説明

重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法

【課題】 重金属類の溶出量が少なく、しかも、安価に処理が可能な重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を提供する。
【解決手段】 シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、廃棄物にポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液をスプレイし、あるいは、廃棄物をポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液に浸漬し、廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として重金属類の溶出を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済みの自動車や家電製品等のシュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダスト等の重金属類を含む廃棄物を無害化して処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、使用済みの自動車や家電製品等はシュレッダーで破砕処理し、磁力選別機で含まれる鉄を回収し、更に、手選や移動磁界を利用した非鉄金属選別機で大部分の非鉄金属を分離回収していた。そして、残った残渣と前記処理過程で発生する集塵ダストを含んだシュレッダーダストは埋め立て処理するのが通常であった。しかし、シュレッダーダストをそのまま埋め立て処理すると、それらに含まれる鉛等の重金属類が溶出し環境汚染の問題が発生する虞れがある。また、都市ごみ等の可燃物の焼却灰や焼却飛灰、電気炉ダスト、及び下水汚泥の焼却灰や焼却飛灰にも重金属類が含まれており、これらをそのまま廃棄処分すると重金属類の溶出の虞れがある。従って、これらの重金属類を含む廃棄物の処分を行なう場合には、重金属類の溶出を完全に防止することが必要となる。このため、特許文献1に記載されているように、焼却灰、焼却飛灰、下水汚泥焼却灰、及び電気炉ダスト等の廃棄物に薬剤を添加混練して、廃棄物からの重金属類の溶出防止を図る方法が提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開平7−24434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、使用する薬剤の種類や量が多く、廃棄物の処理コストが高くなるという問題があった。そこで、廃棄物を多量のセメントで固化し重金属類の溶出を防止する方法も考えられるが、処理コストが高くなると共に固化した廃棄物からの重金属類の溶出量を基準値以下にすることは非常に困難となる。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、重金属類の溶出量が少なく、しかも、安価に処理が可能な重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
前記廃棄物に、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液をスプレイ(散布又はシャワーリング)し、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止する。
【0007】
第2の発明に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
前記廃棄物に、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液に浸漬し、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止する。
【0008】
第3の発明に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
粉又は屑状となった前記廃棄物を減容固化機で固化して固形物とし、該固形物にポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液をスプレイし、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止する。
【0009】
第4の発明に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
粉又は屑状となった前記廃棄物を減容固化機で固化して固形物とし、該固形物をポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液に浸漬し、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止する。
【発明の効果】
【0010】
第1〜第4の発明に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法においては、廃棄物に対してポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液をスプレイ及び浸漬のいずれか一方の方法で添加するので、大量の廃棄物に対して薬剤水溶液を一括して添加することができ、効率的な薬剤添加を行なうことが可能になる。その結果、低コストで廃棄物の処理を行なうことが可能になる。
