説明

金属の分離方法

【課題】本発明の課題は、3価のリン化合物を含有する金属溶解液から、金属を分離する方法を提供することである。
【解決手段】3価のリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金のいずれか1つ又は複数を含有する金属溶解液を、ポリアミン型キレート樹脂と接触させ、該金属溶解液から金属成分を除去する方法。3価のリン化合物が、リン−酸素結合を含むリン化合物であることが好ましく、更に、ポリアミン型キレート樹脂に金属溶解液を流通させる前に、金属溶解液をpH5〜10の間に調製することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属溶解液から金属成分を除去する方法に関し、より詳細には、3価のリン化合物を含有する金属溶解液から金属を分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属化合物は、その特徴的な性質を利用して様々な有機合成反応に用いられている。特に、遷移金属化合物と配位子を組み合わせることで様々な合成反応が開発されてきた。配位子を含む錯体触媒を用いる際の問題点の一つに触媒と反応液との分離の困難性が挙げられ、触媒の分離、回収又は廃棄物処理に多大なコストを要する。そのため、これまでに数多くの研究が行われてきた。一般的な触媒分離方法として、(1)蒸留により生成物と触媒を分離する方法(2)抽出操作により、生成物と触媒を分離する方法(3)再結晶により生成物と触媒を分離する方法(4)活性炭等の多孔質担体に触媒を吸着させる方法(5)イオン交換樹脂に金属を吸着させる方法等が知られている。経済性や分離の容易性、不純物の蓄積、閉塞等の観点から、吸着剤を用いる触媒分離プロセスが望ましい場合が多く、特にイオン交換樹脂を用いる触媒分離方法が多数報告されている。例えば、特開平11−152246号公報に、コバルト触媒を用いる芳香族カルボン酸の製造方法において、キレート型の陰イオン交換樹脂による触媒の回収方法が記載されている。また、特願2002−576182号公報では、溶解性金属触媒と陰イオン交換樹脂を反応中に共存させ、反応生成物から溶解性金属触媒を分離する方法が記載されている。しかし、これらの方法は金属への配位性物質を含まない触媒の分離方法であり、リン化合物を含有するような錯体化した金属は吸着剤と競争関係で吸着されるため、一般に吸着が困難とされてきた。
【0003】
また、特開2002−371090号公報でも、リン化合物を含有する触媒を分離することが困難であることが記述されているが、該公報ではパラジウム化合物及び有機リン化合物を含有するテロメリゼーション触媒を含む溶液から、チオ尿素基を含有するキレート樹脂を用いてパラジウム含有化合物を分離する方法が報告されている。しかしながら、この方法は触媒の吸着速度が必ずしも良いとは言えず、反応器やキレート樹脂のコストの低減化のためにより吸着速度に優れた触媒分離方法が望まれる。また、硫黄化合物は触媒毒として知られており、後工程、リサイクル工程への影響あるいは製品スペックへの影響を考えると、硫黄化合物を含有するイオン交換樹脂の使用は好ましくない。また、チオ尿素基の合成には多数の工程を要し、汎用性の低さから経済的にも好ましくない。また、チオ尿素型樹脂は耐熱温度が60℃であり、反応器、蒸留塔等から出る金属溶解液を処理するために、冷却が必要となる場合が多くなる。
【特許文献1】特開平11−152246号公報
【特許文献2】特願2002−576182号公報
【特許文献3】特開2002−371090号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、3価のリン化合物を含有する金属溶解液から、金属を分離する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リン化合物が共存する金属溶解液を、ポリアミン型キレート樹脂と接触させることで、従来よりも速い吸着速度で溶解した金属を該溶液から分離可能なことを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明の要旨は下記(1)〜(5)に存する。
(1) 3価のリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金のいずれか1つ又は複数を含有する金属溶解液を、ポリアミン型キレート樹脂と接触させ、該金属溶解液から金属成分を除去する方法。
(2) 3価のリン化合物が、リン−酸素結合を含むリン化合物であることを特徴とすることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3) ポリアミン型キレート樹脂に金属溶解液を流通させる前に、金属溶解液をpH5〜10の間に調製することを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載の方法。
(4) 金属溶解液中の金属成分がパラジウムであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを、酢酸溶媒中で、3価のリン化合物を配位子として含有する液相均一系パラジウム触媒により1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化し、得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含む液を、キレート樹脂に接触させ、パラジウムを吸着分離する方法。
