説明

金属コロイドの調製

結果として生じる非常に安定なコロイドから成る銀コロイド溶液の製造方法が記述され、その方法は、ヒドロキシルアミン塩の水溶液をアルカリ水溶液に添加する工程と、続いて前記混合物の中に金属イオンの水溶液を分散させる工程とを含み、前記ヒドロキシルアミンを前記金属イオンと混合した際に、そのアニオンが非常に低い水への溶解性を有する金属塩を形成することになるように前記ヒドロキシルアミン塩が選択される、金属コロイド溶液を製造する方法であって、前記金属イオン溶液は、前記金属イオンが前記混合物中に1秒以内に実質的に完全に分散される方法で前記混合物中に投入される。熟成期間は、上昇された温度におけるのが好ましく、結果としてコロイドの特性が更に変化を生じない安定状態をもたらす。前記コロイドを最大の安定性のためにポリスチレン容器中で製造し保存することが好ましい。このような方法で結果として生じるコロイドは、長い保存寿命を有し、小さい粒径および低い蛍光ノイズレベルを有する高い光散乱特性を示し、ラマン分光分析に特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は安定な金属コロイドの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
何年もの間、分析化学者は、ラマン分光法が微量検体の検出に必要な感度を達成できないために、ラマン分光法を用いなかった。この主な理由はサンプル又は基材のいずれかに由来する蛍光の非常に高いノイズレベルのためである。
【0003】
1974年に、フライシュマン(Fleischman)は、ラマン分光法を使用して銀電極上のピリジンの電気化学的反応を研究しているときに、銀が多量の蛍光ノイズを抑制させるとともに、ピリジンのラマン信号に顕著な増強があることを見いだした。 銀表面が粗面であり平滑でない場合にのみ、表面増強を実現できることが知られている。
【0004】
クレイトン(Creighton)と共同研究者によって、1979年に、水溶液中で銀(Ag)又は金(Au)のコロイド分散体を利用する可能性が初めて実証された(Creighton, J.A.; Blatchford, CG. ; Albrecht, M. G. J Chem. Soc, Faraday Trans. 2 、1979年 75巻、790頁)。銀コロイドを用いて、等価な又はもっと高い表面増強が見いだされた。あるコロイドは溶液における金属粒子の懸濁体である。最適の効果を達成するには、銀コロイド粒子の凝集を制御することが必要であり、凝集剤として有機化合物又は無機化合物を使用するのが一般的である。
【0005】
この表面増強効果の使用により、感度の大幅な増加が達成でき、それ以降、表面増強ラマン散乱(SERS)分光法及び表面増強共鳴ラマン散乱(SERRS)分光法の分析技術が発展した。
【0006】
これらの技術の使用は指数関数的に増加したが、主要な問題は、良好な光散乱特性を有し蛍光ノイズを抑制できる安定なコロイドを製造することである。コロイドが引き続き安定であるためには、銀粒子はいつまでも懸濁したままでなければならないが、多くの場合で凝集が発生し、銀は溶液から沈降することが知られている。
【0007】
銀コロイドは、水素化ホウ素ナトリウム又はクエン酸ナトリウムを用いた化学的還元によって調製できる。クエン酸塩還元コロイドはより安定性が高いことが周知であり、 多くの分析者はP.C.リー(Lee)及びO.マイゼル(Meisel)によって発表された方法を使用してこれらを調製した(P.C. Lee and O. Meisel ; J.Phys.Chem., 1982年、86巻、3391−3395頁)。しかしながら、この方法では、バッチごとの再現性が困難であり、安定性、すなわち保存寿命が変動することが周知である。この方法によるこのような銀コロイドの調製には、超清浄なガラス器具の使用及び温度、撹拌速度などの精密な制御が必要である。
【0008】
この原型の方法が発表されて以来ずっと、この原型方法の改良が発表されてきた(C.H.Munro, W.E. Smith 及び P.C. White, Analyst 1993年、118巻、733−735頁)。既知の原型を改良したこの発表方法により、銀コロイドの特性にいくらかの改善がもたらされたが、コロイドの長期安定性はまだ依然として課題となっている。
【0009】
所望の光散乱特性を有した銀コロイド製造における以前の試みは芳しくない結果であり、この不本意な結果により、実際は硝酸銀におけるナトリウムイオンの性質が好適な安定性及び保存寿命を持つ銀コロイドを獲得する試みを失敗させた原因であると認識された見識に立ち向かう勇気が無くなっていた。PCT国際公開特許WO2007/107792において、本発明者らは、硝酸銀の還元にクエン酸ナトリウムの代わりにクエン酸リチウムを使用することによって、良好なSERRS特性を有し非常に安定な銀コロイドを製造する方法を開示し、特許権を請求している。
