説明

金属スラブの幅圧下方法

【課題】金属スラブをロール幅圧下するに際し、ロール幅圧下荷重の予測精度を高め、ロール幅圧下の圧下荷重実績値と圧下荷重予測値との間のばらつきを低減し、設備許容能力にできるだけ近いロール幅圧下条件を採用して幅圧下を行うことのできる金属スラブの幅圧下方法を提供する。
【解決手段】圧下用ロール7によるロール幅圧下に先立ってプレス金型6による金型幅圧下を行い、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定し、圧下荷重実績値Pr1に基づいて、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定め、ロール幅圧下条件を定める。これにより、スラブ毎の変形抵抗のばらつきを補正することができ、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係の予測精度が向上し、設備許容能力にできるだけ近いロール幅圧下条件を採用して幅圧下を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属スラブの幅圧下方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板をはじめとする金属板の熱間圧延においては、連続鋳造で金属スラブを鋳造し、その金属スラブを熱間圧延して金属板としている。熱間圧延に供する金属スラブの幅については、圧延後の金属板の所要幅に応じて定められ、広幅から狭幅まで種々の幅の金属スラブが必要とされる。
【0003】
連続鋳造で鋳造する金属スラブの幅を熱間圧延に供する金属スラブの幅と同一とすることができるが、例えば狭幅の金属スラブを連続鋳造する場合、広幅スラブの連続鋳造に比較して連続鋳造の生産性が損なわれることとなる。そこで、連続鋳造においては一律に広幅の金属スラブを鋳造し、熱間圧延の必要に応じて金属スラブの幅圧下を行い、熱間圧延用の狭幅の金属スラブを形成した上で熱間圧延することが行われる。これにより、熱間圧延で使用する金属スラブの幅にかかわらず、常に広幅スラブの連続鋳造を行うことによって連続鋳造の生産性を向上することが可能となる。
【0004】
金属スラブ(以下単に「スラブ」ともいう。)の幅圧下に際しては、スラブの幅方向両側に配置された圧下用ロールによってロール幅圧下を行う。
【0005】
ロール幅圧下によってスラブの幅圧下を行うと、スラブの長手方向両側に塑性変形伸びが発生し、長手方向の両端部がフィッシュテール状またはタング状の形状となり、この部分はクロップとして切断除去する必要があり、製品の歩留りを低下させる要因となっている。
【0006】
ロール幅圧下を行う前に予めスラブの長手方向両端部をプレス金型を用いて幅圧下しておき、その後にロール幅圧下を行うこととすれば、ロール幅圧下のみによる幅圧下に比較して、長手方向両端部のフィッシュテール状またはタング状の形状を軽減することができる。例えば特許文献1には、スラブの先端部と後端部を先細形状に金型プレス処理した後、スラブの全長にわたってロール幅圧下によって所定幅までスラブ幅を減少させる幅圧下方法が開示されている。スラブの金型プレス成形には、スラブの幅方向両側に配置されたプレス金型が用いられる。プレス金型は、スラブの両側面と平行な押圧部と、この押圧部に連接して設けられた傾斜部とを有する一対の金型として形成される。
【0007】
特許文献2においては、複数段の金型幅圧下を行うことにより、プレス荷重を過剰に高くすることなくスラブの幅圧下量を大きくする発明が記載されている。
【0008】
ロール幅圧下においては、幅圧下1回あたりの幅圧下量が大きいほど、幅圧下の圧下荷重も大きくなる。また、スラブの厚みやスラブの温度及び成分によっても圧下荷重が変化する。ロール幅圧下装置は、設備制約に基づく圧下荷重の許容最大値が定まっているので、1回あたりの幅圧下量については、圧下荷重が許容最大値を超えないように定める必要がある。一方、連続鋳造後の広幅スラブを熱間圧延用の狭幅スラブにロール幅圧下するに際して、ロール幅圧下の回数が少ないほど生産性が向上するので、圧下荷重が許容最大値を超えない範囲でできるかぎり1回あたりのロール幅圧下量を高めることが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−79401号公報
