説明

野菜汁及び/又は果汁の製造方法

【課題】飲み易い野菜汁及び/又は果汁及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】野菜及び/又は果実を、次の工程(A)、(B)及び(C):
(A)スチームブランチング処理及び/又はマイクロ波照射処理する工程
(B)植物組織崩壊酵素を用いて酵素処理する工程
(C)103〜106-1の剪断速度で機械的剪断処理する工程
を含む工程に付する、野菜汁及び/又は果汁の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜汁及び/又は果汁の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜汁及び/又は果汁には、ビタミンC、リコピン、β−カロチン等の機能性成分が含まれているため、飲料として広く飲用されている。しかしながら、一般的な野菜汁及び/又は果汁には、水に溶けない食物繊維、タンパク質、脂質などの不溶性固形分が多く含まれることから、粘性が高く、どろどろした喉越し感があり、飲用時に飲み難いと感じることがある。
【0003】
粘性を低くした飲み易い野菜汁及び/又は果汁を得る方法として、例えば、濾過や遠心力などを用いて機械的に不溶性固形分を除去する方法が知られている。この方法によれば、粘性の低く喉越しが良好な野菜汁及び/又は果汁が得られるものの、食物繊維とともに機能性成分も除去されてしまう。
【0004】
このような課題を解決する方法として、例えば、野菜又は果実等の農産物を破砕した後、攪拌機内で混練と剪断を行うことによって無酸素状態下で均一化しつつ、同時に添加酵素を作用せしめてペースト状にする方法(特許文献1)や、植物性農水産物に水及び酵素を添加して溶液中で磨砕処理する方法(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−162150号公報
【特許文献2】特開2001−61434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これら従来技術は、酵素により軟化した組織又は軟化途中の組織をせん断処理することでペースト状やパウダ状の食材を製造する技術であるが、これら技術を適用して飲料の形態にすると、舌触りにざらつき感があり、飲み易さの点で十分と言い難く改善の余地がある。
【0007】
しがたって、本発明の課題は、飲み易い野菜汁及び/又は果汁及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、不溶性食物繊維などの不溶性固形分の平均粒径、及び不溶性食物繊維量を制御することで飲み易い野菜汁及び/又は果汁が得られることを見出した。しかしながら、野菜又は果実を機械的剪断処理する方法においては不溶性固形分の平均粒径の微細化に限界があり、また酵素処理する方法においては不溶性固形分の平均粒径の微細化に長時間を要するため、不溶性固形分を所望の平均粒径に効率的に制御することは困難であった。本発明者らは更に詳細に検討した結果、野菜及び/又は果実に対し、スチームブランチング及び/又はマイクロ波照射による処理、植物組織崩壊酵素による酵素処理、及び機械的剪断処理を組み合わせて施すことで、上記課題が解決されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、野菜及び/又は果実を、次の工程(A)、(B)及び(C):
(A)スチームブランチング処理及び/又はマイクロ波照射処理する工程、
(B)植物組織崩壊酵素を用いて酵素処理する工程
(C)103〜106-1の剪断速度で機械的剪断処理する工程、
を含む工程に付する、野菜汁及び/又は果汁の製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明はまた、上記製造方法により得られた野菜汁及び/又は果汁を提供することにある。
本発明は更に、(a)不溶性固形分の平均粒径が100μm以下であり、かつ(a)不溶性固形分の平均粒径と(b)不溶性食物繊維量との比[(a)/(b)]が300μm/g以下である、野菜汁及び/又は果汁を提供することにある。
