説明

金型鋳造用離型剤及びその塗布方法

【課題】従来と比べ離型剤の塗布・乾燥時間を著しく減少して、作業時間を短縮できると共に、必要最小限の膜厚で鋳造可能となり、塗布膜の過剰な膜厚に伴う膜剥離による問題を回避して、鋳造製品の肌の巣が無くかつ良好な光沢を有する鋳造製品を得ることができることを課題とする。
【解決手段】(A)成分として、40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)成分として、白色又は灰色又は赤色の少なくとも1種類の無機粉体を1〜10質量%と、黒鉛又はカーボンブラック又はダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体を10質量%以下とを含有し、引火点が70〜160℃であることを特徴とする金型鋳造用離型剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の非鉄金属の重力鋳造及び低圧鋳造に用いる金型鋳造用離型剤及びその塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非鉄金属を鋳造する場合、金型と溶湯の固着を防止するために以下の手法を採用している。即ち、離型剤を金型に塗布し、その金型に溶解した高温の溶湯を流し込み、溶湯の固化後、固化した製品を金型から取り出している。現在、このような鋳造には各種の方法がある。具体的には、湯の流し込み速度で見ると、重力鋳造、低圧鋳造、スクイズ、高速ダイカストが挙げられる。また、溶湯温度から見ると、半凝固鋳造が挙げられる。
【0003】
金型鋳造用離型剤から考えると、鋳造時の溶湯の流速は大きな因子である。重力鋳造のように鋳造時の溶湯の流速が小さいと、高温の金属溶湯に金型鋳造用離型剤が接している時間は長くなり、金型鋳造用離型剤の劣化が進行する。その結果、塗布膜が薄くなり、溶湯が固化した際、金型に固着することもある。そこで、金型に対して溶湯が固着することを防止するために、無機粉末に水を加えた「塗型剤」なるものが主に使われている(例えば、特許文献1参照)。塗型剤は劣化し難い。しかし、塗型剤は水を含有しているので、乾燥前に溶湯を流し込むと、水蒸気爆発を起こす可能性がある。そのため、塗布後、数時間の乾燥工程が不可欠である。従って、「鋳造ごとに塗布し、生産する」と、生産効率が極端に低くなる。
【0004】
そこで、「数十個または数百個生産毎に1回塗布する」のが現在の状況である。しかも、塗型剤の塗布は職人芸と言われ、優れた職人は1回塗布当たりの生産個数が多い。また、塗型剤で作られた粉体膜は部分的に剥離することがある。剥離した粉体は製品の中に紛れ込み、製品の強度を極端に低下させる。この場合、いつ剥離が発生したか不明確である。このため、一般には剥離を起こした該当ロットの全製品を不合格とし、回収している。また、製品意匠面の塗型が剥離すると、剥離した部分に対応する製品には凸部が形成される。こうした製品は外観不良となる。
【0005】
ところで、鋳造工程の中で、固着防止ばかりでなく、細かく刻み込まれた金型の部分にも完全に湯が流れ、期待する型の製品に仕上がることも重要である。この湯流れを確保するため、塗型剤を厚く塗って溶湯の冷却を遅め、もって湯の粘度を低く保ち、金型の細部に湯がいきわたるようにしている。前述のように、数十回に1回塗布して厚い塗布膜(数十から数百ミクロンの厚さ)を確保している。しかし、鋳造ごとに微量の粉体が製品中に持っていかれ、断熱のための塗布膜が徐々に薄くなる。そして、湯流れを確保できなくなる。その結果、初期の製品の冷却速度と塗布直前の冷却速度の違いにより、金属の結晶組織が異なる。そのため、塗布初期と後期で製品の品質が異なる欠点がある。即ち、製品の品質を安定させるには頻繁な塗布が必要となる。しかし、塗布後の乾燥が必要となり、生産効率が低下する。
【0006】
更に、粉体膜で作られた製品の表面は、一般に梨地状となる。従って、製品によっては外観品質要求を満たさないため、艶出を目的とした後処理が必要になる。加えて、粉体であるので、飛散は避けられない。それ故、作業環境にも注意が必要である。
なお、従来、400℃以上でも劣化しない無機粉体を配合した油性離型剤として、例えば特許文献2に記載されたものが知られている。
【特許文献1】特開昭59−169642号公報
【特許文献2】特開平2−117992号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術に係る塗型剤は、水を含有している。従って、「塗布後、数時間の乾燥」が不可欠である。また、生産効率向上を目指し、乾燥回数を減らす努力が行われている。しかし、生産ごとに溶湯に巻き込まれて減少する膜厚を考慮したり、初期塗布膜を過剰に厚くしたりする必要がある。しかも、この場合でも、「数十個または数百個生産毎に1回塗布」を行わなければならない。
【0008】
本発明は、こうした事情を考慮してなされたもので、40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、白色又は灰色又は赤色の少なくとも1種類の無機粉体を1〜10質量%と、黒鉛又はカーボンブラック又はダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体を10質量%以下とを含有し、引火点が70〜160℃である構成とすることにより、肌の巣が無くかつ良好な光沢をもった鋳造製品を得ることができる金型鋳造用離型剤を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記金型鋳造用離型剤を鋳造毎又は1回置き又は2回置きに金型内面に塗布することにより、従来と比べ離型剤の塗布・乾燥時間を著しく減少でき、もって作業時間を短縮できると共に、必要最小限の膜厚で鋳造可能となり、塗布膜の過剰な膜厚に伴う膜剥離による問題を回避でき、もって鋳造製品の肌の巣が無くかつ良好な光沢を有する鋳造製品を得ることができる金型鋳造用離型剤の塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金型鋳造用離型剤は、(A)成分として、40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)成分として、白色又は灰色又は赤色の少なくとも1種類の無機粉体を1〜10質量%と、黒鉛又はカーボンブラック又はダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体を10質量%以下とを含有し、引火点が70〜160℃であることを特徴とする。
