説明

金属ナノ粒子の形成方法

【課題】本発明は、媒体中に金属ナノ粒子を効率的に生成する方法を提供する。具体的には、媒体中での金属ナノ粒子の生成量及び生成速度を増大させる方法を提供する。
【解決手段】媒体中に金属ナノ粒子を形成する方法であって、励起光により励起されて親ラジカルを生成し得る親ラジカル前駆体、該親ラジカル前駆体の励起状態と反応して子ラジカルを生成し得る子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする形成方法、並びに、媒体中に金属ナノ粒子が形成された材料を製造する方法であって、励起光により励起されて親ラジカルを生成し得る親ラジカル前駆体、該親ラジカル前駆体の励起状態と反応して子ラジカルを生成し得る子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体中に金属ナノ粒子を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの金属粒子である金属ナノ粒子は様々な応用の可能性が指摘されており、実用化に向けての研究が盛んに進んでいる。それを受けて、気相から溶液、ミセル、またはゾル、ゲルなどのソフトマテリアル、ガラスなどの固体に至るまで、様々な条件下で金属ナノ粒子を作成する方法が開発されている。ゲル、ゾル、フィルムなどのポリマーマトリクス中に作成されたナノ粒子はナノ粒子−ポリマー複合材料としての機能を持つため、非線形光学材料、フォトイメージング、フォトパターニング、磁気材料やセンサーとしての応用が期待されている。また形状およびサイズ制御された金属ナノ粒子をポリマーマトリクス中に高効率に作り出す方法は、ナノ粒子−ポリマー複合材料の作成のみならず、新規ナノ粒子作成法のひとつとしても重要である。
【0003】
ポリマーマトリクス中に金属ナノ粒子を作成する方法には大きく分けて3つの方法が挙げられる。
【0004】
一つ目の方法として、あらかじめ作成されたナノ粒子とポリマーとを混合した原料溶液から、ナノ粒子―ポリマーマトリクスを生成する方法である(例えば、非特許文献1)。
【0005】
二つ目の方法は、ポリマーマトリクス中においてナノ粒子の原材料である金属イオンや金属錯体を光化学反応、放射線化学反応、音響化学反応、熱化学反応などの物理的方法によって還元し、金属ナノ粒子を作成する方法である(例えば、非特許文献2)。レーザーや電子線の本来持つ空間分解能を利用すれば、位置特異的・選択的にナノ粒子アレイを作成することが可能であり、この点がこの方法の利点の一つである。しかしながら、欠点としては、非常にエネルギーの高い光や電子線を照射するため、媒体に深刻な損傷が生じる可能性があることが挙げられる。
【0006】
三つ目は光化学的手法(ランプやレーザー照射等)によって生じたラジカルなど高い還元力を持つ活性中間体を還元剤として用いて、金属ナノ粒子を生成させる方法である(例えば、非特許文献2)。この方法は、二つ目の方法にみられる欠点をカバーすることができる。すなわち、原料の金属イオンや金属錯体を直接励起によって還元するわけではなく、ラジカルの親分子(前駆体)を励起し化学反応によってラジカルを生じさせるため、比較的エネルギーの低い光の照射によって金属ナノ粒子を作成することができる。また、光励起をするのはラジカルの親分子(前駆体)であるので、媒質の吸収は親分子の吸収を外れていることが必要である。例えばラジカルの前駆体を355 nmレーザーで励起する場合、355 nmに吸収を持たない媒体は多く、比較的自由に選択することができる。さらに、ラジカルをレーザー照射によって生じさせることによって、レーザーの持つ空間分解能を得ることができる。
【0007】
ベンゾフェノンケチルラジカルをはじめとした各種ケチルラジカルは、親分子(前駆体)と比べて非常に低い酸化電位を持ち、親分子(前駆体)の基底状態の吸収が可視領域近くまであり、光照射によって生じる親分子(前駆体)の励起状態がポリビニルアルコール(PVA)など水素供与能をもつポリマーから比較的簡単に水素を引き抜いてラジカルを生じるなどの点からこの方法に主に用いられている。
【0008】
しかしながら、従来のこの方法は、金ナノ粒子の生成に時間がかかり非効率であるという欠点がある。またケチルラジカルを電子供与体として用いる場合、マトリクスとなるポリマーが水素供与体である必要があった。したがって、使用可能なポリマーマトリクスが限られてしまう。また、日光の照射によってマトリクス中でケチルラジカルが生じてしまい、日光の下では金属ナノ粒子の成長が進む恐れがある。
【非特許文献1】J. Li, et. al. Adv. Mater. 2005, 2, 166.
