説明

金型設計システム及び金型設計方法

【課題】製品CADデータ通りの成形品を製造可能な修正金型を、短時間かつ低コストに得ることができる金型設計システム及び金型設計方法を提供する。
【解決手段】製品CADデータから設計した金型により成形品を得る工程(S1)と、金型で製造された成形品の形状を測定し測定データを得る工程(S2)と、測定データから加工データの加工箇所をデータ上で削除し、加工部削除測定データを得る工程(S3)と、加工部削除測定データと製品CADデータを比較し、加工部削除測定データの歪みを反転し反転データを得る工程(S4)と、反転データから修正金型を設計する工程(S5)とを備えた構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CADを用いた金型設計システム及び金型設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、金型鋳造や射出成形やプレス成形などに用いられる金型は、製品の設計形状(製品CADデータ)に基づいて製造される。しかし、製品の設計形状に基づいて製造された金型を用いても、材料収縮やスプリングバックなどにより成形品に歪みが生じて、成形品の形状が製品の設計形状と一致しなくなる場合がある。この場合には、成形品の歪みを見込んだ金型修正が行われる。
この種の金型修正技術として、従来、製品の設計形状である製品CADデータから金型CADデータを作成し、この金型CADデータに基づいて金型を作成し、この金型で成形品を成形し、成形品の形状を測定して成形品測定データを得たうえで、成形品測定データと製品CADデータとを比較し、両者の差に基づいて金型CADデータを修正する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−168424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では、金型で成形した成形品に、例えば金型鋳造における鋳造素材の湯口跡や押し出しピン跡などのように、後工程の機械加工で除去される部分が含まれる場合には、この除去部分を含んだ成形品測定データと製品CADデータとの差が非常に大きくなってしまうため、成形品測定データと製品CADデータとの差に基づいて金型CADデータを修正することが困難となるという問題がある。
この問題は、機械加工後の成形品の形状を測定して成形品測定データを得たうえで、成形品測定データと製品CADデータとを比較し、両者の差に基づいて金型CADデータを修正することで解決できるが、この場合には、成形品を一旦機械加工しなければならず、機械加工のための加工コストや加工時間がかかるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、製品CADデータ通りの成形品を製造可能な修正金型を、短時間かつ低コストに得ることができる金型設計システム及び金型設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、製品CADデータから設計した金型により成形品を得て、金型で製造された成形品の形状を測定し測定データを得て、測定データから加工データの加工箇所をデータ上で削除し、加工部削除測定データを得て、加工部削除測定データと製品CADデータを比較し、加工部削除測定データの歪みを反転し反転データを得て、反転データから修正金型を設計することを特徴とする。
また、本発明は、製品CADデータから設計した金型により成形品を得る工程と、金型で製造された成形品の形状を測定し測定データを得る工程と、測定データから加工データの加工箇所をデータ上で削除し、加工部削除測定データを得る工程と、加工部削除測定データと製品CADデータを比較し、加工部削除測定データの歪みを反転し反転データを得る工程と、反転データから修正金型を設計する工程とを備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明では、成形品の測定データから加工データの加工箇所をデータ上で削除し、加工部削除測定データを得るので、機械加工で除去される部分の情報を含まない、成形品の歪みの情報を含んだ、加工部削除測定データを得ることができる。
また、加工部削除測定データと製品CADデータとを比較し、加工部削除測定データの歪みを反転し反転データを得るため、機械加工で除去される部分の情報を反転しないことから、当該情報を成形品の歪みから除外できる。
そして、この反転データから修正金型を設計するため、従来のように成形品を実際に機械加工した後に当該成形品の形状を測定するようなことをしなくても、成形品の製品CADデータに対する歪みを反映した修正金型を簡易に設計できる。
これにより、製品CADデータ通りの成形品を製造可能な修正金型を、短時間かつ低コストに得ることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、加工部削除測定データと製品CADデータとを比較し、加工部削除測定データの歪みを反転し反転データを得て、この反転データを用いて製品CADデータを変形し変形後の製品CADデータから修正金型を設計するため、従来のように成形品を実際に機械加工した後に当該成形品の形状を測定するようなことをしなくても、成形品の製品CADデータに対する歪みを反映した修正金型を簡易に設計できる。
これにより、製品CADデータ通りの成形品を製造可能な修正金型を、短時間かつ低コストに得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係るミッションケース鋳造用金型の製造手順を示す図である。
