説明

金属コロイド分散液および金属コロイド分散液の製造方法

【課題】液相法において、分散安定性と保存安定性に優れる金属コロイド分散液およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】窒素原子上の孤立電子対がπ共役電子であるアミン化合物、並びに、エチレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上、を含有することを特徴とする金属コロイド分散液を提供し、さらに、本コロイド分散液の製造方法を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野やエレクトロニクス分野、特にバイオテクノロジー分野において有用な金属コロイド分散液と、その製造方法に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
金属コロイドの製造は、気相製造法(以下、気相法という)と液相製造法(以下、液相法という)に大別される。気相法では、非常に高濃度の金属コロイドを製造することが可能である。具体的には、特許文献1に開示されている方法が知られている。しかしながら、気相法には、粒径分布を制御することが困難であり、粒径分布が広くなるという欠点がある。また、気相法では大がかりな装置を必要とし、コストが高くなってしまう欠点が認められている。
【0003】
液相法は、金属イオンを溶液中で還元する方法であり、気相法で得られる粒子よりも狭い粒径分布のコロイド溶液を得ることが可能である。しかしながら、この方法では、還元過程で粒子が凝集しやすく、安定なコロイド分散液を製造することは困難であることが知られている。
【0004】
液相法は、さらに物理的な方法と化学的な方法に大別される。物理的な方法としては、紫外線(非特許文献1)、超音波(非特許文献2)、γ線(非特許文献3)などを用いた方法が開示されている。化学的な方法では、溶液中で、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどの還元剤による還元反応を利用するのが一般的である。具体的には、例えば、非特許文献4にクエン酸ナトリウムを用いた液相法が開示されている。当該化学的還元法では、一般に金イオンに対して3倍から5倍モル量の還元剤を添加し、必要に応じて加熱還流する。ここでは、クエン酸ナトリウムは、還元剤および分散剤として機能している。すなわち、クエン酸イオンが、金イオンを還元して生成した金粒子の表面に吸着し、静電反発によって粒子同士の凝集を抑止している。しかしながら、このクエン酸還元法によって調製された金属コロイド分散液は、当該溶液に塩を添加すると静電遮蔽効果が低減し、凝集してしまう。このため、生体液のように高濃度の塩を含む溶液中では、凝集体を形成してしまうという問題がある。また、アミン化合物として、アルカノールアミンまたはヒドラジンを還元剤とするものとしては、特許文献3、特許文献4、特許文献5に開示の方法が知られている。他のアミン化合物として、非水溶性のピロールを還元剤として適用した方法も知られている。例えば、非特許文献5には、有機溶媒中でピロールを還元剤として金コロイドを合成する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤、アセタール−PEG−SHを高分子保護材として調製した場合の低濃度の金コロイドの調製方法が開示されているが、当該方法で用いられる水素化ホウ素ナトリウムは、水溶液中で著しく不安定で気泡を発生し激しく分解することから、水素化ホウ素ナトリウムの濃度を一定に保つことが難しく、再現性よくコロイドを調製することが困難である場合が多い。この点は、特許文献4および特許文献5に記載の還元剤も同様である。さらに、これらの還元剤は還元速度が速く、還元剤の添加速度や攪拌速度の影響を著しく受ける傾向が認められる。
【特許文献1】特開昭58−186967号公報
【特許文献2】特開2002−080903号公報
【特許文献3】特開平11−80647号公報
【特許文献4】特開平9−511547号公報
【特許文献5】特開2002−1095号公報
【非特許文献1】Sauら、J. Nanopart. Res. 2001、3、257-261
【非特許文献2】OkitsuらUltrasonic Chemistry 1996、3、249-251
【非特許文献3】Arnimら、J. Phys. Chem. B1999、103、9533-9539
【非特許文献4】Turkevitchら.Discuss. Faraday Soc. 1951、 11、 55-75
【非特許文献5】S.T.Selvan、Chem. Commnun1998、351―352
