説明

金属インジウムの製造方法

【課題】金属インジウム含有合金から、高度に精製された金属インジウムを長期間に亘って、高回収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】金属インジウム含有合金の陽極1、陰極2に金属インジウムを使用し、電解質3として、塩化インジウムを主成分とする塩化インジウム−塩化亜鉛溶融塩を使用し、溶融塩電解により、陽極からインジウムを陽イオンとして溶出させ、陰極上に金属インジウムを電析する金属インジウムの製造方法において、塩化インジウム−塩化亜鉛溶融塩中の塩化インジウム含有量が68重量%以上、溶融塩の水分含有量が0.5重量%以下であることを特徴とする金属インジウムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属インジウム含有合金から金属インジウムを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インジウムは、特定の鉱石中に高濃度で含まれることはなく、亜鉛鉱などに微量成分として含まれる希少金属である。近年、インジウムを主成分とするインジウム−スズ酸化物(ITO)は液晶表示装置の透明導電膜などに使用され、その需要が急激に伸びている。そのため、ITO製造工程内から発生したインジウムを含む端材や、ITOをターゲットとして使用した後のスクラップ(これらを総称して「ITOスクラップ」という)から金属インジウムを精製、回収することで、高価な金属インジウムをリサイクル利用する方法が種々検討されている。
【0003】
これらの方法の一つとして、溶融塩電解法による金属インジウムの製造方法が知られている。たとえば、金属インジウム−スズを含む水銀(インジウム−スズアマルガム)を陽極とし、溶融塩電解質を媒体とした溶融塩電解にて、陰極に金属インジウムを回収する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、金属インジウムとスズの標準析出電位が近い為、通常の溶融塩電解では、金属インジウムにスズが混入するので、アマルガムを使用する事により、インジウムを選択的に酸化溶解させる方法がとられている。
【0004】
この方法によってスズをはじめとする不純物を殆ど含まない精製された金属インジウムを回収することは可能であるが、陽極に水銀を用い、温度160℃以上にて溶融塩電解するため、水銀が一部蒸気となって揮発するなど、実施にあたっては健康面や環境面に配慮が要求される方法である。また、陰極に析出した金属インジウム中には微量ながら水銀が含まれ、その水銀除去のため更なる高度な精製技術を組み合わせる必要があった。
【0005】
また、インジウムを含む合金から金属インジウムを回収する方法として、インジウム含有合金を陽極とし、一塩化インジウムを含む溶融塩電解質を用いて電解精製し、陰極に金属インジウムを析出させる方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、塩化インジウムを含む溶融塩は、通常のガス組成、即ち水蒸気濃度が高い空気と接触すると、溶融塩の水分含有量が高くなり、溶融塩が化学反応により変性し、槽電圧の上昇や陰極に析出した金属インジウムの品位を低下させる。又、吸湿により劣化した溶融塩は一部又は全量を交換する必要がある。
【0006】
又、この特許文献2では、塩化インジウムの含有量が50〜67重量%が好ましく、その理由は、50重量%より低い場合は、析出するインジウム中に亜鉛が混入して好ましくなく、67重量%より高い場合は、析出するインジウム中にスズが混入して好ましくないからである。
【0007】
更に、金属インジウム含有合金を陽極とし、塩化インジウムと塩化亜鉛を含む混合溶融塩を用いて電解精製する方法において、該混合溶融塩の耐酸化性を向上させる目的で塩化アンモニウムを添加する方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、塩化アンモニウムの添加は、溶融塩の融点を高め、そのため溶融塩の電気抵抗が高まって電解槽電圧がアップし、不純物含量も高まり、又、塩化アンモニウムの分解生成物であるアンモニアの臭気が作業環境を悪化させるため、その対策として排ガス処理設備が必要となるなど多くの課題があった。
【0008】
一方、塩化アルミニウムを主体として、少なくとも1種の塩化物を含む塩化アルミニウム系溶融塩電解質浴は、アルミニウム又はアルミニウム合金の電気メッキ等に使用されている。この電解質浴中に含まれる水分等の不純物量が多くなると、平滑なメッキ被膜の形成が困難となるため、この不純物を除去すべく、電解質浴の組成を塩化アルミニウム含有量が50モル%以下になるように調整し、沈澱した不純物を浴から分離することによって電解質浴を精製する方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0009】