【非特許文献2】Daniel, M, -C.; Astruc, D. Chem. Rev. 2004, 104, 293.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、媒体中に金属ナノ粒子を効率的に生成する方法を提供することを主な目的とする。具体的には、媒体中での金属ナノ粒子の生成量及び生成速度を増大させる方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、次のような知見を得た。
【0011】
ラジカルは、一般的にその親分子よりもはるかに高い還元力を持つことが知られている。例えば、もっとも有名な芳香族ラジカルの一つであるベンゾフェノンケチルラジカルの酸化電位は、-0.25 V vs. SCE と報告されていて、非常に高い還元力を持つ。
【0012】
ベンゾフェノンは光励起により三重項励起状態を生成するが、これは、アルコールなどの水素供与体が共存すると、該水素供与体から水素を引き抜くことが知られている。つまり、水素供与体から三重項励起状態のベンゾフェノンへ水素ラジカルの移動が起こり、ベンゾフェノンケチルラジカルとともに水素供与体のラジカルも同時に生じる。
【0013】
これらアルコールなどの水素供与体から生じるラジカルは、ベンゾフェノンケチルラジカルよりもさらに高い還元力を持つと考えられた。例えば、メタノールからの水素引抜によって生じるメタンオキシドラジカルの酸化電位は、-0.6 V vs. SCE と報告されている(例えば、Lund, T. et. al. J. Am. Chem. Soc. 2001, 123, 12590.)。
【0014】
そこで、ベンゾフェノンをメタノールの共存下光励起を行ったところ、高い還元力をもつ2つのラジカル(ベンゾフェノンケチルラジカル及びメタンオキシドラジカル)が生じ、これらのラジカルが原材料の金属イオンや金属錯体を高効率で還元して金属ナノ粒子を作成できることを見出した(図1及び図2を参照)。
【0015】
なお、エネルギー準位図を用いた想定される本発明の反応メカニズムを図4に示す。本発明の反応メカニズムの応用は、水素引き抜き反応に限らず、ハロゲン引き抜きなどの反応によって強い還元力を持つ複数のラジカルを生じる光化学反応すべてに応用可能である。
【0016】
また、蟻酸は水素引抜によってホルミルオキシルラジカルを生じる。ホルミルオキシルラジカルは酸化性のラジカルであるが、分解して強い還元力をもつ二酸化炭素ラジカルアニオンとプロトンを生じる。このように、後続する反応によって強い還元力をもつ中間体を生じるものも子ラジカルの候補となる。
【0017】
また、媒体が固体媒体(特に樹脂マトリックス等)の場合、アルコールなどの水素供与体及び塩化メチレンなどのハロゲン供与体は、液体であるため比較的簡単に媒体中に取り込まれ、媒体を膨潤させる。これによってマトリクス中の分子、金属ナノ粒子の種結晶の拡散が促進され、その結果金属ナノ粒子の生成が加速されることをも見出した。
【0018】
かかる知見に基づき、さらに研究を重ねた結果本発明を完成するに至った。
【0019】
即ち、本発明は、以下の媒体中に金属ナノ粒子を形成する方法を提供する。
【0020】
項1.媒体中に金属ナノ粒子を形成する方法であって、励起光により励起されて親ラジカルを生成し得る親ラジカル前駆体、該親ラジカル前駆体の励起状態と反応して子ラジカルを生成し得る子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする形成方法。
【0021】
項2.前記親ラジカル前駆体が、ビスアリールケトン類、アリールアルキルケトン類、ビスアリールメチルハライド類、ベンゾイン、又はキノン類である請求項1に記載の形成方法。
【0022】
項3.前記子ラジカル前駆体が、アルコール類、有機酸、炭化水素及びハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1又は2に記載の形成方法。
【0023】
項4.前記励起光が、レーザー光又はランプ光であり、かつ、親ラジカル前駆体を励起し得る波長を有する項1、2又は3に記載の形成方法。
【0024】
項5.金属イオン又は金属錯体を構成する金属が、パラジウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1〜4のいずれかに記載の形成方法。
【0025】
項6.媒体が、固体媒体又は液体媒体である項1に記載の形成方法。
【0026】
項7.前記項1〜6のいずれかに記載の形成方法により媒体中に形成された金属ナノ粒子。
【0027】
項8.媒体中に金属ナノ粒子が形成された材料を製造する方法であって、励起光により励起されて親ラジカルを生成し得る親ラジカル前駆体、該親ラジカル前駆体の励起状態と反応して子ラジカルを生成し得る子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする製造方法。
【0028】
項9.項8に記載の製造方法により製造される媒体中に金属ナノ粒子が形成された材料。
【0029】
なお、本明細書において、直接光励起されるベンゾフェノン等の化合物を「親ラジカル前駆体」と呼び、該親ラジカル前駆体の光励起により生じるラジカルを「親ラジカル」と呼ぶ。また、親ラジカル前駆体の励起状態により水素又はハロゲンを引き抜かれるアルコール、塩化メチレン等の化合物(水素供与体、ハロゲン供与体等)を「子ラジカル前駆体」と呼び、該子ラジカル前駆体から水素又はハロゲンを引き抜かれて生じるラジカルを「子ラジカル」と呼ぶ。
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0031】
