説明

金型部品

【課題】耐久性を向上させ表面に形成されるパターンの切削精度を向上させることができる金型部品を提供する。
【解決手段】樹脂の射出成形に用いられる金型部品2であって、金型のキャビティに面するキャビティ面を有する表面側金属層4と、樹脂層6と、裏面側金属層8とがこの順に一体的に構成され、前記表面側金属層のキャビティ面には、凹凸構造であるパターン形状が形成され、前記樹脂層は、マトリクス樹脂20〜80重量%と、繊維状強化材料80〜20重量%とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の射出成形または射出圧縮成形に用いられる金型部品に関し、特に、耐久性に優れ、かつキャビティに面する側の表面に高精度のパターンが形成された金型部品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、例えば、パーソナルコンピュータ、薄型テレビジョン、車載用パネル、携帯情報端末などに広く用いられている。液晶表示装置は、画像を表示する液晶パネルと、この液晶パネルを背面から照射するバックライト装置とを備えて構成される。バックライト装置としては、導光板の側縁に光源が配置されるサイドライト方式と、拡散板の背部に光源が配置される直下方式とが実用化されている。これらのいずれの方式においても、発光面となる光出射面では、液晶パネルを均一に照射するために、輝度むらを低減することが求められている。このため、従来の導光板や光拡散板等の樹脂成形品では、例えばその光出射面に所定形状の微細な光学パターンが形成されることがある。
【0003】
前記樹脂成形品は、例えば、金型部品を用いて射出成形や射出圧縮成形により形成される。このため、金型部品のキャビティ側の表面(キャビティ面)には、前記光学パターンを転写した凹凸構造を有するパターン形状が形成されている。このような金型部品としては、前記パターン形状を有する金属表面層、樹脂層及び金属裏打層を備えるスタンパーが用いられている(特許文献1参照)。また、他の金型部品としては、キャビティを構成する型の壁面に樹脂製の断熱層を被覆し、断熱層上の平面部に、表面に微細加工が施された金属層を密着させた金型が用いられている(特許文献2参照)。このような樹脂層を有する金型部品を用いることにより、金型キャビティ内に射出した樹脂の急速な温度低下を防止でき、このため成形品表面にパターン形状を高精度に転写できる利点がある。
【特許文献1】特開2000−135718号
【特許文献2】特開平10−55712号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、射出成形等を複数回繰り返すと、金型部品の樹脂層と金属層との間で剥がれが生じるという問題があり、金型部品の耐久性が必ずしも十分でなかった。また、前記金型部品において、樹脂層上に設けられた金属層の表面に、所定のパターン形状を加工(例えば、切削加工や研削放電など)する際に、パターン形状を高精度に加工できないという問題があった、
本発明の目的は、耐久性に優れ、かつキャビティに面する側の表面に高精度のパターン形状が形成された金型部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の金型部品は、樹脂の射出成形に用いられる金型部品であって、金型のキャビティに面するキャビティ面を有する表面側金属層、樹脂層及び裏面側金属層がこの順に一体的に構成され、前記表面側金属層のキャビティ面には、凹凸構造であるパターン形状が形成され、前記樹脂層は、マトリクス樹脂20〜80重量%と、繊維状強化材料80〜20重量%とからなることを特徴とする。本発明によれば、金型部品を構成する樹脂層に所定量の繊維状強化材料を配合することにより、耐久性に優れ、かつキャビティに面する側の表面に高精度のパターン形状が形成された金型部品を提供できる。ここで、金型部品とは、金型内に配置される平面視矩形板状のスタンパや、金型ブロックとすることができる。
【0006】
また、本発明において、各繊維状強化材料は、その長さをA(mm)、その直径をB(mm)として、(A/B)の平均値が10以上の関係を満たすことが好ましい。このような構成によれば、樹脂層と金属層を接着させる際のハンドリング性を向上できるとともに、表面側金属層に隣接する樹脂層の弾性率が増加することにより、パターンの加工精度をより一層向上できる。
【0007】
また、本発明において、前記樹脂層は、複数の層を備え、前記複数の層のうち少なくとも前記表面側金属層に隣接する層は前記繊維状強化材料を含むこととしてもよい。このような構成によれば、繊維状強化材料の使用量が必要以上に多くなることを抑えることができる。
