説明

重金属イオン吸着剤

本発明の吸着剤は、水溶性カルシウム塩および/またはマグネシウム塩の水溶液にナトリウム型ゼオライトを含浸させ、ゼオライトの交換可能な全陽イオン量の60モル%以上をカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンで置換し、そのゼオライトを活性炭の表面にバインダーを用いて被覆した重金属イオン吸着剤である。この吸着剤を用いると、水中特に水道水中の重金属類イオン、残留塩素、トリハロメタンを効率よく除去し、かつカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分を残し、おいしくて健康に良い水が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の重金属イオンを除去するのに適した吸着剤に関する。特に浄水器へ適用し、水道水中の重金属イオンを除去するとともに、残留塩素、トリハロメタンをも効率よく除去し、しかもカルシウムイオンやマグネシウムイオンを除去しないで、安全でおいしい水を提供することができる水中重金属イオン吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水中に含まれるトリハロメタンや残留塩素を除去するために活性炭が広く利用されている。ところが、近年、水道水中に微量に溶解している鉛イオンなどの重金属イオン類が新たな問題となっており、この重金属類イオンは活性炭単独では除去が困難である。
【0003】
一方、ゼオライトに代表されるアルミノケイ酸塩は、水中でのイオン交換機能があり、水中の重金属類イオンを吸着する機能があることは知られている。
【0004】
活性炭と天然ゼオライトを混合して水道水の重金属イオン吸着剤として使用することが提案されている(特許文献1)が、天然ゼオライトでは重金属類イオンの吸着性能が低い。これ以外にも、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩系無機イオン交換体と活性炭を組み合わせた浄水器が提案されている(特許文献2、特許文献3)が、ゼオライトは重金属イオンを吸着する以外に、水道水中のミネラル分(カルシウムイオンやマグネシウムイオン)も吸着するので、処理後しばらくの間は水中のミネラル分の含量が低下し、その結果水の味が低下し、また健康上も好ましくないものになってしまう。また、いずれも比較的粒子径の大なる粒状ゼオライトが使用されているので水との接触面積が小さく、重金属イオン吸着速度が遅い。したがって従来の吸着剤では、浄水器に使用する場合、重金属イオンが十分には除去されていない。
【0005】
さらに、粉末状のイオン交換体と繊維状活性炭を混合した浄水器も提案されている(特許文献4)が、粉末状のイオン交換体は取り扱い時に発塵するのみならず、浄水器の目詰まりの原因となる。
【特許文献1】特開昭61−86985号公報
【特許文献2】特開平8−132026号公報
【特許文献3】特開平10−277537号公報
【特許文献4】実開昭54−6351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、水中特に水道水中の重金属類イオン(例;鉛、カドミウム、銅、水銀)のみならず残留塩素、トリハロメタン等をも効率よく吸着し、かつカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分を吸着せずに残し、おいしくて健康に良い水を得ることができる重金属イオンの吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ゼオライトをあらかじめ水溶性カルシウム塩および/またはマグネシウム塩の溶液で処理することにより、ゼオライトが重金属類イオンを吸着し、カルシウムやマグネシウムのミネラル分は吸着しないことを見出した。さらに、この水溶性カルシウム塩および/またはマグネシウム塩溶液で処理したゼオライトを、バインダーを介して活性炭に均一に付着せしめることで、ミネラル分は残して、重金属類イオン、残留塩素やトリハロメタンの除去に優れた吸着剤を開発した。
【0008】
即ち本発明は、
(1)交換可能な全陽イオン量の60モル%以上がカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンで置換されたゼオライトを活性炭の表面にバインダーを用いて付着させた重金属イオン吸着剤、
(2)ゼオライトの活性炭に対する使用割合が、0.1〜80重量%である(1)記載の重金属イオン吸着剤、
(3)ゼオライトの活性炭に対する使用割合が、0.5〜20重量%である請求項1記載の重金属イオン吸着剤、
(4)交換可能な全陽イオン量の60モル%以上がカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンで置換されたゼオライトが、ナトリウム型ゼオライトを水溶性カルシウム塩および/またはマグネシウム塩の水溶液に含浸させることにより得られたものである(1)〜(3)のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤、