【0011】
本発明の金型鋳造用離型剤は、(C)成分として、濡れ性を向上するためのアクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び極圧剤の群から選ばれる1種又は2種以上を3質量%以下含むことが好ましい。
また、本発明の金型鋳造用離型剤は、(D)成分として、40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油(D−1成分)を15質量%以下及び/又は潤滑性能を有する添加剤(D−2成分)を10質量%以下含むことが好ましい。
【0012】
本発明の金型鋳造用離型剤は、(E)成分として、40℃における動粘度が100〜600mm/sの高粘度の鉱物油及び/又は合成油を10質量%以下含むことが好ましい。
本発明の金型鋳造用離型剤は、(F)成分として、アミン系、フェノール系、クレゾール系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を2質量%以下含むことが好ましい。
本発明の金型鋳造用離型剤の塗布方法は、前記金型鋳造用離型剤を、鋳造毎又は1回置き又は2回置きに金型内面に塗布することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金型鋳造用離型剤によれば、鋳造製品の肌の巣が無くかつ良好な光沢を有する鋳造製品を得ることができる。
本発明の金型鋳造用離型剤の塗布方法によれば、従来と比べ、離型剤の塗布・乾燥時間を著しく減少できる。従って、作業時間を短縮できると共に、塗布膜の過剰な膜厚に伴う膜剥離による問題を回避できる。その結果、肌の巣が無く、かつ良好な光沢を有する鋳造製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
1.金型鋳造用離型剤の品質
1)重力鋳造では、溶湯を金型の隅々まで押す力は溶湯の自重だけであり、本来、湯流れ性が悪い。そこで、金型面上に厚い断熱膜を形成し、溶湯が冷えず、溶湯が金型の隅々まで流れる工夫が必要となる。そのため、塗布膜の厚さを確保し、湯流れ性を良くする必要がある。即ち、塗布膜の厚さを確保するため、金型鋳造用離型剤の金型への付着量を増加させる工夫が必要である。ところで、金型には水平部分と垂直部分が混在し、垂直部分の塗布膜が薄くなる嫌いがある。垂直部分の塗布膜を厚くする工夫として、塗装業界が採用している速乾性を活用し、溶剤を混合して本金型鋳造用離型剤に揮発性を付与することが考えられる。水平部分を含め塗布膜を厚くする方法として、後述する付着力の高い各種添加剤を配合することが好ましい。
【0015】
2)湯流れ性を確保し、かつ、鋳造製品取り出し時、焼付・固着問題を起こさせないためには、潤滑性、断熱性、離型性を高める必要がある。潤滑性、断熱性、離型性の有る無機粉体添加剤(例えば断熱性にタルク、マイカ、潤滑性、離型性に、黒鉛)を配合する。
【0016】
3)前述した技術的長短を勘案し、本発明者らは、(A)成分として、40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)成分として、白色又は灰色又は赤色の少なくとも1種類の無機粉体を1〜10質量%と、黒鉛又はカーボンブラック又はダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体を10質量%以下とを含有し、引火点が70〜160℃であることを特徴とする、水を含まない金型鋳造用離型剤を探求するに至った。
【0017】
金型鋳造用離型剤のスプレー可能な粘度はかなり幅広いが、40℃で2〜450mm/sが好ましい。ここで動粘度が450mm/sを超えると、粒子径が大きくなり、塗布量が増える。一方、動粘度が2mm/s未満になると、スプレー用のポンプが磨耗しやすくなる。従って、灯油の粘度の2mm/sを下限とするのが実用的である。また、作業性の観点から、自動車用軽油の引火点である70℃より高く、乾燥性の観点から160℃以下の引火点を有する揮発性が好ましい。
【0018】
本発明に係る金型鋳造用離型剤には、(B)成分として、無機粉体が配合されている。上記特許文献2には油性離型剤が記載されているが、ボロンナイト粉体、粘土系沈降防止剤とシリコーンオイルの組成であり、金型上での揮発性を考慮した本発明と大きく異なる。
【0019】
ここで、使用条件に応じ、前述の金型鋳造用離型剤の配合に、(C)成分として、濡れ性向上剤を加えるのが好ましい。濡れ性向上剤を添加することにより、金型面へのスプレー粒子の付着性を向上することが可能となる。使用条件とは、例えば鋳造に必要な皮膜厚さ、要求される鋳造製品の肌のきれいさ、離型剤が塗布されるときの金型の温度条件を示す。これらの条件を総合的に判断して離型剤を配合するのが好ましい。
【0020】
また、使用条件に応じ、前述の金型鋳造用離型剤の配合に、(D)成分として、シリコーン油(D−1)及び/又は潤滑性能を有する添加剤(D−2)を加えても良い。潤滑性能を有する添加剤(D−2)としては、例えば植物油、有機モリブデンが挙げられる。シリコーン油及び/又は潤滑性能を有する添加剤を配合することにより、高温での焼き付きを抑制することが可能である。