本発明は更にまた、上記野菜汁及び/又は果汁を有効成分とする、ミネラル吸収促進剤を提供することにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、さらさらとした舌触りで飲み易い野菜汁及び/又は果汁を簡便に効率よく製造することができる。本発明の製造方法により野菜汁及び/又は果汁中の不溶性固形分の平均粒径、及び不溶性食物繊維量を所定範囲内に制御することが可能であるが、このような性状を有する野菜汁及び/又は果汁は、それを飲用すると、意外なことにミネラル吸収が促進されるという顕著な効果を奏することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔野菜汁及び/又は果汁の製造方法〕
本発明の野菜汁及び/又は果汁の製造方法は、野菜及び/又は果実を、工程(A)、(B)及び(C)を含む工程に付することを特徴とする。工程(A)は野菜及び/又は果実に含まれる酵素を失活させるための工程であり、また工程(B)及び(C)は野菜及び/又は果実中の不溶性食物繊維を破砕又は分解して粘度を低下させるとともに、不溶性固形分の平均粒径を微細化するための工程である。ここで、本明細書において「不溶性固形分」とは「不溶性食物繊維」を包含する概念であり、具体的には、不溶性食物繊維、たんぱく質、脂質などが含まれる。
【0013】
本発明においては、これら工程を行う前に、野菜及び/又は果実の洗浄、更に必要により皮剥き等の準備工程に付することができる。
本発明で使用する野菜及び果実は特に限定されないが、人参、大根、アスパラガス、たまねぎ、ビート、しょうが、紫芋、ごぼうなどの根菜;セロリ、ほうれん草、白菜、キャベツ、メキャベツ、ブロッコリー、小松菜、パセリ、ケール、クレソン、モロヘイヤ、あしたば、レタスなどの葉菜;トマト、ピーマン、赤ピーマン、なす、かぼちゃなどの果菜;バナナ、りんご、メロン、みかん、ブドウなどの果実などが例示される。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
これら野菜及び果実には食物繊維が含まれているが、食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維とが存在する。本発明においては、不溶性食物繊維を多く含む野菜又は果実を使用することが好ましく、具体的には、野菜又は果実100g当たり不溶性食物繊維を0.5g以上、更に0.9g以上、特に1.4g以上含むものを使用することが好ましい。野菜又は果実100g当たりの不溶性食物繊維量の一例を示すと、みかん0.5g、トマト0.7g、大根の根0.9g、レタス、たまねぎ及び白菜1.0g、赤ピーマン1.1g、セロリ1.2g、りんご1.2g、アスパラガス及びキャベツ1.4g、小松菜1.5g、なす1.9g、ビート及び人参2.0g、日本かぼちゃ及びほうれん草2.1g、クレソン2.3g、大根の葉3.2g、ごぼう3.4g、ブロッコリー3.7g、モロヘイヤ4.6g、パセリ6.2gである。なお、野菜又は果実100g当たりの不溶性食物繊維量の上限は、不溶性固形分の平均粒径制御の観点から、7g、更に6.5g、より更に6g、特に5gが好ましい。
【0015】
工程(A)、(B)及び(C)を行う順序は適宜決定することが可能であるが、工程(A)の後に工程(B)及び工程(C)を行うことが、工程(A)の加熱により軟化された野菜及び/又は果実の不溶性食物繊維を、工程(B)及び(C)により効率よく微細化できる点で好ましい。更に、工程(B)と工程(C)を同時に行うことが、効率よく酵素反応を進行させて不溶性食物繊維をより一層微細化できる点でより好ましい。
【0016】
また、本発明においては、工程(A)の前又は後に、野菜及び/又は果実を破砕処理する工程に付することができる。例えば、ごぼうなどのように不溶性食物繊維を多く含み、硬く強固な根菜の場合、工程(A)、(B)及び(C)の前に破砕処理すると、工程(A)においてより一層効率よく野菜及び/又は果実を加熱することができる。その結果、不溶性食物繊維を十分軟化させることが可能になる。一方、小松菜などの葉菜の場合、工程(A)の後、工程(B)及び(C)の前に破砕処理すると、工程(A)により軟化された不溶性食物繊維を、工程(B)や工程(C)においてより一層効率よく微細化することができる。