【特許文献2】特開2008−254034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ロール幅圧下に先だって幅圧下1回あたりのロール幅圧下量を決定するに際しては、スラブの形状、温度、成分を勘案し、ロール幅圧下量と圧下荷重の関係を予測し、圧下荷重実績値が圧下荷重の許容最大値を超えないようにロール幅圧下量を決定する。ここで、圧下荷重予測値と圧下荷重実績値とは常に一致するわけではなく、両者はばらつきを有している。そこで、圧下荷重実績値が許容最大値を超えないように設定するためには、実績値と予測値のばらつきを考慮した上で、圧下荷重予測値が許容最大値よりも一定量小さな値となるようにロール幅圧下量を決定している。例えば、圧下荷重実績値と圧下荷重予測値との比率を算出し、この比率のばらつきの標準偏差を算出し、標準偏差の2.5倍分だけ、圧下荷重予測値が許容最大値よりも小さな値となるようにロール圧下条件を定めることが行われている。
【0011】
従来、ロール圧下の圧下荷重実績値と圧下荷重予測値との間のばらつきは大きく、圧下荷重許容最大値が14MN(メガニュートン)である設備において、安全を見越して、圧下荷重予測値が最大でも12MN以下となるようにロール圧下条件を定めており、その結果として、圧下荷重実績値の最大値は平均で12MN程度となり、ロール幅圧下装置の設備能力を十分に生かせない状況にあった。
【0012】
本発明においては、ロール幅圧下荷重の予測精度を高め、ロール幅圧下の圧下荷重実績値と圧下荷重予測値との間のばらつきを低減し、設備許容能力にできるだけ近いロール幅圧下条件を採用して幅圧下を行うことのできる金属スラブの幅圧下方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)金属スラブ10の長手方向両端部又は一方の端部について、幅方向両側に配置されたプレス金型5によって金型幅圧下を行い、次いで幅方向両側に配置された圧下用ロール7によってロール幅圧下を行う金属スラブの幅圧下方法において、
金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定し、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1に基づいて、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定め、当該ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係に基づいて、ロール幅圧下条件を定めることを特徴とする金属スラブの幅圧下方法。
(2)予め幅圧下時の金属スラブの変形抵抗予測値Kmを定め、変形抵抗予測値Kmに基づいて金型幅圧下の圧下荷重予測値Pc1を定め、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1と圧下荷重予測値Pc1の比率(以下「金型圧下荷重実績予測比Rrc1」という。)を算出し、前記定めた変形抵抗予測値Km及び前記金型圧下荷重実績予測比Rrc1に基づいてロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定めることを特徴とする上記(1)に記載の金属スラブの幅圧下方法。
(3)金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1から幅圧下時の金属スラブの変形抵抗実績値を算出し、該変形抵抗実績値に基づいてロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定めることを特徴とする上記(1)に記載の金属スラブの幅圧下方法。
(4)ロール幅圧下時の圧下荷重実測値Pr2を測定し、複数の金属スラブの幅圧下の実績から、ロール幅圧下の圧下荷重実績値Pr2と圧下荷重予測値Pc2との比率(以下「ロール圧下荷重実績予測比Rrc2」という。)