説明

金属含有キレート主鎖を有する新規なモノサイト触媒成分

【課題】金属含有キレート主鎖を有する新規なモノサイト触媒成分。
【解決手段】主鎖が金属を含むキレートリガンドを開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有キレート主鎖を有する新規なモノサイト触媒成分をベースにした触媒系に関するものである。
この錯体はオレフィンのオリゴマー化に適している。
【背景技術】
【0002】
均一触媒系を開発するためにNOキレートリガンドを有する遷移金属錯体が重点的に研究されてきた。種々の触媒系でサリチルアルジミン誘導体は重要なリガンドと考えられており、例えば下記非特許文献1に記載のような例えばアルケンメタテシスのためのルテニウムカルベン錯体や、例えば下記非特許文献2に記載のような高活性アルケン重合触媒の中性ニッケル(II)を形成するための重要なリガンドと考えられ、さらに、下記非特許文献3に記載のような単一成分モードで機能する。
【非特許文献1】Opstal および Verpoort(Opstal T., Verpoort F., in J.Mol.Cat. A:Chem.,2003,200,49)
【非特許文献2】Ittel et al.(Ittel S.D., Johnson L.K., Brookhart M., in Chem.Rev.2000,100,1169)
【非特許文献3】Younkin et al.(Younkin T.R., Conner E.F., Henderson J.I., Friedrich S.F., Grubbs R.H.,Bansleben D.A., in Science, 2000,287,460)
【0003】
キレートリガンドの各種特徴は例えばNOキレート環の寸法を研究した非特許文献4によって広範囲に研究されている。
【非特許文献4】Hicks et al.(Hicks F.A., Jenkins J.C. Brookhart M., in Organometallics 2003, 22,3533)
【0004】
置換基がキレート主鎖に与える電子的および立体的な影響も研究されている。例えば非特許文献5に記載の通り、サリチルアルジミネート錯体中のN−アリール基中の極めて大きい置換基が高分子ポリマーの製造および触媒活性に重要な役目を果たすことも発見されている。
【非特許文献5】Shim et al.(Shim C.B., Kim Y.H., Lee B.Y., Dong Y., Yun H., in J. Organomet. Chem. 2003,675,72)
【0005】
ごく最近、N−アリール基における離れた置換基による分岐および分子量の顕著な電子的微調整が非特許文献6に詳細に述べられている。
【非特許文献6】Zuideveld et al.(Zuideveld M., Wehrmann P., Rohr C., Mecking S. in Angew. Chem. Int.Ed. 2004,43,869)
【0006】
しかし、これらの錯体を用いてポリマーをテーラーメードで製造(taylor)するためには置換基の役割と錯体の電子構造に対するより良い理解が必要である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、金属含有リガンド主鎖 (backbones) を有するキレート錯体を調製することにある。
本発明の別の目的は、これらのキレート錯体の調製方法を提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、これらの錯体を用いてα−オレフィンをオリゴマー化または重合することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は一般式Iの金属含有リガンド主鎖を有するキレート錯体を開示する:
【化1】

【0009】
(ここで、
Gは金属M1の活性を抑制する基、例えばCO基または単座または二座アミンまたはホスフィンまたはシクロペンタジエニルまたは同様な一般に用いられる任意のリガンドであり、
主鎖中の金属M1は周期表の第6〜9族金属であり、
キレート錯体中の金属M2は周期表の第10族金属であり、
1およびR2は1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルの中から互いに独立して選択され、
AはOまたはNR#(ここでR#は4〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルの中から選択される)であり、
Bはアリルであるか、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基およびピリジンまたは同様な窒素複素環、有機ニトリルまたはホスフィン基を表し、
nはM1の原子価から2を引いた数である)
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1はReまたはMnであるのが好ましい。
2はNiまたはPdであるのが好ましい。
GはCO基であるのが好ましい。
1およびR2は互いに独立して、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基または6〜10個の炭素原子を有するアリール基であるのが好ましく、これらは同じで、メチル基であるのがさらに好ましい。
【0011】
本発明の第1実施例では、本発明は一般式IIのキレート錯体を提供する:
【化2】