【0008】
この際、前記複数の層は、前記表面側金属層に隣接する第1樹脂層と、前記第1樹脂層および前記裏面側金属層に隣接する第2樹脂層とを備え、前記第1樹脂層は、前記繊維状強化材料を含み、前記第2樹脂層は、前記第1樹脂層と前記裏面側金属層とを接着する接着層とすることができる。このような構成によれば、樹脂層と裏面側金属層との接着力をより一層向上できる。
【0009】
また、本発明において、前記キャビティ面の対角線の長さが500mm以上で、かつ厚みが5mm以下の平面視矩形状の板状部材であることが好ましい。本発明によれば、例えば、薄い樹脂層と金属層を接着して金型部品を製造する場合において、当該金型部品が大型であったとしても接着時のハンドリング性を向上できる。
【0010】
また、本発明において、前記表面側金属層の厚みをX(mm)、前記樹脂層の厚みをY(mm)として、0.1≦(X/Y)≦10.0の関係を満たすことが好ましい。このような構成によれば、成形品への転写性と成形品のサイクルタイム短縮のバランスをとることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金型部品によれば、耐久性に優れ、かつキャビティに面する側の表面にパターン形状を高精度に形成できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る金型部品について説明する。図1は、樹脂の射出成形または射出圧縮成形に用いられる金型部品の断面図である。
【0013】
図1に示すように、金型部品2は、表面側金属層4、樹脂層6及び裏面側金属層8を有し、これらの各層が一体的に形成されている。金型部品2は、平面視矩形状の板状部材であって、キャビティ面の500mm以上の対角線の長さを有し、かつ5mm以下の厚みである。
【0014】
表面側金属層4は、第1金属層40と、第1金属層40の裏面側に設けられた第2金属層42とを備えている。第1金属層40の表面であるキャビティ面には、パターン40Aが形成されている。パターン形状40Aは、拡散板、導光板などの光学部品等の樹脂成形品の表面に転写させるための凹凸構造である。前記樹脂成形品の表面には、パターン形状40Aの転写によって、入射光の拡散や出射光の方向制御を行うための光学パターンが形成される。なお、パターン形状40Aは、放電加工機および切削加工機等の公知の加工機を用いて、その表面に直接加工してもよいし、電鋳などで形成した金属層を他の金属層上に接着して形成してもよい。
【0015】
なお、第1金属層40の厚みは、パターン形状40Aの深さより厚ければ特に限定されないが、0.01μm〜5000μm(5mm)であることが好ましい。
【0016】
また、第1金属層40の表面(すなわち、パターン形状40Aの表面)には、焼き入れ処理を施すことができ、また、クロム、チタン、ダイヤモンドなど公知のコーティング処理を施すことができる。
【0017】
第1金属層40は、アモルファス構造を有するメッキであることが好ましい。メッキの材料は、非鉄金属、より好ましくはアルミニウム、ニッケル、又は銅の中の1種以上を含む材料を採用することができ、さらに好ましくはニッケル(合金を含む)を採用することができ、特に好ましくはニッケル−リンメッキを採用することができる。なお、ニッケル−リンメッキにおいて、リンの含有割合は、通常5〜20重量%が好ましく、10〜15重量%とすることがさらに好ましい。リン含有割合を上記範囲することにより、パターンの加工がより一層容易となる。
【0018】
第1金属層40は、第2金属第層42の上に、電着もしくは無電解メッキ等のウェットプロセスまたは蒸着等のドライプロセスにより設けたものであってもよい。
【0019】
第2金属層42は、第1金属層40と樹脂層6との接着性を向上させるために用いる層である。ただし、第1金属層40と樹脂層6との接着性が十分な場合には、第2金属層42を省略することができる。
【0020】
第2金属層42には、アルミニウム、ニッケル、クロムおよび銅の中の1種以上の金属を含む材料が用いられることが好ましい。第2金属層42は、スパッタリング等によって樹脂層6の表面に形成された層としてもよいし、金属箔としてもよい。第2金属層42が金属箔である場合には、樹脂層6の表面にプレスやラミネート等の手段によって形成することができる。なお、第2金属層42の厚みは特に限定されない。
【0021】
樹脂層6は、第2金属層42に隣接する第1樹脂層60と、第1樹脂層60および裏面側金属層80に隣接する第2樹脂層62とを備えている。
