説明

金属処理方法、及び金属処理装置

【課題】より安全に、又はより簡易に金属を濃縮することが可能な金属処理方法の提供。
【解決手段】含有率aのインジウムと含有率bの錫の2種類の金属を含有する金属含有物の金属を処理する金属処理方法であって、金属含有物を加熱することにより溶融させ、溶融された金属含有物を冷却させ、その冷却する温度を、液相温度と固相温度との間の温度に制御する温度制御工程と、制御された温度により金属含有物の固体物と液体物を生成させ、金属含有物を前記固体物と前記液体物に遠心分離する遠心分離工程と、遠心分離された液体物を排出することにより、インジウムの含有率a及び錫の含有率bの両方の含有率が変更となる固体物を得る工程を備えた、金属処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属処理方法、及び金属処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム錫(ITO)の薄膜は、透明電極として薄型ディスプレイや太陽電池パネルで利用されており、ITO焼結体をターゲット材としてスパッタ法によって形成されている。このITOターゲット材の使用率は10%程度と低く、約45%がスパッタ装置の内壁に付着したスクラップとして回収され、残りの約45%が使用不可能になったターゲット材のスクラップとして回収されている。
【0003】
従来の金属の処理方法としては、塩酸で溶解するものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に示す金属の処理方法は、インジウムを含有するスクラップを塩酸で溶解して塩化インジウム溶液とし、これに水酸化ナトリウム水溶液を添加して加水分解により液中の錫を水酸化錫として除去した後、亜鉛によりインジウムを置換して濃縮するものである。上記塩酸溶解法は、インジウムと共に錫が溶解するため、溶解工程の後に液中のインジウムと錫を分離する工程が設けられている。
【0004】
また、硝酸で溶解してインジウムを濃縮し、金属を処理する方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この特許文献2に示す金属の処理方法は、インジウムを含有するスクラップを硝酸で溶解して硝酸インジウム溶液とし、溶媒抽出した後に無機酸により逆抽出してインジウム溶液を得て、アルカリと反応させ得られた水酸化インジウムを焙焼して酸化インジウムとするものである。上記溶解方法は、硝酸濃度の変化によりインジウムと錫の溶解量が変動するため、インジウムを高い収率で回収することが難しく、硝酸濃度が適正でない場合にはインジウムと錫の両方が溶解するため、特許文献1に記載されているような分離工程が設けられる。
【0005】
さらに、硝酸で溶解して高い収率でインジウムを濃縮することによって処理する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。インジウムを含有するスクラップを、溶解液のpHが0.7〜1.5になる硝酸濃度に制御してインジウム含有物を硝酸浸出して濃縮するものである。この方法は、液分に含まれるインジウムと固形分に含まれる錫とを固液分離によって容易に分離できるため溶媒抽出のような分離工程を必要としない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−69544号公報
【特許文献2】特開平8−91838号公報
【特許文献3】特開2008−297607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来のように金属を処理する方法では、金属の濃縮に酸あるいはアルカリの溶液を使うため、作業者に対する安全対策を講じる必要があるばかりでなく、濃縮処理を行う金属処理装置の腐食防止構造や廃液処理装置等により金属処理装置が複雑になるという課題を有している。
【0008】
本発明は、上記従来の金属処理方法の課題を考慮し、より安全に、又はより簡易に金属を濃縮することが可能な金属処理方法、金属処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の本発明は、
含有率aの第1金属と含有率bの第2金属の2種類の金属を含有する金属含有物の金属を処理する金属処理方法であって、
前記金属含有物を加熱することにより溶融させ、溶融された前記金属含有物を冷却させ、その冷却する温度を、液相温度と固相温度との間の温度に制御する温度制御工程と、
制御された温度により前記金属含有物の固体物と液体物を生成させ、前記金属含有物を前記固体物と前記液体物に遠心分離する遠心分離工程と、
遠心分離された前記液体物を排出することにより、前記第1金属の含有率a及び前記第2金属の含有率bの両方の含有率が変更となる前記固体物を得る工程を備えた、
金属処理方法である。
【0010】
第2の本発明は、
前記第1金属は、インジウムであり、
前記第2金属は、錫である、第1の本発明の金属処理方法である。
【0011】
第3の本発明は、
前記第1金属は、銀であり、
前記第2金属は、銅である、第1の本発明の金属処理方法である。
【0012】
第4の本発明は、
含有率aの第1金属と含有率bの第2金属の2種類の金属を含有する金属含有物の金属を処理する金属処理装置であって、
前記金属含有物を加熱することにより溶融させ、溶融された前記金属含有物を冷却させ、その冷却する温度を、液相温度と固相温度との間の温度に制御する温度制御部と、
前記温度制御部で制御された温度により前記金属含有物の固体物と液体物を生成させ、前記金属含有物を前記固体物と前記液体物に遠心分離する遠心分離部と、
遠心分離された前記液体物を前記遠心分離部から排出する排出部と、
前記排出部から前記液体物を排出することにより前記第1金属の含有率a及び前記第2金属の含有率bの両方の含有率が変更となる前記固体物を収容する槽と
を備えた、
金属処理装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より安全に、又はより簡易に金属を濃縮することが可能な金属処理方法、及び金属処理装置を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる実施の形態1における金属濃縮方法のフローを示す図