【0006】
本発明は回分、半回分、連続方式のいずれの形式にも使用することができる。以下、その詳細について説明する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、3価のリン化合物を含有する金属溶解液から、金属を分離することを可能とし、高価な貴金属を回収する方法及び金属含有量の少ない反応液を容易に精製できる工業的に有利な金属の分離方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の「金属溶解液から金属成分を除去する方法」は、3価のリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金のいずれか1つ又は複数を含有する金属溶解液を、ポリアミン型キレート樹脂と接触させることを特徴とする。
本発明における金属溶解液は、3価のリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金のいずれか1つ又は複数が溶解している溶液であれば、特に限定されないが、特に好ましくはパラジウム溶解液である。該金属溶解液中の金属化合物はキレート樹脂上のアミノ基で捕捉されるため、様々な金属配位化合物を含有していてもよく、種々の金属化合物の形態をとることができる。具体的な形態としては、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハライド塩、有機塩、無機塩、アセチルアセトナト化合物、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物等が挙げられ、共存する3価のリン化合物が該金属に配位し、錯体を形成していてもよい。上述の遷移金属化合物の形態は特に制限されず、単量体、二量体及び/又は多量体であってもかまわない。特に好ましくは、酢酸塩である。
【0009】
これらの金属化合物の濃度は溶媒に対して0.001wtppm〜1000wtppmであり、好ましくは0.001〜100wtppm、特に好ましくは0.01〜100wtppmの範囲である。金属濃度が高すぎると、キレート樹脂の使用量が増大してしまい、長大な反応器が必要となってしまう。
本発明は、3価のリン化合物を含有する金属溶解液から、キレート樹脂を用いて金属成分を吸着分離することを特徴としている。本発明で使用可能な3価のリン化合物について述べる。本発明で使用可能な3価のリン化合物としては、ホスフィン、ホスフォニウム塩、ホスファイト、ホスフォラアミダイトなどが可能であり、これらを存在させる方法は特に限定されるものではなく、所望の反応で用いたものそのもの、反応での分解物、反応後に該リン化合物を添加する方法等が挙げられる。3価のリン化合物はリン原子に3つの置換基が結合した化合物であれば特に限定されるものではなく、通常使用可能なものとして、式(1):PX(式中X〜Xは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基(環状アルキル基も包含)、アリール基、アルコキシ基、アリールアルコキシ基、ヒドロキシ基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基を表し、更に置換基を有する多座配位子でもよい)で表されるリン化合物類である。これ3価のリン化合物は単一で用いても、数種類の混合物で用いてもよい。
【0010】
3価のリン化合物の内、使用可能なホスフィン類はトリアルキルホスフィン、ジアルキルホスフィン、モノアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン、ジアリールホスフィン、モノアリールホスフィン、複座アルキル置換ホスフィン、複座アリール置換ホスフィン等に分類できる。具体例を示すと、トリフェニルホスフィン、ジフェニルフェノキシホスフィン、フェニルジフェノキシホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2−フリル)ホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、ジブチルブトキシホスフィン、ブチルジブトキシホスフィン、トリオクチルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、ジメチルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタン、ジフェニルホスフィノフェロセン、BINAP等が挙げられる。また、ホスフィン類を存在させる方法は特に限定されるものではなく、反応系中で酢酸などのカルボン酸と形成するホスフォニウム化合物の形態でも同効果が得られる。ホスフィン類、ホスフォニウム化合物いずれの形態で反応液に存在していても差し支えない。
【0011】
また、本発明に使用可能なホスファイト化合物は、下記一般式(I)、(II)、(III)、(IV)、(V)及び(VI)で示される化合物の中の少なくとも一種である。
【0012】
【化1】