この方法によって、電気メッキ等の電気化学的操作は可能であるが、この溶融塩は塩化アルミニウムを主体とするため吸湿性が顕著で、加水分解性が著しく、気相部に僅かに漏れ込んだ水分によって溶融塩が変質することがあった。又、塩化アルミニウムは蒸気圧が高いため、塩化アルミニウムの一部が蒸発し、組成が変化し、工業的に長期安定運転が困難であった。又、本発明者らはこの塩化アルミニウムを溶融塩とし、金属インジウム含有合金から金属インジウムの製造を行った。その結果、金属インジウム中に金属アルミニウムが一部電析し、インジウムの純度を低下させるなど、多くの課題があることが判った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭46−2734号公報
【特許文献2】WO2006−046800号公報
【特許文献3】ソビエト特許531380号公報
【特許文献4】特開平04−254600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、前記従来法の種々の問題点を解決できる効果的、効率的な金属インジウムの製造方法、すなわち、金属インジウム含有合金から、高度に精製された金属インジウムを長期間に亘って、高回収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、金属インジウム含有合金から金属インジウムを製造する技術について鋭意検討した結果、溶融塩電解精製に用いる電解質の種類とその組成を適正化し、且つ溶融塩中の水分含有量を適正化することで、陰極に析出する金属インジウムの純度を高くでき、溶融塩の電解質を安定化させ、効率良く金属インジウムを電析回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、金属インジウム含有合金の陽極、陰極に金属インジウムを使用し、電解質として、塩化インジウムを主成分とする塩化インジウム−塩化亜鉛溶融塩を使用し、溶融塩電解により、陽極からインジウムを陽イオンとして溶出させ、陰極上に金属インジウムを電析する金属インジウムの製造方法において、塩化インジウム−塩化亜鉛溶融塩中の塩化インジウム含有量が68重量%以上、溶融塩の水分含有量が0.5重量%以下であることを特徴とする金属インジウムの製造方法に関する。
【0014】
尚、本発明における水分含有量とは、溶融塩の湿量をベースとした値であり、湿量とは、水分を含んだ溶融塩の単位重量当りの水分量を示す(粉体工学会編、「粉体工学便覧」第588頁(1986年)参照)
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明において、陽極には金属インジウム含有合金を用いる。本発明における合金とは、金属インジウムと他の一種類以上の金属元素及び/又は非金属元素からなる金属様のものをいい、その結合状態などについては特に限定しない。金属インジウムの含有量についても特に限定しない。すなわち、金属インジウムが主成分であっても、微量含まれるものであっても好適に用いることができる。金属インジウムの精製度合い、インジウムの回収率、インジウムの生産性から、金属インジウム含有合金中の金属インジウム含有量は好ましくは100重量ppmから99.999重量%、より好ましくは1重量%から99.99重量%、更に好ましくは60重量%から99.9重量%である。
【0016】
金属インジウム含有合金中の金属インジウム以外の金属の種類は特に限定しないが、例を挙げるとLi,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,As,Se,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Tl,Pb,Biから選ばれた1種以上である。
【0017】
これらの中で溶融塩電解におけるインジウムとの分離精製が良好な金属は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc,Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,Sn,Cs,Ba,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Tl,Pb,Biであり、特にSn,Cu,Fe,Si,Ni,Pb,Na,Ca,Mgは、インジウムとの分離精製が容易であり好ましい。
