説明

金属回収装置

【課題】被処理物に含まれる所望の金属を容易に回収可能な金属回収装置を提供する。
【解決手段】被処理物に含まれる金属を回収する金属回収装置1であって、電解槽10内に溶融塩mが貯留された状態で、陽極溶解用電極20及び中間電極40がそれぞれ陽極及び陰極として機能するように、陽極溶解用電極20と中間電極40との間に通電することにより、被処理物wに含まれる金属を溶融塩中に陽極溶出させ、通電終了後、中間電極40及び回収用電極30がそれぞれ陽極及び陰極として機能するように、中間電極40と回収用電極30との間に通電することにより、溶出した金属イオンを回収用電極30に金属または合金として析出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物に含まれる金属を回収する金属回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子製品、燃料電池、触媒装置などの各種廃棄物や、原子力発電での使用済み核燃料などには、アルミニウム、銅、亜鉛、チタン、インジウム、錫、白金、銀、ジルコニウムなどの有価金属が含まれており、希少資源を有効に利用する観点から、これらを効率良く回収することが求められている。従来の金属リサイクルとして、溶融塩電解を利用する方法が従来から知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、溶融塩中に塩素ガスを吹き込み、合金と直接反応(塩素化)させて溶融塩中に金属イオンを供給した後、電解により陰極で金属イオンを還元して、金属を析出させる金属回収装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、合金を陽極として電解し、特定の金属成分のみを溶融塩中に金属イオンとして陽極溶出させ、この金属イオンを陰極で還元し、金属を析出させる金属回収装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−43389号公報
【特許文献2】特開2003−344578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に開示された金属回収装置は、陰極における金属の析出と共に、陽極において有毒な塩素ガスが大量に発生し、これを塩素化の過程で再利用する必要があるため、安全性や作業性の面で問題があった。
【0007】
また、特許文献2に開示された金属回収装置は、陽極における金属の陽極溶出と陰極における金属の析出とが同時に行われるため、陽極溶出条件と析出条件とを個別に最適化することができない。したがって、双方の条件を同時に満たすように溶融塩の成分比率や浴温度などを調整する困難な作業が必要になり、やはり作業性の面で問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、被処理物に含まれる所望の金属を容易に回収可能な金属回収装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の前記目的は、被処理物に含まれる金属を回収する金属回収装置であって、溶融塩を貯留可能な電解槽と、前記電解槽内に配置される陽極溶解用電極、回収用電極及び中間電極とを備え、前記陽極溶解用電極は、被処理物を保持する保持部を有し、前記中間電極は、イオン導電性の固体電解質と、該固体電解質の内側に設置された電極本体とを備え、前記電解槽内に溶融塩が貯留された状態で、前記陽極溶解用電極及び前記中間電極がそれぞれ陽極及び陰極として機能するように、前記陽極溶解用電極と前記中間電極との間に通電することにより、前記固体電解質の電荷担体と同種である溶融塩中に含まれる陽イオンを前記固体電解質の内側に取り込み、被処理物に含まれる金属を溶融塩中に陽極溶出させ、通電終了後、前記中間電極及び前記回収用電極がそれぞれ陽極及び陰極として機能するように、前記中間電極と前記回収用電極との間に通電することにより、前記固体電解質の内側から前記固体電解質を介して溶融塩中に陽イオンを供給し、前記溶融塩に溶出した金属イオンを前記回収用電極に金属または合金として析出させる金属回収装置により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被処理物に含まれる所望の金属を容易に回収可能な金属回収装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る金属回収装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す金属回収装置を用いた金属回収方法の一工程を示す図である。
【図3】図1に示す金属回収装置を用いた金属回収方法の他の一工程を示す図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る金属回収装置の概略構成図である。
【図5】図4に示す金属回収装置を用いた金属回収方法の一工程を示す図である。