また、廃棄物を固化して固形物とした場合には、減容化した廃棄物に対してその形状を壊さずに薬剤を均一に添加することができるので、大量の廃棄物の処理を容易に行なうことが可能になると共に、廃棄処分場(例えば、埋立地)の延命化及び廃棄処分場の跡地利用を容易に行なうことが可能になる。
特に、廃棄物にアルカリ剤を添加した場合には、重金属が溶出し易い酸性領域になることを防止し、アルカリ剤により重金属類を含む水に不溶な化合物の生成が促進され、重金属類の溶出をより確実に防止することが可能となる。また、アルカリ剤としてセメントを使用すると、処理物を強固に固化することができ、長期間にわたる重金属類の溶出防止が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図、図2は本発明の第2の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図、図3は本発明の第3の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図、図4は本発明の第4の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図、図5は本発明の第5の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図である。
【0012】
本発明の第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、図1に示すように、重金属類を含有する廃棄物の一例である鉛を含有するシュレッダーダストに、ポリ塩化アルミニウムの一例であり無機高分子凝集剤として使用されるポリ塩化アルミニウム(以下、単にPACという)を1〜50重量%の濃度で含む薬剤水溶液をスプレイしてシュレッダーダストにPACを付与し、シュレッダーダストに含まれる鉛を水に不溶な化合物としてその溶出を防止するものである。
具体的には、シュレッダーダストを上部が開放された処理槽内に投入して堆積層を形成し、例えば、堆積層を形成しているシュレッダーダストの重量の10重量%に相当する重量の薬剤水溶液を 開口部の上方からスプレイする。スプレイされた薬剤水溶液は堆積層を形成しているシュレッダーダストの表面を濡らしながら処理槽内を下方に向かって移動しする。このとき、堆積層を通過する薬剤水溶液の一部はシュレッダーダストの表層に浸潤して浸潤層を形成すると共に表面にも付着する。従って、所定重量の薬剤水溶液のスプレイを行なうことにより、シュレッダーダストに薬剤水溶液の浸潤層及び付着層(以下、単に薬剤層という)を形成することができ、例えば、薬剤層の厚みを調整することによりシュレッダーダストに対してPACを外分で0.1〜10重量%含有させることができる。
【0013】
シュレッダーダストの表面に薬剤層として付着したPACは、シュレッダーダスト中の鉛と反応して水に不溶な化合物を形成し、鉛の溶出を防止する。なお、PACの量が0.1重量%より少ない場合には、シュレッダーダスト中の鉛をすべて水に不溶な化合物にすることができず、10重量%より多い場合には、不要なPACが存在することになって経済的なデメリットとなる。そして、このような量の薬剤層をシュレッダーダストの表面に形成するには、1〜50重量%、好ましくは1〜32重量%のPACを有する薬剤水溶液を使用する。1重量%未満の濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用すると、シュレッダーダストの表面に薬剤層を形成するのに要するスプレイの時間が非常に長くなり好ましくない。また、50重量%を超える濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用する場合、シュレッダーダストの表層に過剰な薬剤層が形成されやすく経済的なデメリットとなる。
なお、PACは凝集剤としての機能を有するため、シュレッダーダストと共にシュレッダーダストに含まれる微粒状物質を凝集させて、例えば、雨水の浸水によってシュレッダーダストが流出するのを防止することができる。更に、PACは強いpH緩衝作用があるので、雨水が浸水した際に雨水を鉛が溶出し難い中性域に近づけて鉛の溶出を抑制すると共に、シュレッダーダストから流出する雨水を中性にすることができ、環境に与える負荷を低減できる。
【0014】
ここで、シュレッダーダストの表層に薬剤層を形成させた際に、シュレッダーダストに水酸基が存在すると、鉛とPACとの間の反応が促進されて水に不溶な化合物が効果的に生成し、鉛の溶出を防止する作用が向上する。このため、シュレッダーダストに水酸基が存在しない場合(シュレッダーダストがアルカリ性でない場合)を含めて、シュレッダーダストにアルカリ剤を加えてpHの下限値を5、好ましくは9、pHの上限値を12、好ましくは11にしてからPACを有する薬剤水溶液をスプレイするのがよい。pHが5未満の酸性領域、及びpHが12を超えるアルカリ領域では鉛が溶出するので好ましくない。アルカリ剤には、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、消石灰、鉄鋼スラグ、及びセメント等を使用することができ、特にセメントを使用した場合には、アリカリ剤として働く他にシュレッダーダストを固化させる作用も有するので、長期間にわたりシュレッダーダストからの鉛の溶出防止を維持できる。
また、PACの代りに試薬品のポリ塩化アルミニウムを使用することもできる。更に、PACの代りに、硫酸アルミニウムの一例であり無機凝集剤として使用される硫酸バンドを使用することもできる。硫酸バンドの薬剤水溶液を使用する場合、薬剤水溶液の濃度は1〜50重量%、好ましくは1〜45重量%にする。なお、硫酸バンドの代りに、試薬品の硫酸アルミニウムを使用することもできる。
