説明

金属回収装置及び金属回収方法

【課題】環境に負荷をかけることなく金属を回収することができる金属回収装置及び金属回収方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る金属回収装置301は、特定金属イオンを吸着する酵母33が存在する槽11を有し、槽11に投入された特定金属イオンを含む材料31から酵母33に特定金属イオンを吸着させ、特定金属イオンを吸着した酵母33’を回収する金属吸着手段71と、金属吸着手段71が回収した酵母33’とキレート配位子35とを槽12で接触させ、酵母33’からキレート配位子35へ特定金属イオンを移動させてキレート環を形成するキレート手段72と、キレート手段72が形成したキレート環から特定金属イオンを抽出する金属抽出手段73と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母を利用して金属を含む物質から金属を回収する金属回収装置及び金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルめっき材(ブリキ)や、オーステナイトステンレス鋼等のニッケル合金にニッケル(Ni)が使用される。ニッケルはレアメタルとして分類されており、その供給が安定しておらず、リサイクルが期待されているものの、現時点では消費されたニッケルが再びリサイクルされることはほとんどない(例えば、非特許文献1を参照。)。ニッケルのリサイクルは、ステンレス鋼廃材に新しい鉄やニッケルを添加して新たな組成のステンレス鋼を生産するような場合のみであった。
【0003】
一方、微生物を用いて金属を吸着させる技術が近年になって開発され、例えば、ニッケルイオンを選択的に吸着する酵母が作出されている(例えば、非特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】貴金属・レアメタルのリサイクル技術集成,pp.181−191(2007年10月19日,株式会社エヌ・ティー・エス発行)
【非特許文献2】「アーミング技術による細胞表層デザインの展開」植田充美他著、生物工学,86巻,pp.617−619(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のリサイクル方式は、大量の熱エネルギーや大がかりな化学操作を利用しており、環境に対する負荷が大きいという課題があった。そこで、前記課題を解決するために、本発明は、環境に負荷をかけることなく金属を回収することができる金属回収装置及び金属回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る金属回収装置は、酵母を利用して金属イオンを収集し、金属イオンをキレートに移動させることとした。
【0007】
具体的には、本発明に係る一の金属回収装置は、特定金属イオンを吸着する酵母が存在する槽を有し、前記槽に投入された前記特定金属イオンを含む材料から前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手段と、前記金属吸着手段が回収した前記酵母とキレート配位子とを接触させ、前記酵母から前記キレート配位子へ前記特定金属イオンを移動させてキレート環を形成するキレート手段と、前記キレート手段が形成した前記キレート環から前記特定金属イオンを抽出する金属抽出手段と、を備える。
【0008】
また、本発明に係る一の金属回収方法は、特定金属イオンを含む材料と前記特定金属イオンを吸着する酵母とを混合し、前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手順と、前記金属吸着手順で回収した前記酵母とキレート配位子とを接触させ、前記酵母から前記キレート配位子へ前記特定金属イオンを移動させてキレート環を形成するキレート手順と、前記キレート手順で形成された前記キレート環から前記特定金属イオンを抽出する金属抽出手順と、を行う。
【0009】
本金属回収装置及び本金属回収方法は、熱処理を行わない。また、金属抽出手段も電気化学的方法であり大がかりな化学操作も不要である。従って、本発明は、環境に負荷をかけることなく金属を回収することができる金属回収装置及び金属回収方法を提供することができる。
【0010】
本発明に係る他の金属回収装置は、特定金属イオンを吸着する酵母が存在する槽を有し、前記槽に投入された前記特定金属イオンを含む材料から前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手段と、前記金属吸着手段が回収した前記酵母の生育環境を調整し、前記酵母を沈殿させる環境調整手段と、を備える。