本発明は、親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射して、媒体中に金属ナノ粒子を形成する方法である。つまり、所定の親ラジカル前駆体及び子ラジカル前駆体を含む媒体中で、励起光を用いて親ラジカル及び子ラジカルを生成させて、金属イオン又は金属錯体を還元することにより、金属ナノ粒子を大量かつ速やかに生成させる方法である。
【0032】
この様に、本発明の方法では、2種類のラジカル(親ラジカル及び子ラジカル)を金属ナノ粒子生成の開始剤として用いている。本法は、光照射という物理的手法によって生じた活性中間体であるラジカルを還元剤として用い、金属イオン又は金属錯体を化学的に還元して金属ナノ粒子を生成ずるという点で、物理的手法と化学的手法の両者を兼ね備えた手法であると言える。
【0033】
親ラジカル前駆体
本発明で用いる「親ラジカル前駆体」とは、光照射により直接励起される化合物であり、その(三重項)励起状態が子ラジカル前駆体から水素やハロゲン等を引き抜く性質を有する化合物を意味する。
【0034】
また、「親ラジカル」とは、「親ラジカル前駆体」の(三重項)励起状態が子ラジカル前駆体から水素やハロゲン等を引き抜いて生じるラジカルを意味する。
【0035】
親ラジカル前駆体としては、上記の性質を有していれば特に限定はなく、広範な化合物を用いることができる。例えば、ベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、ナフチルフェニルケトン、4−ベンゾイルビフェニル、ビス−ビフェニル−4−イル−メタノン等のビスアリールケトン類;アセトフェノン、4−メトキシアセトフェノン等のアリールアルキルケトン類;ベンゾイン等のベンゾイン類;ベンゾキノン、アントラキノン等のキノン類などが挙げられる。このうち、光励起体が高い水素やハロゲン等の引き抜き能力を持ち、生成する親ラジカルが金属イオン又は金属錯体に対し比較的高い還元能を持つ点から、ビスアリールケトン類、特にベンゾフェノン又はその誘導体が好適である。
【0036】
具体的には、例えば、ビスアリールケトン類、アリールアルキルケトン類等は、励起光により励起され一旦三重項励起状態を生成し、これが子ラジカル前駆体から水素やハロゲン等を引き抜いて親ラジカルを生じる。すなわち、子ラジカル前駆体は水素供与体又はハロゲン供与体等として機能する。
【0037】
この親ラジカルからの電子移動により金属イオン又は金属錯体を還元する。この様に、親ラジカル前駆体は、媒体中での光励起及び子ラジカル前駆体との反応によって親ラジカルを生成し、該親ラジカルによって金属イオン又は金属錯体を還元する、いわゆるドーパントとして用いられる。
【0038】
子ラジカル前駆体
本発明で用いる「子ラジカル前駆体」とは、親ラジカル前駆体の(三重項)励起状態により水素やハロゲン等を引き抜かれる性質を有する化合物(水素供与体、ハロゲン供与体等ともいう)を意味する。特に、媒体が樹脂マトリクスの場合、樹脂を膨潤させることができる性質を有している化合物が好適である。これにより、樹脂マトリクス中で金属ナノ粒子の種結晶の拡散速度を上げ、金属ナノ粒子の生成速度を加速することができる。
【0039】
また、「子ラジカル」とは、子ラジカル前駆体が親ラジカル前駆体の(三重項)励起状態により水素やハロゲン等を引き抜かれて生じるラジカルを意味する。この子ラジカルが高い還元能力をもつ場合、もしくは継続する反応によって高い還元能力を持つ中間体を生じる場合、この子ラジカルもしくは中間体からの電子移動により金属イオン又は金属錯体が還元される。
【0040】
子ラジカル前駆体としては、上記の性質を有していれば特に限定はなく、広範な化合物を用いることができる。例えば、アルコール類、有機酸、炭化水素、ハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0041】
アルコールとしては、例えば、直鎖又は分岐鎖のC1−6のアルコールが挙げられ、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、tert−ブタノール等のC1−4のアルコールが好適である。そのうち、水素供与能の点から、イソプロパノール、tert−ブタノールがより好適である。
【0042】
有機酸としては、例えば、蟻酸、酢酸等が例示される。そのうち、蟻酸が好適である。
【0043】
ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ハロゲン化脂肪族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化脂肪族炭化水素としては、例えば、塩素、臭素及びヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子で置換された脂肪族炭化水素が挙げられ、具体的にはクロロエタン、クロロメタン、塩化メチレン等が例示される。ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、塩素、臭素及びヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子で置換された芳香族炭化水素が挙げられ、具体的にはクロロベンゼンが例示される。
【0044】
この子ラジカル前駆体は、親ラジカル前駆体の励起状態との反応によって子ラジカルを生成し、該子ラジカルによって金属イオン又は金属錯体を還元する、いわゆるドーパントとして用いられる。一般に、子ラジカルは、前記親ラジカルよりも還元能が優れており、金属イオン又は金属錯体の実質的な還元をになう。そのため、上記した親ラジカルと子ラジカルの還元作用により、高い生成量及び生成速度で媒体中に金属ナノ粒子を形成できるのである。
