金属ナノシートの製造方法、および金属ナノシート
【課題】金属化合物の層状化合物を前駆体として利用することにより各種の金属ナノシートを製造することのできる金属ナノシートの製造方法、およびかかる方法で製造された金属ナノシートを提供すること。
【解決手段】金属ナノシートの製造方法において、金属硫化物、金属酸化物、金属水酸化物、粘土鉱物等の金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程ST10と、金属化合物を還元して層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程ST40とを行なう。還元工程ST40では、還元性雰囲気下での焼成処理を行なう。また、単層剥離工程ST20の後、還元工程ST40の前に、金属化合物ナノシートを自己組織化により堆積させて薄膜を得る堆積工程ST30を行い、還元工程ST40では、金属化合物ナノシートの薄膜の状態で金属化合物を還元して金属ナノシートを得る。
【解決手段】金属ナノシートの製造方法において、金属硫化物、金属酸化物、金属水酸化物、粘土鉱物等の金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程ST10と、金属化合物を還元して層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程ST40とを行なう。還元工程ST40では、還元性雰囲気下での焼成処理を行なう。また、単層剥離工程ST20の後、還元工程ST40の前に、金属化合物ナノシートを自己組織化により堆積させて薄膜を得る堆積工程ST30を行い、還元工程ST40では、金属化合物ナノシートの薄膜の状態で金属化合物を還元して金属ナノシートを得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノシートの製造方法、および当該製造方法により得られた金属ナノシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノシートとは、通常、厚さがナノメートルオーダーであるのに対して、横サイズがその数十倍から数百倍以上という高い異方性を持つ2次元物質である。かかるナノシートは、母相の機能性(導電性、半導体的性質、誘電性等)を継承するだけでなく、触媒反応等に必要な広い比表面積を有する。また、ナノシートは、一次元の量子サイズ効果を発現する等、際立った物性を示すことがある。さらに、ナノシートは、一度分離させたナノシートを機能性ブロックとして再び3次元的に集積化し、熱力学的には達成できない人工超格子状のナノ構造材料を構築することにより、物性・特性を自在に制御できる可能性を秘めている。それ故、ナノシートについては、これまで分子線ビームエピタキシー等の気相合成技術が主流であった超格子アプローチを液相で展開できるため、製品性能だけでなく合成ルートの視点からも、エネルギー・デバイス分野を中心とした産業界から高い関心を集めている。
【0003】
かかるナノシートの合成方法に関しては、
合成方法(1):分子、イオン等から成長させる方法
合成方法(2):層状化合物を単層剥離する方法
が提案されている。
【0004】
これらの合成方法(1)、(2)は、金属化合物のナノシートの合成に向けて検討されてきたものであるが、液相反応を利用して白金や金等といった貴金属のナノシートを製造する技術も提案されている(特許文献1、2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−228450号公報
【特許文献2】特開2008−57023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した応用展開のためには、ナノシートのラインナップや拡充は必要不可欠である。特に、既存のナノシートとは全く異なった性状を有するナノシートの誕生は、新たなナノシート材料の応用展開を切り開く鍵となることから、その合成手法を含めて先駆的な探索が重要な課題となっている。
【0007】
しかしながら、金属ナノシートについては、極めて一部の金属について実現されたと報告されているだけで、ナノシートのラインナップや拡充を図るには不十分である。一方、上記の合成方法(2)については、ホスト層の層間に異種イオンや溶媒分子などを挿入させてホスト層を無限膨潤させる必要があるため、従来、ナノシートの出発物質は熱力学的に合成された結晶性の層状化合物(硫化物系、酸化物系、水酸化物系、炭素系)、あるいは自然界に存在する粘土鉱物を前駆体にした金属化合物ナノシートを合成するのに限られており、金属ナノシートを得るための方法としては着目されていないのが現状である。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、金属化合物の層状化合物を前駆体として利用することにより各種の金属ナノシートを製造することのできる金属ナノシートの製造方法、およびかかる方法で製造された金属ナノシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明者らは、鋭意研究した結果、原子拡散を抑制しながらホスト層一枚一枚の還元反応を進行させることにより、層状化合物のラメラ構造を大きく壊すことなく、金属ナノシートあるいはその積層体を得ることができることを知見したものである。本発明はこれらの一連の知見に基づいてなされたものであり、厚みが1nm以下で、シート平面方向における寸法が30nm以上の2次元異方性を兼ね備えた金属ナノシート、およびその製造方法を提供するものである。
【0010】
まず、本発明の金属ナノシートの製造方法は、少なくとも、金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程と、前記金属化合物を還元して前記層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、層状化合物を構成する金属化合物を還元することにより、層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを製造するという新たな技術であり、各種の金属ナノシートを製造することができる。従って、触媒や薄膜形成材料、塗膜等といった各種分野への応用を図るのに必要なナノシートのラインナップや拡充を大幅に実現することができる。また、本発明によれば、原子拡散を抑制しながらホスト層一枚一枚の還元反応を進行させることができるため、層状化合物のラメラ構造を大きく壊すことなく、金属ナノシートあるいはその積層体を得ることができる。それ故、既存の金属クラスターサイズに匹敵する1nm以下の厚みを有し、シート平面方向には30nm以上、例えば、数μmのサイズを有する金属ナノシートを実現することができる。
【0012】
本発明において、前記還元工程では、例えば、前記層状化合物を単層剥離させてなる金属化合物ナノシートの状態、あるいは前記層状化合物の状態で、前記金属化合物を還元して、単層あるいは複層の前記金属ナノシートを得る。
【0013】
本発明において、前者の方法を採用する場合、前記層状化合物準備工程を行なった後、前記還元工程の前に、前記層状化合物を単層剥離させて前記金属化合物ナノシートを得る単層剥離工程を行い、前記還元工程では、当該金属化合物ナノシートの状態で前記金属化合物を還元する。
【0014】
この場合、前記単層剥離工程の後、前記還元工程の前に、前記金属化合物ナノシートを堆積させて薄膜を形成する堆積工程を行い、前記還元工程では、前記金属化合物ナノシートの薄膜の状態で前記金属化合物を還元してもよい。
【0015】
本発明において、後者の方法を採用する場合、前記還元工程において、前記層状化合物の状態で前記金属化合物を還元して前記金属ナノシートが複数積層した金属ナノシート構造体を得る。この場合、前記還元工程の後、前記ナノシート構造体を単層の前記金属ナノシートに単層剥離させる単層剥離工程を行なってもよい。
【0016】
本発明において、前記還元工程では、還元性雰囲気下での焼成処理を用いることが好ましい。かかる還元性雰囲気は、例えば、水素含有雰囲気等によって実現することができる。
【0017】
本発明において、前記還元工程では、還元性溶液を用いた湿式処理を用いてもよい。かかる還元性溶液は、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)等の溶液によって実現することができる。
【0018】
本発明において、前記金属化合物は、例えば、ルテニウム、チタン、ニオブ、バナジウム、マンガン、コバルト、モリブデン等の金属の硫化物、金属酸化物、金属水酸化物である。また、前記金属化合物は、粘土鉱物であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、層状化合物を構成する金属化合物を還元することにより、層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを製造するという新たな技術であり、各種の金属ナノシートを製造することができる。従って、触媒や薄膜形成材料、塗膜等といった各種分野への応用を図るのに必要なナノシートのラインナップや拡充を大幅に実現することができる。また、本発明によれば、原子拡散を抑制しながらホスト層一枚一枚の還元反応を進行させることができるため、層状化合物のラメラ構造を大きく壊すことなく、金属ナノシートあるいはその積層体を得ることができる。それ故、既存の金属クラスターサイズに匹敵する1nm以下の厚みを有し、シート平面方向には30nm以上、例えば、数μmのサイズを有する金属ナノシートを実現することができる。かかる2次元異方性は、母相の機能性(導電性、半導体的性質、誘電性等)を継承するだけでなく、一次元の量子サイズ効果を発現する等、際立った物性が期待できる。また、本発明を適用した金属ナノシートは、巨大な比表面積を有しているため、触媒としての利用や、薄膜材料やコーティング材としての利用を可能とする。さらに、金属ナノシートは工業的に重要な金属材料として機能性に優れることから、これを用いて作製したナノ構造体は電極や触媒材料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、K型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程および単層剥離工程の説明図である。
【図4】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、Na型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程および単層剥離工程の説明図である。
【図5】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法で行なう酸化ルテニウムナノシートの堆積工程の説明図である。