更に、使用条件に応じ、前述の金型鋳造用離型剤の配合に、(E)成分として、高粘度の鉱物油及び/又は合成油を加えても良い。
【0021】
更には、使用条件に応じ、前述の金型鋳造用離型剤の配合に、(F)成分として、酸化防止剤を加えても良い。酸化防止剤を加えて塗布膜の酸化劣化を抑え、より長時間厚い塗布膜を維持することで、湯流れを保つことが可能となる。
【0022】
2.金型鋳造用離型剤の成分
1)A成分
金型面で厚い油膜を形成させるには、一旦付着した離型剤成分(潤滑、離型を目的として配合された成分)が金型から垂流れないよう早急に溶剤を気化させるほうが良い。従って、速乾性のペンキに見られるように揮発速度の速い溶剤(A成分)が良い。しかし、揮発が速いと、引火点が低くなるので、火災の危険が高くなる。従って、ガソリンのような揮発の速すぎるものは好ましくない。実用的には、旧油性離型剤に多用された灯油の引火点である43℃よりは高く、自動車用燃料の軽油の引火点(70℃)以上が好ましい。また、揮発性が低い(引火点が高い)と、乾燥しにくい。そのため、低粘度のA成分が残って塗布膜の粘度が低くなる。その結果、金型の垂直部分(垂直面)からの垂れ流れが起こり、塗布膜が薄くなる。引火点で表した揮発性として、160℃以下の溶剤(A成分)が好ましい。
【0023】
A成分の溶剤の配合量は、粘度、揮発性に加え、他の成分(B,C,D、E成分)の配合量にも影響される。その配合量は、50〜90質量%が好ましい。また、A成分の溶剤は、必ずしも1種類の溶剤だけではなく、複数の揮発性を有する溶剤を適宜混合しても良い。
【0024】
A成分は、高揮発・低粘度成分であり、金型面で蒸発する部分である。なお、人体への影響を考慮し、アルコール、エステル、ケトン等の極性の強い溶剤は使うべきではない。石油系で、かつ、殆どが飽和分の溶剤(溶剤―1)で硫黄、窒素分を極端に低く抑えた高度精製溶剤、あるいは溶剤―1よりも沸点がやや高い低粘度基油(溶剤―2)が好ましい。上記A成分を「40℃における動粘度が2〜10mm/s」とするのは、以下の理由による。即ち、2mm/s未満では、離型剤全体の粘度が下がり過ぎ噴霧用ポンプの磨耗耐久性に悪影響がある。A成分が10mm/sを超えると、金型鋳造用離型剤全体の粘度が上がり、本組成物をスプレーで適正に噴霧できない。
【0025】
2)B成分
B成分は、無機粉体であり、B−1成分群とB−2成分群とからなる。400℃を超える温度領域では、上記のC,D、E、F成分は短時間で分解する。分解しても離型性を保持する添加剤はある。しかし、塗布膜は薄くなり、断熱性が低下する。後述の粉体は高温で劣化しにくく、厚い粉体膜を形成し断熱性を発揮する。
【0026】
B−1成分群は、比較的黒くない(即ち、白色又は灰色又は赤色の少なくとも1種類)無機粉体である。その配合量は、1〜10質量%が好ましい。無機粉体の配合量が10質量%を超えると、金型鋳造用離型剤を使用する前に沈降して品質問題を起こすし、鋳造製品の艶が悪くなる。また、作業現場が粉体で汚れる。配合量が1質量%未満の場合、高温での効果が少ない。無機粉体としては、例えばタルク、マイカ、雲母、粘土、有機クレイ(粘土に微量の有機物を付加したもの)、耐火モルタル、ボロンナイト、フッ素樹脂、セリサイト、CaCO、ホウ酸塩、アルミナ粉、ピロリン酸塩、重曹、酸化チタン、ベンガラ、ラジオライト、酸化ジルコニウムが挙げられる。
【0027】
B−2成分群としては、黒鉛、カーボンブラック、ダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体が挙げられる。潤滑性はB−1成分群より優れているが、作業現場の汚れはひどい。従って、これらの無機粉体を10質量%以下で配合すると良い。D−1成分のシリコーンが存在する領域で、黒鉛を2質量%以上配合しても潤滑性はあまり改良されない。しかし、粉体膜の補強のため、10質量%まで配合しても良い。
【0028】
加えて、B成分である無機粉体を油に均一に分散させるため、分散剤を添加すると良い。使用条件に応じ、上記のC、D、E、F成分の配合量を調整し、塗布膜の形成効率を高めることが好ましい。B成分の無機粉体を最小限に抑えると、作業現場の汚れが低減し、ユーザーのメリットとなる。
【0029】
3)C成分
C成分は、濡れ性向上剤であり、弱い極性を有する炭化水素及びその化合物が挙げられる。例えばアクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び硫化エステルのような極圧剤(極圧添加剤)の群れから選ばれる1種以上の成分を3質量%以下含ませることができる。濡れ性向上剤を添加すると、金属面への金型鋳造用離型剤の濡れ性が良くなる。そのため、金型へ金型鋳造用離型剤が付着しやすくなる。特に金属面が高温になると、金型鋳造用離型剤の軽質成分の急激な沸騰により油滴が金属面を濡らせない現象(ライデンフロスト現象)を起こす。その結果、金属面上での油膜形成を阻害する。ところが、濡れ性向上剤があると、濡れ性が良くなる。そのため、この現象は抑えられ、油膜が厚く形成される。アクリル・コポリマー自体は分散能力もありB成分の粉体を分散させる能力もある。使用条件に応じC成分だけを添加できる。しかし、その他の添加剤、D,E,Fの中から少なくとも1種類と合わせて添加しても良い。
【0030】
4)D成分
D成分は摩擦を低減する潤滑剤である。金型で焼付を起こす温度は操業条件で異なる。重力鋳造では、約200〜450℃が連続鋳造中の金型温度範囲である。そのため、金型鋳造用離型剤の添加剤には、幅広い温度領域で潤滑性を付与する必要がある。(D)成分を添加することにより、無機粉体の配合量を最小限にしたとき、焼付を防止する。無機粉体の添加量を最小限に抑えるために、その他の添加剤C、E、F成分の少なくとも1種類の添加剤との組み合わせで添加するのが好ましい。
【0031】