【0045】
金属イオン又は金属錯体
本発明で用いる金属イオン又は金属錯体は、電子を受容して0価の金属に還元されるものであれば特に限定はない。金属イオン又は金属錯体を構成する金属としては、例えば、パラジウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀、白金などが挙げられる。すなわち、金属イオンとしては、パラジウムイオン、鉄イオン、銅イオン、ニッケルイオン、金イオン、銀イオン、白金イオンなどが例示され、また、金属錯体としては、HAuCl4、AgNO2、PtCl4、Cu(acac)2、FeCl3、AuCl3、NiCl2、Pd(C5H7O2)2などが例示される。これらの金属イオン又は金属錯体は、上記のうちから選択することができる。また、2種以上の混合物を用いることもでき、この場合には、本発明の方法によって、2種以上の異なる金属からなる複合金属ナノ粒子を形成することができる。
【0046】
各金属イオン又は金属錯体は、親ラジカル及び子ラジカルの還元力に応じて適宜選択することができる。
【0047】
媒体
本発明において金属ナノ粒子が形成される媒体としては、各種固体媒体又は液体媒体を用いることができる。本発明で用いられる固体媒体又は液体媒体としては、前記親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、及び金属イオン等を分散乃至溶解できるものであり、かつ、親ラジカル及び子ラジカルの生成が可能なものであれば特に限定はない。
【0048】
例えば、ミセル(例えば、ポリスチレン−ポリ−4−ビニルピリジン等)、樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルアセテート(PVAc)等)、ゼオライト、ガラスなどの固体媒体、水、有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ベンゼン、トルエン、メチルテトラヒドロフラン等)等の液体媒体の使用が可能である。いずれの固体媒体又は液体媒体を用いる場合でも、その中に均質な金属ナノ粒子を形成するためには、親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を均一に分散乃至溶解できるものが好ましい。
【0049】
なお、媒体中における親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、金属イオン又は金属錯体の濃度は、特に限定はなく広範な範囲から適宜選択することができる。例えば、媒体(PVA等)中における親ラジカル前駆体の濃度は、例えば、5〜50mol/L程度、好ましくは20〜30mol/L程度であり、媒体中における子ラジカル前駆体の濃度は、例えば、5〜50mol/L程度、好ましくは20〜30mol/L程度であり、また、媒体中における金属イオン又は金属錯体の濃度は、金属イオン換算で、例えば、0.1〜10mol/L程度、好ましくは1〜5mol/L程度であればよい。媒体中の各成分の濃度が上記の範囲であれば、親ラジカル又は子ラジカルから金属イオン又は金属錯体への電子移動が容易となり、金属ナノ粒子を効率的に形成することができる。
【0050】
なお、本発明の方法は、これらの濃度に限定されるわけではなく、本方法が適用できるすべての金属イオン又は金属錯体、媒体、親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体等の組み合わせによって、広範囲の濃度条件下で実施が可能である。
【0051】
媒体(固体媒体又は液体媒体)中に親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を溶解乃至分散させる方法として、例えば次のような方法が例示できる。
【0052】
液体媒体を用いた場合は、親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を該液体媒体中に入れて均一に混合し、溶解又は分散すればよい。
【0053】
固体媒体を用いた場合、特に樹脂を用いた場合は、ドーパントである親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、金属イオン又は金属錯体、及び樹脂を、いずれも溶解し得る溶媒(例えば、水、蟻酸、酢酸、アルコール類、これらの混合物等)に溶解し、これを所望の形状に成形して溶媒を除去すればよい。成形の方法は特に限定はなく、その形状に応じて射出成形、押出成形、スピンコート等の公知の方法を採用すればよい。形状は用途に応じて選択でき、例えば、フィルム、シート等の平面状、或いは立方体、直方体、球、その他任意の三次元形状にすることも可能である。三次元形状にする場合は、その強度を向上させるため、必要に応じ樹脂に架橋剤を添加して架橋処理を施しても良い。
【0054】
また、固体媒体としてゼオライトを用いた場合は、ドーパントである親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、金属イオン又は金属錯体、及び水素供与体を、いずれも溶解し得る溶媒に溶解し、ゼオライト中に取り込ませればよい。
【0055】
金属ナノ粒子の形成
次に、上記のようにして作成した、媒体中に親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含む複合物に、励起光を照射して媒体中に金属ナノ粒子を形成する。
【0056】