【0013】
式(I)〜(VI)において、R10〜R21は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良い。R10〜R21としてアルキル基を用いる場合、又はアルキル骨格を有する置換基(アルキルアリーロキシ基中のアルキル基等)を用いる場合には、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等である。また、アルキル基又はアルキル骨格部分は更に置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリ‐ル基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0014】
またR10〜R21としてアリール基を用いる場合又はアリール骨格を有する置換基を用いる場合には、その炭素数は通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基又はアリール骨格部分は更に置換基を有していても良く、置換基として、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。R10〜R21がアリール基である場合の具体例としてフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3‐ジメチルフェニル基、2,4‐ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2‐t‐ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0015】
【化2】

【0016】
〜Z及びA〜Aはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数6〜30のアリーレン基、又はAr−(Q−Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリーレン基(但しAr及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基を表す)を表す。Tは炭素原子、アルカンテトライル基、ベンゼンテトライル基、又はT−(Q−Tで表される置換基を有していても良い四価の基であり、T及びTはそれぞれ独立してそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルカントリイル基、及び炭素数6〜15のベンゼントリイル基から選ばれる置換基を有していても良い三価の基を表す。Q及びQはそれぞれ独立して、−CR2223−、−O−、−S−、−CO−を表し、nは0又は1であり、R22及びR23は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、置換基を有していても良い。また、Z〜Z又はA〜Aの具体例として、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH(CH)CHCH(CH)−、−C(CH−C(CH−、−C(CH−CH−C(CH−、及び下記の(A−1)〜(A−48)が挙げられる。
【0017】
【化3】

【0018】
【化4】

【0019】
【化5】

【0020】
【化6】

【0021】
異性化触媒の配位子を表す式(I)〜(VI)の化合物の好ましい具体例として、下記の単座配位子(P−1)〜(P−20)及び多座配位子(L−1)〜(L−43)を例示することができる。
【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

【0024】
【化9】

【0025】
【化10】

【0026】
【化11】

【0027】
【化12】

【0028】
【化13】

【0029】
【化14】

【0030】
【化15】

【0031】
【化16】

【0032】
【化17】

【0033】
【化18】

【0034】
【化19】

【0035】
本発明に使用可能なホスフォラアミダイトは、少なくとも一つのP−N及び一つのP−O結合を有する下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び(6−1)〜(6−6)で示される化合物の中の少なくとも一種である。
【0036】
【化20】

【0037】
【化21】

【0038】
式(1)〜(5)において、X〜X’’’は(X1)〜(X4)から選ばれ、Y〜Y’’’ は(Y1)〜(Y4)から任意に選ぶことができる。(X1)〜(X4)、(Y1)〜(Y4)及び(6−1)〜(6−6)において、R、R’、R〜R50は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良い。R、R’、R〜R50としてアルキル基を用いる場合、又はアルキル骨格を有する置換基(アルキルアリーロキシ基中のアルキル基等)を用いる場合には、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等である。また、アルキル基又はアルキル骨格部分は更に置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリ‐ル基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0039】
また、R、R’、R〜R50としてアリール基を用いる場合又はアリール骨格を有する置換基を用いる場合には、その炭素数は通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基又はアリール骨格部分は更に置換基を有していても良く、置換基として、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。R、R’、R〜R50がアリール基である場合の具体例としてフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3‐ジメチルフェニル基、2,4‐ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2‐t‐ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び前述の(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0040】
A〜A’’、A〜Aはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数6〜30のアリーレン基、又はAr−(Q−Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリーレン基(但しAr及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基を表す)を表す。T〜Tは炭素原子、アルカンテトライル基、ベンゼンテトライル基、又はT−(Q−Tで表される置換基を有していても良い四価の基であり、T及びTはそれぞれ独立してそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルカントリイル基、及び炭素数6〜15のベンゼントリイル基から選ばれる置換基を有していても良い三価の基を表す。Q及びQはそれぞれ独立して、−CR5152−、−O−、−S−、−CO−を表し、nは0又は1であり、R51及びR52は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、置換基を有していても良い。
【0041】
またA〜A’’、A〜Aがアルキレン基の場合、例えばテトラメチルエチレン基、ジメチルプロピレン基等が挙げられ、置換基を有しても良いアルキレン基の場合には、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。またA〜A’’、A〜Aが置換基を有していても良いアリーレン基の場合には、例えばフェニレン基やナフチレン基等が挙げられ、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0042】
更に、A〜A’’、A〜AがAr‐(Q‐Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリ‐レン基の場合、Ar及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基であり、その炭素数は6〜24、更には6〜16が好ましい。好ましい置換基の具体例として、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0043】
またA〜A’’、A〜Aの具体例として、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH(CH)CHCH(CH)−、−C(CH−C(CH−、−C(CH−CH−C(CH−、及び前述の(A−1)〜(A−48)が挙げられる。
【0044】
式(1)〜(5)及び(6−1)〜(6−6)の化合物の具体例として、下記の単座配位子(L−44)〜(L−57)及び多座配位子(L−57)〜(L−73)を例示することができる。
【0045】
【化22】

