金属化合物内包カーボンナノチューブ、及び金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法
【課題】
高い内包率を有し、又凝集体や束状になることなく個々に独立して存在し、さらにはアスペクト比が大きく微小な針状構造を有する金属化合物内包カーボンナノチューブを提供すること。又、簡易かつ安価で、大面積化かつ高収率が容易な金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法を提供すること。
【解決手段】
金属化合物に含有される金属が、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Pd、Ag、Sn、Ptから選択される1種類又は2種類以上の合金であることを特徴とする、及び/又は金属化合物に含有される非金属が、O、S、Seから選択される1種類又は2種類以上の混合物であることを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブ、又は炭素源としての化合物と、内包する金属化合物に含有される非金属と同一の非金属を含む化合物との混合気体と、内包する金属化合物に含有される金属と同一の金属を含む化合物とを800℃以上で加熱することを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法により上記課題を解決する。
高い内包率を有し、又凝集体や束状になることなく個々に独立して存在し、さらにはアスペクト比が大きく微小な針状構造を有する金属化合物内包カーボンナノチューブを提供すること。又、簡易かつ安価で、大面積化かつ高収率が容易な金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法を提供すること。
【解決手段】
金属化合物に含有される金属が、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Pd、Ag、Sn、Ptから選択される1種類又は2種類以上の合金であることを特徴とする、及び/又は金属化合物に含有される非金属が、O、S、Seから選択される1種類又は2種類以上の混合物であることを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブ、又は炭素源としての化合物と、内包する金属化合物に含有される非金属と同一の非金属を含む化合物との混合気体と、内包する金属化合物に含有される金属と同一の金属を含む化合物とを800℃以上で加熱することを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法により上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物内包カーボンナノチューブ、及び金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)内部の一次元空洞は物質内包のためのナノ空間として利用することができ、例えば金属内包CNTは、CNT自体の特性(導体、半導体、触媒、高強度材等としての適用)に加え、金属との複合材料としての特性を発揮できる新材料として、水素吸蔵材料、電子材料を初めとする広範な用途で注目されている。
従来、内包CNTの製造方法としては、まず化学処理等によってCNT先端を開放し、その後熱処理等によって金属や金属化合物を内包する方法が一般的であるが、多段階処理であるため高効率の内包が極めて困難であった。又、開端部より金属や金属化合物を連続的に挿入することが困難であり、不連続構造になるという問題点があった。
【0003】
上記問題点を解決する1つの方法として、特許文献1には、アセチレンガス等を用いた分子ビーム法により、基板上に金属内包CNTを一段階で成長させる方法が開示されている。しかし、本方法では、比較的高い内包率を得られるものの、高真空を要する、可燃性ガスを用いる等の煩雑さや高コスト化の問題点があり、又、大面積基板には適用できないという問題点があった。さらに、金属内包CNTの凝集体として得られるため、単独で取扱うことができないという問題点があった。
特許文献2には、金属を含有する炭素電極を用い、水素を含む気体中でアークプラズマを発生させ、鉛直方向に放電させることによる金属内包CNTの製造方法が開示されている。しかし、本方法では、銅(Cu)内包CNTでは90%以上の充填率が得られるものの、その他の金属では、アーク放電に適した融点を有していないこと、炭素との親和性が悪いこと等の理由から内包が困難であった。
【0004】
一方、特許文献3には、炭素源としての有機物の気体と、イオウ含有化合物との混合気体とを、金属含有触媒を使用せずに800℃以上で加熱することによる繊維状カーボンナノ構造体の製造方法が開示されているが、金属化合物内包CNTの製造方法については知られていなかった。
又、非特許文献1に記載のスプレー法はITO(Indium Tin Oxide)薄膜を作製する方法であり、この方法をCNT及び金属化合物内包CNT成長のための金属触媒基板作製に適用した例は、これまでになかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−239481
【特許文献2】特開2009−167031
【特許文献3】特開2008−274491
【0006】
【非特許文献1】Y. Sawada, et al., Thin Solid Films, 409, 46 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い内包率を有する金属化合物内包CNTを提供する。又、凝集体や束状になることなく個々に独立した金属化合物内包CNTを提供する。さらに、アスペクト比が大きく微小な針状構造を有する金属化合物内包CNTを提供する。
本発明は、簡易かつ安価で、大面積化かつ高収率が容易な金属化合物内包CNTの製造方法をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の金属化合物内包CNTは、
<1>金属化合物に含有される金属が、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、鉛(Pd)、銀(Ag)、スズ(Sn)、白金(Pt)から選択される1種類又は2種類以上の合金であることを特徴とする。
<2>上記<1>に記載の金属化合物内包CNTおいて、金属化合物に含有される非金属が、酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)から選択される1種類又は2種類以上の混合物であることを特徴とする。