【0010】
ヒドロキシルアミン塩酸塩を使用して硝酸銀をアルカリ性のpHにおいて室温で還元することは、N.レオポルド(Leopold);B.レンディ(Lendi)により発表されている(Leopold,N.; Lendi,B; J.Phys,Chem. 2003年、107巻、5723−5727)。この論文に発表された結果は、そのコロイドが大きな粒径分布を有し、広いバンド幅及び高いλ(max)値を有するということを示す。これらの特性は品質の悪いコロイドに典型的であり、良好なSERRSスペクトルを与えるとは予想できない。提出されたスペクトルは、高レベルの蛍光ノイズを示し、このことは銀粒子への染料の吸着性が劣ったものに典型的である。その論文では、コロイドの、異なったバッチ由来のSERRSスペクトルの安定性又は再現性について言及がなく、その安定性又は再現性はSERRS分光法においてずっと主要な問題であった。
【0011】
金コロイドは種々のナノテクノロジー応用分野、例えば、バイオセンサー、並びにラマン分光分析に使用できる。コロイド形態のその他の金属は、同様な応用分野に利用できる可能性があり、又は新規応用分野を見いだす可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「Creighton, J.A.; Blatchford, CG. ; Albrecht, M. G. J Chem. Soc, Faraday Trans. 2 、1979年 75巻、790頁」
【非特許文献2】「P.C. Lee and O. Meisel ; J.Phys.Chem., 1982年、86巻、3391−3395頁」
【非特許文献3】「C.H.Munro, W.E. Smith 及び P.C. White, Analyst 1993年、118巻、733−735頁」
【非特許文献4】「Leopold,N.; Lendi,B; J.Phys,Chem. 2003年、107巻、5723−5727」
【非特許文献5】「Abdali,S.;Johannessen,C.;Nygaard,J.;Norbygaard,T.,J.Phys.Condens.Matter, 2007年、19巻、285205−285212頁」
【非特許文献6】「Faulds,K.;Littleford,R.E.;Graham,D.;Dent,G.;Smith,W.E.,Anal. Chem., 2004年、76巻、592−598頁」
【発明の概要】
【0013】
本発明によると、金属コロイド溶液を製造する方法は、アルカリの水溶液にヒドロキシルアミン塩の水溶液を添加する工程と、続いてその混合物中に金属イオン水溶液を分散させる工程とを含み、そのアニオンが、前記金属イオンと混合した際に水への溶解性が非常に低い金属塩を形成することになるようにヒドロキシルアミン塩が選択される方法であって、金属イオンが前記混合物の中に実質的に1秒以内、及び好ましくは0.5秒以内で、混合物全体に分散されるような方法で、金属イオン溶液を前記混合物中に投入する。
【0014】
金属イオンの投入は高速ジェットを用いた高速注入によって達成できるであろう。現在は、このことは非常に小容積の溶液を使用して、例えば、プランジャーピペットを使用して小容積の金属イオン溶液をヒドロキシルアミン溶液の中に注入することによって最も良好に達成できる。本発明の方法は、例えば、小さい液滴が迅速かつ高速に噴出される、インクジェットプリンターで使用されるもののような高速、低容積噴射技術を有利に採用できる。金属イオンは銀又は金が好適であるが,その他の金属、例えば、銅もまたコロイドを製造するために使用できる。銀は硝酸銀溶液の形態であってよい。
【0015】
アルカリは水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムのような強塩基が好ましく、水酸化ナトリウムが推奨される。大気中の炭酸ガス吸収が結果に影響を及ぼすと考えられるため、アルカリ溶液は新規に調整されるのが好ましく、−数時間、2時間でさえも、放置した水酸化ナトリウムに使用により、より高いλ(max)、減少した吸光度及びより大きなバンド幅の値を有した黒っぽいコロイドがもたらされることが認められた。
【0016】
結果によれば、UV及びSERRSの最高に望ましい特性を有したコロイドを製造するのに最適な期間は、後続の混合工程が10秒以内で完全な分散が得られるように実施する場合であることが示された。混合工程をより短時間で(2秒)又はより長時間(30秒)で実施すると、この場合はより不安定なコロイド形態の著しく劣った結果になる。
【0017】