第一の添加剤群(D−1成分)として、シリコーン油を15質量%以下配合することが好ましい。前記シリコーン油は、摩擦係数はあまり低くはないが、約300〜370℃で焼付を防止する効果を有する。ここでシリコーン油は、高温での潤滑性が期待される。従って、「40℃における動粘度が150mm/s以上」の高粘度のシリコーン油が好ましい。鋳造製品に塗装しない場合はジメチル・シリコーンを含めたどの市販のシリコーン油でも良い。しかし、塗装する場合は塗装が載りにくい。従って、塗布量によってはジメチル・シリコーンが好ましくない時がある。塗装する場合、シリコーン油としては、例えばアルキル・アラルキルまたはジメチルより長鎖のアルキル基を有するアルキル・シリコーン油が好ましい。
前記D−1成分を「15質量%以下」としたのは、15質量%を超えると金型にシリコーン又はシリコーン分解物が堆積し、鋳造製品の形状に悪影響を及ぼすからである。但し、シリコーン油はコストの観点からは配合量を低減することが好ましい。
【0032】
第二の添加剤群(D−2成分)としては、例えば、150〜300℃付近で低い摩擦を与える動植物系の油脂(例えばナタネ油、大豆油、ヤシ油、パーム油、牛油、豚脂等の動植物油脂、脂肪酸エステル)、有機酸(ヤシ油脂肪酸、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、パルチミン酸)、アルコールエステル(牛脂脂肪酸等の高級脂肪酸のエステル)、有機モリブデン、油溶性の石鹸、油性ワックスが挙げられる。
【0033】
有機モリブデンとしては、例えばMoDDCやMoDTCが好ましい。アルミニウムとリン分が反応する可能性のあるMoDDPやMoDTPは、あまり好ましくない。油溶性の石鹸としては、例えばCaまたはMgのスルフォネート塩、フィネート塩、サリシレート塩が挙げられる。また、溶解性に難点はあるが、有機酸金属塩が挙げられる。更に、若干腐食性はあるが、高温での焼付を防止できる極圧剤が挙げられる。硫黄系の硫化油、硫化エステルが好ましい。S−P系のZnDDPは臭く、塩素系は金属と反応性による腐食があり、避けるべきである。これらの潤滑性を有する1種類以上の添加剤を10質量%以下添加する。
【0034】
5)E成分
E成分は、高粘度の鉱物油及び/又は合成油であり、他の成分を付着させるための糊(バインダー)の役目をする。高温で蒸発しにくい高粘度炭化水素が好ましい。そのため、40℃における動粘度が100mm/s以上600mm/s以下の高粘度の鉱物油及び/又は合成油を配合する。鉱物油(鉱油)としては、ギヤ油に使われるような高粘度基油やシリンダー油を例示できる。合成油としては、PAO(ポリアルファー・オレフィン)やエステル系基油を例示できる。ここで、E成分の動粘度が100mm/s未満の場合、付着油膜が薄く糊の役目が弱くなる。一方、動粘度が600mm/sを超えると、金型鋳造用離型剤の粘度が高くなりスプレーし難くなる。従って、金型鋳造用離型剤を生産する際、混合作業が困難になる。また、E成分の配合量は10質量%以下が好ましい。10質量%を越えると、鋳造後、「糊」が炭化した「オイルマーク」と呼ばれる色残り現象が起き、鋳造製品の不良となる。無機粉体の添加量を最小限に抑えるために、その他の添加剤C、D、F成分の少なくとも1種類の添加剤との組み合わせで添加するのが好ましい。
【0035】
6)F成分
F成分は酸化防止剤である。後述する酸化防止剤を2質量%以下配合することで、金型鋳造用離型剤の劣化が抑えられる。その結果、初期油膜厚さを維持でき、断熱性が向上する。最終的には湯流れが向上する。酸化防止剤は3種類に類別でき、1種または2種以上を配合することができる。使用条件により他の添加剤C、D、E成分の少なくとも1種類と合わせて添加するのが好ましい。
【0036】
第一類群のアミン系酸化防止剤として、例えば、モノノニルジフェニルアミン等のモノアルキルジフェニルアミン系、4,4’−ジブチルフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミン等のジアルキルジフェニルアミン系、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミン等のポリアルキルジフェニルアミン系、a−ナフチルアミン、フェニル−a−ナフチルアミン、ブチルフェニル−a−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−a−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−a−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−a−ナフチルアミン、オクチルフェニル−a−ナフチルアミン等が挙げられる。
【0037】
第二類群のフェニル系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、高分子量単環フェノリック、多環ターシャリーブチル・フェノール、BHT(Butylated Hydroxy Toluene)、BHA(Butylated Hydroxy Anisole)が挙げられる。
【0038】
第三類群のクレゾール系酸化防止剤としては、例えば、ジターシャリーブチルパラクレゾール、2−6−ジーターシャリーブチル・ジメチルアミノ−p−クレゾールが挙げられる。
【0039】
3.塗布方法
本発明の金型鋳造用離型剤の塗布方法は、金型鋳造用離型剤を、鋳造毎又は1回置き又は2回置きに金型内面に塗布することを特徴とする。以下、この塗布方法について説明する。