<3>前記<1>又は<2>に記載の金属化合物内包CNTにおいて、直径と長さの比が、長さ1μmに対して30nm以下であることを特徴とする。
<4>前記<1>乃至<3>に記載の金属化合物内包CNTにおいて、金属化合物を60%以上内包することを特徴とする。
さらに、上記課題を解決するため、本発明の金属化合物内包CNTの製造方法は、
<5>炭素源としての化合物と、内包する金属化合物に含有される非金属と同一の非金属を含む化合物との混合気体と、内包する金属化合物に含有される金属と同一の金属を含む化合物とを800℃以上で加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い内包率を有する金属化合物内包CNTを提供することができる。又、該金属化合物内包CNTは凝集体や束状になることなく個々に独立し、さらにアスペクト比が大きく微小な針状構造を有することから、従来にない金属化合物−CNTハイブリッド材料を提供することができる。
又、本発明によれば、簡易かつ安価で、大面積化かつ高収率が容易な金属化合物内包CNTの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スプレー法による触媒基板作製装置の一例を示す概略図である。
【図2】真空蒸着法による触媒基板作製装置の一例を示す概略図である。
【図3】アルコールCVD法による金属化合物内包CNT作製装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の金属化合物内包CNTのSEM像(Si基板表面)である。NiCl2触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)10mL、(c)15mL、(d)20mL、(e)25mLである。
【図5】本発明の金属化合物内包CNTのSEM像(Si基板断面)である。NiCl2触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)10mL、(c)15mL、(d)20mL、(e)25mLである。
【図6】本発明の金属化合物内包CNTのTEM像である。NiCl2触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)10mL、(c)15mL、(d)20mL、(e)25mLである。
【図7】本発明の金属化合物内包CNTの(a)TEM像及び(b)HR−TEM像である。いずれもNiCl2触媒溶液の塗布量は15mLである。
【図8】本発明の金属化合物内包CNTのHR−TEM像である。NiCl2触媒溶液の塗布量は15mLである。
【図9】本発明の金属化合物内包CNTの(a)SEM像(SiO2基板表面)及び(b)SEM像(SiO2基板断面)である。いずれもNiCl2触媒溶液の塗布量は15mLである。
【図10】本発明の金属化合物内包CNTのTEM像である。AlCl3触媒溶液の塗布量は5mLである。
【図11】本発明の金属化合物内包CNTのTEM像である。AgCl触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)15mLである。
【図12】本発明の金属化合物内包CNTの(a)SEM像(Si基板表面)及び(b)TEM像である。いずれもNi粉末及び真空蒸着法の組合せにより作製した触媒基板を用いた結果である。
【図13】本発明の金属化合物内包CNTの(a)SEM像及び(b)TEM像である。いずれもNi金属板を触媒基板として用いた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.金属化合物内包CNT>
本発明の金属化合物内包CNTは、その直径/長さが、30nm/1μm以下、好ましくは20nm/1μm以下、より好ましくは15nm/1μm以下である。又、本発明の金属化合物内包CNTは高い充填率を有し、その充填率は50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上である。
【0012】
金属化合物に含有される金属としては、特に限定されないが、後述の通り化合物の状態で容易に溶液にできる金属が好ましく、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Pd、Ag、Sn、Pt等がより好ましい。
又、金属化合物に含有される非金属としては、特に限定されないが、後述の通り上記金属と結合し容易に化合物になる、又、容易にCNTに内包される非金属が好ましく、O、S、Se等がより好ましい。金属化合物内包CNTが、高結晶率の金属化合物をCNTの根元から高充填率で内包し、基板上で直進的に垂直配向して且つ束にならずに成長するためにはSが好適である。
【0013】
<2.金属化合物内包CNTの製造方法>
本発明の金属化合物内包CNTの製造方法は、以下に記す(1)金属触媒基板を作製する工程と、(2)該基板上に金属化合物内包CNTを成長させ作製する工程とを含む。
【0014】
(1)触媒基板の作製
触媒基板の作製方法としては、スプレー法、真空蒸着法、レーザーデポジション法、パルスアーク放電法等が挙げられるが、基板上に金属触媒を塗布できればいかなる方法でもよい。又、基板としては、シリコン(Si)、Fe、チタン(Ti)、Mo等の金属、グラファイト、石英(SiO2)、モレキュラーシーブス、ゼオライト等が挙げられる。
スプレー法では、まず、金属触媒溶液を調製する。溶質は、金属化合物内包CNTにおいてCNTに内包される金属又は該金属を含む物質であれば特に限定されないが、室温で揮発せず安定性が高い等の取扱いの容易な点、安価である点から、塩化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩等が好適である。溶媒は、該金属を含む物質を均一に溶解する物質であれば特に限定されないが、水(蒸留水)、アンモニア水、エタノール等が例示される。溶液濃度は、飽和濃度以下であれば特に限定されない。又、希薄濃度では、溶液の噴霧回数を多くすることにより、基板への十分な塗布量を確保することができる。次に、金属触媒溶液を加熱した基板に噴霧・塗布する。スプレー法による触媒基板作製の概略を図1に例示する。
真空蒸着法では、金属化合物内包CNTにおいてCNTに内包される金属又は該金属を含む物質を真空中で加熱・蒸発させ、基板に塗布する。真空蒸着法による触媒基板作製の概略を図2に例示する。
触媒金属の基板への塗布量(濃度)は、0.1×10−6〜10×10−6mol/mm2、好ましくは0.5×10−6〜5×10−6mol/mm2、より好ましくは1×10−6〜3×10−6mol/mm2である。
【0015】
(2)金属化合物内包CNTの作製
金属化合物内包CNTの作製には、炭素源及び金属化合物に含有される非金属を必要とする。