本発明は、主として二つの特徴を有している。一つ目は、一つの光化学反応によって生じる2つのラジカル(親ラジカル及び子ラジカル)を開始剤として用いて、媒体中での金属ナノ粒子の種結晶の初期生成量を増大させることによって、最終的な金属ナノ粒子の生成量及び生成速度を増大させることができる。ポリマーの性質に関わらず各種ラジカルを生成することが出来るため、光照射によって種々のポリマーマトリクス中において位置特異的・選択的に金属ナノ粒子のアレイを作成することが可能になる。
【0057】
二つ目は、媒体として固体媒体(特に樹脂マトリクス等)を用いた場合、子ラジカル前駆体によって膨潤させることにより、あるいは熱を加えることにより、マトリクス中の金属ナノ粒子の種結晶の拡散速度を上げ、金属ナノ粒子の生成速度を加速することができる。
【0058】
金属イオン又は金属錯体を還元して金属ナノ粒子を形成するには、まず媒体中で還元剤として機能する親ラジカル及び子ラジカルを生成させる必要がある。光源によって媒体中にドープされた親ラジカル前駆体を励起して励起体とし、これを適切な子ラジカル前駆体と反応させて、親ラジカルと子ラジカルを生成させる。適切な金属イオンおよび金属錯体の存在下では、生成した両ラジカルからの電子移動により金属イオン及び金属錯体の還元反応が起こり、金属ナノ粒子の種結晶が生じる(図1及び図2を参照)。
【0059】
光源からの励起光の波長は、親ラジカル前駆体の構造・性質、還元しようとする金属イオン又は金属錯体の種類等に応じて当業者が適宜選択して設定できる。例えば、励起光の波長は、通常180 nm〜800 nm程度、特に180〜532 nm程度の範囲であればよい。
【0060】
具体例として、親ラジカル前駆体としてベンゾフェノンを用いた場合、ベンゾフェノンを三重項励起状態に励起する励起光の波長は、通常180〜360 nm程度であれば良い。
【0061】
励起光の光源としては、Nd:YAGレーザー、エキシマーレーザー等のレーザー光、水銀灯、Xe-ランプなどのランプ光などが用いられる。レーザー光にはパルス光と連続発振光(continuous-wave light)があるが、いずれも用いることができる。また、ランプ光は通常連続発振光のみであるが、機械的手段によってパルス化にして用いることも可能である。レーザー照射では、ランプによる光照射に比較してより高効率で金属ナノ粒子を作成できるだけでなく、レーザーの持つ空間分解能を得ることができるため好ましい。
【0062】
この様にして、媒体中にその平均粒子径が、1〜100 nm程度、特に4〜10 nm程度の金属ナノ粒子が形成される。金属ナノ粒子の生成の確認及びサイズの測定は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて行うことができる。
【0063】
本発明では光励起されるのは親ラジカル前駆体であり、媒体の損傷を回避するためには、媒体の吸収光波長がラジカル前駆体の吸収光波長を外れていることが必要である。例えば、親ラジカル前駆体(例えば、ベンゾフェノン等)を355 nmレーザーで励起する場合、355 nmに吸収を持たない媒体が選択される。355 nmに吸収を持たない媒体は比較的多いことから、広範な媒体を選択することができる。
【0064】
このような親子ラジカルの前駆体をドーパントとして用いる。媒体としては、ラジカルの前駆体を取り込むことができ、その中で励起した親ラジカルの前駆体と子ラジカルの前駆体が反応することができるありとあらゆるポリマーマトリクス、多孔質材料、固体、溶液、ソフトマテリアルなどの使用が可能である。
【0065】
例えば、固体媒体の形状がフィルム、シート等の平面状の場合、親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ固体媒体に、励起光を照射することにより、金属ナノ粒子を形成することができる。
【0066】
必要に応じて、励起光の照射時に媒体を加熱することにより、金属ナノ粒子の生成を加速させることもできる。
【0067】
また、ラジカル前駆体及び金属イオン又は金属錯体を含んだ固体媒体に、所定のパターンを有するマスク(フォトマスク)をかぶせて励起光を照射すれば、該固体媒体上の光が照射された部分だけに該固体媒体に金属ナノ粒子からなる回路パターンを形成することもできる。つまり、この方法では、細幅は、励起光の照射幅に依存し任意に制御することができるのであり、光の回折限界(波長の約半分)程度の幅の極微細線でも自由に配線することができる。金属ナノ粒子の線幅は光の回折限界、例えば、266 nmの光源を用いた場合は133 nm程度の線幅まで任意に制御できる。なお、励起光の照射幅は、レンズ等を用いて絞ることにより任意に選択できる。線幅は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて確認できる。金属ナノ粒子が形成された部位は電気伝導性を有しているため、広範な用途に利用が可能である。
【0068】
この方法をレーザープリンターへと応用することでレーザープリンターを用いて、極微細線でできた金属ナノ粒子の回路を基盤にプリントすることも可能である。これは、非常に薄いコンピュータや、電子ペーパーの作成に応用できる。
【0069】
本発明の方法において、金属ナノ粒子への還元反応が起こっているか否かは、次のようにして確認することができる。親ラジカル又は子ラジカルから金属イオン等への電子移動によって、特徴的な金属ナノ粒子の表面プラズモン吸収が確認される。これにより、金属ナノ粒子が生成したことを確認することもできる。表面プラズモン吸収を紫外−可視分光光度計を用いて測定し、金属ナノ粒子の生成量を評価することができる。例えば、レーザーを照射した場合の表面プラズモン吸収の強度を比較し、親ラジカル又は子ラジカルからの電子移動によって金属ナノ粒子が生成していることを確認できる。
【0070】