【0015】
本発明の第2の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、図2に示すように、シュレッダーダストを、1〜50重量%濃度のPACを有する薬剤水溶液を貯留した浸漬槽に一定時間浸漬してから取り出してシュレッダーダストにPACを付与し、シュレッダーダストに含まれる鉛を水に不溶な化合物としてその溶出を防止するものである。
ここで、シュレッダーダストを薬剤水溶液に浸漬すると、シュレッダーダストの表層に薬剤水溶液の浸潤層が徐々に形成されていくので、例えば、付着層の厚みを調整することにより、シュレッダーダストを浸漬槽から引き上げた際にシュレッダーダストが含有するPACの量を、シュレッダーダストに対して外分で0.1〜10重量%とすることができる。また、シュレッダーダストのpH値が5未満の場合、シュレッダーダストを浸漬槽に浸漬する前に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、消石灰、鉄鋼スラグ、及びセメント等のアルカリ剤を加えて、シュレッダーダストのpH値の下限値を5、好ましくは9、pHの上限値を12、好ましくは11に調整する。
【0016】
そして、このような量のPACをシュレッダーダストに含有させるには、1〜50重量%濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用するのが好ましい。1重量%未満の濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用すると、シュレッダーダストに所要量のPACを含有させるのに要する浸漬時間が非常に長くなり好ましくない。また、50重量%を超える濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用する場合、シュレッダーダストの表面に過剰な薬剤層が形成されやすく経済的なデメリットとなる。
なお、シュレッダーダストが含有するPACの作用は第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法の場合と同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0017】
本発明の第3の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、図3に示すように、1〜50重量%濃度のPACを有する薬剤水溶液をスプレイして表層に薬剤層が形成されたシュレッダーダストを減容固化機で固化して固形物にし、この固形物を構成しているシュレッダーダストに含まれる鉛とPACとの間で水に不溶な化合物を生成させて鉛の溶出を防止するものである。ここで、シュレッダーダストのpH値が5未満の場合は、シュレッダーダストに予めアルカリ剤を加えて、pH値の下限値を5、好ましくは9、pHの上限値を12、好ましくは11にする。
なお、第3の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法と比較して、薬剤層が形成されたシュレッダーダストを減容固化機で固化して固形物(例えば、外径が30〜100mm、長さが50〜200mm)にすることが特徴であるので、固形物への固化についてのみ説明する。
【0018】
減容固化機に投入されたシュレッダーダストは、減容固化機内で撹拌されながら加熱され圧密されて押出し口から排出される。このとき、シュレッダーダストが、例えば、自動車から発生したシュレッダーダストのように熱硬化性樹脂を含有している場合は、熱硬化性樹脂が結合剤として作用し減容固化機から排出されるシュレッダーダストは固形物となる。従って、形成された固形物は、シュレッダーダストとPACの混合状態になっている。
ここで、シュレッダーダストに熱硬化性樹脂が含有されない場合、あるいは熱硬化性樹脂が含有が少ない場合は、シュレッダーダストに熱硬化性樹脂を加えることにより、固形物を作製する。なお、PACを有する薬剤水溶液をスプレイして表層に薬剤層が形成されたシュレッダーダストを減容固化機で固化して固形物にしたが、PACを有する薬剤水溶液にシュレッダーダストを浸漬させてPACを含有させたシュレッダーダストを使用することもできる。なお、固形物中に含有されるPACの作用は第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法の場合と同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0019】
本発明の第4の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、図4に示すように、粉又は屑状のシュレッダーダストを減容固化機で固化して固形物にし、この固形物に1〜50重量%濃度のPACを有する薬剤水溶液をスプレイし、固形物に含有させたPACと固形物を構成しているシュレッダーダストに含まれる鉛との間で水に不溶な化合物を生成させて鉛の溶出を防止するものである。ここで、固形物にPACを含有させた際に、シュレッダーダストに水酸基が存在すると、鉛とPACとの間の反応が促進されて水に不溶な化合物が効果的に生成し、鉛の溶出を防止する作用が向上する。このため、シュレッダーダストに水酸基が存在しない場合(シュレッダーダストがアルカリ性でない場合)を含めて、シュレッダーダストに予めアルカリ剤を加えてpH値の下限値を5、好ましくは9、pHの上限値を12、好ましくは11にする。そして、pH調整したシュレッダーダストを減容固化機に投入し固化して固形物する。