のばらつきを算出し、前記ロール圧下荷重実績予測比Rrc2のばらつきの大きさに応じて、ロール幅圧下における圧下荷重予測値の最大許容値Pc2maxを定め、ロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2が当該最大許容値Pc2max以下となるようにロール幅圧下条件を定めることを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の金属スラブの幅圧下方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、金属スラブのロール幅圧下に先立って行われる金型幅圧下において圧下荷重実績値を測定し、その圧下荷重実測値に基づいてロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値との関係を定めるので予測精度が向上し、設備許容能力にできるだけ近いロール幅圧下条件を採用して幅圧下を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】スラブ幅圧下装置の全体概略図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】金型幅圧下の推移を示す部分断面図である。
【図3】幅圧下時の接触投影長さの算出方法を示す図であり、(a)(b)は金型幅圧下、(c)はロール幅圧下の場合である。
【図4】本発明のロール幅圧下における圧下荷重予測値と圧下荷重実績値の関係を示す図である。
【図5】従来のロール幅圧下における圧下荷重予測値と圧下荷重実績値の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1はスラブ幅圧下の全体を示す概念図である。連続鋳造機1を出た金属スラブ10は、加熱炉2に装入されて加熱され温度が均一化される。次いで加熱炉2から搬出した金属スラブ10は金型幅圧下装置3に導かれる。金型幅圧下装置3においては、スラブの幅方向両側にプレス金型5が配置されている。プレス金型5は、スラブの両側面と平行な押圧部11と、この押圧部11に連接して設けられた傾斜部12とを有する一対の金型として形成される。図2に示すように、スラブ幅方向両側に配置されたプレス金型5でスラブの長手方向両端部を幅方向からプレスする。図2(a)の状態から、図2(b)(c)のように幅方向に必要に応じて複数回、次いで図2(d)のように長手方向にスラブを移動し、さらに図2(e)(f)のように複数回の幅圧下を行うことにより、スラブの長手方向両端部の形状を先細形状とすることができる(図2(g))。
【0017】
次いで図1に示すように、スラブ10はロール幅圧下装置4に導かれる。ロール幅圧下装置4においては、スラブの幅方向両側に圧下用ロール7が配置され、幅圧下量に見合ったロール間隔で圧下用ロール7を配置し、圧下用ロール7の間にスラブ10を送り込むことにより、ロール幅圧下が行われる。
【0018】
金型幅圧下、ロール幅圧下のいずれも、圧下荷重は、スラブ形状、圧下条件、スラブの変形抵抗によって定まる。スラブの変形抵抗は、スラブ温度、スラブ成分によって影響を受ける。
【0019】
まず、ロール幅圧下の圧下荷重について説明する。
【0020】
スラブの変形抵抗予測値をKmとおく。Kmは、スラブの温度、成分によって定まる係数である。ロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2は、変形抵抗予測値Km、ロール幅圧下時のスラブ厚H2、ロール幅圧下時の接触投影長さL2、ロール幅圧下時における圧下力関数Q2から、以下の式で算出される。ロール幅圧下時の接触投影長さL2は、図3(c)に基づいて算出することができる。
Pc2=Km×H2×L2×Q2 (1)
【0021】
ロール幅圧下時における圧下力関数Q2は、例えば
2=0.8×(0.45×r+0.04)・[(R/W20.5−0.5] (2)
として求められる。ここでW2は圧下前スラブ幅、rは幅圧下率(=ΔE/W2)、ΔEは幅圧下量(=W2−E)、R=ΔE/4+L22/ΔEである。
【0022】
予め、ロール幅圧下の圧下荷重予測値の最大値Pc2maxを定めておく。ロール幅圧下装置4は、設備制約に基づいて圧下荷重の許容最大値Prmaxが定められている。圧下荷重予測値の最大値Pc2maxは、圧下荷重の許容最大値Prmaxよりも低い値として定める。圧下荷重実績値Pr2がたとえ圧下荷重予測値Pc2よりも高かったとしても、圧下荷重の許容最大値Prmaxを超えないようにするためである。圧下荷重の予測値と実績値との差異ばらつきが大きいほど、安全係数を大きくする必要が生じるので、圧下荷重予測値の最大値Pc2maxをより小さな値とすることが必要となる。
【0023】
