量子情報処理装置および量子情報処理方法
【課題】大きな読み出し信号を得、量子ビット数が拡張性に富む。
【解決手段】3つの異なる状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれ第1幅、第2幅である物理系を複数含む光導波路103を複数個有し、互いに隣接する光導波路で、第1光導波路中の第1物理系が|0>または|1>にある場合には第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、第1物理系が|e>にある場合には第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δ1、ω1e+Δ2であり、第1光導波路と第2光導波路との距離はΔ1およびΔ2がいずれも第1幅および第2幅よりも大きくなる距離であり、かつ第1光導波路を通過する光が第2物理系の状態を変化させない距離である。
【解決手段】3つの異なる状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれ第1幅、第2幅である物理系を複数含む光導波路103を複数個有し、互いに隣接する光導波路で、第1光導波路中の第1物理系が|0>または|1>にある場合には第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、第1物理系が|e>にある場合には第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δ1、ω1e+Δ2であり、第1光導波路と第2光導波路との距離はΔ1およびΔ2がいずれも第1幅および第2幅よりも大きくなる距離であり、かつ第1光導波路を通過する光が第2物理系の状態を変化させない距離である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子情報処理装置および量子情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶中の希土類イオンの核スピンの状態は、固体としては特異的に長いコヒーレンス時間を持ち、かつ光で制御や読出しができるため、量子情報処理デバイスの固体での実現に極めて適している。この結晶中の核スピンを量子ビットとして利用する場合、相互の結合を実現する手法として、共振器モードを利用する手法がある(例えば、非特許文献1参照)。一方、量子ビットである結晶中の希土類イオンを、近接していることにより働く相互作用、例えば双極子相互作用で結合する手法も提案され研究されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
前者では、共振器モードを利用した単一イオンの読み出しが可能でありまた、量子ビット数に拡張性を持たせることが比較的容易である。一方後者では、イオンの集団を1つの量子ビットとして扱うことが可能であり、量子ビットの読み出しが比較的容易である。しかし後者では、以下の2点により、量子ビット数の拡張性に問題がある。
(1)周波数空間でイオンをグループ分けし、それぞれのグループで1つの量子ビットを表すため、量子ビット数を増やすと、1つの量子ビットを表すイオンの数が減り、信号強度が弱くなる。
(2)同様の理由により、量子ビット数を増やすと量子ビット間の平均の距離が大きくなり、結合のための相互作用が弱まってしまう。相互作用の大きいイオンだけを選択し量子ビットを構成する手法を採用すると、1つの量子ビットを構成するイオンの数がさらに減ってしまう。
【非特許文献1】Opt. Commun. 196, 119 (2001).
【非特許文献2】Phys. Rev. A 71, 062328 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
十分に多数の(イオン等の)物理系からなる物理系集団を1つの量子ビットとして扱うことができ、かつ量子ビット数に十分な拡張性のある手法があれば、量子ビット読み出しの点ではより望ましい。しかしそれを実現する簡便な手法は知られていない。
【0005】
本発明の目的は、大きな読み出し信号が得られ、かつ量子ビット数に拡張性のある、量子情報処理装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明の量子情報処理装置は、3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれΔ0e,homo、Δ1e,homoである物理系を複数含む光導波路であって、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる光導波路を複数個有する光導波路部と、角周波数ω0e、ω1eの光を発生する光源部と、前記角周波数ω0e、ω1eの光の周波数と強度とを制御して制御光を生成する光制御部と、前記制御光をそれぞれの前記光導波路に導入する光導入部と、それぞれの前記光導波路を通過してきた通過光を取り出す光出力部と、前記通過光の強度を測定する光強度測定部と、を具備し、前記光導波路部に含まれる第1光導波路および第2光導波路で該第1光導波路と該第2光導波路は互いに隣接していて、該第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には該第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、該第1物理系が状態|e>にある場合には該第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、該第1光導波路と該第2光導波路との距離は、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homoおよびΔ1e,homoよりも大きくなる距離であり、かつ、該第1光導波路を通過する光が該第2物理系の状態を変化させない距離であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の量子情報処理装置および方法によれば、大きな読み出し信号が得られ、かつ量子ビット数に拡張性を持たせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る量子情報処理装置および方法について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
本実施形態の量子情報処理装置および量子情報処理方法は、光導波路構造中の物理系集団を1つの量子ビットとし、複数の光導波路を、互いに隣接する光導波路に含まれる物理系集団同士は物理系の量子状態に応じて、相互作用により、互いの光遷移の遷移角周波数を変化させるが、それぞれの光導波路を通る光は隣接する光導波路に含まれる物理系には影響を及ぼさない程度の距離だけ、お互いに離して設置し、光導波路を通して物理系集団に光を照射してその量子状態を操作する。その結果、固体中にランダムに散らばる物理系集団を量子ビットとして利用でき、大きな読み出し信号が得られ、かつ量子ビット数に拡張性を持たせることができる。なお、物理系集団は多数の物理系を含む。
【0009】
実施形態の量子情報処理装置について図1を参照して説明する。
実施形態の量子情報処理装置は、光源部101、光制御部102、積層した光導波路部103、クライオスタット104、光強度測定部105を含む。積層した光導波路部103は、複数の光導入部106と複数の光出力部107を含む。
【0010】
光源部101は、積層した光導波路部103に照射する光を生成する。光制御部102は、光源部101が生成した光の周波数および強度を制御して積層した光導波路部103へ出力する。
【0011】
積層した光導波路部103は、複数の光導波路を積層したものである。1つの光導波路は1つの物理系集団を含んでいて、この1つの物理系集団が1つの量子ビットを表現する。物理系集団は複数の物理系を含んでいて、各物理系は3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有している。光導波路は、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる。光導波路部は例えば酸化物結晶であり、物理系は例えば希土類イオンである。また、状態|0>および状態|1>が例えば電子基底状態にある希土類イオンの核スピンの状態であり、状態|e>が例えば電子励起状態である。積層した光導波路部103の詳細は後に図2、図3を参照して説明する。
【0012】
クライオスタット104は、内部の温度を低温(例えば1.5K)に保つ。クライオスタット104内部には光導波路部103が設置されている。
【0013】
光強度測定部105は、それぞれの光出力部107から出力された光の強度を測定する。光導入部106は、光制御部102によって制御された光を積層した光導波路部103に導入する。光出力部107は、積層した光導波路部103から光を光強度測定部105に出力する。1つの光導波路について図4に示すように光導入部106と光出力部107が1つずつ設置されている。
【0014】
次に、実施形態の量子情報処理装置により、固体中の多数の物理系を単一の量子ビットとして扱う手法と、そのように構成した量子ビットの数に拡張性を持たせる手法、およびそのように量子ビット数を拡張した構成で、量子ビットに対して、万能ゲートを構成する1量子ビットゲート(回転ゲート)操作と2量子ビットゲート(制御NOTゲート)操作を行う手法とその機構を説明する。
本実施形態では、図2に示すように、光導波路201の中に含まれる多数の物理系からなる物理系集団202を1つの量子ビットとし、1つの光導波路が1つの量子ビットに対応する。本実施形態では、このように量子ビットを構成する物理系集団を含む複数の光導波路を、隣接する光導波路中の物理系集団間では互いに相互作用(例えば双極子相互作用)を及ぼし合い、片方の物理系集団の状態に応じてもう片方の物理系集団の光遷移の遷移角周波数が光遷移の均一幅程度以上変化する程度に、近づけて配置する。また、それぞれの光導波路を伝搬する光は、隣接する光導波路中の量子ビットには影響を与えない程度には離して配置する。換言すると以下のようになる。積層した光導波路部103に含まれる、互いに隣接している第1光導波路および第2光導波路で説明する。第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、第1物理系が状態|e>にある場合には第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、第1光導波路と第2光導波路との距離が、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homo(|0>−|e>間遷移の均一幅)およびΔ1e,homo(|1>−|e>間遷移の均一幅)よりも大きくなる距離であり、かつ、第1光導波路を通過する光が第2物理系の状態を変化させない距離になるように第1光導波路と第2光導波路を配置する。
