説明

金属ナノ粒子ペーストおよびその製造方法

【課題】
スクリーン印刷による回路形成に適した金属ナノ粒子ペーストを得ることを目的とする。
【解決手段】
固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子溶液から得られた固体ゾルに、沸点が185〜250℃である有機溶媒を加えて得られる、金属ナノ粒子ペーストであって、
前記金属ナノ粒子ペーストの、回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が、2000〜200000mPa・sであることを特徴とする金属ナノ粒子ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属ナノ粒子ペーストおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子顔料分散剤を保護コロイドとして用いた液相還元法によって得られる金属コロイド溶液は、それ以外の方法で得られる金属コロイド溶液に比べ、インクジェット方式による回路形成に適していることが知られている。ところがスクリーン印刷による回路形成のためには上記溶液は粘度が低すぎ、構造粘性を持たないことから、その適用はきわめて困難である。また、一般的にスクリーン印刷には高沸点の有機溶剤が用いられるが、上記液相還元法では水または水系の溶剤を用いられることから、スクリーン印刷に適した材料を液相還元法で得ることは困難であった。
【0003】
一方、ガス中蒸発法により得られるナノ粒子を有機溶剤と共存させることにより、金属ナノ粒子ペーストを得る方法が知られている(例えば、特許文献1または特許文献2参照)。しかし、これらの方法で得られる金属ナノ粒子ペーストの粘度については規定がなく、むしろ低粘度のものを得ることを目的としたものであり、スクリーン印刷には適していない。
【特許文献1】特開平3−34211号公報
【特許文献2】特開2000−123634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、スクリーン印刷を用いて導電性パターンの形成するのに適した金属ナノ粒子ペーストを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子溶液から得られた固体ゾルに、沸点が185〜250℃である有機溶剤を加えて得られるものであって、上記金属ナノ粒子ペーストの、回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が、2000〜200000mPa・sであることを特徴としている。ここで、金属ナノ粒子ペーストの固形分濃度は50〜90質量%であってよく、上記固形分中の金属濃度は90質量%以上であってよい。
【0006】
本発明の金属ナノ粒子ペーストの製造方法は。固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子溶液から得られた固体ゾルに、沸点が185〜250℃である有機溶剤を加えて得られることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、その粘度が2000〜200000mPa・sであることから、スクリーン印刷に好適に用いることができ、また、固形分中の金属濃度が90質量%以上の金属ナノ粒子からなるため、上記スクリーン印刷を行うことにより、回路を容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、固形分中の金属濃度が90質量%以上の金属ナノ粒子溶液から得られた固体ゾルに、有機溶剤を加えて得られるものである。上記固形分中の金属濃度が90質量%以上の金属ナノ粒子溶液は、分散剤の存在下で溶液中の金属化合物を還元する、いわゆる液相還元法によって得られるものである。固形分中の金属濃度が90質量%未満では、スクリーン印刷を行って上記金属ナノ粒子ペーストからパターンが導電性を有しないおそれがある。好ましい固形分中の金属濃度は95質量%以上である。
【0009】