上記のようにして製造される金属ナノ粒子を含む媒体は、金属ナノ粒子の製造直後は子ラジカル前駆体(即ち、アルコール等の水素供与体、ハロゲン供与体等)を含有している。金属ナノ粒子を形成した後の媒体中に子ラジカル前駆体が残存する場合には、通常の光(日光)により更に金属ナノ粒子の生成が進むことを回避するために、媒体から子ラジカル前駆体を除去(例えば、真空乾燥等)しておくのが好ましい。水素供与能のない樹脂マトリクス中ではケチルラジカルは生じないので、金属ナノ粒子作成時に子ラジカル前駆体をドープし、金属ナノ粒子作成後に子ラジカル前駆体を取り除いてやればよい。例えば、アルコールなどの子ラジカル前駆体は、真空乾燥することによって比較的簡単に樹脂マトリクスから除去することが可能である。
【0071】
近年、放射線、γ線照射等の放射線化学的手法によってラジカル前駆体から基底状態のラジカルを生成させ、この基底状態のラジカルによって金属ナノ粒子を生成する方法については、報告例がある(Hirose, T. et. Al. Chem. Phys. Lett. 2004, 390, 166.)。しかしながら、放射線化学的手法は特別な設備、施設を要するため汎用性に欠け、簡便な方法とは言いがたい。
【0072】
これに対し、本発明の方法は、光照射により生じる基底状態の親ラジカルと共存する還元能の高い子ラジカルとからの電子移動を利用して、金属ナノ粒子を効率的に作成する方法である。このような、子ラジカルを共存させた先行技術はこれまで知られていない。そして、本発明の方法では、励起光源を用いて親及び子ラジカルの両方を生成させるので、所定のパターンマスクを用いれば、光が照射された部分だけ位置特異的に金属ナノ粒子を作成することができる。しかも、汎用的に使用できる簡便なレーザーなどの光化学的手法を用いるものであり、コストパフォーマンスも高く、実用的価値が高い。
【発明の効果】
【0073】
本発明の方法によれば、光化学的手法によって生じた親ラジカルと子ラジカルを還元剤として用い、媒体中に金属ナノ粒子を生成させる方法の感度及び効率を飛躍的に増大することが出来る。媒体が固体媒体(特に、ポリマーマトリックス等)の場合、ラジカル前駆体の一方(特に、子ラジカル前駆体)を液体として固体媒体を膨潤させることにより、固体媒体中の金属ナノ粒子の拡散速度を上げ、かつ、金属ナノ粒子の生成速度をさらに加速することが出来る。また、親ラジカル前駆体と子ラジカル前駆体を同時に媒体中に内包させることによって、様々な媒体中に金属ナノ粒子アレイを作り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0075】
実施例1
以下のようにして、ポリビニルアルコール(PVA)媒体中に、金ナノ粒子を高効率に作成した。
【0076】
水素引き抜き能力があり、水素引き抜きの結果生じるラジカルが強い還元力を持つベンゾフェノンをドーパントとして用いた。ベンゾフェノン及びHAuCl4を含むPVAフィルムを製膜した。製膜のための溶媒としては、ベンゾフェノン、HAuCl4及びPVAをよく溶解する蟻酸を用いた。ベンゾフェノン(5〜15mM)、HAuCl4(1〜5mM)及びPVA(5wt%)を含む蟻酸溶液をキャスティング法によって石英プレート上に製膜した。生成したPVAフィルムはAuCl4-の吸収に由来する薄い黄色を示した。このPVAフィルムに蟻酸をドープした。
【0077】
このPVAフィルムに波長355nmのレーザーを照射して、ベンゾフェノンを励起したところ、ベンゾフェノンの三重項励起状態は水素供与体である蟻酸から優先的に水素を引き抜き、ベンゾフェノンケチルラジカルとホルミルオキシルラジカルを生成した。ホルミルオキシルラジカルは、分解して強い還元力をもつ二酸化炭素ラジカルアニオンとプロトンを生じる。ベンゾフェノンケチルラジカル及び二酸化炭素ラジカルアニオンからHAuCl4への電子移動によって金ナノ粒子が生成した。
【0078】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、直接的に金ナノ粒子の生成を確認した。TEM観察により、生成した金ナノ粒子の平均サイズ(平均粒径)は5-10 nm程度であった。
【0079】
表面プラズモン吸収を紫外−可視分光光度計を用いて測定し、金ナノ粒子の生成量を評価した。水素供与体をドープした場合と、しない場合の表面プラズモン吸収の強度および立ち上がり速度を比較し、水素供与体をドープした効果を確認した。
【0080】
比較例1
実施例1においてPVAフィルムに蟻酸をドープしないこと以外は、実施例1と同様にして金ナノ粒子を作成した。
【0081】
しかしながら、このPVAフィルムおいては、ベンゾフェノン三重項励起状態がPVAから水素引き抜きをおこなう効率は悪く、光照射によってケチルラジカルの生成量は少なかった。これにより金ナノ粒子の生成量及び生成速度も小さいものであった。
【0082】
試験例1
媒体中に金ナノ粒子が生成すると赤色を呈し、その生成量が増大すると赤色が濃くなることが知られている(Burda, C.; Chen, X.; Narayanan, R.; El-Sayed, M. A. Chem. Rev. 2005, 105, 1025.)。
【0083】
上記実施例1で製造した蟻酸をドープしたPVAフィルム、及び比較例1で製造した蟻酸をドープしないPVAフィルムのそれぞれに星形の穴のあいたマスクを装着し、これに波長355 nmのレーザーを照射し、開始から一定時間後における金ナノ粒子の赤色発色の程度を目視にて観察した。その観察結果を図3に示す。図3(a)は実施例1のフィルム、図3(b)は比較例1のフィルムである。
【0084】