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記に鑑み、液相法において、分散安定性と保存安定性に優れる金属コロイド分散液およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題に対して、窒素原子上の孤立電子対がπ共役電子であるアミン化合物、並びに、ポリアルキレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上を溶媒中に共存させることにより、分散安定性と保存安定性に優れる金属コロイド分散液が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、窒素原子上の孤立電子対がπ共役電子であるアミン化合物、並びに、エチレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上、を含有することを特徴とする金属コロイド分散液(以下、本コロイド分散液ともいう)を提供し、さらに、本コロイド分散液の製造方法(以下、本製造方法ともいう)を提供する発明である。
【0009】
本コロイド分散液は、液相法により製造され得るにもかかわらず、分散安定性と保存安定性に優れ、バイオテクノロジー分野やエレクトロニクス分野等の分野において、汎用され得る性質を有する金属コロイド分散液である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、粒径分布が微小な状態で揃った状態で、金属コロイド粒子の分散安定性に優れ、バイオテクノロジー分野やエレクトロニクス分野等の広い分野において有用な金属コロイド分散液、及び、その製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
共役アミン化合物
本発明において、還元剤として用いられるアミン化合物は、「窒素原子上の孤立電子対がπ共役電子であるアミン化合物」(以下、共役アミン化合物ともいう)である。当該窒素原子を有するアミン化合物は、前記の特許文献3〜5に開示されている、第1〜3級アミンを含むアルカノールアミン誘導体やヒドラジンを還元剤として用いて、金属コロイド分散液を調製すると、これらのアミン分子における孤立電子対が強い還元作用を示すため、金属コロイド分散液の製造工程の初期段階において攪拌速度等の影響を強く受けること(当該反応系では、還元剤や金属塩溶液の添加時に発生する局在的な濃度の不均一性が、金属コロイド粒子の粒径分布・形状、製造再現性に著しく影響を及ぼすことが知られている)を鑑み、選択されたアミン化合物である。すなわち、窒素原子上の孤立電子対がπ共役系にとりこまれた、共役アミン化合物は、金属イオンに対して適度な還元作用を示し、上記攪拌速度等の影響が小さく、本コロイド分散液を製造するのに必須の要素として用いられる。
【0012】
共役アミン化合物としては、例えば、ピロール骨格を有する化合物(以下、ピロール系化合物ともいう)及びカルバゾール骨格を有する化合物(以下、カルバゾール系化合物ともいう)を挙げることができる。
【0013】
ピロール系化合物としては、例えば、ピロール、ピロール−2−アルデヒド、ピロール−1−カルボン酸、ピロール−2−カルボン酸、ピロール−3−カルボン酸、ピロールジカルボン酸、ピロレニン、ピロール−1−スルホン酸、ピロール−2−スルホン酸、ピロール−3−スルホン酸等を挙げることができる。
【0014】
カルバゾール系化合物としては、例えば、カルバゾール、カルバゾール−N−酢酸、1,3,6,8−テトラニトロカルバゾール、1,2,3,4−テトラヒドロカルバゾール等を挙げることができる。 その他、7−アザインドール、4−アザインドール、1−ピロロ[1,3-C]ピリジン等も、共役アミン化合物として用いることが可能である。
【0015】
これらの共役アミン化合物は、本コロイド分散液の溶媒(後述する)に対する溶解性を考慮して選択することが好適である。すなわち、当該溶媒が水又は含水有機溶媒の場合には、水溶性の共役アミン化合物を選択することが好適である。具体的には、側鎖としてカルボキシル基やスルホン酸基が付加した化合物が水溶性を示す傾向が強い、上述の例では、ピロール−1−カルボン酸、ピロール−2−カルボン酸、ピロール−3−カルボン酸、ピロールジカルボン酸、ピロール−1−スルホン酸、ピロール−2−スルホン酸、ピロール−3−スルホン酸、1,2,3,4−テトラヒドロカルバゾール等を挙げることができる。また、当該溶媒が有機溶媒である場合には、ピロール、カルバゾール等の水難溶性の共役アミン化合物を選択することが好適である。
【0016】
ポリマー
本コロイド分散液は、ポリアルキレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上(以下、特定ポリマーともいう)を含有することを特徴とする。
【0017】
本発明において、特定ポリマーのうち、アルキレンオキシド部分を有するポリマー[以下、ポリアルキレンオキシド誘導体ともいう]は、生体適合性に優れ、特に、バイオテクノロジー分野に本発明を適用する場合、これらを選択することが好適である。また、親水基を有するビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリル酸等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。特定ポリマーの分子量は、100〜100000の範囲であり、好適には、200〜10000の範囲であり、さらに好適には、300〜20000の範囲である。この分子量が100未満の場合には、ポリマーの立体反発力による分散安定性が不十分で、金属粒子が凝集してしまう可能性がある。一方、当該分子量が100000を超えると、系全体の粘度が高くなりすぎ、例えば、後述する金属塩溶液を添加したときに、十分な攪拌が困難であり、その結果、金属コロイド粒子の粒径分布を適当な範囲内に収めることが難しくなる傾向が認められる。