【0012】
(ここで、
金属M1、M2、n、R1およびR2は上記定義のものであり、
3およびR4は1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルの中から互いに独立して選択される)
3およびR4は互いに独立して1〜6個の炭素原子を有するアルキル基または6〜10個の炭素原子を有するアリール基であるのが好ましく、これらは同じで、メチル基であるのがさらに好ましい。
【0013】
本発明の第2実施例では、本発明は式IIIのキレート錯体を開示する:
【化3】

【0014】
(ここで、
5は1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、R6は1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルまたは1〜20個の炭素原子を有する全部または一部がハロゲン化されたヒドロカルビル、R7はアミンまたはホスフィンである)
5はアリール基であるのが好ましく、置換アリール基であるのがさらに好ましく、置換フェニル基であるのがさらに好ましい。
6は1〜6個の炭素原子を有する完全にハロゲン化されたアルキルであるのが好ましく、CF3であるのがさらに好ましい。
7はピリジンであるのが好ましい。
【0015】
本発明の第3実施例では、本発明は式IVのキレート錯体を開示する:
【化4】

【0016】
(ここで、全ての記号は上記定義のものを表す)
【0017】
本発明はさらに、式I、II、IIIおよびIVの錯体の製造方法を開示する。
錯体Iの一般的な製造方法は、下記一般式Vのキレートリガンドを出発材料として2つある:
【化5】

【0018】
その第1方法では上記キレートリガンドVを、
1)先ず最初にM3Y(ここで、M3はLi、NaまたはKの中から選択でき、Yは塩基で、R*、OR*またはNR*2(ここで、R*は任意のヒドロカルビル基)の中から選択できる)と反応させ、
次に、LXM2=B(ここで、M2およびBは上記定義のもの、Xはハロゲン化物またはスルホネートの中から選択でき、Lは好ましくはホスフィンである)と反応させ、
最後に、HYおよびM3Xを除去して錯体Iを生成する。
BがアリルのときはLはXM2=Bを表し、1/2当量のみを適用する。
【0019】
第2方法では上記キレートリガンドVをLRX2=B(ここで、RXはヒドロカルビル、Lはアミンまたはホスフィンのような任意の中性ドナーリガンド)と反応させ、LおよびHRXを除去する。
式IIの錯体の製造方法は(a)および(b)の段階を含む:
(a)一般式VIの錯体を用意し:
【化6】

【0020】
(b)段階(a)の化合物Vを式:M2(Gr)v(ここで、GrはHと結合する塩基、vは金属M2の原子価である)と反応させて式IIの化合物を生成し、HGrを除去しする。
GrはR*、OR*またはNR*2(R*は任意のヒドロカルビルにすることができる)の中から選択できる。
【0021】
式IIIの錯体の製造方法は下記(a)〜(d)の段階を含む:
(a)一般式Y[M1(G)m](ここで、YはLi、Na、Kの中から選択でき、mはM1の原子価から1を引いた数である)の化合物を用意し、この化合物を溶剤中で下記一般式の化合物と反応させ:
【化7】

【0022】
(ここで、Xはハロゲンまたはその他の脱離基である)、生成物YXを遊離させ、化合物VIIを生成し、
【化8】

【0023】
(b)溶剤中の化合物VIIを式:R1Z(ここで、ZはLi、Na、Kの中から選択でき、R1は1〜10個の炭素原子を有するアルキル基である)の化合物と反応させて式VIIIの化合物を生成し、
【化9】