【図2】(a)本発明にかかる実施の形態1における金属濃縮方法のインジウム含有率のグラフを示す図、(b)本発明にかかる実施の形態1における金属濃縮方法のインジウム含有量のグラフを示す図
【図3】(a)本発明の実施の形態2における金属濃縮方法の錫含有率のグラフを示す図、(b)本発明にかかる実施の形態2における金属濃縮方法の錫回収量のグラフを示す図
【図4】(a)本発明にかかる実施の形態3における金属濃縮方法の銀含有率のグラフを示す図、(b)本発明にかかる実施の形態3における金属濃縮方法の銀回収量のグラフを示す図
【図5】(a)本発明の実施の形態4における金属濃縮装置の正面構成図、(b)図5(a)のAA´間の断面構成図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の金属処理方法の一例である金属濃縮方法について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
(実施の形態1)
本発明にかかる実施の形態1における金属濃縮方法について以下に説明する。
【0017】
本発明にかかる実施の形態1の金属濃縮方法の概要を述べると、2種類の金属元素を含有する金属含有物の一定含有率の一方の金属を濃縮する方法であって、インジウムを50質量%以上含むインジウム−錫含有物を固相温度以上かつ液相温度以下の温度に制御して、遠心分離によりインジウム−錫含有物のインジウムを濃縮する方法である。
【0018】
図1は、本実施の形態1の金属濃縮方法の工程フローを示す図である。尚、ステップをSと省略して示す。
【0019】
はじめに、S1において、インジウム−錫含有物(インジウム含有率A質量%、錫含有率B質量%、A+B=100)Xgが、融点以上に加熱されて溶融される。その後、S2において、インジウム−錫含有物を、その固相温度以上かつ液相温度以下の温度まで徐冷することによって、インジウム−錫含有の固体物が析出する。これらS1及びS2が、本発明の温度制御工程の一例に対応する。
【0020】
その後、S3において、遠心分離により固体物と液体物とを分離し、S4において、液体物を排出することにより、S5において固体物が得られる。このS3が、本発明の第2工程の一例に対応する。このS4及びS5が、本発明の固体物を得る工程の一例に対応する。
【0021】
この得られたインジウム−錫含有物の固体物をエネルギー分散型X線分析装置(EDX Energy Dispersive X-ray microanalyzer)で測定すると、固体物のインジウム含有率はC質量%(A<C)であった。このことから、上記工程を経ることにより、インジウム−錫含有物のインジウム含有率をA質量%からC質量%(A<C)まで高めて濃縮することができることが分かる。
【0022】
尚、排出された液体物もS6において、回収される。
【0023】
つぎに、インジウム−錫含有物を濃縮する方法を具体例で示す。
【0024】
まず、インジウム−錫含有物(インジウム含有率92質量%、錫含有率8質量%)150gを加熱槽に入れて、酸素濃度300ppmの窒素雰囲気中でインジウム−錫含有物の融点以上である290℃に加熱することによって、インジウム−錫含有物は、溶融される(図1、S1参照)。その後、溶融されたインジウム−錫含有物は、290℃から1℃/sの速度で250℃まで徐冷して保持される。
【0025】
つぎに、インジウム−錫含有物150gの内の任意の量100gが、遠心分離装置の保温槽に投入され、インジウム−錫含有物の液相温度である150℃以下であり、固相温度である142℃以上の温度146℃まで1℃/sの速度で徐冷して保持される(図1、S2参照)。これらS1及びS2が、本発明の温度制御工程の一例に対応する。尚、インジウム−錫含有物の液相温度と固相温度は示差走査熱量測定装置を用いて測定することができる。
【0026】
その後、温度を保持した状態で、遠心分離装置を4500rpmで固体物が分離されるまで10分間回転させる(図1、S3参照)。このS3が、本発明の遠心分離工程の一例に対応する。この操作によりインジウム−錫含有の固体物が保温槽の壁面に集まる。
【0027】
そして、保温槽底面の排出弁を開いて液体物を排出し(図1、S4参照)、液体物が回収される(図1、S6)と、12.2gのインジウム−錫含有の液体物が得られる。液体物を排出した後、保温槽内部に残った固体物を取り出す(図1、S5参照)と81.9gのインジウム−錫含有の固体物が得られる。尚、S4及びS5が、本発明の固体物を得る工程の一例に対応する。又、本発明の第1金属の一例は、本実施の形態のインジウムに対応し、本発明の第2金属の一例は、本実施の形態の錫に対応する。又、本発明の含有率aの一例は、本実施の形態の92質量%に対応し、本発明の含有率bの一例は、本実施の形態の8質量%に対応する。
【0028】
得られた固体物のインジウム含有率をEDXで測定すると、固体物のインジウム含有率は94質量%であった。工程の始めに準備したインジウム−錫含有物(インジウム含有率92質量%、錫含有率8質量%)と得られた固体物のインジウム含有率を比較すると、92質量%から94質量%まで含有率が高まり、濃縮されたことがわかる。
【0029】
以上から本発明にかかる実施の形態1の金属濃縮方法により、インジウム−錫含有物のインジウムを濃縮することが可能となることが分かる。
【0030】
又、このようにインジウム−錫含有物のインジウム含有率を高めて濃縮することにより、次工程の電気精錬でインジウム純度を高めるための処理時間を短縮することができる。
【0031】
尚、その後、固体物からインジウム単体を回収する場合は、インジウムを抽出して純度を高めるために電気精錬を用いることができる。インジウム回収量は、(得られた固体物のインジウム含有率)×(得られた固体物の量)で算出することができ、固体物として77gのインジウムが回収される。
【0032】
