説明

金属回収装置及び方法

【課題】水産物中の金属元素を除去する際に発生する酸性廃液中から金属を効率よく回収するとともに、溶離液の再利用を図れる金属回収装置及び方法を提供する。
【解決手段】水産物中に含有される金属元素をイオンとして溶出させた混合液中の金属元素を吸着材に吸着させる吸着装置11と、吸着材に吸着した金属元素を溶出させる溶離液を吸着装置11に供給する溶離液供給装置12と、吸着装置11から導出した廃溶離液に溶解している金属元素を固形化して溶離液中から分離し、金属元素を固形物として回収するとともに溶離液を再生する溶離液再生装置13と、溶離液再生装置13で再生した溶離液を溶離液供給装置12に循環させる再生溶離液循環経路14とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属回収装置に関し、詳しくは、ホタテ、イカ等の水産物の内臓に含まれるカドミウム、亜鉛、鉛等の金属を除去して水産物を食用、飼料用に使用可能な状態にするとともに、水産物から除去した金属を固形化して高濃度で回収する金属回収装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水産物に含まれている有害な金属を除去することにより、前記水産物を食品として利用可能な状態にするため、金属を含む食品をpH3.0〜5.0の酸性水溶液とし、前記金属を吸着するキレート作用やイオン交換作用を有する樹脂又は繊維を前記酸性水溶液に対して加え、2〜7℃の低温条件下で混合撹拌することにより、有機物と液相とから同時に金属を吸着除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第4000346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された金属除去方法において、前記樹脂又は繊維を繰り返し利用するためには、金属を吸着した樹脂又は繊維を鉱酸からなる溶離液で洗浄する必要がある。このため、カドミウムなどの有害な金属が鉱酸中に溶解した状態の酸性廃液が排出されるため、その処分が問題となる。
【0004】
そこで本発明は、水産物中の金属元素を除去する際に発生する酸性廃液中から金属を効率よく回収するとともに、溶離液の再利用を図れる金属回収装置及び方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の金属回収装置は、水産物中に含有される金属元素をイオンとして溶出させた混合液と前記金属元素を吸着する吸着材とを接触させて前記金属元素を前記吸着材に吸着させて混合液と吸着材とを分離することにより前記混合液中から金属元素のイオンを除去する金属吸着分離手段と、前記吸着材に吸着した前記金属元素を溶出させる溶離液を前記金属吸着分離手段に供給する溶離液供給手段と、該溶離液供給手段から供給されて前記金属吸着分離手段から導出した前記溶離液に溶解している金属元素を固形化して溶離液中から分離することにより金属元素を固形物として回収するとともに前記溶離液を再生する溶離液再生手段と、該溶離液再生手段で再生した溶離液を前記溶離液供給手段に循環させる溶離液循環手段とを有することを特徴としている。
【0006】
さらに、本発明の金属回収装置は、前記吸着材は前記金属元素を吸着するキレート官能基を有するイオン交換材料であり、前記溶離液は鉱酸であり、前記溶離液再生手段は前記金属元素を金属硫化物として固形化するための硫化物を添加する硫化物添加手段と生成した金属硫化物を分離するための固液分離手段とを備えていることを特徴とし、また、前記金属元素は、カドミウム、亜鉛、鉛であり、前記溶離液再生手段で金属元素と硫化物とを反応させるときのpHを0.5以上の酸性領域に設定したことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の金属回収方法は、水産物中に含有される金属元素をイオンとして溶出させた混合液と前記金属元素を吸着する吸着材とを接触させて前記金属元素を前記吸着材に吸着させ、混合液と吸着材とを分離することにより前記混合液中から金属元素のイオンを除去するとともに、混合液から分離した前記吸着材を、該吸着材に吸着した前記金属元素を溶出させる溶離液に接触させて金属元素を溶離液中に溶解させることによって前記吸着材を再生し、前記溶離液中に溶解している金属元素を固形化して溶離液中から分離することにより金属元素を固形物として回収するとともに前記溶離液を再生し、該再生した溶離液を前記吸着材に吸着した前記金属元素を溶出させるための溶離液として循環使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属イオンを溶解した溶離液中の金属を固形化して分離することにより、金属を高濃度で回収できるとともに、溶離液を再利用可能な状態に再生できる。これにより、水産物中の金属を効率よく除去して回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は本発明の金属回収装置の基本的な構成を示す系統図である。この金属回収装置は、混合液中の金属元素のイオンを吸着材に吸着させて除去する金属吸着分離手段である吸着装置11と、前記吸着材に吸着した前記金属元素を溶出させる溶離液を前記吸着装置11に供給する溶離液供給手段である溶離液供給装置12と、前記吸着装置11から導出した前記溶離液に溶解している金属元素を固形化して溶離液中から分離することにより金属元素を固形物として回収するとともに前記溶離液を再生する溶離液再生手段である溶離液再生装置13と、該溶離液再生装置13で再生した溶離液を前記溶離液供給装置12に循環させる溶離液循環手段である再生溶離液循環経路14とを有している。