【0018】
本発明において用いることが好適なポリアルキレンオキシド誘導体としては、例えば、下記に示すものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
(1) R−Aa−R’−SX
[式中、Rは、炭素原子数が1〜5のアルキル基、メルカプト基、スルフィド基、アセタール基、アルデヒド基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、活性エステルアジド基、ビオチニル基、単糖基、オリゴ糖基、アミノ酸基、核酸基、アリル基、ビニルベンジル基、メタクリロイル基及びアクリロイル基からなる群から選択される基であり、R’は、炭素原子数が1〜5のアルキレン基、アミノ基、単糖基、オリゴ糖基、アミノ酸基、核酸基、アリル基、ビニルベンジル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等の2価基である。Aaは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、又は、ブチレンオキシドをモノマー単位とするポリアルキレンオキシド基であり、当該ポリアルキレンオキシドの結合数aは、2〜500であり、Xは、水素原子又はピリジルチオ基である。]
なお、結合数aは、20以上であることが好適である。
【0020】
(2) R−Aa−S−S−Aa―R''
[R、及びAaは、上記(1)と同様である。また、R''は、Rと同一種類の基を選択可能な基であり、R及びR''同士は同一であっても異なってもよい。また、本分子中の2つのAaは互いに同一であっても異なってもよい。]
【0021】
なお、水溶液中では、溶存酸素によって、ポリアルキレンオキシド誘導体(1)は酸化され、このポリアルキレンオキシド誘導体(2)との溶解平衡の状態で溶解しているものと考えられる。
【0022】
(3) R−Aa/PAMA
[式中、Rは、上記(1)と同様であり、Aa/PAMAは、上記と同一のポリアルキレンオキシドAaと、下記式(I)で示されるメタクリル酸ポリマー(PAMA)とのブロックポリマーである。]
【0023】
【化1】

【0024】
[式中、R及びRは、同一であっても異なってもよく、炭素原子数が1〜5のアルキル基、メルカプト基、スルフィド基、アセタール基、アルデヒド基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、活性エステルアジド基、ビオチニル基、単糖基、オリゴ糖基、アミノ酸基、核酸基、アリル基、ビニルベンジル基、メタクリロイル基及びアクリロイル基からなる群から選択される基であり、mは1〜10の整数であり、nは1〜100の整数である。]
【0025】
(4) R−Aa−NY
[式中、R及びAaは、上記(1)と同様であり、NYは、式(II)で表されるアミン誘導体セグメントである]
【0026】
【化2】

[式中、pは1〜30の整数である。]
【0027】
(5) R−Aa−R'−Z
[式中、R、R'及びAaは、前記(1)と同一であり、Zは、環状アミン誘導体基、環状スルフィド誘導体基又はデンドリマーを示す。]
【0028】
Zがとりえる環状アミン誘導体基としては、例えば、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラドデカン、1,4,8,12-テトラアザシクロペンタドデカン、1,4,7-トリアザシクロノナン、1H-テトラゾール、1,2,4-トリアゾール等を挙げることが可能であり、環状スルフィド誘導体基としては、例えば、1,4,8,11-テトラチオシクロテトラドデカン等を挙げることが可能である。これらの中でも、環状アミン誘導体をZとして選択することが好適である。
【0029】
上記のポリアルキレンオキシド誘導体(1)〜(5)において、ポリアルキレンオキシドAaにおけるアルキレンオキシド単位Aは、エチレンオキシドであることが好適である。
【0030】
これらのポリアルキレンオキシド誘導体(1)〜(5)は、それぞれ、既に公開されている方法により合成して、本発明において用いることが可能であり、市販されている場合には、当該市販品を本発明において用いることも可能である。
【0031】
ポリオキシアルキレン誘導体(1)は、例えば、特開平7−316285号公報記載の方法と条件に従い、又は、これに対して当業者周知の改変を施して製造することができる。
【0032】
ポリオキシアルキレン誘導体(2)は、例えば、「現代有機化学」(ボルハルトショアー著、化学同人社)記載の方法と条件に従い、又は、これに対して当業者周知の改変を施して製造することができる。