又、別途前述の遠心分離装置の保温槽から排出された液体物からインジウムを回収する場合(図1、S7参照)は、固体物と同じく電気精錬を用いることにより、インジウムを得ることが可能となる。この液体物をEDXで測定すると、液体物のインジウム含有率は90.1質量%であった。この液体物から電気精錬によって回収されたインジウム単体の回収量は、(得られた液体物のインジウム含有率)×(得られた液体物の量)で算出することができ、液体物として11gのインジウムが回収できる。
【0033】
次に、本実施の形態1の金属濃縮方法において、遠心分離を行う際の保持温度について説明する。
【0034】
溶融させたインジウム−錫含有物(インジウム含有率92質量%、錫含有率8質量%)100gを保温槽で保持する温度を変化させ、その時の固体物または液体物のインジウム含有率とインジウム回収量を調べた。その結果を(表1)に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
図2(a)は、上記(表1)の結果に基づいて保持温度とインジウム含有率との関係のグラフを示す図である。図中、黒丸で示すグラフは、固体物のインジウム含有率を示し、黒三角で示すグラフは、液体物のインジウム含有率を示している。
【0037】
(表1)及び図2(a)に示すように、固体物または液体物のインジウム含有率は保持温度により変化することがわかる。なお、固体物のインジウム含有率は(固体物中のインジウム量)/(固体物の量)×100であり、液体物のインジウム含有率は(液体物中のインジウム量)/(液体物の量)×100であり、固体物と液体物中のインジウム量はEDXにより測定された。
【0038】
固体物と液体物との分離には遠心分離装置が用いられ、所定の温度に保持して4500rpmで10分間の処理をし、内周側に集まった液体物を排出して、固体物が得られた。
【0039】
上記の方法において、保持温度の変化に応じて固体物または液体物のインジウム含有率は図2(a)に示すように大きく変動する。具体的には、保持温度152℃以上の範囲では固体物は存在せず全てが液体物となり、液体物のインジウム含有率は92質量%である。そして、142℃以下の範囲では液体物は存在せず全てが固体物となり、固体物のインジウム含有率は92質量%である。
【0040】
一方、保持温度145〜150℃の範囲では固体物と液体物とが存在し、固体物のインジウム含有率は92.8〜95.5質量%であり、液体物のインジウム含有率は89.8〜92質量%である。すなわち、濃縮前のインジウム含有率92質量%と比較して、固体物のインジウム含有率を高めて濃縮することができる。
【0041】
保持温度により得られる固体物量は変化するため、固体物として得られるインジウム量も変動する。
【0042】
下記の(表2)には、(表1)の各保持温度において固体物と液体物から回収できるインジウム量が示されている。
【0043】
【表2】

【0044】
図2(b)は、上記(表2)の結果に基づいて保持温度と回収できるインジウム量の関係のグラフを示す図である。図中、黒丸で示すグラフは、固体物からのインジウム回収量を示し、黒三角で示すグラフは、液体物からのインジウム回収量を示している。なお、インジウム回収量は、固体物の場合、(得られた固体物のインジウム含有率)×(得られた固体物の量)であり、液体物の場合、(得られた液体物のインジウム含有率)×(得られた液体物の量)である。
【0045】
(表1)、図2(a)、(表2)及び図2(b)に示すように、保持温度152℃以上の範囲では固体物は得られないため固体物と液体物に分離してインジウム含有率を高めてインジウムを回収することはできない。また、保持温度142℃以下の範囲では液体物が存在せず全てが固体物となるので固体物と液体物に分離してインジウム含有率を高めてインジウムを回収することができない。
【0046】
保持温度145〜150℃の範囲では固体物と液体物とが存在し、固体物としてインジウム含有率を高めて回収することができる。しかしながら、インジウム回収量は保持温度の低い145℃が最も多く90gであるが、固体物のインジウム含有率は図2(a)より92.8質量%であるので、濃縮前の92質量%に対して0.8質量%の上昇であり濃縮性が低い。一方、保持温度149〜150℃の範囲では、固体物のインジウム含有率は図2(a)より95.4〜95.5質量%と高く濃縮性が良いが、得られる固体物量が少ないためインジウム回収量は少なく、16g以下である。
【0047】
以上より、保持温度146〜148℃の範囲では、固体物のインジウム含有率は、濃縮前の92質量%に対して94〜95質量%の濃縮性で、インジウム回収量は47〜77gであり、濃縮性と回収量の両方を高めることができる。更に、保持温度が146〜147℃の範囲の方が好ましく、固体物のインジウム含有率が94〜94.7質量%の濃縮性で、インジウム回収量は65〜77gとなり、50質量%以上のインジウムを回収することができる。
【0048】
このように、かかる構成によれば、2種類の金属を含有する金属含有物の温度を金属含有物の液相温度と固相温度との間の温度に制御し、遠心分離により、一定含有率よりも高い含有率で一方の金属を有する金属含有物と、一定含有率よりも低い含有率で一方の金属を有する金属含有物に分離して一方の金属を濃縮することにより、金属の濃縮に酸あるいはアルカリの溶液を使用しないため、濃縮装置の腐食防止構造や廃液処理装置等が不要になり濃縮方法を簡素化することができる。
【0049】
尚、本発明に係る実施の形態1の金属濃縮方法は多段操作により繰り返し濃縮処理をすることもできる。1回目の操作でインジウム含有率の高くなった固体物を、再び250℃以上に加熱して溶融させた後に冷却して、インジウム含有率の高くなった固体物の液相温度以下であり、固相温度以上である任意の温度で保持すると、1回目の操作で得られた固体物よりも更にインジウム含有率を高めて濃縮することができる。
【0050】
又、本発明にかかる実施の形態1の金属濃縮方法で得られる固体物は、インジウム含有率の高くなったインジウムと錫の混合物であるため、混合物からインジウムを抽出して純度を高めるためには電気精錬を用いることができる。
【0051】
上記多段操作により繰り返し濃縮処理を行い、より濃縮した後に電気精錬を行うことで、より時間を短縮し効率良く電気精錬を行うことが可能となる。
【0052】