【図6】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子をAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に対して行なう還元工程の説明図である。
【図8】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシートをAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【図9】本発明の実施例1の参考例に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に焼成を行なった後のX線回折パターンを示す説明図である。
【図10】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)に対して行なう還元工程の説明図である。
【図11】本発明の実施例2に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図である。
【図12】本発明の実施例3に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図であり、図1(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態1に係る金属ナノシートの製造方法において、金属化合物を自己組織化等の手段で堆積させる堆積工程を行なわない場合の工程図、および堆積工程を行なう場合の工程図である。
【0023】
図1(a)に示すように、本形態の金属ナノシートの製造方法では、少なくとも、金属硫化物、金属酸化物、あるいは金属水酸化物等の金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程ST10と、金属化合物を還元して層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程ST40とを行なう。層状化合物としては粘土鉱物を用いてもよい。還元工程ST40では、水素含有雰囲気等の還元性雰囲気下での焼成処理や、水素化ホウ素ナトリウム等を含む還元性溶液を用いた湿式処理を用いる。
【0024】
本形態において、還元工程ST40では、金属化合物ナノシートの状態で金属化合物を還元して金属ナノシートを得る。このため、層状化合物準備工程ST10を行なった後、還元工程ST40の前に、層状化合物を単層剥離させて金属化合物ナノシートを得る単層剥離工程ST20を行う。
【0025】
また、図1(b)に示すように、単層剥離工程ST20の後、還元工程ST40の前に、金属化合物ナノシートを自己組織化的に堆積させて薄膜を形成する堆積工程ST30を行い、還元工程ST40では、金属化合物ナノシートの薄膜の状態で金属化合物を還元して金属ナノシートを得てもよい。
【0026】
これらいずれの場合でも、単層剥離工程ST20では、層状化合物の層間に異種イオンあるいは溶媒分子を挿入して層間を広げる無限膨潤化処理(ソフト化学反応)を利用すればよい。
【0027】
<実施の形態2>
図2は、本発明の実施の形態2に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図である。図2に示すように、本形態では、実施の形態1と同様、少なくとも、金属硫化物、金属酸化物、あるいは金属水酸化物等の金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程ST10と、金属化合物を還元して層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程ST40とを行なう。層状化合物としては粘土鉱物を用いてもよい。還元工程ST40では、水素含有雰囲気等の還元性雰囲気下での焼成処理や、水素化ホウ素ナトリウム等を含む還元性溶液を用いた湿式処理を用いる。
【0028】
本形態において、還元工程ST40では、層状化合物の状態で金属化合物を還元して金属ナノシートが複数積層した金属ナノシート構造体を得る。このため、本形態では、還元工程ST40の後、ナノシート構造体を単層の金属ナノシートに単層剥離させる単層剥離工程ST50を行なえば、単層の金属ナノシートを得ることができる。
【0029】
また、単層剥離工程ST50を容易に行なうことを目的に、層状化合物準備工程ST10の後、還元工程ST40の前に、層状化合物の層間に異種イオンあるいは溶媒分子を挿入して層間を広げる無限膨潤化処理を行なうことが好ましい。かかる無限膨潤化処理は、還元工程ST40の後に行なってもよく、この場合、超音波処理等を介して金属ナノシート構造体の層間に異種イオンあるいは溶媒分子を挿入して金属ナノシート構造体の層間を広げることになる。
【実施例】
【0030】
<実施例1>
本発明の実施例1として、図1(b)を参照して説明した実施の形態1に係る方法により、酸化ルテニウム(金属化合物)の層状化合物から金属ルテニウムナノシート(金属ナノシート)を製造する方法を説明する。
【0031】
[層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20]
図3は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、K型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20の説明図である。図4は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、Na型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20の説明図である。
【0032】
図3に示すように、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法では、K型層状酸化ルテニウム(層状化合物)を用いる。このため、層状化合物準備工程ST10においては、酸化ルテニウムと炭酸カリウムをモル比8:5の割合となるように量り取り、メノウ乳鉢を用いてアセトン中で1時間湿式混合する。次に、錠剤成型器を用いて混合粉末をペレット化した後、ペレットをアルミナボートにのせ、管状炉にてアルゴン流通下で850℃、12時間焼成する。次に、ペレットを粉砕した後、イオン交換蒸留水で洗浄し、上澄み液を取り除く。かかる操作を上澄み液が中性になるまで繰り返したものをK型層状酸化ルテニウム(層状化合物)とする。次に、K型層状酸化ルテニウムに1MのHClを加え、60℃のウォーターバス内で72時間酸処理を行なう。次に、イオン交換蒸留水で洗浄し上澄み液を取り除く。かかる操作を上澄み液が中性になるまで繰り返し、ろ過後に得られた粉末をK誘導型の水素型層状酸化ルテニウム(H0.2RuO2.1・0.9H2O)とする。
【0033】
次に、単層剥離工程ST20では、水素型層状酸化ルテニウムに10%TBAOH水溶液をTBA+/H+=5、あるいはTBA+/H+=10の比で加えて、10日間振り続けた後、遠心分離(2000 rpm、30 min)により上澄み液を回収したものを酸化ルテニウムナノシート水分散液とする。すなわち、本形態では、水素型層状酸化ルテニウムをエチルアミンで処理することなく、水素型層状酸化ルテニウムのプロトンに直接反応させて、プロトンをテトラブチルアンモニウムイオンに置換し、層状酸化ルテニウムの層間を拡張させることにより、層状酸化ルテニウムを無限膨潤させる(無限膨潤化処理)。その結果、酸化ルテニウムナノシート(金属化合物ナノシート)が単層剥離するので、酸化ルテニウムナノシートを得ることができる。
【0034】
(Na型層状酸化ルテニウムを用いた例)
本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、Na型層状酸化ルテニウムを用いる場合、図4に示すように、層状化合物準備工程ST10では、まず、Ru、RuO2、Na2CO3をそれぞれモル比1:3:2で秤量する。次に、RuとRuO2をメノウ乳鉢で粉砕・混合し、その後、Na2CO3を加えて再度、粉砕・混合を行なう。得られた混合粉体を錠剤成型器を用いてペレット化し、Ar雰囲気下で700℃、1時間仮焼成する。次に、ペレットをグローブボックス内でメノウ乳鉢を用いて粉砕・混合する。得られた粉末を再度、錠剤成型器を用いて粉末をペレット化し、Ar雰囲気下で900℃、12時間本焼成したものをNa型層状酸化ルテニウム(層状化合物)とする。次に、層状酸化ルテニウム(ナトリウム型)に過硫酸ナトリウムをNaRuO2:Na2S2O8=1:1 (モル比)となるように加え、1 g(NaRuO2+ Na2S2O8)/200mlの割合で水を加えて酸化させる。
【0035】
次に、粉体を吸引ろ過で回収した後、1M塩酸を加え、60℃のウォーターバス内で24時間酸処理をする。その後、イオン交換蒸留水で洗浄し上澄み液を取り除くことで得られた粉末をNa誘導型の水素型層状酸化ルテニウム(H0.2RuO2・0.5H2O)とする。
【0036】
次に、単層剥離工程ST20では、水素型層状酸化ルテニウムに10%TBAOH水溶液をTBA+/H+=1〜10の比で加えて、10日間振り続けた後、遠心分離(2000 rpm、30 min)により上澄み液を回収したものを酸化ルテニウムナノシート(金属化合物ナノシート)の水分散液とした(無限膨潤化処理)。
【0037】
[自己組織化による堆積工程ST30]
金属化合物ナノシートの堆積方法としては、自己組織化法、ラングミュア−ブロジェット法、電気泳動法等が考案されているが、環境低負荷かつ工業的な観点から容易に単層を取り出すことができるという観点からすると、自己組織化法を採用することが望ましい。図5は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法で行なう酸化ルテニウムナノシートの堆積工程ST30の説明図である。図6は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子を示す説明図であり、図6(a)、(b)は各々、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子をAFM(原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)により観察した様子を示す説明図、およびNa誘導型の酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子をAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【0038】