【0015】
一次元的に連なった量子ビットでは、指定した量子ビットに対する1量子ビットゲートと、隣り合った量子ビット間での2量子ビットゲートができれば、量子計算ができる。したがって、本発明では、量子ビットを含む光導波路を一次元的に積層した構造で、量子コンピュータを構成する。1次元的に積層した様子を図3に模式的に示す。図3では、隣接する光導波路301が互いに直交するように配置されている。隣接する2つの光導波路301の向きが平行に近くなると、片方の導波路中の光がもう片方の導波路中のモードと結合しやすくなり、光導波路中の物理系集団が隣接する光導波路を通る光の影響を受けやすくなる。隣接する導波路同士は、互いの中の物理系集団同士が量子ゲートに十分なだけの相互作用を及ぼし合う必要があるため、互いの距離を離して、隣接する光導波路中を進む光の影響を受けなくするには限界がある。そのため、隣接する光導波路はなるべく平行にならないようにした方がよい。
【0016】
それぞれの光導波路中で量子ビットを構成する物理系集団の位置は、他の量子ビットと相互作用できる範囲に集中していた方が、量子ビット読み出しの際に、量子ビットとして動作していない物理系の状態の影響が少なくなるので望ましい。図3には、光導波路が互いに重なり合う部分に物理系を集中させた場合を示した。
【0017】
光導波路への光導入部106および光出力部107は、量子ビット数が増えた場合は、その数が増えるため、限られたサイズの中に収めるためには、例えば、図4に示すように、直線状の光導波路を少しずつずらして配置する、あるいは光導波路を曲げるなどすればよい。
【0018】
このように用意した量子ビットへのゲート操作は、例えばL. Rippe等が用いようとしている手法(上記の非特許文献2のPhys. Rev. A 71, 062328 (2005).に記載)を適用して、実行することができる。
【0019】
次に、ある量子ビットに対しNOTゲート操作を行う手法について図5を参照して説明する。図5のエネルギー状態の図は、量子ビットを構成する個々の物理系の状態と光導波路を利用して照射する光との関係を表したものである。
まず、NOTゲート操作を施す量子ビットを含む光導波路の光導入部106から、角周波数ω0eのπパルスを入れる(図5a)。次に同じ光導入部106から角周波数ω1eのπパルスを入れる(図5b)。最後にまた同じ光導入部106から角周波数ω0eのπパルスを入れる(図5c)。πパルスの光パルス電場の包絡線の時間依存を下記の式(1)のように設定する。
【数1】
【0020】
この場合、πパルスは、式(2)の値となるパルス面積(光強度をパルス時間で積分したもの)を持つ。
【数2】
【0021】
ここで、式(3)の値はその光パルスが共鳴する遷移の遷移双極子モーメントである。
【数3】
【0022】
また、以下の値はディラック定数である。
【数4】
【0023】
πパルスは、共鳴した2状態系のラビ振動の半周期分系を時間発展させ、例えば、そのパルスと共鳴する遷移の始状態と終状態である2つの状態を片方の状態からもう片方の状態へ完全に変化させる働きがある。したがって、量子ビットがもし最初、状態|0>にあれば、最初のπパルスと2番目のπパルスで状態|e>を経由して状態|1>になる(3番目のπパルスは、物理系が共鳴する準位にないため作用しない)。また、量子ビットがもし最初、状態|1>にあれば、2番目のπパルスと3番目のπパルスで状態|e>を経由して状態|0>になる(1番目のπパルスは、物理系が共鳴する準位にないため作用しない)。もし最初、状態|0>と状態|1>の重ね合わせの状態α|0>+β|1>(α、βは、|α|2+|β|2=1を満たす複素数。)であれば、状態α|1>+β|0>となる。このようにNOTゲートが実行できる。
【0024】
また、式(4)のパルス面積を持つ光パルス(Mパルス呼ぶことにする)を考える。
【数5】
【0025】
Mパルスは、共鳴した2状態系のラビ振動のM/(2π)周期分を時間発展させ、重ね合わせの状態α|0>+β|1>を、以下の式(5)で示す状態に変化させる。
【数6】
【0026】
上記NOTゲートの2番目のπパルスの替わりにMの値を調整したMパルスを照射することにより、任意の回転角を持つ回転ゲートが実行できる。
【0027】
以上のようにしてNOTゲート(回転角πの回転ゲート)や任意の回転角を持つ回転ゲートのような1量子ビットゲートが実行できる。
【0028】
次に、制御NOTゲート操作を施す手法について図6、図7を参照して説明する。隣接する2つの量子ビットのうち片方を第1の量子ビット、もう片方を第2の量子ビットとする。
【0029】
まず、第1の量子ビットが状態|0>だった場合(図6a)を考える。第1の量子ビットを含む光導波路の光導入部106から、角周波数ω0eのπパルスを入れる。これにより、第1の量子ビットが状態|e>になる。第1の量子ビットが状態|e>になったため、量子ビット間に働く相互作用が変化し、第2の量子ビットの光遷移の遷移角周波数がシフトする。図6bには、2つの光遷移の遷移角周波数シフトΔω0e、Δω1eが等しい場合が示されている。しかし、Δω0e、Δω1eが等しくない場合でも図6に示した制御NOTゲートに関する本質的な内容は変わらない。
【0030】
次に、第2の量子ビットに上記のNOTゲート操作を行った際と同じ操作を施す。図6cには、第2の量子ビットを含む光導波路の光導入部106を通して順次照射する、3つのπパルスを重ねて描き入れてある。しかし、第2の量子ビットの光遷移は遷移角周波数がシフトしているため、3つのπパルスが作用せず、第2の量子ビットは元の状態に留まる。最後に、量子ビット1を含む光導波路の光導入部106を通して角周波数ω0eのπパルスを入れる。これにより、量子ビット1は元の状態|0>に戻る(図6d)。
【0031】
次に、第1の量子ビットが状態|1>だった場合(図7a)を考える。図6で示したのと同じ操作を第1と第2の量子ビットに施すと、この場合は、第1の量子ビットが|1>の状態に留まるため、第2の量子ビットの光遷移の遷移角周波数シフトが起こらず、第2の量子ビットに対してNOTゲートが実行される(図7c)。結局ゲート操作の最後の状態(図7d)では、第1の量子ビットは元の状態のままで、第2の量子ビットにはNOTゲートが施される。
【0032】
第1と第2の量子ビットが状態|0>と状態|1>の重ね合わせの状態(それぞれα1|0>1+β1|1>1とα2|0>2+β2|1>2)の場合は、2つの量子ビットを合わせた系の状態(式(6))は操作後、式(7)に示す状態に変化する。
【数7】
【0033】
【数8】
【0034】
ただし、添え字j(j=1,2)は、第jの量子ビットであることを表す(α1、β1、α2、β2は、|α1|2+|β1|2=|α2|2+|β2|2=1を満たす複素数)。
【0035】
このように、上記の操作により第1の量子ビットを制御ビット、第2の量子ビットを標的ビットとした制御NOTゲートが実行できる。
【0036】
なお、量子計算に必要な量子ビットの初期化、量子ビット読み出しを行う手法については、具体例を示して下記の実施例で説明する。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、光導波路単位で量子ビットを操作し、任意の量子ビットに対して1量子ビットゲート(回転ゲート)を実行でき、また任意の隣接する量子ビット間で2量子ビットゲート(制御NOTゲート)が実行できるため、量子ビット数に拡張性のある量子計算が可能になる。
【実施例】
【0038】
本実施例の量子情報処理装置と量子情報処理方法では、3つのエネルギー状態を持つ物理系として、Y2SiO5結晶の0.05%のY3+イオンをEu3+イオンに置換したEu3+:Y2SiO5結晶中のEu3+イオンを利用する。Eu3+:Y2SiO5結晶中のEu3+イオンはサイトの違いにより、お互い遷移角周波数が異なる2種類イオン(サイト1、サイト2のイオン)に分けられる。本実施例では、サイト1のイオンの利用を考える。図8にY2SiO5結晶中のサイト1のEu3+イオンの電子基底状態7F0と電子励起状態5D0、およびそれぞれが核スピンの状態で分裂している様子を示す。
【0039】
Eu3+:Y2SiO5結晶はY2SiO5で形成された光導波路の一部となっており、そのような光導波路が図9A、図9B、図9Cに示すように積層されている。図9A、図9B、図9Cは、実施例に関する、光導波路の積層の様子を模式的に表した図である。これらの図では、相互の位置関係を表すが、相対的な大きさは必ずしも正しく表現されていない。図9A、図9B、図9Cに示したのは、量子ビットが6個の場合である(図9A、図9B、図9Cに示した構造は、後述する作製法も参照するとわかりやすい)。本実施例では、隣接する光導波路が互いに直交する構造になっているが、互いに平行、あるいは平行に近くてもよい。ただしその場合には、隣接する光導波路同士で、中を通る光の影響をもう片方の光導波路中のEu3+イオンが受けやすくなるので、導波路間の距離をより離さなくてはならなくなる。その結果、それぞれ隣接する光導波路中に含まれるEu3+イオンの間での相互作用が弱くなるので、2量子ビットゲート操作に関して不利となる。
【0040】
光導波路の積層構造の作製法の一例について図10aから図10eを参照して説明する。これらの図は位置関係を表すが、相対的な大きさは必ずしも正しく表現されていない。
(1)まず25mm×25mm×1mmのガラス基板901上に、膜厚200nmのEu3+:Y2SiO5結晶(微結晶と考えられる)の薄膜をスパッタリングで作製する(図10a)。
【0041】