【図2】ミッションケース鋳造素材のエンジン取り付け面近傍の測定データを示す斜視図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】加工部削除測定データにおける図2相当図である。
【図5】加工部削除測定データにおける図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下の説明では、本発明に係る一態様として、自動車用トランスミッションのミッションケースをダイカスト鋳造するためのミッションケース鋳造用金型の設計手順について説明する。
【0011】
図1は、ミッションケース鋳造用金型の設計手順を示す図である。
<ステップS1>
ミッションケース鋳造用金型により成形品を得る。
この際の金型は以下の手順で作成される。
まずミッションケースの製品設計形状を示す製品CADデータに基づいて金型CADデータを作成し、金型CADデータからミッションケース鋳造用金型を加工するための数値制御プログラムを作成する。ついで数値制御プログラムにより工作機械を動作させて予め準備した金型用材料を機械加工することでミッションケース鋳造用金型を製造する。この金型CADデータは、ミッションケースの材料であるアルミ合金の収縮と金型の熱膨張などを見込んで、例えば所定の割合で製品CADデータに基づいて拡大して作成されると共に、鋳造後の機械加工に用いるための、取り付け面やボルト穴などを加工する加工データを参照して作成される。
そして、このミッションケース鋳造用金型を用いて鋳造を行い、成形品であるミッションケース鋳造素材を得る。
【0012】
<ステップS2>
次に、ステップS1で得られたミッションケース鋳造素材(成形品)の形状を測定することにより測定データを得る。
この際の形状測定は、例えば3次元形状測定装置(不図示)を用いて行われ、測定データは点群データとして得られる。
図2は、測定データ(点群データ)2の一例であり、ミッションケースのエンジン取り付け面近傍に対応している。この測定データ2は、エンジン取り付け面相当部3(図3において、製品CADデータ1のエンジン取り付け面に対応する。)と、内壁部4と、外壁部17と、ボルト孔部7とを含み、エンジン取り付け面相当部3には、押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9が存在する。
この測定データ2を、III−III断面で展開すると、図3に示すように、測定データ2が実線で描かれ、押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9あたりで急激な起伏を有する凹凸形状が出現する。この図3で、鎖線は、製品CADデータ1を示し、破線は、製品CADデータ1を基準に測定データ2を反転させた後述する反転データ16を示している。
【0013】
<ステップS3>
本ステップでは、測定データ2から機械加工に必要な加工データの加工箇所をデータ上で削除し、加工部削除測定データ10(図4参照。)を得る。
この実施の形態では、押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9を含むエンジン取り付け面相当部3の全域(図3において、製品CADデータ1のエンジン取り付け面21より上方に対応する。)が、上述の加工データの加工箇所に対応し、これら加工データの加工箇所がデータ上で削除される。
【0014】
具体的には、ミッションケース鋳造素材の測定データ2と、加工データ(不図示)とを位置合わせする。すなわち、測定データ2のクランプ位置およびノック穴が、加工データ(不図示)のクランプ位置およびノック穴と一致するように、測定データ2を加工データに重ね合わせるように移動させる。
次に、測定データ2の点群の各点について、各点が加工データ(不図示)に含まれるか否かを判定し、各点が加工データ(不図示)に含まれる場合には、当該点を測定データ2から削除する。これにより、ミッションケース鋳造素材の測定データ2から、加工データ(不図示)の加工箇所が削除され、図4および図5に示すように、加工部削除測定データ10(図5では実線の部分のみ。)が得られる。
【0015】
図4は、図2に対応し、図5は、図3に対応する。
図2、図3において、測定データ2の内壁部4は、製品CADデータ1の内側に位置している。測定データ2の内壁部4と製品CADデータ1の内壁部20とは近接しており両者の距離に急激な変化は無い。測定データ2のエンジン取り付け面相当部3は、製品CADデータ1の外側に位置している。測定データ2のエンジン取り付け面相当部3には、押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9が存在し凹凸が激しいのに対し、製品CADデータ1のエンジン取り付け面21は直線状であり、両者の距離は急激に変化している。
これは、ミッションケース鋳造素材のエンジン取り付け面相当部は、製品CADデータ1とは形状が違い、製品CADデータ1には無い押し出しピン座面跡、湯口跡、および加工代が存在しているためである。
これに対し、図4、図5では、加工部削除測定データ10のエンジン取り付け面相当位置12に、内壁部13、外壁部18およびボルト孔部14のそれぞれの輪郭以外に点群(データ)が存在しない。測定データ2のエンジン取り付け面相当部3における押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9の点が、加工部削除測定データ10を作成する際に、測定データ2から削除されるからである。