【0024】
(c)化合物VIIIの化合物を酸HXと反応させて式IXの化合物を生成し、ZXの塩を放出し、
【化10】

【0025】
(d)化合物IXを一般式Xの金属M2のジアミン化合物:
【化11】

【0026】
(ここで、Ra、Rb、Rc、Rdは特に限定されず、1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルの中から互いに独立して選択できる)と反応させ、この反応は溶剤中で行い、必要に応じてさらに安定化剤を用い、
(e)メタンおよび対応ジアミンとを放出して式IIIの化合物を回収する。
【0027】
上記溶剤は一般にジエチルエーテル(Et2O)またはテトラヒドロフラン(THF)から選択できる。
全てのRa、Rb、Rc、Rdは同じで、メチル基であるのが好ましく、この場合、放出される対応ジアミンはテトラメチルジアミンである。
安定化剤が含まれるのが好ましい。この安定化剤はCH3CNまたはその他の有機ニトリルまたはピリジンまたは同様の窒素複素環の中から選択される。ピリジンであるのがさらに好ましい。
式IVの錯体は各種経路によって調製でき、その調製方法は金属M2の種類に応じて選択する。
【0028】
2がNiである式IVの錯体の調製方法は、上記式IIIの金属化合物の調製法で用いられる段階(a)〜(c)の後に下記(d)および(e)を含む:
(d)段階(c)の式IXの錯体を、溶剤中で、化合物R8Z(ここで、R8は1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル)および式[{Ni(アリル)X}2](ここで、アリルは置換されていてもよく、Xはハロゲンである)のニッケル化合物と、0℃以下の温度で30分〜2時間反応させ、
(e)ZXとアルカンR8Hとを放出して一般式IVのニッケル錯体を回収する。
Zはリチウムであり、Xは塩素であり、R8はブチルであるのが好ましい。
温度は−10℃以下であるのが好ましく、−20℃以下であるのがさらに好ましく、約−78℃であるのがさらに好ましい。
反応は約1時間行うのが好ましい。
【0029】
2がPdである式IVの錯体の調製方法は、上記式IIIの金属化合物の調製で用いられる段階(a)および(b)の後に下記(b)および(c)を含む:
(b)段階(b)の式VIIIの錯体を、溶剤中で、式[{Pd(アリル)X}2](ここで、アリルは置換されていてもよく、Xはハロゲンである)のパラジウム化合物と0℃〜室温(約25℃)の温度で30分〜2時間反応させ、
(c)ZXを放出して式IVの錯体を回収する。
【0030】
本発明のさらに別の実施例では、キレートリガンドの主鎖中の一つまたは複数のCO基を例えばピリジン、ジピリジン、フェナントロリンのようなアミンで置換できる。
本発明の錯体はα−オレフィンのオリゴマー化に用いることができる。
系の活性を向上させるために活性化剤を用いるのが好ましい。
本発明はさらに、下記(a)〜(c)を含む活性オリゴマー化触媒系を開示する:
(a)上述の金属錯体の任意の一つ、
(b)任意成分の活性化剤、
(c)任意成分の担体。
【0031】
活性化剤は式:AIR$n3-n(ここで、R$は1〜20個の炭素原子を有するアルキル、Xはハロゲンである)で表されるアルミニウムアルキルにすることができる。好ましいアルキル化剤はトリイソブチルアルミニウム(TIBAL)またはトリエチルアルミニウム(TEAL)である。
【0032】
活性化剤としてアルモキサンを用いることもできる。アルモキサンは周知のもので、好ましくは下記式で表されるオリゴマーの直鎖および/または環状のアルキルアルモキサンから成る:
オリゴマーの直鎖アルモキサン:
【化12】