破砕処理する方法としては野菜及び果実の種類により適宜選択することが可能であり、物体を摩擦により微細化しても、剪断応力の働きにより微細化してもよい。例えば、スクリュープレスにより搾汁する方法、包丁、ハンドミキサー及びコミトロールなどを必要により適宜組み合わせて機械的剪断処理する方法などを採用することができる。
破砕処理された野菜及び/又は果実の形態としては、微粒状、さいの目状、短冊状、ペースト状等が例示されるが、加熱効率や平均粒径制御の観点から、ペースト状であることが好ましい。ペースト状に破砕処理された野菜及び/又は果実の粘度は特に限定されないが、100〜3000mPa・sであることが好ましく、必要により濃縮又は希釈して所望の粘度に調整してもよい。破砕処理後の野菜及び/又は果実を上記粘度範囲にすることで、工程(C)においてより一層大きな剪断応力を付与することが可能になり、その結果不溶性食物繊維をより一層効率よく微細化することができる。なお、本明細書において「粘度」とは、レオメーターを用いて20℃で測定された値をいい、具体的には、ローターはクエットCC27を使用し、20℃にてずり速度0.1s-1から1000s-1の範囲で測定し、ずり速度100s-1における数値を読み取った値をいう。レオメーターとして、例えば、PHYSICA MCR300(Anton Paar(株)製)を使用することができる。
【0017】
以下、工程(A)、(B)及び(C)について詳細に説明する。
〔工程(A)〕
工程(A)は、スチームブランチング処理及び/又はマイクロ波照射処理する工程である。これにより、短時間で大きな熱負荷を与えることが可能になり、その結果野菜及び/又は果実に含まれる酵素を失活させるとともに、野菜及び果実中の機能性成分を漏出することなく内部と表面を均一に加熱して不溶性食物繊維を均一に軟化させることができる。
スチームブランチング処理は、例えば、飽和水蒸気又は過熱水蒸気を、野菜及び/又は果実に接触させて加熱すればよい。なお、スチームブランチング処理には、例えば、スチーム機能を搭載する市販のオーブンレンジや、クッカーなどの市販の蒸煮装置を使用することができる。過熱水蒸気の温度は、常圧で100℃超から500℃、更に200〜400℃、特に250〜350℃であることが好ましい。
一方、マイクロ波照射処理は、例えば、周波数2450MHzのマイクロ波を野菜及び/又は果実に照射すればよい。なお、マイクロ波照射処理には、例えば、市販の電子レンジを使用することができる。
本工程に付する時間は野菜及び果実の種類により適宜設定することが可能であるが、加熱臭等の風味劣化や色調変化の抑制の観点から、0.5〜15分、更に1〜10分であることが好ましい。
【0018】
本工程においては、スチームブランチング処理及びマイクロ波照射処理のうちの少なくとも1種を適宜選択して行うことができるが、熱伝導率がより一層高く、野菜及び/又は果実の不溶性食物繊維をより確実に均一に軟化できる点から、スチームブランチング処理が好ましい。
なお、ブランチング処理として、湯通しなど水中に野菜及び果実を浸漬させる方法が考えられる。しかしながら、この方法は野菜及び果実中の機能性成分が漏出しやすいこと、野菜及び果実の内部と表面を均一に加熱し難く不溶性食物繊維を均一に軟化させることが困難であることなどから好ましくない。
工程(A)後においては、冷却プレート等を用いて野菜及び果実を冷却すると、色を鮮やかに保持することができるため好ましい。
【0019】
〔工程(B)〕
工程(B)は、植物組織崩壊酵素を用いて酵素処理する工程である。これにより、不溶性食物繊維を酵素で分解して粘度を低下させるとともに、不溶性食物繊維を微細化させることができる。
植物組織崩壊酵素とは、植物性農産物に含まれるセルロース、キシランをはじめとするヘミセルロース、ペクチンなどの分子構造の大きい不溶性食物繊維を低分子に分解する酵素をいう。具体的には、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ(キシラナーゼ)、ペクチナーゼなどが例示されるが、これらに限定されない。これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。反応効率の向上の観点からは、2種以上を組み合わせて使用することが好ましく、セルラーゼ及びペクチナーゼの組み合わせが特に好ましい。
