説明

金属不純物の除去方法

【課題】フッ素樹脂製の実験器具などに付着している金属不純物を短時間で効率良く除去することができる金属不純物の除去方法を提供する。
【解決手段】フッ素樹脂製被洗浄物を浸漬した酸溶液を加温状態で超音波洗浄する。さらに、フッ素樹脂製被洗浄物を第一の酸溶液に浸漬して加温状態で超音波洗浄する第1洗浄工程と、該第1洗浄工程を終えた前記フッ素樹脂製被洗浄物を第二の酸溶液に浸漬して加温状態で超音波洗浄する第2洗浄工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属不純物の除去方法に関し、詳しくは、フッ素樹脂に付着した金属不純物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中の極微量金属成分を定量する場合は、既知濃度の金属成分を含む金属標準溶液を複数個作製し、これらの溶液を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分析計(ICP−OES)等の元素分析計で測定することにより検量線を作成し、未知試料の濃度を算出している。ICP−MSは、溶液中に含まれる金属成分をppm〜pptレベルまで検出できる性能を有するが、ppbレベルより低濃度の測定を行う場合には、正確な定量を行うために検量線作成試料や未知試料の汚染を防止することが重要である。汚染原因は、前処理環境、溶液、実験器具等様々である。
【0003】
極微量金属成分を定量する際に使用する実験器具は、白金製や石英ガラス製と比較して、一般的に金属不純物の溶出が少ないフッ素樹脂製の実験器具を用いる場合が多い。フッ素樹脂製の実験器具も、初期には微量の金属不純物が溶出してくる可能性があるので、そこからの汚染を防止するために、従来は、超純水や酸溶液で実験器具をすすぎ洗いによる洗浄を行ったり、それらの溶液に一定期間浸漬させて金属不純物を除去するようにしている。
【0004】
一方、石英ガラスの洗浄方法として、フッ酸や硝酸、フッ硝酸、塩酸等を用いて酸洗浄した後に、30〜70 ℃ の純水中で超音波洗浄を行うことにより、石英ガラス製被洗浄物の表面から、酸洗浄で残留した金属不純物を除去することが行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−188419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のフッ素樹脂製被洗浄物の洗浄方法では、酸洗浄工程や超純水洗浄工程等で多くの溶液を消費したり、酸溶液や超純水に被洗浄物を長時間浸漬させたりする必要があり、金属不純物を除去するのに長時間を要するという問題があった。また、すすぎ洗浄や酸溶液に浸漬させるだけでは金属不純物を十分に除去できない場合があり、金属不純物を十分に除去するために超音波洗浄を組み入れて被洗浄物の洗浄を行ってきた。
【0007】
しかし、単に超音波洗浄を組み入れただけでは、サブppbレベルの金属不純物を完全には除去できない場合があり、浸漬時間を延長したり、超音波洗浄を繰り返したりすることで、被洗浄物表面から金属不純物量を徐々に減らすようにしてきたが、この作業に多大な時間、例えば1週間以上を要したり、多大な労力を要したりしていた。
【0008】
また、石英ガラス製被洗浄物の表面に付着した金属不純物はフッ酸等を使用した酸洗浄によって十分に除去することができ、酸洗浄後の加温超純水超音波洗浄によって残留物も十分に除去することはできるが、フッ素樹脂製被洗浄物に付着したCa、Fe、Znなどの極微量の金属不純物は、酸洗浄と加温超純水超音波洗浄との組み合わせでは十分に除去することができなかった。
【0009】
そこで本発明は、溶液中の極微量金属成分の測定を行う際に使用するフッ素樹脂製の実験器具に付着している金属不純物を短時間で効率良く除去することができる金属不純物の除去方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の金属不純物の除去方法は、フッ素樹脂製被洗浄物の表面に付着した金属不純物を除去する方法であって、前記フッ素樹脂製被洗浄物を浸漬した酸溶液を加温状態で超音波洗浄することを特徴としている。
【0011】
また、本発明の金属不純物の除去方法は、フッ素樹脂製被洗浄物の表面に付着した金属不純物を除去する方法であって、前記フッ素樹脂製被洗浄物を第一の酸溶液に浸漬して加温状態で超音波洗浄する第1洗浄工程と、該第1洗浄工程を終えた前記フッ素樹脂製被洗浄物を第二の酸溶液に浸漬して加温状態で超音波洗浄する第2洗浄工程とを含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属不純物の除去方法によれば、従来は1週間以上を要していたフッ素樹脂製被洗浄物の洗浄を半日程度で行うことができ、フッ素樹脂製被洗浄物に付着したNa、Mg、Al、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Zn等の金属不純物をサブppb以下に除去することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の金属不純物の除去方法は、例えば、ICP−MSやICP−OES等の元素分析計で検量線を作成するための金属標準溶液や極微量金属成分を定量する試料が接触する容器等のフッ素樹脂製実験器具器具の表面に付着した金属不純物を除去する方法であって、フッ素樹脂製実験器具器具(フッ素樹脂製被洗浄物)を酸溶液に浸漬するとともに、前記酸溶液をあらかじめ設定された温度に加温した状態で超音波洗浄する洗浄工程を少なくとも1回行うものである。