【0018】
又、金属インジウム含有合金としては、金属インジウムをハンダとして使用した後の使用済みインジウムハンダや、インジウム化合物を還元処理して得られた金属インジウム含有合金等も使用することができる。インジウム化合物としては、インジウムを含む化合物であれば特に限定しないが、具体的には酸化インジウム,水酸化インジウム,塩化インジウム,硫酸インジウム,硝酸インジウム等やITOスクラップを挙げることができる。
【0019】
例えば、ITOスクラップから金属インジウム含有合金を得る方法としては、ITOスクラップを還元剤にて還元処理する方法、ITOスクラップを、塩酸、硝酸、硫酸等やこれらの混酸等の酸性水溶液に溶解して、塩化インジウム、硫酸インジウム又は硝酸インジウム等を得、次いでアルカリを添加することで水酸化インジウムを含む化合物とし、更に該水酸化インジウムを含む化合物を加熱処理して酸化インジウムに転化させた後に、還元剤と反応させることで金属インジウム含有合金を得る方法や、塩化インジウム、硫酸インジウム又は硝酸インジウムを含む水溶液とした後、インジウムよりも卑な金属、具体的には金属アルミニウムや金属亜鉛を添加することで、金属インジウム含有合金を置換析出させ、金属インジウム含有合金を得る方法等を挙げることができる。
【0020】
本発明に用いる溶融塩としては、先ずインジウムを含む塩が当然ながら必須である。
【0021】
その種類として、融点が低く、且つ、耐酸化性に優れ、電気抵抗が低い特徴を有する点から、本発明では、塩化インジウムを使用する。しかしながら、塩化インジウムを単独で使用すると、インジウムは希少金属で、高価であるため、経済的ではない。
【0022】
そこで、塩化インジウム以外の塩を含む混合溶融塩として使用するが、その塩として、吸湿性及び加水分解性が低く、比較的融点も低い特徴を有する点を考慮して、塩化亜鉛を併用した。
【0023】
その溶融塩中の塩化インジウムの含有量は68重量%以上とし、更に、溶融塩の水分含有量が0.5重量%以下とすることを必須とする。塩化インジウムの含量が68重量%より少ない場合、即ち塩化亜鉛含量が32重量%以上では、陰極に亜鉛がかなり電析し、金属インジウムの純度が低下する。更に、塩化亜鉛は溶融塩中において導電率が低く、32重量%以上含有すると液抵抗が大きくなり、電解槽電圧がアップし、ランニングコストがアップするため経済的ではない。本発明における溶融塩では、塩化インジウムを68重量%以上含むことで電解槽電圧を低くでき、又融点を低くでき、運転操作温度を低くできる。これらのことから溶融塩中の塩化インジウムの含有量としては、70重量%以上が好ましく、75重量%以上がより好ましい。
【0024】
また、既述の様に、特許文献2では、塩化インジウムの含有量が67重量%より高い場合は、析出するインジウム中にスズが混入して好ましくないと記載されているが、本発明では、塩化インジウム含有量を68重量%以上にするだけでなく、溶融塩の水分含有量が0.5重量%以下とすることにより、インジウム中にスズが混入せず、更に、溶融塩中において導電率が高くなり、液抵抗が小さくなり、電解槽電圧が低下してランニングコストが低減するため経済的であることを明らかにして、本発明を完成した。
【0025】
本発明で用いる溶融塩では、塩化インジウムの含有量を68重量%以上とし、溶融塩の水分含有量が0.5重量%以下とする。前述の特許文献4における溶融時においては、溶融塩中の水分含有量を0.5重量重量%以下とすることが記載されているが、この先行文献における塩化インジウム含有量は50モル%以下(=53重量%以下)であり、塩化インジウム含有量やその作用が本発明とは全く相違する。
【0026】
溶融塩に含まれる塩化インジウムには、インジウムの価数が1価、2価、3価であるInCl、InCl、InClがあり、いずれか1種以上を含むことを必須とする。より好ましくは、融点が低く、より低温での溶融塩電解が可能なInClである。InClを含む溶融塩電解質浴では、インジウムは1価で移動するため、3価であるInClに比べ、同じ電気量でもInの生産速度を3倍にできることからも好ましい。
【0027】
本発明の溶融塩の水分含有量については、0.5重量%以下とする。水分含有量が0.5重量%を越えると、溶融塩中には固形物が析出し、陰極上での金属インジウムの電析を阻害し、電流効率の低下を招き、更には、理由は定かではないが、陰極に析出する金属インジウム中の不純物含量が高くなり、十分な精製ができないことがあるからである。
【0028】