【0016】
<ステップS4>
次に、加工部削除測定データ10と製品CADデータ1とを比較し、加工部削除測定データ10の歪みを反転し反転データ15(図5参照)を得る。
具体的には、まず、加工部削除測定データ10と製品CADデータ1とを位置合わせした後に、加工部削除測定データ10の各点群から、製品CADデータ1の面に対して垂線を伸ばして交点を求める。次に、加工部削除測定データ10の各点群を、前記各交点に対して点対称の位置に移動させる。これにより、図5に示すように、加工部削除測定データ10の各点が製品CADデータ1に対して反転された反転データ15(破線示)が得られる。このとき、エンジン取り付け面相当位置12には点群が存在しないので、ここには反転データ15が存在しない。
【0017】
ところで、上述したように、測定データ2のエンジン取り付け面相当部3には、製品CADデータ1には無い押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9が存在する。したがって、図3に示すように、測定データ2(実線示)を反転(破線示)させて反転データ16を作成した場合、反転データ16には、押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9が反転され、急激な起伏を有する凹凸形状が含まれる。
これに対し、本実施の形態では、ステップS3にて、ミッションケース鋳造素材の測定データ2から加工データ(不図示)の加工箇所を削除した加工部削除測定データ10を得た後に、加工部削除測定データ10の歪みを反転し反転データ15を得るため、反転データ15には、押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9などに起因した急激な起伏を有する凹凸形状が含まれない。
【0018】
<ステップS5>
次に、反転データ15に基づいて修正金型を設計する。
具体的には、まず、反転データ15を拡大して変形目標データを作成する。この変形目標データは、製品CADデータ1から金型CADデータを作成する際の拡大割合(ステップ1参照。)と同じ割合で拡大して作成する。
次に、この変形目標データに向かって金型CADデータを変形させ修正金型CADデータを得る。変形目標データには、押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9などに起因した急激な起伏を有する凹凸形状が含まれないので、金型CADデータを正常に変形でき、ミッションケース鋳造素材の製品CADデータ1に対する歪みだけを正確に反映した修正金型を簡易に設計できる。
【0019】
以上の説明から明らかなように、本実施形態では、ミッションケース鋳造素材の測定データ2から、加工データの加工箇所である押し出しピン座面跡部5、湯口跡部6、および加工代部9などをデータ上で削除し、加工部削除測定データ10を得るので、機械加工で除去される部分の情報を含まない、ミッションケース鋳造素材の歪みの情報を含んだ、加工部削除測定データ10を得ることができる。
また、加工部削除測定データ10と製品CADデータ1とを比較し、加工部削除測定データ10の歪みを反転し反転データ15を得るため、機械加工で除去される部分の情報を反転しないことから、当該情報をミッションケース鋳造素材の歪みから除外できる。
そして、この反転データ15から修正金型を設計するため、従来のようにミッションケース鋳造素材を実際に機械加工した後に当該ミッションケース鋳造素材の形状を測定するようなことをしなくても、ミッションケース鋳造素材の製品CADデータ1に対する歪みを反映した修正金型を簡易に設計できる。
これにより、製品CADデータ1通りのミッションケース鋳造素材を製造可能な修正金型を、短時間かつ低コストに得ることができる。
【符号の説明】
【0020】
1 製品CADデータ
2 測定データ
5 ピン座面跡部(加工箇所)
6 湯口跡部(加工箇所)
9 加工代部(加工箇所)
10 加工部削除測定データ
15 反転データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品CADデータから設計した金型により成形品を得て、
金型で製造された成形品の形状を測定し測定データを得て、
測定データから加工データの加工箇所をデータ上で削除し、加工部削除測定データを得て、
加工部削除測定データと製品CADデータを比較し、加工部削除測定データの歪みを反転し反転データを得て、
反転データから修正金型を設計する
ことを特徴とする金型設計システム。
【請求項2】
製品CADデータから設計した金型により成形品を得る工程と、
金型で製造された成形品の形状を測定し測定データを得る工程と、
測定データから加工データの加工箇所をデータ上で削除し、加工部削除測定データを得る工程と、
加工部削除測定データと製品CADデータを比較し、加工部削除測定データの歪みを反転し反転データを得る工程と、
反転データから修正金型を設計する工程と
を備えたことを特徴とする金型設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−153044(P2012−153044A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14871(P2011−14871)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】