【0020】
酵素の使用量は選択する酵素の活性によって適宜設定することが可能であるが、野菜及び果実の合計質量に対して通常0.01〜6質量%、更に0.05〜4質量%、より更に0.1〜2質量%、特に0.2〜0.5質量%であることが好ましい。
酵素処理は、温度0〜60℃で0.2〜3時間行うことが野菜及び果実の風味劣化抑制の観点から好ましい。
【0021】
工程(B)の終了後においては、加熱等により酵素を失活させることが好ましい。失活処理は、処理物になるべく悪影響をもたらさずに酵素を失活させることが可能であれば如何なる方法でもよいが、高温短時間の失活操作が好ましく、特に70〜98℃の温度で1〜5分間加熱して失活させる方法が好ましい。
【0022】
〔工程(C)〕
工程(C)は、103〜106-1の剪断速度で剪断処理する工程である。これにより、不溶性食物繊維を機械的に破砕して粘度をより一層低下させるとともに、不溶性食物繊維をより一層微細化させることができる。
剪断処理に用いる装置としては所定の剪断速度を付与することができれば特に限定されないが、例えば、回転カッター式装置を使用することができる。ここで、本明細書において「回転カッター式装置」とは、回転する刃又は櫛状の歯を有する破砕装置を指し、磨砕ではなく、剪断応力の働きにより物体を微細化するものをいう。
破砕装置により付与される剪断速度は103〜106-1であるが、不溶性食物繊維の微細化の観点から、2×103〜5×105-1、特に1×104〜5×104-1であることが好ましい。なお、本明細書において「剪断速度」とは、回転カッター式装置の回転体の最高周速をv(m/s)、最高周速部分と壁面との距離をd(m)とした場合にv/d(1/s)で計算される値をいう。当該剪断速度は、回転体の回転速度、及び、回転体と壁面との距離を調節することにより調整することができる。剪断速度を上記範囲内とすることで十分な剪断応力が確保される。
【0023】
本工程においては、2枚以上の刃又は多層櫛歯を備えた回転カッター式装置を用いた破砕処理を行うことが好ましい。刃を回転させる装置では、刃の数を2枚以上とすることで効率よく剪断を行うことができる。かかる観点から、特に2〜4枚の刃を備えることが好ましい。多層櫛歯とは、回転軸の円周方向に複数の歯(これを歯列という)を有するものであり、かつ、半径方向に多層の歯列を備えるものをいう。かかる構造により、効率よく剪断を行うことが可能になり、その結果短時間で粘度を低下させるとともに不溶性食物繊維を微細化し、かつ不溶性食物繊維の浮上を抑制することができる。刃又は歯の材質は特に限定されないが、金属製又はセラミック製が、強度や切れ味の点から好ましい。
【0024】
具体的には、ジューサー、カッターミル、ホモミキサー等の2枚以上の刃を備える回転カッター式装置;ディスパー、マイルダー等の多層櫛歯を備えた回転カッター式装置などが例示される。具体的には、ジューサーミキサー(MX−1500、(株)エフ・エム・アイ製)、マイルダー(MDN303V、太平洋機工(株)製)、ホモミクサー(T.K.ホモミクサーMARKII 2.5型、プライミクス(株)製)などの市販の破砕装置を使用することができる。
【0025】
回転カッターの周速の下限は、12m/s、更に15m/s、特に20m/sであることが好ましく、他方上限は、80m/s、特に60m/sであることが好ましい。回転カッターの周速を上記範囲内とすることで、攪拌機に大きな負荷を加えることなく効率よく、剪断処理することができる。
剪断処理の温度は、加熱による野菜及び果実の風味劣化抑制の観点から、0〜60℃、特に0〜40℃であることが好ましい。
【0026】
工程(A)、(B)及び(C)の各工程終了後、又は全工程終了後においては、殺菌処理を施してもよい。殺菌条件は、例えば、加熱殺菌に適用されるべき法規(日本国にあっては食品衛生法)に定められた条件で行うことができる。
【0027】
〔野菜汁及び/又は果汁、ミネラル吸収促進剤〕
このようにして、本発明の野菜汁及び/又は果汁を得ることができるが、必要により濃縮又は希釈などをしてもよい。