【0046】
【化22】

【0047】
【化23】

【0048】
【化24】

【0049】
本発明で使用する3価のリン化合物は、好ましくはアリール基を含有するホスフィン、ホスファイト、ホスフォラアミダイトであり、特に好ましくは単座且つアリール基を含有するホスフィン、ホスファイト、ホスフォラアミダイトである。好ましい具体例として、トリフェニルホスフィン、ジフェニルフェノキシホスフィン、フェニルジフェノキシホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2−フリル)ホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等の単座ホスフィン類、ジメチルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、ジフェニルホスフィノブタン、ジフェニルホスフィノフェロセン等多座ホスフィン類、(P−1)〜(P−20)の単座ホスファイト類、(L−1)〜 (L−43)の多座ホスファイト類、(L−44)〜(L−57)の単座ホスフォラアミダイト類、(L−58)〜(L−73)の多座ホスフォラアミダイト類が挙げられる。特に好ましい具体例として、トリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(4−トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリ(4−メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2−フリル)ホスフィン等の単座ホスフィン類、(P−1)〜(P−20)の単座ホスファイト類、(L−44)〜(L−57)の単座ホスフォラアミダイト類が挙げられる。
【0050】
本発明において、3価のリン化合物の添加量は配位子中のリン原子のモル比が錯体触媒中の遷移金属に対して0.1〜10000が好ましく、より好ましくは0.1〜500であり、特に好ましくは1〜100である。リン化合物の含有量が低すぎた場合には、触媒反応の段階に於いて所望の反応成績を得ることができず、また多すぎた場合には、キレート樹脂による金属溶解液からの金属の除去効果が低下する。尚、該リン化合物は1種又は複数種のいずれでも差し支えない。リン化合物は光学活性体、ラセミ体のいずれでも差し支えない。
【0051】
本発明で使用するポリアミン型キレート樹脂とは、アミノ基により陰イオン交換能を有するキレート樹脂であり、キレート結合により特定の金属イオンに対し、高い選択性を持つ樹脂のことである。交換基としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、ピリジン、及び/又は第4級アンモニウム塩、第4級ピリジニウム塩、アミノリン酸類、が挙げられる。これらポリアミン型のキレート樹脂を用いると、従来の樹脂と比較して高効率、速い反応速度でリン化合物を含有する金属溶解液から金属を分離することが出来る。また、本発明に好ましく用いられる吸着剤はキレート樹脂であるが、樹脂の代わりとして、イオン交換基を有する繊維や多孔性の支持体でもよい。ポリアミン型キレート樹脂の使用量は、キレート樹脂の交換容量、金属濃度、金属溶解液量、リン化合物濃度、溶媒、共存する化合物などにより異なるが、金属溶解液に対する重量比で0.00000001〜1の範囲で使用することが可能であり、より好ましくは0.0000001〜0.1であり、特に好ましくは0.00001〜0.01である。ポリアミン型キレート樹脂の使用量が少なすぎると金属の分離効率が低下し、多すぎると経済的に好ましくなく、長大な反応器が必要となる。
【0052】
ポリアミン型キレート樹脂に3価のリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金のいずれか1つ又は複数を含有する金属溶解液を接触する際の温度は−20℃〜200℃が好ましく、より好ましくは20℃〜150℃であり、特に好ましくは40℃〜130℃である。温度が低すぎると反応液の冷却を行う必要があり、温度が高すぎるとキレート樹脂の劣化が進行する。
【0053】
また、接触時間は1分〜200時間が好ましく、より好ましくは10分〜50時間であり、特に好ましくは30分〜20時間である。接触時間が短すぎると充分な金属成分の除去が困難であり、長すぎると低効率のプロセスとなってしまう。
ポリアミン型キレート樹脂と金属溶解液の接触方法は回分、連続のいずれでも差し支えないが、運転の簡便さから連続流通式が特に好ましい。
【0054】
3価のリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金のいずれか1つ又は複数を含有する金属溶解液が「錯体触媒の存在下、アリル化合物の異性化反応を行った反応液」である場合は、そのまま、あるいは酢酸などの溶媒の一部あるいは全量を蒸留などで除去した後、ポリアミン型キレート樹脂と接触させても差し支えない。例えば前述のジアセトキシアリル化合物の異性化反応では、溶媒だけでなく更に3,4−ジアセトキシアリル化合物、あるいは3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物を蒸留などにより反応後液から分離した後、ポリアミン型キレート樹脂と接触させても差し支えない。ここで除去回収された溶媒は再利用可能であり、また反応後液から分離した3,4−ジアセトキシアリル化合物はそのまま、あるいは更に蒸留などで精製した後、異性化反応へとリサイクル使用することもできる。また分離して得られた1,4−ジアセトキシアリル化合物は、そのまま、あるいは更なる蒸留などによる精製を経た後、遷移金属触媒存在下、水素化され置換基を有しても良い1,4−ジアセトキシブタン化合物へと変換し、更に加水分解を経て1,4−ブタンジオールを製造することが可能である。
【0055】
本発明においては、ポリアミン型キレート樹脂の使用を必須とし、これらポリアミン型キレート樹脂のアミノ基など塩基性の官能基が金属と接触することにより、遷移金属の除去が可能となる。そのため、塩基性官能基と強固な付加体を形成する酸性物質が相当量混在した場合、遷移金属の除去能力の低減化がおきてしまう。そのため3価のリン化合物を含む遷移金属溶解液は、そのpHが塩基性〜中性の条件が好ましく、具体的にはpHが2〜12が好ましく、より好ましくはpH4〜12の範囲であり、特に好ましくはpH5〜10の範囲である。一般に、活性炭を用いる金属成分の吸着分離方法において、塩基性を示す金属溶解液からの金属の吸着速度は低下し、反応器が長大になる要因となる。しかしながら、上記理由により本発明においてはアミン類等が存在することで塩基性となった金属溶解液からでも、金属成分のポリアミン型キレート樹脂への吸着速度は低下しない。