【0033】
オリゴマーの環状アルモキサン:
【化13】

【0034】
(ここで、nは1〜40、好ましくは10〜20であり、mは3〜40、好ましくは3〜20であり、RはC1〜C8のアルキル基、好ましくはメチル基である)
【0035】
適したホウ素含有活性化剤は特許文献1に記載のようなボロン酸トリフェニルカルベニウム、例えばテトラキス−ペンタフルオロフェニル−ボラート−トリフェニルカルベニウムまたは特許文献2(6頁30行〜7頁7行)に記載のような一般式[L’−H]+[B Ar1 Ar234]−のものを含む。
【特許文献1】欧州特許第EP−A−0427696号
【特許文献2】欧州特許第EP−A−0277004号
【0036】
触媒成分は必要に応じてさらに担体で支持できる。好ましい担体にはタルク、無機酸化物のような多孔質固体担体およびポリオレフィンのような樹脂の担体材料がある。担体材料は微粉の無機酸化物であるのが好ましい。
適した無機酸化物材料は当業界で周知である。担体は表面積が200〜700m2/gで、細孔容積が0.5〜3ml/gであるシリカ担体であるのが好ましい。
固体担体触媒の調製で通常使用される活性化剤および触媒成分の量は広範囲に変えることができ、活性化剤および金属の種類に依存する。一般にAl/M2比は100〜2000の間で変化する。
【0037】
本発明はさらに、下記(a)〜(d)の段階を含むα−オレフィンのオリゴマー化方法を開示する:
(a)必要に応じて支持された上記の活性触媒系を反応器に注入し、
(b)モノマーおよび任意成分のコモノマーを反応器に注入し、
(c)オリゴマー化条件下で維持し、
(d)オリゴマーを回収する。
【0038】
オリゴマー化条件は特に限定されていない。温度は20〜80℃、好ましくは30〜40℃で変えることができ、圧力は1〜10bar、好ましくは3〜8barで変えることができる。オリゴマー化は一般に少なくとも1時間行う。
モノマーおよびコモノマーは一般にα−オレフィンの中から選択されるが、スチレンおよび極性モノマー例えばメタクリレートおよびメチルビニルケトンを含むことができる。モノマーおよびコモノマーはエチレンおよびプロピレンの中から選択するのが好ましい。
【実施例】
【0039】
全ての操作は窒素雰囲気下で行った。THF、ジエチルエーテル、ペンタンおよびトルエンはNa/ベンゾフェノンから蒸留し、CH2Cl2はCaHから蒸留した。第1アミンおよびピリジンをKOHで乾燥し、使用前に蒸留した。アルキルリチウム試薬、ビピリジンおよびフェナントロリンはFlukaアルドリッチおよびACROSから入手し、Ni(acac)2はABCRから、MAOはATOFINAから、[{Pd(アリル)Cl}2]はアルドリッチから入手した。レナ−β−ジケトン、トリフルオロアセチルイミドイルクロライド、[{Ni(アリル)Cl}2]および[{Ni(tmeda)CH32]はそれぞれ下記非特許文献7〜10に記載の手順に従って調製した。
【非特許文献7】LukehartおよびZelie(Lukehart C.M.,Zelie J.V., in J.Am.Chem.Soc.,98,2365,1976)
【非特許文献8】Tamura et al.(Tamura K., Mizukami H., Maeda K., Watanabe H., Unayama K., in J.Org.Chem., 58, 32,1993)
【非特許文献9】Taube.et al.(Taube R., Bohme P., Gehrke J.-P., in Z. Anorg.Alleg.Chem.578, 89,1989)
【非特許文献10】Kaschube et al.(Kaschube W., Porschke K. R., Wilke G., in J.Organomet.Chem., 355,525,1988)
【0040】
NMRスペクトルをBruker 300および400 MHz分光計で記録し、IRスペクトルはASI React−IR分光計で測定した。ガスクロマトグラフィはThermoQuest Trace GC2000機器を用いた。
【0041】
レナ−β−ケトイミン(錯体2〜5)の調製:
これらの調製は非特許文献11に記載の図1の反応方法1に従って行った。
【非特許文献11】LukehartおよびZelie(Lukehart C.M.,Zelie J.V., in J.Am.Soc.,100,2774,1978)
【0042】
出発材料の錯体1は下記である:
【化14】

【0043】
5mlのCH2Cl2に溶かした0.5mmolの出発材料の錯体1の溶液に、3.0mmolのRNH2(ここで、RはCH2CH(CH32またはC611またはCH265またはC65の中から選択される)を添加した。混合物を室温でRの種類に依存した時間攪拌した。この時間はR=CH2CH(CH32では1時間、R=C611では6時間、R=CH265では9時間、R=C65では48時間にした。溶剤を減圧除去した。残留物をペンタンに溶かし、濾過後に溶剤を減圧除去し、黄白色の油−固体混合物を生成した。アニリンの場合には溶剤としてのEt3N中で反応を行い、4Åのモレキュラーシーブを添加した。混合物を2日間極めてゆっくりと攪拌した。溶剤を減圧除去し、残留物を約10mlのペンタンを用いて抽出し、ペンタン除去後に粗生成物として黄色の油を回収し、これをシリカゲルを用いたクロマトグラフィで精製した。収率は50〜60%であった。
【0044】
最終生成物を1H NMR分析して下記の結果を得た:
【化15】