本発明の野菜汁及び/又は果汁には、野菜汁や果汁由来にあわせて、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独で又は併用して配合してもよい。
【0028】
また、得られた野菜汁及び/又は果汁は、(a)不溶性固形分の平均粒径が100μm以下であり、かつ(a)不溶性固形分の平均粒径と(b)不溶性食物繊維量との比[(a)/(b)]が300μm/g以下とすることができる。なお、一般に食物繊維はカルシウムなどのミネラルの陽イオンと結合し、ミネラルの吸収を阻害することが知られているが(消化・吸収 −基礎と臨床−、第一出版株式会社、2002年3月15日発行)、本発明の上記性状を有する野菜汁及び/又は果汁は、意外なことに、ミネラルの吸収を促進させることができる(実施例参照)。ここで、本明細書において「ミネラル」とは、医学、栄養学又は食品化学の分野で、生体を構成する元素のうち炭素、窒素、水素及び酸素の4元素以外の元素の総称であり、例えば、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛等の金属元素が例示される。
ミネラル吸収能の向上、飲用したときの舌触り及び飲み応え(コク)のより一層の改善の観点から、(a)不溶性固形分の平均粒径は、90μm以下、更に80μm以下、より更に70μm以下、より更に60μm以下、特に50μm以下であることが好ましく、他方比[(a)/(b)]は250μm/g以下、更に200μm/g以下、より更に150μm/g以下、特に100μm/g以下であることが好ましい。なお、生産効率の観点から、(a)不溶性固形分の平均粒径の下限は5μm、特に10μmであることが好ましく、他方比[(a)/(b)]の下限は10μm/g、更に20μm/g、特に30μm/gであることが好ましい。
【0029】
不溶性固形分の平均粒径、及び不溶性食物繊維量が所定範囲内に制御された野菜汁及び/又は果汁によりミネラル吸収が促進される要因については必ずしも明らかでないが、本発明者らは次のように推察する。野菜及び/又は果実を、熱負荷の大きい工程(A)に付すると不溶性食物繊維が軟化され、次いで工程(B)及び(C)により不溶性食物繊維が効率よく微細化されるが、このとき不溶性食物繊維が負に帯電するため、イオン化したミネラルが不溶性食物繊維に吸着する。そして、不溶性食物繊維がデリバリーとして機能し、腸管におけるミネラル濃度が高められることで、腸管におけるミネラル吸収が促進される。
【0030】
したがって、本発明の野菜汁及び/又は果汁は、ミネラル吸収促進剤として使用することが可能であり、またミネラル吸収促進作用に基づき骨粗鬆症の予防又は改善剤として使用することができ、更にこれらの剤を製造するために使用することもできる。ここで、本明細書において「骨粗鬆症の改善」には、骨粗鬆症における骨量減少、腰痛、背部痛、骨折等の症状の改善や治療の概念が包含される。
また、本発明のミネラル吸収促進剤等は、ミネラル吸収促進、骨粗鬆症等の予防又は改善するための飲食品、医薬部外品、医薬品等として使用可能である。また、ミネラル吸収促進剤等は、ミネラル吸収促進、骨粗鬆症等の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、例えば病者用食品、特定保健用食品等の機能性飲食品として使用することができる。
【0031】
本発明のミネラル吸収促進剤等を医薬品、医薬部外品として用いる場合の投与形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が例示される。
このような種々の剤型の医薬製剤を調製する場合には、本発明の野菜汁及び/又は果汁を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与である。
【0032】
経口投与用製剤として用いる場合、該製剤中の本発明の野菜汁及び/又は果汁の含有量は、0.01〜100質量%、更に0.1〜100質量%、特に1〜100質量%とすることが好ましい。
【0033】
本発明のミネラル吸収促進剤等を食品として用いる場合、その形態としては、例えば、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、飲料などの各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が例示される。
