T−R/Ea・ln(LHSV×(1/Sp−1/Sf)/LHSV×(1/Sp−1/Sf))) ・・・(式1)
(式1において、TR:要求温度(K)、T:運転温度(K)、R:気体定数(J mol−1−1)、Ea:重質炭化水素油脱硫反応の活性化エネルギー(J mol−1)、Sp:生成油中の硫黄分(質量%)、Sf:原料油中の硫黄分(質量%)、Sp:生成油中の目標硫黄分である0.3(質量%)である。)
【0066】
脱硫活性は脱硫反応速度定数を算出し、380℃に補正した値とした。具体的には、まず脱硫反応速度定数ksは下記式2を用いて算出した。一般的に、反応速度式における温度依存性については、下記式3に示すアレニウスの式で表わされるため、このアレニウスの式を利用して、380℃に補正した脱硫反応速度定数は下記式4を用いて算出した。
ks=LHSV×(1/Sp−1/Sf) ・・・(式2)
(式2において、ks:脱硫反応速度定数、LHSV:液空間速度(h−1)、Sp:生成油中の硫黄分(質量%)、Sf:原料油中の硫黄分(質量%)である。)
lnk=lnA−E/RT ・・・(式3)
(式3において、k:反応速度定数、A:頻度因子、Ea:活性化エネルギー(J mol−1)、R:気体定数(J mol−1−1)、T:反応温度(K)である。)
lnks1(380)=ks/exp((1/T(380)−1/T)×Ea/R) ・・・(式4)
(式4において、ks:脱硫反応速度定数、Ea:重質炭化水素油脱硫反応の活性化エネルギー(J mol−1)、R:気体定数(J mol−1−1)、T:運転温度(K)、k1(380):380℃のときの脱硫反応速度定数、T(380):380+273(K)である。)
【0067】
上記実施例1〜6および比較例1〜2の評価を行い、比較例1の温度が380℃となった日を基準日とした。基準日における比較例1の脱硫活性を100とし、実施例1〜6および比較例1〜2の脱硫相対活性を表5に示す。
【0068】
【表5】

【0069】
基準日から30日後の比較例1の脱硫活性を100とし、実施例1〜6および比較例1〜2の脱硫相対活性を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
反応時間の経過とともに、脱硫活性(380℃に補正した脱硫反応速度定数)は低下し、この脱硫活性低下の様子は、通常、図1のようになる。尚、一定の劣化傾向を示しているときの傾きを触媒の劣化速度とした。
380℃となった運転日からの30日間の劣化速度を比較例1の劣化速度を1とし、実施例1〜6および比較例1〜2の相対劣化速度を表7に示す。
【0072】
【表7】

【0073】
〔耐金属性の評価〕
(実施例7〜9)
次のようにして触媒の耐金属性を評価した。すなわち、実施例7〜9において、原料油として原料油1に代えて下記性状の原料油2を用い、反応条件として反応条件1に代えて下記の反応条件2を採用したこと以外は実施例4〜6と同様にして生成油を得た。
【0074】
<原料油2の性状>
原料油 ボスカン原油
密度(15℃) 1.0000g/cm
硫黄分 4.7質量%
ニッケル分 120ppm
バナジウム分 1300ppm
【0075】
<反応条件2>
水素分圧 10.3MPa
反応温度 395℃
LHSV 0.253
水素/油比 1690NL/L
【0076】
耐金属性能の評価は、生成油中の硫黄分を求め、脱硫率を下記式5で随時求め、そして、水素化脱硫活性が50%以下となった時点で、各段の触媒を一定量抜き出し、触媒上に堆積した金属(ニッケルおよびバナジウム)量を測定し、該金属量の対比により行った。その結果を、実施例8の耐金属性能を基準(100)とし、実施例7と実施例9の耐金属性能を相対耐金属性能にて表8に示す。
脱硫率(%)=(Sf−Sp)/Sf×100 ・・・(式5)
(式5において、Sf:原料油中の硫黄分(質量%)、Sp:生成油中の硫黄分(質量%)である。)
【0077】
【表8】

【0078】
上記表6、表7から明らかなように、本発明の実施例に示す触媒の組み合わせは、380℃以降の高温領域で触媒劣化が抑制され、高い脱硫活性を維持する性能を有することが判った。また、上記表8から明らかなように、本発明の実施例に示す触媒の組み合わせは、優れた耐金属性を有することが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重質炭化水素油を、水素分圧4〜20MPa、水素/油比400〜3000NL/L、温度300〜450℃、液空間速度0.05〜5h−1で、前段、中段、後段の複数からなる触媒と順次接触させて水素化処理する方法であって、
(a)前段触媒として、
酸化亜鉛を1〜12質量%含有する無機酸化物担体に、触媒基準かつ酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を6〜12質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を1〜4質量%含有させ、
比表面積70〜150m/g、細孔容積0.6〜1ml/g、平均細孔直径15〜35nm、かつ平均細孔直径±2.0nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が15〜50%、触媒強度が9〜45N/mmである触媒を、触媒全体に対して、容積基準で10〜30%用い、
(b)中段触媒として、
酸化亜鉛を1〜12質量%含有する無機酸化物担体に、触媒基準かつ酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を8〜16質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を2〜6質量%、リンを0.3〜1.8質量%含有させ、
比表面積200〜350m/g、細孔容積0.4〜0.8ml/g、平均細孔直径6〜12nm、かつ平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が50〜90%、触媒強度が9〜45N/mmである触媒を、触媒全体に対して、容積基準で15〜40%用い、
(c)後段触媒として、
酸化亜鉛を1〜12質量%含有する無機酸化物担体に、触媒基準かつ酸化物換算で、周期律表第6族金属から選ばれた少なくとも1種を10〜20質量%、周期律表第8族金属から選ばれた少なくとも1種を2〜6質量%、リンを2〜5質量%含有させ、
比表面積180〜350m/g、細孔容積0.4〜0.8ml/g、平均細孔直径5〜10nm、かつ平均細孔直径±1.5nmの細孔径を有する細孔の全容積の全細孔容積に対する割合が60%〜90%、触媒強度が9〜45N/mmである触媒を、触媒全体に対して、容積基準で40〜70%用いること、
を特徴とする重質炭化水素油の水素化処理方法。

【図1】
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