説明

金属ナノ粒子およびその製造方法

【課題】 金属ナノ粒子の表面積がその体積に比してきわめて大きく、触媒作用などその使用目的におけるナノ粒子としての作用効果が大きく、コロイド状態での粒子サイズと形状を安定に制御でき、材料費も含めた製造コストの安い金属ナノ粒子を提供する
【解決手段】 湿式還元法における金属ナノ粒子の作製において、分散剤として、ブロックコポリマーの一級アミンのメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンCH3O(OCH2CH2)a[OCH2CH(CH3)]bOCH2CH(CH3)NH2(ここに、a=18.6,b=1.6)を用い、溶媒兼還元剤としてエチレングリコール(以下、EGという)とポリエチレングリコール(以下、PEGという)の混合液を用いて還元反応を行うことによって解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属ナノ粒子とその製造方法に関し、さらに具体的には、分枝状構造を有する金属ナノ粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年粒子サイズが100nm以下の金属ナノ粒子が、同種のバルク金属が有する物性とは異なる物性を有したり、体積に比してきわめて大きな表面積を有していたりするなど、その有するナノ粒子特有の特徴の活用に大きな期待が集まり、触媒を始め、工業分野における利用可能性が期待され、多くの改善が提案されている。
【0003】
たとえば、白金などの貴金属を利用する活用分野では体積に対する表面積の大きさに注目され、触媒への利用が進められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
貴金属のナノ粒子を工業利用する場合、その性能の高さに期待が集まると同時に、コストが高いことが問題になる。例えば白金を使用していた触媒のための物質として白金を代替する物質の発明を試みたり、白金の使用量を減らすなど、コスト低減が期待されている。
【0005】
このために、金属ナノ粒子をネット状に形成しようとしたが粒子サイズと形状の制御が困難なため実用レベルのナノ粒子が得られなかったり、金属ナノ粒子を担持する単体に金属ナノ粒子の骨格を形成して金属ナノ粒子を形成しようとしたがやはり粒子サイズと形状の制御ができずに実用レベルの金属ナノ粒子が得られないという事情がある。
【0006】
本発明は係る事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、金属ナノ粒子の表面積がその体積に比してきわめて大きく、触媒作用などその使用目的におけるナノ粒子としての作用効果が大きく、コロイド状態での粒子サイズと形状を安定に制御でき、材料費も含めた製造コストの安い金属ナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決するためになされた本発明は、金属ナノ粒子を分枝状の形状に作製したことにあり、本発明の例としての第1の発明(以下、発明1という)は、分枝状に形成されている金属ナノ粒子において、前記分枝を構成する複数の枝の部分が粒子サイズが100nm以下の金属ナノ粒子の形状(以下、要素ナノ粒子という)あるいはそれを複数個接続した状態に形成されている形状であるとともに、複数の前記枝を構成する前記要素ナノ粒子が、透過型電子顕微鏡(以下、TEMという)によって撮影される写真(以下、TEM写真という)において前記枝の長さ方向の寸法をLとし、最大寸法をLmとし、前記長さ方向に直交する方向の寸法をDとし、その最大寸法をDmとし、他の要素ナノ粒子と接続状態にある部分の寸法DをDcとするとき、DcはLmより小さく、DcはDmより小さく、複数の枝の少なくとも先端部分にある前記要素ナノ粒子がTEM写真において互いに平行な干渉縞を示す結晶構造を有していることを特徴とする金属ナノ粒子である。
【0008】
発明1を展開してなされた第2の発明(以下、発明2という)は、発明1に記載の金属ナノ粒子において、前記DmがLmよりも小さいことを特徴とする金属ナノ粒子である。
【0009】
発明1または2を展開してなされた第3の発明(以下、発明3という)は、発明1に記載の金属ナノ粒子において、前記要素金属の少なくとも一部が分散剤に覆われていることを特徴とする金属ナノ粒子である。
【0010】
発明3を展開してなされた第4の発明(以下、発明4という)は、発明2に記載の金属ナノ粒子において、前記分散剤がメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンCH30(OCH2CH2)a[OCH2CH(CH3)]bOCH2CH(CH3)NH2においてa=18.6,b=1.6の分散剤であることを特徴とする金属ナノ粒子である。
【0011】