本明細書において、金属ナノ粒子溶液の金属濃度とは、金属ナノ粒子溶液の固形分中に占める金属の質量%を意味する。固形分量および金属量は、100〜150℃および数100℃でそれぞれ加熱して得られる残分を測定することにより求めることができる。具体的には、示差熱分析(TG−DTA)を用いて、140℃まで10℃/分で昇温した後、30分間、140℃を維持して、まず固形分量を求めた。その後、500℃まで再び10℃/分で昇温した後、30分間、500℃を維持して金属量を求めた。本明細書における金属濃度の測定は、特に断りのない限り、この方法を用いて行ったものである。
【0010】
上記固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子溶液は、分散剤の存在下で金属化合物を還元して金属ナノ粒子溶液を得る製造工程、および、上記製造工程で得られた金属ナノ粒子溶液を限外濾過処理する濃縮工程を含む以下の製造方法によって得ることができる。
【0011】
上記製造工程で用いられる上記金属化合物は、溶媒に溶解することにより金属イオンを生じ、上記金属イオンが還元されて金属ナノ粒子を供給するものである。上記金属ナノ粒子となる金属としては特に限定されないが、優れた導電性被膜や金属調被膜を得る点から、貴金属または銅が好ましい。上記貴金属としては特に限定されず、例えば、金、銀、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などを挙げることができる。なかでも、金、銀、白金、パラジウムが好ましく、導電性の点から特に銀が好ましい。
【0012】
上記金属化合物としては上述の金属を含むものであれば特に限定されず、例えば、テトラクロロ金(III)酸四水和物(塩化金酸)、硝酸銀、酢酸銀、過塩素酸銀(IV)、ヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物(塩化白金酸)、塩化白金酸カリウム、塩化銅(II)二水和物、酢酸銅(II)一水和物、硫酸銅(II)、塩化パラジウム(II)二水和物、三塩化ロジウム(III)三水和物などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記金属化合物は、溶媒中の金属モル濃度が0.01mol/l以上となるように用いられることが好ましい。0.01mol/l未満であると、得られる金属コロイド粒子溶液の金属モル濃度が低すぎて、効率的でない。好ましくは0.05mol/l以上、より好ましくは0.1mol/l以上である。
【0013】
上記溶媒としては上記金属化合物を溶解することができるものであれば特に限定されず、例えば、水、有機溶剤などを挙げることができる。上記有機溶剤などとしては特に限定されず、例えば、エタノール、エチレングリコールなどの炭素数1〜4のアルコール;アセトンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記溶媒が水と有機溶剤との混合溶液である場合には、上記有機溶剤としては、水可溶性のものが好ましく、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどが挙げられる。本発明においては、後の濃縮工程で行う限外濾過処理に適する点から、水、アルコール並びに水およびアルコールの混合溶液が好ましい。
【0014】
一方、上記分散剤は、還元によりナノ粒子が生成する場を供給するとともに、生成した金属ナノ粒子を安定に存在させる役割を担っているものと考えられる。上記分散剤は、これらの機能が発現するものであるなら、特に限定されるものではないが、次に行う限外濾過で除去しやすい点から、高分子顔料分散剤であることが好ましい。
【0015】
上記高分子顔料分散剤は、高分子量の重合体に顔料表面に対する親和性の高い官能基が導入されているとともに、溶媒和部分を含む構造を有する両親媒性の共重合体であり、通常は顔料ペーストの製造時に顔料分散剤として使用されているものである。
【0016】
上記高分子顔料分散剤は、上記金属ナノ粒子と共存しており、上記金属コロイド粒子が溶媒中で分散するのを安定化する働きをしていると考えられる。上記高分子顔料分散剤の数平均分子量は、1000〜100万であることが好ましい。1000未満であると、分散安定性が充分ではないことがあり、100万を超えると、粘度が高すぎて取り扱いが困難となる場合がある。より好ましくは、2000〜50万であり、さらに好ましくは、4000〜50万である。上記高分子顔料分散剤としては上述の性質を有するものであれば特に限定されず、例えば、特開平11−80647号公報に例示したものを挙げることができる。