炭素源としては、炭素単体の他、炭素を含む有機物、無機物の何れであってもよい。特に有機物が好適であり、炭素原子を分子内に含む有機物であり、容易に気化可能なものであれば特に限定されず、常温・常圧で気体、液体、固体の何れでもよい。例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、フェノール類、エーテル類、アルデヒド類等が挙げられる。これらを1種類又は2種類以上を混合して用いることができるが、1分子中の炭素原子数が多く、生産効率が良い、毒性が小さい等の点で、アルコール類が好ましく、毒性、安全性、沸点が低く取扱いが容易等の点でエタノールがより好ましい。
金属化合物に含有される非金属としては、該非金属単体、該非金属を含む化合物の何れであってもよく、上記炭素源に含まれてもよい。化合物の場合、該非金属をその分子内に含む化合物であり、容易に気化可能なものであれば特に限定はなく、常温・常圧で気体、液体、固体の何れでもよく、有機化合物、無機化合物を問わない。又、前記の通り、金属化合物に含有される非金属としてはSが好ましく、S、二硫化炭素(CS2)、チオール、チオフェン、チオフェノール等が例示される。
【0016】
炭素源としての化合物と金属化合物に含有される非金属を含む化合物とが異なる場合、それらの混合物、例えば混合溶液を調製しておき、該混合溶液を気化してもよいが、それぞれを独立に取扱い、ガス混合器等内で混合気体にしてもよい。化合物の取扱い、混合比の制御が容易等の点で後者がより好ましい。
次に、前記(1)で調製した触媒基板を反応炉内に設置し、上記炭素源と金属化合物に含有される非金属との混合気体を該反応炉内に導入し、加熱することによって金属化合物内包CNTを作製する。作製方法を図3に例示する。
【0017】
なお、上記加熱温度は800℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。又、加熱時間は特に限定されないが、5分〜1時間が好ましく、10〜30分がより好ましい。又、大気圧以下に減圧した雰囲気で加熱することが好ましい。
加熱炉内には、炭素源と金属化合物に含有される非金属の気体だけが存在していてもよいが、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、窒素(N2)等の不活性気体が存在していてもよい。
加熱炉としては、電気炉、マイクロ波加熱炉、レーザー加熱炉、プラズマ加熱炉、アーク加熱炉等が挙げられるが、加熱炉内の雰囲気温度の制御とコストの点で、電気炉を用いることが好ましい。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の好適な一実施の形態を実施例によって具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施形態によって限定されるものでなく、本発明の範囲で様々に改変して実施することができる。
【0019】
<実施例1:スプレー法による触媒基板作製>
非特許文献1に記載のスプレー法を触媒基板の作製に展開した。Si基板、SiO2基板上に金属を含んだ触媒溶液を噴霧することで触媒基板を作製した。以下にその手順を記す。
(1)金属触媒溶液の調製
触媒となる塩化アルミニウム六水和物(AlCl2・6H2O)を、Al濃度が0.4Mとなるよう蒸留水に溶解した。又、塩化ニッケル無水物(NiCl2)を、Ni濃度が0.4Mとなるよう蒸留水に溶解した。さらに、塩化銀(AgCl)を、Ag濃度が0.4Mとなるようアンモニア水(28〜30%)に溶解した。これらの触媒溶液の調製は、試薬の潮解による重量変化を防ぐためにグローブボックス内で行った。
(2)触媒基板の作製
上記(1)で調製した触媒溶液を、加熱したSi基板(5mm×10mm)、又はSiO2基板(6mm×18mm)にスプレー装置を用いて噴霧することで触媒基板を作製した(図1)。なお、噴霧の際の条件を次の通りに設定した。
基板加熱温度:400℃
エア圧力:0.2MPa
噴霧間隔:1/4Hz
噴霧時間:0.2秒
スプレーノズルと触媒基板との距離:15cm
噴霧量:5、10、15、20、25mL(Si基板、SiO2基板に対して、それぞれ5種類の触媒基板を作製した)
【0020】
<実施例2:真空蒸着法による触媒基板作製>
金属を真空中でSi基板又はSiO2基板の表面に蒸着することにより、触媒基板を作製した。以下にその手順を記す。
タングステンコイル中に配置したアルミナるつぼの中に金属(Al、Ni、Ag)粉末を入れ、その真上にSi基板(5mm×10mm)又はSiO2基板(5mm×10mm)を配置した。ベルジャー内をロータリーポンプとディフュージョンポンプを用いて5×10−5torrまで真空排気し、コイルに電流を流して、金属を蒸着させ、触媒基板を作製した(図2)。なお、蒸着の際の条件を次の通りに設定した。
蒸着源と基板との距離:5cm
コイル電流:75A
蒸着時間:10、15、20分(Si基板、SiO2基板に対して、それぞれ3種類の触媒基板を作製した)
【0021】
<実施例3:その他の触媒基板>
市販の金属板を5mm×10mmに切断し、触媒基板として使用した。使用した金属板は次の通りである。
Ni:(株)ニラコ、NI-313463、0.50×100×300mm、99+%
Ti:(株)ニラコ、TI-453441、0.40×100×100mm、99.5%
Al:(株)ニラコ、AL-013466、0.50×200×300mm、99+%
Fe:(株)ニラコ、FE-223409、0.25×150×150mm、99.5%
【0022】
<実施例4:金属化合物内包CNTの作製>
前記実施例1〜3で作製した触媒基板上に、アルコールCVD(Chemical Vapor Deposition)法により金属化合物内包CNTを作製した。図3に実験に使用したCVD装置の概略を示す。この装置では、原料となる炭素源として用いるエタノールとCS2がそれぞれ独立しており、マスフローコントローラによって流量を制御した後、ガス混合器で均一に混合され反応炉内に導入される仕組みになっている。
エタノールの蒸気圧は室温(22℃)において0.065Paと非常に低く、このままの状態では流量を十分に制御することができない。この問題を解消するために、エタノールを60℃の恒温槽に浸けて加熱し、蒸気圧を0.46Paまで高めることで流量の制御を行った。さらに配管部分での温度低下によるエタノールの凝集を防ぐために、シリコンコードヒータを用いてガス混合器に導入するまでの配管とマスフローコントローラも60℃まで加熱した。なお、CS2は室温(22℃)において高い蒸気圧(39.7kPa)を持つため、室温でも十分な流量制御が可能である。
【0023】