【0045】
イミドイルペンタカルボニルレニウム錯体6、7およびレナ−β−イミン(錯体8)の調製:
これらの調製は図2に示した新規な反応方法2に従って行った。
30mlのTHFに溶かした1.65mmolのNa[Re(CO5)]の溶液を1.63mmolのF3CC(Cl)=NR(ここで、Rはそれぞれp−CH3OC64またはナフチルの中から選択される)と反応させた。反応中に白色の沈殿物が形成され、溶液は淡黄色になった。一日後、懸濁液を濾過し、濾液の溶剤を減圧除去した。黄色残留物を100mlのペンタンに溶かし、溶液を1時間攪拌し、沈殿物を濾過し、濾液の容積を減圧して減らした。淡黄色の結晶が析出した。収率はいずれの場合も95%であった。
【0046】
最終生成物の1H NMRおよび赤外(IR)分析法の結果は下記の通り:
【化16】

【0047】
640mg(1.22mmol)の前段階で調製した錯体6を40mlのジエチルエーテルに溶かした0.83ml(1.22mmol)のCH3Liと−78℃の温度で反応させた。反応混合物を2時間攪拌した後に、6ml(1.22mmol)の飽和HCl溶液をジエチルエーテルに溶かしたものを−78℃の温度で添加し、15分間攪拌下に維持した。次いで混合物を0℃まで暖め、0℃でさらに1時間攪拌した。溶剤を減圧除去し、黄色残留物を120mlのn−ヘキサンを用いて室温で抽出した。溶液を濾過した後、溶剤を減圧除去し、333mgの黄色油(錯体8)を収率50%で得た。
【0048】
NMRおよびIR分析法の結果は下記の通り:
【化17】

【0049】
出発材料の錯体1または錯体6中の一つまたは複数のCO基は窒素含有化合物で置換できる。
【0050】
ビピリジン レナ−β−ジケトン(錯体9)の調製:
197mg(0.51mmol)の出発材料の錯体1を14mlのトルエンに溶かした85mg(0.54mmol)のビピリジンと室温で3日間の間反応させた。この期間中に反応溶液から鮮黄色の粉末が徐々に沈殿した。この粉末を濾過して回収し、5mlのヘキサンで洗浄し、真空乾燥した。70mg(0.144mmol)の錯体9が収率28%で得られた。
NMRおよびIR分析法の結果は下記の通り:
【化18】

【0051】
ピリジンイミドイルレニウム(錯体10)の調製:
100mg(0.189mmol)の錯体6を5mlのトルエンに溶かし、この溶液に15.7mg(0.198mmol)のピリジンを添加した。反応混合物を一晩還流した。この間に色が淡黄色から鮮紅色に変わった。トルエンを減圧除去し、残りの赤みを帯びた油を3mlのn−ヘキサンで洗浄し、真空乾燥した。98mg(0.17mmol)の錯体10が収率91%で得られた。
IR分析を行い、下記の結果が得られた:
IR(CH2Cl2,νcm-1):2086、1978,1939,1893。
【0052】
フェナントロリンイミドイルレニウム(錯体11)の調製:
100mg(0.189mmol)の錯体6を5mlの還流トルエンに溶かした36mg(0.2mmol)の1,10−フェナントロリンと反応させた。一日以内に色が淡黄色から暗橙色に変わった。生成した橙赤色の結晶を冷却し、濾過し、3mlのn−ヘキサンを用いて洗浄し、真空乾燥した。74mg(0.11mmol)の錯体11が収率60%で得られた。
NMRおよびIR分析法結果は下記の通り:
【化19】

【0053】
錯体9、10、11の調製は[図3]に概念的に示してある。
【0054】
レナ−β−ジケトネートニッケル(II)(錯体12)の調製:
99mg(0.389mmol)のNi(acac)2を7mlのTHFに溶かした溶液を5mlのTHFに溶かした150mg(0.389mmol)の錯体1の溶液に添加した。反応混合物を3時間攪拌した。溶剤を減圧除去し、残留物をペンタンから再結晶し、青緑色の結晶固体(錯体12)を生成する。この調製は[図4]に概念的に示してある。
錯体12に対するNMRおよびIR分析法の結果は以下の通り:
【化20】