1)従来技術に係る塗型剤の場合、上述したように、1回鋳造ごとに無機粉体が溶湯に巻き込まれて減少する膜厚を考慮したり、初期塗布膜を過剰に厚くしたりした。そして、「数十個又は数百個鋳造毎に1回塗布(塗型剤の塗りなおし)」を行っていた。本発明の場合は、従来技術に係る塗型剤と違って油性の金型鋳造用離型剤を鋳造毎(毎回塗布)又は1回置き又は2回置きに金型内面に塗布する。ここで、本発明では、例えば「1〜2秒塗布後、数秒の乾燥」のため「毎回塗布」が可能となる。本発明の場合、百回鋳造しても塗布・乾燥の合計は10分程度であり、従来技術に係る塗型剤の数十分から数時間より遥かに短い作業時間である。なお、金型鋳造用離型剤を塗布するときはその塗布量を最小限にとどめることが好ましい。
【0040】
その結果、次のa)〜g)のメリットが期待できる。
a)乾燥工程が短く、金型を生産に使える。その結果、ダウンタイムが減少する。
b)離型剤を塗りなおすため、金型を鋳造機から下ろす必要が無い。従って、生産性が上がる。
c)毎回スプレーにより離型剤を塗布するため、塗職人の技量の差が最小限に抑えられる。従って、品質が安定する。
d)毎回スプレーにより塗布膜の厚みが均質となる。従って、鋳造製品の品質が安定する。
e)従来法のように塗布膜を過剰の厚みにする必要が無くなる。そのため、剥離による不合格のリスクを低減できる。
f)過剰な膜厚さがなくなり、膜の厚さは必要最小限である。そのため、冷却性が良くなる。
g)凝固が短い時間で起こり、金属結晶が微細となる。その結果、強靭な製品となる。
【0041】
本発明の「毎回塗布」に換え、本発明の金型鋳造用離型剤を1回置き又は2回置きに塗布する(間欠的に塗布)場合が考えられる。この場合、ゆとりを持って塗布膜を若干厚くする必要がある。ここで、過剰な塗布膜は、一部熱分解によるガスの発生、鋳巣の問題、製品の強度低下に至る可能性がある。従って、必要最小限の塗膜厚さとするため、毎回塗布することが最も好ましい。
【0042】
2)上記したように、毎回塗布した場合、毎回乾燥が速くなければならない。そこで、本発明の金型鋳造用離型剤から水を排除し、かつ、乾燥性を速めるため高い揮発性を付与している。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例について説明する。
(A)図の説明
まず、本発明の実施例で使用するアルミ溶湯の湯流れ性評価試験器、及び重力鋳造を模した成形性評価試験器について説明する。
図1は、湯流れ試験器の概略的な斜視図を示す。図2(A)は図1の湯流れ試験器の一構成である台の正面図、図2(B)は図2(A)の側面図、図3(A)は図1の湯流れ試験器の一構成である蓋の正面図、図3(B)は図3(A)の側面図、図3(C)は図3(A)の底面図、図3(D)は図3(C)のX−X線に沿う断面図を示す。図4(A)は図1の湯流れ試験器の一構成である枡の斜視図、図4(B)は図4(A)の底面図、図5は図1の湯流れ試験器の一構成である棒の正面図を示す。
【0044】
前記湯流れ試験器は、鉄製の台1と、この台1の上に載置される鉄製の蓋2と、この蓋2の上に載置されるイソライト・レンガ製の枡3と、イソライト・レンガ製の棒4と、ガスバーナー5とから構成されている。台1は、図1及び図2に示すように、長手方向に沿う一端側に上部方向に突出する突出部1aを備え、その突出部1aにはテーパ面1bが形成されている。蓋2の一端側で台1と接する部分には、図1及び図3(A)に示すようにテーパ面2aが形成されている。図3(C),(D)に示すように、蓋2のテーパ面2aには溶湯を流すための溝2bが形成され、下面には溝2bに連通する溝2cが形成されている。
【0045】
蓋2の上部には、把手6が取り付けられている。枡3には、溶湯を供給するための開口部7と該開口部7に連通する穴8が形成されている。枡3は、枡3の穴8が蓋の溝2bに位置するように蓋2上に載置される。棒4の先端は図5に示すように円錐形状になっており、この部分が枡3の穴8を塞ぐように枡3にセットされる。棒4は、溶湯を枡3に収容する前は棒4の先端を穴8に差し込んだ状態にし、溶湯を蓋2の溝2b、2c側に流す時は棒4を上方に持ち上げるようになっている。
【0046】
前記成形性評価試験器は、図6、図7及び図8に示すようになっている。ここで、図6(A)は第1の金型の正面図、図6(B)は第1の金型の平面図を示す。図7(A)は第2の金型の正面図、図7(B)は第2の金型の平面図を示す。図8は第1の金型及び第2の金型を加熱する時の説明図を示す。
【0047】
鉄製の第1の金型11には、図6に示すように、溶湯を注ぐための湯口12を構成するための断面半円形状の切欠け部12aと、この切欠け部12aに連通された,製品形状のキャビティ部13が刻み込まれている。キャビティ部13は左右に分岐する6本のあばら骨状になっており、合計18個のセル14a,14b,14c,14d,14e,14f…からなっている。図6(B)のセル中の数字は各セルの厚みを示しており、左側と右側で厚みが異なっている。例えば、左側のセル14a,14b,14cの厚みは夫々10mm,8mm,6mmであるが,右側のセル14d,14e,14fの厚みは夫々6mm,4mm,2mmである。鉄製の第2の金型15は、図7に示すように、断面半円形状の切欠け部12bを除いて平坦である。なお、切り欠け部12a,12bが合わさって図9に示す湯口12が構成される。第1の金型11の内面、第2の金型15の内面は、図8に示すようにバーナー16により所定の温度まで加熱される。
【0048】
(B)製造方法
溶剤、粉体、黒鉛、濡れ性向上剤、高粘度鉱油、シリコーン油、潤滑添加剤、酸化防止剤を目的に応じて添加し、40℃に加温した状態にて10分間攪拌することにより、重力鋳造用の潤滑離型剤(金型鋳造用離型剤)を試料として製造した。
【0049】
(C)試験方法
(C−1)引火点の測定方法
試料の引火点の測定はJIS−K−2265に沿って、ペンスキーマルテン法で測定した。
(C−2)動粘度の測定方法
JIS−K−7117−1に準拠した回転粘度計で測定した40℃の絶対粘度(cP)と比重から40℃の動粘度を算出した。
(C−3)ラボ酸化試験、ROBT法
JIS−K−2514に沿って、回転式密閉型ポンプに試料を採取し、その後酸素を封入し、150℃条件下で酸化し、急激に酸素圧力の低下を起こすまでの時間を測定した。