まず反応炉内中心部に触媒基板を設置し、系内をロータリーポンプを用いて0.01torr程度まで真空排気し、アルゴンガスを大気圧まで導入して、系内を不活性ガスで完全に満たした。その後、触媒基板のアニーリングとして、アルゴンガスを大気圧で約15sccmで流しながら反応炉中心部を640℃に昇温し、30分間この状態を保った。アニーリング終了後、アルゴンガスを流しながら反応路中心部を1000℃に昇温し、ロータリーポンプで0.01torr程度まで真空排気した。エタノールを90sccm、CS2を10sccmの流量に設定し、それらをガス混合器で混合したものを炭素源として反応炉内に導入し、30分間の反応を行った。反応中の炉内圧力は750torr程度に保たれる。反応終了後、炭素源の導入を止め、系内を大気圧までアルゴンガスで満たし、約150sccmでアルゴンを流しながら室温まで冷却し、基板を回収した(回収した基板を、以下「サンプル」と略記する)。
【0024】
<実施例5:金属化合物内包CNTの評価>
以下の分析装置を用いて、上記実施例4で得られた生成物の評価を行った。
(1)走査型電子顕微鏡(SEM)
サンプルの表面形態をSEM (S-4000、日立製作所) を用いて観察した。なお、チャージアップを防ぐため、サンプル表面に金蒸着を施した。
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)
サンプルの内部構造をTEM(H-800、日立製作所)を用いて観察した。なお、サンプルはエタノールに分散させた後、マイクログリッド上に滴下・乾燥させたものを観察サンプルとした。観察時の電子線の加速電圧は100kVとした。
(3)高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)
サンプルの内部構造をHR−TEM(H-9000、日立製作所)を用いて観察した。観察方法はH-800の場合と同様である。観察時の電子線の加速電圧は300kVとした。
【0025】
結果の一例として、NiCl2触媒溶液をスプレー法によりSi基板に噴霧し作製した触媒基板(実施例1)を、アルコールCVD法に供し得られた生成物(実施例4)ついて以下に記す。
各触媒量におけるサンプル表面のSEM写真を図4に、断面のSEM写真を図5に示す。SEMによる観察では、触媒量が増加するほど基板上の生成物が増加する傾向が伺える。特に触媒量が15mLの場合においては、直進的な垂直配向性を持つチューブ状が均一に基板上に成長しており、凝集体や束状になることなく個々が独立して成長していることがわかった。これらは直径が約90nm、長さが約7μmであり、直径、長さともに揃っているのが特徴である。又、触媒の量が15mLを超えると粒子状の物質が基板上に増えていく様子が確認できた。
【0026】
図6に各触媒量におけるサンプルのTEM写真を示す。TEM観察を行った結果、いずれの触媒量においても内包チューブの形成が確認された。SEM観察で見られた傾向と同様に、触媒量5mLのサンプルでは生成物全体の収量が少なく、内包チューブは数本程度確認できるのみであった。触媒量が増加するに従い生成物全体の収量が増加し、特に触媒量が15mLの際に細く直進的な形状をもつ内包チューブの量が最大となった。
【0027】
アルコールCVD法を用いたナノチューブの成長には、根元成長と先端成長と呼ばれる2つのプロセスが考えられている。今回形成した内包ナノチューブは一方の端に球状の粒子を有していた(図4(c)及び図6(c))。SEMとTEMによる観察結果から、今回形成した内包チューブは根元からの触媒によって成長していると考えられる。
又、完全な形状の内包チューブは、ほとんどのものがチューブと粒子の間に空洞を有していた。TEMにおいて観察された内包チューブの大多数は粒子状の一端が欠けていたが、これは粒子状とチューブの接合部分に集中している歪みと、この空洞によって根元部分が非常に折れやすくなっていることが原因と考えられる。
触媒量が15mLからさらに増加すると、内包物質の形状が不均一になり、湾曲したものや粒子状の物質が多数観察されるようになった(図6(e))。この傾向はSEM観察でも確認されており、太いチューブや粒子状物質は触媒量が過剰なために形成したと考えられる。
【0028】
TEM観察により、内包チューブは非常に高い充填率(約80%)を有していることが確認できる(図7)。又、HR−TEMによる構造解析(図8)からは、内包物が高い結晶性を持っていることが確認でき、原料に用いたCS2中のSと触媒のNiが反応してできた硫化ニッケル(Ni3−xS2)であることがわかった。又、CNTは50層程度であることが確認された。
【0029】
SiO2基板を用いた場合のNi化合物(図9)、及びSi基板又はSiO2基板を用いた場合のAl、Agの化合物についても同様に内包することができた(図10及び図11)。図10及び図11はSi基板を用いた場合の結果であるが、Ni化合物では触媒量15mLの場合が最良であったのに対し、Al、Agの化合物では、基板の種類に関わらず、触媒量5mLの場合が最良であった。
又、真空蒸着法により作製した金属触媒基板を用いた場合(実施例2)においても、同様に内包することができた(図12)。さらに、市販の金属板を触媒基板とした場合(実施例3)においても内包でき(図13)、特にNi、Alについて良好な結果が得られた。これらの結果は、触媒基板の作製方法や触媒溶液の種類によらず、金属化合物がCNTに内包されることを示すものである。
【0030】
成長条件より、金属化合物内包CNTの調製には、1000℃以上(少なくとも800℃以上)の温度及び基板1枚あたり1×10−6〜3×10−6mol/mm2(少なくとも0.5×10−6〜5×10−6mol/mm2)の触媒金属が必要であることがわかった。又、成長温度や原料供給量の関係より、CS2から供給されるSが金属化合物内包CNT形成の重要要素であると考えられる。即ち、加熱によってSの粘度が減少しやすいため、CNTの成長にともなって、金属硫化物がCNTの根元から先端へと運ばれやすくなることで高い内包率が得られ、かつ容易にCNTに内包されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
基板上への金属化合物溶液の位置選択的塗付により、電子デバイスの微細配線が可能となる。特に垂直配向成長の特長を生かし、接触抵抗を低減したビア配線(垂直配線)としての利用が有望である。又、1本の内包CNTに注目した場合、アスペクト比の大きい針状構造であることから、微小なナノ電流プローブとして最適な構造である。