【0022】
第1樹脂層60は、本実施形態では、断熱性の機能と、第1金属層40の表面を加工する際の加工精度を高める機能とを備える層である。第1樹脂層60は、その熱重量分析における5%減量温度が250℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。5%減量温度が250℃未満であると、樹脂の物性が変化し金型部品の性能に影響を与えるおそれがある。ここで、5%減量温度は、JIS K 7120において、乾燥空気を流入ガスとし、昇温速度10℃/minで測定することができる。
【0023】
また、第1樹脂層60は、マトリクス樹脂と、繊維状強化材料とからなる。前記マトリクス樹脂としては、主鎖に芳香環を有する耐熱性重合体であり、有機溶剤に溶解する各種耐熱性重合体や、各種ポリイミド、エポキシ樹脂等を挙げることができる。耐熱性重合体としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンサルファイド、およびポリベンゾイミダゾール等を挙げることができる。また、ポリイミドとしては、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸無水物とを原料とする芳香族ポリイミドが、長期耐熱劣化性にも優れ、かつ機械的強度が高いことから好ましく、またビスマレイミドとトリアジン環を持つ物質及び/またエポキシ基を持つ物質などとを原料とする、熱硬化型ポリイミドが、機械的強度が高く、かつ加工性に優れる点で好ましい。
【0024】
前記繊維状強化材料としては、ガラス繊維、カーボン繊維、ケブラー繊維、および金属繊維等を使用することができ、入手の容易さ、樹脂との混合の容易さの点で、ガラス繊維およびカーボン繊維が好ましい。また、各繊維状材料の形状は、その長さをA(mm)、その直径をB(mm)として、(A/B)の平均値が10以上の関係を満たすことが好ましい。このような構成によれば、樹脂層と金属層を接着させる際のハンドリング性を向上できるとともに、第1樹脂層60の弾性率が増加することにより、パターン形状の加工精度をより一層向上できる。なお、繊維状強化材料としては、当該繊維状強化材料をマット状に固めたもの、布のように織ったもの等とすることができる。
【0025】
第2樹脂層62は、第1樹脂層60と裏面側金属層8とを接着する接着層として主に機能する層であるが、断熱層としての機能も有する。ただし、第1樹脂層60と裏面側金属層8との接着性が十分な場合には、第2樹脂層62を省略することができる。第2樹脂層62には、金属との接着性が良好で、かつ耐熱性に優れる樹脂を用いることが好ましい。第2樹脂層62に用いる樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、およびポリエステル樹脂等を挙げることができる。この中でも、樹脂としては、接着性と耐熱性のバランスが取れている点で、エポキシ樹脂が好ましい。第2樹脂層62としてエポキシ樹脂を用いる場合には、硬化剤と組み合わせたエポキシ樹脂硬化物として使用することが好ましく、また、第1樹脂層60に配合された繊維状強化材料その他の充填剤を適量配合してもよい。
【0026】
樹脂層6における前記繊維状強化材料の含有率は、第1樹脂層60及び第2樹脂層62のマトリクス樹脂全体の重量に対して20〜80重量%である。換言すれば、第1樹脂層60及び第2樹脂層62を含む樹脂層6全体において、20〜80重量%のマトリクス樹脂と、80〜20重量%の繊維状強化材料とを含有する。なお、マトリクス樹脂と前記繊維状強化材料とを合わせて100重量%となる。前記含有率を上記好適な範囲とすることにより、耐久性に優れ、かつキャビティに面する側の表面に高精度のパターン形状を形成できる。
【0027】
第1樹脂層60及び第2樹脂層62を含む樹脂層6は、その厚みが1μm〜1000μmであることが好ましく、10μm〜600μmであることが更に好ましく、30μm〜300μmであることが最も好ましい。
【0028】
樹脂層6の厚みが1μm未満の場合(即ち、断熱層が薄い場合)には、樹脂層6が無い場合と同様に、射出された樹脂が第1金属層40の表面に接した部分での冷却効率が高いため、パターンの転写性が低下したり成形品にウェルドラインが生じたりする点で好ましくない。また、樹脂層6の厚みが1000μmを超える場合(即ち、断熱層が厚い場合)には、射出された樹脂が金属第一層40の表面に接した部分での冷却効率が極端に悪くなり、成形サイクルタイムが長くなったり、成形品に反りが生じたり、成形品の平面性が悪くなる等の点で好ましくない。このため、転写性と成形サイクルタイムとを向上できる点で、樹脂層6の厚みを上記好適な範囲とすることが好ましい。