まず、シリコン基板、石英基板、ガラス基板の3種類の基板をHCl/メタノール(30分間)、超純水(30分間)、H2SO4/メタノール(30分間)に浸漬させた後、超純水で中性になるまで洗浄し、超純水中に基板を保存しておく。
【0039】
次に、上記の基板(シリコン基板、石英基板、ガラス基板)に対して、交互積層法(LBL法)により水素型酸化ルテニウムナノシート(K誘導型およびNa誘導型)を自己組織化により堆積させる堆積工程ST30を行なう。
【0040】
本形態では、図5(a)、(b)に示すように、基板をポリカチオン水溶液(両親媒性のカチオン性ポリマーの水溶液)に浸漬して正電荷層を形成した後、超純水で3回に分けて基板を洗浄し、窒素ガンで基板上の水滴を飛ばす。
【0041】
次に、金属化合物ナノシートのコロイド溶液(酸化ルテニウムナノシートの水分散液)に基板を浸漬した後、3回にわけて超純水で洗浄し、しかる後に、窒素ガンで基板上の水滴を飛ばす。
【0042】
その結果、基板上には酸化ルテニウムナノシートの単層膜(薄膜)が形成される。酸化ルテニウムナノシート多層膜(薄膜)を作製する場合は、上記の積層作業を繰り返す。
【0043】
より具体的には、ポリカチオンとしてポリビニルアミン14%と、ポリビニルアルコール86%との共重合体(以下PVA共重合(polyvinohol)共重合体という)1wt%水溶液を用いる。まず、表面を親水化した基板(シリコン基板、石英基板、ガラス基板)をPVA共重合体水溶液に10分間浸すことで、基板表面をポリカチオンでコーティングする。
【0044】
次に、アニオン性である酸化ルテニウムナノシートのコロイド溶液に基板を浸すことにより自己組織化的に酸化ルテニウムナノシートを基板上に吸着させ、酸化ルテニウムナノシート単層膜を作製する。かかる方法によれば、ナノシート被覆率が85%以上の条件で基板に酸化ルテニウムナノシートを堆積させることができる。
【0045】
かかる堆積工程ST30において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の水分散液の濃度は0.3g・L-1、pHは11、浸漬時間は20分である。かかる条件によれば、図6(a)に示すように、横サイズがサブミクロンから数ミクロン、厚みが約1.2〜1.4 nm程度の酸化ルテニウムナノシートが基板上に単層の薄膜の状態で吸着される。
【0046】
一方、酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)を用いる場合、堆積工程ST30において、酸化ルテニウムナノシート水分散液の濃度は0.3g・L-1、pHは11、浸漬時間は20分である。かかる条件によれば、図6(b)に示すように、横サイズがサブミクロンから数ミクロン、厚みが約1.2〜1.5 nm程度の酸化ルテニウムナノシートが基板上に単層の薄膜の状態で吸着される。
【0047】
このように本形態では、自己組織化反応によって酸化ルテニウムナノシート(アニオン性のナノシート)を吸着させる際、基板表面上に形成される正電荷層がPVA共重合体からなり、かかるPVA共重合体は、カチオン部(NH2+)、親水部(OH)および疎水部(−CH2−CH2−)を備えた両親媒性である。このため、石英基板表面やガラス基板表面等といった親水性表面にナノシートとポリマーとの複合薄膜を形成することができる。また、PET(Polyethylene terephthalate)基板表面やPE(Polyethylene)フィルム表面等といった疎水性表面にもナノシートとポリマーとの複合薄膜を形成することができる。さらに、カチオン部、親水部および疎水部を備えた共重合体ポリマー(PVA共重合体)を用いたため、カチオン部、親水部および疎水部の割合を変えれば、正電荷層の電荷密度を調整することができる。
【0048】
[還元工程ST40]
図7は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に対して行なう還元工程ST40の説明図であり、図7(a)、(b)は各々、還元工程前の酸化ルテニウムナノシートのX線回折パターンを示す説明図、および酸化ルテニウムナノシートに各種温度で還元工程を行なった後のX線回折パターンを示す説明図である。図8は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシートをAFMにより観察した様子を示す説明図であり、図8(a)、(b)は、基板上に形成された金属ルテニウムナノシートの5μm角の部分を観察した様子を示す説明図、および3μm角の部分を観察した様子を示す説明図である。
【0049】
なお、図9は、本発明の実施例1の参考例に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に焼成を行なった後のX線回折パターンを示す説明図であり、図9(a)、(b)各々は、酸化ルテニウムナノシートを酸素含有雰囲気下で焼成したときの説明図、および酸化ルテニウムナノシートを不活性雰囲気下で焼成したときの説明図である。
【0050】
まず、未焼成の酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜のin-plane回折パターン(図7(a)参照)は、2次元斜格子で帰属することができた。格子定数をリファインしたところ、a=0.5610(8) nm、b=0.5121(6) nm、γ=109.4(2)°となった。
【0051】
次に、酸化ルテニウムナノシートの単層膜を、5℃/minの昇温速度でそれぞれ200、300、400、500、600、700、800、900℃まで加熱し、到達した温度で2時間保持した後、自然冷却した。その際、還元雰囲気下(実施例)、酸素含有雰囲気下(参考例)、不活性雰囲気下(参考例)で焼成を行なった。
【0052】
(還元雰囲気下での焼成/実施例)
まず、還元雰囲気としての水素ガスフロー下で酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜を焼成したところ、図7(b)に示すように、200℃ではナノシートの回折線が消失し、ブロードな2本のピークが検出された。これらの2本のピークはそれぞれ金属ルテニウム(六方晶a ≒0.27 nm)の(1 0 0)と(1 1 0)に帰属できることから、基板に対してa軸が水平方向に配向している、つまり基板に対してc軸が垂直配向した金属ルテニウムが生成していることが示唆された。
【0053】
さらに加熱温度を上げると、c軸配向した金属ルテニウムの回折線が強くなっており、結晶性が良くなっていることが示された。このとき、(1 0 1)の回折線が検出されるようになり、多結晶成分の金属ルテニウムもわずかに生成していることがわかった。
【0054】
また、図8(a)、(b)に示した200℃で金属化した薄膜のAFMによる形状像から、元のナノシートの内部で小さなシート状物質が生成していることがわかった。同観察像から50 nm以下のシートサイズと約0.8 nmの厚みを持った金属ルテニウムナノ結晶(金属ルテニウムナノシート)であることがわかった。この観測された厚みは、従来知られている種々の酸化物ナノシートのそれと比べ非常に薄く、酸素をリリースし金属化を反映したものと解釈することができる。
【0055】
また、小さな異方性ナノ結晶が生成する理由として、a = 0.5610(8) nm、b = 0.5121(6) nm、γ=109.4(2)°の2次元格子定数を有する酸化ルテニウムナノシートから、a≒0.27nmの六方格子を持つc軸配向の金属ルテニウムが生成する際、激しいシートサイズの収縮・破断を伴うためであると考えられる。
【0056】
(酸素含有雰囲気下での焼成/参考例)
これに対して、空気フロー下で酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜を焼成したところ、図9(a)に示すように、200℃までは変化が見られなかったが、300℃で加熱したところナノシートの回折線に加え多結晶のルチル型RuO2に帰属される回折線が観測された。このルチル型RuO2の回折線の強度は、加熱温度(≦700℃)の上昇に伴って大きくなり、ナノシートの回折線は消失した。さらに、800℃以上加熱したところ、ルチル型RuO2の回折線が極端に弱くなり、900℃まで至ると完全に回折線が消失した。これは大気下で酸化されることによって揮発性のRuO4が生成したものと考えることができる。この結果から、大気下の焼成過程ではナノシートが一度多結晶のルチル型RuO2に相転移し、その後RuO2が酸化され揮発性のRuO4が生成することが示唆された。
【0057】
(不活性雰囲気下での焼成/参考例)
また、不活性雰囲気としてのアルゴンガスフロー下で酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜を焼成したところ、図9(b)に示すように、200℃までは変化が見られなかったが、300℃で加熱したところナノシートの回折線がほとんど消失した。さらに400℃以上加熱すると多結晶のルチル型RuO2に帰属される回折線が観測され、温度が800℃に至るまで強度が増加した。加熱温度が900℃になると、多結晶の金属ルテニウムに帰属される回折パターンが観測された。つまり、ナノシートが一度多結晶のルチル型RuO2に相転移し、その後RuO2が還元され多結晶の金属ルテニウムが生成することがわかった。
【0058】
[実施例1の主な効果]
以上説明したように、実施例1での酸化ルテニウムナノシートの還元温度は、不活性雰囲気の場合の900℃と比べて非常に低く、生成した金属ルテニウムがc軸配向している点において興味深い。原子が2次元に束縛された酸化チタンナノシート単層膜では、大気下の加熱において800℃まで構造を保つという安定性を有し、さらに900℃以上の加熱でc軸配向アナターゼを生成するという特異な結晶成長を示すことが知られている。これは原子の熱による拡散によって説明されている。
【0059】
かかるケースと比べると、酸化ルテニウムナノシートはいずれの雰囲気においても構造変化を起こす温度は200℃〜300℃と極端に低いため、原子の熱による拡散は少ないものと捉えることができる。そのため、少なからず起きる酸素のリリースによるシートサイズの収縮・破断によっても、大きく原子が動くことなく元のシート構造あるいは層状構造を反映した金属ナノシートが生成するものと考えられる。同時に、これは同じ元素種の出発物質でもその2次元構造の違いによって、生成する金属ナノシートの横サイズを変えられることを示している。
【0060】
なお、本例では、酸化ルテニウムに対して低温還元焼成を行なったが、ケミカルな還元剤を用いたソフトな条件下で酸化物、水酸化物、硫化物等のナノシートを金属化することで、トポタクティックな反応を誘発し、新しい金属ナノシートを生み出すことができると考えられる。また、水酸化物でしか作れないナノシートを金属化して金属ナノシートを製造した後、金属ナノシートを再酸化すれば、新しい酸化物ナノシートの合成が可能となる。