(5)ゼオライトが、合成A型および/またはX型である(1)〜(4)のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤、
(6)さらに銀および/または銀化合物を添着させた(1)〜(5)のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤、
(7)さらに水溶性アルカリ土類金属塩を添着させた(6)記載の重金属イオン吸着剤、
(8)バインダーが水ガラスである(1)〜(7)のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤、および
(9)浄水器のろ材である(1)〜(8)のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤、
である。
【0009】
本発明において用いられる原料ゼオライトとしては、菱沸石、エリオナイト、モルデナイト、クリノプチロライトなどの天然ゼオライトおよび合成ゼオライトのナトリウム置換型が挙げられる。合成ゼオライトとしては、たとえば「ゼオライトの最新応用技術」、(株)シーエムシー、p.11〜p.13に示されている、各種合成A型、X型、Y型ゼオライトを用いることができ、A型としては、4A型、X型として13X型が好ましい。これらの中でも特に13X型がより好ましい。このように、ゼオライトとしては天然ゼオライト、合成ゼオライトのいずれも使用することができるが、天然ゼオライトは合成ゼオライトよりイオン交換容量が低いので、より多い量を使用する必要がある。またゼオライトを活性炭表面に付着させるに際して微粉砕する必要がある。本発明においては、これらのゼオライトを、異なる種類のものと混合として用いることもできる。
【0010】
活性炭粒子に付着させるゼオライトの平均粒子径は通常45μm以下、好ましくは20〜0.1μm、より好ましくは5〜0.5μmである。
ゼオライトにおけるカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン交換量は、ナトリウム基準で、ゼオライトの交換可能な全陽イオン量の通常60モル%以上が好ましい。すなわち、陽イオンとして、ナトリウムとカルシウムおよび/またはマグネシウムが置換されている場合には、
CaO(MgO)/(NaO+CaO(MgO))
で示されるモル比が60%以上ということである。このモル比は、好ましくは70〜95%、更に好ましくは75〜90%である。
【0011】
ナトリウム型ゼオライトをカルシウム型またはマグネシウム型に置換する方法は、ナトリウム型ゼオライトの陽イオン交換量の1.0〜2.0倍量、好ましくは1.0〜1.5倍量のカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含む水溶液中にゼオライトを含浸させ、ナトリウムイオンをカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンと交換させる。
【0012】
本発明における水溶性カルシウム塩は、25℃で中性の水に対し1重量%(10g/L)以上溶解するものをいい、例としては、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウムなどが挙げられるが、特に塩化カルシウムが好ましい。水溶性マグネシウム塩も、25℃で中性の水に対し1重量%(10g/L)以上溶解するものをいい、例としては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなどが挙げられるが、特に塩化マグシウムが好ましい。
【0013】
カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン含有水溶液の濃度は、通常0.1〜15重量%、好ましくは、1〜10重量%である。
【0014】
ゼオライトとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン含有水溶液を接触させる場合の混合比は、処理し易い適当な比率を選択すればよいが、通常1gのゼオライトに対して1〜100mlのカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオン含有水溶液を用いるのがよい。
【0015】
また、ゼオライトのナトリウムイオンをカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンに置換する時期は、ゼオライトを活性炭表面に付着させる前でも後でもよい。
【0016】
ゼオライトのカルシウム塩および/またはマグネシウム塩含有溶液への含浸は、攪拌下でも静置でも良いが、攪拌下に行うと含浸時間が短くて済む。攪拌時間は通常30分から10時間が適当であり、含浸温度は0〜80℃でよい。含浸温度が、例えば35〜80℃と高い場合は、含浸時間が短くて済む。
【0017】
カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンとイオン交換させた合成ゼオライトは、必要により洗浄してもよい。洗浄はイオン交換水を用いて行うのが好ましい。カルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンとのイオン交換後、公知の方法で水切りを行ない、必要により乾燥しても良い。
【0018】
本発明に用いられる活性炭の原料は、木材、鋸屑、木炭、素灰、ヤシ殻やクルミ殻などの果実殻、桃、梅などの果実種子、リグニン廃液のようなパルプ製造副産物、精糖廃物(バカス)、廃糖密などの植物系原料、泥炭、草炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石油ピッチ等の鉱物系原料、アクリル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フェノール樹脂などの合成樹脂系原料若しくはそれらの炭化物など、一般的に用いられるものであればいずれでも良い。特にヤシ殻が好ましい。
【0019】
活性炭の賦活方法も特に限定されない。たとえば「活性炭工業」、重化学工業通信社(1974)、p.23〜p.37に記載の方法で製造される、水蒸気、酸素、炭酸ガスなどの活性ガスでの賦活炭や、リン酸、塩化亜鉛などを用いた薬品賦活炭など、ハロゲンガスで賦活した以外の活性炭が用いられる。
【0020】
本発明に用いられる賦活活性炭のBET比表面積は、通常500〜2000m/g、好ましくは700〜1800m/gである。
【0021】
活性炭の粒度は特に限定されないが、平均粒子径が通常0.075〜5mm、好ましくは0.1〜3mmのものである。
【0022】
本発明におけるゼオライトの活性炭に対する使用重量割合は、活性炭100重量部に対して、ゼオライトが通常0.1〜80重量部、好ましくは、0.5〜20重量部、さらに好ましくは0.5〜15重量部、最も好ましくは0.5〜5重量部である。
【0023】
バインダーとしては、人体に害を及ぼさず、活性炭の細孔を閉塞せず、かつ加熱などの物理的手段でゼオライトを活性炭表面に固定化しうるものが用いられる。
バインダーには、有機系と無機系のバインダーがあるが、有機系バインダーとしてはポリウレタン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニルなどのラテックス系樹脂が、無機系バインダーとしては水ガラス(ケイ酸ナトリウム)、シリカアルミナセラミックスなどが挙げられる。それらの中で、特に水ガラスが好ましい。
【0024】
使用するバインダー溶液の濃度は、通常1〜15重量%、好ましくは、3〜10重量%である。また、バインダーの使用量は、ゼオライトと活性炭の合計重量に対して、0.5〜25重量%、好ましくは、1〜15重量%である。
【0025】
ゼオライトを活性炭表面に被覆する方法は特に限定されず、公知の方法が用いられる。例えば、ゼオライト粉末を含有する溶液に活性炭を浸し、その後乾燥する方法(含浸法)、ゼオライト粉末を含有する溶液を活性炭表面に噴霧し乾燥する方法(噴霧法)、または活性炭を流動させた状態で、ゼオライト粉末を含有する溶液を通過させて乾燥する方法(流動法)などが挙げられる。
【0026】
水ガラスやシリカアルミナはバインダーの役目を果たすとともに、ゼオライトとの親和性が高いので特に好ましい。またバインダーは、1種類でもよいし、2種類以上の混合物を使用してもよい。
【0027】
活性炭および/又はゼオライトには、重金属イオン吸着剤に抗菌性を付与するために銀または銀化合物を添着させてもよい。添着は、例えばコロイド銀、硝酸銀などの水溶性銀化合物の水溶液を被覆前または後のゼオライトおよび/または活性炭に添加し、乾燥することにより行うことができる。
【0028】
本発明の重金属イオン吸着剤に銀または銀化合物を添着した場合には、さらに水溶性アルカリ土類金属塩を添着することにより、銀イオンの水中への溶出量を抑えることができ、抗菌効果を長期間にわたって持続させることができる。アルカリ土類金属塩としては、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硫酸マグネシウムなどが好ましく、硝酸マグネシウムがより好ましい。
アルカリ土類金属塩の吸着剤への添着は、アルカリ土類金属塩と銀又は銀化合物を含む液体をゼオライトおよび/または活性炭に添加し、乾燥することにより添着することができる。この操作は、銀又は銀化合物を含む液とアルカリ土類金属塩の溶液を合して行っても良い。また、銀又は銀化合物を含む液とアルカリ土類金属塩の溶液を別々に吸着剤に噴霧しても良い。
【0029】
銀または銀化合物の添着量は、ゼオライトと活性炭の合計重量に対し、銀に換算して0.05〜2.0重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、最も好ましくは0.05〜0.2重量%である。また水溶性アルカリ土類金属塩の添着量は、ゼオライトと活性炭の合計重量に対し、アルカリ土類金属に換算して、0.05〜2.0重量%、好ましくは0.05〜0.5重量%、最も好ましくは0.05〜0.2重量%である。
【0030】