尚、本発明における溶融塩中の水分含有量とは、溶融塩電解開始当初〜溶融塩電解終了するまでの運転中のいずれかの時点における水分量を示すものである。最も好ましい態様は、運転開始前に溶融塩の水分を脱水し、溶融塩中における水分含有量0.5重量%以下に低減し、運転中も溶融塩の水分吸収を防止し、0.5重量%以下を維持することである。更に、好ましい溶融塩の水分含有量は、0.4重量%以下である。
【0029】
溶融塩と接触している気相部の水蒸気濃度は特に限定しないが、水蒸気濃度が低い場合、溶融塩の水分は蒸発するが、逆に高い場合、溶融塩が吸湿し水分含有量が高くなることもある。そのため、水分含有量を低く維持する方法の一つとして、電解槽中の気相部の水蒸気濃度を低く維持する方法がある。具体的には、気相部の水蒸気濃度を1容量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.5容量%以下である。又、溶融塩と接触している気相部の成分は特に限定することなく、例えば、空気,窒素,アルゴン,ヘリウム,水素,一酸化炭素,二酸化炭素などを使用することができる。好ましくは気相中の酸素濃度を10容量%以下とすることであり、溶融塩中の溶存酸素濃度を低く維持でき、溶融塩や電析インジウムの酸化防止になるからである。更に好ましくは主成分を窒素、アルゴン、ヘリウムから選ばれた1種以上とすることである。
【0030】
溶融塩電解に用いる電解槽の形状は、陽極室と陰極室が接しておらず、直接電気が流れない構造であれば特に制限はない。即ち、陽極室と陰極室が隔離された構造であればよく、例えば、成書「溶融塩技術は21世紀のキーテクノロジー 溶融塩の応用(アイピーシー出版編)」で紹介されている、通常使用される溶融塩電解槽を適用できる。陽極、陰極が固体であるか液体であるか、運転操作が連続式か回分式か、等の運転操作方法によっても、適正な電解槽形状は異なり、適宜選定すれば良い。
【0031】
具体的には、陽極室の金属インジウム含有合金が溶融しており、陰極室の金属インジウムも溶融している場合、陰極室と陽極室を隔壁にて仕切り、両極の上部を溶融塩電解質浴で塩橋させた構造、或いは電解槽形状が円筒型であって、陽極が溶融塩電解質浴の中央部の絶縁性の容器に入れられ、陽極を囲むように陰極が配置された電解槽などを挙げることができる。溶融塩電解槽のガス雰囲気は、前述の通り、水蒸気濃度や酸素濃度を低くすることで溶融塩の安定性をアップできることもある。更に、溶融塩電解槽の構造によっては、溶融塩が気相部と接触する面積を低減し溶融塩の吸湿を抑制できることもある。好ましくは気相部との接触面積を、単位溶融塩容量当たり0.1〜100m/mとすることであり、より好ましくは0.2〜80m/mである。
【0032】
このような溶融塩電解法では、電流密度を高くできることが一つの特徴であり、電流密度は1〜200A/dmが好ましい。1A/dm未満で運転すると、単位電極面積当たりの生産速度が低下する場合がある。生産性の面からは電流密度は高いほど良いが、200A/dmを超える電流密度では陰極に金属インジウムが析出する際、不純物を取り込み、高純度のインジウムが得にくくなることがある。電流密度としては、より好ましくは2〜100A/dm、更には、3〜50A/dmである。
【0033】
又、溶融塩電解の操作温度は、溶融塩電解質浴の融点以上であれば特に限定されない。装置材質の腐食、溶融塩電解の運転操作面から90〜500℃が好ましく、100〜450℃が更に好ましい。
【0034】
更に、溶融塩電解に要する時間は、十分な回収率および不純物の混入を回避するために、合金中に含まれるインジウムの50〜100%を電解できる時間行えば十分である。
【0035】
以上述べた適正な運転条件にて電解することで、陰極に高純度な金属インジウムを析出することができるが、該金属インジウムが目標とする純度にまで達成していない場合は、同様の操作で溶融塩電解を更に1回以上実施して目標とする純度に達するまで精製しても良い。あるいは、不純物の種類によっては、従来から知られている金属インジウムの精製方法を組み合わせて実施しても良い。具体的には、アルカリ金属水酸化物を用いたアルカリ溶鋳法や塩化アンモニウム等の塩素化剤を用いた塩化法等を採用でき、これらの精製技術を適宜組み合わせることで、より効果的、効率的に金属インジウムを製造することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の方法によれば、金属インジウム含有合金から、高度に精製された金属インジウムを長期間に亘って、高回収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本実施例1、2および比較例1で使用したH型電解槽を模式的に表した図である。