【0011】
また、本発明に係る他の金属回収方法は、特定金属イオンを含む材料と前記特定金属イオンを吸着する酵母とを混合し、前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手順と、前記金属吸着手順で回収した前記酵母の生育環境を調整し、前記酵母を沈殿させる環境調整手順と、を行う。
【0012】
本金属回収装置及び本金属回収方法も、熱処理を行わない。また、環境調整手段も酵母を沈殿させるだけであり大がかりな化学操作も不要である。従って、本発明は、環境に負荷をかけることなく金属を回収することができる金属回収装置及び金属回収方法を提供することができる。
【0013】
本発明に係る他の金属回収装置は、前記環境調整手段が沈殿させた前記酵母を熱処理し、前記特定金属イオンを凝縮する熱処理手段をさらに備える。
【0014】
また、本発明に係る他の金属回収方法は、前記環境調整手順で沈殿させた前記酵母を熱処理し、前記特定金属イオンを凝縮する熱処理手順をさらに行う。
【0015】
本熱処理装置及び本熱処理方法は、有機物を分解する温度で行うため、従来のように大量の熱エネルギーや大がかりな化学操作が不要である。従って、本発明は、環境に負荷をかけることなく金属を回収することができる金属回収装置及び金属回収方法を提供することができる。
【0016】
本発明に係る他の金属回収装置の前記環境調整手段は、前記酵母が含まれる水分のpHを2以下又は6以上とすることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る他の金属回収方法の前記環境調整手順では、前記酵母が含まれる水分のpHを2以下又は6以上とすることを特徴とする。
【0018】
水分のpHを2以下又は6以上とすることで酵母は沈殿する。このため、容易に金属イオンを回収することができる。
【0019】
本発明に係る金属回収装置及び金属回収方法では、前記特定金属イオンがニッケルイオンであることを特徴とする。本金属回収装置及び本金属回収方法は、レアメタルのニッケルを回収することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、環境に負荷をかけることなく金属を回収することができる金属回収装置及び金属回収方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る金属回収装置の概略構成図である。
【図2】本発明に係る金属回収方法のフローチャートである。
【図3】本発明に係る金属回収装置の概略構成図である。
【図4】本発明に係る金属回収方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0023】
(実施形態1)
図1は、本実施形態の金属回収装置301の概略構成図である。金属回収装置301は、特定金属イオンを吸着する酵母33が存在する槽11を有し、槽11に投入された特定金属イオンを含む材料31から酵母33に特定金属イオンを吸着させ、特定金属イオンを吸着した酵母33’を回収する金属吸着手段71と、金属吸着手段71が回収した酵母33’とキレート配位子35とを槽12で接触させ、酵母33’からキレート配位子35へ特定金属イオンを移動させてキレート環を形成するキレート手段72と、キレート手段72が形成したキレート環から特定金属イオンを抽出する金属抽出手段73と、を備える。
【0024】
図2は、金属回収装置301が行う金属回収方法のフローチャートである。金属回収装置301は、特定金属イオンを含む材料31と特定金属イオンを吸着する酵母33とを混合し、酵母33に特定金属イオンを吸着させ、特定金属イオンを吸着した酵母33’を回収する金属吸着手順S01と、金属吸着手順S01で回収した酵母33’とキレート配位子35とを接触させ、酵母33’からキレート配位子35へ特定金属イオンを移動させてキレート環を形成するキレート手順S02と、キレート手順S02で形成されたキレート環から特定金属イオンを抽出する金属抽出手順S03と、を行う金属回収方法で材料31から特定金属を回収する。
【0025】
金属回収装置301は、例えば、ニッケルイオンを選択的に吸着する酵母33を槽11に投入することで材料31に含まれるニッケルを回収することができる。以下の説明は、ニッケルを回収する場合を説明するが、ニッケル以外の金属を回収する場合、回収する金属を吸着する酵母を選択することで実現できる。
【0026】