本発明は浄水器のろ材として用いられる。浄水器で使用する場合、通常吸着剤を容器に充てんした後、連続的に通水される。別の形態では、吸着剤を充てんした部分に水を注ぎ、バッチ式に通水することもできる。不織布、中空糸膜、セラミックろ過膜など、通常用いられるろ材、麦飯石、コーラルサンド、トルマリンなど、通常用いられる鉱物類とあわせて使用しても良い。また、イオン交換能力をさらに高めるために、イオン交換樹脂、ゼオライト、アパタイト、セピオライト、骨炭など、通常用いられるイオン交換能力を有する材料と混合あるいは積層して使用しても良い。また、アルカリイオン整水器の浄水カートリッジ用ろ剤として使用しても良い。
【発明の効果】
【0031】
本発明の水中重金属吸着剤を用いると、特に水道水中の重金属類、残留塩素、トリハロメタンを効率よく除去し、かつカルシウムなどのミネラル分を残し、おいしくて健康に良い水を得ることができる。また本発明の重金属吸着剤は、処理後の水のpHも中性付近で安定しているという特長を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下実施例、比較例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0033】
原料活性炭は、市販のヤシ殻活性炭(破砕炭)を篩にかけ、0.25〜0.106mmに粒子径を揃えたものを用いた。そのBET比表面積は1100m/gであった。
合成13X型ゼオライト(平均粒子径1μm)90gを500mlのビーカーに入れ、カルシウムとして7.0g含有するように塩化カルシウムを溶解した塩化カルシウム水溶液360mlを加え、ジャーテスターで室温下30分間100rpmで攪拌した。攪拌終了後、フィルターによりゼオライトと水を分離した。得られたゼオライトを水で洗浄して115℃で乾燥し、交換可能な陽イオンの75モル%がカルシウムイオンで置換されたゼオライト粉末を得た。
このゼオライト2gを水ガラス水溶液(水ガラス5g/水70ml)に加えてよく混合し、ゼオライト懸濁液を調製した。この懸濁液を原料活性炭100gに攪拌しながら噴霧し、115℃±5℃に保った乾燥機中で3時間乾燥して、ゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.1を得た。
【実施例2】
【0034】
ゼオライト4gを水ガラス水溶液(水ガラス5g/水70ml)に懸濁させた以外は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.2を得た。
【実施例3】
【0035】
ゼオライト4gを水ガラス水溶液(水ガラス10g/水70ml)に懸濁させた以外は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.3を得た。
【実施例4】
【0036】
ゼオライト10gを水ガラス水溶液(水ガラス20g/水70ml)に懸濁させた以外は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.4を得た。
【実施例5】
【0037】
ゼオライト1gを水ガラス水溶液(水ガラス2g/水70ml)に懸濁させた以外は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.5を得た。
〔比較例1〕
【0038】
水ガラス水溶液に換えて水70mlを使用した以外は実施例1と同様にしてゼオライト及び活性炭からなる吸着剤No.6を得た。
〔比較例2〕
【0039】
ゼオライトを使用せず、活性炭を水ガラス水溶液(水ガラス2g/70ml)に懸濁させた以外は実施例1と同様にして水ガラスコーティング活性炭からなる吸着剤No.7を得た。
【実施例6】
【0040】
合成13X型ゼオライト(粒子径1μm)90gを500mlのビーカーに入れ、塩化カルシウム水溶液360ml(カルシウムとして6.0g含有するように塩化カルシウムを溶解した)を加えて、陽イオンの65モル%がカルシウムで置換されたゼオライト粉末を得た。その他は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.8を得た。
【実施例7】
【0041】
合成13X型ゼオライト(粒子径1μm)90gを500mlのビーカーに入れ、塩化カルシウム水溶液360ml(カルシウムとして8.0g含有するように塩化カルシウムを溶解した)を加えて、陽イオンの85モル%がカルシウムで置換されたゼオライト粉末を得た。その他は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.9を得た。
〔比較例3〕
【0042】
合成13X型ゼオライトをカルシウム交換せずそのまま用いた以外は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.10を得た。
〔比較例4〕
【0043】
合成13X型ゼオライト(粒子径1μm)90gを500mlのビーカーに入れ、塩化カルシウム水溶液360ml(カルシウムとして5.0g含有するように塩化カルシウムを溶解した)を加えて、陽イオンの55モル%がカルシウムで置換されたゼオライト粉末を得た。その他は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.11を得た。