【0017】
上記高分子顔料分散剤としては、種々のものが利用できるが、市販されているものを使用することもできる。上記市販品としては、例えば、ソルスパース20000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース41090(以上、アビシア社製)、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック166、ディスパービック170、ディスパービック180、ディスパービック181、ディスパービック182、ディスパービック−183、ディスパービック184、ディスパービック190、ディスパービック191、ディスパービック192、ディスパービック−2000、ディスパービック−2001(以上、ビックケミー社製)、ポリマー100、ポリマー120、ポリマー150、ポリマー400、ポリマー401、ポリマー402、ポリマー403、ポリマー450、ポリマー451、ポリマー452、ポリマー453、EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−49、EFKA−1501、EFKA−1502、EFKA−4540、EFKA−4550(以上、EFKAケミカル社製)、フローレンDOPA−158、フローレンDOPA−22、フローレンDOPA−17、フローレンG−700、フローレンTG−720W、フローレン−730W、フローレン−740W、フローレン−745W、(以上、共栄社化学社製)、アジスパーPA111、アジスパーPB711、アジスパーPB811、アジスパーPB821、アジスパーPW911(以上、味の素社製)、ジョンクリル678、ジョンクリル679、ジョンクリル62(以上、ジョンソンポリマー社製)などを挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記分散剤として高分子顔料分散剤を用いて、固形分中の金属濃度が90質量%以上の金属ナノ粒子溶液を得ようとする場合、上記高分子顔料分散剤の使用量は、上記金属化合物中の金属と高分子顔料分散剤との合計量に対して10質量%以下であることが好ましい。10質量%を超えると、後の濃縮工程で限外濾過処理を行うことにより、溶液における固形分中の金属濃度を所望の濃度に高めることができないおそれがある。より好ましくは、8質量%以下であり、さらに好ましくは、7質量%以下である。
【0019】
上記金属化合物の還元は、一般的によく知られている還元剤の他に、アミン化合物を使用することができる。アミン化合物を使用する場合、例えば、上記金属化合物および高分子顔料分散剤の溶液にアミン化合物を添加して攪拌、混合することによって、金属イオンが常温付近で金属に還元される。上記アミン化合物を使用することにより、危険性や有害性の高い還元剤を使用する必要がなく、加熱や特別な光照射装置を使用することなしに、5〜100℃程度、好ましくは20〜80℃程度の反応温度で、金属化合物を還元することができるため好ましい。
【0020】
上記アミン化合物としては特に限定されず、例えば、特開平11−80647号公報に例示されているものを使用することができ、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、N,N,N′,N′−テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミンなどの脂肪族アミン;ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピペラジン、N,N′−ジメチルピペラジン、ピロリジン、N−メチルピロリジン、モルホリンなどの脂環式アミン;アニリン、N−メチルアニリン、N,N−ジメチルアニリン、トルイジン、アニシジン、フェネチジンなどの芳香族アミン;ベンジルアミン、N−メチルベンジルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、フェネチルアミン、キシリレンジアミン、N,N,N′,N′−テトラメチルキシリレンジアミンなどのアラルキルアミンなどを挙げることができる。また、上記アミンとして、例えば、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、プロパノールアミン、2−(3−アミノプロピルアミノ)エタノール、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン、ジメチルアミノプロパノールなどのアルカノールアミンも挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、アルカノールアミンが好ましく、ジメチルアミノエタノールがより好ましい。