まず、金属吸着手段71は金属吸着手順S01を行う。金属の廃材は一般にスクラップ置き場などに堆積される。その場合に、ビニールシートなどの上に当該廃材が野積みされることも多い。このようにビニールシート上に金属、たとえばニッケルを含む廃材が堆積されている場合、ビニールシートを槽11、廃材を材料31としてニッケルイオンを選択的に吸着する酵母33を含む水をかけて放置する。放置の期間は適宜設計できるが、吸着に要する時間を考慮すると1ヶ月程度置くことが望ましい。
【0027】
続いて、ニッケルイオンを吸着した酵母33’を槽12に回収する。具体的には、前記廃材からビニールシートに集まる水を回収し、あるいは、当該廃材上にさらに水をかけて洗い流して、酵母を含めて水を回収する。この水の回収は、図1のように槽11の底付近に取り付けられたノズルに水を集めるようにしてもよい。ノズルを開けることで酵母33’を含む水を槽12に集めることができる。また、ビニールシートの各辺の付近に高低差をつけて低い位置で容器に回収してもよいし、紙などのワイパーを用いてふき取る方法でもかまわない。
【0028】
次に、キレート手段72はキレート手順S02を行う。キレート手順S02では、酵母33’を入れた槽12にキレート配位子35を加える。キレート配位子35は、例えば、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)である。酵母33’とEDTAとが接するとニッケルイオンは酵母33’から分離してEDTAに移る。ニッケルイオンが付着したEDTAはキレート環となる。
【0029】
続いて、金属抽出手段73は金属抽出手順S03を行う。金属抽出手順S03では、キレート環からニッケルイオンを取り出す。例えば、図1に示す電気分解のような電気化学的方法でキレート環からニッケルを取り出せばよい。
【0030】
(実施形態2)
図3は、本実施形態の金属回収装置303の概略構成図である。金属回収装置303は、特定金属イオンを吸着する酵母33が存在する槽11を有し、槽11に投入された特定金属イオンを含む材料31から酵母33に特定金属イオンを吸着させ、特定金属イオンを吸着した酵母33’を回収する金属吸着手段71と、金属吸着手段71が回収した酵母33’の槽12内における生育環境を調整し、酵母33’を沈殿させる環境調整手段82と、環境調整手段82が沈殿させた酵母33”を熱処理し、特定金属イオンを凝縮する熱処理手段83と、を備える。
【0031】
図4は、金属回収装置303が行う金属回収方法のフローチャートである。金属回収装置303は、特定金属イオンを含む材料31と特定金属イオンを吸着する酵母33とを混合し、酵母33に特定金属イオンを吸着させ、特定金属イオンを吸着した酵母33’を回収する金属吸着手順S01と、金属吸着手順S01で回収した酵母33’の槽12内における生育環境を調整し、酵母33’を沈殿させる環境調整手順S12と、環境調整手順S12で沈殿させた酵母33”を熱処理し、特定金属イオンを凝縮する熱処理手順S13と、を行う金属回収方法で材料31から特定金属を回収する。
【0032】
金属回収装置303は、例えば、ニッケルイオンを選択的に吸着する酵母33を槽11に投入することで材料31に含まれるニッケルを回収することができる。以下の説明は、ニッケルを回収する場合を説明するが、ニッケル以外の金属を回収する場合、回収する金属を吸着する酵母を選択することで実現できる。
【0033】
まず、金属回収装置303は、図1及び図2で説明したように、金属吸着手段71が金属吸着手順S01を行う。
【0034】
次に、環境調整手段82は環境調整手順S12を行う。環境調整手順S12では、酵母33’を入れた槽12の育成環境を調整する。酵母は育成環境が悪くなると沈殿する。例えば、槽12の水のpHを変化させるか水の温度を変化させることで酵母を沈殿させることができる。
【0035】
一般に酵母の生育環境はpH=3〜5なので、槽12内の水のpHを変化させる場合、2以下にすることで酵母33’を沈殿させることができる。逆にpHを6以上としても酵母33’を沈殿させることができる。pHを制御するには水の電気分解等の電気化学的方法を採用してもよい。また、図3のように塩酸などの酸又は水酸化ナトリウムなどの塩基を槽12内に投入してpHを調整してもよい。
【0036】