【図2】本実施例3および比較例2、3、4で使用したH型の連続式電解槽を模式的に表した図である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0039】
なお、本発明における溶融塩中の水分含有量の測定方法は、溶融塩を脱水メタノール溶媒に溶解し、一部をサンプリングし、カールフィッシャー試薬(シグマアルドリッチ社製、商品名「ハイドラナールコンポジット5」)にて滴定して算出した。
【0040】
実施例1
金属インジウム含有合金の原料として、ITOターゲット製造時に発生したITOスクラップ(酸化インジウム91.1重量%、酸化スズ8.9重量%)1814gをクラッシャーで平均粒径51μmに粉砕し、粉砕粉1735gと還元剤のグラファイト(ロンザ社製、商品名「KS−75」)170.9gを混合後、混合物を内容積1Lの磁製ルツボに入れ、電気炉に仕込んだ。電気炉内は窒素ガスにて置換後、炉壁の温度を1100℃まで6時間で昇温し、1100℃で3時間保持した。反応終了後、電気炉内を冷却し、還元生成物と未反応原料粉の合計重量を測定したところ1456.3gであった。
【0041】
該処理物をX線回折装置にて分析したところ、スクラップ中にあった酸化インジウムの回折ピークは弱くなり、代わりに金属インジウムの強いピークが認められたため、粉砕したITOスクラップ中の酸化インジウムの還元が良好であることを確認した。又、酸化スズもほぼ全量金属スズに転化しており、還元生成物はインジウム−スズ合金であることを確認できた。
【0042】
次に、該合金から金属インジウムを精製回収するため、溶融塩電解を実施した。電解槽は図1に示すような、パイレックス(登録商標)ガラスにて製作した内径2cm、高さ13cmのH型電解槽とし、陽極には還元生成物であるインジウム−スズ合金63.2gを、陰極には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム29.9gを仕込んだ。また、仕込みの溶融塩重量は70.3gであり、その組成は一塩化インジウム73.5重量%(=71.5モル%)、塩化亜鉛28.5モル%とした。そしてこの時の水分含有量は0.4重量%であった。
【0043】
次いで、該電解槽の陽極と陰極に白金導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を240℃として溶融塩電解を実施した。溶融塩電解は、定電流装置(菊水電子工業(製)、商品名「PMC18−5」)を用い、電流値0.94A、電流密度30A/dmに設定して8時間通電した。
【0044】
その結果、陽極室に仕込んだインジウム−スズ合金からは金属インジウム31.5gが溶解し、陰極室から金属インジウム61.1gが得られ、電解終了時の溶融塩中の水分含量は0.3重量%であった。陰極室への仕込量は29.9gであったので、電析量は31.2gになる。
【0045】
又、電解槽電圧は4.5Vで推移した。
【0046】
陰極の金属インジウムの一部を取り出し、塩酸にて溶解後、ICP分析装置にて不純物含量を求め、仕込金属インジウムの量と純度から補正した電析金属インジウム中のスズ含量は95重量ppmと低く、亜鉛含量も2重量ppmと低く良好であった。
【0047】
この回収された金属インジウムを原料として酸化インジウムを製造し、その酸化インジウムと酸化スズとからITOターゲットを製造し、ITOターゲットとしてのスパッタリング性能を評価した。その結果、ノジュールの発生が殆ど認められず、ITOターゲットの製造原料として再利用可能であった。
【0048】
実施例2
実施例1の還元により回収したインジウム−スズ合金を用い、実施例1と同様のパイレックス(登録商標)ガラス製H型電解槽を用いて溶融塩電解精製を実施した。
【0049】
陽極室には該合金61.7gを、陰極室には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム30.4gを仕込んだ。仕込みの溶融塩重量は75.4gであり、その組成は一塩化インジウム73.6重量%(=71.6モル%)、塩化亜鉛28.4モル%、水分含量0.5重量%とした。該電解槽の陽極と陰極に白金導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を240℃として溶融塩電解を実施した。
【0050】
溶融塩電解は、実施例1にて用いた定電流装置を用い、電流値0.94A、電流密度30A/dmに設定して14時間通電した。
【0051】