【0021】
なお、従来から還元剤として使用されているものとして、水素化ホウ素ナトリウムなどのアルカリ金属水素化ホウ素塩;ヒドラジン化合物;クエン酸;酒石酸;アスコルビン酸;ギ酸;ホルムアルデヒド;亜ニチオン酸塩、スルホキシル酸塩誘導体などを使用することができる。入手容易なことから、クエン酸;酒石酸;アスコルビン酸が好ましい。これらは、単独または上記アミン化合物と組み合わせて使用することが可能であるが、アミン化合物とクエン酸、酒石酸、アスコルビン酸を組み合わせる場合、クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸はそれぞれ塩の形のものを用いることが好ましい。また、クエン酸やスルホキシル酸塩誘導体は、鉄(II)イオンと併用することによって、還元性の向上を図ることができる。
【0022】
上記還元剤またはアミン化合物の添加量は、上記金属化合物中の金属を還元するのに必要な量以上であることが好ましい。この量未満であると、還元が不充分となるおそれがある。また、上限は特に規定されないが、上記金属化合物中の金属を還元するのに必要な量の30倍以下であることが好ましく、10倍以下であることがより好ましい。
【0023】
また、上記還元には、これらの還元剤または還元性化合物の添加により化学的に還元する方法以外に、高圧水銀灯を用いて光照射する方法も使用することも可能である。
【0024】
上記アミン化合物を用いる場合、これを添加する方法としては特に限定されず、例えば、上記高分子顔料分散剤の添加後に行うことができ、この場合は、例えば、まず溶媒に上記高分子顔料分散剤を溶解させ、さらに、上記アミン化合物または金属化合物の何れかを溶解させて得られる溶液に、アミン化合物または金属化合物の残った方を加えることで、還元を進行させることができる。上記アミン化合物を添加する方法としては、また、先に高分子顔料分散剤と上記アミン化合物とを混合しておき、この混合物を金属化合物の溶液に加える形態をとってもよい。
【0025】
上記還元により、平均粒子径が約5nm〜100nmである金属ナノ粒子や分散剤などを含む溶液が得られる。上記金属ナノ粒子溶液とは、金属の微粒子が溶媒中に分散しており、溶液として視認できるような状態にあるものを意味している。なお、上記製造工程で得られる金属ナノ粒子溶液の金属濃度は、TG−DTAなどで測定して決定することができるが、測定を行わない場合には、仕込みに用いた配合量から計算される値を用いても構わない。
【0026】
次に、上記還元後の溶液に対して限外濾過処理を行う濃縮工程を行う。上記還元後の金属ナノ粒子溶液は、上記金属ナノ粒子および上記分散剤のほかに、原料に由来する塩化物イオンなどの雑イオン、還元で生じた塩や、場合によりアミン化合物を含むものであり、これらの雑イオン、塩やアミン化合物は、金属ナノ粒子溶液の安定性に悪影響を及ぼすおそれがあるので、除去しておくことが望ましい。これらの成分の除去には、電気透析、遠心分離、限外濾過の方法が用いられるが、本発明においては、これらの成分の除去と同時に金属濃度を高められることから、限外濾過の方法が用いられる。限外濾過することによって、金属コロイド粒子溶液中の雑イオン、塩やアミンを除去するだけでなく、さらに分散剤の一部を除去することにより、固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子を得ることができる。
【0027】
上記限外濾過処理を行う金属ナノ粒子溶液は、その金属ナノ粒子と分散剤とからなる固形分が、質量基準で0.05〜50%であることが好ましい。0.05%未満であると、金属モル濃度が低すぎて非効率的であり、50%を超えると分散剤の一部を除去するのが困難な場合がある。上記固形分中の金属濃度は90質量%以上であり、92質量%以上であることが好ましい。90質量%未満であると、最終的に導電性を有するパターンを得ることができないおそれがある。
【0028】
