説明

金属シクロペンタジエンナイドの製造方法

本発明は無水素溶媒を用いてジシクロペンタジエンを1族の金属と直接反応させる金属シクロペンタジエンナイドの製造方法に関するものであって、従来のジシクロペンタジエンレトロディーエルス・アルダー(retro Diels-Alder)反応を通じる間接的なシクロペンタジエン合成と違い、反応溶媒の沸騰点で直接ジシクロペンタジエンを加えて反応中にシクロペンタジエンを生成すると共に金属シクロペンタジエンナイドを合成することができる効果を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属シクロペンタジエンナイドの製造方法に関するものであって、より詳しくは無水素溶媒を用いてジシクロペンタジエンを1族の金属と直接反応させる金属シクロペンタジエンナイドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、金属シクロペンタジエンナイドはカリウムシクロペンタジエンナイド(KC5H5)またはナトリウムシクロペンタジエンナイド(NaC5H5)などがある。
【0003】
前記カリウムシクロペンタジエンナイドは100年前シクロペンタジエン(Cyclopentadiene, Cp)とカリウム(K)金属との反応から初めて合成され、一般的なカリウムシクロペンタジエンナイドの合成はカリウム金属とシクロペンタジエンをテトラヒドロフラン(THF)、ベンゼン(benzene)または液体アンモニアから反応して得られる。
【0004】
また、ナトリウムシクロペンタジエンナイドはチーグラー(K. Ziegler)とフィッシャー(E. O. Fisher)により初めて合成されたことと報告されており、現在前記ナトリウムシクロペンタジエンナイドの合成はシクロペンタジエンと水酸化ナトリウム(NaOH)、tert−ブトキシナトリウム(NaOtBu)または塩化ナトリウム(NaOH)と反応して得られる。
【0005】
先に、説明した従来の合成法は全てシクロペンタジエンを反応物として使用するが、前記シクロペンタジエンはジシクロペンタジエン(dicyclopentadiene)と平衡状態を成しており、常温では主にジシクロペンタジエンとして存在する。
【0006】
したがって、通常前記シクロペンタジエンは170℃の温度でジシクロペンタジエンからレトロディーエルス・アルダー(retro Diels-Alder)反応を通じて得る。しかし、ジシクロペンタジエンを反応物にして前記レトロディーエルス・アルダー(retro Diels-Alder)反応を通じる金属シクロペンタジエンナイドの製造方法は生成されたシクロペンタジエンからディーエルス・アルダー(Diels-Alder)反応を抑制することが難しいため、ジシクロペンタジエンがまだ存在する可能性があるし、製造過程においてシクロペンタジエンを得る過程を必ず通さなければならないため製造過程が複雑になるという問題点をあった。
【0007】
したがって、最近はシクロペンタジエンとの間接反応ではないジシクロペンタジエンとの直接反応を通じる製造方法が試みられている。
【0008】
ジシクロペンタジエンを直接反応物にして金属シクロペンタジエンナイドを得る方法として、高温高圧の反応器を利用した方法または常圧及び170℃の反応温度で鉄を媒介にしたナトリウム金属との反応法などが知られている。
【0009】
しかし、このような方法は大量に金属シクロペンタジエンナイドを合成する時、高温高圧用反応器を使うか、または、鉄を触媒として使わなければならないため、大量生産に不便であるという問題点が発生する。
【0010】
また他の方法として、ジシクロペンタジエンを反応物と反応溶媒で使ってナトリウムまたはカリウムと直接反応させる方法が報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかし、このような方法も大量生産時過量で使われたジシクロペンタジエンを除去しなければならないという問題点が発生する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Organometallics 2003, 22, 877-878
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記のような問題点を解決するために、本発明は無水素溶媒(aprotic solvent)を反応溶媒にしてジシクロペンタジエンと1族の金属の直接反応を通じて金属シクロペンタジエンナイドを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は
【化1】

(式中、R、R、R及びRは炭素数1乃至20の非置換または置換されたアルキル基であり、nとmは相互に同一または異なる1乃至100の整数である。)の化学式を持つ無水素溶媒と1族の金属を反応器に入れて前記無水素溶媒の沸騰点まで昇温させる段階;及び
ジシクロペンタジエンを前記反応器に入れて反応させる段階;
を含むことを特徴とする金属シクロペンタジエンナイドの製造方法を提供する。
【0014】
以下、本発明に対してより詳しく説明する。
本発明は下記の化学式1で表示される無水素溶媒(aprotic solvent)と1族の金属を利用し、前記無水素溶媒の沸騰点でジシクロペンタジエンを加えることで前記無水素溶媒によりジシクロペンタジエンがシクロペンタジエンに転換されると共に、あらかじめ添加した1族の金属と反応させることによって金属シクロペンタジエンナイドを製造することを特徴とする。
【化2】

(式中、R、R、R及びRは炭素数1乃至20の非置換または置換されたアルキル基であり、nとmは相互に同一または異なる1乃至100の整数である。)
【0015】
前記無水素溶媒は沸騰点が130乃至300℃であるエーテル系化合物であることが好ましいが、これはジシクロペンタジエンが130℃以上でシクロペンタジエンへの転換が容易いからであり、沸騰点が300℃超過である溶媒の場合には反応温度が沸騰点まで到逹することが容易くないためである。
【0016】
前記無水素溶媒の代表的な例として、ジエチレングリコールジメチルエーテル(diethylene glycol dimethylether; ジグリメ(diglyme))、ジエチレングリコールジブチルエーテル(diethylene glycol dibutyl ether)またはジエチレングリコールモノメチルエーテル(diethylene glycol monomethylether)が挙げられるが、この中で下記の化学式2で表示されるジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリメ(diglyme))が好ましい。
【0017】
【化3】