【図6】図4に示す金属回収装置を用いた金属回収方法の他の一工程を示す図である。
【図7】本発明の更に他の実施形態に係る金属回収装置の概略構成図である。
【図8】図7に示す金属回収装置を用いた金属回収方法の一例を示す図であり、(a)は溶出ステップ、(b)は析出ステップをそれぞれ示している。
【図9】図7に示す金属回収装置を用いた金属回収方法の他の例を示す図であり、(a)は溶出ステップ、(b)は析出ステップをそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る金属回収装置の概略構成図である。図1に示すように、この金属回収装置1は、電解浴としての溶融塩mを貯留する電解槽10と、この電解槽10内に配置される陽極溶解用電極20、回収用電極30及び中間電極40とを備えている。後述するように、金属溶解電極20は常に陽極として働き、回収用電極30は常に陰極として働き、中間電極40は陰極または陽極として働く。
【0013】
陽極溶解用電極20は、被処理物wを保持するための保持部22を備えている。保持部22としては、例えば、多孔板や網板からなる籠状の容器を挙げることができ、被処理物wを内部に収容することができる。保持部22は、導電性材料により形成されており、回収対象とする金属元素よりもイオン化傾向の小さい金属や、黒鉛、導電性ダイヤモンドなどの炭素系材料を用いることが好ましく、ニッケルフェライトなどの金属酸化物や窒化物、ホウ化物からなる導電性セラミックスを使用することもできる。こうして、保持部22に収容された被処理物w自体を陽極として機能させることができる。保持部22は、被処理物wに通電可能であれば、上記以外の構成であってもよく、例えば、被処理物wを挟持する挟持部材から保持部22を構成することもできる。
【0014】
また、回収用電極30は、析出させる金属または合金によって材料を選択するのが好ましいが、回収する金属または合金と反応して陰極としての強度や耐久性を大きく損なわない限り、特に制限されない。また、回収用電極30の析出物が脱落する可能性のある場合には、回収用電極30の下方に受け皿としての役割を担う容器を設置するのが好ましい。
【0015】
陽極溶解用電極20及び回収用電極30は、駆動機構(図示せず)により上下方向に個別に移動可能に構成されており、保持部22への被処理物wの収容作業や、回収用電極30に析出した金属または合金の回収作業を容易に行うことができる。
【0016】
中間電極40は、ガスが供給されるガス室42と、ガス室42の下部に配置された電極部材44とを備えるガス電極からなる。
【0017】
ガス室42は、ガス供給源(図示せず)に供給バルブ(図示せず)を介して接続されており、供給ガスを密封可能に構成されている。余剰のガスは、排気バルブ(図示せず)を介して排出することができる。本実施形態においては、ガス室42の内部に、水素及び塩化水素の混合ガスを充填している。
【0018】
電極部材44は、黒鉛などの多孔質の炭素材料を好ましく用いることができ、白金、イリジウム、ルテニウム等の触媒を適宜担持させてもよい。また、ガス、電極部材及び溶融塩の三相界面の形成を良好にするために、ガス電極を常圧で稼動させる場合、電極部材44の上面を溶融塩mの浴面よりも上方に配置することが好ましい。一方、ガス電極を加圧下で動作させる場合には、電極部材44の上面を溶融塩mの浴面よりも下方に配置して、圧力のバランスを調整することが好ましい。このような調整を容易にするために、中間電極40についても、駆動機構(図示せず)により上下移動可能に構成してもよい。
【0019】
上述した金属回収装置1は、直流電源46からスイッチング素子48を介して、陽極溶解用電極20と中間電極40との間、又は、中間電極40と回収用電極30との間を、選択的に通電できるように構成されている。
【0020】
次に、以上の構成を備える金属回収装置1を用いて、被処理物wから所望の金属を回収する方法を説明する。被処理物wは、金属材料を含むものであれば特に限定されず、回収された電気・電子製品、燃料電池、触媒装置などの中にある有価金属を含む部品や、金属加工切削くず、あるいは使用済み核燃料等を例示することができ、特に、二元系や多元系の合金を含むものを好ましく例示することができる。また、被処理物w中の金属酸化物から金属を回収する場合にも、本実施形態の金属回収装置1を使用することは可能である。ここで、被処理物wが金属酸化物を含む場合、(1)金属部分のみが陽極溶出する電位に保持し酸化物を残渣として残す、(2)より貴な電位に保持して金属部分を陽極溶出させるとともに金属酸化物を塩素化して金属イオンと酸化物イオン(O2-)にする、(3)金属酸化物を前処理で還元してから陽極溶出させる、方法がある。(3)の前処理としては、金属酸化物を水素などの還元性ガスと反応させる方法や、溶融塩mに含まれる還元性の高い金属(例えば、Li)を電析させてその酸化物(例えば、Li2O)を形成させる方法を挙げることができる。上記の一部の場合では、溶融塩中に酸化物イオン(O2-)を供給することになるので、これが問題となる場合は、あらかじめ水素などと反応させて還元しておくのが好ましい。