【0029】
裏面側金属層8には、通常の炭素鋼、ステンレス鋼、あるいはこれらをベースにした公知の合金類を用いることができ、例えば鉄、鋼、銅、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、モリブデン、タンタル、タングステン等の金属や、これらの合金であるプリハードン鋼、析出硬化鋼、およびステンレス鋼、ベリリウム銅等は、好ましい材質として用いることができる。
【0030】
裏面側金属層8を形成するための被加工材には、ピンホール、地傷、偏析などがない真空溶解、真空鋳造などにより製造されたものを採用することが好ましい。
【0031】
ここでステンレス鋼は、寿命、耐食性に優れ、フェライト系ステンレス鋼は、応力腐食割れに強く、オーステナイト系ステンレス鋼は、耐食性が特に良いため、好適に用いられる。また、炭素鋼は、比較的熱伝導率が高く、メッキとの密着性が良く、入手が容易であり、低価格であることから好適に用いられる。
【0032】
次に、本実施の形態に係る金型部品の製造方法について説明する。
【0033】
まず、複数の繊維強化材料を含む第1樹脂層60を形成する。次に、第1樹脂層60の表面に第2金属層42を形成し、第2金属層付き断熱部材を得る。
【0034】
次に、裏面側金属層(金属基材)8にワニスを塗布し加熱乾燥することにより、裏面側金属層8上に第2樹脂層62を形成して、第2樹脂層付き金属基材を得る。
【0035】
次に、第2樹脂層付き金属基材と第2金属層付き断熱部材とを、各樹脂層が接するように重ね加熱加圧することにより断熱層付き金型部材(樹脂層付き金型部材)を得る。断熱層付き金型部材は、第1樹脂層60と第2樹脂層62とからなる樹脂層6を備え、この樹脂層6には、樹脂層全体に対して前記繊維状強化材料が20〜80重量%含まれている。
【0036】
次に断熱層付き金型部材の第2金属層42の表面に第1金属層40を形成し、第1金属層40の表面に所定のパターン形状を形成し、パターン形状を有する断熱層付き金型部品2を得る。
【0037】
本実施の形態に係る金型部品2は、熱可塑性樹脂や反応硬化型樹脂などの樹脂を用いた樹脂成形品を製造するために用いられ、例えば樹脂成形品である光学部品を射出成形または射出圧縮成形する際にパターン形状を転写して、微細な光学パターンを該成形品表面に形成するためのもの(例えばスタンパーや金型ブロック等)である。
【0038】
図2は、本実施の形態に係る金型部品を備える金型の構成を示す図である。図2に示すように、金型10は、固定側金型12と可動側金型14とを備えている。固定側金型12における可動側金型14と対向する面には、光拡散板等の樹脂成形品16の光学平面に所定の形状を転写するためのスタンパー(金型部品)2が配設されている。また、可動側金型14には、固定側金型12に対向する面にキャビティ18が形成されており、キャビティ18に溶融樹脂20を供給するための、バルブゲートタイプのホットランナーノズル22を複数有するホットランナー24が備えられている。なお、本実施形態では、金型にホットランナーを用いているが、コールドランナーを用いてもよい。また、本実施形態では、ゲートをキャビティ面内に配置したが、キャビティ側面に配置してもよい。これらの場合において、ゲートの数、ゲート位置は特に制限されない。
【0039】
この金型を用いて樹脂成形品16を製造する場合には、まず、図示しない型締装置を用いて、所定の圧力で金型の型締めを行なう。この時点では、ホットランナーノズル22は、図示しないバルブピンにより閉じている。次に、ホットランナーノズル22のバルブピンを後退させて、ホットランナーノズル22を開き、ホットランナーノズル22よりキャビティ18内に溶融樹脂20を射出する。
【0040】
キャビティ18内に所定量の溶融樹脂20が射出された後に、バルブピンを前進させてホットランナーノズル22を閉じる。その後、金型10内で溶融樹脂を冷却して樹脂成形品16を取り出す。このようにして製造された樹脂成形品16の表面には、スタンパー2のパターン形状が良好に転写されている。また、このような成形品は、平面性が良好であって、かつ成形品にはウェルドラインや反り等もなく良品である。
【0041】
なお、この金型10においては、固定側金型12の可動側金型14と対向する面にスタンパー2が配設されているが、可動側金型14の固定側金型12と対向する面にスタンパー2を配設しても良いし、固定側金型12と可動側金型14の両方にスタンパー2を配設しても良い。