種々の形態の食品を調製するには、本発明の野菜汁及び/又は果汁を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中の本発明の野菜汁及び/又は果汁の含有量は、0.01〜100質量%、更に0.1〜100質量%、特に1〜100質量%とすることが好ましい。
【0034】
本発明のミネラル吸収促進剤等を医薬品として使用する場合、成人1人当たりの単回投与又は摂取量は、(b)不溶性食物繊維量として、1日あたり0.01mg〜10g、更に0.05mg〜5g、特に0.1mg〜3gとすることが好ましい。
また、本発明のミネラル吸収促進剤等は、摂食・摂餌時又は摂食・摂餌前に投与又は摂取することが好ましく、特に摂食・摂餌前5〜30分以内に投与又は摂取することが好ましい。
【実施例1】
【0035】
1.不溶性固形分の平均粒径の測定
試料を、粒径分布測定装置(SALD-2100、(株)島津製作所製)を用いて、フローセルを使用し水を溶媒として体積基準の平均粒径を測定した。
【0036】
2.不溶性食物繊維量の測定
試料中の不溶性食物繊維量は、プロスキー変法(酵素−重量法)(分析実務者が書いた五訂日本食品標準成分表 分析マニュアルの解説、編集者:財団法人 日本食品分析センター、発行者:中央法規出版(株)、2001年発行、66〜72頁)により定量分析した。
【0037】
3.Ca濃度の測定
試料中のCa濃度の測定は、MXB法を用いたキット(和光純薬工業(株) カルシウムE−テストワコー)を用いて行った。
【0038】
4.官能評価
各実施例及び比較例で得られた野菜汁について、評価パネラー5名により飲み易さを下記の基準で評価し、その後協議により最終スコアを決定した。
【0039】
(飲み易さの評価基準)
A:サラサラとした舌触りで、かつコクもある。
B:舌触りにざらつきを感じることがあるが、問題ない。
C:舌触りにざらつきを感じ、やや飲み難い。
D:ドロドロしていて飲み難い。
【0040】
実施例1
小松菜を洗浄し水切りした後、スチーム機能搭載のオーブンレンジ(ヘルシオAX-HT3-W、シャープ製)を使用し、100℃の飽和水蒸気で9分間スチームブランチング処理を行った。その後、包丁で3cm程度の大きさに裁断し、ハンドミキサー(MR5550CA、BRAUN製、ブレンダー使用)によりペースト状に破砕し小松菜ペーストを作製した。小松菜ペースト970gに、セルラーゼ(セルクラスト1.5LFG、ノボザイムズ社(株)製)の10質量%水溶液21gと、ペクチナーゼ(ペクチネックスウルトラSPL、ノボザイムズ社(株)製)の10質量%水溶液9gを添加し、30℃で4枚プロペラ翼(φ70mm)を用いて、周速1.5m/sにて撹拌し酵素反応を行った。30分後、ジューサーミキサー(ミキサーMX-152S、松下電器産業(株)製)を用いて、25℃で剪断速度2.8×103-1(周速57m/s)にて機械的剪断処理を行った。10分後、30℃で4枚プロペラ翼(φ70mm)を用いて、周速1.5m/sにて50分撹拌した。この操作を2回繰返し行った後、95℃において3分間保持することにより、酵素を失活させ、その後1.5倍に加水し、小松菜汁を得た。
【0041】
実施例2
小松菜を洗浄し水切りした後、包丁で3cm程度の大きさに裁断し、蒸煮コンベアを用いて、100℃の飽和水蒸気で70秒間スチームブランチング処理を行った。その後、コミトロール((株)URSCHEL製)を用いてマイクロカッティング仕様、ブレード212枚(開口0.127mm)を使用し、周速70m/sで粉砕処理を1回行った。これを87℃、700L/hで90秒殺菌した後、22℃の水槽で冷却し、小松菜ペーストを作製した。この小松菜ペーストに、実施例1と同様の酵素2種を添加した後、ホモミクサー(T,K,ホモミクサーMARK II 2.5型、プライミクス(株)製)を用いて、30℃にて剪断速度4.4×104-1(周速22m/s)で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。1時間後、95℃において3分間保持することにより、酵素を失活させ、小松菜汁を得た。