一方、排出された液体物は、インジウム含有率が低くなるが錫含有率が高められているため錫の濃縮に利用することができる。
【0053】
尚、インジウム−錫含有物としては、ITOスクラップ材、ITO蒸着工程における蒸着装置内部のITO付着物、プラズマディスプレイ・液晶ディスプレイ・太陽電池パネル等の透明電極、はんだ付け工程で廃棄されるインジウム−錫含有ペースト等を利用することができる。
【0054】
又、インジウムと錫の含有量によって、インジウム−錫含有物の固相温度及び液相温度は異なり、遠心分離の際に保持する温度も異なるが、少なくともインジウム−錫の共晶点の温度(120℃)以上、錫の融点(232℃)以下の範囲に設定することができる。
【0055】
(実施の形態2)
次に、本発明にかかる実施の形態2における金属濃縮方法について説明する。本実施の形態2における金属濃縮方法では、実施の形態1と異なり、錫の濃縮が行われる。
【0056】
本発明にかかる実施の形態2における金属濃縮方法の概要を述べると、2種類の金属元素を含有する金属含有物の一定含有率の一方の金属を濃縮する方法であって、錫を48質量%以上含むインジウム−錫含有物を固相温度以上かつ液相温度以下の温度に制御して、遠心分離によりインジウム−錫含有物の錫を濃縮する方法である。
【0057】
以下、本実施の形態2の金属濃縮方法について、具体的に説明する。
【0058】
インジウム−錫含有物(インジウム含有率25質量%、錫含有率75質量%)150gを加熱槽に入れて、酸素濃度300ppmの窒素雰囲気中でインジウム−錫含有物の融点以上である290℃に加熱し、インジウム−錫含有物は、溶融される。その後、溶融されたインジウム−錫含有物は、290℃から1℃/sの速度で250℃まで徐冷して保持する。
【0059】
つぎに、インジウム−錫含有物150gの内の任意の量120gが、遠心分離装置の保温槽に投入され、インジウム−錫含有物の液相温度である188℃以下であり、固相温度である131℃以上の温度140℃まで1℃/sの速度で徐冷して保持される。このように溶融した後に、温度140℃で保持される工程が、本発明の温度制御工程の一例に対応する。尚、インジウム−錫含有物の液相温度と固相温度は示差走査熱量測定装置を用いて測定することができる。
【0060】
その後、温度を保持した状態で、遠心分離装置を4500rpmで固体物が分離されるまで10分間回転させる。この工程が、本発明の遠心分離工程の一例に対応する。この操作によりインジウム−錫含有の固体物が保温槽の壁面に集まる。そして、保温槽底面の排出弁を開いて液体物を排出すると41.3gのインジウム−錫含有の液体物が得られ、保温槽内部に残った固体物を取り出すと77.5gのインジウム−錫含有の固体物が得られる。このように液体物を排出し、固体物を得る工程が、本発明の固体物を得る工程の一例に対応する。本実施の形態では、錫が、本発明の第1金属の一例に対応し、インジウムが本発明の第2金属の一例に対応する。又、本発明の含有率aの一例は、本実施の形態の75質量%に対応し、本発明の含有率bの一例は、本実施の形態の25質量%に対応する。
【0061】
得られた固体物の錫含有率をEDXで測定すると、固体物の錫含有率は80.0質量%であった。工程の始めに準備したインジウム−錫含有物(インジウム含有率25質量%、錫含有率75質量%)と比較すると、この方法によりインジウム−錫含有物の錫含有率を75質量%から80質量%まで高めて濃縮することができることが分かる。
【0062】
以上から本実施の形態2の金属濃縮方法によりインジウム−錫含有物の錫を濃縮することが可能となることが分かる。
【0063】
尚、その後、固体物から錫単体を回収する場合は、錫を抽出して純度を高めるために電気精錬を用いることが出来る。錫回収量は、(得られた固体物の錫含有率)×(得られた固体物の量)で算出することができ、固体物として62gの錫が回収される。
【0064】
又、別途前述の遠心分離装置の保温槽から排出された液体物から錫を回収する場合は、固体物と同じく電気精錬を用いることにより、錫を得ることが可能となる。この液体物をEDXで測定すると、液体物の錫含有率は60.5質量%であった。この液体物から電気精錬によって回収される錫回収量は、(得られた液体物の錫含有率)×(得られた液体物の量)で算出することができ、液体物として25gの錫が回収される。
【0065】
次に、本実施の形態2の金属濃縮方法において、遠心分離を行う際の保持温度について説明する。
【0066】
溶融させたインジウム−錫含有物(インジウム含有率25質量%、錫含有率75質量%)120gを保温槽で保持する温度を変化させ、その時の固体物または液体物の錫含有率と錫回収量を調べた。その結果を(表3)に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
図3(a)は、上記(表3)の結果に基づいて保持温度と錫含有率との関係のグラフを示す図である。図中、黒丸で示すグラフは、固体物のインジウム含有率を示し、黒三角で示すグラフは、液体物のインジウム含有率を示している。
【0069】
(表3)及び図3(a)に示すように、固体物または液体物の錫含有率は保持温度により変化することがわかる。なお、固体物の錫含有率は(固体物中の錫量)/(固体物の量)×100であり、液体物の錫含有率は(液体物中の錫量)/(液体物の量)×100であり、固体物と液体物中の錫量はEDXにより測定された。
【0070】
固体物と液体物との分離には遠心分離装置が用いられ、所定の温度に保持して4500rpmで10分間の処理をし、内周側に集まった液体物を分離して固体物が得られた。
【0071】
上記の方法において、保持温度の変化に応じて固体物または液体物の錫含有率は図3(a)に示すように大きく変動する。具体的には、保持温度190℃以上の範囲では固体物は存在せず、全てが液体物となり、液体物の錫含有率は75質量%である。そして、120℃以下の範囲では、液体物は存在せず全てが固体物となり、固体物の錫含有率は75質量%である。
【0072】
一方、保持温度130〜185℃の範囲では固体物と液体物とが存在し、固体物の錫含有率は76.2〜86.6質量%であり、液体物の錫含有率は53.3〜75.5質量%である。すなわち、濃縮前の錫含有率75重量%と比較して、固体物の錫含有率を高めて濃縮することができる。