【0050】
(C−4)湯流れ性評価試験
図1の湯流れ性評価試験の操作は次のとおりである。
まず、鉄製の自家製試験の台1と蓋2を別々にバーナー5の上に置き、所定の温度(実施例では230℃)まで加熱する。また、別のバーナーで枡3と棒4を500℃付近まで加熱する。台1と蓋2が所定の温度に達したなら、蓋2の溝2cに鋳造用潤滑離型剤を塗布し、蓋2の取手6をつかんで台1の上に蓋2を乗せる。蓋2の穴8にイソライト・レンガ製の枡3を置き、イソライト・レンガ製の棒4で栓をする。別途、陶芸用溶解炉に溶かしてあるアルミ溶湯(AC4CH材、温度700℃)90ccを鉄製の柄杓で採取し、直ちに枡3に注ぐ。5秒後、棒4の栓を抜き、溶湯を流す。30秒後、蓋2をどけ、台1の上で固化したアルミの長さを測定する。長く流れると湯流れ性が良いと判断する。
【0051】
(C−5)成形性評価試験
図6〜図8の成形性評価試験器による成形性評価試験の操作は、次の通りである。
まず、図8に示すように、第1の金型11と第2の金型15を別々のバーナー16で所定の温度までに加熱する。次に、第1の金型11及び第2の金型15の内面に金型鋳造用離型剤を塗布し、数秒後、図9に示すように第1の金型11と第2の金型15を合わせる。つづいて、直ちに、溶解炉より鉄製の柄杓17でアルミ溶湯18(AC4CH,700℃)を汲みだし、湯口12よりアルミ溶湯18(約2.8kg)を注湯する。アルミ凝固後(約2分)、第1の金型11と第2の金型15を分割し、第1の金型11で固化した鋳造品19(図10図示)を取り出す。アルミが完全にキャビティを充填した形状になっているセルから転写した厚みの異なる部位20の数を求める。完全な形状の部位20の数が多ければ、成形性がよく、湯流れ性が良いと判断する。
【0052】
(D−1)試験測定結果:原液塗布型油性離型剤
下記表1の比較例1には本出願人製のダイカスト用油性離型剤,比較例2には重力鋳造で現在使用されている代表的な他社製の水溶性粉体塗型剤,比較例3には水溶性粉体塗型剤を湯流れ試験機にて100回連続試験したときの100回目の値,比較例4として「塗型剤なし・離型剤なし」のブランクを示す。更に、比較例1,2,3,4の成分、物性値、湯流れ性評価試験、成形性評価試験の結果を示す。
【表1】

【0053】
但し、表1において、 ・「−」印:測定なし
・油性離型剤…青木科学研究所の商品名:WFR−3R
・水溶性塗型剤…三和油化の商品名:サンバリューMR−W14
・溶剤−1…Shell・Chemicalの商品名:Shellzol・TM
・高粘度鉱油…ジャパン・エナジーの商品名:ブライストック
・シリコーン油…旭化成ワッカーシリコーンの商品名:Release agentTN
・菜種油…名糖油脂工業の商品名:ナタネ油
・有機モリブデン…旭電化工業の商品名:サクラルブ165
・フェノール系酸化防止剤…第一工業製薬の商品名:ラスミットBHT
・アミン系酸化防止剤…アフトンケミカル社の商品名:HiTEC-569
・アクリル・コポリマー…ウイルバ・エリス社の商品名:EFKA-3778
・比較例1〜3、6に示す鋳造製品の肌の光沢、肌の巣は湯流れ試験で得られたサンプルから判断できる。
【0054】
何も塗布していない比較例4の場合、30mmしか溶湯は流れない。しかし、代表的な水溶性塗型剤の比較例2の場合は、400mmも流れた。鋳造を連続すると、徐々に塗型剤粉体が鋳造製品に取られ、膜厚が薄くなる。そのため、湯流れ不良による不良品が出てくるのは、約50μmであるので、初期膜厚は150μmと約3倍も厚く塗るのが現状である。即ち、初期は過剰に塗膜を厚くするので、断熱膜が厚い。従って、溶湯の温度が低下せず、溶湯の粘度が低く保たれる。その結果、400mmと溶湯は長く流れた。
【0055】
更に、1回塗型剤を塗った湯流れ試験機にて、100回連続で湯流れ試験を実施した。その結果、比較例3に示すように240mmの湯流れとなった。前述のように塗型剤の膜厚が1回の湯流れごとに削り取られ、湯流れが悪くなることがわかる。そこで、このときの湯流れ試験の値、240mmを塗型剤皮膜の良品を鋳造するための最低皮膜であったと想定した。
【0056】
本研究の目標は不良品が出る直前の皮膜厚さで、毎回塗布することである。前述のように、湯流れ試験機を使って水溶性塗型剤を1回塗り、湯流れ試験を100回連続で実施したときの湯流れ距離240mmを、本研究の目標値とした。比較例1に示すように、ダイカスト用油性離型剤では50mmの湯流れである。比較例1は、何も塗らない状態(ブランク)の比較例4と比べて若干良くなる程度であった。油膜が極端に薄いのが理由と言える。高額な油膜厚さ計で1回だけ測定したところ、3μmの油膜厚さであった。
【0057】
更に、実機により近い条件の成形性評価試験器(C−5項参照)で製品を評価した。この試験器で鋳造された製品の形状は、「3対合計6本のアバラ骨」である。左側の各あばら骨は、先端に向かって夫々10mm,8mm,6mmの3段階の厚みである。右側の各あばら骨は、先端に向かって夫々6mm,4mm,2mmの厚みである。合計で18区のセルに分かれている。従って、測定結果は「その区分の個数」で表し、「18」が最良である。比較例2の水溶性塗型剤の場合、18個と良好な値である。一方、ダイカスト用油性離型剤の比較例1では、5個分しか流れない。明らかに、湯流れ性が劣る。
【0058】
(D−2)試験測定結果:濡れ性向上剤、酸化防止剤の効果(その1)
上記表1には、比較例5,6の成分、物性、及び湯流れ性評価試験の結果も示した。表1に示すように、比較例5,6の引火点は70℃以上、40℃における動粘度は450(mm/s)以下である。また、ラボ酸化試験における耐酸化性能を測定した。その結果、比較例5の場合、劣化時間の測定値は240分である。また、酸化防止剤を添加した比較例6の場合、劣化時間は890分である。比較例6の場合、酸化防止剤は油性離型剤の酸化劣化を抑制していることがラボ酸化試験で確認できた。