これによれば、実施例1の蟻酸をドープしたPVAフィルムでは、レーザー照射後5分という短時間でレーザー照射部分が濃い赤色を呈したのに対し、比較例1の蟻酸をドープしないPVAフィルムでは、同程度の濃さの赤色を呈するまでに60分以上が必要であった。これより、蟻酸をドープすることにより、大量かつ速やかに金属ナノ粒子が生成することが分かった。
【0085】
実施例2
実施例1において蟻酸に代えて2-プロパノールを用いること以外は、実施例1と同様にしてPVA媒体中に金ナノ粒子を作成した。
【0086】
この場合も、金ナノ粒子の生成量が増加していることがわかり、ベンゾフェノンケチルラジカルと2-プロパノールから生じたラジカルからの電子移動によって金ナノ粒子が生成していることを確認した。
【0087】
実施例3
実施例1において蟻酸に代えてメタノールを用いること以外は、実施例1と同様にしてPVA媒体中に金ナノ粒子を作成した(図2を参照)。
【0088】
この場合も、金ナノ粒子の生成量が増加していることがわかり、ベンゾフェノンケチルラジカルとメタノールから生じたラジカルからの電子移動によって金ナノ粒子が生成していることを確認した。
【0089】
実施例4
実施例1においてレーザーに代えてXe-ランプ、水銀灯などのCW-光源を励起光として用いること以外は、実施例1と同様にしてPVA媒体中に金ナノ粒子を作成した。
【0090】
その結果、水素供与体をドープした場合には、金ナノ粒子の生成量が増加していることがわかり、ベンゾフェノンケチルラジカルとアルコールから生じたラジカルからの電子移動によって金ナノ粒子が生成していることを確認した。
【0091】
実施例5
以下のようにして、有機溶剤に溶解するポリビニルアセテート(PVAc)媒体中に、金ナノ粒子を高効率に作成した。
【0092】
ラジカルの励起状態の性質に関して比較的良く知られているベンゾフェノンをドーパントとして用いた。ベンゾフェノン、HAuCl4を含むPVAcフィルムを製膜した。製膜のための溶媒としては、ベンゾフェノン及びHAuCl4及びPVAcをよく溶解するトルエンを用いた。ベンゾフェノン(5〜15mM)、HAuCl4(1〜5 mM)及びPVAc(5wt%)を含むトルエン溶液をキャスティング法によって石英プレート上に製膜した。生成されたPVAcフィルムはAuCl4-の吸収に由来する薄い黄色を示した。PVAcフィルムに蟻酸をドープした。
【0093】
このPVAcフィルムに波長355nmのレーザーを照射して、ベンゾフェノンを励起したところ、ベンゾフェノンの三重項励起状態は水素供与体である蟻酸から優先的に水素を引き抜き、ベンゾフェノンケチルラジカルとホルミルオキシルラジカルを生成した。ホルミルオキシルラジカルは、分解して強い還元力をもつ二酸化炭素ラジカルアニオンとプロトンを生じる。ベンゾフェノンケチルラジカル及び二酸化炭素ラジカルアニオンからHAuCl4への電子移動によって金ナノ粒子が生成した。
【0094】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、直接的に金ナノ粒子の生成を確認した。TEM観察により、生成した金ナノ粒子の平均サイズ(平均粒径)は5〜10 nm程度であった。
【0095】
表面プラズモン吸収を紫外−可視分光光度計を用いて測定し、金ナノ粒子の生成量を評価した。水素供与体をドープした場合と、しない場合の表面プラズモン吸収の強度および立ち上がり速度を比較したところ、水素供与体をドープしたものの方が10倍から20倍早いことがわかった。
【0096】
水素供与体のドープ量による表面プラズモン吸収の強度を比較し、ドープ量が増すほど金ナノ粒子の生成効率が上昇していることを確認した。
【0097】
実施例6
以下のようにして、有機溶剤に溶解するポリビニルアセテート(PVAc)媒体中に、金ナノ粒子を高効率に作成した。
【0098】
4−メトキシアセトフェノンをドーパントとして用いた。HAuCl4を含むPVAcフィルムを製膜した。製膜のための溶媒としては、HAuCl4及びPVAcをよく溶解するトルエンを用いた。HAuCl4(1〜5 mM)及びPVAc(5wt%)を含むトルエン溶液をキャスティング法によって石英プレート上に製膜した。生成されたPVAcフィルムはAuCl4-の吸収に由来する薄い黄色を示した。PVAcフィルムを4−メトキシアセトフェノンのアルコール溶液によって膨潤させた。
【0099】
このPVAcフィルムに波長308nmのレーザーを照射して、4−メトキシアセトフェノンを励起したところ、4−メトキシアセトフェノンの三重項励起状態は水素供与体であるアルコールから優先的に水素を引き抜き、4−メトキシアセトフェノンケチルラジカルとアルコール由来のラジカルを生成した。4−メトキシアセトフェノンケチルラジカルおよびアルコール由来のラジカルからHAuCl4への電子移動によって金ナノ粒子が生成した。
【0100】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、直接的に金ナノ粒子の生成を確認した。TEM観察により、生成した金ナノ粒子の平均サイズ(平均粒径)は5〜10 nm程度であった。
【0101】
表面プラズモン吸収を紫外−可視分光光度計を用いて測定し、金ナノ粒子の生成量を評価した。
【0102】
比較例2
実施例5においてPVAcフィルムに蟻酸をドープしないこと以外は、実施例5と同様にして金ナノ粒子を作成した。
【0103】
しかしながら、このPVAcフィルムおいては、ベンゾフェノン三重項励起状態がPVAcから水素引き抜きをおこなう効率は悪く、光照射によってケチルラジカルはほとんど生成しておらず、金ナノ粒子の生成量及び生成速度は極めて遅かった。
【0104】
実施例7
実施例5において蟻酸に代えて2-プロパノールを用いること以外は、実施例5と同様にしてPVAc媒体中に金ナノ粒子を作成した。
【0105】