【0020】
次いで、得られた固形物を上部が開放された処理槽内に投入して堆積層を形成し、堆積層を形成しているシュレッダーダストの重量の10重量%に相当する重量の薬剤水溶液を 例えば複数のノズルからスプレイする。スプレイされた薬剤水溶液は堆積層を形成している固形物の表面を濡らしながら処理槽内を下方に向かって移動し、このとき、堆積層を通過する薬剤水溶液の一部は固形物の内部に浸潤して浸潤層を形成すると共に表面にも付着する。従って、所定量の薬剤水溶液のスプレイを行なうことにより、固形物に薬剤水溶液の浸潤層及び付着層(以下、単に薬剤層という)を形成することができ、例えば、薬剤層の厚みを調整することにより固形物を構成しているシュレッダーダストに対してPACを外分で0.1〜10重量%含有させることができる。
【0021】
そして、固形物の表層に薬剤層として付着したPACと、固形物を構成しているシュレッダーダストに含まれる鉛との間で水に不溶な化合物が生成されて鉛の溶出が防止される。なお、シュレッダーダストに対してPACを外分で0.1〜10重量%含有させるには、1〜50重量%濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用するのが好ましい。1重量%未満の濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用すると、固形物に所要量のPACを含有させるのに要する時間が非常に長くなり好ましくない。また、50重量%を超える濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用する場合、シュレッダーダストの表層に過剰な薬剤層が形成されやすく経済的なデメリットとなる。
なお、固形物が含有するPACの作用は第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法の場合と同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0022】
本発明の第5の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法は、図5に示すように、粉又は屑状のシュレッダーダストを減容固化機で固化して固形物にし、この固形物を1〜50重量%濃度のPACを有する薬剤水溶液を貯留している浸漬槽に一定時間浸漬してから取り出してシュレッダーダストにPACを付与し、シュレッダーダストに含まれる鉛を水に不溶な化合物としてその溶出を防止するものであり、本発明の第4の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法と比較して、固形物をPACを有する薬剤水溶液に浸漬させることにより固形物にPACを含有させることが特徴となっている。このため、固形物を薬剤水溶液に浸漬する方法についてのみ説明する。
【0023】
固形物を薬剤水溶液に浸漬すると、固形物の表層に薬剤水溶液が浸潤する。従って、薬剤水溶液中での浸漬を継続して行なうことにより、固形物の表層部に薬剤水溶液の浸潤層を形成することができ、例えば、浸漬時間により浸潤層の厚みを調整することにより、固形物を浸漬槽から引き上げた際に固形物が薬剤水溶液の浸潤層及び付着層として含有するPAC量をシュレッダーダストに対して外分で0.1〜10重量%とすることができる。そして、このような量のPACを固形物に含有させるには、1〜50重量%濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用するのが好ましい。1重量%未満の濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用すると、固形物に所要量のPACを含有させるのに要する浸漬時間が非常に長くなり好ましくない。また、50重量%を超える濃度のPACを有する薬剤水溶液を使用する場合、シュレッダーダストの表面に過剰な薬剤層が形成されやすく経済的なデメリットとなる。なお、固形物が含有するPACの作用は第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法の場合と同一であるので、詳細な説明は省略する。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
[試験例1]
鉛を含有するシュレッダーダストに、PACから調製した5重量%濃度の薬剤水溶液をスプレイして、シュレッダーダストに対して外分でそれぞれ1重量%及び2重量%のPACを含有する実施例1及び実施例2の試料を作製した。なお、スプレイする薬剤水溶液の重量は、シュレッダーダストの10重量%に相当する重量とした。また、外分で0.5重量%の高炉セメントを含むシュレッダーダストを調製し、PACの5重量%濃度の薬剤水溶液をスプレイして、シュレッダーダストが外分で1重量%のPACを含有する実施例3の試料を作製した。更に、外分で1重量%の高炉セメントを含むシュレッダーダストを調製し、PACの5重量%濃度の薬剤水溶液をスプレイして、シュレッダーダストが外分で2重量%のPACを含有する実施例4の試料を作製した。そして、環境庁告示第13号による溶出試験を行なった。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