(2)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を基板の中心部の10μm×10μmの正方形の領域(各辺は基板の辺に平行)に塗布する。(3)エッチングでフォトレジスト1001が塗布された領域以外のEu3+:Y2SiO5膜を除く。その際、エッチング条件を調整し、フォトレジスト1001の下に残るEu3+:Y2SiO5のガラス基板901側が、フォトレジスト1001側に比べ少し広がるようにする(図10b)。
【0042】
(4)スパッタリングで厚さ200nmのY2SiO5層を上から積む。(5)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を、Eu3+:Y2SiO5結晶を中心部に有する幅10μm、長さ21mmのストライプ状(基板の1辺に平行)の領域に塗布する。(6)エッチングで中心部に10μm×10μmのEu3+:Y2SiO5部902を有する幅10μm、長さ21mmのY2SiO5結晶903を残し、その他のY2SiO5結晶を除く。その際、エッチング条件を調整し、フォトレジスト1001の下に残るY2SiO5903のガラス基板901側が、フォトレジスト1001側に比べ少し広がるようにする。(7)フォトレジスト1001を除き、Eu3+:Y2SiO5部902の上のY2SiO5結晶903をリフトオフする(図10c)。ここまでで、中にEu3+のイオン集団を含む光導波路の第1層目ができる。
【0043】
(8)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を、幅10μm、長さ21mmの光導波路の上に塗布する。(9)スパッタリングで厚さ200nmのSiO2膜904を積層する。(10)光導波路の上のSiO2をリフトオフする。ここまでで、光導波路の第1層目の低屈折率層への埋め込みができる。(11)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を第1層目の光導波路の両端を3mmずつ覆う領域に塗布する(図10d)。
【0044】
(12)スパッタリングで厚さ200nmのSiO2を積層する。(13)第1層目の導波路の両端のSiO2膜904をリフトオフする(図10e)。
【0045】
(14)SiO2膜904上で、上記(1)から(13)までに相当する過程を繰り返し、第1層目と直行する方向に第2層目の光導波路を作製する。(15)さらに上記(1)から(13)までを4回繰り返すことで、本実施例では、6個の光導波路(量子ビット)が作製できる。その際、お互い隣接する導波路が直交するようにする。また、第1から第6の光導波路は中心の位置が縦方向に一致し、長さは順に21mm、21mm、15mm、15mm、9mm、9mmとする。また、SiO2膜904を作製する際は、それまでに作製した導波路の両端(光導入部106および光出力部107として利用する)がSiO2で覆われないようにフォトレジスト1001で保護する。また、最後の光導波路作製における(8)から(14)までに相当する過程は省略できる。
【0046】
以上のようにして光導波路の積層構造ができる。この作製過程において、スパッタリングで作製されたEu3+:Y2SiO5膜およびY2SiO5膜903(微結晶と考えられる)の結晶性を良くするために製膜後アニールングを施してもよい。また、(10)の後、平坦性を良くするために化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)により、表面を研磨してもよい。さらに、(4)から(7)の替わりに、まずEu3+:Y2SiO5上のフォトレジスト1001を除去した後、全体にY2SiO5膜903を積層し、CMPによる研磨で中心にEu3+:Y2SiO5部902を持つY2SiO5膜903を作製し、フォトレジスト1001によるパターニングとエッチングで光導波路を作製してもよい。また、(8)から(10)の過程の替わりに、単にSiO2膜904を積層し、CMPで表面を研磨し、光導波路の第1層目の低屈折率層への埋め込みを行ってもよい。さらに、Eu3+:Y2SiO5膜あるいはY2SiO5膜903をスパッタリングで製膜する替わりに、お互いオプティカルコンタクトで接着した基板、Eu3+:Y2SiO5単結晶、Y2SiO5単結晶903をCMPで研磨して、一部にEu3+含むY2SiO5単結晶903の膜構造を作り、あとはフォトレジスト1001によるパターニングとエッチングで光導波路を作製してもよい。この手法では、結晶の軸方向を完全にそろえることが可能なので、Eu3+などの希土類イオンの双極子モーメントの効果を大きくすることができると考えられる。また、磁場印加により、Eu3+などの希土類イオンの核スピンの状態を利用した量子ビットのコヒーレンス時間をのばす際にも有利である。
【0047】
次に、本実施例の量子情報処理装置について図11を参照して説明する。
本実施例の量子情報処理装置は、リング色素レーザー1101、レーザー周波数狭窄化システム1102、複数のビームスプリッター1103、ミラー1104、周波数設定用音響光学効果素子1105、強度設定用音響光学効果素子1106、複数のレンズ1107、制御装置部1108、複数の光ファイバー1109、積層した光導波路部103、フォトダイオード1110、クライオスタット104、複数の光導入部106、複数の光出力部107を含む。ここで図1の量子情報処理装置の各部との対応を示す。光源部101は、リング色素レーザー1101とレーザー周波数狭窄化システム1102に対応する。光制御部102は、周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106に対応する。光強度測定部105はフォトダイオード1110に対応する。
【0048】
リング色素レーザー1101は、アルゴンイオンレーザー励起のレーザーである。レーザー周波数狭窄化システム1102は、リング色素レーザー1101からのレーザーを100Hzのスペクトル幅に狭窄化する。
【0049】
ビームスプリッター1103と1つのミラー1104は、光導入部106の数だけ設置される。なお、この数は量子ビット数に対応する。ビームスプリッター1103はレーザー周波数狭窄化システム1102の出力であるレーザー1151を2つに分離し、1つのミラー1104はレーザー1151を分離せず反射する。図11の例では、5つのビームスプリッター1103と1つのミラー1104が、レーザー1151を6本のレーザーに分離する。この図11の例の量子情報処理装置では6個の量子ビットを扱う。
【0050】
周波数設定用音響光学効果素子1105は、入力した光の周波数の時間変化を与え、この周波数を設定し設定した周波数の光を出力する。強度設定用音響光学効果素子1106は、入力した光の強度の時間変化を与え、この強度を設定し設定した強度の光を出力する。
【0051】
レンズ1107は、光導波路部103に設けられている光導入部106の数だけ設置される。レンズ1107はそれぞれ、強度設定用音響光学効果素子1106の出力するレーザーを受け入れ、レンズ1107の出力するレーザーを対応する光ファイバー1109に入射する。
【0052】
制御装置部1108は、周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106を制御し、量子ビットの初期化、量子ゲート操作、読み出しに必要な光パルスを生成するための制御を行う。
【0053】
光ファイバー1109は、複数のレンズ1107と複数の光導入部106とが1対1で接続される接続に使用され、さらに、複数の光出力部107と複数のフォトダイオード1110とが1対1で接続される接続に使用されている。光導入部106および光出力部107につながるそれぞれ6本の光ファイバーがクライオスタット外にのびている。
【0054】
フォトダイオード1110はそれぞれ、光出力部107に結合している各光ファイバー1109からの光の強度を測定する。
【0055】
また、光導入部106および光出力部107は、図12に示すように、カップリング用のプリズム1201とレンズ1202を含む。プリズム1201とレンズ1202は図12に示すようにインバー製マウント1203で適切な位置に配置されている。インバー製マウント1203は光ファイバー1109をインバー製マウント1203に導入していて、光ファイバー1109からレンズ1202へ光を入力したり、レンズ1202を通った光が光ファイバー1109に入射したりすることができるようになっている。
【0056】
次に、図11の量子情報処理装置を用い、量子情報処理として、量子計算に必要な量子ビットの初期化、量子ビットゲート操作、量子ビット読み出しを行う手法を説明する。
第1層目〜第6層目に含まれるEu3+イオンの一部からなるイオン集団(後述するように、本実施例では、光導波路に含まれるEu3+イオンをすべて量子ビットとして利用するわけではない)で形成される量子ビットをそれぞれ、第1〜第6の量子ビットと呼ぶことにする。また、図8に示したEu3+イオンの|±1/2>の状態を|0>、|±3/2>の状態を|1>とする。また、5D0の状態を|e>とする。
【0057】
まず第1の量子ビットを考える。量子ビットにつながる光ファイバーを通し、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105を制御することによって、ωC−500×2πkHz〜ωC+500×2πkHzの範囲で1kHz/1msの掃引速度で掃引しながらレーザーを量子ビットに照射する。ωCはY2SiO5結晶903中のサイト1のEu3+イオンに関する7F0−5D0間遷移の遷移角周波数である516.84×2πTHzである。これにより、Eu3+イオンの吸収スペクトルにホールが生じる。これは、7F0の3つの状態|±5/2>、|±3/2>、|±1/2>と5D0の3つの状態|±5/2>、|±3/2>、|±1/2>の間の9つの遷移のいずれかの遷移角周波数がωCと共鳴するイオンが、光ポンピングにより、光と作用しない7F0の状態になり、結晶が透明になることで生じる透明化の穴である。
【0058】