【0033】
ポリオキシアルキレン誘導体(3)は、例えば、特開2004−226381号公報、K.Kataoka,A.Harada,D.Wakabayashi,Y.Nagasaki,Macromolecules,32,6892(1999)記載の方法と条件に従い、又は、これに対して当業者周知の改変を施して製造することができる。
【0034】
ポリオキシアルキレン誘導体(4)は、例えば、後述するMeO−PEG−b−PEPAの製造例に従って製造することができる。
【0035】
ポリオキシアルキレン誘導体(5)は、上記(1)〜(4)の製法に準じて製造することができる。
【0036】
コロイド化金属
本コロイド分散液において、コロイド化金属、すなわち、コロイド分散液中に分散している金属は、特に限定されるものではないが、好適には、金、銀、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金からなる群より選択される少なくとも1種類以上が挙げられ、これらの中でも、金、銀及び白金は、メルカプト基、ジスルフィド基、アミノ基等の官能基と極めて安定に結合し、その結果、安定したコロイド分散系が形成されるため、特に好適であり、さらに、金は極めて好適である(「ナノ粒子・マイクロ粒子の最先端技術」(川口春馬監修:シーエムシー出版))。
【0037】
コロイド化金属は、本コロイド分散液の製造工程において、当該金属塩として添加されることにより与えられる。当該金属塩は、特に限定されるものではないが、例えば、塩化金酸、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀、塩化白金酸、塩化白金酸カリウム、塩化パラジウム・ニ水和物、硝酸バラジウム、硝酸ロジウム、酢酸ロジウム、酢酸ルテニウム、ヘキサニトロイリジウム酸、酸化オスミウム等を好適に用いることができる。
【0038】
溶媒
本コロイド分散液の溶媒は、特に限定されず、水や各種の有機溶媒を1種以上用い、上述した各種添加成分との相溶性に従い決定することができる(各種添加成分との相溶性が良好な溶媒を選択するべき)。有機溶媒としては、芳香族炭化水素類、塩化炭化水素類、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、グリコール誘導体、脂環炭化水素類等を挙げることができる。
【0039】
一般的には、当該溶媒として、水を選択することが、自然環境や生体に対する安全面等から好適である(特に、本コロイド分散液をバイオテクノロジー等の生物関連用途として用いる場合は、この傾向が強い)が、各種添加成分の相溶性等から、水と水に可溶な有機溶媒、例えば、メタノール、エタノール等の低級アルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類等、とを混合した含水有機溶媒も好適に用いることができる。当該溶媒として水を用いない場合として、本コロイド分散液を、エレクトロニクス分野等に用いる場合が想定される。
【0040】
各成分の比率等
本コロイド分散液において、特定ポリマーの1種以上、及び、コロイド化金属は、当該金属:当該ポリマー=1:0.005〜1:100(モル比)の範囲で含有されていることが好適であり、さらに好適には、同1:0.005〜1:2.5(モル比)であり、特に好適には同1:0.1〜1:0.6の範囲である。
【0041】
また、共役アミン化合物、及び、コロイド化金属が、当該金属:当該アミン化合物=1:0.01〜1:50(モル比)の範囲で含有されていることが好適であり、さらに好適には、同1:1〜1:10(モル比)である。
【0042】
さらに、本コロイド分散液におけるコロイド化金属の含有濃度は、0.1〜10mM、好適には0.5〜2mMであることが好適である。
【0043】
製造方法
本コロイド分散液の製造方法(本製造方法)は、下記の工程(1)及び(2)を含むことを特徴とする、金属コロイド分散液の製造方法である。
(1)1種以上の共役アミン化合物、及び、1種以上の特定ポリマーを、上述した溶媒に溶解する工程。
(2)工程(1)により得られた溶液に、1種以上のコロイド化金属の金属塩を添加して、金属コロイド分散液を製造する工程。
【0044】
工程(1)(2)において用いる、共役アミン化合物、特定ポリマー、溶媒、及びコロイド化金属の金属塩は、上述した通りの内容である。
【0045】
本製造方法においては、製造工程の適切な時期に、強アルカリ物質を10−2M(溶媒が水の場合は、pH12に相当する)以上、好適には、10−1M(溶媒が水の場合は、pH13に相当する)以上、溶媒中に溶解することが好適である。強アルカリ物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化リチウム等の、水酸化アルカリを用いることが好適であり、特に、水酸化ナトリウムを用いることが最も好適である。
【0046】