発明1〜4を展開してなされた第5の発明(以下、発明5という)は、発明1〜4に記載の金属ナノ粒子において、前記金属が白金であることを特徴とする金属ナノ粒子である。
【0012】
発明1〜5を展開してなされた第6の発明(以下、発明6という)は、発明1〜5に記載の金属ナノ粒子において、前記金属ナノ粒子は湿式還元法によって形成される過程において、金属ナノ粒子を成長させる反応液から金属ナノ粒子が前記要素ナノ粒子の状態に成長したもの同士が複数個接続して粒子全体が分枝状の構造を有するように構成されたことを特徴とする金属ナノ粒子である。
【0013】
課題を解決するためになされた本発明の例としての第7の発明は、前記発明1〜6に記載の金属ナノ粒子を作製する製造工程において、分散剤として、ブロックコポリマーの一級アミンのメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンCH3O(OCH2CH2)a[OCH2CH(CH3)]bOCH2CH(CH3)NH2(ここに、a=18.6,b=1.6)を用いることを特徴とする分枝状の構造を有する金属ナノ粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の金属ナノ粒子は、構成の基本要素ともいえる要素ナノ粒子が複数個接続した状態の枝が多数集まって多枝状になっている形状をしており、従ってその体積に対する表面積がきわめて大きく、たとえば本発明による白金ナノ粒子を電池の電極に触媒として用いた場合、枝構造になっているためナノ粒子内部まで電解液が入り込むことができ、同じ外形を有する従来のナノ粒子に比較して白金の量がきわめて少ないのに加えて電解液と接する白金の表面積は従来の白金ナノ粒子に比してきわめて大きいため、同じ外形寸法の従来の白金ナノ粒子に比べてきわめて大きな触媒作用を発揮することができる上に、白金の量が少なく材料コストが大幅に低減され、形状寸法の制御も確実にでき、製造歩留まりも高く、材料費を含めた製造コストを大幅に低減することができるという大きな効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の金属ナノ粒子の実施の形態例としての白金ナノ粒子のTEM写真である。
【図2】本発明の金属ナノ粒子の実施の形態例としての白金ナノ粒子のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態例として、本発明を白金ナノ粒子に適用した実施例を説明する。
【実施例】
【0017】
好ましい例として、白金原料としての前駆体としてジニトロアミン白金溶液を用いた。分散剤として、ブロックコポリマーの一級アミンのメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンCH3O(OCH2CH2)a[OCH2CH(CH3)]bOCH2CH(CH3)NH2(ここに、a=18.6,b=1.6)(たとえば、製品名:ハンツマン社製ジェファーミン(登録商標)M−1000)(以下、M−1000という)を用い、溶媒兼還元剤としてエチレングリコール(以下、EGという)とポリエチレングリコール(以下、PEGという)を1対1に混合したものを用い、加熱環境下におけるアルコール還元を行って本発明の白金ナノ粒子を作製することができる。。
【0018】
具体的例として、まず、溶媒兼分散媒としてEG200gと分子量が400のPEG180gとEGで濃度50%にしておいたM−1000混合液40gとを混合した混合液(以下、混合液1という)を150°Cに加熱しておき、この加熱した混合液1にこれとは別に混合して調製しておいた前記前駆体(白金1g含有)とM−1000と1対1EG/PEG混合液との混合液(以下、混合液2という)を少しずつ滴下して還元反応を進める。
【0019】
前記混合液1に混合液2を滴下する好適な速度は、150°Cの前記混合液1に攪拌しながら前記混合液2を毎分320μLの速度で約9時間滴下し、その後これに、80gのPEGと80gのEGと40gの50%M−1000(EGで50%濃度にしてあるもの)の混合液を毎分300μLの速度で滴下して還元反応を進め、約10時間で前記白金1gの還元反応を行わせた。
【0020】
その結果、図1に示す分枝状白金ナノ粒子を作製することができた。図1、図2は前記実施例によって作製した本発明の金属ナノ粒子の実施の形態例としての白金ナノ粒子のTEM写真で、図中に5nmを示す線分が記載されている。
【0021】
図1において、図の中心部分を含んで主要部分の白金ナノ粒子は、図では明確に現れていないが中心部近傍にある核部の周囲に枝状に見える周辺部構成要素(枝部)が複数本ついている構造に形成されている。各枝部は、回転楕円体の如き要素ナノ粒子が1つもしくは複数個連なった状態になって前記核部に連なった状態になり、本発明の分枝状白金ナノ粒子を形成している。
【0022】