【0010】
前記吸着装置11には、水産物中に含有される金属元素をイオンとして溶出させた混合液を導入する混合液導入経路21と、前記溶離液供給装置12から供給される溶離液を導入する溶離液導入経路22と、金属が除去された混合液を導出する混合液導出経路23と、金属を溶解した溶離液(廃溶離液)を導出する廃溶離液導出経路24とが設けられている。また、前記溶離液再生装置13には、前記再生溶離液循環経路14及び前記廃溶離液導出経路24と、固形化した金属を導出する金属導出経路25とが設けられている。
【0011】
本発明の対象となる混合液は、魚介類等の水産物、特に、ホタテ、イカ等の水産物の内臓に含まれるカドミウム、亜鉛、鉛等の金属元素をイオンとして溶出させた混合液である。このような混合液は、粉砕、酸処理、酵素処理、生物処理などの任意の方法で得ることが可能であるが、例えば前記特許文献1に記載された方法で得ることができる。すなわち、イカの内臓やホタテウロをホモジナイズしたものを、これらに含有される金属成分をイオン化して溶解可能な液で、かつ、食品として問題のない液、例えば乳酸、酢酸、クエン酸等の有機酸の水溶液中に投入して撹拌することで得ることができる。このときの混合液は、有機酸の水溶液を使用することで、一般的にpH7.0未満の酸性領域となる。また、前記混合液中の金属イオンを吸着する吸着材も任意のものを使用可能であるが、前記特許文献1に記載されているように、キレート作用やイオン交換作用を有する樹脂や繊維、天然素材、すなわち、前記金属元素を吸着するキレート官能基を有するイオン交換材料を使用することができる。
【0012】
前記吸着装置11は、前記吸着材を充填又は投入したものを使用することができ、混合液導入経路21から供給される混合液と吸着材とを所定の条件で接触させることにより、混合液中の金属イオンを吸着材に吸着させて混合液中から除去する。吸着装置11で混合液と吸着材とを接触させる際の条件は、pH3.0〜7.0の範囲、好ましくはpH4.0〜5.5の範囲の弱酸性領域で両者を混合して撹拌することが望ましい。このとき、pH3.0未満では、処理後の混合液の中和に大量のアルカリ剤を必要として不経済であるだけでなく、食品としての価値も低下するため好ましくない。また、pH7.0を超えると自己消化や雑菌繁殖によって品質が低下するおそれがある。温度は、吸着速度を確保するため、20〜60℃、好ましくは20〜55℃、より好ましくは30〜50℃の範囲が適当である。温度が低すぎると混合液の粘度が増大して金属イオンの物質移動に支障を来すおそれがある。
【0013】
吸着装置11において混合液中の金属を十分に吸着材に吸着させた後、金属が除去された混合液を前記混合液導出経路23から導出して次工程に送るとともに、前記溶離液供給装置12から溶離液導入経路22を通して吸着装置11に溶離液を供給する。このとき、吸着装置11が充填塔の場合には吸着装置11に溶離液を流入させればよい。また、吸着装置11が完全混合型の場合には、吸着材を別の再生容器に移して該再生容器に溶離液を供給することもできる。
【0014】
溶離液には、吸着材に吸着している金属を溶出させることができる液を任意に選択して使用することができるが、一般的には、鉱酸を使用することが好ましい。鉱酸としては、一般的な塩酸、硫酸、リン酸などを使用することができ、溶離液として使用するときの濃度は、吸着材の種類や吸着している金属の種類や量によって異なるが、塩酸、リン酸では0.5モル/リットル以下、硫酸では0.4モル/リットル以下が好ましく、溶離性や次工程の処理を考慮すると、0.1〜0.4モル/リットルの範囲がより好ましい。
【0015】
溶離液再生装置13は、吸着材から溶出した金属イオンを含む溶離液から金属を固形化して分離することにより、金属を固形物として回収するとともに金属を分離した溶離液を際使用可能な状態に再生する。この溶離液再生装置13では、溶離液に金属イオンとして溶解している金属と反応して固形物を生成する物質、薬剤を添加する。金属イオンの固形化は、中和反応や酸化反応などの様々な手法を採用することが可能であるが、酸性の溶離液の再生及び回収後の金属固形化物の処理を考慮すると、硫化剤を添加して金属イオンを硫化物として固形化する手法が最適である。用いる硫化剤は、硫化水素、水硫化ナトリウムなどを用いることができ、再生処理中の溶離液における硫化剤の濃度を適切に選定することにより、硫化物生成に適した所望のpHを得ることができる。
【0016】
例えば、図2に示すように、溶離液再生装置13は、反応装置31と、該反応装置31に硫化剤を添加する手段である硫化剤添加経路32と、反応装置31で生成した金属硫化物を溶離液から分離する固液分離手段である固液分離装置33とで構成することができる。吸着装置11で吸着材から金属を溶出させた溶離液は、廃溶離液導出経路24を通って反応装置31に導入され、溶離液中に溶解している金属イオンと、硫化剤添加経路32から供給される硫化剤とが反応して固体の金属硫化物を生成する。硫化剤との反応時はpH0.5以上、好ましくはpH1.0以上の酸性領域に保つことが好ましい。このとき、pH0.5未満では、金属硫化物の凝集性が不十分で、固液分離が不十分になることがある。