次に、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106を制御することによって、ωC+34.5×2πMHzのレーザーを1秒間照射する。すると、ホールの中に、幅100Hz程度の吸収が現れる。これは、7F0と5D0とを結ぶ9つの遷移のいずれかの遷移角周波数がωCと共鳴するイオンのうち、7F0の状態|±3/2>と5D0の3つの状態のいずれかとを結ぶ遷移がωC+34.5×2πMHzのレーザーと共鳴し、光ポンピングで7F0の|±1/2>の状態になり、吸収に寄与するためである。すなわち、ホール中の吸収は、7F0の状態|±1/2>と5D0の3つの状態のいずれかとを結ぶ遷移が、レーザー線幅とイオンの均一幅の大きいほう(この場合はいずれも100Hz程度)の範囲内でωCと一致するEu3+イオンに起因する。このホール中の吸収を示すイオンの7F0の状態|±1/2>と状態|±3/2>をそれぞれ状態|0>と状態|1>とする。また、このホール中の吸収を示すイオンの5D0の3つの状態をいずれも状態|e>とする。
上記のような光照射によりホール中に吸収を示すEu3+イオンの集団を、1つの量子ビットとする。
【0059】
この量子ビットは、状態|0>に初期化されていることになる。制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、この量子ビットに、光ファイバー1109を通して角周波数がそれぞれωC、ωC+34.5×2πMHz、ωCで、長さがいずれも100μsの3つのπパルスを、この順番で照射する。これにより、量子ビットは状態|1>になる。この場合、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、光ファイバーを通し、角周波数ωCの弱いレーザーを量子ビットに照射し、対応するフォトダイオード1110が出力光強度を測定すると、量子ビットが状態|0>の場合に比べ状態|1>にある場合には透過率が増加するため、量子ビットが状態|1>であることがわかる。
【0060】
上記の手法で量子ビットを状態|0>に初期化したあと角周波数ωC、ωC+34.5×2πMHzで長さ100μsの2つのπパルスを、この順番で照射すると、状態|1>に初期化することができる。そこに角周波数ωC、ωC+34.5×2πMHz、ωCで長さ100μsの3つのπパルスを、この順番で照射すると、量子ビットを状態|0>にすることができる。また角周波数ωCの弱いレーザーの量子ビットへの照射により、量子ビットの読み出しも同様にできる。
【0061】
次に、重ね合わせの状態の量子ビットの用意と、その量子ビットへの回転ゲートについて説明する。
上記の手法によって量子ビットを状態|0>に初期化したあと、それぞれ長さ100μsの3つの光パルス、すなわち角周波数ωCのπパルス、ωC+34.5×2πMHzのMパルス、ωCのπパルスを照射することにより、量子ビットを重ね合わせの状態α|0>+β|1>にできる。
【0062】
ただし、
【数9】
【0063】
このようにして用意した重ね合わせの状態の量子ビットに対して、NOTゲートの場合と同様の3つの光パルスを真ん中の光パルスだけM’パルスにして照射すると、量子ビットは、以下の式(8)の状態になる。
【数10】
【0064】
このようにして、M’パルスを真ん中に挟む3つの光パルスにより、回転ゲートが実行できる。
【0065】
このようにして、量子ビットの初期化、NOTゲート(回転角πの回転ゲート)や任意の回転角を持つ回転ゲートのような1量子ビットゲート、量子ビットの読み出しが可能になる。他の量子ビットでも同様にこれらの操作が可能である。
【0066】
次に、2つ隣接する第1の量子ビットと第2の量子ビットを考え、これらの量子ビットに関して制御NOTゲート操作が可能になることを示す。それぞれの量子ビットにつながる光ファイバーを通して、上記の手法により、第1と第2の量子ビットをいずれも状態|0>にする。次いで、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、第1の量子ビットに、角周波数ωCで長さ100μsのπパルスを照射する。その後、第2の量子ビットに対して3つπパルスを照射する上記のNOTゲートと同様の光照射を行う。ただし、3つのパルスの長さはいずれも500μsとする。そして最後に、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、第1の量子ビットに再び、角周波数ωCで長さ100μsのπパルスを照射する。このように第1の量子ビットに1つのπパルスを照射し、第2の量子ビットに3つのπパルスを照射し、最後にまた第1の量子ビットに1つのπパルスを照射する一連のレーザー照射を操作Aとする。この場合、操作Aの結果を上記の手法で読み出すと、第1の量子ビット、第2の量子ビットともにほとんど変化していないことがわかる。
【0067】
第1と第2の量子ビットをそれぞれ状態|0>、状態|1>に初期化して、操作Aを施しても、同様に2つの量子ビットは操作前後で変化しない。
【0068】
第1の量子ビットが状態|0>にある場合、操作Aの最初の第1の量子ビットへのπパルス照射により、量子ビットが状態|e>になるため、第2の量子ビットの遷移角周波数が変化する。その変化量は、量子ビットを校正するイオンのスペクトル幅および、操作に利用するπパルスのスペクトル幅より大きいと考えられる。その結果、3つのπパルスによる第2の量子ビットへのNOTゲートが有効に働かず、量子ビットは変化しない。
【0069】
第1と第2の量子ビットをそれぞれ状態|1>と状態|0>に初期化した場合は、操作Aの最初の第1の量子ビットへのπパルス照射により、第1の量子ビットが状態|e>になることはないので、第2の量子ビットへのNOTゲートが有効に働き、第2の量子ビットが状態|1>になる。したがって、操作Aの結果を読み出すと、第1の量子ビットは変化していないが、第2の量子ビットは状態|1>に反転しているのがわかる。
【0070】
第1と第2の量子ビットを状態|1>、状態|1>に初期化して、操作Aを施しても、同様に第1の量子ビットは操作前後で変化しないが、第2の量子ビットは状態|0>に反転する。
【0071】
すなわち、第1と第2の量子ビットが状態|0>と状態|1>の重ね合わせの状態(それぞれα1|0>1+β1|1>1とα2|0>2+β2|1>2)の場合は、2つの量子ビットと合わせた系の状態は以下の式(9)ように示される。
【数11】
【0072】
この状態は、操作Aの後、下記の式(10)の状態に変化させることができる。
【数12】
【0073】
このようにして、第1と第2の2つ隣接する量子ビットに関して、制御NOTゲート操作が可能になる。他の2つの隣接する量子ビットの間でも同様に制御NOTゲートが可能である。
【0074】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施形態の量子情報処理装置のブロック図。
【図2】図1の光導波路部のうちの1つの光導波路とこの光導波路に含まれる物理系集団を示す図。
【図3】図2の光導波路を複数個積層した一例を示す図。
【図4】図2の光導波路を複数個積層した一例を示す図。
【図5】NOTゲート操作について説明するための図。
【図6】制御NOTゲートについて説明するための図。
【図7】制御NOTゲートについて説明するための図。
【図8】Eu3+:Y2SiO5結晶中のサイト1にあるEu3+イオンのエネルギー状態を示す図。
【図9A】積層した光導波路部を上方から見た場合を示す図。
【図9B】図9Aの点線Aでの積層した光導波路部の断面図。
【図9C】図9Aの点線Bでの積層した光導波路部の断面図。
【図10】図9Aから図9Cに示した積層した光導波路部の作成手法を説明するための図。
【図11】実施例の量子情報処理装置のブロック図。
【図12】図11の光導入部および光出力部の詳細図。
【符号の説明】
【0076】
101・・・光源部、102・・・光制御部、103・・・光導波路部、104・・・クライオスタット、105・・・光強度測定部、106・・・光導入部、107・・・光出力部、201、301・・・光導波路、202・・・物理系集団、901・・・ガラス基板、902・・・Eu3+:Y2SiO5部、903・・・Y2SiO5結晶、904・・・SiO2膜、1001・・・フォトレジスト、1101・・・リング色素レーザー、1102・・・レーザー周波数狭窄化システム、1103・・・ビームスプリッター、1104・・・ミラー、1105・・・周波数設定用音響光学効果素子、1106・・・強度設定用音響光学効果素子、1107、1202・・・レンズ、1108・・・制御装置部、1109・・・光ファイバー、1110・・・フォトダイオード、1151・・・レーザー、1201・・・プリズム、1203・・・インバー製マウント。
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子情報処理装置および量子情報処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶中の希土類イオンの核スピンの状態は、固体としては特異的に長いコヒーレンス時間を持ち、かつ光で制御や読出しができるため、量子情報処理デバイスの固体での実現に極めて適している。この結晶中の核スピンを量子ビットとして利用する場合、相互の結合を実現する手法として、共振器モードを利用する手法がある(例えば、非特許文献1参照)。一方、量子ビットである結晶中の希土類イオンを、近接していることにより働く相互作用、例えば双極子相互作用で結合する手法も提案され研究されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
前者では、共振器モードを利用した単一イオンの読み出しが可能でありまた、量子ビット数に拡張性を持たせることが比較的容易である。一方後者では、イオンの集団を1つの量子ビットとして扱うことが可能であり、量子ビットの読み出しが比較的容易である。しかし後者では、以下の2点により、量子ビット数の拡張性に問題がある。
(1)周波数空間でイオンをグループ分けし、それぞれのグループで1つの量子ビットを表すため、量子ビット数を増やすと、1つの量子ビットを表すイオンの数が減り、信号強度が弱くなる。
(2)同様の理由により、量子ビット数を増やすと量子ビット間の平均の距離が大きくなり、結合のための相互作用が弱まってしまう。相互作用の大きいイオンだけを選択し量子ビットを構成する手法を採用すると、1つの量子ビットを構成するイオンの数がさらに減ってしまう。
【非特許文献1】Opt. Commun. 196, 119 (2001).