図2で符号1は白金ナノ粒子、2〜4は要素ナノ粒子、5は核部がある位置を説明する符号、6は本発明の白金ナノ粒子に成長していない単独ナノ粒子である。要素ナノ粒子2〜4には、写真で見えにくいが、図1に見られるような、結晶性を示す同一方向に揃った干渉縞が現れている。
【0023】
図2の白金ナノ粒子1は、多くの要素ナノ粒子が符号5で示した部分の近傍にある核部を中心に枝状に集まってひとまとまりの白金ナノ粒子を形成している。このような形態の白金ナノ粒子は、その体積に比較して表面積がきわめて大きくなっている。しかも、250°Cの高温下でも凝集せずに安定に存在することができる。
【0024】
図1,図2の白金ナノ粒子は、超音波をかけていない状態で反応させたが、要素ナノ粒子の寸法と形状は超音波の周波数、パワーなどによっても異なり、反応条件によって変えることができる。
【0025】
以上、白金原料としての前駆体としてジニトロアミン白金を用いたが、白金原料としての前駆体としては、このほかに、ヘキサヘドロキソ白金、ヘキサクロロ白金酸塩、テトラクロロ白金酸塩、テトラブロモ白金酸塩、テトラアンミン白金酸塩、ヘキサアンミン白金水酸塩、ビスオキサラト白金酸塩などがある。
【0026】
本発明は白金に限定されず、他の金属ナノ粒子に適用することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、自動車、電池、エレクトロニクス、バイオテクノロジー、機能性材料などの各業界等広い分野の工業的発展に大きく寄与するという多大な効果を奏するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分枝状に形成されている金属ナノ粒子において、前記分枝を構成する複数の枝の部分が粒子サイズが100nm以下の金属ナノ粒子の形状(以下、要素ナノ粒子という)あるいはそれを複数個接続した状態に形成されている形状であるとともに、複数の前記枝を構成する前記要素ナノ粒子が、透過型電子顕微鏡(以下、TEMという)によって撮影される写真(以下、TEM写真という)において前記枝の長さ方向の寸法をLとし、最大寸法をLmとし、前記長さ方向に直交する方向の寸法をDとし、その最大寸法をDmとし、他の要素ナノ粒子と接続状態にある部分の寸法DをDcとするとき、DcはLmより小さく、DcはDmより小さく、複数の枝の少なくとも先端部分にある前記要素ナノ粒子はTEM写真において互いに平行な干渉縞を示す結晶構造を有していることを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項2】
請求項1に記載の金属ナノ粒子において、前記DmがLmよりも小さいことを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の金属ナノ粒子において、前記要素金属の少なくとも一部が分散剤に覆われていることを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項4】
請求項3に記載の金属ナノ粒子において、前記分散剤がメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンCH30(OCH2CH2)a[OCH2CH(CH3)]bOCH2CH(CH3)NH2においてa=18.6,b=1.6の分散剤であることを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子において、前記金属が白金であることを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子において、前記金属ナノ粒子は湿式還元法によって形成される過程において、金属ナノ粒子を成長させる反応液から金属ナノ粒子が前記要素ナノ粒子の状態に成長したもの同士が複数個接続して粒子全体が分枝状の構造を有するように構成されたことを特徴とする金属ナノ粒子。
【請求項7】
分散剤として、ブロックコポリマーの一級アミンのメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミンCH3O(OCH2CH2)a[OCH2CH(CH3)]bOCH2CH(CH3)NH2(ここに、a=18.6,b=1.6)を用いることを特徴とする分枝状の構造を有する金属ナノ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−168806(P2011−168806A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31173(P2010−31173)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(591020423)株式会社新光化学工業所 (10)
【Fターム(参考)】