【0073】
保持温度により得られる固体物量は変化するため、固体物として分離回収できる錫量も変動する。
【0074】
下記の(表4)には、(表3)の各保持温度において固体物と液体物から回収できる錫量が示されている。
【0075】
【表4】

【0076】
図3(b)は、上記(表4)の結果に基づいて保持温度と回収できる錫量の関係のグラフを示す図である。図中、黒丸で示すグラフは、固体物からの錫回収量を示し、黒三角で示すグラフは、液体物からの錫回収量を示している。なお、錫回収量は、固体物の場合、(得られた固体物の錫含有率)×(得られた固体物の量)であり、液体物の場合、(得られた液体物の錫含有率)×(得られた液体物の量)である。
【0077】
(表3)、図3(a)、(表4)及び図3(b)に示すように、保持温度190℃以上の範囲では固体物は得られないため、固体物と液体物に分離して錫含有率を高めて錫を回収することはできない。また、保持温度120℃以下の範囲では液体物が存在せず全てが固体物となるので、固体物と液体物に分離して錫含有率を高めて錫を回収することができない。
【0078】
保持温度130〜185℃の範囲では固体物と液体物とが存在し、固体物として錫含有率を高めて回収することができる。しかしながら、錫回収量は保持温度の低い130℃が最も多く88gであるが、固体物の錫含有率は図3(a)より76.2質量%であるので、濃縮前の75質量%に対して1.2質量%の上昇であり濃縮性が低い。一方、保持温度160〜185℃の範囲では、固体物の錫含有率は図3(a)より82.5〜86.6質量%と高く濃縮性が良いが、得られる固体物量が少ないため錫回収量は少なく、30g以下である。
【0079】
以上より、保持温度140〜160℃の範囲では固体物の錫含有率は、濃縮前の75質量%に対して80〜82.5質量%の濃縮性で、錫回収量は30〜62gであり、濃縮性と回収量の両方を高めることができる。更に、保持温度が140〜150℃の範囲の方が好ましく、固体物の錫含有率が80〜81質量%の濃縮性で、錫回収量は50〜62gとなり、50質量%以上の錫を回収することができる。
【0080】
このように、かかる構成によれば、2種類の金属を含有する金属含有物の温度を金属含有物の液相温度と固相温度との間の温度に制御し、遠心分離により一定含有率よりも高い含有率で一方の金属を有する金属含有物と、一定含有率よりも低い含有率で一方の金属を有する金属含有物に分離して一方の金属を濃縮することにより、金属の濃縮に酸あるいはアルカリの溶液を使用しないため、濃縮装置の腐食防止構造や廃液処理装置等が不要になり濃縮方法を簡素化することができる。
【0081】
尚、本発明に係る実施の形態2の金属濃縮方法も多段操作により繰り返し濃縮処理をすることができる。1回目の操作で錫含有率の高くなった固体物を、再び250℃以上に加熱して溶融させた後に冷却して、錫含有率の高くなった固体物の液相温度以下であり、固相温度以上である任意の温度で保持すると、1回目の操作で得られた固体物よりも更に錫含有率を高めて濃縮することができる。
【0082】
又、本発明にかかる実施の形態2の金属濃縮方法で得られる固体物は、錫含有率の高くなったインジウムと錫の混合物であるため、混合物から錫を抽出して純度を高めるためには電気精錬を用いることができる。
【0083】
上記多段操作により繰り返し濃縮処理を行い、より濃縮した後に電気精錬を行うことで、より時間を短縮し効率良く電気精錬を行うことが可能となる。
【0084】
一方、排出された液体物は、錫含有率が低くなるがインジウム含有率を高めることができるためインジウムの濃縮に利用することができる。
【0085】
又、インジウム−錫含有物としては、ITOスクラップ材、ITO蒸着工程における蒸着装置内部のITO付着物、プラズマディスプレイ・液晶ディスプレイ・太陽電池パネル等の透明電極、はんだ付け工程で廃棄されるインジウム−錫含有ペーストを利用することができる。
【0086】
又、インジウムと錫の含有量によって、インジウム−錫含有物の固相温度及び液相温度は異なり、遠心分離の際に保持する温度も異なるが、少なくともインジウム−錫の共晶点の温度(120℃)以上、錫の融点(232℃)以下の範囲に設定することができる。
【0087】
(実施の形態3)
次に、本発明にかかる実施の形態3における金属濃縮方法について説明する。本実施の形態3における金属濃縮方法では、銀―銅含有物の銀の濃縮が行われる。
【0088】
本発明にかかる実施の形態3における金属濃縮方法の概要を述べると、2種類の金属元素を含有する金属含有物の一定含有率の一方の金属を濃縮する方法であるが、実施の形態1、2に示したようなインジウムと錫を含有するインジウム−錫含有物に限らず、銀を73質量%以上含む銀−銅含有物を固相温度以上かつ液相温度以下の温度に制御して、遠心分離により銀−銅含有物の銀を濃縮する方法である。
【0089】
以下に、本実施の形態3の金属濃縮方法について、具体的に説明する。
【0090】
銀−銅含有物(銀含有率95質量%、銅含有率5質量%)150gを加熱槽に入れて、酸素濃度300ppmの窒素雰囲気中で銀−銅含有物の融点以上である1200℃に加熱し、銀―銅含有物が溶融される。その後、溶融された銀―銅含有物は、1℃/sの速度で1000℃まで徐冷して保持される。
【0091】
つぎに、銀−銅含有物150gの内の任意の量100gが、遠心分離装置の保温槽に投入され、銀−銅含有物の液相温度である912℃以下であり、固相温度である858℃以上の870℃まで1℃/sの速度で徐冷して保持される。このように、溶融した後に、温度870℃で保持される工程が、本発明の温度制御工程の一例に対応する。尚、銀−銅含有物の液相温度と固相温度は示差走査熱量測定装置を用いて測定することができる。
【0092】