上記限外濾過(Ultrafiltration:UF)は、精密濾過(Microfiltration:MF)に用いられる濾過膜よりもさらにふるいの目が小さいものである。限外濾過は、通常、高分子量物質やコロイド物質の分離を目的として用いられるものであるが、本発明においては、金属ナノ粒子溶液の固形分中の金属濃度を高めるために用いられる。
【0029】
上記限外濾過において、通常、分離対象となる物質の大きさは1nm〜5μmである。このような大きさを有するものを対象とすることにより、上記不要な雑イオン、塩やアミン化合物とともに、上記分散剤を除去し、濃縮工程で得られる金属コロイド溶液の固形分中の金属濃度を高めることができる。1nm未満であると、不要な成分が濾過膜を通過せず排除できないことがあり、5μmを超えると、上記金属ナノ粒子の多くが濾過膜を通過し、高濃度の金属ナノ粒子溶液が得られない場合がある。
【0030】
上記限外濾過の濾過膜としては特に限定されないが、通常、例えば、ポリアクリロニトリル、塩化ビニル/アクリロニトリル共重合体、ポリサルフォン、ポリイミド、ポリアミドなどの樹脂製のものが用いられる。これらのうち、ポリアクリロニトリル、ポリサルフォンが好ましく、ポリアクリロニトリルがより好ましい。上記限外濾過の濾過膜は、また、上記限外濾過終了後に通常行われる濾過膜の洗浄を効率よく行う点から、逆洗浄が可能な濾過膜を用いることが好ましい。
【0031】
上記限外濾過の濾過膜としては、分画分子量が3000〜80000のものが好ましい。3000未満であると、不要な分散剤などが充分に除去されにくく、80000を超えると、上記金属ナノ粒子が濾過膜を通過しやすくなるため、目的とする金属ナノ粒子溶液が得られない場合がある。より好ましくは、10000〜60000である。上記分画分子量は、一般的に、高分子溶液を限外濾過膜に通す場合に限外濾過膜の孔内を通過して外に排除される高分子の分子量を指し、濾過膜の孔径を評価するために用いられる。上記分画分子量が大きな値を示す程、濾過膜の孔径は大きい。
【0032】
上記限外濾過の濾過モジュールの形態としては特に限定されず、例えば、濾過膜の形態によって中空紙型モジュール(キャピラリーモジュールとも呼ばれる)、スパイラルモジュール、チューブラーモジュール、プレート型モジュールなどが挙げられ、何れも本発明に好適に用いられる。これらのうち、膜面積が大きいほど濾過に要する時間を短縮することができるので、濾過面積の割にコンパクトな形態を有する中空紙型モジュールが、効率の点から好ましい。また、処理を行う金属ナノ粒子溶液の量が多い場合には、使用する限界濾過膜本数が多いものを使うことが好ましい。
【0033】
上記限外濾過の方法としては特に限定されず、例えば、従来公知の方法などが用いられ、通常、製造工程で得られた金属ナノ粒子溶液を限外濾過膜に通すことにより行われ、これにより、上述の雑イオン、塩、アミンや高分子顔料分散剤を含む濾液が排除される。上記限外濾過は、通常、濾液の上記雑イオンが所望の濃度以下に除去されるまで繰り返し行う。その際、処理する金属ナノ粒子溶液の濃度を一定にするために排除された濾液の量と同じ量の溶剤を加えることが好ましい。このときに加える溶剤として、還元時に用いていたものと異なる種類のものを用いることで、金属ナノ粒子溶液の溶剤を置換することが可能である。例えば、処理する金属ナノ粒子溶液の溶剤が水の場合、エタノールなどの高揮発性の有機溶剤に置換することにより、固体ゾル化を簡単に行うことができる。
【0034】
上記限外濾過は、通常の操作、例えば、いわゆるバッチ方式で行うことができる。このバッチ方式は、限外濾過が進んだ分、処理対象である金属ナノ粒子溶液を加えていく方法である。なお、上記限外濾過は、上記雑イオンが所望の濃度以下に除去された後で、固形分濃度を高めるためにさらに行うことが可能である。
【0035】
上記限外濾過処理する濃縮工程により得られる金属ナノ粒子溶液は、上記製造工程で得られた金属ナノ粒子溶液の金属濃度の値により具体的な値は異なるが、濃縮工程前に比べて、金属濃度が増加している。例えば、処理前後での金属濃度の差が0.5〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0036】
本発明の金属ナノ粒子ペーストを得るための固体ゾルは、このようにして得られた固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子溶液から溶媒を除去して得ることができる。