【0042】
また、固定側金型12の可動側金型14と対向する面に直接、樹脂層6及び第1金属層4を形成しても良く、可動側金型14の固定側金型12と対向する面に直接、樹脂層6及び第1金属層4を形成しても良い。この場合には、樹脂成形品の一方の面に転写性等の良好なパターンを有する成形品を得ることができる。更に、固定側金型12の可動側金型14と対向する面及び可動側金型14の固定側金型12と対向する面に直接、樹脂層6及び第1金属層4を形成しても良い。この場合には、樹脂成形品の両面に転写性等の良好なパターンを有する成形品を得ることができる。また、このような成形品は、平面性が良好であって、かつ成形品にはウェルドラインや反り等もなく良品である。なお、本欄の態様の場合には、前記実施形態における裏面側金属層8は金型本体の一部を構成している。
【0043】
なお、前記実施の形態において、表面側金属層4を2つの層により形成したが、1層のみの構成としてもよいし、3層以上の構成としてもよい。また、前記実施の形態において、樹脂層6を2つの層により形成したが、1層のみの構成としてもよいし、3層以上の構成としてもよい。
【0044】
また、前記実施の形態において、表面側金属層4の表面に形成されるパターン形状40Aの形状や寸法は特に限定されない。パターン形状40Aとしては、例えば、短手方向断面が多角形状(三角形、五角形など)または曲線(円弧、楕円弧、放物線弧など)の線状部(凸部または凹部)が略平行に隣接または間隔を開けて複数並んだ条列構造と、複数の角錐(三角錐、四角錐など)や角錐台などの凹状または凸状の部分が隣接または間隔をあけて配置された凹凸構造とを挙げることができる。
【0045】
また、前記実施の形態において、第1樹脂層60にのみ繊維状強化材料を含有させたが、第2樹脂層62にも繊維状強化材料を含有させてもよい。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
以下、本発明の実施例1に係る金型部品(断熱層付き金型部品)について説明する。
【0047】
(1)アルミ層付き断熱部材の作製
無水条件下でピロメリット酸ジ無水物50部と4,4’−オキシジアニリン50部をN,N’−ジメチルホルムアミド733部に溶解し、30℃以下になるように冷却しながら12時間攪拌反応させ、ポリイミド前駆体溶液を得た。
【0048】
この溶液に繊維状強化材料であるガラスカットファイバー(日東紡社製「SS 05C-404」、平均カット長0.1mm フィラメント径0.01mm、長さ/直径=10)を、前記ポリイミド前駆体溶液全体に対し3.6%投入した。即ち、前記溶液の固形分に対する比率(wt%)が30重量%となるように繊維状強化材料を投入した(表1参照)。
【0049】
次に、このガラスカットファイバー含有溶液を1mmの厚みにコーティングして、160℃で1時間乾燥することによりガラスカットファイバー含有ポリイミド前駆体フィルムを得た。このフィルムを真空プレスにて200℃で30分、300℃で30分、350℃で1時間プレスし、イミド化を完了することにより、厚み100μmのガラスカットファイバー含有ポリイミドフィルムを得た。ここで、大気雰囲気中の600℃加熱炉に前記ガラスカットファイバー含有ポリイミドフィルムを入れて灰化したとことろ、ガラスカットファイバー含有率は29.5%であった(表2参照)。また、ガラスカットファイバーを顕微鏡で観察したところ、長さ/直径の平均値は10であった(表2参照)。このガラスカットファイバー含有ポリイミドフィルムの片面に20μmの厚さでアルミニウムをスパッタリングしてアルミ層を形成して、アルミ層付き断熱部材を得た。
【0050】
(2)エポキシ樹脂ワニスの調製
ジフェニルエーテル系エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「YX4000HK」)50部と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「828」)50部に、硬化剤としてジシアンジアミド2部、溶剤としてジメチルホルムアミド15部とプロピレングリコールモノメチルエチルエーテル15部、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾール0.1部を配合してエポキシ樹脂ワニスを調製した。
【0051】
(3)エポキシ樹脂層付きSUS基材の作製
次に、2.0mm厚みのSUS430製基材にこのエポキシ樹脂ワニスを10μm塗布し、160℃の熱風乾燥機で5分間加熱乾燥することによって、エポキシ樹脂層付きSUS基材を調整した。