その結果、陽極室に仕込んだインジウム−スズ合金からは55.8gが溶解し、陰極室からは86.1gが得られ、電解終了時の溶融塩中の水分含量は0.3重量%であった。陰極室への仕込量は30.4gであったので、電析量は55.7gになる。陰極の金属インジウムの一部を取り出し、塩酸にて溶解後、ICP分析装置にて不純物含量を求め、仕込金属インジウムの量と純度から補正した電析金属インジウム中のスズは520重量ppm、亜鉛含量も3重量ppmと低く良好であった。また、陽極室に仕込んだインジウム重量56.5gに対し、陰極室に電析させたインジウム重量55.7gで、回収率98.6%と良好であった。
【0052】
又、電解槽電圧は4.8Vで推移した。
【0053】
比較例1
実施例1の還元により回収したインジウム−スズ合金を用い、実施例1と同様のパイレックス(登録商標)ガラス製H型電解槽を用いて溶融塩電解精製を実施した。陽極室には該合金63.3gを、陰極室には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム30.1gを仕込んだ。仕込みの溶融塩重量は70.8gであり、その組成は一塩化インジウム73.5重量%(=71.5モル%)、塩化亜鉛28.5モル%であった。水分含有量は溶融塩に水分を添加して0.9重量%とした。
【0054】
該電解槽の陽極と陰極に白金導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を240℃として溶融塩電解を実施した。溶融塩電解は、実施例1にて用いた定電流装置を用い、電流値0.94A、電流密度30A/dmに設定し、実施例2と同様に14時間通電した。
【0055】
その結果、陽極室に仕込んだインジウム−スズ合金からは53.8gが溶解し、陰極室からは83.7gが得られ、電解終了時の溶融塩中の水分含量は0.8重量%であった。陰極室への仕込量は30.1gであったので、電析量は53.6gになる。陰極の金属インジウムの一部を取り出し、塩酸にて溶解後、ICP分析装置にて不純物含量を求め、仕込金属インジウムの量と純度から補正した電析金属インジウム中のスズは1860重量ppm、亜鉛含量も52重量ppmと高かった。また、陽極室に仕込んだインジウム重量57.2gに対し、陰極室に電析させたインジウム重量は53.7g、インジウム回収率93.9%と、実施例2の98.6%より低かった。
【0056】
又、電解槽電圧は不安定で初期5.2V、運転終了直前6.1Vにアップした。
【0057】
実施例3
使用済みインジウムハンダから金属インジウムを精製回収するため、溶融塩電解精製を実施した。使用済みインジウムハンダは、主成分のインジウムを99.22重量%、不純物であるスズを4580重量ppm、銅を3220重量ppmを含んでいた。
【0058】
溶融塩電解精製は、図2に示すパイレックス(登録商標)ガラス製H型の連続式電解槽を用いた。陽極室には該合金143.9gを、陰極室には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム49.1gを仕込んだ。仕込みの溶融塩重量は127.1gであり、その組成は一塩化インジウム68.1重量%(=65.9モル%)、塩化亜鉛34.1モル%とした。この時の水分含有量は0.4重量%であった。該電解槽の陽極と陰極にステンレス導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を290℃とし、電解槽のガス相に、窒素ガスを1.2L/hrで連続的に流通しながら溶融塩電解を実施した。この時の窒素ガス中の水蒸気濃度は0.1vol%であった。
【0059】
溶融塩電解は、実施例1にて用いた定電流装置を用い、電流値0.45A、電流密度20A/dmに設定して30日間、連続通電した。陽極室のインジウムは電解され、保持量が減少するため、1日に1回使用済みインジウムハンダ46.3gを供給した。陰極室に電析した金属インジウムはオーバーフロー管より連続的に流出させることで回収した。
【0060】
その結果、陰極室から回収した金属インジウムの重量、陰極室の電流効率、そして不純物スズ,銅,亜鉛の含有量を、以下の表1に示す。
【0061】
【表1】

この表から、30日間の連続運転にも拘らず、陰極室からは金属インジウムが電流効率99%以上で回収でき、更に、30日間に亘って、不純物スズ、銅、亜鉛の含有量は少なく、良好な結果であった。又、運転終了後に溶融塩中の水分含有量を測定した結果0.2重量%と低く良好であった。
【0062】
又、電解槽電圧は、陽極室にインジウムハンダを供給する直前が極間距離が最大となるため3.5Vと高く、入れた直後は極間距離が最小となり2.5Vとなった。この電解槽電圧は30日間に亘ってほぼ一定で推移した。