【0042】
実施例3
ごぼうを洗浄し皮を剥いた後、包丁で3cm程度の大きさに裁断し、実施例1と同様のスチーム機能搭載のオーブンレンジを用いて、100℃の飽和水蒸気で15分間スチームブランチング処理を行った。その後ハンドミキサーによりペースト状に破砕し、イオン交換水で2倍に希釈することでごぼうペーストを得た。ごぼうペースト970gに対し、実施例1と同様の酵素2種を添加し、30℃で1.5m/sにて撹拌し酵素反応を行った。30分後、ホモミクサーを用いて実施例2と同様の方法により30℃にて剪断速度4.4×104-1(周速22m/s)で機械的剪断処理と酵素反応を同時に行った。1時間後、95℃において3分間保持することにより、酵素を失活させ、小松菜汁を得た。
【0043】
比較例1
小松菜を洗浄し水切りした後、パスタ鍋を用いて小松菜400gを沸騰した水200gで蒸し、3分間スチームブランチング処理を行った。この操作を3回繰り返し行った後、スチームブランチング処理した小松菜1200gを包丁で3cm程度の大きさに裁断し、ハンドミキサーによりペースト状に破砕し小松菜ペーストを作製した。小松菜ペースト970gに酵素を加えず、実施例2で使用したホモミキサーを用いて、30℃、剪断速度4.4×104-1(周速22m/s)で機械的剪断処理を行った。60分処理後、小松菜汁を得た。
【0044】
比較例2
比較例1と同様の方法により調製した小松菜ペースト970gに、実施例1で使用したセルラーゼの10質量%水溶液を21gと、ペクチナーゼの10質量%水溶液を9g添加し、30℃で4枚プロペラ翼(φ70mm)を用いて、剪断速度4.7×10s-1(周速1.5m/s)にて撹拌し酵素反応を行った。60分処理後、95℃において3分間保持することにより、酵素を失活させ、小松菜汁を得た。
【0045】
比較例3
小松菜を洗浄し水切りした後、包丁で3cm程度の大きさに裁断し、95℃の湯で3分間小松菜を湯通しした後、20℃の水で冷却した。その後、コミトロールを用いて実施例2と同様の粉砕処理を1回行った後、殺菌、冷却を経て小松菜ペーストを作製した。小松菜ペーストに、実施例1と同様の酵素2種を添加した後、実施例2と同様の方法によりホモミキサーを用いて機械的剪断処理と酵素反応を同時に1時間行い、酵素失活させ、小松菜汁を得た。
【0046】
試験例
Ca吸収性試験
Ca吸収性はラットへの45Ca経口投与後の血漿中45Ca放射活性を指標に評価した。SD-IGS雄性ラット(7週令、日本チャールズリバー(株))を馴化した後、試験前日から19時間絶食させて試験に用いた。試験前日の各ラットの体重を測定して体重のばらつきが一定になるように群分けを行い、更に平均体重当たりのサンプル投与量及び45CaCl2投与量(1μCi)を決定した。ジエチルエーテルにて吸入麻酔したラットに、サンプルを経口ゾンデ投与し、直後に45CaCl2水溶液(1.5Ci/mmol〜2.5Ci/mmol(株)パーキンエルマー)を経口ゾンデ投与した。投与30分、1時間、2時間、4時間後又は、投与30分、2時間後に、ジエチルエーテル吸入麻酔下で頚静脈より約0.5mLの血液を採取し、ヘパチンリチウム含有血漿用採血管に入れて遠心処理(3000rpm、15分)を行い、血漿を分離した。血漿100μLに対して液体シンチレーションカクテル(ULTIMA GOLD XR(株)パーキンエルマー)を3mL加えて、十分に混和した後、液体シンチレーションカウンター(TRI−CARB3100TR (株)パーキンエルマー)にて45Caの放射活性の測定を行った。
また、試料中のカルシウム濃度を測定し、必要に応じて塩化カルシウムを用いてサンプルと対照サンプルのカルシウム濃度が同じになるように調製した。
【0047】
サンプル使用量
1)実施例1
平均体重当たり1.5mLのサンプル(Ca濃度 1.07mg/ml)をゾンデで経口投与し、更に放射能量が1μCiとなるように濃度調製した45CaCl2水溶液1.0mLを投与した。
2)実施例2及び比較例3
平均体重当たり2.5mLのサンプル(Ca濃度 0.72mg/ml)に45CaCl2水溶液を放射能量が1μCiとなるように添加し、これをゾンデで経口投与した。
3)実施例3