本出願人の方法で製造されたコロイドは、極めて優れたUV特性を提供することが示されている。1cmパス長のキュベット中での希釈コロイド調製物(3mLの水に60μLのコロイド液)に対しては、本出願人のコロイドは、λ(max)の値が概して389±1nm、バンド幅が28±2nm、及び吸光度が0.475±25、であるUVスペクトルを生じる。得られるコロイドはまた、非常に強度の高いSERRSスペクトルを与え、そして本出願人が還元剤としてクエン酸リチウムを使用したときに得られた以前の結果よりもより低い蛍光ノイズを与えた。
【0018】
金属塩の還元は金属粒子を生成し、溶液中に存在するアニオンはその粒子表面に引きつけられる。その粒子上に電荷が残っていると仮定すると、粒子は互いに反発し合い溶液中に留まるであろう。理想的には、コロイド溶液中の金属粒子は何時までも溶液中に留まるが、多くのコロイドの製造においてはこの安定性は達成されず、時間と共に粒子の凝集が発生し、コロイドの破壊がもたらされる。この発生はUVによってモニタリングでき、UVではある期間を通してλ(max)並びにバンド幅の増加、及び吸光度の低下が観察される。
【0019】
本出願人の提案するコロイド製造方法では、ヒドロキシルアミン塩、すなわちアニオンの選択がコロイドの安定性に影響を与えることが見いだされた。ヒドロキシルアミンとは異なった塩を用いる銀コロイドの調製では、硫酸塩、硝酸塩又はO−スルホン酸塩を用いて安定なコロイドを得ることができなかった。塩酸塩では限定された安定性のコロイドが得られるが、リン酸塩を用いた場合では非常に安定なコロイドが製造された。観察された不安定性の増加は、不溶性すなわち、銀塩の溶解度積(KSP)に関連付けでき、各KSPは、 AgSO=1.2×10−5 ;AgCl=1.8×10−10及びAgPO=1.2×10−16である。
【0020】
アニオンの原子価がコロイドの安定性に影響することも考えられる。リー及びマイゼルのクエン酸塩還元コロイドでは、クエン酸銀は硫酸銀のKspと非常に類似したKspを有し、従って非常に安定ではないと予想されるであろう。しかしながら、クエン酸塩は3価のアニオンであり、恐らくこのことにより予想したよりも高い安定性の度合いが説明される。リン酸塩でも3価のアニオンであるので、そのことにより、ヒドロキシルアミンリン酸塩を用いて達成された安定性の向上が説明できるであろう。本出願人らの提案した調整方法を使用して金コロイドが製造されたが、安定な形態はリン酸塩でのみ達成でき、ヒドロキシルアミンの塩酸塩では達成できなかった。従って、その方法ではアニオンのイオン価が高いように、かつ前記金属イオンと組み合わせる場合には、水への溶解度が低い金属塩を形成することになるように選択されたヒドロキシルアミン塩を使用する。金属イオン溶液としては、例えば硝酸銀、塩化金又は硝酸銅が使用できる。
【0021】
ヒドロキシルアミン塩酸塩を使用して製造された銀コロイド(HHAgコロイド)は、製造から48時間以内に、それらのUV特性において、吸光度の増加を伴った、バンド幅及びλ(max)の減少を示す。この期間を過ぎると、30日間を通して、吸光度の大きな変化を伴わずに、λ(max)及びバンド幅が大幅に遅い速度で低下するが、しかしこの期間を超えると吸光度はきわめて早く低下することが観察される。ヒドロキシルアミンリン酸塩を使用して製造されたコロイド(HPAgコロイド)は、はるかに大きな安定性を示す。30日の期間にわたり、これらはUV特性に大きな初期変化を示さず、長期間にわたって、バンド幅及びλ(max)の非常に小さい減少だけを示し、吸光度はそれらのレベルを維持する。
【0022】
更に、所定期間のコロイドの熟成により、その特性がそれ以上変化しない安定なコロイドを製造できることが見いだされた。熟成の期間は温度によって影響される。室温では,熟成期間は約8週間に延長されるかもしれないが、より高い温度では、安定性を得るのに要する時間は大幅に減少し、例えば40°C−50°Cでは約24時間だけを要する。熟成工程は又、容器の大きさによって促進され、所与の容積に対しては大きな表面積を有する容器を使用することが好ましい。その他のプラスチックス容器、例えばポリカーボネート、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレート(PET)から製造された容器では、ガラス容器で起こるのと同様に、より早いコロイド破壊がもたらされる。安定性は又、コロイドが保存される容器の材質によって影響を受け、ポリスチレン製容器が最高の安定性を与えることが見いだされた。
【0023】