その後、温度を保持した状態で、遠心分離装置を6000rpmで固体物が分離されるまで15分間回転させる。この工程が、本発明の遠心分離工程の一例に対応する。この操作により銀−銅含有の固体物が保温槽の壁面に集まる。そして、保温槽底面の排出弁を開いて液体物を排出すると10.0gの銀−銅含有の液体物が得られ、保温槽内に残った固体物を取り出すと88.9gの銀−錫含有の固体物が得られる。このように液体物を排出し、固体物を得る工程が、本発明の固体物を得る工程の一例に対応する。本実施の形態では、銀が、本発明の第1金属の一例に対応し、銅が、本発明の第2金属の一例に対応する。又、本発明の含有率aの一例は、本実施の形態の95質量%に対応し、本発明の含有率bの一例は、本実施の形態の5質量%に対応する。
【0093】
得られた固体物と液体物の銀含有率をEDXで測定すると、固体物の銀含有率は96.0質量%であった。工程の始めに準備した銀−銅含有物(銀含有率95質量%、銅含有率5質量%)と比較すると、この方法により銀−銅含有物の銀含有率を95質量%から96質量%まで高めて濃縮することができる。
【0094】
以上から本実施の形態3の金属濃縮方法により銀−銅含有物の銀を濃縮することが可能となることが分かる。
【0095】
尚、その後、固体物から銀単体を回収する場合は、銀を抽出して純度を高めるために電気精錬を用いることができる。銀回収量は、(得られた固体物の銀含有率)×(得られた固体物の量)で算出することができ、固体物として85.3gの銀が回収される。
【0096】
又、別途前述の遠心分離装置の保温槽から排出された液体物から銀を回収する場合は、固体物と同じく電気精錬を用いることにより、銀を得ることが可能となる。この液体物をEDXで測定すると、液体物の銀含有率は88.2質量%であった。この液体物から電気精錬によって回収される銀回収量は、(得られた液体物の銀含有率)×(得られた液体物の量)で算出することができ、液体物として8.8gの銀が回収される。
【0097】
次に、本実施の形態3の金属濃縮方法において、遠心分離を行う際の保持温度について説明する。
【0098】
溶融させた銀−銅含有物(銀含有率95質量%、銅含有率5質量%)100gを保温槽で保持する温度を変化させ、その時の固体物または液体物の銀含有率と銀回収量を調べた。その結果を(表5)に示す。
【0099】
【表5】

【0100】
図4(a)は、上記(表5)の結果に基づいて保持温度と銀含有率との関係のグラフを示す図である。図中、黒丸で示すグラフは、固体物の銀含有率を示し、黒三角で示すグラフは、液体物の銀含有率を示している。
【0101】
(表5)及び図4(a)に示すように、固体物または液体物の銀含有率は保持温度により変化することがわかる。なお、固体物の銀含有率は(固体物中の銀量)/(固体物の量)×100であり、液体物の銀含有率は(液体物中の銀量)/(液体物の量)×100であり、固体物と液体物中の銀量はEDXにより測定された。
【0102】
固体物と液体物との分離には遠心分離装置が用いられた。所定の温度に保持して6000rpmで15分間の処理をし、内周側に集まった液体物を排出して、固体物が得られた。
【0103】
上記の方法において、保持温度の変化に応じて固体物または液体物の銀含有率は図4(a)に示すように大きく変動する。具体的には、保持温度930℃以上の範囲では固体物は存在せず全てが液体物となり、液体物の銀含有率は95.2質量%である。そして、840℃以下の範囲では液体物は存在せず全てが固体物となり、固体物の銀含有率は95.1質量%である。
【0104】
一方、保持温度850〜910℃の範囲では固体物と液体物とが存在し、固体物の銀含有率は95.0〜97.8質量%であり、液体物の銀含有率は87.1〜94.8質量%である。すなわち、濃縮前の銀含有率95質量%と比較して、固体物の銀含有率を高めて濃縮することができる。
【0105】
保持温度により得られる固体物量は変化するため、固体物として得られる銀量も変動する。
【0106】
下記の(表6)には、(表5)の各保持温度において固体物と液体物から回収できる銀量が示されている。
【0107】
【表6】

【0108】
図4(b)は、上記(表6)の結果に基づいて保持温度と回収できる銀量の関係のグラフを示す図である。図中、黒丸で示すグラフは、固体物からの銀回収量を示し、黒三角で示すグラフは、液体物からの銀回収量を示している。なお、銀回収量は(得られた固体物または液体物の銀含有率)×(得られた固体物または液体物の量)である。
【0109】
(表5)、図4(a)、(表6)及び図4(b)に示すように、保持温度930℃以上の範囲では固体物は得られないため固体物と液体物に分離して銀含有率を高めて銀を回収することはできない。また、保持温度820℃以下の範囲では液体物が存在せず全てが固体物となるので、固体物と液体物に分離して銀含有率を高めて銀を回収することができない。
【0110】
保持温度850〜910℃の範囲では固体物と液体物とが存在し、固体物として銀含有率を高めて銀を回収することができる。ここで、銀回収量は保持温度の低い850℃が最も多く94.8gであるが、固体物の銀含有率は図4(a)より95質量%であるので、濃縮前の95質量%と同じであり濃縮できていない。
【0111】
一方、保持温度900〜910℃の範囲では、固体物の銀含有率は図4(a)より97.5〜97.8質量%と高く濃縮性が良いが、得られる固体物量が少ないため銀回収量は少なく、40g以下である。
【0112】
以上より、保持温度870〜880℃の範囲では固体物の銀含有率は、濃縮前の95質量%に対して96.0〜96.6質量%の濃縮性で、銀回収量は72.2〜85.3gであり、濃縮性と回収量の両方を高めることができる。
【0113】
このように、かかる構成によれば、2種類の金属を含有する金属含有物の温度を金属含有物の液相温度と固相温度との間の温度に制御し、遠心分離により、一定含有率よりも高い含有率で一方の金属を有する金属含有物と、一定の含有率よりも低い含有率で一方の金属を有する金属含有物に分離して、一方の金属を濃縮することにより金属の濃縮に酸あるいはアルカリの溶液を使用しないため、濃縮装置の腐食防止構造や廃液処理装置等が不要になり濃縮方法を簡素化することができる。
【0114】
尚、本実施の形態3の金属濃縮方法は多段操作により繰り返し濃縮処理をすることもできる。1回目の操作で銀含有率の高くなった固体物を、再び1200℃以上に加熱して溶融させた後に冷却して、銀含有率の高くなった固体物の液相温度以下であり、固相温度以上である任意の温度で保持すると、1回目の操作で得られた固体物よりも更に銀含有率を高めて濃縮することができる。