また、実施例1〜実施例4で使用したのと同一のシュレッダーダストに対して市販のリン酸系の溶出防止用薬剤Aを外分で1重量%及び2重量%添加して比較例1及び比較例2の試料を作製し、同様に市販リン酸系の溶出防止用薬剤Bを外分で1重量%及び2.5重量%添加して比較例3及び比較例4の試料を作製した。そして、環境庁告示第13号による溶出試験を行なった。その結果を表1に併せて示す。
シュレッダーダストからの鉛の溶出は0.87mg/リットルであり、実施例1〜4、比較例1〜4のいずれの場合も鉛の溶出量(溶出基準値は0.3mg/リットル以下)を低下させることができたが、実施例1〜4では比較例1〜4に比べて少量の薬剤で鉛の溶出量を大きく低減させることが確認できた。
【0027】
[試験例2]
試験例1で使用したシュレッダーダストとPACの5重量%濃度の薬剤水溶液を用いて、スプレイで2重量%のPACを外分で含有するシュレッダーダストを調製し、このシュレッダーダストから減容固化機を用いて固形物状の実施例5の試料を作製した。また、外分で1重量%の高炉セメントを含むように調製したシュレッダーダストに対してスプレイにて外分で2重量%のPACを含有させて、このシュレッダーダストから減容固化機を用いて固形物状の実施例6の試料を作製した。更に、PACを含有していないシュレッダーダストから減容固化機を用いて固形物状の比較例5の試料を作製した。なお、実施例5、6及び比較例5の使用を作製する際の減容固化機の設定温度は150℃である。そして、環境庁告示第13号による溶出試験を行なった。その結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
実施例5、6はいずれも鉛の溶出量は基準値を満たすが、実施例4と比較して溶出量が増加している。これは、シュレッダーダストを減容固化機で固形物にする際に150℃の温度に曝されるため、PACの反応性が低下したためと考えられる。なお、高炉セメントを添加すると、PACが水に不溶な化合物に変化する反応が促進されるため、鉛の溶出量が低下する。
【0030】
[試験例3]
試験例1で使用したシュレッダーダストから減容固化機を用いて固形物を作製した。なお、減容固化機の設定温度は150℃である。そして、この固形物をPACから調製した濃度が1.6重量%、3.3重量%、及び6.8重量%の薬剤水溶液を貯留している浸漬槽にそれぞれ投入し、1分間浸漬した後に引き上げてPACを含有する実施例7〜実施例9の試料を作製した。また、PACから調製した1.6重量%、3.3重量%、及び6.8重量%の濃度の薬剤水溶液を固形物にスプレイして、実施例10〜実施例12の試料を作製した。なお、スプレイする薬剤水溶液の重量は、固形物の10重量%に相当する重量とした。一方、PACから調製した濃度が0.3重量%の薬剤水溶液に固形物を1分間浸漬した後に引き上げてPACを含有する比較例6の試料、PACから調製した濃度が0.3重量%の薬剤水溶液を固形物の10重量%に相当する重量だけスプレイしてPACを含有する比較例7の試料を作製した。そして、環境庁告示第13号による溶出試験を行なった。その結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
比較例5(シュレッダーダストを固形物にした場合)の試料からの鉛の溶出が0.59mg/リットルであるのに対して、固形物にPACを含有させた実施例7〜12では鉛の溶出量が大きく低減しており、シュレッダーダストの容積の低減と共に鉛の溶出量の低減も可能であることが確認できた。これによって、大量のシュレッダーダストの処理を容易に行なうことが可能になると共に、廃棄処分場の延命化が可能になる。
なお、比較例6及び比較例7の結果に示すように、PACの濃度が0.3重量%の薬剤水溶液を使用しても、シュレッダーダストからの鉛の溶出が0.87mg/リットルであれば、また、シュレッダーダストを固形物にした場合(比較例5)での鉛の溶出が0.59mg/リットル程度であれば、鉛の溶出基準値以下である。
【0033】
[試験例4]
試験例3で作製した固形物を、硫酸バンドから調製した濃度が2.2重量%、4.5重量%、及び9.5重量%の薬剤水溶液をそれぞれ貯留している浸漬槽に投入し、1分間浸漬した後に引き上げて硫酸バンドを含有する実施例13〜実施例15の試料を作製した。また、硫酸バンドの濃度が2.2重量%、4.5重量%、及び9.5重量%の薬剤水溶液を固形物にスプレイして、硫酸バンドを含有する実施例16〜実施例18の試料を作製した。なお、スプレイする薬剤水溶液の重量は、固形物の10重量%に相当する重量とした。一方、硫酸バンドから調製した濃度が0.4重量%の薬剤水溶液に固形物を1分間浸漬した後に引き上げて硫酸バンドを含有する比較例8の試料、硫酸バンドの濃度が0.4重量%の薬剤水溶液を固形物の10重量%に相当する重量だけスプレイして硫酸バンドを含有する比較例9の試料を作製した。そして、環境庁告示第13号による溶出試験を行なった。その結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
固形物に硫酸バンドを含有させた実施例13〜18では鉛の溶出量が大きく低減しており、シュレッダーダストの容積の低減と共に鉛の溶出量の低減も可能であることが確認できた。これによって、大量のシュレッダーダストの処理を容易に行なうことが可能になると共に、廃棄処分場の延命化が可能になる。
なお、比較例8の結果に示すように、硫酸バンドの濃度が0.4重量%の薬剤水溶液を使用しても、シュレッダーダストを固形物にした場合の鉛の溶出が0.59mg/リットル程度であれば、鉛の溶出基準値以下である。