【実施例8】
【0044】
カルシウム交換した合成13X型ゼオライト(粒子径1μm、カルシウム置換率75モル%)2gを銀含有水ガラス水溶液(水ガラス5gおよび硝酸銀0.157g/水70ml)に加えてよく混合して、ゼオライト懸濁液を調製し、原料活性炭100gに混合しながら室温下噴霧し、115℃±5℃に保った乾燥機中で3時間乾燥して、ゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.12を得た。
【実施例9】
【0045】
カルシウム交換した合成13X型ゼオライト(粒子径1μm、カルシウム置換率75モル%)2gを銀およびアルカリ土類金属含有水ガラス水溶液(水ガラス5g、硝酸銀0.157gおよび硝酸マグネシウム1.2g/水70ml)に加えてよく混合して、ゼオライト懸濁液を調製した。この懸濁液を原料活性炭100gに混合しながら室温下噴霧し、ついで115℃±5℃に保った乾燥機中で3時間乾燥して、ゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.13を得た。
【実施例10】
【0046】
比較例4のゼオライト90gを再度500mlのビーカーに入れ、塩化マグネシウム水溶液360ml(マグネシウムとして1.0g含有するように塩化カルシウムを溶解した)を加えて、陽イオンの55モル%がカルシウムで、20モル%がマグネシウム置換されたゼオライト粉末を得た。その他は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.14を得た。
【実施例11】
【0047】
比較例4のゼオライト90gを再度500mlのビーカーに入れ、塩化マグネシウム水溶液360ml(マグネシウムとして1.5g含有するように塩化カルシウムを溶解した)を加えて、陽イオンの55モル%がカルシウムで、30モル%がマグネシウムで置換されたゼオライト粉末を得た。その他は実施例1と同様にしてゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.15を得た。
【実施例12】
【0048】
実施例10のゼオライト2gを銀およびアルカリ土類金属含有水ガラス水溶液(水ガラス5g、硝酸銀0.157gおよび硝酸マグネシウム1.2gを水70mlに溶解したもの)に加えてよく混合して、ゼオライト懸濁液を調製した。この懸濁液を原料活性炭100gに混合しながら室温下噴霧し、ついで115℃±5℃に保った乾燥機中で3時間乾燥して、ゼオライトコーティング活性炭からなる吸着剤No.16を得た。
〔試験例1〕
【0049】
鉛除去性能試験
実施例1〜5(吸着剤No.1〜5)、実施例8〜12(吸着剤No.12〜16)、比較例1、2(吸着剤No.6、7)で得られた各吸着剤の鉛除去性能を次の方法で測定した。
内容積120mlの浄水器カートリッジに吸着剤を充てんし、JIS S3201による方法に準じて通水試験を行った。
すなわち、温度20℃で、鉛50ppbに調製した水を、浄水器にSV=900hr−1で通水し、浄水器の出口の水を定期的に採取した。この水中の鉛濃度を原子吸光分光光度計で測定した。そして次の式で示される鉛の除去率が80%を下回るまでの通水量を、鉛除去性能とし、その結果を表1に示した。
除去率(%)={(入口濃度)−(出口濃度)/(入口濃度)}×100
〔試験例2〕
【0050】
トリハロメタン除去性能試験
内容積120mlの浄水器カートリッジに実施例1〜5(吸着剤No.1〜5)、実施例8〜12(吸着剤No.12〜16)、比較例1、2(吸着剤No.6、7)で得られた吸着剤を充てんし、JIS S3201による方法に準じて通水試験を行った。すなわち、温度20℃で、クロロホルム45ppb、ブロモジクロロメタン30ppb、ジブロモクロロメタン20ppb、ブロモホルム5ppbに調製した水(総トリハロメタン濃度100ppb)を、浄水器にSV=900hr−1で通水し、浄水器の出口の水を定期的に採取した。この水中の各成分の濃度をECDガスクロマトグラフィーで測定した。
次の式で示される総トリハロメタンの除去率が80%を下回るまでの通水量を総トリハロメタン除去性能とし、その結果を表1に示した。
除去率(%)={(入口濃度)−(出口濃度)/(入口濃度)}×100
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1〜5(吸着剤No.1〜No.5)、実施例8〜12(吸着剤No.12〜16)では、鉛除去性能、総トリハロメタン除去性能がいずれも900L以上(浄水器として一日10Lの水を使用した場合、3ヶ月以上の寿命)と、実用的に十分な性能を有している。比較例1(吸着剤No.6)では、バインダーを使用していないため、ゼオライトが処理水中に流出し、鉛除去性能が充分には発揮できなかった。比較例2(吸着剤No.7)では、ゼオライトを使用していないため、鉛吸着性能がほとんどなかった。
〔試験例3〕
【0053】
カルシウム減少率の測定