【0052】
(4)断熱層付き金型部材
次に、このエポキシ樹脂層付きSUS基材と、前述のアルミ層付き断熱部材とを各樹脂層(ポリイミドの層とエポキシ樹脂の層)が接するように重ね、これを175℃、30kg/cmの加熱加圧条件で60分間積層成形することによって、断熱層付き金型部材を得た。ここで、アルミ層付き断熱部材とエポキシ樹脂層付きSUS基材とを重ね合わせる際に、アルミ層付き断熱部材のアルミ層にしわの発生等がなく、これらの部材の重ね合わせ(プレスセット)に要した時間は30秒であった。
【0053】
(5)断熱層付き金型部品のめっき
次に、無電解めっきにより、断熱層付き金型部品のアルミ層の表面に厚み150μmのニッケルリン層(リン含有割合10重量%)を形成した。
【0054】
(6)断熱層付き金型部品のパターン切削加工
前述の断熱層付き金型部品のニッケルリン層の表面に、工作機械(東芝機械社製「UMP-65120D」)を用いて、図3及び図4に示す凹凸形状であるパターン形状を形成して、縦350mm×横510mmの金型部品2を作製した。ここで、図3,図4に示すように、パターン形状は、短手方向断面が三角形の線状凹部が略平行に隣接して複数並んだ条列構造である。図4に示すように、線状凹部の深さD1が50μm、隣接する線状凹部の上面部分の幅寸法(ピッチ)P1が50μmである。
【0055】
このようにして得られた断熱層付き金型部品2について、加工を施した全面を、超深度形状測定顕微鏡(キーエンス社製「VK−9500」)を用いて観察し、金型部品2の長辺方向に平行な直線と、稜線との最大ズレ量を測定したところ、測定限界以下(0.01μm以下)であった。
【0056】
また、射出成形機(ソディック社製「TR450EH」、スクリュー/プランジャ径φ50mm、最大型締力450t)に、製造した金型部品2を配設し、高流動グレードポリカーボネート(旭化成ケミカルズ社製「PC−122」、ガラス転移温度141〜150℃)を射出成形することにより、縦280mm×横460mm、厚さ2.0mm、対角線の長さ539mmの光拡散板を作製した。
【0057】
ここで、射出成形機の可動金型のキャビティ面には、このキャビティ面に連通する、直径2mmのホットランナー方式のバルブゲートが8個設けられている。固定金型の主面に、前述の断熱層付き金型部品が取り付けられている。射出成形条件は、シリンダ温度330℃、ホットランナー温度330℃、金型温度120℃、射出速度6秒、冷却時間30秒とした。
【0058】
以上のようにして得られた金型部品の構成および評価結果を表1,表2に示す。
【表1】

【表2】

【0059】
表1には、金型部品の縦横サイズ、表面側金属層の厚み(アルミ層の厚みとニッケルリンめっき層の厚みの合計)、樹脂層の厚み(ポリイミド層の厚みとエポキシ樹脂層の厚みの合計)、裏面側金属層(SUS430製基材)の厚み、樹脂層に混合された繊維状強化材料の配合含有率、配合形状、金型温度、およびシリンダ温度を示す。また、表2には、金型部品の耐久性、パターン切削時のピッチずれ、製造結果、繊維状強化材料の配合含有率と配合形状、および成形品の転写率を示す。
【0060】
なお、転写率の計算方法は、転写率(%)=(L/L0)×100 とする。ここで、図5に示すように、L0は、金型部品2に形成された断面三角形の溝の深さであり、Lは、断面三角形の溝に樹脂が充填された高さである。
【0061】
また、中央部の転写率とは、得られた光拡散板において、図6に示す線分X上の点の平均値(中央部5点の平均値)であり、端の転写率とは、線分Y上の点の平均値(短辺端より、20mm内側となる、5点の平均値)である。
【0062】
表2に示すように、上述の射出成形機を用いて射出成形を500ショット実施したところ、実施例1に係る断熱層付き金型部品の接着面に剥がれが生じなかった。また、パターンの転写率は、成形品の中央部で100%、端で97%であった。また、アルミ層付き断熱部材とエポキシ樹脂層付きSUS基材との重ね合わせ(プレスセット)に要した時間は30秒であった。また、パターン切削時のピッチずれは0.01μm以下であり、表示分解能以下であった。このため、得られた金型部品は、耐久性に優れ、かつパターン形状を高精度に形成できた。
【0063】
(実施例2)
表1に示すように、金型部品を縦500mm×横790mm、樹脂層の厚み0.21mmに変更し、樹脂層に配合する繊維状強化材料をガラスカットファイバー(日東紡社製「SC-6E-227」、平均カット長6mm フィラメント径0.01mm、長さ/直径=600)、繊維状強化材料含有率を50wt%に変更した以外は、実施例1と同様とした。実施例2の金型部品を実施例1と同様の金型に配設して、縦430mm×横740mm、厚さ2.0mm、対角線の長さ856mmの光拡散板を作製した。