【0115】
また、本発明の実施の形態3の金属濃縮方法で得られる固体物は、銀含有率の高くなった銀と銅の混合物であるため、混合物から銀を抽出して純度を高めるためには電気精錬を用いることができる。
【0116】
上記多段操作により繰り返し濃縮処理を行い、より濃縮した後に電気精錬を行うことで、より時間を短縮し効率良く電気精錬を行うことが可能となる。
【0117】
一方、排出された液体物は銀含有率が低くなるが銅含有率が高められているため銅の濃縮回収に利用することができる。
【0118】
尚、銀−銅含有物としては、電気接点スクラップ材、銀細工品等を利用することができる。
【0119】
又、銀と銅の含有量によって、銀−銅含有物の固相温度及び液相温度は異なり、遠心分離の際に保持する温度も異なるが、少なくとも銀−銅の共晶点(779℃)の温度以上、銅の融点(1084.4℃)以下の範囲に設定することができる。
【0120】
(実施の形態4)
以下に、本発明の金属処理装置の一例である金属濃縮装置について説明する。
【0121】
本実施の形態4の金属濃縮装置は、実施の形態1の金属濃縮方法を実行するための装置である。
【0122】
本発明にかかる実施の形態4の金属濃縮装置の概要は、2種類の金属を含有する金属含有物の一定含有率の一方の金属を濃縮する装置であって、インジウムを50質量%以上含むインジウム−錫含有物を固相温度以上かつ液相温度以下の温度に制御する温度制御部と、遠心分離によりインジウム−錫含有物のインジウムを濃縮する遠心分離部を備えた金属濃縮装置である。
【0123】
図5(a)は、本発明の実施の形態4における金属濃縮装置の正面構造図である。又、図5(b)は、図5(a)のAA´間の断面構成図である。
【0124】
図5(a)、(b)に示すように、本実施の形態4の金属濃縮装置は、外筒120と内筒130を有する二重円筒形の容器である保温槽101を有しており、この外筒120と内筒130との間にインジウム−錫含有物102が入るように加工されており、取り外し可能な密閉プレート103が取り付けられている。インジウム−錫含有物102を所望の温度に加熱して保持するために、保温槽101の外筒120の外側と内筒130の内側にヒータ104が取り付けられており、ヒータ104を制御する温度制御装置105で温度調整をすることができる。
【0125】
保温槽101の上部には液状物を流し込むための投入口106が設けられおり、投入弁107で開閉することができる。また、保温槽101の下部には液状物を排出するための排出口108が設けられており、排出弁109で開閉することができる。保温槽101の周囲は断熱材110で覆われており、保温槽101の中心軸140にモータ111が接続され、保温槽101を回転させることができる。さらに、保温槽101が回転する際のバランスを取るため、投入口106と排出口108との回転軸の対向側に錘112が設置されている。
【0126】
保温槽101の材質はSUS304であるが、耐久性を向上させるためにSUS316またはSUS317を用いても良いし、軽量化のためアルミニウム、セラミック等を利用することもできる。ヒータ104は900℃まで加熱することのできるコイルヒータであるが、加熱効率を向上させるために外筒120と内筒130との間のインジウム−錫含有物102が投入される位置にシーズヒータを配置しても良いし、セラミックで成型された保温槽101の内部にモールドヒータを内蔵することも可能である。さらに電磁誘導の原理を利用した誘導加熱でも良い。モータ111は、最大回転数5000rpmの電磁モータであるが、分離回収効率を高めるために回転数6000rpmの電磁モータにすることもできる。尚、本発明の温度制御部の一例は、本実施の形態の温度制御装置105に対応し、本発明の遠心分離部の一例は、本実施の形態の保温槽101、中心軸140、及びモータ111に対応する。又、本発明の固体物を収容する槽の一例は、本実施の形態の保温槽101に対応する。
【0127】
次に、以下の(実施例1)において、本実施の形態4の金属濃縮装置を用いた金属濃縮方法について具体的に説明する。
【0128】
(実施例1)
インジウム−錫含有物(インジウム含有率92質量%、錫含有率8質量%)12kgが加熱槽(図示せず)に入れられ、一酸化炭素雰囲気中でインジウム−錫含有物の融点以上である1700℃に加熱して溶融させた後(図1、S1参照)、1℃/sの速度で250℃まで徐冷される。
【0129】
徐冷した液体物の任意の量10kgが、投入口106から保温槽101に流し込まれる。投入されたインジウム−錫含有物の温度は、温度制御装置105によってインジウム−錫含有物の液相温度である150℃以下であり、固相温度である142℃以上の146℃まで1℃/sの速度で冷却して保持するように制御される(図1、S2参照)。
【0130】
つぎに、モータ111により保温槽101が4500rpmで固体物が分離されるまで10分間回転する(図1、S3参照)。この操作によりインジウム−錫含有の固体物が保温槽の壁面に集まる。その後、排出弁109を開くことで1.20kgのインジウム−錫含有の液体物が得られる(図1、S4及びS6参照)。その後、密閉プレート103を取り外して外筒壁面に集まった固体物を取り出すと8.25kgのインジウム−錫含有の固体物が得られる(図1、S5参照)。
【0131】
得られた固体物のインジウム含有率をEDXで測定すると、固体物のインジウム含有率は、94.2質量%であった。このことから、本実施の形態4の金属濃縮装置により、インジウム−錫含有物のインジウム含有率を92質量%から94.2質量%まで高めて濃縮することができることが分かる。尚、インジウム回収量は、(得られた固体物のインジウム含有率)×(得られた固体物の量)で算出することができ、固体物として7.78kgのインジウムが回収される。
【0132】
一方、排出された液体物1.2kg中のインジウム含有率89.8質量%であった。インジウム回収量は、(得られた液体物のインジウム含有率)×(得られた液体物の量)で算出することができ、液体物として1.08kgのインジウムが回収される。