【0061】
[酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)に対する還元工程ST40]
図10は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)に対して行なう還元工程の説明図であり、図10(a)、(b)、(c)は各々、還元工程前の酸化ルテニウムのX線回折パターンを示す説明図、酸化ルテニウムに還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシートの5μm角の部分をAFMにより観察した様子を示す説明図、および3μm角の部分をAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【0062】
上記実施例では、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートに対する還元工程ST40を説明したが、Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートに対して還元工程ST40を行なった場合でも、略同様な結果を得ることができる。Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜を焼成するにあたっては、水素ガス雰囲気下で5℃/minの昇温速度でそれぞれ200、 300、400、500、600、700、800、900℃まで加熱し、到達した温度で2時間保持した後自然冷却した。
【0063】
まず、未焼成の酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)の単層膜のin-plane回折パターンは、図10(a)に示すとおりであり、2次元六方格子で帰属することができた。格子定数をリファインしたところ、a=0.2929(6)nmとなった。これを還元雰囲気となる水素ガスフロー下で焼成し、AFM観察を行った結果を図10(b)、(c)に示す。
【0064】
図10(b)、(c)に示すように、焼成後、元のナノシートの外形を保った厚み0.8nm程度の金属ルテニウムナノシートが形成されていることが示唆される。この厚さの減少は、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜を加熱した際にも観測されており、還元によって酸素がリリースされたものと考えることができる。
【0065】
ここで、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜から出発した場合と比べて、Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜から出発した場合には、ナノシート内での顕著な収縮・破断が見られていない。これは、Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートの2次元六方格子が、金属ルテニウムのa軸の格子定数(a≒0.27 nm)と比較的近いため、トポタクティックなメタル化(μmの金属ナノシートの生成)が引き起こされたものと考察することができる。
【0066】
<実施例2>
図11を参照しながら、本発明の実施例2として、図1(a)を参照して説明した実施の形態1に係る方法により、金属ルテニウムナノシート(金属ナノシート)を製造する方法を説明する。図11は、本発明の実施例2に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図であり、図11(a)、(b)は各々、還元工程後の金属ルテニウムナノシートのX線回折パターンを示す説明図、金属ルテニウムナノシートをAFMにより観察した様子を示す説明図である。なお、本例でも、層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20については実施例1と同様であるため、それらの説明を省略する。
【0067】
本例では、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートのコロイド溶液をガラス上に滴下し乾燥することにより、酸化ルテニウムナノシートが基板上に複数層、累積した配向性の酸化ルテニウムナノシート再積層体薄膜を作製した。これを還元雰囲気となる水素ガスフロー下で200℃焼成したところ、金属光沢を有する薄膜試料が生成した(還元工程ST40)。
【0068】
図11(a)に示す焼成後の薄膜試料のXRDパターンには、基板として用いたガラスのハロと、42°付近に一本のピークが観測された。42°のピークは金属ルテニウムの(0 0 2)に相当することから、基板法線方向にc軸が配向していることが示唆された。このc軸配向の金属ルテニウム薄膜試料のSEM観察を行ったところ、図11(b)に示すように、ナノスケールの厚みの板状物質(金属ルテニウムシート)が多数観測された。前述の通りSEM観察からでは生成した金属ルテニウム板一枚の正確な厚みを見積もることは困難であるが、観察視野から直接見積もるとおよそ数十nm程度の厚みであった。
【0069】
以上、これらの結果から、酸化ルテニウムナノシートのコロイド溶液をガラス上に滴下し乾燥して得た酸化ルテニウムナノシートも、低温で還元させた場合、層状に連なった配向性の金属ルテニウムシートとなることが明らかとなった。
【0070】
<実施例3>
図12を参照しながら、本発明の実施例3として、図2を参照して説明した実施の形態2に係る方法により、金属ルテニウムナノシート(金属ナノシート)を製造する方法を説明する。図12は、本発明の実施例3に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図であり、図12(a)、(b)は各々、還元工程後の層状化合物(層状酸化ルテニウム)のX線回折パターンを示す説明図、および層状化合物に還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシート構造体をAFMにより観察した様子を示す説明図である。なお、本例でも、層状化合物準備工程ST10については実施例1と同様であるため、それらの説明を省略する。
【0071】
本例では、還元雰囲気となる水素ガスフロー下で水素型酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の層状化合物を、還元雰囲気となる水素ガスフロー下で200℃焼成する(還元工程ST40)。その結果、金属光沢を有する粉体試料が生成した。図12(a)に示した焼成後の試料のXRDパターンは金属ルテニウムの単相で帰属された。
【0072】
この粉体のSEM観察を行ったところ(図12(b)参照)、元の層状構造を反映した板状ルテニウム(金属ルテニウムナノシート構造体)が観測された。SEM観察から、金属ルテニウムナノシート構造体はおよそ数十nmから数百nm程度の厚みであることが示唆された。
【0073】
これらの結果から水素型酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の層状化合物を200℃程度の低温で還元することでも、層状に連なった金属ルテニウムシートが得られることが明らかとなった。
【0074】
また、金属ルテニウムナノシート構造体については液中で超音波を印加すれば、金属ルテニウムナノシート構造体の各層に水分子(溶媒分子)が挿入される結果、金属ルテニウムナノシート構造体からは単層のルテニウムナノシートが製造されることになる(単層剥離工程ST50)。
【0075】
(他の実施例)
上記実施例では、金属化合物ナノシートとして酸化ルテニウムナノシートを用いて、金属ルテニウムナノシートを得る場合を説明したが、チタン酸化物、ニオブ酸化物、バナジウム酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、モリブデン酸化物等の他の金属酸化物ナノシートから金属ナノシートを得るのに本発明を適用してもよい。また、金属酸化物ナノシートに限らず、金属硫化物や金属水酸化物等の金属化合物の層状化合物から金属ナノシートを得るのに本発明を適用してもよく、さらには、粘土鉱物からなる層状化合物から金属ナノシートを得るのに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0076】
ST10 層状化合物準備工程
ST20、ST50 単層剥離工程
ST30 堆積工程
ST40 還元工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノシートの製造方法、および当該製造方法により得られた金属ナノシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノシートとは、通常、厚さがナノメートルオーダーであるのに対して、横サイズがその数十倍から数百倍以上という高い異方性を持つ2次元物質である。かかるナノシートは、母相の機能性(導電性、半導体的性質、誘電性等)を継承するだけでなく、触媒反応等に必要な広い比表面積を有する。また、ナノシートは、一次元の量子サイズ効果を発現する等、際立った物性を示すことがある。さらに、ナノシートは、一度分離させたナノシートを機能性ブロックとして再び3次元的に集積化し、熱力学的には達成できない人工超格子状のナノ構造材料を構築することにより、物性・特性を自在に制御できる可能性を秘めている。それ故、ナノシートについては、これまで分子線ビームエピタキシー等の気相合成技術が主流であった超格子アプローチを液相で展開できるため、製品性能だけでなく合成ルートの視点からも、エネルギー・デバイス分野を中心とした産業界から高い関心を集めている。
【0003】
かかるナノシートの合成方法に関しては、
合成方法(1):分子、イオン等から成長させる方法
合成方法(2):層状化合物を単層剥離する方法
が提案されている。
【0004】
これらの合成方法(1)、(2)は、金属化合物のナノシートの合成に向けて検討されてきたものであるが、液相反応を利用して白金や金等といった貴金属のナノシートを製造する技術も提案されている(特許文献1、2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−228450号公報
【特許文献2】特開2008−57023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した応用展開のためには、ナノシートのラインナップや拡充は必要不可欠である。特に、既存のナノシートとは全く異なった性状を有するナノシートの誕生は、新たなナノシート材料の応用展開を切り開く鍵となることから、その合成手法を含めて先駆的な探索が重要な課題となっている。