【0014】
前記洗浄工程で使用する酸溶液は、フッ素樹脂製被洗浄物に悪影響を与えなければ任意の酸を任意の濃度で使用することが可能であるが、通常は、塩酸、硝酸等の従来からフッ素樹脂製被洗浄物の洗浄に用いていた酸を用い、従来の酸洗浄で使用していた酸濃度、例えば1〜10%の濃度とすることができる。
【0015】
洗浄工程での酸溶液の温度は、40〜70℃の範囲が好ましく、40℃未満の場合は、超音波が吸収減衰されるので洗浄効果が十分に得られにくく、逆に70℃を超えると、大粒の気泡が発生して超音波の伝達の障害になり、洗浄効果が薄れるとともに、加温に要するエネルギーも無駄となる。
【0016】
また、前記洗浄工程を複数回繰り返すことによって洗浄効果を更に向上させることができる。洗浄工程を複数回繰り返す場合、同一組成の酸溶液を使用して同一温度で各洗浄工程を実施することもできるが、通常は、各洗浄工程における酸溶液の酸の種類や酸の濃度等の条件を、除去する金属不純物の種類や量に応じて異なる条件とすることができる。例えば、酸溶液として、1回目の洗浄工程では5%塩酸溶液を、2回目の洗浄工程では5%硝酸溶液を使用するなど、適宜な組み合わせを選択することができる。
【0017】
洗浄工程の時間は、酸溶液の種類や量、フッ素樹脂製被洗浄物の形状や大きさなどに応じて任意に設定することが可能であるが、30分〜3時間の範囲、通常は、1時間程度で十分な洗浄効果を期待することができる。
【0018】
また、洗浄工程の前後には、従来と同様の超純水を使用したすすぎ洗浄を行えばよく、さらに、前記特許文献1に記載されているような超音波洗浄を併用することも可能である。
【実施例1】
【0019】
フッ素樹脂製被洗浄物として、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製の200mL蓋付き容器を用い、実験には2個ずつを使用した。酸溶液としては、高純度塩酸を超純水で希釈した5%塩酸溶液と同じく高純度硝酸を超純水で希釈した5%硝酸溶液とを用意した。また、対象金属は、Na、Mg、Al、Ca、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、Znの10種の金属とし、各洗浄工程を終えた前記容器内に高純度塩酸を超純水で希釈した2%塩酸溶液を100mlそれぞれ注入し、クリーンドラフト内に密封して1日静置させた後、2%塩酸溶液中に溶出した各金属元素の量を誘導結合プラズマ質量分析計により測定した。なお、超音波洗浄は、酸溶液を充填した密閉容器内に前記容器を浸漬して密閉し、この密閉容器を超音波洗浄器の水中に投入した状態で行った。
【0020】
実験1は超純水を60℃に加温して超音波洗浄した容器、実験2は5%硝酸溶液中に2週間浸漬させた容器、実験3は常温の超純水を用いて超音波洗浄を1時間行った容器、実験4は常温の超純水を用いて超音波洗浄を1時間ずつ2回繰り返した容器、実験5は常温の5%塩酸溶液を用いて超音波洗浄を1時間行った容器、実験6は5%塩酸溶液を60℃に加温した状態で超音波洗浄を1時間行った容器、実験7は5%塩酸溶液を60℃に加温した状態で超音波洗浄を1時間行った後(第1洗浄工程)、超純水ですすぎ洗浄を行ってから5%硝酸溶液を60℃に加温した状態で超音波洗浄を1時間行った容器である。結果を表1に示す。
【表1】

【0021】
表1の結果から、5%塩酸溶液を60℃に加温した状態で超音波洗浄を1時間行った実験6の容器は、実験1〜5の各容器に比べて各金属元素を効率よく除去できていることがわかる。さらに、実験7では、実験6で僅かに検出されたAl、Fe、Znについても検出限界以下にまで除去できたことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂製被洗浄物の表面に付着した金属不純物を除去する方法であって、前記フッ素樹脂製被洗浄物を浸漬した酸溶液を加温状態で超音波洗浄することを特徴とする金属不純物の除去方法。
【請求項2】
フッ素樹脂製被洗浄物の表面に付着した金属不純物を除去する方法であって、前記フッ素樹脂製被洗浄物を第一の酸溶液に浸漬して加温状態で超音波洗浄する第1洗浄工程と、該第1洗浄工程を終えた前記フッ素樹脂製被洗浄物を第二の酸溶液に浸漬して加温状態で超音波洗浄する第2洗浄工程とを含むことを特徴とする金属不純物の除去方法。

【公開番号】特開2011−194380(P2011−194380A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67155(P2010−67155)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】