【0133】
本発明に係る実施の形態4の金属濃縮装置は多段操作により繰り返し濃縮処理をすることもできる。1回目の操作でインジウム含有率の高くなった固体物を、再び250℃以上に加熱して溶融させた後に冷却して、インジウム含有率の高くなった固体物の液相温度以下であり、固相温度以上である任意の温度で保持すると、1回目の操作で得られた固体物よりも更にインジウム含有率を高めて濃縮することができる。この操作は1台の金属濃縮装置に繰り返し投入しても良いし、2台以上の金属濃縮装置を用いて順じ投入することもできる。
【0134】
本発明の実施の形態4の金属濃縮装置で得られる固体物はインジウム含有率の高くなったインジウムと錫の混合物であるため、混合物からインジウムを抽出して純度を高めるためには電気精錬を用いることができる。
【0135】
上記多段操作により繰り返し濃縮処理を行い、より濃縮した後に電気精錬を行うことで、より時間を短縮し効率良く電気精錬を行うことが可能となる。
【0136】
一方、液体物はインジウム含有率が低くなるが錫含有率を高めることができるため錫の濃縮に利用することができる。
【0137】
尚、インジウム−錫含有物としては、ITOスクラップ材、ITO蒸着工程における蒸着装置内部のITO付着物、プラズマディスプレイ・液晶ディスプレイ・太陽電池パネル等の透明電極、はんだ付け工程で廃棄されるインジウム−錫含有ペーストを利用することができる。
【0138】
このように、かかる構成によれば、2種類の金属を含有する金属含有物の温度を金属含有物の液相温度と固相温度との間の温度に制御する温度制御部と、遠心分離により、一定含有率よりも高い含有率で一方の金属を有する金属含有物と、一定の含有率よりも低い含有率で一方の金属を有する金属含有物に分離する遠心分離部を備えることで、金属の濃縮に酸あるいはアルカリの溶液を使用しないため、濃縮装置の腐食防止構造や廃液処理装置等が不要になり濃縮装置を簡素化することができる。
【0139】
尚、本実施の形態4の金属濃縮装置は、実施の形態2の錫を濃縮する場合、及び実施の形態3の銀を濃縮する場合にも適用可能である。
【0140】
以下、本実施の形態4の金属濃縮装置を用いた他の実施例2〜5について説明する。下記(表7)は、(実施例1)〜(実施例5)における結果を示す図である。
【0141】
【表7】

【0142】
実施例2では、金属含有物として、インジウム含有率90質量%、錫10質量%のインジウム−錫含有物11.0kgが用いられた。尚、回収対象金属は、インジウムであり、その回収対象金属量は、9.9kgとなる。このインジウム−錫含有物11.0kgが、保温槽101に流し込まれ、145℃に保持された状態で、4400rpmで12分間回転されて、遠心分離が行われた。その結果、回収された固体物中に、7.4kgのインジウムが含有されており、元の90質量%から92.5質量%まで濃縮された。
【0143】
(表7)中の(実施例3)及び(実施例4)は、インジウム−錫含有物中の錫を濃縮する実施例である。(実施例3)では、濃縮前の75質量%から81.3質量%まで濃縮された。(実施例4)では、濃縮前の70質量%から75.7質量%まで濃縮された。
【0144】
(表7)中の(実施例5)は、銀−銅含有物中の銀を濃縮する実施例である。(実施例5)では、元の95質量%から96.8質量%まで濃縮された。
【0145】
このように、本実施の形態4の金属濃縮装置は、インジウムを濃縮する場合だけでなく、錫を濃縮する場合、銀を濃縮する場合にも利用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の金属処理方法及び金属処理装置は、より安全に、又はより簡易に金属を濃縮することが可能な効果を有し、金属スクラップ、特にITOスクラップ等のインジウム含有物のインジウムを濃縮する金属濃縮方法および装置等に適用可能である。
【符号の説明】
【0147】
101 保温槽
102 インジウム−錫含有物
103 密閉プレート
104 ヒータ
105 温度制御装置
106 投入口
107 投入弁
108 排出口
109 排出弁
110 断熱材
111 モータ
112 錘


【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有率aの第1金属と含有率bの第2金属の2種類の金属を含有する金属含有物の金属を処理する金属処理方法であって、
前記金属含有物を加熱することにより溶融させ、溶融された前記金属含有物を冷却させ、その冷却する温度を、液相温度と固相温度との間の温度に制御する温度制御工程と、
制御された温度により前記金属含有物の固体物と液体物を生成させ、前記金属含有物を前記固体物と前記液体物に遠心分離する遠心分離工程と、
遠心分離された前記液体物を排出することにより、前記第1金属の含有率a及び前記第2金属の含有率bの両方の含有率が変更となる前記固体物を得る工程を備えた、
金属処理方法。
【請求項2】
前記第1金属は、インジウムであり、
前記第2金属は、錫である、請求項1記載の金属処理方法。
【請求項3】
前記第1金属は、銀であり、
前記第2金属は、銅である、請求項1記載の金属処理方法。
【請求項4】
含有率aの第1金属と含有率bの第2金属の2種類の金属を含有する金属含有物の金属を処理する金属処理装置であって、
前記金属含有物を加熱することにより溶融させ、溶融された前記金属含有物を冷却させ、その冷却する温度を、液相温度と固相温度との間の温度に制御する温度制御部と、
前記温度制御部で制御された温度により前記金属含有物の固体物と液体物を生成させ、前記金属含有物を前記固体物と前記液体物に遠心分離する遠心分離部と、
遠心分離された前記液体物を前記遠心分離部から排出する排出部と、
前記排出部から前記液体物を排出することにより前記第1金属の含有率a及び前記第2金属の含有率bの両方の含有率が変更となる前記固体物を収容する槽と
を備えた、
金属処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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