本発明の方法で製造された銀コロイドは、銀を0.114mg/mL−1の濃度で含有し、それはリー及びマイゼルのクエン酸で還元されたコロイド中の銀濃度と非常に似ている。しかしながらリー及びマイゼルのものとは違って、HHAg及びHPAgのコロイドは、コロイドの希釈液を使用した場合、SERRS信号の感度にかなりの増加を生じる。希釈は25〜70%の範囲内が好ましく、このことは、例えば水、及び/又は塩化ナトリウム、硝酸のような無機凝集剤、若しくはポリ−L−リジンのような有機凝集剤、などの水溶液の使用によって達成できる。
【0024】
SERRSには、銀粒子の凝集が表面増強効果を得るために必須である。典型的には、リー及びマイゼルのクエン酸還元コロイドを用いて分析すると、検体の濃度が10−5Mより大である場合、自己凝集現象が発生する。より低濃度の検体を検出するために、無機又は有機凝集剤を使用する必要がある。HHAgコロイドを用いて行われた研究により、最初の48時間の寿命を通して、そのコロイドはより低濃度(約10−8M)において自己凝集の達成及び強いSERRS信号の取得が可能であり、従って凝集剤のあらゆる必要性及びサンプルの如何なる追加希釈も排除できることが示される。鉄結合蛋白質、すなわち、サイトクロムC(Cyt C)、ヘモグロビン(Hb)及びミオグロビン(Mb)を10−7M濃度で用いた自己凝集の研究が達成された。
【0025】
48時間を超えたHHAgコロイドでは、強いSERRSスペクトルは凝集剤の添加によってのみ実現可能である。このコロイドの独特な特性は、そこにあるクロライドイオン(ヒドロキシルアミン塩酸塩由来)の存在に起因する。クロライドイオンは伝統的に凝集剤として使用されてきたし、このことは何故自己凝集が実現できたかを説明するであろう。48時間後に凝集剤の添加を必要とすることは、それらが溶液から沈降する大きさの凝集物に成長すること及びクロライド濃度が自己凝集に必要なレベル以下に低下したことを示す。放置した後のコロイド溶液がUV吸光度を損失し目視で幾分黒っぽくなることは、後者が起きていることを示すのであろう。
【0026】
凝集剤と共にクエン酸ナトリウム−還元コロイドを使用した、Mbについての以前のSERRS研究(S.アブダリ(Abdali),C.ヨハンセン(Johannessen),J.ニガルド(Nygaard),T.ノルバイガード(Norbygaard),J.Phys.Condens.Matter, 2007年、19巻、285205−285212頁)と比較すると、原型のレンドル(Lendl)の方法によって調製されたHHAgコロイドは、実質的により低い蛍光ノイズを生成した。さらに、スペクトルの間で観察された変形は、ヒドロキシルアミン還元コロイドとクエン酸ナトリウム還元コロイドの表面の化学的性質の差異を示す。
【0027】
HPAgコロイドを用いた研究では、そのコロイドは、10−7Mより高い検体濃度に対して如何なるレベルの自己凝集も示さないので、リー及びマイゼルのクエン酸塩の還元塩とより多く類似していることが示される。しかしながら、凝集剤の添加により非常に強いSERRSスペクトルを、非常に低いレベルの蛍光ノイズと共に得ることができる。
【0028】
そのHPAgコロイドは独特の特性を有することが観察された。UV研究からコロイドの自己凝集特性を確認し、コロイド粒子の単分子層被覆が発生する染料濃度を推定するために、以前はベンゾトリアゾール染料が検体として使用された(K.フォールズ(Faulds),R.E.リトルフォード(Littleford),D.グラハム(Graham),G.デント(Dent),W.E.スミス(Smith),Anal. Chem., 2004年、76巻、592−598頁)。HPAgを用いた同様な研究により、同様に自己凝集が1×10−6〜1×10−7Mの範囲で発生することが示されたが、リー及びマイゼルのクエン酸塩還元コロイドと比較すると、そのUVは、より短波長、例えば,約720nmと比較して約650nm、において強くてより狭いバンド幅の吸収を示す。これらの結果は、HPAgコロイド粒子径が小さければ小さいほど、小さい凝集クラスターが生成され、従ってリー及びマイゼルのクエン酸塩還元の銀コロイドよりもより低いプラズモン波長を有することを示唆する。観察された影響は又、非常に濃度依存性があり、最高の影響は5×10−7〜7.5×10−7Mの濃度範囲で発生する。これらの溶液のTEM観察により、凝集粒子の離散した集塊(70×115μm)が示され、633nmのレーザーを使用する場合、ラマンスペクトルの強度は濃度範囲5×10−7〜7.5×10−7Mにおいて最大化されることが示される。 それ故、コロイド粒子の単分子被覆が発生する染料濃度のより正確な推定値を得ることが可能である。更に、限定された濃度を超えた場合のみではあるが、HPAgコロイドは、赤色(633nm)レーザー波長を用いた黄色染料の分析のための独特な表面増強方法を提供する。
【0029】