ロール幅圧下に際しては、幅圧下を行うスラブの表面温度を測定し、測定したスラブ温度とスラブ成分の予測値あるいは実測値を用いて変形抵抗予測値Kmを定める。そしてロール幅圧下条件を仮に定めた上で上記(1)式によって圧下荷重予測値Pc2を算出する。そして、圧下荷重予測値Pc2が上記圧下荷重予測値の最大値Pc2maxを超えないように、最終的にロール幅圧下条件を決定する。圧下荷重予測値Pc2を圧下荷重予測値の最大値Pc2maxと等しく置き、(1)式を逆算することにより、ロール幅圧下条件を決定することもできる。
【0024】
ロール幅圧下装置4にはロール幅圧下荷重測定装置22が設けられ、これによって圧下荷重実測値Pr2を測定することができる。そして、(1)式を用いて算出した圧下荷重予測値Pc2と圧下荷重実測値Pr2を比較し、例えば両者の比(ロール圧下荷重実績予測比Rrc2
Rrc2=Pr2/Pc2 (3)
を算出し、多数のスラブのロール圧下結果に基づき、このRrc2のばらつき標準偏差σを求める。前述のように、圧下荷重の予測値と実績値との差異ばらつきが大きいほど(σが大きいほど)、安全係数を大きくする必要が生じるので、圧下荷重予測値の最大値Pc2maxは、圧下荷重の許容最大値Prmaxに対してより低い値として定める。例えば、
Pc2max=(1−2.5×σ)×Prmax (4)
とする。これにより、たとえ圧下荷重予測値Pc2に対して圧下荷重実績値Pr2が大幅に上回った場合でも、圧下荷重実績値Pr2が圧下荷重の許容最大値Prmaxを超える危険を回避することができる。
【0025】
実際のロール幅圧下において(3)式のRrc2のばらつき標準偏差σを求めたところ、σ=0.06との結果が得られた。また、ロール幅圧下装置の圧下荷重の許容最大値Prmax=14MNであった。そこで、(4)式によって圧下荷重予測値の最大値Pc2maxを求めた。
Pc2max=(1−2.5×σ)×Prmax
=(1−2.5×0.06)×14≒12(MN)
【0026】
そこで、各スラブにおいてロール圧下条件を定めるに際し、圧下荷重予測値Pc2が多くても12MNを超えないように、(1)式を用いてロール圧下条件を決定した。圧下荷重予測値Pc2と圧下荷重実績値Pr2との関係を図5に示す。図5から明らかなように、圧下荷重予測値Pc2が多くても12MNを超えないようにロール圧下条件を決定した結果として、圧下荷重実績値は14MN以下に収めることができた。
【0027】
次に、金型幅圧下の圧下荷重について説明する。
【0028】
前記ロール幅圧下と同様、金型幅圧下についても、金型幅圧下の圧下荷重予測値Pc1は、スラブの変形抵抗予測値Kmの関数として定めることができる。具体的には、金型幅圧下時のスラブ厚H1、金型幅圧下時の接触投影長さL1、金型幅圧下時における圧下力関数Q1から、以下の式で算出される。
Pc1=Km×H1×L1×Q1 (5)
金型幅圧下時の接触投影長さL1は、図3(a)(b)に示すL1として定めることができる。金型幅圧下時における圧下力関数Q1は、例えば
1=(π+W1/L1)/4 (6)
として求められる。ここでW1は圧下前スラブ厚である。
【0029】
本発明においては、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定する。例えば金型幅圧下装置にロードセルを用いた金型幅圧下荷重測定装置21を設けることにより、Pr1を測定することができる。実際に幅圧下を行うスラブについて、金型幅圧下における圧下荷重予測値Pc1と圧下荷重実績値Pr1を対比することができるので、対比結果に基づいて、スラブの変形抵抗予測値Kmを修正することが可能になる。あるいは、スラブの変形抵抗予測値Kmを修正するのではなく、ロール幅圧下において、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1に基づいて直接修正することも可能である。このような修正を行った上でロール幅圧下条件を定めることとすると、従来に比較し、ロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2と圧下荷重実績値Pr2とのばらつきを低減することが可能になる。
【0030】
即ち、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1に基づいて、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定め、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係に基づいて、ロール幅圧下条件を定めることにより、ロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2と圧下荷重実績値Pr2とのばらつきが低減するので、ロール幅圧下の圧下荷重予測値の最大値Pc2maxをより大きな値(ロール幅圧下装置の圧下荷重の許容最大値Prmaxに近い値)とすることができ、ロール幅圧下装置の設備能力をフルに生かしたロール幅圧下を行うことが可能になる。