【0063】
比較例2
実施例3にて使用した使用済インジウムハンダから金属インジウムを精製回収するため、溶融塩電解精製を実施した。
【0064】
溶融塩電解精製は、実施例3と同様、図2に示すパイレックス(登録商標)ガラス製H型の連続式電解槽を用いた。陽極室には該合金140.3gを、陰極室には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム50.4gを仕込んだ。仕込みの溶融塩重量は125.6gであり、その組成は一塩化インジウム63.1重量%(=60.8モル%)、塩化亜鉛39.2モル%とした。この時の水分含有量は0.4重量%であった。該電解槽の陽極と陰極にステンレス導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を290℃とし、電解槽のガス相に窒素ガスを1.2L/hrで連続的に流通しながら溶融塩電解を実施した。この時の窒素ガス中の水蒸気濃度は0.1vol%であった。
【0065】
溶融塩電解は、実施例1にて用いた定電流装置を用い、電流値0.45A、電流密度20A/dmに設定して30日間、連続通電した。陽極室のインジウムは電解され、保持量が減少するため、1日に1回使用済みインジウムハンダ45.2gを供給した。陰極室に電析した金属インジウムはオーバーフロー管より連続的に流出させることで回収した。
【0066】
その結果、運転終了後に溶融塩中の水分含有量を測定した結果0.3重量%と低かった。又、陰極室から回収した金属インジウムの重量、陰極室の電流効率、そして不純物スズ,銅,亜鉛の含有量を、以下の表2に示す。
【0067】
【表2】

この表から、30日間の連続運転中、電流効率は約97%で、実施例3の99%以上よりも低く生産性が劣り、不純物の亜鉛含有量も多く、十分な精製ができなかった。
【0068】
比較例3
比較例2に用いた使用済みインジウムハンダを用い、実施例3と同様のパイレックス(登録商標)ガラス製H型の連続式電解槽を用いて電解精製を実施した。陽極室には該合金145.7gを、陰極室には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム50.4gを仕込んだ。仕込みの溶融塩重量は128.6gであり、その組成は一塩化インジウム63.2重量%(=61.5モル%)、塩化亜鉛38.5モル%とした。水分含有量は、溶融塩に水分を添加して0.7重量%とした。該電解槽の陽極と陰極にステンレス導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を290℃とし、電解槽のガス相には、水蒸気濃度1.5vol%の空気を1.2L/hrで連続的に流通しながら溶融塩電解を実施した。
【0069】
溶融塩電解は、実施例1にて用いた定電流装置を用い、電流値0.45A、電流密度20A/dmに設定して連続通電した。陽極室のインジウムは電解され、保持量が減少するため、1日に1回使用済みインジウムハンダを供給した。陰極室に電析した金属インジウムはオーバーフロー管より連続的に流出させることで回収した。
【0070】
その結果、溶融塩中には白色固形物が大量に生成し、運転開始10日目にはで電流効率76%まで低下したので停止した。この間の運転結果、すなわち回収した金属インジウム重量、陰極室の電流効率、そして不純物スズ,銅,亜鉛の含有量を、以下の表3に示す。
【0071】
【表3】

この表から、陰極室の電流効率は95.5%から76.0%に急激に低下し、又、不純物スズ、銅の含有量は高く十分な精製ができなかった。10日間の連続運転終了後に溶融塩中の水分含有量を測定した結果3.5重量%に増加していた。
【0072】
比較例4
比較例2に用いた使用済みインジウムハンダを用い、実施例3と同様のパイレックス(登録商標)ガラス製H型の連続式電解槽を用いて電解精製を実施した。陽極室には該合金141.7gを、陰極室には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム48.5gを仕込んだ。仕込みの溶融塩重量は135.3gであり、その組成は一塩化インジウム46.6重量%(=45.3モル%)、塩化亜鉛54.7モル%、水分含有量0.4重量%とした。該電解槽の陽極と陰極にステンレス導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を290℃とし、電解槽のガス相には、水蒸気濃度0.1vol%の窒素ガスを1.2L/hrで連続的に流通しながら溶融塩電解を実施した。
【0073】