これらの結果は、本発明の調製方法を用いて、SERRS分光法の技術分野の他の技術者によって以前に得られたものよりも大幅に低い検出レベルを得ることが可能であることを示す。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図面では、本発明による方法によって製造されたコロイドに関する研究結果をグラフで示す:
【図1】ヒドロキシルアミン塩酸塩コロイドから得られた結果と、クエン酸リチウムを使用した本出願人らの以前の研究で得られた結果とを比較する、波数に対するラマン強度のグラフである。
【図2a】還元剤としてヒドロキシルアミン塩酸塩を使用し、N.レオポルド(Leopold); B.レンディ(Lendi); J.Phys, Chem. B 、2003年、107巻、5723−5727頁に発表された方法に従って得られた銀コロイドのUV/可視スペクトルである。
【図2b】還元剤としてヒドロキシルアミン塩酸塩を使用する本発明の方法によって得られた銀コロイドのUV/可視スペクトルであって、30日を通してそのコロイドの安定性を示す。
【図2c】還元剤としてヒドロキシルアミンリン酸塩を使用する本発明の方法によって得られた銀コロイドのUV/可視スペクトルであって、7ヶ月を通してそのコロイドの安定性を示す。
【図3a】HHAgコロイドが10秒以内で完全分散を達成するように投入及び混合工程を実施した場合に得られた結果を示す、時間に対するSERRS強度(ローダミン6Gに関する1649、1363及び612cm−1での信号)のグラフである。
【図3b】HHAgコロイド製造のための投入及び混合工程をより短い期間の2秒で実施した場合に得られた結果を示す、同様なグラフである。
【図3c】HHAgコロイド製造のための投入及び混合工程をより長い期間の30秒で実施した場合の、コロイドの不安定化を示す結果を示す、追加の同様なグラフである。
【図4a】凝集剤として塩化ナトリウムを用いたヒドロキシルアミン塩酸塩−還元コロイドの50%希釈液を使用した場合のローダミン6G(10−8M)のSERRS感度の増加を示す、波数(cm−1)に対するラマン強度のプロットである(514nm)。
【図4b】凝集剤としてポリ−L−リシンを用いたヒドロキシルアミン塩酸塩−還元コロイドの50%希釈液を使用した場合のローダミン6G(10−8M)のSERRS感度の増加を示す、同様のプロットである(514nm)。
【図4c】凝集剤を用いないヒドロキシルアミン塩酸塩−還元コロイドの50%希釈液を使用した場合の、ローダミン6G(10−8M)のSERRS感度を示すプロットである(514nm)。
【図5】自己凝集と鉄結合蛋白質、CytC Mb及びHbの1375及び1169cm−1バンドに得られたSERRS強度とを示す、サンプル中の10−7M蛋白質の容積%に対するSERRS強度(a.u.=任意の単位 )のグラフである。 そのプロットは、濃度10−7Mにおけるそれぞれの蛋白質に対する最適化されたSERRS条件(HHAgコロイド:検体の容積比)を示す。
【図6】最適化されたSERRS条件の下での、鉄結合蛋白質、CytC、Mb及びHb、(それぞれの蛋白質濃度は10−7M)の自己凝集物のSERRSスペクトルを示す、波数に対するSERRS強度のグラフである。
【図7】還元剤としてヒドロキシルアミンリン酸塩を使用する、本発明の方法によって製造された金コロイドのUV/可視スペクトルである。
【図8】ベンゾトリアゾール染料の7.5×10−7M 溶液で凝集されたHPAgコロイドのTEM(透過型電子顕微鏡 (Transmission Electron Microscope))画像である。
【図9】633nmのレーザー波長を使用するベンゾトリアゾール染料に対する、1368cm−1信号のラマン強度対濃度のグラフである。
【図10a】還元剤としてヒドロキシルアミンリン酸塩を使用する本発明の方法によって得られた銀コロイドのUVスペクトル特性に及ぼす室温での熟成の影響を示す、時間(週)に対するλ(max)のプロットである。
【図10b】還元剤としてヒドロキシルアミンリン酸塩を使用する本発明の方法によって得られた銀コロイドのUVスペクトル特性に及ぼす室温での熟成の影響を示す、時間に対するバンド幅のプロットである。
【図10c】還元剤としてヒドロキシルアミンリン酸塩を使用する本発明の方法によって得られた銀コロイドのUVスペクトル特性に及ぼす室温での熟成の影響を示す、時間に対する吸光度のプロットである。
【図11】還元剤としてヒドロキシルアミンリン酸塩を使用する本発明の方法により、かつ室温における熟成によって得られる銀コロイドの4つの異なった熟成バッチから得られたリボフラビンのSERSスペクトルを示す。