【0031】
以下、本発明の第1、第2の実施の形態に基づいて具体的に説明する。
【0032】
本発明の第1の実施の形態について説明する。
【0033】
第1の実施の形態においては、まず予め幅圧下時の金属スラブの変形抵抗予測値Kmを定める。変形抵抗予測値Kmは、幅圧下時のスラブ表面温度、スラブ成分などに基づいて算出する関数を予め定めておく。次に、変形抵抗予測値Kmに基づいて金型幅圧下の圧下荷重予測値Pc1を定める。例えば、前記(5)式によってPc1を算出することができる。本発明では上述のとおり、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定する。このPr1を用い、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1と前記算出した圧下荷重予測値Pc1の比率(金型圧下荷重実績予測比Rrc1)を算出する。
Rrc1=Pr1/Pc1 (7)
【0034】
この金型圧下荷重実績予測比Rrc1を用いることにより、スラブの変形抵抗予測値Kmをより正確な値に修正することが可能である。例えば、
Km’=Rrc1×Km
として修正することができる。実際の計算ではKmそのものを修正するのではなく、予め定めた変形抵抗予測値Km及び前記金型圧下荷重実績予測比Rrc1に基づいてロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定める。具体的には、前記(1)式を修正し、
Pc2=Rrc1×Km×H2×L2×Q2 (8)
としてロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2を算出する。このように、金型幅圧下の実績から求めたRrc1を用いてロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2を修正する結果として、従来よりも精度高くロール幅圧下の圧下荷重予測値を求めることが可能となる。
【0035】
次に本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0036】
第2の実施の形態においては、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1そのものから幅圧下時の金属スラブの変形抵抗実績値Kmrを算出する。即ち、前記(5)式
Pc1=Km×H1×L1×Q1 (5)
において、Pc1をPr1に置き換え、この式から逆算してKmrを求めることができるのである。
Kmr=Pr1/(H1×L1×Q1) (9)
【0037】
このようにして求めた変形抵抗実績値Kmrに基づいてロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定める。具体的には、前記(1)式のKmをKmrに置き換えた下記(1)’式を用いてロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2求めることができる。
Pc2=Kmr×H2×L2×Q2 (1)’
【0038】
このように、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1そのものから当該スラブについて幅圧下時の金属スラブの変形抵抗実績値Kmrを算出する結果として、従来よりも精度高くロール幅圧下の圧下荷重予測値を求めることが可能となる。
【0039】
上記第1の実施の形態と第2の実施の形態は、計算の順番を入れ替えたにすぎず、両者は実質的に同じ原理に基づいている。
【0040】
このようにして従来よりも精度高くロール幅圧下の圧下荷重予測値を求めることとした上で、ロール幅圧下装置の能力をフルに生かしたロール幅圧下を行う本発明について説明する。
【0041】