【0007】
しかしながら、金属ナノシートについては、極めて一部の金属について実現されたと報告されているだけで、ナノシートのラインナップや拡充を図るには不十分である。一方、上記の合成方法(2)については、ホスト層の層間に異種イオンや溶媒分子などを挿入させてホスト層を無限膨潤させる必要があるため、従来、ナノシートの出発物質は熱力学的に合成された結晶性の層状化合物(硫化物系、酸化物系、水酸化物系、炭素系)、あるいは自然界に存在する粘土鉱物を前駆体にした金属化合物ナノシートを合成するのに限られており、金属ナノシートを得るための方法としては着目されていないのが現状である。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の課題は、金属化合物の層状化合物を前駆体として利用することにより各種の金属ナノシートを製造することのできる金属ナノシートの製造方法、およびかかる方法で製造された金属ナノシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本願発明者らは、鋭意研究した結果、原子拡散を抑制しながらホスト層一枚一枚の還元反応を進行させることにより、層状化合物のラメラ構造を大きく壊すことなく、金属ナノシートあるいはその積層体を得ることができることを知見したものである。本発明はこれらの一連の知見に基づいてなされたものであり、厚みが1nm以下で、シート平面方向における寸法が30nm以上の2次元異方性を兼ね備えた金属ナノシート、およびその製造方法を提供するものである。
【0010】
まず、本発明の金属ナノシートの製造方法は、少なくとも、金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程と、前記金属化合物を還元して前記層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、層状化合物を構成する金属化合物を還元することにより、層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを製造するという新たな技術であり、各種の金属ナノシートを製造することができる。従って、触媒や薄膜形成材料、塗膜等といった各種分野への応用を図るのに必要なナノシートのラインナップや拡充を大幅に実現することができる。また、本発明によれば、原子拡散を抑制しながらホスト層一枚一枚の還元反応を進行させることができるため、層状化合物のラメラ構造を大きく壊すことなく、金属ナノシートあるいはその積層体を得ることができる。それ故、既存の金属クラスターサイズに匹敵する1nm以下の厚みを有し、シート平面方向には30nm以上、例えば、数μmのサイズを有する金属ナノシートを実現することができる。
【0012】
本発明において、前記還元工程では、例えば、前記層状化合物を単層剥離させてなる金属化合物ナノシートの状態、あるいは前記層状化合物の状態で、前記金属化合物を還元して、単層あるいは複層の前記金属ナノシートを得る。
【0013】
本発明において、前者の方法を採用する場合、前記層状化合物準備工程を行なった後、前記還元工程の前に、前記層状化合物を単層剥離させて前記金属化合物ナノシートを得る単層剥離工程を行い、前記還元工程では、当該金属化合物ナノシートの状態で前記金属化合物を還元する。
【0014】
この場合、前記単層剥離工程の後、前記還元工程の前に、前記金属化合物ナノシートを堆積させて薄膜を形成する堆積工程を行い、前記還元工程では、前記金属化合物ナノシートの薄膜の状態で前記金属化合物を還元してもよい。
【0015】
本発明において、後者の方法を採用する場合、前記還元工程において、前記層状化合物の状態で前記金属化合物を還元して前記金属ナノシートが複数積層した金属ナノシート構造体を得る。この場合、前記還元工程の後、前記ナノシート構造体を単層の前記金属ナノシートに単層剥離させる単層剥離工程を行なってもよい。
【0016】
本発明において、前記還元工程では、還元性雰囲気下での焼成処理を用いることが好ましい。かかる還元性雰囲気は、例えば、水素含有雰囲気等によって実現することができる。
【0017】
本発明において、前記還元工程では、還元性溶液を用いた湿式処理を用いてもよい。かかる還元性溶液は、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)等の溶液によって実現することができる。
【0018】
本発明において、前記金属化合物は、例えば、ルテニウム、チタン、ニオブ、バナジウム、マンガン、コバルト、モリブデン等の金属の硫化物、金属酸化物、金属水酸化物である。また、前記金属化合物は、粘土鉱物であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、層状化合物を構成する金属化合物を還元することにより、層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを製造するという新たな技術であり、各種の金属ナノシートを製造することができる。従って、触媒や薄膜形成材料、塗膜等といった各種分野への応用を図るのに必要なナノシートのラインナップや拡充を大幅に実現することができる。また、本発明によれば、原子拡散を抑制しながらホスト層一枚一枚の還元反応を進行させることができるため、層状化合物のラメラ構造を大きく壊すことなく、金属ナノシートあるいはその積層体を得ることができる。それ故、既存の金属クラスターサイズに匹敵する1nm以下の厚みを有し、シート平面方向には30nm以上、例えば、数μmのサイズを有する金属ナノシートを実現することができる。かかる2次元異方性は、母相の機能性(導電性、半導体的性質、誘電性等)を継承するだけでなく、一次元の量子サイズ効果を発現する等、際立った物性が期待できる。また、本発明を適用した金属ナノシートは、巨大な比表面積を有しているため、触媒としての利用や、薄膜材料やコーティング材としての利用を可能とする。さらに、金属ナノシートは工業的に重要な金属材料として機能性に優れることから、これを用いて作製したナノ構造体は電極や触媒材料等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態1に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、K型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程および単層剥離工程の説明図である。
【図4】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、Na型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程および単層剥離工程の説明図である。
【図5】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法で行なう酸化ルテニウムナノシートの堆積工程の説明図である。
【図6】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子をAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【図7】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に対して行なう還元工程の説明図である。
【図8】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシートをAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【図9】本発明の実施例1の参考例に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に焼成を行なった後のX線回折パターンを示す説明図である。
【図10】本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)に対して行なう還元工程の説明図である。
【図11】本発明の実施例2に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図である。
【図12】本発明の実施例3に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施の形態1に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図であり、図1(a)、(b)は各々、本発明の実施の形態1に係る金属ナノシートの製造方法において、金属化合物を自己組織化等の手段で堆積させる堆積工程を行なわない場合の工程図、および堆積工程を行なう場合の工程図である。
【0023】
図1(a)に示すように、本形態の金属ナノシートの製造方法では、少なくとも、金属硫化物、金属酸化物、あるいは金属水酸化物等の金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程ST10と、金属化合物を還元して層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程ST40とを行なう。層状化合物としては粘土鉱物を用いてもよい。還元工程ST40では、水素含有雰囲気等の還元性雰囲気下での焼成処理や、水素化ホウ素ナトリウム等を含む還元性溶液を用いた湿式処理を用いる。
【0024】
本形態において、還元工程ST40では、金属化合物ナノシートの状態で金属化合物を還元して金属ナノシートを得る。このため、層状化合物準備工程ST10を行なった後、還元工程ST40の前に、層状化合物を単層剥離させて金属化合物ナノシートを得る単層剥離工程ST20を行う。
【0025】
また、図1(b)に示すように、単層剥離工程ST20の後、還元工程ST40の前に、金属化合物ナノシートを自己組織化的に堆積させて薄膜を形成する堆積工程ST30を行い、還元工程ST40では、金属化合物ナノシートの薄膜の状態で金属化合物を還元して金属ナノシートを得てもよい。
【0026】
これらいずれの場合でも、単層剥離工程ST20では、層状化合物の層間に異種イオンあるいは溶媒分子を挿入して層間を広げる無限膨潤化処理(ソフト化学反応)を利用すればよい。
【0027】
<実施の形態2>
図2は、本発明の実施の形態2に係る金属ナノシートの製造方法を示す工程図である。図2に示すように、本形態では、実施の形態1と同様、少なくとも、金属硫化物、金属酸化物、あるいは金属水酸化物等の金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程ST10と、金属化合物を還元して層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程ST40とを行なう。層状化合物としては粘土鉱物を用いてもよい。還元工程ST40では、水素含有雰囲気等の還元性雰囲気下での焼成処理や、水素化ホウ素ナトリウム等を含む還元性溶液を用いた湿式処理を用いる。