平均体重当たり2.5mLのサンプル(Ca濃度 0.22mg/ml)をゾンデで経口投与し、更に放射能量が1μCiとなるように濃度調製した45CaCl2水溶液1.0mLを投与した。
4)比較例1〜2
平均体重当たり2.5mLのサンプル(Ca濃度 0.65mg/ml)に45CaCl2水溶液を放射能量が1μCiとなるように添加し、これをゾンデで経口投与した。
【0048】
Ca吸収性上昇率
カルシウムの吸収性評価は、工程(B)及び(C)を行う前の野菜と、本実施例の野菜汁について実施した。工程(B)及び(C)を行う前の野菜については、ペースト状に破砕されていない場合は適宜破砕してから試験に供した。なお、実施例1については、工程(B)及び(C)を行う前の野菜についても、1.5倍に加水してから試験に供した。
Ca吸収性上昇率は、工程(B)及び(C)を行う前の野菜と、本実施例の野菜汁について、投与前から投与30分後の血漿中の45Ca濃度を算出し、下記式より算出した値をCa吸収性上昇率とした。
Ca吸収性上昇率(%)=〔本実施例の野菜汁の投与30分後の血漿中の45Ca濃度〕÷〔工程(B)及び(C)を行う前の野菜の投与30分後の血漿中の45Ca濃度〕×100 − 100
なお、実施例1では〔工程(B)及び(C)を行う前の野菜の投与30分後の血漿中の45Ca濃度〕の変わりに〔工程(A)、(B)及び(C)を行う前の野菜の投与30分後の血漿中の45CA濃度〕を用いてCa吸収性上昇率を算出した。
【0049】
【表1】

【0050】
表1から、実施例1〜3の野菜汁は飲み易く、しかもCa吸収性が28〜38%上昇したが、工程(B)を含まない比較例1、工程(C)を含まない比較例2、工程(A)の代わりに湯通しを行った比較例3はいずれも飲み難く、しかもCa吸収性がほとんど上昇しないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜及び/又は果実を、次の工程(A)、(B)及び(C):
(A)スチームブランチング処理及び/又はマイクロ波照射処理する工程、
(B)植物組織崩壊酵素を用いて酵素処理する工程
(C)103〜106-1の剪断速度で機械的剪断処理する工程、
を含む工程に付する、野菜汁及び/又は果汁の製造方法。
【請求項2】
工程(A)における処理を0.5〜15分間行う、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(A)の後に工程(B)及び(C)を同時に行う、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
野菜及び/又は果実が100g当たり不溶性食物繊維を0.5g以上含むものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
植物組織崩壊酵素がセルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼから選ばれる1種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
当該野菜汁及び/又は果汁は、(a)不溶性固形分の平均粒径が100μm以下であり、かつ(a)不溶性固形分の平均粒径と(b)不溶性食物繊維量との比[(a)/(b)]が300μm/g以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法により得られた野菜汁及び/又は果汁。
【請求項8】
(a)不溶性固形分の平均粒径が100μm以下であり、かつ(a)不溶性固形分の平均粒径と(b)不溶性食物繊維量との比[(a)/(b)]が300μm/g以下である、野菜汁及び/又は果汁。
【請求項9】
請求項7又は8記載の野菜汁及び/又は果汁を有効成分とする、ミネラル吸収促進剤。
【請求項10】
ミネラルがカルシウムである、請求項9記載のミネラル吸収促進剤。

【公開番号】特開2010−284132(P2010−284132A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142134(P2009−142134)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】