【0037】
上記溶媒の除去は、凍結乾燥、自然乾燥、常圧または減圧下での加熱乾燥などによって行うことができるが、金属ナノ粒子ペースト製造の観点から、凍結乾燥以外の方法によるものが好ましい。そのため、先の限外濾過の際に、溶媒をエタノールなどの高揮発性のものに置換しておくことが好ましい。上記溶媒の除去は、105℃で3時間加熱して揮発する成分が1%以下になるまで継続されることが好ましい。
【0038】
このようにして得られた固体ゾルに、沸点が185〜250℃である有機溶媒を加えることにより、本発明の金属ナノ粒子ペーストを得ることができる。沸点が200〜250℃であるものが好ましい。
【0039】
上記沸点が185〜250℃である有機溶媒として、例えば、テルピネオール(異性体混合タイプ、沸点:217〜219℃)、ジヒドロテルピネオール(沸点:約200℃)、酢酸n−ブチルカルビトール(沸点:246.8℃)、ブチルカルビトール(沸点:230.6℃)、ジプロピレングリコールメチルエーテル(沸点:189〜190℃)、酢酸カルビトール(沸点:217.4℃)、メチルカルビトール(沸点:194℃)、エチルカルビトール(沸点:202℃)、酢酸ベンジル(沸点:214.9℃)、酢酸イソボルネオール(沸点:227℃)、安息香酸メチル(沸点:199℃)、安息香酸エチル(沸点:213〜215℃)などを挙げることができる。上記固体ゾルに加える上記沸点が185〜250℃である有機溶媒の量は、金属ナノ粒子ペーストの粘度が後述する範囲になるような量であることが一般的である。
【0040】
このような調製を行うことで、スクリーン印刷による回路形成に適した金属ナノ粒子ペーストが得ることができるが、さらに増粘剤を加えて粘度調整を行うこともできる。上記増粘剤としては、高粘度な樹脂であるセルロースやセルロース誘導体、液状ポリブタジエンなど当業者によく知られたものが挙げられる。
【0041】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が、2000〜200000mPa・sである。200000mPa・sを超えるとスクリーン印刷において、スクリーンのメッシュをペーストが通過するときにスクリーン板に負荷がかかり生産性が低下するおそれがあり、2000mPa・s未満だと印刷後に流動してにじみの発生や線幅の増大につながるおそれがある。また、本発明の金属ナノ粒子ペーストの固形分濃度は、50〜90質量%であることが好ましい。90質量%を超えると、ペーストの流動性低下により、印刷性が低下するおそれがあり、50質量%未満だと、焼成後の膜厚減少の度合いが高く、目的とする導電性が得られないおそれがある。また、上記金属ナノ粒子ペースト固形分中の金属濃度は90質量%以上であることが好ましい。
【0042】
本発明の金属ナノ粒子ペーストの製造方法は。固形分中の金属濃度が90質量%以上の金属ナノ粒子溶液から得られた固体ゾルに、沸点が185〜250℃である有機溶剤を加えて得られることを特徴とするものである。これらの詳細については、先の金属ナノ粒子ペーストについての説明がそのまま適用される。
【実施例1】
【0043】
銀ナノ粒子溶液の製造
2Lのセパラブルフラスコにディスパービック190(ビックケミー社製)12g、および、イオン交換水420.5gを入れた。このコルベンをウォーターバスに入れ、ディスパービック190が溶解するまで50℃で攪拌した。ここに、イオン交換水420.5gに溶解させた硝酸銀100gを攪拌しながら加えて、70℃で10分間攪拌した。次に、ジメチルアミノエタノール262gを加えたところ、液が一瞬で黒変し、液温が76℃まで上昇した。そのまま放置して液温が70℃まで下がったところで、この温度を保ちながら2時間攪拌を続けることにより、黒っぽい黄色を呈する銀コロイドの水溶液が得られた。
【0044】
得られた反応液を1Lのポリ瓶に移し換え、60℃の恒温室で18時間静置した。次に、限外濾過モジュールAHP1010(旭化成社製;分画分子量50000、使用膜本数400本)、マグネットポンプ、下部にチューブ接続口のある3Lのステンレスカップをシリコンチューブでつないで、限外濾過装置とした。先の60℃の恒温室で18時間静置した反応液をステンレスカップに入れて、さらに2Lのイオン交換水を加えてから、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。約40分後にモジュールからの濾液が2Lになった時点で、ステンレスカップに2Lのエタノールを加えた。この作業を濾液の伝導度が60μS/cm以下になるまで行い、その後、母液の量が500mlになるまで濃縮を行った。