上記本発明を適用し、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定し、該金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1に基づいて、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係を定め、当該ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2との関係に基づいて、ロール幅圧下条件を定める。このとき、ロール幅圧下時の圧下荷重実測値Pr2を測定する。そして、複数の金属スラブの幅圧下の実績から、ロール幅圧下の圧下荷重実績値Pr2と圧下荷重予測値Pc2との比率(ロール圧下荷重実績予測比Rrc2)のばらつき、例えば標準偏差σを算出する。
Rrc2=Pr2/Pc2 (3)
【0042】
さらに、前記ロール圧下荷重実績予測比Rrc2のばらつきの大きさに応じて、ロール幅圧下における圧下荷重予測値の最大許容値Pc2maxを定め、ロール幅圧下の圧下荷重予測値が当該最大許容値以下となるようにロール幅圧下条件を定める。ここで、ロール幅圧下における圧下荷重予測値の最大許容値Pc2maxを定めるに際し、圧下荷重実績値Pr2がたとえ圧下荷重予測値Pc2よりも高かったとしても、圧下荷重の許容最大値Prmaxを超えないように定める。具体的には、圧下荷重予測値の最大値Pc2maxと圧下荷重の許容最大値Prmaxとの関係を、ロール圧下荷重実績予測比Rrc2の標準偏差σの関数として定めておく。より具体的には、例えば圧下荷重予測値の最大値Pc2maxと圧下荷重の許容最大値Prmaxの比(Pc2max/Prmax)が、(1−2.5σ)と同等あるいはこれよりも小さくなるように定める。安全率を2.5σ以上に大きく設定すれば、圧下荷重実績値Pr2が圧下荷重の許容最大値Prmaxを超える頻度は実際上ほとんど害のないレベルとなる。安全率については、2.5σとする以外にも、より安全を期する場合には3.0σとしても良い。また、ロール幅圧下の生産性を向上することが重要である場合には、2.0σとすることも可能である。
【実施例】
【0043】
図1に示すように、連続鋳造機1で鋳造した鋼スラブを対象とし、長手方向両端部について、幅方向両側に配置されたプレス金型5によって金型幅圧下を行い、次いで幅方向両側に配置された圧下用ロール7によってロール幅圧下を行うに際し、本発明を適用した。連続鋳造直後の鋼スラブ10の形状は、厚さが280mm、幅が1800mmである。幅圧下後のスラブ幅は750〜1800mmである。
【0044】
連続鋳造後の鋼スラブを加熱炉2に装入し、スラブ表面温度が1100℃程度になるように加熱する。次いで加熱炉2から搬出した金属スラブは金型幅圧下装置3に導かれる。金型幅圧下装置3においては、スラブ10の幅方向両側にプレス金型5が配置されている。プレス金型5は、スラブの両側面と平行な押圧部11と、この押圧部11に連接して設けられた傾斜部12とを有している。スラブ幅方向両側に配置されたプレス金型5は、プレス装置6によってスラブに押し付けられ、スラブの長手方向両端部を幅方向からプレスする。プレス装置6には金型幅圧下荷重測定装置21が設けられ、金型圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定することができる。また、幅圧下パターンに基づき、図3(a)(b)のように金型幅圧下時の接触投影長さL1を定める。金型幅圧下の結果として、鋼スラブは図2(g)に示すようなスラブ長手方向両端部が先細形状となる。
【0045】
次いで、スラブはロール幅圧下装置4に導かれる。ロール幅圧下装置4においては、スラブの幅方向両側に圧下用ロール7が配置され、幅圧下量に見合ったロール間隔で圧下用ロール7を配置し、圧下用ロール7の間にスラブ10を送り込むことにより、ロール幅圧下が行われる。圧下用ロール7の直径は1000mm、圧下荷重の許容最大値Prmaxは14MNである。圧下用ロール7の支持装置にロール幅圧下荷重測定装置22が設けられ、ロール幅圧下の圧下荷重実績値Pr2を測定することができる。
【0046】
ロール幅圧下に際しては、ロール幅圧下時の圧下荷重実績値Pr2が圧下荷重の許容最大値Prmaxである14MNを超えないように幅圧下パターン、つまり1回あたりの幅圧下量の最大値を決定する。ロール幅圧下代が1回あたりの幅圧下量最大値より少ない場合には、1回でロール幅圧下を行うことができる。ロール幅圧下代が1回あたりの幅圧下量最大値より多い場合には、2回以上に分けてロール幅圧下を行う。
【0047】