【非特許文献2】Phys. Rev. A 71, 062328 (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
十分に多数の(イオン等の)物理系からなる物理系集団を1つの量子ビットとして扱うことができ、かつ量子ビット数に十分な拡張性のある手法があれば、量子ビット読み出しの点ではより望ましい。しかしそれを実現する簡便な手法は知られていない。
【0005】
本発明の目的は、大きな読み出し信号が得られ、かつ量子ビット数に拡張性のある、量子情報処理装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明の量子情報処理装置は、3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれΔ0e,homo、Δ1e,homoである物理系を複数含む光導波路であって、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる光導波路を複数個有する光導波路部と、角周波数ω0e、ω1eの光を発生する光源部と、前記角周波数ω0e、ω1eの光の周波数と強度とを制御して制御光を生成する光制御部と、前記制御光をそれぞれの前記光導波路に導入する光導入部と、それぞれの前記光導波路を通過してきた通過光を取り出す光出力部と、前記通過光の強度を測定する光強度測定部と、を具備し、前記光導波路部に含まれる第1光導波路および第2光導波路で該第1光導波路と該第2光導波路は互いに隣接していて、該第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には該第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、該第1物理系が状態|e>にある場合には該第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、該第1光導波路と該第2光導波路との距離は、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homoおよびΔ1e,homoよりも大きくなる距離であり、かつ、該第1光導波路を通過する光が該第2物理系の状態を変化させない距離であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の量子情報処理装置および方法によれば、大きな読み出し信号が得られ、かつ量子ビット数に拡張性を持たせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係る量子情報処理装置および方法について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の番号を付した部分については同様の動作を行うものとして、重ねての説明を省略する。
本実施形態の量子情報処理装置および量子情報処理方法は、光導波路構造中の物理系集団を1つの量子ビットとし、複数の光導波路を、互いに隣接する光導波路に含まれる物理系集団同士は物理系の量子状態に応じて、相互作用により、互いの光遷移の遷移角周波数を変化させるが、それぞれの光導波路を通る光は隣接する光導波路に含まれる物理系には影響を及ぼさない程度の距離だけ、お互いに離して設置し、光導波路を通して物理系集団に光を照射してその量子状態を操作する。その結果、固体中にランダムに散らばる物理系集団を量子ビットとして利用でき、大きな読み出し信号が得られ、かつ量子ビット数に拡張性を持たせることができる。なお、物理系集団は多数の物理系を含む。
【0009】
実施形態の量子情報処理装置について図1を参照して説明する。
実施形態の量子情報処理装置は、光源部101、光制御部102、積層した光導波路部103、クライオスタット104、光強度測定部105を含む。積層した光導波路部103は、複数の光導入部106と複数の光出力部107を含む。
【0010】
光源部101は、積層した光導波路部103に照射する光を生成する。光制御部102は、光源部101が生成した光の周波数および強度を制御して積層した光導波路部103へ出力する。
【0011】
積層した光導波路部103は、複数の光導波路を積層したものである。1つの光導波路は1つの物理系集団を含んでいて、この1つの物理系集団が1つの量子ビットを表現する。物理系集団は複数の物理系を含んでいて、各物理系は3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有している。光導波路は、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる。光導波路部は例えば酸化物結晶であり、物理系は例えば希土類イオンである。また、状態|0>および状態|1>が例えば電子基底状態にある希土類イオンの核スピンの状態であり、状態|e>が例えば電子励起状態である。積層した光導波路部103の詳細は後に図2、図3を参照して説明する。
【0012】
クライオスタット104は、内部の温度を低温(例えば1.5K)に保つ。クライオスタット104内部には光導波路部103が設置されている。
【0013】
光強度測定部105は、それぞれの光出力部107から出力された光の強度を測定する。光導入部106は、光制御部102によって制御された光を積層した光導波路部103に導入する。光出力部107は、積層した光導波路部103から光を光強度測定部105に出力する。1つの光導波路について図4に示すように光導入部106と光出力部107が1つずつ設置されている。
【0014】
次に、実施形態の量子情報処理装置により、固体中の多数の物理系を単一の量子ビットとして扱う手法と、そのように構成した量子ビットの数に拡張性を持たせる手法、およびそのように量子ビット数を拡張した構成で、量子ビットに対して、万能ゲートを構成する1量子ビットゲート(回転ゲート)操作と2量子ビットゲート(制御NOTゲート)操作を行う手法とその機構を説明する。
本実施形態では、図2に示すように、光導波路201の中に含まれる多数の物理系からなる物理系集団202を1つの量子ビットとし、1つの光導波路が1つの量子ビットに対応する。本実施形態では、このように量子ビットを構成する物理系集団を含む複数の光導波路を、隣接する光導波路中の物理系集団間では互いに相互作用(例えば双極子相互作用)を及ぼし合い、片方の物理系集団の状態に応じてもう片方の物理系集団の光遷移の遷移角周波数が光遷移の均一幅程度以上変化する程度に、近づけて配置する。また、それぞれの光導波路を伝搬する光は、隣接する光導波路中の量子ビットには影響を与えない程度には離して配置する。換言すると以下のようになる。積層した光導波路部103に含まれる、互いに隣接している第1光導波路および第2光導波路で説明する。第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、第1物理系が状態|e>にある場合には第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、第1光導波路と第2光導波路との距離が、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homo(|0>−|e>間遷移の均一幅)およびΔ1e,homo(|1>−|e>間遷移の均一幅)よりも大きくなる距離であり、かつ、第1光導波路を通過する光が第2物理系の状態を変化させない距離になるように第1光導波路と第2光導波路を配置する。
【0015】
一次元的に連なった量子ビットでは、指定した量子ビットに対する1量子ビットゲートと、隣り合った量子ビット間での2量子ビットゲートができれば、量子計算ができる。したがって、本発明では、量子ビットを含む光導波路を一次元的に積層した構造で、量子コンピュータを構成する。1次元的に積層した様子を図3に模式的に示す。図3では、隣接する光導波路301が互いに直交するように配置されている。隣接する2つの光導波路301の向きが平行に近くなると、片方の導波路中の光がもう片方の導波路中のモードと結合しやすくなり、光導波路中の物理系集団が隣接する光導波路を通る光の影響を受けやすくなる。隣接する導波路同士は、互いの中の物理系集団同士が量子ゲートに十分なだけの相互作用を及ぼし合う必要があるため、互いの距離を離して、隣接する光導波路中を進む光の影響を受けなくするには限界がある。そのため、隣接する光導波路はなるべく平行にならないようにした方がよい。
【0016】
それぞれの光導波路中で量子ビットを構成する物理系集団の位置は、他の量子ビットと相互作用できる範囲に集中していた方が、量子ビット読み出しの際に、量子ビットとして動作していない物理系の状態の影響が少なくなるので望ましい。図3には、光導波路が互いに重なり合う部分に物理系を集中させた場合を示した。
【0017】
光導波路への光導入部106および光出力部107は、量子ビット数が増えた場合は、その数が増えるため、限られたサイズの中に収めるためには、例えば、図4に示すように、直線状の光導波路を少しずつずらして配置する、あるいは光導波路を曲げるなどすればよい。
【0018】
このように用意した量子ビットへのゲート操作は、例えばL. Rippe等が用いようとしている手法(上記の非特許文献2のPhys. Rev. A 71, 062328 (2005).に記載)を適用して、実行することができる。
【0019】
次に、ある量子ビットに対しNOTゲート操作を行う手法について図5を参照して説明する。図5のエネルギー状態の図は、量子ビットを構成する個々の物理系の状態と光導波路を利用して照射する光との関係を表したものである。
まず、NOTゲート操作を施す量子ビットを含む光導波路の光導入部106から、角周波数ω0eのπパルスを入れる(図5a)。次に同じ光導入部106から角周波数ω1eのπパルスを入れる(図5b)。最後にまた同じ光導入部106から角周波数ω0eのπパルスを入れる(図5c)。πパルスの光パルス電場の包絡線の時間依存を下記の式(1)のように設定する。
【数1】
【0020】
この場合、πパルスは、式(2)の値となるパルス面積(光強度をパルス時間で積分したもの)を持つ。
【数2】
【0021】
ここで、式(3)の値はその光パルスが共鳴する遷移の遷移双極子モーメントである。
【数3】
【0022】
また、以下の値はディラック定数である。
【数4】
【0023】
πパルスは、共鳴した2状態系のラビ振動の半周期分系を時間発展させ、例えば、そのパルスと共鳴する遷移の始状態と終状態である2つの状態を片方の状態からもう片方の状態へ完全に変化させる働きがある。したがって、量子ビットがもし最初、状態|0>にあれば、最初のπパルスと2番目のπパルスで状態|e>を経由して状態|1>になる(3番目のπパルスは、物理系が共鳴する準位にないため作用しない)。また、量子ビットがもし最初、状態|1>にあれば、2番目のπパルスと3番目のπパルスで状態|e>を経由して状態|0>になる(1番目のπパルスは、物理系が共鳴する準位にないため作用しない)。もし最初、状態|0>と状態|1>の重ね合わせの状態α|0>+β|1>(α、βは、|α|2+|β|2=1を満たす複素数。)であれば、状態α|1>+β|0>となる。このようにNOTゲートが実行できる。
【0024】
また、式(4)のパルス面積を持つ光パルス(Mパルス呼ぶことにする)を考える。
【数5】
【0025】