さらに、硫化ニッケルについては、リチウムイオン電池の電極の活物質として利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物内包カーボンナノチューブ、及び金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)内部の一次元空洞は物質内包のためのナノ空間として利用することができ、例えば金属内包CNTは、CNT自体の特性(導体、半導体、触媒、高強度材等としての適用)に加え、金属との複合材料としての特性を発揮できる新材料として、水素吸蔵材料、電子材料を初めとする広範な用途で注目されている。
従来、内包CNTの製造方法としては、まず化学処理等によってCNT先端を開放し、その後熱処理等によって金属や金属化合物を内包する方法が一般的であるが、多段階処理であるため高効率の内包が極めて困難であった。又、開端部より金属や金属化合物を連続的に挿入することが困難であり、不連続構造になるという問題点があった。
【0003】
上記問題点を解決する1つの方法として、特許文献1には、アセチレンガス等を用いた分子ビーム法により、基板上に金属内包CNTを一段階で成長させる方法が開示されている。しかし、本方法では、比較的高い内包率を得られるものの、高真空を要する、可燃性ガスを用いる等の煩雑さや高コスト化の問題点があり、又、大面積基板には適用できないという問題点があった。さらに、金属内包CNTの凝集体として得られるため、単独で取扱うことができないという問題点があった。
特許文献2には、金属を含有する炭素電極を用い、水素を含む気体中でアークプラズマを発生させ、鉛直方向に放電させることによる金属内包CNTの製造方法が開示されている。しかし、本方法では、銅(Cu)内包CNTでは90%以上の充填率が得られるものの、その他の金属では、アーク放電に適した融点を有していないこと、炭素との親和性が悪いこと等の理由から内包が困難であった。
【0004】
一方、特許文献3には、炭素源としての有機物の気体と、イオウ含有化合物との混合気体とを、金属含有触媒を使用せずに800℃以上で加熱することによる繊維状カーボンナノ構造体の製造方法が開示されているが、金属化合物内包CNTの製造方法については知られていなかった。
又、非特許文献1に記載のスプレー法はITO(Indium Tin Oxide)薄膜を作製する方法であり、この方法をCNT及び金属化合物内包CNT成長のための金属触媒基板作製に適用した例は、これまでになかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−239481
【特許文献2】特開2009−167031
【特許文献3】特開2008−274491
【0006】
【非特許文献1】Y. Sawada, et al., Thin Solid Films, 409, 46 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い内包率を有する金属化合物内包CNTを提供する。又、凝集体や束状になることなく個々に独立した金属化合物内包CNTを提供する。さらに、アスペクト比が大きく微小な針状構造を有する金属化合物内包CNTを提供する。
本発明は、簡易かつ安価で、大面積化かつ高収率が容易な金属化合物内包CNTの製造方法をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の金属化合物内包CNTは、
<1>金属化合物に含有される金属が、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、鉛(Pd)、銀(Ag)、スズ(Sn)、白金(Pt)から選択される1種類又は2種類以上の合金であることを特徴とする。
<2>上記<1>に記載の金属化合物内包CNTおいて、金属化合物に含有される非金属が、酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)から選択される1種類又は2種類以上の混合物であることを特徴とする。
<3>前記<1>又は<2>に記載の金属化合物内包CNTにおいて、直径と長さの比が、長さ1μmに対して30nm以下であることを特徴とする。
<4>前記<1>乃至<3>に記載の金属化合物内包CNTにおいて、金属化合物を60%以上内包することを特徴とする。
さらに、上記課題を解決するため、本発明の金属化合物内包CNTの製造方法は、
<5>炭素源としての化合物と、内包する金属化合物に含有される非金属と同一の非金属を含む化合物との混合気体と、内包する金属化合物に含有される金属と同一の金属を含む化合物とを800℃以上で加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い内包率を有する金属化合物内包CNTを提供することができる。又、該金属化合物内包CNTは凝集体や束状になることなく個々に独立し、さらにアスペクト比が大きく微小な針状構造を有することから、従来にない金属化合物−CNTハイブリッド材料を提供することができる。
又、本発明によれば、簡易かつ安価で、大面積化かつ高収率が容易な金属化合物内包CNTの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スプレー法による触媒基板作製装置の一例を示す概略図である。
【図2】真空蒸着法による触媒基板作製装置の一例を示す概略図である。
【図3】アルコールCVD法による金属化合物内包CNT作製装置の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の金属化合物内包CNTのSEM像(Si基板表面)である。NiCl2触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)10mL、(c)15mL、(d)20mL、(e)25mLである。
【図5】本発明の金属化合物内包CNTのSEM像(Si基板断面)である。NiCl2触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)10mL、(c)15mL、(d)20mL、(e)25mLである。
【図6】本発明の金属化合物内包CNTのTEM像である。NiCl2触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)10mL、(c)15mL、(d)20mL、(e)25mLである。
【図7】本発明の金属化合物内包CNTの(a)TEM像及び(b)HR−TEM像である。いずれもNiCl2触媒溶液の塗布量は15mLである。
【図8】本発明の金属化合物内包CNTのHR−TEM像である。NiCl2触媒溶液の塗布量は15mLである。
【図9】本発明の金属化合物内包CNTの(a)SEM像(SiO2基板表面)及び(b)SEM像(SiO2基板断面)である。いずれもNiCl2触媒溶液の塗布量は15mLである。