【0045】
続いて母液を入れた500mlステンレスカップ、限外濾過モジュールAHP0013(旭化成社製;分画分子量50000、使用膜本数100本)、チューブポンプ、および、アスピレーターをからなる限外濾過装置を組んだ。このステンレスカップに先に得られた母液を入れ、固形分濃度を高めるための濃縮を行った。母液が約100mlになった時点でポンプを停止して、濃縮を終了することにより、固形分30質量%の銀ナノ粒子のエタノール溶液が得られた。この溶液中のナノ粒子の平均粒子径は、27nmであった。また、TG−DTA(セイコーインストゥルメント製)を用いて、固形分中の銀の含有率を計測したところ、仕込みの93質量%に対して、96質量%であった。
【0046】
銀ナノ粒子固体ゾルの製造
上で得られた銀ナノ粒子溶液50gを300mm×200mmのトレイに採り、50℃の温度に設定されたオーブンに入れた。50℃で20分間、加熱乾燥することにより、溶媒であるエタノールを除去し、銀色の金属光沢を有する銀ナノ粒子固体ゾル15.8gを得た。
【0047】
この銀ナノ粒子固体ゾルを105℃で3時間加熱し、加熱後の質量減少率を測定したところ、揮発分は1質量%以下であることがわかった。また、銀ナノ粒子固体ゾルのTG−DTA測定を行ったところ、銀ナノ粒子固体ゾル中に含まれる銀の含有率は95質量%であった。
【0048】
銀ナノ粒子ペーストの製造
このようにして得た銀ナノ粒子固体ゾル80gにテルピネオール(異性体混合タイプ)20gを加えて撹拌した。その結果、テルピネオール中に銀ナノ粒子固体ゾルが均一に混ざり、乾燥前のエタノール溶液と同じ、緑灰色を呈した銀ナノ粒子ペーストが得られた。この銀ナノ粒子ペーストについて、回転粘度計(3°R14コーン)を用いて、25℃で測定した粘度は回転速度5rpmにて16000mPa・sであった。また、TG−DTAにて計測したところ、銀ナノ粒子ペースト中の銀含有率は76質量%であった。
上記銀ナノ粒子ペーストは、室温で1ヶ月放置することにより、沈殿の生成が認められたが、攪拌することにより、初期の状態に容易に戻すことができた。
【0049】
また、テルピネオールの代わりにジヒドロテルピネオール、酢酸n−ブチルカルビトール、ブチルカルビトール、酢酸ベンジル、安息香酸メチルを用いて、それぞれ銀ナノ粒子ペーストを得た。これらの銀ナノ粒子ペーストは、いずれもテルピネオールと同様の安定性を有していた。銀ナノ粒子固体ゾルに加えた溶媒の種類および量、ならびに得られた銀ナノ粒子ペーストの粘度について表1にまとめた。
【0050】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の金属ナノ粒子ペーストは、回路および電極の形成、導通接続などの導電性パターンをスクリーン印刷で形成する材料として利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子溶液から得られた固体ゾルに、沸点が185〜250℃である有機溶媒を加えて得られる、金属ナノ粒子ペーストであって、
前記金属ナノ粒子ペーストの、回転粘度計を用いて25℃で測定した粘度が、2000〜200000mPa・sであることを特徴とする金属ナノ粒子ペースト。
【請求項2】
固形分濃度が50〜90質量%である請求項1記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項3】
前記固形分中の金属濃度が90質量%以上である請求項1または2記載の金属ナノ粒子ペースト。
【請求項4】
固形分中の金属濃度が93質量%以上の金属ナノ粒子溶液から得られた固体ゾルに、沸点が185〜250℃である有機溶媒を加えて得られる、金属ナノ粒子ペーストの製造方法。

【公開番号】特開2006−252976(P2006−252976A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68456(P2005−68456)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】