【0056】
本発明は、錯体触媒を用いたアリル化合物の異性化反応の反応後液からの錯体金属溶解量の低減化へ適用することが好ましい。ここでは「錯体触媒を用いたアリル化合物の異性化反応」の例として3,4−ジアセトキシアリル化合物の1,4−ジアセトキシアリル化合物への異性化反応を記載するが、本発明はそれに限定されるものではない。
3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒により1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する方法とは、例えば「3,4−ジアセトキシアリル化合物を触媒と接触させて1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化して、1,4−ジアセトキシアリル化合物を得る方法」や、「3,4−ジアセトキシアリル化合物と1,4−ジアセトキシアリル化合物の混合物を触媒と接触させて混合物中の3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化し、1,4−ジアセトキシアリル化合物純度を上げる方法」が挙げられる。
【0057】
より具体的には、例えば、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを酢酸溶媒中で、3価のリン化合物を配位子として含有する液相均一系パラジウム触媒により1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化する方法が挙げられる。 本発明における1,4−ジアセトキシアリル化合物及び3,4−ジアセトキシアリル化合物の一つである1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンは、触媒の存在下、ブタジエンのジアセトキシ化反応などにより製造可能である。共役ジエン類のジアセトキシ化反応は様々な方法で実施できるが、最も一般的には、パラジウム系触媒の存在下、ブタジエン、酢酸及び酸素を反応させて1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを得る方法である。またそれらジアセトキシアリル化合物の加水分解物である1−ヒドロキシ−4−アセトキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなども併せて生成する。
【0058】
ブタジエンのジアセトキシ化反応に用いる触媒としては、ブタジエンを1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び/又は3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに変換する能力を有する触媒であれば何でも使用できるが、好ましくは第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒であり、特に好ましくはパラジウム固体触媒である。パラジウム固体触媒は、パラジウム金属またはその塩からなり、助触媒としてビスマス、セレン、アンチモン、テルル、銅などの金属またはその塩の使用が好ましく、特に好ましくはテルルである。パラジウムとテルルの組み合わせが好ましい理由は、触媒活性の高さ、及びジアセトキシアリル化合物選択率の高さである。そのため、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒であることが好ましい。該パラジウム固体触媒は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭、グラファイトなどの担体に担持させて使用することが好ましく、特に好ましくは強度的に優れたシリカである。担体の物性として多孔質が好ましく、特にその平均細孔直径が1nm〜100nmである多孔質が好ましい。担体付触媒の場合、パラジウム金属は通常0.1〜20重量%、他の助触媒金属は0.01〜30重量%の範囲で選定される。この値が小さすぎると、触媒活性の低下によるコスト競争力が低下し、またこの値が大きすぎると、触媒コストの甚大化による競争力が低下してしまう。
【0059】
ジアセトキシ化反応は空気、または酸素富加された空気、窒素など不活性ガスで希釈された空気または酸素、あるいは酸素雰囲気下で行なうことが好ましく、酸素濃度は1vol%〜100vol%の範囲で差し支えなく、より好ましくは2vol%〜50vol%であり、特に好ましくは3vol%〜40vol%である。酸素濃度が低すぎると反応速度が低下し、長大な反応器が必要となり、また酸素濃度が高すぎると、爆発、火災などプロセスの危険性が増大する。本反応は気相、液相のいずれでも行なうことができる。反応温度は0℃〜300℃の範囲であり、好ましくは10℃〜250℃、より好ましくは30℃〜200℃の範囲である。反応温度が低すぎると反応速度が低下し、長大な反応器が必要となり、また反応温度が高すぎると、爆発、火災などプロセスの危険性が増大する。反応圧力は大気圧〜50MPaの範囲が好ましく、より好ましくは大気圧〜30MPa、特に好ましくは1MPa〜20MPaである。ジアセトキシ化反応を液相にて行なう場合には、反応に使用する溶媒は反応原料を溶解するものであれば特に制限は無いが、水、または酢酸等のカルボン酸、あるいは反応原料となるブタジエンそのもの、あるいは1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンなど生成物そのものが好ましい。またn−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタンなどの炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トリグライムなどのエーテル類、酢酸エチル、酪酸n−ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、1,4−ブタンジオールなどのアルコール類なども使用可能である。原料となるブタジエンと触媒との重量比は100000000〜1の範囲が好ましく、より好ましくは50000000〜10の範囲であり、特に好ましくは20000000〜100である。重量比が多すぎると反応速度が不充分となり、長大な反応器が必要となり、またこの重量比が小さすぎると触媒コストが増大し、プロセス競争力を失う。