この強アルカリ物質の添加の好適な時期としては、例えば、上記工程(1)において、共役アミン化合物、及び、特定ポリマーから選ばれる1種以上に加えて、当該強アルカリ物質を添加することが好適である。また、上記工程(2)において、コロイド溶液中に分散させる金属の金属塩を添加した後に、当該強アルカリ物質を添加することも好適である。
【0047】
なお、このような強アルカリ物質を添加する場合に用いる溶媒は、水又は含水有機溶媒であることが好適である。
【0048】
本製造方法を行うことにより、溶媒中に金属微粒子が、当該微粒子同士の凝集が抑制されつつ、形成・成長し、当該金属微粒子表面に特定ポリマーが吸着又は結合した状態の金属コロイド分散液(本コロイド分散液)が提供される。
【0049】
このようにして製造され得る、本コロイド分散液は、凍結乾燥しても、溶媒を添加することによって再度分散し、また高いイオン強度下でも凝集せずに安定であるという特徴を有している。
【0050】
また、本コロイド分散液における金属コロイド粒子は、粒径分布が狭く、粒径が揃っており、かつ、各々の金属コロイド粒子の粒径は、概ね50nm以下であるという、バイオテクノロジー分野や、エレクトロニクス分野等の洋々な分野において好適に用い得る特徴を有している。
【0051】
特に、特定ポリマーとして、ポリアルキレンオキシド骨格を有するポリマー(1)〜(5)を選択した場合、当該ポリマーの片末端において、機能性化合物反応性官能基[上記式(1)〜(5)における、基R又はR']を有することから、医療診断、光学材料、触媒材料などに好適に使用することが可能である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を記載するが、これにより、本発明の範囲が限定されるものではない。
[実施例1] 金コロイド溶液の調製(pHと各種アミンの比較)
pHと各種アミンの比較を行うために、表1に記載のpHの条件下で、ピロール−2−カルボン酸を用いて、以下の手順で金コロイドを合成した。
【0053】
すなわち、a−メトキシ−w−メルカプトエチル−ポリ(エチレングリコール)(MeO−PEG−SH Mw 5000:日本油脂株式会社製)(0.8mg/800μl)水溶液800μlと、表1に記載のピロール−2−カルボン酸水溶液(0.1mmol/ml)50μlとを混合し、塩酸もしくは水酸化ナトリウムで、水溶液のpHを、表1に記載の値に調整した後、精製水で全量を900μlにメスアップした。最後に、この水溶液に、塩化金酸水溶液(0.01mmol/ml)100μlを添加した。沈殿が生じなかったサンプルのうち、代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡写真をCarl Zeiss社製LEO922で測定した(電子顕微鏡写真:図1)。また、粒径測定の結果を表2に示した。
【0054】
[比較例]
ピロール−2−カルボン酸の代わりに、ヒドロキシルアミン(HA:比較例1)、2−アミノエタノール(2−AE:比較例3)、2−メチルアミノエタノール(2−MAE:比較例4)、2−ジメチルアミノエタノール(2−DMAE:比較例5)、ピリジン−2−カルボン酸(Pyrid-2-C-A:比較例6)を、等量(0.1mmol/ml水溶液)用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で、各々の比較サンプルを調製した。製造工程において沈殿が生じなかった比較サンプルのうち、代表的なサンプルの透過型電子顕微鏡写真を、Carl Zeiss社製LEO922で測定した(図1)。また、粒径測定の結果を表2に示した。
【0055】
【表1】

注)表1の括弧内の数字はサンプル番号を示す。
×:沈殿または浮遊物が確認されたサンプル、○:分散安定なサンプル
【0056】
【表2】

【0057】
表1に記載のごとく、いずれのアミン化合物の場合においても、pHは高い方が分散安定な粒子が生成する傾向があり、同時にまた粒径分布の幅も狭くなった。図1に示したように表1の6種類のアミン化合物の中ではピロール−2−カルボン酸が最も粒子サイズの揃った金コロイド分散液を生成した。
【0058】
なお、HAを用いた系は、pH11以上で分散安定性が認められたが、個々のコロイド粒子自体の輪郭が不明瞭であり、粒径分布も広かった。また、ピロール−2−カルボン酸を用いた系でもpH11以下では、個々の金属コロイド粒子の凝集傾向が認められた。また、このピロール−2−カルボン酸を用いた系において、pH13に設定した系では、個々の金属コロイド粒子が、細かいコロイド粒子が均等かつ安定に分散しており、極めて好適な金属コロイド分散液が形成された。
【0059】
[実施例2] 共役アミン化合物/コロイド金属、及び、特定ポリマー/コロイド金属の好適なモル比の検討
本実施例では、共役アミン化合物として、ピロール−2−カルボン酸を用い、コロイド金属として金(AuCl4-)を用い、特定ポリマーとして、分子量5000のMeO−PEG−SH(PEGは、ポリエチレングリコールを示す)を用いて、標記の好適なモル比についての検討を行った。
【0060】