続いて、熱処理手段83は熱処理手順S13を行う。熱処理手段83は、例えば、温度調整機能を有する電気炉である。環境調整手順S12で得られた沈殿した酵素33”はニッケルイオンを大量に含む有機物である。このため、熱処理手段83で酵素33”を燃やすまたは酵素33”に熱をかけることによりさらにニッケル成分を濃縮することができる。熱処理手段83の温度は有機物が分解し無機物が残る温度で適宜設計すればよく、例えば200℃大気中で酵素33”を燃焼させることによりニッケル成分が濃縮した無機残渣を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る金属回収装置及び金属回収方法は、廃材から金属を回収するだけでなく、鉱物から金属を精製する場合にも利用することができる。
【符号の説明】
【0038】
11、12:槽
13:アノード
14:カソード
20:直流電源
31:材料
33、33’、33”:酵母
35:キレート配位子
71:金属吸着手段
72:キレート手段
73:金属抽出手段
82:環境調整手段
83:熱処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定金属イオンを吸着する酵母が存在する槽を有し、前記槽に投入された前記特定金属イオンを含む材料から前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手段と、
前記金属吸着手段が回収した前記酵母とキレート配位子とを接触させ、前記酵母から前記キレート配位子へ前記特定金属イオンを移動させてキレート環を形成するキレート手段と、
前記キレート手段が形成した前記キレート環から前記特定金属イオンを抽出する金属抽出手段と、
を備える金属回収装置。
【請求項2】
特定金属イオンを吸着する酵母が存在する槽を有し、前記槽に投入された前記特定金属イオンを含む材料から前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手段と、
前記金属吸着手段が回収した前記酵母の生育環境を調整し、前記酵母を沈殿させる環境調整手段と、
を備える金属回収装置。
【請求項3】
前記環境調整手段が沈殿させた前記酵母を熱処理し、前記特定金属イオンを凝縮する熱処理手段をさらに備える請求項2に記載の金属回収装置。
【請求項4】
前記環境調整手段は、前記酵母が含まれる水分のpHを2以下とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の金属回収装置。
【請求項5】
前記環境調整手段は、前記酵母が含まれる水分のpHを6以上とすることを特徴とする請求項2又は3に記載の金属回収装置。
【請求項6】
前記特定金属イオンがニッケルイオンであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の金属回収装置。
【請求項7】
特定金属イオンを含む材料と前記特定金属イオンを吸着する酵母とを混合し、前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手順と、
前記金属吸着手順で回収した前記酵母とキレート配位子とを接触させ、前記酵母から前記キレート配位子へ前記特定金属イオンを移動させてキレート環を形成するキレート手順と、
前記キレート手順で形成された前記キレート環から前記特定金属イオンを抽出する金属抽出手順と、
を行う金属回収方法。
【請求項8】
特定金属イオンを含む材料と前記特定金属イオンを吸着する酵母とを混合し、前記酵母に前記特定金属イオンを吸着させ、前記特定金属イオンを吸着した前記酵母を回収する金属吸着手順と、
前記金属吸着手順で回収した前記酵母の生育環境を調整し、前記酵母を沈殿させる環境調整手順と、
を行う金属回収方法。
【請求項9】
前記環境調整手順で沈殿させた前記酵母を熱処理し、前記特定金属イオンを凝縮する熱処理手順をさらに行う請求項8に記載の金属回収方法。
【請求項10】
前記環境調整手順では、前記酵母が含まれる水分のpHを2以下とすることを特徴とする請求項8又は9に記載の金属回収方法。
【請求項11】
前記環境調整手順では、前記酵母が含まれる水分のpHを6以上とすることを特徴とする請求項8又は9に記載の金属回収方法。
【請求項12】
前記特定金属イオンがニッケルイオンであることを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載の金属回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−52315(P2011−52315A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205163(P2009−205163)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】