Mパルスは、共鳴した2状態系のラビ振動のM/(2π)周期分を時間発展させ、重ね合わせの状態α|0>+β|1>を、以下の式(5)で示す状態に変化させる。
【数6】
【0026】
上記NOTゲートの2番目のπパルスの替わりにMの値を調整したMパルスを照射することにより、任意の回転角を持つ回転ゲートが実行できる。
【0027】
以上のようにしてNOTゲート(回転角πの回転ゲート)や任意の回転角を持つ回転ゲートのような1量子ビットゲートが実行できる。
【0028】
次に、制御NOTゲート操作を施す手法について図6、図7を参照して説明する。隣接する2つの量子ビットのうち片方を第1の量子ビット、もう片方を第2の量子ビットとする。
【0029】
まず、第1の量子ビットが状態|0>だった場合(図6a)を考える。第1の量子ビットを含む光導波路の光導入部106から、角周波数ω0eのπパルスを入れる。これにより、第1の量子ビットが状態|e>になる。第1の量子ビットが状態|e>になったため、量子ビット間に働く相互作用が変化し、第2の量子ビットの光遷移の遷移角周波数がシフトする。図6bには、2つの光遷移の遷移角周波数シフトΔω0e、Δω1eが等しい場合が示されている。しかし、Δω0e、Δω1eが等しくない場合でも図6に示した制御NOTゲートに関する本質的な内容は変わらない。
【0030】
次に、第2の量子ビットに上記のNOTゲート操作を行った際と同じ操作を施す。図6cには、第2の量子ビットを含む光導波路の光導入部106を通して順次照射する、3つのπパルスを重ねて描き入れてある。しかし、第2の量子ビットの光遷移は遷移角周波数がシフトしているため、3つのπパルスが作用せず、第2の量子ビットは元の状態に留まる。最後に、量子ビット1を含む光導波路の光導入部106を通して角周波数ω0eのπパルスを入れる。これにより、量子ビット1は元の状態|0>に戻る(図6d)。
【0031】
次に、第1の量子ビットが状態|1>だった場合(図7a)を考える。図6で示したのと同じ操作を第1と第2の量子ビットに施すと、この場合は、第1の量子ビットが|1>の状態に留まるため、第2の量子ビットの光遷移の遷移角周波数シフトが起こらず、第2の量子ビットに対してNOTゲートが実行される(図7c)。結局ゲート操作の最後の状態(図7d)では、第1の量子ビットは元の状態のままで、第2の量子ビットにはNOTゲートが施される。
【0032】
第1と第2の量子ビットが状態|0>と状態|1>の重ね合わせの状態(それぞれα1|0>1+β1|1>1とα2|0>2+β2|1>2)の場合は、2つの量子ビットを合わせた系の状態(式(6))は操作後、式(7)に示す状態に変化する。
【数7】
【0033】
【数8】
【0034】
ただし、添え字j(j=1,2)は、第jの量子ビットであることを表す(α1、β1、α2、β2は、|α1|2+|β1|2=|α2|2+|β2|2=1を満たす複素数)。
【0035】
このように、上記の操作により第1の量子ビットを制御ビット、第2の量子ビットを標的ビットとした制御NOTゲートが実行できる。
【0036】
なお、量子計算に必要な量子ビットの初期化、量子ビット読み出しを行う手法については、具体例を示して下記の実施例で説明する。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、光導波路単位で量子ビットを操作し、任意の量子ビットに対して1量子ビットゲート(回転ゲート)を実行でき、また任意の隣接する量子ビット間で2量子ビットゲート(制御NOTゲート)が実行できるため、量子ビット数に拡張性のある量子計算が可能になる。
【実施例】
【0038】
本実施例の量子情報処理装置と量子情報処理方法では、3つのエネルギー状態を持つ物理系として、Y2SiO5結晶の0.05%のY3+イオンをEu3+イオンに置換したEu3+:Y2SiO5結晶中のEu3+イオンを利用する。Eu3+:Y2SiO5結晶中のEu3+イオンはサイトの違いにより、お互い遷移角周波数が異なる2種類イオン(サイト1、サイト2のイオン)に分けられる。本実施例では、サイト1のイオンの利用を考える。図8にY2SiO5結晶中のサイト1のEu3+イオンの電子基底状態7F0と電子励起状態5D0、およびそれぞれが核スピンの状態で分裂している様子を示す。
【0039】
Eu3+:Y2SiO5結晶はY2SiO5で形成された光導波路の一部となっており、そのような光導波路が図9A、図9B、図9Cに示すように積層されている。図9A、図9B、図9Cは、実施例に関する、光導波路の積層の様子を模式的に表した図である。これらの図では、相互の位置関係を表すが、相対的な大きさは必ずしも正しく表現されていない。図9A、図9B、図9Cに示したのは、量子ビットが6個の場合である(図9A、図9B、図9Cに示した構造は、後述する作製法も参照するとわかりやすい)。本実施例では、隣接する光導波路が互いに直交する構造になっているが、互いに平行、あるいは平行に近くてもよい。ただしその場合には、隣接する光導波路同士で、中を通る光の影響をもう片方の光導波路中のEu3+イオンが受けやすくなるので、導波路間の距離をより離さなくてはならなくなる。その結果、それぞれ隣接する光導波路中に含まれるEu3+イオンの間での相互作用が弱くなるので、2量子ビットゲート操作に関して不利となる。
【0040】
光導波路の積層構造の作製法の一例について図10aから図10eを参照して説明する。これらの図は位置関係を表すが、相対的な大きさは必ずしも正しく表現されていない。
(1)まず25mm×25mm×1mmのガラス基板901上に、膜厚200nmのEu3+:Y2SiO5結晶(微結晶と考えられる)の薄膜をスパッタリングで作製する(図10a)。
【0041】
(2)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を基板の中心部の10μm×10μmの正方形の領域(各辺は基板の辺に平行)に塗布する。(3)エッチングでフォトレジスト1001が塗布された領域以外のEu3+:Y2SiO5膜を除く。その際、エッチング条件を調整し、フォトレジスト1001の下に残るEu3+:Y2SiO5のガラス基板901側が、フォトレジスト1001側に比べ少し広がるようにする(図10b)。
【0042】
(4)スパッタリングで厚さ200nmのY2SiO5層を上から積む。(5)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を、Eu3+:Y2SiO5結晶を中心部に有する幅10μm、長さ21mmのストライプ状(基板の1辺に平行)の領域に塗布する。(6)エッチングで中心部に10μm×10μmのEu3+:Y2SiO5部902を有する幅10μm、長さ21mmのY2SiO5結晶903を残し、その他のY2SiO5結晶を除く。その際、エッチング条件を調整し、フォトレジスト1001の下に残るY2SiO5903のガラス基板901側が、フォトレジスト1001側に比べ少し広がるようにする。(7)フォトレジスト1001を除き、Eu3+:Y2SiO5部902の上のY2SiO5結晶903をリフトオフする(図10c)。ここまでで、中にEu3+のイオン集団を含む光導波路の第1層目ができる。
【0043】
(8)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を、幅10μm、長さ21mmの光導波路の上に塗布する。(9)スパッタリングで厚さ200nmのSiO2膜904を積層する。(10)光導波路の上のSiO2をリフトオフする。ここまでで、光導波路の第1層目の低屈折率層への埋め込みができる。(11)フォトレジスト1001の塗布とマスクを用いた露光、現像で、フォトレジスト1001を第1層目の光導波路の両端を3mmずつ覆う領域に塗布する(図10d)。
【0044】
(12)スパッタリングで厚さ200nmのSiO2を積層する。(13)第1層目の導波路の両端のSiO2膜904をリフトオフする(図10e)。
【0045】
(14)SiO2膜904上で、上記(1)から(13)までに相当する過程を繰り返し、第1層目と直行する方向に第2層目の光導波路を作製する。(15)さらに上記(1)から(13)までを4回繰り返すことで、本実施例では、6個の光導波路(量子ビット)が作製できる。その際、お互い隣接する導波路が直交するようにする。また、第1から第6の光導波路は中心の位置が縦方向に一致し、長さは順に21mm、21mm、15mm、15mm、9mm、9mmとする。また、SiO2膜904を作製する際は、それまでに作製した導波路の両端(光導入部106および光出力部107として利用する)がSiO2で覆われないようにフォトレジスト1001で保護する。また、最後の光導波路作製における(8)から(14)までに相当する過程は省略できる。
【0046】
以上のようにして光導波路の積層構造ができる。この作製過程において、スパッタリングで作製されたEu3+:Y2SiO5膜およびY2SiO5膜903(微結晶と考えられる)の結晶性を良くするために製膜後アニールングを施してもよい。また、(10)の後、平坦性を良くするために化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)により、表面を研磨してもよい。さらに、(4)から(7)の替わりに、まずEu3+:Y2SiO5上のフォトレジスト1001を除去した後、全体にY2SiO5膜903を積層し、CMPによる研磨で中心にEu3+:Y2SiO5部902を持つY2SiO5膜903を作製し、フォトレジスト1001によるパターニングとエッチングで光導波路を作製してもよい。また、(8)から(10)の過程の替わりに、単にSiO2膜904を積層し、CMPで表面を研磨し、光導波路の第1層目の低屈折率層への埋め込みを行ってもよい。さらに、Eu3+:Y2SiO5膜あるいはY2SiO5膜903をスパッタリングで製膜する替わりに、お互いオプティカルコンタクトで接着した基板、Eu3+:Y2SiO5単結晶、Y2SiO5単結晶903をCMPで研磨して、一部にEu3+含むY2SiO5単結晶903の膜構造を作り、あとはフォトレジスト1001によるパターニングとエッチングで光導波路を作製してもよい。この手法では、結晶の軸方向を完全にそろえることが可能なので、Eu3+などの希土類イオンの双極子モーメントの効果を大きくすることができると考えられる。また、磁場印加により、Eu3+などの希土類イオンの核スピンの状態を利用した量子ビットのコヒーレンス時間をのばす際にも有利である。
【0047】
次に、本実施例の量子情報処理装置について図11を参照して説明する。
本実施例の量子情報処理装置は、リング色素レーザー1101、レーザー周波数狭窄化システム1102、複数のビームスプリッター1103、ミラー1104、周波数設定用音響光学効果素子1105、強度設定用音響光学効果素子1106、複数のレンズ1107、制御装置部1108、複数の光ファイバー1109、積層した光導波路部103、フォトダイオード1110、クライオスタット104、複数の光導入部106、複数の光出力部107を含む。ここで図1の量子情報処理装置の各部との対応を示す。光源部101は、リング色素レーザー1101とレーザー周波数狭窄化システム1102に対応する。光制御部102は、周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106に対応する。光強度測定部105はフォトダイオード1110に対応する。