【0060】
本発明における「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」とは、上記触媒によるブタジエンのジアセトキシ化反応後液そのもの、あるいは酢酸、水などの3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも軽沸点の副生物を一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、あるいは3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも高沸点の副生物を一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、更には軽沸点の副生物及び高沸点副生物の双方を一部あるいは全量を除去したもの等が含まれる。通常、「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」が上記触媒によるブタジエンのジアセトキシ化反応由来の液である場合は、対応する1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを含有している。また3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液は、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテン及び/又は3,4−ジヒドロキシ−1−ブテンを含有する液でも差し支えなく、更に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、及び/又は1,4−ジヒドロキシ−2−ブテンを含んでいても差し支えない。
【0061】
本発明で使用する「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」は通常、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン化合物、及び1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、及びそれらよりも軽沸点の成分、高沸点の成分を含有する液を蒸留塔に導入し、塔底より高沸点の成分を含む1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔上部より3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させて得ることができる。この際、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液は塔頂から軽沸点成分とともに抜き出すことも可能であり、また3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を側流から抜き出して、塔頂から軽沸点成分を留出させても差し支えない。ここで使用する蒸留塔の蒸留時の圧力は任意に設定することができるが、塔底温度を低くするために、塔頂圧力を1〜760mmHgとすることが好ましい。より好ましくは塔頂圧力が5〜200mmHgであり、特に好ましくは10〜100mmHgの範囲である。この塔頂圧力が低すぎると、圧力を保つために多大なコストが必要となり、また高すぎると蒸留塔塔底の温度が高くなり、蒸気コストの増大となってしまう。塔頂温度は通常0℃〜200℃以下であり、好ましくは20℃〜160℃、より好ましくは40℃〜140℃である。塔頂温度が低すぎると特殊な冷却器が必要となりコスト増加となる。また塔頂温度が高すぎると、塔底温度もより高い温度となるために、蒸気コストの増大、更に塔底での分解反応等が進行してしまう。還流比は1〜100で差し支えなく、好ましくは1〜10である。還流比が小さすぎると、分離能の悪化を引き起こし、還流比が高すぎると、必要な熱量が増大し、コスト悪化原因となる。塔頂の留出量は、蒸留塔へ導入した3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、及び1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、及びそれらよりも軽沸点の成分、高沸点の成分を含有する液のうち、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと軽沸点の成分の合計量を留出させることが望ましい。また側流から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させ、塔頂から軽沸点の成分を留出させる場合には、それぞれ側流から導入液中の3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有量、塔頂から軽沸点の成分の含有量を留出させることが好ましい。蒸留塔物質収支は、蒸留塔塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔頂から軽沸点成分を含む3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを留出させる場合で、単位時間あたりの導入流量重要を100とした場合、単位時間あたりの塔頂留出流量が1〜50、好ましくは5〜30である。その際の塔底からの単位時間あたりの1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液の抜き出し量は50〜99が好ましく、より好ましくは70〜95である。また蒸留塔塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔頂から軽沸点成分を留出させ、側流から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させる場合においては、単位時間あたりの導入流量重要を100とした場合、単位時間あたりの塔頂留出流量が0.1〜30であり、好ましくは1〜20である。また側流からの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の留出量は0.9〜50が好ましく、より好ましくは2〜30である。また塔底からの1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液の単位時間あたりの抜き出し量は20〜99が好ましく、より好ましくは50〜97である。