【0064】
表2に示すように、上述の射出成形機を用いて射出成形を500ショット実施したところ、実施例2に係る断熱層付き金型部品の側面の接着面に剥がれが生じなかった。パターンの転写率は、成形品の中央部で100%、端で97%であった。また、アルミ層付き断熱部材とエポキシ樹脂層付きSUS基材とを重ね合わせに要した時間は30であった。また、パターン切削時のピッチずれは0.01μm以下であり、表示分解能以下であった。このため、得られた金型部品は、耐久性に優れ、かつパターン形状を高精度に形成できた。
【0065】
なお、加熱炉にて灰化が完了したガラスカットファイバー含有ポリイミドフィルムのガラスカットファイバーの配合含有率は、48.9%であり、長さ/直径の平均値は510であった。
【0066】
(実施例3)
表1に示すように、金型部品を縦750mm×横1190mm、樹脂層の厚み0.21mmに変更し、樹脂層に配合する繊維状強化材料をガラスカットファイバー(日東紡社製「CS-25 K-871」、平均カット長25mm フィラメント径0.013mm、長さ/直径=1923)、繊維状強化材料含有率を50wt%に変更した以外は、実施例1と同様とした。実施例3の金型部品を実施例1と同様の金型に配設して、縦680mm×横1140mm、厚さ2.0mm、対角線の長さ1327mmの光拡散板を作製した。
【0067】
表2に示すように、上述の射出成形機を用いて射出成形を500ショット実施したところ、実施例3に係る断熱層付き金型部品の側面の接着面に剥がれが生じなかった。パターンの転写率は、成形品の中央部で99%、端で99%であった。また、アルミ層付き断熱部材とエポキシ樹脂層付きSUS基材とを重ね合わせに要した時間は30であった。また、パターン切削時のピッチずれは0.01μm以下であり、表示分解能以下であった。このため、得られた金型部品は、耐久性に優れ、かつパターン形状を高精度に形成できた。
【0068】
なお、加熱炉にて灰化が完了したガラスカットファイバー含有ポリイミドフィルムのガラスカットファイバーの配合含有率は、48.8%であり、長さ/直径の平均値は1450であった。
【0069】
(比較例1)
表1に示すように、金型部品を縦500mm×横790mm、樹脂層の厚み0.21mm、繊維状強化材料無し、に変更した以外は、実施例1と同様とした。比較例1の金型部品を実施例1と同様の金型に配設して、縦430mm×横740mm、厚さ2.0mm、対角線の長さ856mmの光拡散板を作製した。
【0070】
表2に示すように、上述の射出成形機を用いて射出成形を10ショット実施したところ、断熱層付き金型部品の側面の接着面に剥がれが発生した。パターンの転写率は、成形品の中央部で100%、端で100%であった。
【0071】
また、アルミ層付き断熱部材とエポキシ樹脂層付きSUS基材とを重ね合わせる際に、アルミ層付き断熱部材のアルミ層にしわが全面に発生して大変扱いにくく、これらの部材の重ね合わせには15分以上を要した。また、パターン切削時のピッチずれは2.0μm(平均値)であった。このため、比較例1に係る金型部品は、耐久性とパターンの形成精度とが不十分であり、かつ金型部品の成形が煩雑であった。
【0072】
(比較例2)
表1に示すように、金型部品を縦500mm×横790mm、樹脂層の厚み0.21mmに変更し、樹脂層に配合する繊維状強化材料をガラスカットファイバー(日東紡社製「PF E−001」、 平均カット長0.035mm フィラメント径0.01mm、長さ/直径=3.5)、繊維状強化材料含有率10wt%に変更した以外は、実施例1と同様である。この比較例2の金型部品を実施例1と同様の金型に配設して、縦430mm×横740mm、厚さ2.0mm、対角線の長さ856mmの光拡散板を作製した。
【0073】
表2に示すように、上述の射出成形機を用いて射出成形を20ショット実施して断熱層付き金型部品の側面の接着面に剥がれが発生した。パターンの転写率は、成形品の中央部で100%、端で100%であった。また、アルミ層付き断熱部材とエポキシ樹脂層付きSUS基材とを重ね合わせる際に、アルミ層付き断熱部材のアルミ層にしわが部分的に発生して扱いにくく、これらの部材の重ね合わせには5分を要した。また、パターン切削時のピッチずれは1.4μm(平均値)であった。このため、比較例2に係る金型部品は、耐久性とパターンの形成精度とが不十分であり、かつ金型部品の成形がやや煩雑であった。