【図10】本発明の金属化合物内包CNTのTEM像である。AlCl3触媒溶液の塗布量は5mLである。
【図11】本発明の金属化合物内包CNTのTEM像である。AgCl触媒溶液の塗布量:(a)5mL、(b)15mLである。
【図12】本発明の金属化合物内包CNTの(a)SEM像(Si基板表面)及び(b)TEM像である。いずれもNi粉末及び真空蒸着法の組合せにより作製した触媒基板を用いた結果である。
【図13】本発明の金属化合物内包CNTの(a)SEM像及び(b)TEM像である。いずれもNi金属板を触媒基板として用いた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<1.金属化合物内包CNT>
本発明の金属化合物内包CNTは、その直径/長さが、30nm/1μm以下、好ましくは20nm/1μm以下、より好ましくは15nm/1μm以下である。又、本発明の金属化合物内包CNTは高い充填率を有し、その充填率は50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上である。
【0012】
金属化合物に含有される金属としては、特に限定されないが、後述の通り化合物の状態で容易に溶液にできる金属が好ましく、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Pd、Ag、Sn、Pt等がより好ましい。
又、金属化合物に含有される非金属としては、特に限定されないが、後述の通り上記金属と結合し容易に化合物になる、又、容易にCNTに内包される非金属が好ましく、O、S、Se等がより好ましい。金属化合物内包CNTが、高結晶率の金属化合物をCNTの根元から高充填率で内包し、基板上で直進的に垂直配向して且つ束にならずに成長するためにはSが好適である。
【0013】
<2.金属化合物内包CNTの製造方法>
本発明の金属化合物内包CNTの製造方法は、以下に記す(1)金属触媒基板を作製する工程と、(2)該基板上に金属化合物内包CNTを成長させ作製する工程とを含む。
【0014】
(1)触媒基板の作製
触媒基板の作製方法としては、スプレー法、真空蒸着法、レーザーデポジション法、パルスアーク放電法等が挙げられるが、基板上に金属触媒を塗布できればいかなる方法でもよい。又、基板としては、シリコン(Si)、Fe、チタン(Ti)、Mo等の金属、グラファイト、石英(SiO2)、モレキュラーシーブス、ゼオライト等が挙げられる。
スプレー法では、まず、金属触媒溶液を調製する。溶質は、金属化合物内包CNTにおいてCNTに内包される金属又は該金属を含む物質であれば特に限定されないが、室温で揮発せず安定性が高い等の取扱いの容易な点、安価である点から、塩化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩等が好適である。溶媒は、該金属を含む物質を均一に溶解する物質であれば特に限定されないが、水(蒸留水)、アンモニア水、エタノール等が例示される。溶液濃度は、飽和濃度以下であれば特に限定されない。又、希薄濃度では、溶液の噴霧回数を多くすることにより、基板への十分な塗布量を確保することができる。次に、金属触媒溶液を加熱した基板に噴霧・塗布する。スプレー法による触媒基板作製の概略を図1に例示する。
真空蒸着法では、金属化合物内包CNTにおいてCNTに内包される金属又は該金属を含む物質を真空中で加熱・蒸発させ、基板に塗布する。真空蒸着法による触媒基板作製の概略を図2に例示する。
触媒金属の基板への塗布量(濃度)は、0.1×10−6〜10×10−6mol/mm2、好ましくは0.5×10−6〜5×10−6mol/mm2、より好ましくは1×10−6〜3×10−6mol/mm2である。
【0015】
(2)金属化合物内包CNTの作製
金属化合物内包CNTの作製には、炭素源及び金属化合物に含有される非金属を必要とする。
炭素源としては、炭素単体の他、炭素を含む有機物、無機物の何れであってもよい。特に有機物が好適であり、炭素原子を分子内に含む有機物であり、容易に気化可能なものであれば特に限定されず、常温・常圧で気体、液体、固体の何れでもよい。例えば、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、フェノール類、エーテル類、アルデヒド類等が挙げられる。これらを1種類又は2種類以上を混合して用いることができるが、1分子中の炭素原子数が多く、生産効率が良い、毒性が小さい等の点で、アルコール類が好ましく、毒性、安全性、沸点が低く取扱いが容易等の点でエタノールがより好ましい。
金属化合物に含有される非金属としては、該非金属単体、該非金属を含む化合物の何れであってもよく、上記炭素源に含まれてもよい。化合物の場合、該非金属をその分子内に含む化合物であり、容易に気化可能なものであれば特に限定はなく、常温・常圧で気体、液体、固体の何れでもよく、有機化合物、無機化合物を問わない。又、前記の通り、金属化合物に含有される非金属としてはSが好ましく、S、二硫化炭素(CS2)、チオール、チオフェン、チオフェノール等が例示される。
【0016】
炭素源としての化合物と金属化合物に含有される非金属を含む化合物とが異なる場合、それらの混合物、例えば混合溶液を調製しておき、該混合溶液を気化してもよいが、それぞれを独立に取扱い、ガス混合器等内で混合気体にしてもよい。化合物の取扱い、混合比の制御が容易等の点で後者がより好ましい。
次に、前記(1)で調製した触媒基板を反応炉内に設置し、上記炭素源と金属化合物に含有される非金属との混合気体を該反応炉内に導入し、加熱することによって金属化合物内包CNTを作製する。作製方法を図3に例示する。
【0017】
なお、上記加熱温度は800℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましい。又、加熱時間は特に限定されないが、5分〜1時間が好ましく、10〜30分がより好ましい。又、大気圧以下に減圧した雰囲気で加熱することが好ましい。
加熱炉内には、炭素源と金属化合物に含有される非金属の気体だけが存在していてもよいが、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、窒素(N2)等の不活性気体が存在していてもよい。
加熱炉としては、電気炉、マイクロ波加熱炉、レーザー加熱炉、プラズマ加熱炉、アーク加熱炉等が挙げられるが、加熱炉内の雰囲気温度の制御とコストの点で、電気炉を用いることが好ましい。
【実施例】
【0018】
以下に本発明の好適な一実施の形態を実施例によって具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の実施形態によって限定されるものでなく、本発明の範囲で様々に改変して実施することができる。