具体的には、公知の方法に従い製造した、MeO−PEG−SH(PEG:Xmg)を、pH13の水酸化ナトリウム水溶液8mLに溶解した。次いで、この水溶液に、ピロール−2−カルボン酸(P2CA:Ymmol/mL、pH13)の溶液を1mL加え、最後に塩化金酸水溶液(0.1mmol/mL)1mLを添加した。具体的な比率(上記X・Yに相当)は、表3に示した。
【0061】
表3において、横列における括弧外の数字は、PEG/AuCl4-(モル比)を示し、[ ]内の数字は、PEGの質量(Xmg)を示す。また、縦列における括弧外の数字は、P2CA/AuCl4-(モル比)を示し、( )内の数字は、P2CAの濃度(Ymmol/mL)を示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3において、(a)および(i)は沈殿を生じた。(l)、(m)は透過型顕微鏡写真では粒子は確認できなかった。(b)から(e)および(j)、(k)の透過型電子顕微鏡写真を図2に示した。
【0064】
これらのうち、(b)、(c)、(d)、(e)、(j)、(k)の場合に、金属コロイド粒子が球状の金属コロイド分散液を得ることができた。また、(c)、(d)、(e)の場合、特に、粒径分布の幅の狭い金属コロイド分散液を製造できることが明らかになった。
【0065】
[製造例] MeO−PEG−b−PEPAの製造例
2-methoxy ethanol (1mmol) と potassium naphthalene (1mmol)を乾燥THF 20mlに添加し10分間攪拌した。液体ethyleneoxide 90mmol(4.5ml)を前記溶液に添加し48時間室温で攪拌した。そして、4-(bromomethyl) benzoic acid methyl ester 450mmolを停止剤として添加した。反応溶液をdiethyl ether (500 ml) に注ぎ、生成したポリマーを沈殿させた。さらに未反応化合物を、chloroform / 飽和食塩水で抽出精製した。回収したmethoxy-PEG-methylbenzoate (MeO-PEG-MB)を、一旦、ベンゼン凍結乾燥した(Mn = 3,800)。 MeO-PEG-MB 1.0 gと pentaethylene hexamine(PEHA) 6.0mlを混合し、24時間反応させた。そして、isopropyl alcohol (IPA)で沈殿精製し、α-methoxy-ω-N-pentaethylenepentamine-4-methylbenzamide-polyoxyethylene (MeO-PEG-b-PEPA, Mw 3800)を合成した。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1に記載のサンプルの透過型電子顕微鏡写真を示す。
【図2】実施例2に記載のサンプルの透過型電子顕微鏡写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子上の孤立電子対がπ共役電子であるアミン化合物、並びに、ポリアルキレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上、を含有することを特徴とする、金属コロイド分散液。
【請求項2】
前記ポリアルキレンオキシド部分を有するポリマーが、下記のポリアルキレンオキシド誘導体(1)〜(5)から選ばれる1種以上であり、かつ、親水基を有するビニルポリマーが、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及びポリアクリル酸から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1記載の金属コロイド分散液。
(1) R−Aa−R’−SX
[式中、Rは、炭素原子数が1〜5のアルキル基、メルカプト基、スルフィド基、アセタール基、アルデヒド基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、活性エステルアジド基、ビオチニル基、単糖基、オリゴ糖基、アミノ酸基、核酸基、アリル基、ビニルベンジル基、メタクリロイル基及びアクリロイル基からなる群から選択される基であり、R’は、炭素原子数が1〜5のアルキレン基、アミノ基、単糖基、オリゴ糖基、アミノ酸基、核酸基、アリル基、ビニルベンジル基、メタクリロイル基、アクリロイル基等の2価基である。Aaは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、又は、ブチレンオキシドをモノマー単位とするポリアルキレンオキシド基であり、当該ポリアルキレンオキシドの結合数aは、2〜500であり、Xは、水素原子又はピリジルチオ基である。]
(2) R−Aa−S−S−Aa―R''
[R、及びAaは、上記(1)と同様である。また、R''は、Rと同一種類の基を選択可能な基であり、R及びR''同士は同一であっても異なってもよい。また、本分子中の2つのAaは互いに同一であっても異なってもよい。]
(3) R−Aa/PAMA