【図12】ヒドロキシルアミンリン酸塩を用いて硝酸銀を還元する本発明の方法により製造されたコロイドバッチの異なった熟成温度における、時間に対するUVバンド幅のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明による例示的な方法は、ヒドロキシルアミンリン酸塩(容積100μL; ヒドロキシルアミンに関する濃度(0.075×10−3M )をポリスチレンバイアル中の水酸化ナトリウム水溶液(容積4.5mL; 濃度1.33×10−3M)に添加する工程と、得られた混合物を所定の時間(理想的には30秒の期間)放置する工程と、その混合物に10−2Mの硝酸銀水溶液(容積500μL)を投入する工程と、それらの溶液を一緒に混合する工程とを含み、硝酸銀溶液は混合物中に急速に(0.5秒未満)投入され、かつ混合は2〜30秒間の期間内で硝酸銀を混合物中に完全に分散させるように実施される。そして蓋をし、密封した容器を40−50°Cで24時間加熱することによって、安定したコロイドが製造される。
【0032】
金コロイドの調製には、硝酸銀の代わりにテトラクロロ金酸を使用したこと以外は、同じ方法を用いた。
【0033】
図1は、硝酸銀を還元するためにクエン酸リチウムを使用して得られた以前の結果を、硝酸銀を還元するためにヒドロキシルアミン塩酸塩を使用して得られたより最近の結果と比較する。サンプルは、ローダミン6Gの10−7M溶液を10−8Mの染料最終濃度を与える0.175のNaCl溶液で凝集したものである。使用したレーザー波長は514nmであった。
【0034】
図2は1cmパス長のキュベット中で60μLのコロイドを3mLの水と混合し、続いて分析して得られたUV結果を比較する。図2aは、N.レオポルド(Leopold); B.レンドル(Lendl); J.Phys, Chem. B 2003年、107巻、5723−5727頁の方法によって、還元剤としてヒドロキシルアミン塩酸塩を使用するコロイド生成を示す。図2bは、ヒドロキシルアミン塩酸塩を用いて硝酸銀を還元する本発明による方法と、かつ1ヶ月間にわたったコロイド安定性を示す。図2cは、ヒドロキシルアミン塩酸塩を用いて硝酸銀を還元する本発明による方法と、かつ7ヶ月間にわたったコロイド安定性を示す。
【0035】
従ってこれらの結果は、本出願人によって達成された顕著な結果が、ヒドロキシルアミン塩、使用される容積の特定の比率、混合の速度及び継続期間の選定に関連し、得られたコロイドの小さい粒径がコロイド溶液に安定性の増加並びに光散乱特性の増加を与える事を実証する。
【0036】
図3aは、水性ヒドロキシルアミン塩酸塩及び水性水酸化ナトリウムを硝酸銀の水溶液と混合する工程が、完全な混合を10秒以内で達成するように実施される場合、得られるコロイドは安定でかつ所望のUV特性及びSERRS特性を有することを示す。
【0037】
図3bは、混合工程がより短い期間(2秒)で実施される場合の繰り返し実験の結果を示す。その結果からは、得られるコロイドは不安定であることが明らかである。このことは、時間と共にコロイドが、ラマン強度の短期間における急速な減少によって示される不安定化の徴候を示すという事実によって実証される。
【0038】
図3cは、混合工程がより長い期間の30秒にわたって実施される場合の結果を示し、この図は得られるコロイドの不安定性を示し、コロイドの凝集及び不安定化を実証する。
【0039】
図3b及び3cは、混合期間が、完全な分散が達成される10秒という最適な期間を越えた場合並びに10秒未満に変更された場合に得られる、著しく劣った結果と不安定なコロイドであることを実証する。
【0040】
図4aは、凝集剤として塩化ナトリウムを用いたHHAg還元コロイドの50%希釈物を使用する場合、ローダミン6G(10−8M)のSERRS感度の増加を示す結果を例示する(514nm)。
【0041】
図4bは、凝集剤としてポリ−L−リシンを用いたHHAg還元コロイドの50%希釈物を使用する場合、ローダミン6G(10−8M)のSERRS感度の増加を示す結果を例示する(514nm)。
【0042】
図4cは、凝集剤を用いない(自己凝集)HHAgコロイドの50%希釈物を使用する場合の、ローダミン6G(10−8M)のSERRS感度を示す(514nm)。
【0043】
図5、鉄結合蛋白質、CytC、Mb及びHbの、1375及び1169cm−1バンドに得られるSERRS強度と自己凝集性を示す。プロットは、10−7M濃度におけるそれぞれのタンパク質に対する最適化SERRS条件(HHAgコロイド:検体の容積比)を示す。
【0044】
図6は、HHAg還元コロイドを用いた最適化SERRS条件下の、鉄結合蛋白質、CytC、Mb及びHb(それぞれの蛋白質の濃度は10−7M)の自己凝集物SERRSスペクトルを示す。
【0045】
図7は、本出願人の方法の、ヒドロキシルアミンリン酸塩を用いたテトラクロロ金酸の還元で製造された金コロイドのUVスペクトルを示す。 コロイドは1cmパス長のキュベット中で水を用いて5倍に希釈された。
【0046】