【0019】
<実施例1:スプレー法による触媒基板作製>
非特許文献1に記載のスプレー法を触媒基板の作製に展開した。Si基板、SiO2基板上に金属を含んだ触媒溶液を噴霧することで触媒基板を作製した。以下にその手順を記す。
(1)金属触媒溶液の調製
触媒となる塩化アルミニウム六水和物(AlCl2・6H2O)を、Al濃度が0.4Mとなるよう蒸留水に溶解した。又、塩化ニッケル無水物(NiCl2)を、Ni濃度が0.4Mとなるよう蒸留水に溶解した。さらに、塩化銀(AgCl)を、Ag濃度が0.4Mとなるようアンモニア水(28〜30%)に溶解した。これらの触媒溶液の調製は、試薬の潮解による重量変化を防ぐためにグローブボックス内で行った。
(2)触媒基板の作製
上記(1)で調製した触媒溶液を、加熱したSi基板(5mm×10mm)、又はSiO2基板(6mm×18mm)にスプレー装置を用いて噴霧することで触媒基板を作製した(図1)。なお、噴霧の際の条件を次の通りに設定した。
基板加熱温度:400℃
エア圧力:0.2MPa
噴霧間隔:1/4Hz
噴霧時間:0.2秒
スプレーノズルと触媒基板との距離:15cm
噴霧量:5、10、15、20、25mL(Si基板、SiO2基板に対して、それぞれ5種類の触媒基板を作製した)
【0020】
<実施例2:真空蒸着法による触媒基板作製>
金属を真空中でSi基板又はSiO2基板の表面に蒸着することにより、触媒基板を作製した。以下にその手順を記す。
タングステンコイル中に配置したアルミナるつぼの中に金属(Al、Ni、Ag)粉末を入れ、その真上にSi基板(5mm×10mm)又はSiO2基板(5mm×10mm)を配置した。ベルジャー内をロータリーポンプとディフュージョンポンプを用いて5×10−5torrまで真空排気し、コイルに電流を流して、金属を蒸着させ、触媒基板を作製した(図2)。なお、蒸着の際の条件を次の通りに設定した。
蒸着源と基板との距離:5cm
コイル電流:75A
蒸着時間:10、15、20分(Si基板、SiO2基板に対して、それぞれ3種類の触媒基板を作製した)
【0021】
<実施例3:その他の触媒基板>
市販の金属板を5mm×10mmに切断し、触媒基板として使用した。使用した金属板は次の通りである。
Ni:(株)ニラコ、NI-313463、0.50×100×300mm、99+%
Ti:(株)ニラコ、TI-453441、0.40×100×100mm、99.5%
Al:(株)ニラコ、AL-013466、0.50×200×300mm、99+%
Fe:(株)ニラコ、FE-223409、0.25×150×150mm、99.5%
【0022】
<実施例4:金属化合物内包CNTの作製>
前記実施例1〜3で作製した触媒基板上に、アルコールCVD(Chemical Vapor Deposition)法により金属化合物内包CNTを作製した。図3に実験に使用したCVD装置の概略を示す。この装置では、原料となる炭素源として用いるエタノールとCS2がそれぞれ独立しており、マスフローコントローラによって流量を制御した後、ガス混合器で均一に混合され反応炉内に導入される仕組みになっている。
エタノールの蒸気圧は室温(22℃)において0.065Paと非常に低く、このままの状態では流量を十分に制御することができない。この問題を解消するために、エタノールを60℃の恒温槽に浸けて加熱し、蒸気圧を0.46Paまで高めることで流量の制御を行った。さらに配管部分での温度低下によるエタノールの凝集を防ぐために、シリコンコードヒータを用いてガス混合器に導入するまでの配管とマスフローコントローラも60℃まで加熱した。なお、CS2は室温(22℃)において高い蒸気圧(39.7kPa)を持つため、室温でも十分な流量制御が可能である。
【0023】
まず反応炉内中心部に触媒基板を設置し、系内をロータリーポンプを用いて0.01torr程度まで真空排気し、アルゴンガスを大気圧まで導入して、系内を不活性ガスで完全に満たした。その後、触媒基板のアニーリングとして、アルゴンガスを大気圧で約15sccmで流しながら反応炉中心部を640℃に昇温し、30分間この状態を保った。アニーリング終了後、アルゴンガスを流しながら反応路中心部を1000℃に昇温し、ロータリーポンプで0.01torr程度まで真空排気した。エタノールを90sccm、CS2を10sccmの流量に設定し、それらをガス混合器で混合したものを炭素源として反応炉内に導入し、30分間の反応を行った。反応中の炉内圧力は750torr程度に保たれる。反応終了後、炭素源の導入を止め、系内を大気圧までアルゴンガスで満たし、約150sccmでアルゴンを流しながら室温まで冷却し、基板を回収した(回収した基板を、以下「サンプル」と略記する)。
【0024】
<実施例5:金属化合物内包CNTの評価>
以下の分析装置を用いて、上記実施例4で得られた生成物の評価を行った。
(1)走査型電子顕微鏡(SEM)
サンプルの表面形態をSEM (S-4000、日立製作所) を用いて観察した。なお、チャージアップを防ぐため、サンプル表面に金蒸着を施した。
(2)透過型電子顕微鏡(TEM)
サンプルの内部構造をTEM(H-800、日立製作所)を用いて観察した。なお、サンプルはエタノールに分散させた後、マイクログリッド上に滴下・乾燥させたものを観察サンプルとした。観察時の電子線の加速電圧は100kVとした。
(3)高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)
サンプルの内部構造をHR−TEM(H-9000、日立製作所)を用いて観察した。観察方法はH-800の場合と同様である。観察時の電子線の加速電圧は300kVとした。
【0025】
結果の一例として、NiCl2触媒溶液をスプレー法によりSi基板に噴霧し作製した触媒基板(実施例1)を、アルコールCVD法に供し得られた生成物(実施例4)ついて以下に記す。
各触媒量におけるサンプル表面のSEM写真を図4に、断面のSEM写真を図5に示す。SEMによる観察では、触媒量が増加するほど基板上の生成物が増加する傾向が伺える。特に触媒量が15mLの場合においては、直進的な垂直配向性を持つチューブ状が均一に基板上に成長しており、凝集体や束状になることなく個々が独立して成長していることがわかった。これらは直径が約90nm、長さが約7μmであり、直径、長さともに揃っているのが特徴である。又、触媒の量が15mLを超えると粒子状の物質が基板上に増えていく様子が確認できた。
【0026】
図6に各触媒量におけるサンプルのTEM写真を示す。TEM観察を行った結果、いずれの触媒量においても内包チューブの形成が確認された。SEM観察で見られた傾向と同様に、触媒量5mLのサンプルでは生成物全体の収量が少なく、内包チューブは数本程度確認できるのみであった。触媒量が増加するに従い生成物全体の収量が増加し、特に触媒量が15mLの際に細く直進的な形状をもつ内包チューブの量が最大となった。