【0074】
なお、加熱炉にて灰化が完了したガラスカットファイバー含有ポリイミドフィルムのガラスカットファイバーの配合含有率は、9.7%であり、長さ/直径の平均値は3であった。
【0075】
(比較例3)
表1に示すように、金型部品を縦500mm×横790mm、樹脂層の厚み0.21mmに変更し、樹脂層に配合する繊維状強化材料を実施例2で用いた前記ガラスカットファイバーSC-6E-227、繊維状強化材料含有率10wt%に変更した以外は、実施例1と同様とした。比較例3の金型部品を実施例1と同様の金型に配設して、縦430mm×横740mm、厚さ2.0mm、対角線の長さ856mm、の光拡散板を作製した。
【0076】
表2に示すように、上述の射出成形機を用いて射出成形を50ショット実施して断熱層付き金型部品の側面の接着面に剥がれが発生した。パターンの転写率は、成形品の中央部で100%、端で100%であった。また、アルミ層付き断熱部材とエポキシ樹脂層付きSUS基材とを重ね合わせる際に、アルミ層付き断熱部材のアルミ層にしわが部分的に発生して扱いにくく、これらの部材の重ね合わせには5分を要した。また、パターン切削時のピッチずれは0.8μm(平均値)であった。このため、比較例3に係る金型部品は、耐久性とパターンの形成精度とが不十分であり、かつ金型部品の成形がやや煩雑であった。
【0077】
なお、加熱炉にて灰化が完了したガラスカットファイバー含有ポリイミドフィルムのガラスカットファイバーの配合含有率は、9.7%であり、長さ/直径の平均値は510(平均値)であった。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の実施の形態に係る金型部品の構成を示す縦断面図である。
【図2】前記金型部品を備える金型の構成を示す縦断面図である。
【図3】実施例1に係る金型部品のパターン形状を模式的に示す斜視図である。
【図4】前記実施例1に係る金型部品を模式的に示す縦断面図である。
【図5】光拡散板に形成される光学パターンの転写率を説明するための図であり、金型部品のパターン形状に溶融樹脂が射出された状態を模式的に示す縦断面図である。
【図6】光拡散板に形成された光学パターンの転写率を説明するための図であり、この光学パターンを模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0079】
2…金型部品、4…表面側金属層、6…樹脂層、8…裏面側金属層、10…金型、12…固定側金型、14…可動側金型、16…成形品、18…キャビティ、20…溶融樹脂、22…ホットランナーノズル、24…ホットランナー、40…第1金属層、42…第2金属層、60…第1樹脂層、62…第2樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂の射出成形に用いられる金型部品であって、
金型のキャビティに面するキャビティ面を有する表面側金属層と、樹脂層と、裏面側金属層とがこの順に一体的に構成され、
前記表面側金属層のキャビティ面には、凹凸構造であるパターン形状が形成され、
前記樹脂層は、マトリクス樹脂20〜80重量%と、繊維状強化材料80〜20重量%とからなる金型部品。
【請求項2】
各繊維状強化材料は、その長さをA(mm)、その直径をB(mm)として、
(A/B)の平均値が10以上の関係を満たす請求項1記載の金型部品。
【請求項3】
前記樹脂層は、複数の層を備え、
前記複数の層のうち、少なくとも前記表面側金属層に隣接する層は、前記繊維状強化材料を含む請求項1または請求項2記載の金型部品。
【請求項4】
前記複数の層は、前記表面側金属層に隣接する第1樹脂層と、前記第1樹脂層および前記裏面側金属層に隣接する第2樹脂層とを備え、
前記第1樹脂層は、前記強化材を含み、
前記第2樹脂層は、前記第1樹脂層と前記裏面側金属層とを接着する接着層である請求項3に記載の金型部品。
【請求項5】
前記キャビティ面の対角線の長さが500mm以上で、かつ厚みが5mm以下である平面視矩形状の板状部材である請求項1〜請求項4の何れか一項に記載の金型部品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−221472(P2008−221472A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58561(P2007−58561)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】