【0028】
本形態において、還元工程ST40では、層状化合物の状態で金属化合物を還元して金属ナノシートが複数積層した金属ナノシート構造体を得る。このため、本形態では、還元工程ST40の後、ナノシート構造体を単層の金属ナノシートに単層剥離させる単層剥離工程ST50を行なえば、単層の金属ナノシートを得ることができる。
【0029】
また、単層剥離工程ST50を容易に行なうことを目的に、層状化合物準備工程ST10の後、還元工程ST40の前に、層状化合物の層間に異種イオンあるいは溶媒分子を挿入して層間を広げる無限膨潤化処理を行なうことが好ましい。かかる無限膨潤化処理は、還元工程ST40の後に行なってもよく、この場合、超音波処理等を介して金属ナノシート構造体の層間に異種イオンあるいは溶媒分子を挿入して金属ナノシート構造体の層間を広げることになる。
【実施例】
【0030】
<実施例1>
本発明の実施例1として、図1(b)を参照して説明した実施の形態1に係る方法により、酸化ルテニウム(金属化合物)の層状化合物から金属ルテニウムナノシート(金属ナノシート)を製造する方法を説明する。
【0031】
[層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20]
図3は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、K型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20の説明図である。図4は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、Na型層状酸化ルテニウムを用いた場合の層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20の説明図である。
【0032】
図3に示すように、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法では、K型層状酸化ルテニウム(層状化合物)を用いる。このため、層状化合物準備工程ST10においては、酸化ルテニウムと炭酸カリウムをモル比8:5の割合となるように量り取り、メノウ乳鉢を用いてアセトン中で1時間湿式混合する。次に、錠剤成型器を用いて混合粉末をペレット化した後、ペレットをアルミナボートにのせ、管状炉にてアルゴン流通下で850℃、12時間焼成する。次に、ペレットを粉砕した後、イオン交換蒸留水で洗浄し、上澄み液を取り除く。かかる操作を上澄み液が中性になるまで繰り返したものをK型層状酸化ルテニウム(層状化合物)とする。次に、K型層状酸化ルテニウムに1MのHClを加え、60℃のウォーターバス内で72時間酸処理を行なう。次に、イオン交換蒸留水で洗浄し上澄み液を取り除く。かかる操作を上澄み液が中性になるまで繰り返し、ろ過後に得られた粉末をK誘導型の水素型層状酸化ルテニウム(H0.2RuO2.1・0.9H2O)とする。
【0033】
次に、単層剥離工程ST20では、水素型層状酸化ルテニウムに10%TBAOH水溶液をTBA+/H+=5、あるいはTBA+/H+=10の比で加えて、10日間振り続けた後、遠心分離(2000 rpm、30 min)により上澄み液を回収したものを酸化ルテニウムナノシート水分散液とする。すなわち、本形態では、水素型層状酸化ルテニウムをエチルアミンで処理することなく、水素型層状酸化ルテニウムのプロトンに直接反応させて、プロトンをテトラブチルアンモニウムイオンに置換し、層状酸化ルテニウムの層間を拡張させることにより、層状酸化ルテニウムを無限膨潤させる(無限膨潤化処理)。その結果、酸化ルテニウムナノシート(金属化合物ナノシート)が単層剥離するので、酸化ルテニウムナノシートを得ることができる。
【0034】
(Na型層状酸化ルテニウムを用いた例)
本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、Na型層状酸化ルテニウムを用いる場合、図4に示すように、層状化合物準備工程ST10では、まず、Ru、RuO2、Na2CO3をそれぞれモル比1:3:2で秤量する。次に、RuとRuO2をメノウ乳鉢で粉砕・混合し、その後、Na2CO3を加えて再度、粉砕・混合を行なう。得られた混合粉体を錠剤成型器を用いてペレット化し、Ar雰囲気下で700℃、1時間仮焼成する。次に、ペレットをグローブボックス内でメノウ乳鉢を用いて粉砕・混合する。得られた粉末を再度、錠剤成型器を用いて粉末をペレット化し、Ar雰囲気下で900℃、12時間本焼成したものをNa型層状酸化ルテニウム(層状化合物)とする。次に、層状酸化ルテニウム(ナトリウム型)に過硫酸ナトリウムをNaRuO2:Na2S2O8=1:1 (モル比)となるように加え、1 g(NaRuO2+ Na2S2O8)/200mlの割合で水を加えて酸化させる。
【0035】
次に、粉体を吸引ろ過で回収した後、1M塩酸を加え、60℃のウォーターバス内で24時間酸処理をする。その後、イオン交換蒸留水で洗浄し上澄み液を取り除くことで得られた粉末をNa誘導型の水素型層状酸化ルテニウム(H0.2RuO2・0.5H2O)とする。
【0036】
次に、単層剥離工程ST20では、水素型層状酸化ルテニウムに10%TBAOH水溶液をTBA+/H+=1〜10の比で加えて、10日間振り続けた後、遠心分離(2000 rpm、30 min)により上澄み液を回収したものを酸化ルテニウムナノシート(金属化合物ナノシート)の水分散液とした(無限膨潤化処理)。
【0037】
[自己組織化による堆積工程ST30]
金属化合物ナノシートの堆積方法としては、自己組織化法、ラングミュア−ブロジェット法、電気泳動法等が考案されているが、環境低負荷かつ工業的な観点から容易に単層を取り出すことができるという観点からすると、自己組織化法を採用することが望ましい。図5は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法で行なう酸化ルテニウムナノシートの堆積工程ST30の説明図である。図6は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子を示す説明図であり、図6(a)、(b)は各々、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子をAFM(原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope)により観察した様子を示す説明図、およびNa誘導型の酸化ルテニウムナノシートを堆積させた後の様子をAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【0038】
まず、シリコン基板、石英基板、ガラス基板の3種類の基板をHCl/メタノール(30分間)、超純水(30分間)、H2SO4/メタノール(30分間)に浸漬させた後、超純水で中性になるまで洗浄し、超純水中に基板を保存しておく。
【0039】
次に、上記の基板(シリコン基板、石英基板、ガラス基板)に対して、交互積層法(LBL法)により水素型酸化ルテニウムナノシート(K誘導型およびNa誘導型)を自己組織化により堆積させる堆積工程ST30を行なう。
【0040】
本形態では、図5(a)、(b)に示すように、基板をポリカチオン水溶液(両親媒性のカチオン性ポリマーの水溶液)に浸漬して正電荷層を形成した後、超純水で3回に分けて基板を洗浄し、窒素ガンで基板上の水滴を飛ばす。
【0041】
次に、金属化合物ナノシートのコロイド溶液(酸化ルテニウムナノシートの水分散液)に基板を浸漬した後、3回にわけて超純水で洗浄し、しかる後に、窒素ガンで基板上の水滴を飛ばす。
【0042】
その結果、基板上には酸化ルテニウムナノシートの単層膜(薄膜)が形成される。酸化ルテニウムナノシート多層膜(薄膜)を作製する場合は、上記の積層作業を繰り返す。
【0043】
より具体的には、ポリカチオンとしてポリビニルアミン14%と、ポリビニルアルコール86%との共重合体(以下PVA共重合(polyvinohol)共重合体という)1wt%水溶液を用いる。まず、表面を親水化した基板(シリコン基板、石英基板、ガラス基板)をPVA共重合体水溶液に10分間浸すことで、基板表面をポリカチオンでコーティングする。
【0044】
次に、アニオン性である酸化ルテニウムナノシートのコロイド溶液に基板を浸すことにより自己組織化的に酸化ルテニウムナノシートを基板上に吸着させ、酸化ルテニウムナノシート単層膜を作製する。かかる方法によれば、ナノシート被覆率が85%以上の条件で基板に酸化ルテニウムナノシートを堆積させることができる。
【0045】
かかる堆積工程ST30において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の水分散液の濃度は0.3g・L-1、pHは11、浸漬時間は20分である。かかる条件によれば、図6(a)に示すように、横サイズがサブミクロンから数ミクロン、厚みが約1.2〜1.4 nm程度の酸化ルテニウムナノシートが基板上に単層の薄膜の状態で吸着される。
【0046】
一方、酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)を用いる場合、堆積工程ST30において、酸化ルテニウムナノシート水分散液の濃度は0.3g・L-1、pHは11、浸漬時間は20分である。かかる条件によれば、図6(b)に示すように、横サイズがサブミクロンから数ミクロン、厚みが約1.2〜1.5 nm程度の酸化ルテニウムナノシートが基板上に単層の薄膜の状態で吸着される。
【0047】
このように本形態では、自己組織化反応によって酸化ルテニウムナノシート(アニオン性のナノシート)を吸着させる際、基板表面上に形成される正電荷層がPVA共重合体からなり、かかるPVA共重合体は、カチオン部(NH2+)、親水部(OH)および疎水部(−CH2−CH2−)を備えた両親媒性である。このため、石英基板表面やガラス基板表面等といった親水性表面にナノシートとポリマーとの複合薄膜を形成することができる。また、PET(Polyethylene terephthalate)基板表面やPE(Polyethylene)フィルム表面等といった疎水性表面にもナノシートとポリマーとの複合薄膜を形成することができる。さらに、カチオン部、親水部および疎水部を備えた共重合体ポリマー(PVA共重合体)を用いたため、カチオン部、親水部および疎水部の割合を変えれば、正電荷層の電荷密度を調整することができる。