【0055】
レナ−β−ケトイミネートアリルニッケル(II)(錯体13および14)の調製:
7mlのTHFに溶かした200mg(0.454mmol)の錯体2の溶液に0.283mlのnBuLi(ヘキサン中に1.6M)を−78℃の温度で添加した。−78℃で1時間攪拌後、2mlのTHFに溶かした61mg(0.454mmolのNi)の[{Ni(アリル)Cl}2]の溶液を同じ温度で添加した。反応混合物を−78℃でさらに1時間攪拌した。溶剤を除去し、暗赤褐色の固体を得た。同様に、錯体5をnBuLiおよび[{Ni(アリル)Cl}2]と反応させ、やはり暗赤褐色の固体を生成した。
錯体13および14は[図5]に概念的に示してある。これらをC66中で1H NMRによって特徴付けた:
【化21】

【0056】
レナ−β−ケトイミネートメチルニッケル(II)(錯体15)の調製:
420mg(0.95mmol)の錯体2と195mg(0.95mmol)の[{Ni(tmeda)CH32]とを20mlのジエチルエーテルに溶かした溶液に0.77mml(9.5mmol)のピリジンを添加した。反応混合物を室温で6時間攪拌した後、組成生物から暗赤褐色の沈殿物を濾過し、次いで、ペンタンで洗浄し、真空乾燥した。
この調製は[図6]に概念的に示してある。NMR分析の結果は下記の通り:
【化22】

【0057】
レナ−β−ケトイミネートアリルパラジウム(II)錯体16、17、18の調製:
107mg(0.189mmol)の錯体6を10mlのTHFに溶かした0.128mlのCH3Liと0℃の温度で反応させた。反応混合物を1時間攪拌下に維持した後、35mg(0.096mmol)の[{Pd(アリル)Cl}2]を反応溶液に添加し、この混合物をさらに3時間攪拌した。Pd錯体の添加で反応溶液の色が淡黄色から暗緑色に変化した。溶剤を減圧除去し、暗色残留物を70mlのn−ペンタンを用いて抽出した。溶液を濾過し、減圧下に濾液から溶剤を除去し、緑色の油(錯体16)を生成した。
【0058】
全く同じ手順を用いて錯体6とtBuLiおよび[{Pd(アリル)Cl}2]とを反応させて同様に緑色の油(錯体17)を生成した。
全く同じ手順を用いて錯体6とナフチルLiおよび[{Pd(アリル)Cl}2]とを反応させて同様に緑色の油(錯体18)を生成した。
錯体16、17、18の調製は[図7]に概念的に示してある。
錯体16、17に対するNMRおよびIR分析法の結果は下記の通り:
【化23】

【0059】
エチレンのオリゴマー化
撹拌棒を備えたフィッシャー−ポーター−ボトル(Fischer-Porter-Bottle)に20mlのトルエンと、1000当量のMAO(トルエン中に30%)とを導入し、エチレン(2×5barのエチレン)で溶液を飽和した。シュレンクフラスコ中に錯体1、2、3、5をそれぞれ0.020mmolの量で1mlのTHFに溶かした。この溶液に−10℃の温度で1当量のnBuLiを添加した。同じ−10℃の温度で30分間攪拌した後に、1mlのTHFに溶かした0.010mmolの[{Ni(アリル)Cl}2](=0.020mmol Ni)の溶液を添加した。−10℃で5〜10分間攪拌後、溶剤を減圧除去し、暗褐色の固体を生成し、これをトルエンに溶かして、攪拌下および窒素流下に用意したフィッシャー−ポーター−ボトルに注入した。6barのエチレン圧力下で温度を30℃(±3℃)に調節した。反応中、4つの全ての錯体で暗褐色のフレークが沈殿した。反応溶液を1H NMR分光計で分析し、下記非特許文献12に記載の方法(work up)に従ってGCサンプルを調製した。MeOH/HClを用いた方法では固体ポリマーが生成しなかった。
【非特許文献12】FaissnerおよびHuttner(Faissner R., Huttner G., in Eur. J.Inorg.Chem.2239,2003)
【0060】
【化24】