【0048】
リング色素レーザー1101は、アルゴンイオンレーザー励起のレーザーである。レーザー周波数狭窄化システム1102は、リング色素レーザー1101からのレーザーを100Hzのスペクトル幅に狭窄化する。
【0049】
ビームスプリッター1103と1つのミラー1104は、光導入部106の数だけ設置される。なお、この数は量子ビット数に対応する。ビームスプリッター1103はレーザー周波数狭窄化システム1102の出力であるレーザー1151を2つに分離し、1つのミラー1104はレーザー1151を分離せず反射する。図11の例では、5つのビームスプリッター1103と1つのミラー1104が、レーザー1151を6本のレーザーに分離する。この図11の例の量子情報処理装置では6個の量子ビットを扱う。
【0050】
周波数設定用音響光学効果素子1105は、入力した光の周波数の時間変化を与え、この周波数を設定し設定した周波数の光を出力する。強度設定用音響光学効果素子1106は、入力した光の強度の時間変化を与え、この強度を設定し設定した強度の光を出力する。
【0051】
レンズ1107は、光導波路部103に設けられている光導入部106の数だけ設置される。レンズ1107はそれぞれ、強度設定用音響光学効果素子1106の出力するレーザーを受け入れ、レンズ1107の出力するレーザーを対応する光ファイバー1109に入射する。
【0052】
制御装置部1108は、周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106を制御し、量子ビットの初期化、量子ゲート操作、読み出しに必要な光パルスを生成するための制御を行う。
【0053】
光ファイバー1109は、複数のレンズ1107と複数の光導入部106とが1対1で接続される接続に使用され、さらに、複数の光出力部107と複数のフォトダイオード1110とが1対1で接続される接続に使用されている。光導入部106および光出力部107につながるそれぞれ6本の光ファイバーがクライオスタット外にのびている。
【0054】
フォトダイオード1110はそれぞれ、光出力部107に結合している各光ファイバー1109からの光の強度を測定する。
【0055】
また、光導入部106および光出力部107は、図12に示すように、カップリング用のプリズム1201とレンズ1202を含む。プリズム1201とレンズ1202は図12に示すようにインバー製マウント1203で適切な位置に配置されている。インバー製マウント1203は光ファイバー1109をインバー製マウント1203に導入していて、光ファイバー1109からレンズ1202へ光を入力したり、レンズ1202を通った光が光ファイバー1109に入射したりすることができるようになっている。
【0056】
次に、図11の量子情報処理装置を用い、量子情報処理として、量子計算に必要な量子ビットの初期化、量子ビットゲート操作、量子ビット読み出しを行う手法を説明する。
第1層目〜第6層目に含まれるEu3+イオンの一部からなるイオン集団(後述するように、本実施例では、光導波路に含まれるEu3+イオンをすべて量子ビットとして利用するわけではない)で形成される量子ビットをそれぞれ、第1〜第6の量子ビットと呼ぶことにする。また、図8に示したEu3+イオンの|±1/2>の状態を|0>、|±3/2>の状態を|1>とする。また、5D0の状態を|e>とする。
【0057】
まず第1の量子ビットを考える。量子ビットにつながる光ファイバーを通し、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105を制御することによって、ωC−500×2πkHz〜ωC+500×2πkHzの範囲で1kHz/1msの掃引速度で掃引しながらレーザーを量子ビットに照射する。ωCはY2SiO5結晶903中のサイト1のEu3+イオンに関する7F0−5D0間遷移の遷移角周波数である516.84×2πTHzである。これにより、Eu3+イオンの吸収スペクトルにホールが生じる。これは、7F0の3つの状態|±5/2>、|±3/2>、|±1/2>と5D0の3つの状態|±5/2>、|±3/2>、|±1/2>の間の9つの遷移のいずれかの遷移角周波数がωCと共鳴するイオンが、光ポンピングにより、光と作用しない7F0の状態になり、結晶が透明になることで生じる透明化の穴である。
【0058】
次に、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106を制御することによって、ωC+34.5×2πMHzのレーザーを1秒間照射する。すると、ホールの中に、幅100Hz程度の吸収が現れる。これは、7F0と5D0とを結ぶ9つの遷移のいずれかの遷移角周波数がωCと共鳴するイオンのうち、7F0の状態|±3/2>と5D0の3つの状態のいずれかとを結ぶ遷移がωC+34.5×2πMHzのレーザーと共鳴し、光ポンピングで7F0の|±1/2>の状態になり、吸収に寄与するためである。すなわち、ホール中の吸収は、7F0の状態|±1/2>と5D0の3つの状態のいずれかとを結ぶ遷移が、レーザー線幅とイオンの均一幅の大きいほう(この場合はいずれも100Hz程度)の範囲内でωCと一致するEu3+イオンに起因する。このホール中の吸収を示すイオンの7F0の状態|±1/2>と状態|±3/2>をそれぞれ状態|0>と状態|1>とする。また、このホール中の吸収を示すイオンの5D0の3つの状態をいずれも状態|e>とする。
上記のような光照射によりホール中に吸収を示すEu3+イオンの集団を、1つの量子ビットとする。
【0059】
この量子ビットは、状態|0>に初期化されていることになる。制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、この量子ビットに、光ファイバー1109を通して角周波数がそれぞれωC、ωC+34.5×2πMHz、ωCで、長さがいずれも100μsの3つのπパルスを、この順番で照射する。これにより、量子ビットは状態|1>になる。この場合、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、光ファイバーを通し、角周波数ωCの弱いレーザーを量子ビットに照射し、対応するフォトダイオード1110が出力光強度を測定すると、量子ビットが状態|0>の場合に比べ状態|1>にある場合には透過率が増加するため、量子ビットが状態|1>であることがわかる。
【0060】
上記の手法で量子ビットを状態|0>に初期化したあと角周波数ωC、ωC+34.5×2πMHzで長さ100μsの2つのπパルスを、この順番で照射すると、状態|1>に初期化することができる。そこに角周波数ωC、ωC+34.5×2πMHz、ωCで長さ100μsの3つのπパルスを、この順番で照射すると、量子ビットを状態|0>にすることができる。また角周波数ωCの弱いレーザーの量子ビットへの照射により、量子ビットの読み出しも同様にできる。
【0061】
次に、重ね合わせの状態の量子ビットの用意と、その量子ビットへの回転ゲートについて説明する。
上記の手法によって量子ビットを状態|0>に初期化したあと、それぞれ長さ100μsの3つの光パルス、すなわち角周波数ωCのπパルス、ωC+34.5×2πMHzのMパルス、ωCのπパルスを照射することにより、量子ビットを重ね合わせの状態α|0>+β|1>にできる。
【0062】
ただし、
【数9】
【0063】
このようにして用意した重ね合わせの状態の量子ビットに対して、NOTゲートの場合と同様の3つの光パルスを真ん中の光パルスだけM’パルスにして照射すると、量子ビットは、以下の式(8)の状態になる。
【数10】
【0064】
このようにして、M’パルスを真ん中に挟む3つの光パルスにより、回転ゲートが実行できる。
【0065】
このようにして、量子ビットの初期化、NOTゲート(回転角πの回転ゲート)や任意の回転角を持つ回転ゲートのような1量子ビットゲート、量子ビットの読み出しが可能になる。他の量子ビットでも同様にこれらの操作が可能である。
【0066】
次に、2つ隣接する第1の量子ビットと第2の量子ビットを考え、これらの量子ビットに関して制御NOTゲート操作が可能になることを示す。それぞれの量子ビットにつながる光ファイバーを通して、上記の手法により、第1と第2の量子ビットをいずれも状態|0>にする。次いで、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、第1の量子ビットに、角周波数ωCで長さ100μsのπパルスを照射する。その後、第2の量子ビットに対して3つπパルスを照射する上記のNOTゲートと同様の光照射を行う。ただし、3つのパルスの長さはいずれも500μsとする。そして最後に、制御装置部1108が周波数設定用音響光学効果素子1105と強度設定用音響光学効果素子1106とを制御して、第1の量子ビットに再び、角周波数ωCで長さ100μsのπパルスを照射する。このように第1の量子ビットに1つのπパルスを照射し、第2の量子ビットに3つのπパルスを照射し、最後にまた第1の量子ビットに1つのπパルスを照射する一連のレーザー照射を操作Aとする。この場合、操作Aの結果を上記の手法で読み出すと、第1の量子ビット、第2の量子ビットともにほとんど変化していないことがわかる。
【0067】
第1と第2の量子ビットをそれぞれ状態|0>、状態|1>に初期化して、操作Aを施しても、同様に2つの量子ビットは操作前後で変化しない。
【0068】
第1の量子ビットが状態|0>にある場合、操作Aの最初の第1の量子ビットへのπパルス照射により、量子ビットが状態|e>になるため、第2の量子ビットの遷移角周波数が変化する。その変化量は、量子ビットを校正するイオンのスペクトル幅および、操作に利用するπパルスのスペクトル幅より大きいと考えられる。その結果、3つのπパルスによる第2の量子ビットへのNOTゲートが有効に働かず、量子ビットは変化しない。
【0069】
第1と第2の量子ビットをそれぞれ状態|1>と状態|0>に初期化した場合は、操作Aの最初の第1の量子ビットへのπパルス照射により、第1の量子ビットが状態|e>になることはないので、第2の量子ビットへのNOTゲートが有効に働き、第2の量子ビットが状態|1>になる。したがって、操作Aの結果を読み出すと、第1の量子ビットは変化していないが、第2の量子ビットは状態|1>に反転しているのがわかる。
【0070】
第1と第2の量子ビットを状態|1>、状態|1>に初期化して、操作Aを施しても、同様に第1の量子ビットは操作前後で変化しないが、第2の量子ビットは状態|0>に反転する。
【0071】
すなわち、第1と第2の量子ビットが状態|0>と状態|1>の重ね合わせの状態(それぞれα1|0>1+β1|1>1とα2|0>2+β2|1>2)の場合は、2つの量子ビットと合わせた系の状態は以下の式(9)ように示される。
【数11】
【0072】
この状態は、操作Aの後、下記の式(10)の状態に変化させることができる。
【数12】
【0073】
このようにして、第1と第2の2つ隣接する量子ビットに関して、制御NOTゲート操作が可能になる。他の2つの隣接する量子ビットの間でも同様に制御NOTゲートが可能である。
【0074】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施形態の量子情報処理装置のブロック図。