この場合も、金ナノ粒子の生成量が増加していることがわかり、ベンゾフェノンケチルラジカルと2-プロパノールから生じたラジカルからの電子移動によって金ナノ粒子が生成していることを確認した。
【0106】
実施例8
実施例5において蟻酸に代えてメタノールを用いること以外は、実施例5と同様にしてPVAc媒体中に金ナノ粒子を作成した。
【0107】
この場合も、金ナノ粒子の生成量が増加していることがわかり、ベンゾフェノンケチルラジカルとメタノールから生じたラジカルからの電子移動によって金ナノ粒子が生成していることを確認した。
【0108】
実施例9
実施例5においてレーザーに代えてXe-ランプ、水銀灯などのCW-光源を励起光として用いること以外は、実施例5と同様にしてPVAc媒体中に金ナノ粒子を作成した。
【0109】
その結果、水素供与体をドープした場合には、金ナノ粒子の生成量が増加していることがわかり、ベンゾフェノンケチルラジカルとアルコールから生じたラジカルからの電子移動によって金ナノ粒子が生成していることを確認した。
【0110】
実施例10
以下のようにして、媒体中に金ナノ粒子からなる二次元の回路を作成した。
【0111】
実施例1及び2の方法を用いてHAuCl4、親ラジカル前駆体、子ラジカル前駆体のドープされた各種のフィルムを作成した。光照射法は、レンズによって絞った波長355 nmのパルスレーザー光(又はCWレーザー、水銀灯等のCW光)を局所的に照射した。或いは、フォトマスクをフィルム上にかぶせ波長355nmのパルスレーザー光(又はCWレーザー、水銀灯等のCW光)を全体的に照射した。
【0112】
355 nmの光の照射によって親ラジカル前駆体が励起され、子ラジカル前駆体との反応によって親ラジカルおよび子ラジカルが生じ、該ラジカルによるHAuCl4の還元により、フィルム上に金ナノ粒子の種結晶が作成された。フィルムに熱(100℃程度)を加えることで、金ナノ粒子の生成を加速させることができた。
【0113】
また、透過型電子顕微鏡(TEM)によって、直接的に金ナノ粒子の生成を確認した。TEM観察により、金ナノ細線の幅を求めることができた。なお、フォトマスクを用いた場合の細線の幅は、フォトマスクに設けられた細線の幅が反映された。
【0114】
本発明の方法では、光の回折限界(波長の約半分)程度の幅のナノ粒子でできた細線を自由に配線することができるので、これをレーザープリンターへと応用することで、レーザープリンターを用いて極微細線でできた回路を基盤にプリントすることが可能である。これは、非常に薄いコンピュータや、電子ペーパーの作成に有望な方法であると思われる。本発明の方法を応用することにより、光照射後の金ナノ粒子の形成速度を大きく加速することができ、これらの用途の実現に向けて大きく前進したといえる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明による還元の機構を模式的に示した図である。
【図2】本発明による還元の機構の具体例を模式的に示した図である。
【図3】試験例1における実施例1及び比較例1の金ナノ粒子の生成速度の相違を示した図である。
【図4】エネルギー準位図を用いた想定される本発明の反応メカニズムを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体中に金属ナノ粒子を形成する方法であって、励起光により励起されて親ラジカルを生成し得る親ラジカル前駆体、該親ラジカル前駆体の励起状態と反応して子ラジカルを生成し得る子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする形成方法。
【請求項2】
前記親ラジカル前駆体が、ビスアリールケトン類、アリールアルキルケトン類、ベンゾイン類又はキノン類である請求項1に記載の形成方法。
【請求項3】
前記子ラジカル前駆体が、アルコール類、有機酸、炭化水素及びハロゲン化炭化水素からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の形成方法。
【請求項4】
前記励起光が、レーザー光又はランプ光であり、かつ、親ラジカル前駆体を励起し得る波長を有する請求項1に記載の形成方法。
【請求項5】
金属イオン又は金属錯体を構成する金属が、パラジウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の形成方法。
【請求項6】
媒体が、固体媒体又は液体媒体である請求項1に記載の形成方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の形成方法により媒体中に形成された金属ナノ粒子。
【請求項8】
媒体中に金属ナノ粒子が形成された材料を製造する方法であって、励起光により励起されて親ラジカルを生成し得る親ラジカル前駆体、該親ラジカル前駆体の励起状態と反応して子ラジカルを生成し得る子ラジカル前駆体、及び金属イオン又は金属錯体を含んだ媒体に、励起光を照射することを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の製造方法により製造される媒体中に金属ナノ粒子が形成された材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−70722(P2007−70722A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−121694(P2006−121694)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(899000046)関西ティー・エル・オー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】