溶融塩電解は、実施例1にて用いた定電流装置を用い、電流値0.45A、電流密度20A/dmに設定して連続通電した。陽極室のインジウムは電解され、保持量が減少するため、1日に1回使用済みインジウムハンダを供給した。陰極室に電析した金属インジウムはオーバーフロー管より連続的に流出させることで回収した。
【0074】
回収した金属インジウム重量、陰極室の電流効率、そして不純物スズ,銅,亜鉛の含有量を、以下の表4に示す。
【0075】
【表4】

この表から、陰極室から回収したインジウム中には亜鉛含有量が非常に高く、精製が不十分であったため、運転を3日間で停止した。
【0076】
比較例5
比較例2に用いた使用済みインジウムハンダを用い、実施例3と同様のパイレックス(登録商標)ガラス製H型の連続式電解槽を用いて電解精製を実施した。陽極室には該合金137.5gを、陰極室には別途準備した純度99.999重量%の金属インジウム51.6gを仕込んだ。仕込みの溶融塩重量は115.4gであり、その組成は一塩化インジウム26.2重量%(=25.5モル%)、塩化アルミニウム74.5モル%とした。この時の水分含有量は0.5重量%であった。該電解槽の陽極と陰極にステンレス導線を挿入し、電解槽ごと電気マッフル炉に入れ、電解槽の温度を250℃とした。溶融塩電解は、電流値0.45A、電流密度20A/dmに設定して通電した。電解槽のガス相には、水蒸気濃度0.3vol%の窒素ガスを1.2L/hrで連続的に流通しながら溶融塩電解を実施した。
【0077】
その結果、運転開始13hr後、排ガスラインに白色固形物がスケーリングし、ラインが閉塞し、連続運転が困難となったため停止した。運転停止直前の陰極室から流出したインジウム中不純物含量を、以下の表5に示す。
【0078】
【表5】

この表から、陰極室から回収したインジウム中にはアルミニウム含有量が非常に多く、精製が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、金属インジウム含有合金から金属インジウムを精製回収する方法に関する。
【符号の説明】
【0080】
1:陽極(室)粗In合金
2:陰極(室)精製In
3:溶融塩
4:陽極導線(保護管付白金導線)
5:陰極導線(保護管付白金導線)
6:陽極(室)粗In合金
7:陰極(室)精製In
8:溶融塩
9:陽極導線(SUS線)
10:陰極導線(SUS線)
11:粗In合金投入口
12:精製Inオーバーフロー口
13:ガス導入口
14:排ガス出口
15:ガス連通管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属インジウム含有合金の陽極、陰極に金属インジウムを使用し、電解質として、塩化インジウムを主成分とする塩化インジウム−塩化亜鉛溶融塩を使用し、溶融塩電解により、陽極からインジウムを陽イオンとして溶出させ、陰極上に金属インジウムを電析する金属インジウムの製造方法において、塩化インジウム−塩化亜鉛溶融塩中の塩化インジウム含有量が68重量%以上、溶融塩の水分含有量が0.5重量%以下であることを特徴とする金属インジウムの製造方法。
【請求項2】
塩化インジウムが一塩化インジウムであることを特徴とする請求項1記載の金属インジウムの製造方法。
【請求項3】
水蒸気濃度が1容量%以下のガス雰囲気中にて溶融塩電解する請求項1乃至2記載の金属インジウムの製造方法。
【請求項4】
酸素濃度が10容量%以下のガス雰囲気中にて溶融塩電解する請求項1〜3のいずれかに記載の金属インジウムの製造方法。
【請求項5】
ガス雰囲気が窒素、アルゴン、ヘリウムから選ばれた1種以上であるガス雰囲気中である請求項3又は請求項4に記載の金属インジウムの製造方法。
【請求項6】
溶融塩電解の操作温度が140〜500℃である請求項1〜5のいずれかに記載の金属インジウムの製造方法。
【請求項7】
金属インジウム含有合金が、インジウム化合物を還元処理して得られる合金である請求項1〜6のいずれかに記載の金属インジウムの製造方法。
【請求項8】
インジウム化合物が酸化インジウム含有物質である請求項7に記載の金属インジウムの製造方法。
【請求項9】
酸化インジウム含有物質がITOスクラップである請求項8記載の金属インジウムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−122197(P2011−122197A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280006(P2009−280006)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】