【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】レナ−β−ケトイミン錯体2〜5の調製に用いられる反応方法1を示す図。
【図2】イミドイルペンタカルボニルレニウム錯体6、7およびレナ−β−イミン錯体8の調製に用いられる反応方法2を示す図。
【図3】ビピリジンレナ−β−ジケトン(錯体9)、ピリジンイミドイルレニウム(錯体10)およびフェナントロリンイミドイルレニウム(錯体11)の調製に用いられる反応方法3を示す図。
【図4】レナ−β−ジケトネートニッケル(II)錯体(12)の調製に用いられる反応方法4を示す図。
【図5】レナ−β−ケトイミネートアリルニッケル(II)錯体13、14の調製に用いられる反応方法5を示す図。
【図6】レナ−β−ケトイミネートメチルニッケル(II)錯体15の調製に用いられる反応方法6を示す図。
【図7】レナ−β−ケトイミネートアリルパラジウム(II)錯体16、17、18の調製に用いられる反応方法7を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心原子M2と、一般式Iの金属含有主鎖を有するキレートリガンドとを含む錯体:
【化1】

(ここで、
Gは金属M1の活性を抑制する基、例えばCO基または単座または二座のアミンまたはホスフィンまたはシクロペンタジエニルまたは一般に用いられる同様な任意のリガンドであり、
主鎖中の金属M1は周期表の第6〜9族金属であり、
錯体中の金属M2は周期表の第10族金属であり、
1およびR2は1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルの中から互いに独立して選択され、
AはOまたはNR#(ここでR#は4〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビルの中から選択される)であり、、
Bはアリルまたは1〜20個の炭素原子を有するヒドロカルビル基およびピリジン基を表し、
nはM1の原子価から2を引いた数である)
【請求項2】
1がReまたはMnである請求項1に記載の錯体。
【請求項3】
2がNiまたはPdである請求項1または2に記載の錯体。
【請求項4】
1およびR2が互いに独立して1〜6個の炭素原子を有するアルキル基または6〜10個の炭素原子を有するアリール基である請求項1〜3のいずれか一項に記載の錯体。
【請求項5】
(a)〜(d)の段階を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の錯体の製造方法:
(a)一般式Vのキレートリガンドを用意し:
【化2】

(b)化合物VをM3Y(ここで、M3はLi、NaまたはKの中から選択でき、Yは塩基で、R*、OR*またはNR*2(ここで、R*は任意のヒドロカルビル基)の中から選択できる)と反応させ、
(c)段階(b)の反応生成物をLXM2=B(ここで、M2およびBは上記定義のもの、Xはハロゲン化物またはスルホネートの中から選択でき、Lは好ましくはホスフィンである)と反応させ、
(d)HYおよびM3Xを除去して錯体Iを回収する。
【請求項6】
(a)〜(d)の段階を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の錯体の製造方法:
(a)一般式Vのキレートリガンドを用意し:
【化3】

(b)化合物VをLRX2=B(ここで、RXはヒドロカルビル、Lはアミンまたはホスフィンのような任意の中性ドナーリガンド)と反応させ、
(c)HRXおよびLを除去して錯体Iを回収する。
【請求項7】
(a)〜(c)を含む活性触媒系:
(a)請求項1〜4のいずれか一項に記載の錯体、
(b)任意成分の活性化剤、
(c)任意成分の担体。
【請求項8】
活性化剤がアルモキサンである請求項7に記載の活性触媒系。
【請求項9】
(a)〜(d)の段階を含むα−オレフィンのオリゴマー化方法:
(a)請求項7または請求項8に記載の活性触媒系を反応器に注入し、
(b)モノマーおよび任意成分のコモノマーを反応器に注入し、
(c)オリゴマー化条件下に維持し、
(d)オリゴマーを回収する。
【請求項10】
オリゴマー化を20〜80℃の温度および3〜8barの圧力で実行する請求項9に記載の方法。
【請求項11】
モノマーがエチレンまたはプロピレンである請求項9または10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−517036(P2008−517036A)
【公表日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−537274(P2007−537274)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055394
【国際公開番号】WO2006/045735
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】