【0062】
蒸留塔としては充填塔、棚段塔のいずれもが使用できるが、多段蒸留が好ましい。3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液と1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を分離するには、蒸留塔理論段を3段以上、特に10段〜50段とするのが好ましい。50段を越える蒸留塔は、蒸留塔建設の経済性、運転難易度、及び安全管理のためには好ましくない。また段数が小さすぎると分離が困難となる。
【0063】
本発明における3,4−ジアセトキシアリル化合物の異性化に使用される触媒は3,4−ジアセトキシアリル化合物を1,4−ジアセトキシアリル化合物に異性化する能力を有していれば特に限定されるものではないが、前述した本発明におけるリン化合物の1種又は複数種、及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金の1種又は複数種からなる均一系錯体触媒であり、また同じく前述したリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金の1種又は複数種の使用量の範囲で実施することができる。
【0064】
ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金の好ましい具体的な金属化合物としては、パラジウム金属、酢酸ロジウム、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、塩化ルテニウム、塩化ロジウム、塩化イリジウム、塩化白金、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロシクロオクダジエンパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金、ビス(ジベンジリアセトン)パラジウム、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、その他、カルボキシレート化合物、オレフィン含有化合物、有機ホスフィン含有化合物、アリルパラジウムクロリド二量体等が挙げられる。
【0065】
触媒としては、パラジウム及びホスファイト配位子又はホスフォラアミダイト配位子からなる錯体触媒が好ましい。この際の異性化反応温度は0℃〜200℃が好ましく、より好ましくは60℃〜160℃であり、特に好ましくは80℃〜140℃である。温度が低すぎると反応速度が低くなり、プロセス効率が悪化し、反応温度が高すぎた場合には触媒劣化が迅速に進行してしまい所望の反応収率を達成することができなくなってしまう。このようなアリル化合物の異性化反応液が本発明に於いて好適である。
【0066】
本発明におけるアリル化合物の異性化反応は、通常液相中で行う。該反応は溶媒の存在下、又は非存在下のいずれでも実施可能である。溶媒を使用する場合、好ましい溶媒として、触媒及び原料化合物を溶解するものであれば使用可能であり特に限定はされない。具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、メタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸n−ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレイト等のエステル類、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類、異性化反応で生成する副生物そのもの、または原料であるアリル化合物そのもの、生成物であるアリル化合物そのもの、原料アリル化合物の脱離基に由来する化合物等が挙げられる。特に好ましくは、酢酸などのカルボン酸類、異性化反応で生成する副生物そのもの、または原料であるアリル化合物そのもの、生成物であるアリル化合物そのものである。溶媒の使用量は特に限定されないが、通常、原料であるアリル化合物の合計重量に対して20重量倍以下、好ましくは10重量倍以下、最も好ましくは5重量倍以下であるり、溶媒量が多すぎる場合には反応速度が低下し、反応器が長大になる。
【0067】
異性化反応を実施する際の反応方式として、攪拌型の完全混合反応器やプラグフロー型の反応器を用いて、連続方式、半連続方式または回分方式のいずれでも行うことができる。反応器内の気相部は、溶媒、原料化合物、反応生成物、反応副生物、触媒分解物等に由来する蒸気以外は、アルゴンや窒素等の不活性ガスで形成されていることが望ましい。特に空気の漏れ込み等による酸素の混入が触媒劣化、即ちリン化合物の酸化消失の原因となるため、その量を極力低減させることが望ましい。
【0068】
異性化後の反応液は、本発明による触媒の分離及び溶媒を蒸留などで除去した後、更に3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液と1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液とに分離する。得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液はそのまま、あるいは更に蒸留などで精製した後、異性化反応器へとリサイクル使用することが望ましい。また分離して得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液は、そのまま、あるいは更なる蒸留などによる精製を経た後、遷移金属触媒存在下、水素化され、1,4−ジアセトキシブタン化合物へと変換される。ここで使用する遷移金属触媒は通常の市販の水素化触媒で差し支えないが、好ましくはパラジウムまたはルテニウムなどの貴金属を含有する触媒、あるいはニッケル触媒である。これら水素化触媒の存在下、40〜180℃の温度範囲で、水素と1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液とを接触させ、常圧〜15MPaの圧力範囲条件で実施することができる。反応温度が高すぎると触媒劣化が迅速に進行してしまい、温度が低すぎると反応速度が低下してしまう。圧力が低すぎると反応速度が低下してしまい、圧力が高すぎると高価な反応器が必要となってしまう。