前記ジグリメを利用したシクロペンタジエニルの金属化合物の製造方法を示すと下記の反応式1のようである。
【0018】
【化4】

(式中、Mは周期律表上の1族の金属である。)
また、前記1族の金属はカリウム(K)またはナトリウム(Na)であっても良い。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、下記の実施例を通じて本発明をより詳しく説明するが、本発明の範囲が実施例に限定されるものではない。
[実施例]
【0020】
(実施例1):ナトリウムシクロペンタジエンナイド(Sodium Cyclopentadienide;NaCp)の製造
10Lの反応器にジグリメ4Lを加えた後、ナトリウム229g(10モール)を反応器に加えた。反応器の温度をジグリメの沸騰点(162℃)まで昇温させた。反応気の温度が安定化になった後、ジシクロペンタジエン(dicyclopentadiene)462g(7モール)を徐々に反応溶液に加えた。ジシクロペンタジエンを加えると溶液表面に白い煙を観察することができた。ジシクロペンタジエンの投入が終わった後、水素ガスの生成を通じて反応程度を観察した。水素ガスの生成が終わると反応を終結した。生成溶液を常温に冷却させた後、試料を取ってNMRで生成物ナトリウムシクロペンタジエンナイド(NaCp)を下記のように確認した。
H−NMR(400.13MHz、C、ppm):δ=5.60;13C−NMR(120.62MHz、 C、ppm):δ=94.9。
【0021】
(実施例2):カリウムシクロペンタジエンナイド(Potassium Cyclopentadienide;KCp)の製造
前記実施例1からナトリウム229g(10モール)の代わりにカリウム391g(10モール)を使ったこと以外には実施例1と同一に施行した。生成溶液を常温に冷却させた後、試料を取ってNMRで生成物カリウムシクロペンタジエンナイド(KCp)を下記のように確認した。
H−NMR(400.13MHz、C、ppm):δ=5.60;13C−NMR(120.62MHz、 C、ppm):δ=94.9。
[比較例]
【0022】
(比較例1):ナトリウムシクロペンタジエンナイド(SodiumCyclopentadienide;NaCp)の製造
ジシクロペンタジエン(dicyclopentadiene)のレトロディーエルス・アルダー(retro Diels-Alder)反応を利用して、172℃でシクロペンタジエン(Cyclopentadiene)を得た。10Lの反応器にTHF6Lを加えた後、ナトリウム229g(10モール)を反応溶液に加えた。前記シクロペンタジエン462g(14モール)を徐々に反応溶液に加え、水素ガスの生成をオイルバブラー(bubbler)を通じて確認することができた。シクロペンタジエンの投入が終わった後、バブラーを通じて水素ガスの生成程度を通じて反応を観察した。水素ガスの生成が終わった後反応を終結し、NMRで生成物ナトリウムシクロペンタジエンナイド(NaCp)を下記のように確認した。
H−NMR(400.13MHz、C、ppm):δ=5.60;13C−NMR(120.62MHz、 C、ppm):δ=94.9。
【0023】
前記実施例を通じて、反応溶媒の沸騰点で直接ジシクロペンタジエンを加えて直接シクロペンタジエンを生成すると共に、金属シクロペンタジエンナイドが合成されることを確認することができるし、ジシクロペンタジエンのレトロディーエルス・アルダー(retro Diels-Alder)反応を経ってシクロペンタジエンを合成した比較例より製造過程がより簡便であることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明による金属シクロペンタジエンナイドの製造方法はジシクロペンタジエンのレトロディーエルス・アルダー(retro Diels-Alder)反応を通じる間接的なシクロペンタジエン合成と違い、反応溶媒の沸騰点で直接ジシクロペンタジエンを加えて反応中に直接シクロペンタジエンを生成すると共に、金属シクロペンタジエンナイドを合成することができるため、製造上の効率が向上するという効果がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)下記の化学式1で表示される無水素溶媒と1族の金属を反応器に入れて前記無水素溶媒の沸騰点まで昇温させる段階;及び
ii)ジシクロペンタジエンを前記反応器に入れて反応させる段階;
を含むことを特徴とする金属シクロペンタジエンナイドの製造方法。
【化1】

(式中、R、R、R及びRは炭素数1乃至20の非置換または置換されたアルキル基であり、nとmは相互に同一または異なる1乃至100の整数である。)
【請求項2】
前記無水素溶媒の沸騰点が130乃至300℃であることを特徴とする請求項1に記載の金属シクロペンタジエンナイドの製造方法。
【請求項3】
前記無水素溶媒がジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテルまたはジエチレングリコールモノメチルエーテルであることを特徴とする請求項1に記載の金属シクロペンタジエンナイドの製造方法。
【請求項4】
前記1族の金属がカリウムまたはナトリウムであることを特徴とする請求項1に記載の金属シクロペンタジエンナイドの製造方法。

【公表番号】特表2010−510979(P2010−510979A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−538311(P2009−538311)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【国際出願番号】PCT/KR2007/005511
【国際公開番号】WO2008/062958
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(500239823)エルジー・ケム・リミテッド (1,221)
【Fターム(参考)】