変形抵抗予測値Kmとして、「美坂の式」と呼ばれる下記(10)式に示す関数Kmを用いた。ここで、(10)式に代入するTについては、スラブ毎に加熱炉内での昇温状態を周囲温度や昇温時間実績をもとにした熱計算により、スラブ内温度分布を計算で求め、計算したスラブ内温度分布からスラブ断面平均の絶対温度として算出した。
Km=exp(K'+A/T)・ε0.21・εdot0.13 [kgf/mm2] (10)
K’=0.126−1.75C+0.594C2
A=2851+2968C−1120C2
ここで、T:スラブ断面平均の絶対温度(K)
C:炭素当量(−)
ε:ひずみ(−)
εdot:歪み速度(−/秒)である。
【0048】
(比較例)
本発明を適用することなく、幅圧下を行った。
【0049】
ロール幅圧下に際しては上記(10)式によって変形抵抗予測値Kmを求め、前記(1)式に基づいて圧下荷重予測値Pc2を算出した。ロール幅圧下時の接触投影長さL2は図3(c)のように定め、ロール幅圧下時における圧下力関数Q2として前記(2)式を採用した。
【0050】
ロール幅圧下においては圧下荷重実測値Pr2を測定し、上記算出した圧下荷重予測値Pc2と比較し、前記(3)式のロール圧下荷重実績予測比Rrc2を求めた上で、多数のスラブのロール圧下結果に基づき、このRrc2のばらつき標準偏差σを求めた。その結果、σ=0.06であった。そこで、安全率を2.5σとし、前記(4)式によって圧下荷重予測値の最大値Pc2maxを求めたところ、Pc2max=12MNとなった。
【0051】
そこで、各スラブにおいてロール圧下条件を定めるに際し、圧下荷重予測値Pc2が多くても12MNを超えないように、(1)式を用いてロール圧下条件を決定した。圧下荷重予測値と圧下荷重実績値との関係を図5に示す。図5から明らかなように、圧下荷重予測値Pc2が多くても12MNを超えないようにロール圧下条件を決定した結果として、圧下荷重実績値は14MN以下に収めることができた。しかし、圧下荷重予測値Pc2の最大値を12MNに抑えたため、ロール幅圧下装置の能力を最大限に生かすことができなかった。
【0052】
(本発明例1)
本発明例1においては、上記(10)式に基づいて変形抵抗予測値Kmを定め、変形抵抗予測値Kmに基づいて前記(5)式によって金型圧下時の圧下荷重予測値Pc1を算出した。金型幅圧下時の接触投影長さL1は、図3(a)(b)に示すL1として定め、金型幅圧下時における圧下力関数Q1は前記(6)式を用いた。また、金型幅圧下装置3のプレス装置6に設けられた金型幅圧下荷重測定装置21を用いて金型圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定した。これらの結果を用い、金型幅圧下時の圧下荷重実績値Pr1と前記算出した圧下荷重予測値Pc1の比率(金型圧下荷重実績予測比Rrc1)を前記(7)式によって算出した。
【0053】
金型幅圧下が完了したスラブについて引き続きロール幅圧下を行う。このとき、前記(1)式をRrc1によって補正した前記(8)式を用いてロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2を算出した。ロール幅圧下時の接触投影長さL2は図3(c)のように定め、ロール幅圧下時における圧下力関数Q2として前記(2)式を採用した。上記比較例同様、ロール幅圧下においては圧下荷重実測値Pr2を測定し、上記算出した圧下荷重予測値Pc2とを比較し、前記(3)式のロール圧下荷重実績予測比Rrc2を求めた上で、多数のスラブのロール圧下結果に基づき、このRrc2のばらつき標準偏差σを求めた。その結果、σ=0.04であった。そこで、安全率を2.5σとし、前記(4)式によって圧下荷重予測値の最大値Pc2maxを求めたところ、Pc2max=13MNとなった。
【0054】
そこで、各スラブにおいてロール圧下条件を定めるに際し、圧下荷重予測値Pc2が多くても13MNを超えないように、(1)式を用いてロール圧下条件を決定した。圧下荷重予測値と圧下荷重実績値との関係を図4に示す。図4から明らかなように、圧下荷重予測値Pc2が多くても13MNを超えないようにロール圧下条件を決定した結果として、圧下荷重実績値Pr2は14MN以下に収めることができた。そして、圧下荷重予測値Pc2の最大値が、比較例の12MNに対して本発明例1では13MNに増えたため、ロール幅圧下装置の能力を最大限に生かすことができた。
【0055】
(本発明例2)