【0069】
上記、水素化反応により得られた1,4−ジアセトキシブタン化合物は、酸触媒あるいは塩基性物質により水存在下で、加水分解され1,4−ブタンジオールへと変換される。好ましくは固体酸触媒であり、特に陽イオン交換樹脂を触媒として使用するのが、加水分解速度が速く、しかもテトラヒドロフランのような副生物が少ないため、好適である。具体的には、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体を母体とするスルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂であり、ゲル型でもポーラス型のいずれでも差し支えない。反応は通常30〜110℃、好ましくは40〜90℃の温度条件にて実施する。温度が低すぎると加水分解速度が低下し、高価で長大な反応器が必要となる。温度が高すぎるとテトラヒドロフランなど副生物が増加して、1,4−ブタンジオールの収率が低下してしまう。水の量は、1,4−ジアセトキシブタン1モルに対し、通常2〜100モル、好ましくは4〜50モルの範囲の量を使用する。水の量が少なすぎると反応速度が低下し高価で長大な反応器が必要となる。また水の量が多すぎると、加水分解後に1,4−ブタンジオールから水を除去する際に多量のエネルギーが必要とされるために、エネルギーコストが増大してしまう。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、Pd濃度分析は下記のICP−AES法(ICP発光分析法)により行った。
<ICP−AES法の前処理操作>
1) 100ml石英ビーカーに硝酸(有害金属測定用)20mlを入れ、ホットプレ−ト上で時計皿をかぶせ、約20分加熱洗浄後、更に蒸留水で洗浄、乾燥した。
2) 上記1)の100ml石英ビーカーに試料約1gを電子化学天秤で精秤した。
3) 硫酸(有害金属測定用)5ml、硝酸(有害金属測定用)25mlを加えた。
4) 石英製時計皿をかぶせた。
5) ホットプレート又は電気コンロ上で、硫酸の白煙が出るまで加熱分解した。
6) 内液が無色透明になるまで加熱分解を継続する。無色透明にならなければ硝酸(有害金属測定用)をホールピペットで10ml加え、時計皿をかぶせ更に加熱分解を継続した。(透明になる迄、加熱分解した。)
7) 冷却後、王水10mlを加え無色透明になるまで加熱した。
8) 室温まで冷却した後 、25mlメスフラスコに移し入れ、更に蒸留水で蒸発皿内部を洗浄してメスフラスコに移した後蒸留水で標線を合わせた。
9) 空試験も同操作を行い本試験で得られた測定値の補正を行った。
【0071】
<ICP−AES法の分析条件>
使用機器 日本ジャーレルアッシュ製 ICAP−88
測定波長 340.458 nm
【0072】
<実施例1>
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内でテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム8.9mgを3,4−ジアセトキシ−1−ブテン20cc中に溶解し、40ppmのPd溶液とした。この溶液にポリアミン型キレート樹脂としてダイアイオンCR20(三菱化学株式会社製)を0.4g添加し、室温で1時間攪拌した。反応後の溶液を樹脂と分離し、Pd濃度分析を行った結果、Pd濃度は検出限界0.5ppm以下であった。
【0073】
<実施例2>
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内でテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム44mgとトリフェニルホスフィン320mgを3,4−ジアセトキシ−1−ブテン100cc中に溶解し、40ppmのPd溶液とした。この溶液30ccにポリアミン型キレート樹脂としてダイアイオンCR20(三菱化学株式会社製)を6g添加し、室温で1時間攪拌した。反応後の溶液を樹脂と分離し、Pd濃度分析を行った結果、Pd濃度は1.1ppmであった。
【0074】
<実施例3>
トリフェニルホスフィンの代わりにトリオクチルアミンを用いた以外は実施例2と同様にした。Pd濃度分析を行った結果、Pd濃度は0.7ppmであった。
【0075】
<実施例4>
窒素ガス雰囲気下、ガラス製シュレンク内で酢酸パラジウム4.6mgとトリフェニルホスファイト21.9mgを3,4−ジアセトキシ−1−ブテン20cc中に溶解し、90ppmのPd溶液とした。この溶液にポリアミン型キレート樹脂としてダイアイオンCR20(三菱化学株式会社製)を4g添加し、室温で2時間攪拌した。反応後の溶液を樹脂と分離し、Pd濃度分析を行った結果、Pd濃度は2ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価のリン化合物及びルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金のいずれか1つ又は複数を含有する金属溶解液を、ポリアミン型キレート樹脂と接触させ、該金属溶解液から金属成分を除去する方法。
【請求項2】
3価のリン化合物が、リン−酸素結合を含むリン化合物であることを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリアミン型キレート樹脂に金属溶解液を流通させる前に、金属溶解液をpH5〜10の間に調製することを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
金属溶解液中の金属成分がパラジウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを、酢酸溶媒中で、3価のリン化合物を配位子として含有する液相均一系パラジウム触媒により1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化し、得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含む液を、キレート樹脂に接触させ、パラジウムを吸着分離する方法。

【公開番号】特開2007−302938(P2007−302938A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132034(P2006−132034)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】