【0059】
一方、湯流れ性評価試験における湯流れ長さに関し、比較例1に示すダイカスト用離型剤の湯流れ性試験結果は50mmである。しかし、比較例1に示す配合にアクリル・コポリマー(濡れ性向上剤)を添加した比較例5は、78mmとなる。一方、酸化防止剤を添加した比較例6では120mm流れるようになった。
【0060】
濡れ性向上剤を添加することにより油膜を厚くすること、並びに酸化防止剤を配合し金型鋳造用離型剤の酸化防止性を高めることが好ましい。これにより、1)湯流れ性評価試験器に付着した塗布膜が酸化しにくくなる、2)塗布膜の厚さが維持されて断熱性が向上する、3)溶湯の温度が低下しにくくなり、溶湯の粘度が低く保たれる。その結果、溶湯が長くまで流れたものと推定する。
しかし、濡れ性向上剤、酸化防止剤の添加だけではまだまだ湯流れは不十分である。さらに断熱性を向上させるために、粉体などの他の添加剤と併用することが望まれる。
【0061】
図11は、上記比較例6により得られた部位の写真を模式的に描いた図を示す。図11より、比較例6によれば、各セルから転写された厚みが異なりかつ欠けのない12個の部位201〜2012が得られることが確認できた。
【0062】
鋳造製品の肌の光沢に関し、比較例2の代表的な塗型剤は灰色で良くない。しかし、比較例6の油性離型剤の場合は艶が増え良くなった。一方、鋳造製品の肌の巣に関しては、有機物を殆ど含有していない比較例2(水溶性塗型剤)が最良である。比較例6の油性離型剤の場合は、比較例2に比べて若干劣るが、良好な外観を示す。
【0063】
(D−3)試験測定結果:無機粉体を含有する場合及び濡れ性向上剤の効果(その2)
下記表2には、実施例1〜3の成分、物性、湯流れ性評価試験及び成形性評価試験の結果を示した。
【表2】

【0064】
但し、表2において、
・溶剤−1(その2)…Shell・Chemicalの商品名:Shellzol・TK
・有機クレイ…ウイルバ・エリスの商品名:ガラマイト 1598
・酸化防止剤…LIAONING TIANHE FINE CHEMICALS製の商品名:BHT(クレゾール系酸化防止剤)
・タルク…日本タルク(株)の商品名:ミクロエースP4
・黒鉛…中越黒鉛の商品名:96L-3(鱗状)3部と150F(土状)7部の混合物
・その他は表1と同じ
粉体による保温性を確認するために、上記実施例1に示すように、(A)溶剤と(B−1)タルク及び有機クレイ、(B−2)黒鉛の配合では、湯流れ性評価試験で330mm流れであった。この値は、本研究の目標値である、240mmを超える湯流れである。更に、成形性評価試験においても17個のセルまで成型できた。比較例6(有機物だけの配合)と比較して、実施例1では、粉体の保温性による湯流れ性向上の効果が確認できた。
【0065】
表2に示すように、実施例1〜3の引火点は70℃以上、40℃における動粘度は130(mm/s)であった。実施例1の配合に、(C)成分の濡れ性向上剤(アクリル・コポリマー)を添加した実施例2では、湯流れ性評価で460mmと湯流れ性が、格段によくなった。濡れ性向上剤を添加することにより、皮膜形成時に塗布された試料が金型へ衝突したときに、濡れ易くなり厚い皮膜が形成されると推定される。更に成形性評価においても18個のセルを形成し、比較例2の水溶性塗型剤の初期皮膜(厚く塗られた状態)と同等の結果が得られた。
【0066】
実施例3では、実施例2の配合中の黒鉛を7%から5%へ減量して添加した。湯流れ性は370mmとなった。この結果から、黒鉛(粉体)を減量したことによる、保温性の減少が確認できる。しかしながら、実施例1と比較すると、黒鉛は減少しているにもかかわらず、湯流れ性は330mmから370mmへと伸びている。ここでも、濡れ性向上剤(アクリル・コポリマー)の効果が確認できる。
【0067】
(D−4)試験測定結果:(C)濡れ性向上剤の効果(その3)
上記表2には、実施例4〜13の成分、物性、湯流れ性評価試験及び成型性評価試験の結果も示した。実施例4〜13の引火点は70℃以上、40℃における動粘度は130又は140(mm/s)であった。
【0068】
上記実施例4,5,6において、粉体分の配合を固定して、(D)成分:潤滑剤、(E)成分:高粘度基油、(F)成分:酸化防止剤を添加したときの湯流れ性評価の結果を示す。実施例4の場合、(D−1)成分であるシリコーン油を添加した結果、270mmの湯流れであった。実施例5の場合、(E)成分である高粘度基油を添加した結果、270mmの湯流れであった。実施例6の場合、(F)成分である酸化防止剤を添加した結果、310mmの湯流れであった。これらの実施例においても、目標値である240mmを上回る結果となった。
【0069】
上記、実施例7,8,9は、実施例4,5,6に(C)成分の濡れ性向上剤(アクリル・コポリマー)を夫々添加したものである。実施例7は、実施例4に(C)成分を添加したものである。実施例7の湯流れ性は410mmであった。実施例8は、実施例5に(C)成分を添加したものである。実施例8の湯流れ性は340mmであった。実施例9は、実施例6に(C)成分を添加したものである。実施例9の湯流れ性は490mmであった。
【0070】
上記、実施例4〜9に示す結果より、以下のことが推定できる。即ち、(D,E,F)成分の添加剤に(C)成分の濡れ性向上剤を添加することにより、有機物添加剤である(D,E、F)成分の各添加剤の濡れ性が向上し、厚い皮膜が形成される、と推定できる。
(D、E,F)成分の各添加剤には、夫々前述したような効果が見込まれる。そのため、使用条件に応じて、(D,E,F)成分の添加剤のうち少なくとも1種類と(C)成分の濡れ性向上剤とを合わせて使用することが出来る。
【0071】
特に、実施例9((F)成分の酸化防止剤を添加した場合)は、実施例2((C)成分の濡れ性向上剤のみ添加した場合)と比較して、460mmから490mmへと湯流れ性が良くなっている。酸化防止剤により濡れ性向上剤の酸化劣化が抑えられ、更に厚い皮膜が形成されるためと推測できる。