【図2】図1の光導波路部のうちの1つの光導波路とこの光導波路に含まれる物理系集団を示す図。
【図3】図2の光導波路を複数個積層した一例を示す図。
【図4】図2の光導波路を複数個積層した一例を示す図。
【図5】NOTゲート操作について説明するための図。
【図6】制御NOTゲートについて説明するための図。
【図7】制御NOTゲートについて説明するための図。
【図8】Eu3+:Y2SiO5結晶中のサイト1にあるEu3+イオンのエネルギー状態を示す図。
【図9A】積層した光導波路部を上方から見た場合を示す図。
【図9B】図9Aの点線Aでの積層した光導波路部の断面図。
【図9C】図9Aの点線Bでの積層した光導波路部の断面図。
【図10】図9Aから図9Cに示した積層した光導波路部の作成手法を説明するための図。
【図11】実施例の量子情報処理装置のブロック図。
【図12】図11の光導入部および光出力部の詳細図。
【符号の説明】
【0076】
101・・・光源部、102・・・光制御部、103・・・光導波路部、104・・・クライオスタット、105・・・光強度測定部、106・・・光導入部、107・・・光出力部、201、301・・・光導波路、202・・・物理系集団、901・・・ガラス基板、902・・・Eu3+:Y2SiO5部、903・・・Y2SiO5結晶、904・・・SiO2膜、1001・・・フォトレジスト、1101・・・リング色素レーザー、1102・・・レーザー周波数狭窄化システム、1103・・・ビームスプリッター、1104・・・ミラー、1105・・・周波数設定用音響光学効果素子、1106・・・強度設定用音響光学効果素子、1107、1202・・・レンズ、1108・・・制御装置部、1109・・・光ファイバー、1110・・・フォトダイオード、1151・・・レーザー、1201・・・プリズム、1203・・・インバー製マウント。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれΔ0e,homo、Δ1e,homoである物理系を複数含む光導波路であって、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる光導波路を複数個有する光導波路部と、
角周波数ω0e、ω1eの光を発生する光源部と、
前記角周波数ω0e、ω1eの光の周波数と強度とを制御して制御光を生成する光制御部と、
前記制御光をそれぞれの前記光導波路に導入する光導入部と、
それぞれの前記光導波路を通過してきた通過光を取り出す光出力部と、
前記通過光の強度を測定する光強度測定部と、を具備し、
前記光導波路部に含まれる第1光導波路および第2光導波路で該第1光導波路と該第2光導波路は互いに隣接していて、該第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には該第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、該第1物理系が状態|e>にある場合には該第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、該第1光導波路と該第2光導波路との距離は、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homoおよびΔ1e,homoよりも大きくなる距離であり、かつ、該第1光導波路を通過する光が該第2物理系の状態を変化させない距離であることを特徴とする量子情報処理装置。
【請求項2】
前記光導波路部において、隣接する光導波路は、該光導波路を通過する光の進行方向が互いに平行にならないように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の量子情報処理装置。
【請求項3】
前記光導波路が酸化物結晶であり、前記物理系が希土類イオンであり、状態|0>および状態|1>が電子基底状態にある希土類イオンの核スピンの状態であり、状態|e>が電子励起状態であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子情報処理装置。
【請求項4】
3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれΔ0e,homo、Δ1e,homoである物理系を複数含む光導波路であって、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる光導波路を複数個有する光導波路部を用意し、
角周波数ω0e、ω1eの光を発生し、
前記角周波数ω0e、ω1eの光の周波数と強度とを制御して制御光を生成し、
前記制御光をそれぞれの前記光導波路に導入し、
それぞれの前記光導波路を通過してきた通過光を取り出し、
前記通過光の強度を測定し、
前記光導波路部に含まれる第1光導波路および第2光導波路で該第1光導波路と該第2光導波路は互いに隣接していて、該第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には該第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、該第1物理系が状態|e>にある場合には該第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、該第1光導波路と該第2光導波路との距離は、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homoおよびΔ1e,homoよりも大きくなる距離であり、かつ、該第1光導波路を通過する光が該第2物理系の状態を変化させない距離であることを特徴とする量子情報処理方法。
【請求項5】
前記光導波路部において、隣接する光導波路は、該光導波路を通過する光の進行方向が互いに平行にならないように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の量子情報処理方法。
【請求項6】
前記光導波路が酸化物結晶であり、前記物理系が希土類イオンであり、状態|0>および状態|1>が電子基底状態にある希土類イオンの核スピンの状態であり、状態|e>が電子励起状態であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の量子情報処理方法。
【請求項1】
3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれΔ0e,homo、Δ1e,homoである物理系を複数含む光導波路であって、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる光導波路を複数個有する光導波路部と、
角周波数ω0e、ω1eの光を発生する光源部と、
前記角周波数ω0e、ω1eの光の周波数と強度とを制御して制御光を生成する光制御部と、
前記制御光をそれぞれの前記光導波路に導入する光導入部と、
それぞれの前記光導波路を通過してきた通過光を取り出す光出力部と、
前記通過光の強度を測定する光強度測定部と、を具備し、
前記光導波路部に含まれる第1光導波路および第2光導波路で該第1光導波路と該第2光導波路は互いに隣接していて、該第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には該第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、該第1物理系が状態|e>にある場合には該第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、該第1光導波路と該第2光導波路との距離は、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homoおよびΔ1e,homoよりも大きくなる距離であり、かつ、該第1光導波路を通過する光が該第2物理系の状態を変化させない距離であることを特徴とする量子情報処理装置。
【請求項2】
前記光導波路部において、隣接する光導波路は、該光導波路を通過する光の進行方向が互いに平行にならないように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の量子情報処理装置。
【請求項3】
前記光導波路が酸化物結晶であり、前記物理系が希土類イオンであり、状態|0>および状態|1>が電子基底状態にある希土類イオンの核スピンの状態であり、状態|e>が電子励起状態であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の量子情報処理装置。
【請求項4】
3つの異なるエネルギー状態|0>、|1>、|e>を有し、かつ|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の均一幅がそれぞれΔ0e,homo、Δ1e,homoである物理系を複数含む光導波路であって、|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移に共鳴する光を通過させる光導波路を複数個有する光導波路部を用意し、
角周波数ω0e、ω1eの光を発生し、
前記角周波数ω0e、ω1eの光の周波数と強度とを制御して制御光を生成し、
前記制御光をそれぞれの前記光導波路に導入し、
それぞれの前記光導波路を通過してきた通過光を取り出し、
前記通過光の強度を測定し、
前記光導波路部に含まれる第1光導波路および第2光導波路で該第1光導波路と該第2光導波路は互いに隣接していて、該第1光導波路中の第1物理系が状態|0>または状態|1>にある場合には該第2光導波路中の第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0eおよびω1eであり、該第1物理系が状態|e>にある場合には該第2物理系の|0>−|e>間遷移および|1>−|e>間遷移の遷移角周波数がそれぞれω0e+Δωoe、ω1e+Δω1eであり、該第1光導波路と該第2光導波路との距離は、ΔωoeおよびΔω1eがいずれもΔ0e,homoおよびΔ1e,homoよりも大きくなる距離であり、かつ、該第1光導波路を通過する光が該第2物理系の状態を変化させない距離であることを特徴とする量子情報処理方法。
【請求項5】
前記光導波路部において、隣接する光導波路は、該光導波路を通過する光の進行方向が互いに平行にならないように配置されていることを特徴とする請求項4に記載の量子情報処理方法。
【請求項6】
前記光導波路が酸化物結晶であり、前記物理系が希土類イオンであり、状態|0>および状態|1>が電子基底状態にある希土類イオンの核スピンの状態であり、状態|e>が電子励起状態であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の量子情報処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−54937(P2010−54937A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221468(P2008−221468)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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