【0017】
生成した金属硫化物を含む再生溶離液は、反応物経路34を通って固液分離装置33に導入され、ろ過などの適宜な固液分離手段によって固液分離され、再生溶離液は、前記再生溶離液循環経路14を通して前記溶離液供給装置12に循環し、吸着装置11に供給する溶離液として再利用される。また、生成した固形物である金属硫化物は、前記金属導出経路25から導出されて回収され、金属資源(鉱物原料)として用いられる。
【0018】
このように、吸着装置11、溶離液供給装置12及び溶離液再生装置13を組み合わせて溶離液再生装置13で再生した溶離液を循環使用することにより、ホタテ、イカ等の水産物の内臓に含まれるカドミウム、亜鉛、鉛等の金属元素を効率よく除去することができるとともに、水産物から除去した金属を効率よく回収して再利用することが可能となる。
【実施例1】
【0019】
ホモジナイズしたイカの内臓2kg(カドミウム含有量23mg/kg)を水2kgと混合し、クエン酸でpH4.5に調整した。この液中に吸着材としてキレート樹脂(イミノジ酢酸キレート基を有するもの)20gを混合し、液温を50℃に保って12時間撹拌した。固液分離した液中に含まれるカドミウム含有量は0.1mg/kg以下に低下していた。
【0020】
固液分離した吸着材を、0.4モル/リットルの硫酸水溶液40ml中に投入して吸着材から金属を溶出させたところ、液(廃溶離液)中のカドミウム濃度は1000mg/Lとなった。この廃溶離液のpHを硫酸と水酸化ナトリウムとで数段階に調整し、各廃溶離液中に硫化水素ガスを飽和状態になるまで通気して1時間反応させた。反応後の固液混合物を0.45μmのフィルターでろ過し、ろ液中のカドミウム濃度を測定した。測定結果を図3に示す。この結果から、pHが0.5以上であれば、液中のカドミウム濃度は0.5mg/L(500μg/L)以下になり、また、pHが1.0以上であれば、液中のカドミウム濃度が0.1mg/L以下になることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の金属回収装置の基本的な構成を示す系統図である。
【図2】溶離液再生装置の一例を示す系統図である。
【図3】実施例1において、ろ液のpHとろ液中のカドミウム濃度との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
11…吸着装置、12…溶離液供給装置、13…溶離液再生装置、14…再生溶離液循環経路、21…混合液導入経路、22…溶離液導入経路、23…混合液導出経路、24…廃溶離液導出経路、25…金属導出経路、31…反応装置、32…硫化剤添加経路、33…固液分離装置、34…反応物経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水産物中に含有される金属元素をイオンとして溶出させた混合液と前記金属元素を吸着する吸着材とを接触させて前記金属元素を前記吸着材に吸着させて混合液と吸着材とを分離することにより前記混合液中から金属元素のイオンを除去する金属吸着分離手段と、前記吸着材に吸着した前記金属元素を溶出させる溶離液を前記金属吸着分離手段に供給する溶離液供給手段と、該溶離液供給手段から供給されて前記金属吸着分離手段から導出した前記溶離液に溶解している金属元素を固形化して溶離液中から分離することにより金属元素を固形物として回収するとともに前記溶離液を再生する溶離液再生手段と、該溶離液再生手段で再生した溶離液を前記溶離液供給手段に循環させる溶離液循環手段とを有することを特徴とする金属回収装置。
【請求項2】
前記吸着材は前記金属元素を吸着するキレート官能基を有するイオン交換材料であり、前記溶離液は鉱酸であり、前記溶離液再生手段は前記金属元素を金属硫化物として固形化するための硫化物を添加する硫化物添加手段と生成した金属硫化物を分離するための固液分離手段とを備えていることを特徴とする請求項1記載の金属回収装置。
【請求項3】
前記金属元素は、カドミウム、亜鉛、鉛であり、前記溶離液再生手段で金属元素と硫化物とを反応させるときのpHを0.5以上の酸性領域に設定したことを特徴とする請求項2記載の金属回収装置。
【請求項4】
水産物中に含有される金属元素をイオンとして溶出させた混合液と前記金属元素を吸着する吸着材とを接触させて前記金属元素を前記吸着材に吸着させ、混合液と吸着材とを分離することにより前記混合液中から金属元素のイオンを除去するとともに、混合液から分離した前記吸着材を、該吸着材に吸着した前記金属元素を溶出させる溶離液に接触させて金属元素を溶離液中に溶解させることによって前記吸着材を再生し、前記溶離液中に溶解している金属元素を固形化して溶離液中から分離することにより金属元素を固形物として回収するとともに前記溶離液を再生し、該再生した溶離液を前記吸着材に吸着した前記金属元素を溶出させるための溶離液として循環使用することを特徴とする金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−43344(P2010−43344A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209845(P2008−209845)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(390014074)前澤工業株式会社 (134)
【Fターム(参考)】