実施例1、6〜8、10〜12(吸着剤No.1、8、9、12、14〜16)、比較例3、4(吸着剤No.10、11)で得られた各吸着剤のカルシウムを次の方法で測定した。
内容積120mlの浄水器カートリッジに吸着剤を充てんし、JIS S3201による方法に準じてSV=900hr−1で通水した時の処理水のカルシウム濃度を原子吸光分光光度計で測定し、カルシウム減少率を測定した。なおこのときの入口水のカルシウム濃度は13.5mg/Lであった。
カルシウム減少率(%)=[{(入口濃度)−(出口濃度)}/(入口濃度)]×100
【0054】
【表2】

【0055】
実施例1(吸着剤No.1)、実施例6(吸着剤No.8)および実施例7(吸着剤No.9)では、通水初期からカルシウム減少率が低く、しかも速やかに減少率が0に近づくのに対し、比較例3(吸着剤No.10)では、ゼオライトのカルシウム交換をしていないため、通水初期から処理中のカルシウム減少率がかなり高くなっている。また、比較例4(吸着剤No.11)では、ゼオライトのカルシウム交換が不十分であるため、カルシウム減少率があまり低くなっていなかった。
〔試験例4〕
【0056】
銀溶出量の測定
実施例1、8〜10、12(吸着剤No.1、12〜14、16)で得られた各吸着剤の銀溶出量を次の方法で測定した。
ゼオライトコーティング活性炭を115℃±5℃に保った乾燥機中で3時間乾燥後、デシケーター(乾燥剤:シリカゲル)中で冷却し、その2gを200mlの三角フラスコにいれ、水100mlを加え、25℃で1時間振とうした。振とう終了後、液をろ紙(5種C)で全量ろ過して、ろ液中の銀濃度を原子吸光分光光度計で測定した。
アルカリ土類金属の効果を示すため、濾取した吸着剤に水を加えて100mlとし、更に室温で1時間振盪した。液をろ紙(5種C)で全量ろ過して、ろ液中の銀濃度を原子吸光分光光度計で測定した。
それらの結果を表3に示した。
【0057】
【表3】

【0058】
表3から明らかなように、銀含有水溶液で銀を添着することにより、銀を溶出することができる吸着剤を調製することができた。また、硝酸マグネシウムを含有する銀含有水溶液により調製した銀及びマグネシウム添着吸着剤は、銀を安定して長期に亘り溶出した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の水中重金属吸着剤を用いると、重金属類、残留塩素、トリハロメタンを効率よく除去し、かつカルシウムなどのミネラル分を残し、おいしくて健康に良い水を得ることができ、また処理後の水のpHも中性付近で安定しているという特長を有しているので、水道水や浄水場の浄化器における吸着剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交換可能な全陽イオン量の60モル%以上がカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンで置換されたゼオライトを活性炭の表面にバインダーを用いて付着させた重金属イオン吸着剤。
【請求項2】
ゼオライトの活性炭に対する使用割合が、0.1〜80重量%である請求項1記載の重金属イオン吸着剤。
【請求項3】
ゼオライトの活性炭に対する使用割合が、0.5〜20重量%である請求項1記載の重金属イオン吸着剤。
【請求項4】
交換可能な全陽イオン量の60モル%以上がカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンで置換されたゼオライトが、ナトリウム型ゼオライトを水溶性カルシウム塩および/またはマグネシウム塩の水溶液に含浸させることにより得られたものである請求項1〜3のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤。
【請求項5】
ゼオライトが、合成A型および/またはX型である請求項1〜4のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤。
【請求項6】
さらに銀および/または銀化合物を添着させた請求項1〜5のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤。
【請求項7】
さらに水溶性アルカリ土類金属塩を添着させた請求項6記載の重金属イオン吸着剤。
【請求項8】
バインダーが水ガラスである請求項1〜7のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤。
【請求項9】
浄水器のろ材である請求項1〜8のいずれかに記載の重金属イオン吸着剤。

【国際公開番号】WO2005/009610
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512014(P2005−512014)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010336
【国際出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(503140056)日本エンバイロケミカルズ株式会社 (95)
【Fターム(参考)】