【0048】
[還元工程ST40]
図7は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に対して行なう還元工程ST40の説明図であり、図7(a)、(b)は各々、還元工程前の酸化ルテニウムナノシートのX線回折パターンを示す説明図、および酸化ルテニウムナノシートに各種温度で還元工程を行なった後のX線回折パターンを示す説明図である。図8は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシートをAFMにより観察した様子を示す説明図であり、図8(a)、(b)は、基板上に形成された金属ルテニウムナノシートの5μm角の部分を観察した様子を示す説明図、および3μm角の部分を観察した様子を示す説明図である。
【0049】
なお、図9は、本発明の実施例1の参考例に係る金属ナノシートの製造方法において、酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)に焼成を行なった後のX線回折パターンを示す説明図であり、図9(a)、(b)各々は、酸化ルテニウムナノシートを酸素含有雰囲気下で焼成したときの説明図、および酸化ルテニウムナノシートを不活性雰囲気下で焼成したときの説明図である。
【0050】
まず、未焼成の酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜のin-plane回折パターン(図7(a)参照)は、2次元斜格子で帰属することができた。格子定数をリファインしたところ、a=0.5610(8) nm、b=0.5121(6) nm、γ=109.4(2)°となった。
【0051】
次に、酸化ルテニウムナノシートの単層膜を、5℃/minの昇温速度でそれぞれ200、300、400、500、600、700、800、900℃まで加熱し、到達した温度で2時間保持した後、自然冷却した。その際、還元雰囲気下(実施例)、酸素含有雰囲気下(参考例)、不活性雰囲気下(参考例)で焼成を行なった。
【0052】
(還元雰囲気下での焼成/実施例)
まず、還元雰囲気としての水素ガスフロー下で酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜を焼成したところ、図7(b)に示すように、200℃ではナノシートの回折線が消失し、ブロードな2本のピークが検出された。これらの2本のピークはそれぞれ金属ルテニウム(六方晶a ≒0.27 nm)の(1 0 0)と(1 1 0)に帰属できることから、基板に対してa軸が水平方向に配向している、つまり基板に対してc軸が垂直配向した金属ルテニウムが生成していることが示唆された。
【0053】
さらに加熱温度を上げると、c軸配向した金属ルテニウムの回折線が強くなっており、結晶性が良くなっていることが示された。このとき、(1 0 1)の回折線が検出されるようになり、多結晶成分の金属ルテニウムもわずかに生成していることがわかった。
【0054】
また、図8(a)、(b)に示した200℃で金属化した薄膜のAFMによる形状像から、元のナノシートの内部で小さなシート状物質が生成していることがわかった。同観察像から50 nm以下のシートサイズと約0.8 nmの厚みを持った金属ルテニウムナノ結晶(金属ルテニウムナノシート)であることがわかった。この観測された厚みは、従来知られている種々の酸化物ナノシートのそれと比べ非常に薄く、酸素をリリースし金属化を反映したものと解釈することができる。
【0055】
また、小さな異方性ナノ結晶が生成する理由として、a = 0.5610(8) nm、b = 0.5121(6) nm、γ=109.4(2)°の2次元格子定数を有する酸化ルテニウムナノシートから、a≒0.27nmの六方格子を持つc軸配向の金属ルテニウムが生成する際、激しいシートサイズの収縮・破断を伴うためであると考えられる。
【0056】
(酸素含有雰囲気下での焼成/参考例)
これに対して、空気フロー下で酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜を焼成したところ、図9(a)に示すように、200℃までは変化が見られなかったが、300℃で加熱したところナノシートの回折線に加え多結晶のルチル型RuO2に帰属される回折線が観測された。このルチル型RuO2の回折線の強度は、加熱温度(≦700℃)の上昇に伴って大きくなり、ナノシートの回折線は消失した。さらに、800℃以上加熱したところ、ルチル型RuO2の回折線が極端に弱くなり、900℃まで至ると完全に回折線が消失した。これは大気下で酸化されることによって揮発性のRuO4が生成したものと考えることができる。この結果から、大気下の焼成過程ではナノシートが一度多結晶のルチル型RuO2に相転移し、その後RuO2が酸化され揮発性のRuO4が生成することが示唆された。
【0057】
(不活性雰囲気下での焼成/参考例)
また、不活性雰囲気としてのアルゴンガスフロー下で酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の単層膜を焼成したところ、図9(b)に示すように、200℃までは変化が見られなかったが、300℃で加熱したところナノシートの回折線がほとんど消失した。さらに400℃以上加熱すると多結晶のルチル型RuO2に帰属される回折線が観測され、温度が800℃に至るまで強度が増加した。加熱温度が900℃になると、多結晶の金属ルテニウムに帰属される回折パターンが観測された。つまり、ナノシートが一度多結晶のルチル型RuO2に相転移し、その後RuO2が還元され多結晶の金属ルテニウムが生成することがわかった。
【0058】
[実施例1の主な効果]
以上説明したように、実施例1での酸化ルテニウムナノシートの還元温度は、不活性雰囲気の場合の900℃と比べて非常に低く、生成した金属ルテニウムがc軸配向している点において興味深い。原子が2次元に束縛された酸化チタンナノシート単層膜では、大気下の加熱において800℃まで構造を保つという安定性を有し、さらに900℃以上の加熱でc軸配向アナターゼを生成するという特異な結晶成長を示すことが知られている。これは原子の熱による拡散によって説明されている。
【0059】
かかるケースと比べると、酸化ルテニウムナノシートはいずれの雰囲気においても構造変化を起こす温度は200℃〜300℃と極端に低いため、原子の熱による拡散は少ないものと捉えることができる。そのため、少なからず起きる酸素のリリースによるシートサイズの収縮・破断によっても、大きく原子が動くことなく元のシート構造あるいは層状構造を反映した金属ナノシートが生成するものと考えられる。同時に、これは同じ元素種の出発物質でもその2次元構造の違いによって、生成する金属ナノシートの横サイズを変えられることを示している。
【0060】
なお、本例では、酸化ルテニウムに対して低温還元焼成を行なったが、ケミカルな還元剤を用いたソフトな条件下で酸化物、水酸化物、硫化物等のナノシートを金属化することで、トポタクティックな反応を誘発し、新しい金属ナノシートを生み出すことができると考えられる。また、水酸化物でしか作れないナノシートを金属化して金属ナノシートを製造した後、金属ナノシートを再酸化すれば、新しい酸化物ナノシートの合成が可能となる。
【0061】
[酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)に対する還元工程ST40]
図10は、本発明の実施例1に係る金属ナノシートの製造方法において酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)に対して行なう還元工程の説明図であり、図10(a)、(b)、(c)は各々、還元工程前の酸化ルテニウムのX線回折パターンを示す説明図、酸化ルテニウムに還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシートの5μm角の部分をAFMにより観察した様子を示す説明図、および3μm角の部分をAFMにより観察した様子を示す説明図である。
【0062】
上記実施例では、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートに対する還元工程ST40を説明したが、Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートに対して還元工程ST40を行なった場合でも、略同様な結果を得ることができる。Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜を焼成するにあたっては、水素ガス雰囲気下で5℃/minの昇温速度でそれぞれ200、 300、400、500、600、700、800、900℃まで加熱し、到達した温度で2時間保持した後自然冷却した。
【0063】
まず、未焼成の酸化ルテニウムナノシート(Na誘導型)の単層膜のin-plane回折パターンは、図10(a)に示すとおりであり、2次元六方格子で帰属することができた。格子定数をリファインしたところ、a=0.2929(6)nmとなった。これを還元雰囲気となる水素ガスフロー下で焼成し、AFM観察を行った結果を図10(b)、(c)に示す。
【0064】
図10(b)、(c)に示すように、焼成後、元のナノシートの外形を保った厚み0.8nm程度の金属ルテニウムナノシートが形成されていることが示唆される。この厚さの減少は、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜を加熱した際にも観測されており、還元によって酸素がリリースされたものと考えることができる。
【0065】
ここで、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜から出発した場合と比べて、Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートの単層膜から出発した場合には、ナノシート内での顕著な収縮・破断が見られていない。これは、Na誘導型の酸化ルテニウムナノシートの2次元六方格子が、金属ルテニウムのa軸の格子定数(a≒0.27 nm)と比較的近いため、トポタクティックなメタル化(μmの金属ナノシートの生成)が引き起こされたものと考察することができる。
【0066】
<実施例2>
図11を参照しながら、本発明の実施例2として、図1(a)を参照して説明した実施の形態1に係る方法により、金属ルテニウムナノシート(金属ナノシート)を製造する方法を説明する。図11は、本発明の実施例2に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図であり、図11(a)、(b)は各々、還元工程後の金属ルテニウムナノシートのX線回折パターンを示す説明図、金属ルテニウムナノシートをAFMにより観察した様子を示す説明図である。なお、本例でも、層状化合物準備工程ST10および単層剥離工程ST20については実施例1と同様であるため、それらの説明を省略する。