図8は、7.5×10−6Mの3、5−ジメトキシ4−(5’アクソベンゾトリアクゾリル)フェニルアミン溶液を用いたHPAgコロイドの凝集物を示すTEM画像を例示する。倍率は、×220、000である。
【0047】
図9は、1370cm−1信号のラマン強度のモニタリングによって、3、5−ジメトキシ4−(5’アクゾベンゾトリアクゾリル)フェニルアミンの濃度がHPAgコロイド(1/10希釈液)の凝集に及ぼす影響を示す。 レーザー波長は633nmであり、1×10秒集積及び10%フィルターの条件である。
【0048】
図10は、本発明によるヒドロキシルアミンリン酸塩を用いた硝酸銀の還元で製造されたコロイドの室温熟成期間中のUVスペクトル特性における変化を示す。
【0049】
図11は、各コロイドバッチを使用し濃度10−6Mのリボフラビンと一緒にして得られるSERSスペクトルを示し、そのコロイドバッチは、本発明の方法によるヒドロキシルアミンリン酸塩を用いた硝酸銀の還元で製造され、室温で熟成され6,9,16及び24週間の室温下熟成期間のものである。これらの結果は、コロイドが約8週間に至るまでの熟成中であっても、リボフラビンのSERS強度は僅か5%未満の増加であり、より古いバッチではで更なる強度増加が無いことを示す。これらの結果により、そのコロイドの長期保存寿命、バッチ間及びSERSの再現性が優れていることが確認される。 リボフラビンも蛍光性の極めて高い化合物であり、低レベルの蛍光が観察されたことは、HPAgコロイドの高度な蛍光抑制特性に起因すると考えられる。ある濃度(0.01%w/v)のポリ(L−リシン)が凝集剤として使用された。レーザー波長は514nmであった。
【0050】
図12を参照すると、これらのグラフは、本発明の方法によるヒドロキシルアミンリン酸塩を用いた硝酸銀の還元で製造されたコロイド熟成時間に及ぼす温度の影響を示す。この実施例の結果は、1cmパス長のキュベット内でのコロイド溶液(60μLを3mLの水で希釈)のUVバンド幅変化のモニタリングからのものであり、温度が増加するにつれてどのように熟成期間が減少するかを示す。
【0051】
ここに提示したデータは、ポリスチレン及びガラスの容器中で所定の温度範囲における安定性試験の範囲を拡張した実施結果である。
【0052】
初期にポリスチレン容器中で製造したヒドロキシルアミンリン酸塩コロイド(HPAgコロイド)は、通常は395nmのλ(max)値、57nmのバンド幅及び0.280の吸光度のUVスペクトルを示す。製造されたどのコロイドバッチも、製造後通常は8週間(熟成期間)の間に、λ(max)は389±1nmへ減少し、それに伴ったバンド幅の28±2nmへの減少及び吸光度の0.475±25への増加を示す。8週以降は図10に見られるように、これらの値は20週もの間一定に留まる。ガラス容器中で調製したコロイドバッチは、同一の初期UV特性を示すが、4週間以内に安定性を失い、銀が凝集し、溶液から沈降する。それ故ポリスチレンがコロイドの調製及び保存に好適な材質である。
【0053】
熟成サンプルのラマン分光分析により、SER(R)S強度は徐々に増加し、8週間の熟成期間の後は一定に留まる(図11)ことが示される。TEM調査により、銀コロイド粒子の粒子径或いは分布における変化がないことが示される。これらUV、ラマン及びTEMの結果から、コロイドが最初に調製された時には同一粒径の銀粒子が形成されるが、恐らくは弱い水素結合力によって非常に小さい塊になることが仮定される。熟成するにつれて、恐らくは容器表面との相互作用によって、その微小塊は個々のコロイド銀粒子に解離するのであろう。
【0054】
コロイドのUV特性で観察された変化はその推論を強く支持し、粒子間に弱い結合力だけがあっても、その後でのコロイド溶液の加熱は粒子塊の解離を促進させる筈であると考えられた。このことは、4℃〜55℃の温度範囲の中でポリスチレン容器中に保存したコロイドサンプルのUV特性をモニタリングすることによって確認された。コロイド溶液の熟成期間は、サンプルが室温超の温度で保存された場合、図12に見られるように温度の上昇につれて熟成期間が減少しながら、劇的に低減する。
【0055】
これらの熟成したコロイドのUV特性は、室温熟成のものと一致した。同様に、これらの熟成期間中のコロイドのラマンスペクトルのモニタリングでは、SER(R)S強度が増加することを示したが、一旦熟成されると強度は一定に留まり室温で熟成したコロイドのものと一致することを示した。4°Cで保存したサンプルではUV特性の変化が検出されなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシルアミン塩の水溶液をアルカリの水溶液に添加する工程と、続いて前記混合物中に金属イオンの水溶液を分散させる工程とを含み、前記ヒドロキシルアミン塩を前記金属イオンと混合した際に、前記ヒドロキシルアミン塩のアニオンが非常に低い水への溶解性を有する金属塩を形成することになるように前記ヒドロキシルアミン塩が選択される、金属コロイド溶液を製造する方法であって、前記金属イオン溶液は、前記金属イオンが前記混合物中に1秒以内に実質的に完全に分散される方法で前記混合物中に投入される、方法。