[式中、Rは、上記(1)と同様であり、Aa/PAMAは、上記と同一のポリアルキレンオキシドAaと、下記式(I)で示されるメタクリル酸ポリマー(PAMA)とのブロックポリマーである。]
【化1】

[式中、R及びRは、同一であっても異なってもよく、炭素原子数が1〜5のアルキル基、メルカプト基、スルフィド基、アセタール基、アルデヒド基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、活性エステルアジド基、ビオチニル基、単糖基、オリゴ糖基、アミノ酸基、核酸基、アリル基、ビニルベンジル基、メタクリロイル基及びアクリロイル基からなる群から選択される基であり、mは1〜10の整数であり、nは1〜100の整数である。]
(4) R−Aa−NY
[式中、R及びAaは、上記(1)と同様であり、NYは、式(II)で表されるアミン誘導体セグメントである]
【化2】

[式中、pは1〜30の整数である。]
(5) R−Aa−R'−Z
[式中、R、R'及びAaは、前記(1)と同一であり、Zは、環状アミン誘導体基、環状スルフィド誘導体基又はデンドリマーを示す。]
【請求項3】
ポリアルキレンオキシド誘導体(1)〜(5)における、ポリアルキレンオキシド基Aaが、ポリエチレンオキシド基であることを特徴とする請求項2記載の金属コロイド分散液。
【請求項4】
前記アミン化合物が、ピロール骨格を有する化合物及びカルバゾール骨格を有する化合物、から選ばれる1種以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の金属コロイド分散液。
【請求項5】
前記アミン化合物が、水溶性のアミン化合物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の金属コロイド分散液。
【請求項6】
前記アミン化合物の側鎖の少なくとも1個以上が、カルボキシル基及び/又はスルホン酸基であることを特徴とする、請求項4又は5記載の金属コロイド分散液。
【請求項7】
溶媒が、水及び含水有機溶媒であることを特徴とする、請求項5又は6記載の金属コロイド分散液。
【請求項8】
前記金属コロイド分散液に分散している金属が、金、銀、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金からなる群より選択される少なくとも1種類以上であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の金属コロイド分散液。
【請求項9】
ポリアルキレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上、並びに、金属が、金属:当該ポリマー=1:0.005〜1:100(モル比)の範囲で含有されていることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の金属コロイド分散液。
【請求項10】
前記アミン化合物、及び、金属が、金属:アミン化合物=1:0.01〜1:50(モル比)の範囲で含有されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の金属コロイド分散液。
【請求項11】
下記の工程(1)及び(2)を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の金属コロイド分散液の製造方法。
(1)前記アミン化合物、並びに、ポリアルキレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上、を溶媒に溶解する工程。
(2)工程(1)により得られた溶液に、コロイド溶液中に分散させる金属の金属塩を添加して、金属コロイド分散液を製造する工程。
【請求項12】
前記工程(1)において、前記アミン化合物、並びに、ポリアルキレンオキシド部分を有するポリマー及び親水基を有するビニルポリマーから選ばれる1種以上に加えて、強アルカリ物質を10−2M以上、溶媒中に溶解することを特徴とする、請求項11記載の金属コロイド分散液の製造方法。
【請求項13】
前記工程(2)において、コロイド溶液中に分散させる金属の金属塩を添加した後に、強アルカリ物質を10−2M以上添加することを特徴とする、請求項11記載の金属コロイド分散液の製造方法。
【請求項14】
強アルカリ物質が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化リチウム、であることを特徴とする、請求項12又は13記載の金属コロイド分散液の製造方法。
【請求項15】
溶媒が、水又は含水有機溶媒であることを特徴とする、請求項11〜14のいずれかに記載の金属コロイド分散液の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−273936(P2006−273936A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92110(P2005−92110)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】