【0067】
本例では、K誘導型の酸化ルテニウムナノシートのコロイド溶液をガラス上に滴下し乾燥することにより、酸化ルテニウムナノシートが基板上に複数層、累積した配向性の酸化ルテニウムナノシート再積層体薄膜を作製した。これを還元雰囲気となる水素ガスフロー下で200℃焼成したところ、金属光沢を有する薄膜試料が生成した(還元工程ST40)。
【0068】
図11(a)に示す焼成後の薄膜試料のXRDパターンには、基板として用いたガラスのハロと、42°付近に一本のピークが観測された。42°のピークは金属ルテニウムの(0 0 2)に相当することから、基板法線方向にc軸が配向していることが示唆された。このc軸配向の金属ルテニウム薄膜試料のSEM観察を行ったところ、図11(b)に示すように、ナノスケールの厚みの板状物質(金属ルテニウムシート)が多数観測された。前述の通りSEM観察からでは生成した金属ルテニウム板一枚の正確な厚みを見積もることは困難であるが、観察視野から直接見積もるとおよそ数十nm程度の厚みであった。
【0069】
以上、これらの結果から、酸化ルテニウムナノシートのコロイド溶液をガラス上に滴下し乾燥して得た酸化ルテニウムナノシートも、低温で還元させた場合、層状に連なった配向性の金属ルテニウムシートとなることが明らかとなった。
【0070】
<実施例3>
図12を参照しながら、本発明の実施例3として、図2を参照して説明した実施の形態2に係る方法により、金属ルテニウムナノシート(金属ナノシート)を製造する方法を説明する。図12は、本発明の実施例3に係る金属ナノシートの製造方法で行なう還元工程の説明図であり、図12(a)、(b)は各々、還元工程後の層状化合物(層状酸化ルテニウム)のX線回折パターンを示す説明図、および層状化合物に還元工程を行なって得た金属ルテニウムナノシート構造体をAFMにより観察した様子を示す説明図である。なお、本例でも、層状化合物準備工程ST10については実施例1と同様であるため、それらの説明を省略する。
【0071】
本例では、還元雰囲気となる水素ガスフロー下で水素型酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の層状化合物を、還元雰囲気となる水素ガスフロー下で200℃焼成する(還元工程ST40)。その結果、金属光沢を有する粉体試料が生成した。図12(a)に示した焼成後の試料のXRDパターンは金属ルテニウムの単相で帰属された。
【0072】
この粉体のSEM観察を行ったところ(図12(b)参照)、元の層状構造を反映した板状ルテニウム(金属ルテニウムナノシート構造体)が観測された。SEM観察から、金属ルテニウムナノシート構造体はおよそ数十nmから数百nm程度の厚みであることが示唆された。
【0073】
これらの結果から水素型酸化ルテニウムナノシート(K誘導型)の層状化合物を200℃程度の低温で還元することでも、層状に連なった金属ルテニウムシートが得られることが明らかとなった。
【0074】
また、金属ルテニウムナノシート構造体については液中で超音波を印加すれば、金属ルテニウムナノシート構造体の各層に水分子(溶媒分子)が挿入される結果、金属ルテニウムナノシート構造体からは単層のルテニウムナノシートが製造されることになる(単層剥離工程ST50)。
【0075】
(他の実施例)
上記実施例では、金属化合物ナノシートとして酸化ルテニウムナノシートを用いて、金属ルテニウムナノシートを得る場合を説明したが、チタン酸化物、ニオブ酸化物、バナジウム酸化物、マンガン酸化物、コバルト酸化物、モリブデン酸化物等の他の金属酸化物ナノシートから金属ナノシートを得るのに本発明を適用してもよい。また、金属酸化物ナノシートに限らず、金属硫化物や金属水酸化物等の金属化合物の層状化合物から金属ナノシートを得るのに本発明を適用してもよく、さらには、粘土鉱物からなる層状化合物から金属ナノシートを得るのに本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0076】
ST10 層状化合物準備工程
ST20、ST50 単層剥離工程
ST30 堆積工程
ST40 還元工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程と、
前記金属化合物を還元して前記層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程と、
を有することを特徴とする金属ナノシートの製造方法。
【請求項2】
前記還元工程では、前記層状化合物を単層剥離させてなる金属化合物ナノシートの状態、あるいは前記層状化合物の状態で、前記金属化合物を還元することを特徴とする請求項1に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項3】
前記層状化合物準備工程を行なった後、前記還元工程の前に、前記層状化合物を単層剥離させて前記金属化合物ナノシートを得る単層剥離工程を行い、
前記還元工程では、当該金属化合物ナノシートの状態で前記金属化合物を還元することを特徴とする請求項2に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項4】
前記単層剥離工程の後、前記還元工程の前に、前記金属化合物ナノシートを堆積させて薄膜を形成する堆積工程を行い、
前記還元工程では、前記金属化合物ナノシートの薄膜の状態で前記金属化合物を還元することを特徴とする請求項3に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項5】
前記還元工程では、前記層状化合物の状態で前記金属化合物を還元して前記金属ナノシートが複数積層した金属ナノシート構造体を得ることを特徴とする請求項2に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項6】
前記還元工程の後、前記ナノシート構造体を単層の前記金属ナノシートに単層剥離させる単層剥離工程を行なうことを特徴とする請求項5に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項7】
前記還元工程では、還元性雰囲気下での焼成処理を行なうことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項8】
前記還元工程では、還元性溶液を用いた湿式処理を行なうことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項9】
前記金属化合物は、金属硫化物、金属酸化物、金属水酸化物、あるいは粘土鉱物であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項10】
前駆体として用いた層状化合物を構成する金属化合物の還元生成物であって、
厚さが1nm以下で、シート平面方向における寸法が30nm以上であることを特徴とする金属ナノシート。
【請求項1】
少なくとも、
金属化合物が層状に重なる層状化合物を準備する層状化合物準備工程と、
前記金属化合物を還元して前記層状化合物を前駆体とする金属ナノシートを得る還元工程と、
を有することを特徴とする金属ナノシートの製造方法。
【請求項2】
前記還元工程では、前記層状化合物を単層剥離させてなる金属化合物ナノシートの状態、あるいは前記層状化合物の状態で、前記金属化合物を還元することを特徴とする請求項1に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項3】
前記層状化合物準備工程を行なった後、前記還元工程の前に、前記層状化合物を単層剥離させて前記金属化合物ナノシートを得る単層剥離工程を行い、
前記還元工程では、当該金属化合物ナノシートの状態で前記金属化合物を還元することを特徴とする請求項2に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項4】
前記単層剥離工程の後、前記還元工程の前に、前記金属化合物ナノシートを堆積させて薄膜を形成する堆積工程を行い、
前記還元工程では、前記金属化合物ナノシートの薄膜の状態で前記金属化合物を還元することを特徴とする請求項3に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項5】
前記還元工程では、前記層状化合物の状態で前記金属化合物を還元して前記金属ナノシートが複数積層した金属ナノシート構造体を得ることを特徴とする請求項2に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項6】
前記還元工程の後、前記ナノシート構造体を単層の前記金属ナノシートに単層剥離させる単層剥離工程を行なうことを特徴とする請求項5に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項7】
前記還元工程では、還元性雰囲気下での焼成処理を行なうことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項8】
前記還元工程では、還元性溶液を用いた湿式処理を行なうことを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項9】
前記金属化合物は、金属硫化物、金属酸化物、金属水酸化物、あるいは粘土鉱物であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか一項に記載の金属ナノシートの製造方法。
【請求項10】
前駆体として用いた層状化合物を構成する金属化合物の還元生成物であって、
厚さが1nm以下で、シート平面方向における寸法が30nm以上であることを特徴とする金属ナノシート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図9】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−280977(P2010−280977A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136787(P2009−136787)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省科学技術総合研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
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