【0027】
アルコールCVD法を用いたナノチューブの成長には、根元成長と先端成長と呼ばれる2つのプロセスが考えられている。今回形成した内包ナノチューブは一方の端に球状の粒子を有していた(図4(c)及び図6(c))。SEMとTEMによる観察結果から、今回形成した内包チューブは根元からの触媒によって成長していると考えられる。
又、完全な形状の内包チューブは、ほとんどのものがチューブと粒子の間に空洞を有していた。TEMにおいて観察された内包チューブの大多数は粒子状の一端が欠けていたが、これは粒子状とチューブの接合部分に集中している歪みと、この空洞によって根元部分が非常に折れやすくなっていることが原因と考えられる。
触媒量が15mLからさらに増加すると、内包物質の形状が不均一になり、湾曲したものや粒子状の物質が多数観察されるようになった(図6(e))。この傾向はSEM観察でも確認されており、太いチューブや粒子状物質は触媒量が過剰なために形成したと考えられる。
【0028】
TEM観察により、内包チューブは非常に高い充填率(約80%)を有していることが確認できる(図7)。又、HR−TEMによる構造解析(図8)からは、内包物が高い結晶性を持っていることが確認でき、原料に用いたCS2中のSと触媒のNiが反応してできた硫化ニッケル(Ni3−xS2)であることがわかった。又、CNTは50層程度であることが確認された。
【0029】
SiO2基板を用いた場合のNi化合物(図9)、及びSi基板又はSiO2基板を用いた場合のAl、Agの化合物についても同様に内包することができた(図10及び図11)。図10及び図11はSi基板を用いた場合の結果であるが、Ni化合物では触媒量15mLの場合が最良であったのに対し、Al、Agの化合物では、基板の種類に関わらず、触媒量5mLの場合が最良であった。
又、真空蒸着法により作製した金属触媒基板を用いた場合(実施例2)においても、同様に内包することができた(図12)。さらに、市販の金属板を触媒基板とした場合(実施例3)においても内包でき(図13)、特にNi、Alについて良好な結果が得られた。これらの結果は、触媒基板の作製方法や触媒溶液の種類によらず、金属化合物がCNTに内包されることを示すものである。
【0030】
成長条件より、金属化合物内包CNTの調製には、1000℃以上(少なくとも800℃以上)の温度及び基板1枚あたり1×10−6〜3×10−6mol/mm2(少なくとも0.5×10−6〜5×10−6mol/mm2)の触媒金属が必要であることがわかった。又、成長温度や原料供給量の関係より、CS2から供給されるSが金属化合物内包CNT形成の重要要素であると考えられる。即ち、加熱によってSの粘度が減少しやすいため、CNTの成長にともなって、金属硫化物がCNTの根元から先端へと運ばれやすくなることで高い内包率が得られ、かつ容易にCNTに内包されると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
基板上への金属化合物溶液の位置選択的塗付により、電子デバイスの微細配線が可能となる。特に垂直配向成長の特長を生かし、接触抵抗を低減したビア配線(垂直配線)としての利用が有望である。又、1本の内包CNTに注目した場合、アスペクト比の大きい針状構造であることから、微小なナノ電流プローブとして最適な構造である。
さらに、硫化ニッケルについては、リチウムイオン電池の電極の活物質として利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物に含有される金属が、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Pd、Ag、Sn、Ptから選択される1種類又は2種類以上の合金であることを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項2】
金属化合物に含有される非金属が、O、S、Seから選択される1種類又は2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項3】
直径と長さの比が、長さ1μmに対して30nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項4】
金属化合物を60%以上内包することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項5】
炭素源としての化合物と、内包する金属化合物に含有される非金属と同一の非金属を含む化合物との混合気体と、内包する金属化合物に含有される金属と同一の金属を含む化合物とを800℃以上で加熱することを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項1】
金属化合物に含有される金属が、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Pd、Ag、Sn、Ptから選択される1種類又は2種類以上の合金であることを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項2】
金属化合物に含有される非金属が、O、S、Seから選択される1種類又は2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項3】
直径と長さの比が、長さ1μmに対して30nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項4】
金属化合物を60%以上内包することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属化合物内包カーボンナノチューブ。
【請求項5】
炭素源としての化合物と、内包する金属化合物に含有される非金属と同一の非金属を含む化合物との混合気体と、内包する金属化合物に含有される金属と同一の金属を含む化合物とを800℃以上で加熱することを特徴とする金属化合物内包カーボンナノチューブの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−236096(P2011−236096A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110464(P2010−110464)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
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