本発明例2においては、金型幅圧下装置のプレス装置に設けられた金型幅圧下荷重測定装置21を用いて金型圧下時の圧下荷重実績値Pr1を測定し、前記(9)式によって金属スラブの変形抵抗実績値Kmrを算出した。金型幅圧下時の接触投影長さL1は、図3(a)(b)に示すL1として定め、金型幅圧下時における圧下力関数Q1は前記(6)式を用いた。
【0056】
金型幅圧下が完了したスラブについて引き続きロール幅圧下を行う。前記(1)’式を用いてロール幅圧下の圧下荷重予測値Pc2を算出するに際し、変形抵抗実績値Kmrとして上記(9)式で算出した値を用いた。ロール幅圧下時の接触投影長さL2は図3(c)のように定め、ロール幅圧下時における圧下力関数Q2として前記(2)式を採用した。上記本発明例1と同様にRrc2のばらつき標準偏差σを求めたところ、σ=0.04であって本発明例1と同じ結果となった。従って、本発明例1と同様、各スラブにおいてロール圧下条件を定めるに際し、圧下荷重予測値Pc2が多くても13MNを超えないように、(1)式を用いてロール圧下条件を決定した。本発明例1と同様の好適な結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0057】
1 連続鋳造機
2 加熱炉
3 金型幅圧下装置
4 ロール幅圧下装置
5 プレス金型
6 プレス装置
7 圧下用ロール
8 スラブ搬送装置
10 スラブ
11 押圧部
12 傾斜部
13 スラブ側面
14 スラブ長手方向端面
17 先細部
21 金型幅圧下荷重測定装置
22 ロール幅圧下荷重測定装置
Km スラブの変形抵抗予測値
Kmr スラブの変形抵抗実績値
Pc1 金型幅圧下の圧下荷重予測値
Pr1 金型幅圧下の圧下荷重実績値
Pc2 ロール幅圧下の圧下荷重予測値
Pr2 ロール幅圧下の圧下荷重実績値
Prmax 圧下荷重の許容最大値
Rrc1 金型圧下荷重実績予測比
Rrc2 ロール圧下荷重実績予測比
Pc2max 圧下荷重予測値の最大値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属スラブの長手方向両端部又は一方の端部について、幅方向両側に配置されたプレス金型によって金型幅圧下を行い、次いで幅方向両側に配置された圧下用ロールによってロール幅圧下を行う金属スラブの幅圧下方法において、
金型幅圧下時の圧下荷重実績値を測定し、
該金型幅圧下時の圧下荷重実績値に基づいて、ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値との関係を定め、
当該ロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値との関係に基づいて、ロール幅圧下条件を定めることを特徴とする金属スラブの幅圧下方法。
【請求項2】
予め幅圧下時の金属スラブの変形抵抗予測値を定め、当該変形抵抗予測値に基づいて金型幅圧下の圧下荷重予測値を定め、
前記金型幅圧下時の圧下荷重実績値と圧下荷重予測値の比率(以下「金型圧下荷重実績予測比」という。)を算出し、
前記定めた変形抵抗予測値及び前記金型圧下荷重実績予測比に基づいてロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値との関係を定めることを特徴とする請求項1に記載の金属スラブの幅圧下方法。
【請求項3】
前記金型幅圧下時の圧下荷重実績値から幅圧下時の金属スラブの変形抵抗実績値を算出し、
該変形抵抗実績値に基づいてロール幅圧下条件とロール幅圧下の圧下荷重予測値との関係を定めることを特徴とする請求項1に記載の金属スラブの幅圧下方法。
【請求項4】
ロール幅圧下時の圧下荷重実測値を測定し、
複数の金属スラブの幅圧下の実績から、ロール幅圧下の圧下荷重実績値と圧下荷重予測値との比率(以下「ロール圧下荷重実績予測比」という。)のばらつきを算出し、
前記ロール圧下荷重実績予測比のばらつきの大きさに応じて、ロール幅圧下における圧下荷重予測値の最大許容値を定め、ロール幅圧下の圧下荷重予測値が当該最大許容値以下となるようにロール幅圧下条件を定めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の金属スラブの幅圧下方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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