【0072】
(D−5)試験測定結果、(D)(E)(F)の効果:
上記表2には、実施例10,11,12,13の成分、物性、湯流れ性試験及び形成性評価試験の結果も示した。
【0073】
上記実施例10〜13は、(B)無機粉体の配合量を固定し、(D),(E),(F)成分の各添加剤の組み合わせにおける評価を示した。実施例10は(D)潤滑剤、(E)高粘度基油の組み合わせである。実施例10の湯流れ性は、実施例4,5(各添加剤を個別に添加した場合)と比較して、330mmと向上している。実施例11は、(D)潤滑剤と(F)酸化防止剤との組み合わせである。実施例11の湯流れ性は、実施例4,6と比較して、470mmと飛躍的に向上している。
【0074】
実施例12は、(E)成分と(F)成分の組み合わせである。実施例12の湯流れ性は、実施例5,6と比較して、350mmと向上する。実施例13は、(D),(E),(F)成分3種類の添加剤の組み合わせである。実施例13の湯流れ性は、各添加剤を単独で添加したときと比較して、350mmと向上している。成型評価試験に関しても、18個のセルまで成型できた。
【0075】
上記のごとく、すべての組み合わせにおいて、本研究の湯流れ性評価における目標値である240mmを超える結果を得た。
【0076】
更に、実施例10〜13の湯流れ性は、実施例1((A)溶剤と(B)無機粉体のみの配合)の湯流れ性:330mmをも上回っている。つまり、断熱性の高い無機粉体を金型に効率的に付着させるためには、(C),(D),(E),(F)成分の各種添加剤を、使用目的に応じ最適に配合することが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の金型鋳造用離型剤は、重力鋳造する際の自動連続スプレー及び原液・微量塗布に適し、金型表面の潤滑にも適している。また、低圧鋳造では、溶湯の速度が重力鋳造より若干速い.そのため、離型剤が高温に接する時間は短くなる。従って、低圧鋳造にも、本発明の金型鋳造用離型剤は適している。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】図1は、湯流れ試験器の概略的な斜視図を示す。
【図2】図2は、図1の湯流れ試験器の一構成である台の説明図を示す。
【図3】図3は、図1の湯流れ試験器の一構成である蓋の説明図を示す。
【図4】図4は、図1の湯流れ試験器の一構成である枡の説明図を示す。
【図5】図5は、図1の湯流れ試験器の一構成である棒の説明図を示す。
【図6】図6は、成形性評価試験器に使用される第1の金型の説明図を示す。
【図7】図7は、成形性評価試験器に使用される第2の金型の説明図を示す。
【図8】図8は、第1の金型及び第2の金型を加熱する時の説明図を示す。
【図9】図9は、第1の金型及び第2の金型を一体化したときの状態を示す。
【図10】図10は、第1の金型に固化した製品の平面図を示す。
【図11】図11は、実施例2により得られた製品の写真を模式的に描いた図を示す。
【符号の説明】
【0080】
1…台、1a…突出部、1b,2a…テーパ面、2…蓋、2b,2c…溝、3…枡、4…棒、5…ガスバーナー、6…把手、7…開口部、8…穴、11…第1の金型、12…湯口、13…キャビティ部、14,14a,14b,14c,14d,14e…セル、15…第2の金型、16…ガスバーナー、17…柄杓、18…溶湯、19…鋳造品、20,20〜2012…部位。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分として、40℃における動粘度が2〜10mm/sで引火点が70℃〜160℃の範囲の溶剤を50〜90質量%、(B)成分として、白色又は灰色又は赤色の少なくとも1種類の無機粉体を1〜10質量%と、黒鉛又はカーボンブラック又はダイヤモンド粉の少なくとも1種類の無機粉体を10質量%以下とを含有し、引火点が70〜160℃であることを特徴とする金型鋳造用離型剤。
【請求項2】
(C)成分として、濡れ性を向上するためのアクリル・コポリマー、引火点が100℃以下のアクリル変性ポリシロキサン及び極圧剤の群から選ばれる1種又は2種以上を3質量%以下含むことを特徴とする請求項1記載の金型鋳造用離型剤。
【請求項3】
(D)成分として、40℃における動粘度が150mm/s以上のシリコーン油(D−1成分)を15質量%以下及び/又は潤滑性能を有する添加剤(D−2成分)を10質量%以下含むことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金型鋳造用離型剤。
【請求項4】
(E)成分として、40℃における動粘度が100〜600mm/sの高粘度の鉱物油及び/又は合成油を10質量%以下含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3いずれか記載の金型鋳造用離型剤。
【請求項5】
(F)成分として、アミン系、フェノール系、クレゾール系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種又は2種以上を2質量%以下含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4いずれか記載の金型鋳造用離型剤。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の金型鋳造用離型剤を、鋳造毎又は1回置き又は2回置きに金型内面に塗布することを特徴とする金型鋳造用離型剤の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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