【0036】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、重金属として鉛を含有する例について説明したが、他の重金属(例えば、Cd、Cr、Hg)の場合でも本試験例と同様な結果が得られ、他の重金属(例えば、Cd、Cr、Hg)についても本発明は適用される。また、本実施の形態ではシュレッダーダストについて説明したが、廃棄物が都市ごみ等の焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダスト等のいずれか1又は2以上からなっていても本発明は適用される。
薬剤として、PACを用いたが、試薬品のポリ塩化アルミニウムとPACの混合物、試薬品のポリ塩化アルミニウムと硫酸バンドの混合物、PACと硫酸バンドの混合物、試薬品のポリ塩化アルミニウム、PAC、及び硫酸バンドの混合物を使用することもできる。
本実施の形態ではシュレッダーダストを処理槽内に投入して堆積層を形成し堆積層の上方から薬剤水溶液をスプレイしたが、例えば、コンベヤでシュレッダーダストを搬送しながら上方から薬剤水溶液をスプレイするようにしてもよい。また、シュレッダーダストにアルカリ剤を添加してから固形物にしたが、シュレッダーダストをそのまま使用して固形物にし、薬剤水溶液を加える前及び後のいずれか一方又は双方でアルカリ剤を加えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係る重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法を示すフロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
前記廃棄物に、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液をスプレイし、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止することを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。
【請求項2】
シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
前記廃棄物に、ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液に浸漬し、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止することを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載の重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法において、前記薬剤水溶液が添加された前記廃棄物を更に減容固化機で固化して固形物とすることを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。
【請求項4】
シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
粉又は屑状となった前記廃棄物を減容固化機で固化して固形物とし、該固形物にポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液をスプレイし、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止することを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。
【請求項5】
シュレッダーダスト、焼却灰、焼却飛灰、及び集塵ダストのいずれか1又は2以上からなる重金属類を含有する廃棄物の処理方法であって、
粉又は屑状となった前記廃棄物を減容固化機で固化して固形物とし、該固形物をポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む薬剤水溶液に浸漬し、前記廃棄物に含まれる重金属類を水に不溶な化合物として該重金属類の溶出を防止することを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法において、前記廃棄物に前記薬剤水溶液を加える前に、アルカリ剤を加えることを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。
【請求項7】
請求項3〜5のいずれか1項に記載の重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法において、固化された前記廃棄物に、前記薬剤水溶液を加える前及び後のいずれか一方又は双方でアルカリ剤を加えることを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法において、前記ポリ塩化アルミニウム及び硫酸アルミニウムのいずれか1又は2を含む前記薬剤水溶液の濃度は、1重量%以上かつ50重量%以下であることを特徴とする重金属類を含む廃棄物の溶出防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−68648(P2006−68648A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256019(P2004−256019)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000231327)日本磁力選鉱株式会社 (24)
【Fターム(参考)】