【請求項2】
前記金属イオンが0.5秒以内に実質的に完全に分散される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属イオンが銀である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記金属イオンの水溶液が硝酸銀水溶液である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記金属が金である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記金属イオンの水溶液が、塩化金(HAuCl;テトラクロロ金酸)の溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属イオン溶液が前記混合物中に高速ストリームとして投入される、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記金属イオンが投入される前記混合物の容積が5cm未満である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記金属イオン溶液を投入した後に前記混合物が2秒〜30秒の期間で更なる混合を受ける、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。

【請求項10】
前記アルカリが水酸化ナトリウムである、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記金属塩が、1×10−10未満の水中の溶解度積(Ksp)値を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロキシルアミン塩がヒドロキシルアミンリン酸塩である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロキシルアミン塩の濃度がヒドロキシルアミンに関して0.075×10−3Mである、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記アルカリの濃度が1.33×10−3Mである、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
得られたコロイド中の粒子径が19±9nmである、請求項1〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記投入及び分散をポリスチレン製の容器中で実施することを含む、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記コロイド溶液が使用前にポリスチレン製の容器中に保存される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
安定性を改善させるために前記コロイド溶液を室温超の温度で所定期間熟成させる工程を含む、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記コロイド溶液を40°C〜50°Cの範囲の温度において熟成することを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記コロイドを24時間熟成することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
媒体として、請求項1〜20のいずれかに記載の方法で製造された金属コロイド溶液を使用することを含む、ラマン分光分析の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2011−508663(P2011−508663A)
【公表日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538903(P2010−538903)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【国際出願番号】PCT/GB2008/004225
【国際公開番号】WO2009/081138
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(508286658)ザ ユニバーシティー オブ リンカーン (2)
【Fターム(参考)】