【0021】
本実施形態においては、一例として、被処理物wが2種の異なる金属A,Bからなる合金(AB)である場合を説明する。
【0022】
電解槽10内に貯留する溶融塩mとしては、例えば、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等のアルカリ金属ハロゲン化物や、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2、MgBr2、CaBr2、SrBr2、BaBr2、MgI2、CaI2、SrI2、BaI2等のアルカリ土類金属ハロゲン化物の少なくとも1種が挙げられる。これらの化合物は単独又は二種以上を組み合わせて使用できる。化合物の組み合わせや混合比は限定的ではなく、溶融塩mの所望の作動温度等に応じて適宜設定可能である。
【0023】
より具体的には、溶融塩mとして下記(1)〜(4)の少なくとも1種を好ましく使用することができる。
(1)LiCl−KCl
〔組成比:LiCl:KCl=35〜100mol%:65〜0mol%が好ましく、55〜65mol%:45〜35mol%がより好ましい。〕
(2)LiCl−KCl−CsCl
〔組成比:LiCl:KCl:CsCl=57.5:13.3:29.2mol%の共融組成が好ましい。但し、組成比はそれぞれ20%程度変化したものでもよい。〕
(3)LiBr−KBr
〔組成比:LiBr:KBr=35〜100mol%:65〜0mol%が好ましく、60〜70mol%:40〜30mol%がより好ましい。〕
(4)LiBr−KBr−CsBr
〔組成比:LiBr:KBr:CsBr=56.1:18.9:25.0mol%の共融組成が好ましい。但し、組成比はそれぞれ20%程度変化したものでもよい。〕
溶融塩mの温度は、使用する溶融塩mの種類や組成比によって異なるが、例えば、LiCl−KClからなる溶融塩mを使用する場合、400〜500℃に設定することが好ましい。溶融塩mを加熱手段(図示せず)により所定の温度まで加熱した後、スイッチング素子48の操作により陽極溶解用電極20と中間電極40との間に通電し、図2に示すように、陽極溶解用電極20を陽極として機能させ、中間電極40を陰極として機能させる溶出ステップを行う。
【0024】
溶融塩mに浸漬させた参照電極(図示せず)を基準として、陽極溶解用電極20の電位を制御することにより、陽極溶解用電極20に保持された被処理物wに含まれる合金ABから、一方の金属Aのみを溶融塩中に陽極溶出させることができる。陽極電位の制御は、予め測定した直流電源46の電圧や電流と、陽極電位との関係から、電解電圧や電解電流の調整により行うこともできる。
【0025】
中間電極40においては、供給ガスに含まれる塩化水素ガスが電極部材44において電子を受け取り、塩化物イオンが生成して溶融塩中に供給される。すなわち、陽極溶解用電極20及び中間電極40では、以下の反応が起こる。
【0026】
陽極溶解用電極(陽極)20: AB → B+A(I)+e−
中間電極(陰極)40: HCl(g)+e− → 1/2 H2(g)+Cl−
ところで、中間電極40においては、電極電位が卑になりすぎると、以下の反応が生じうるので、金属Aのイオンが中間電極40で還元されることのないよう、電解中の電極電位をモニタリングしておくのが好ましい。
【0027】
中間電極40: A(I)+e− → A
こうして、被処理物wに含まれる金属Aの大部分が陽極溶出するまで電解を行った後、スイッチング素子48の操作により通電を終了し、陽極溶出のための電解を停止する。
【0028】
溶出ステップの終了後、スイッチング素子48の操作により、中間電極40と回収用電極30との間に通電し、図3に示すように、今度は中間電極40を陽極として機能させ、回収用電極30を陰極として機能させる析出ステップを開始する。
【0029】
回収用電極30の電位を制御することにより、溶融塩中の金属イオンは、回収用電極30において電子を受け取って還元され、回収用電極30の表面に金属Aが析出する。中間電極40においては、溶融塩中の塩化物イオンが電極部材44で酸化されて電子を放出し、塩化水素ガスとなってガス室42に取り込まれる。すなわち、中間電極40及び回収用電極30では、以下の反応が起こる。
【0030】
中間電極(陽極)40: 1/2 H2(g)+Cl− → HCl(g)+e−
回収用電極(陰極)30: A(I)+e− → A
こうして、金属イオンの大部分が析出するまで電解を行った後、スイッチング素子48の操作により、通電を停止する。この結果、陽極溶解用電極20の保持部22には、金属Bのみが残留し、回収用電極30には金属Aのみが析出するため、合金ABに含まれる2種の金属A,Bをそれぞれ個別に回収することができる。
【0031】
被処理物からの金属の回収方法としては、必ずしも本実施形態のものに限定されず、溶融塩を用いたリサイクル技術として一般に用いられる反応を利用できる。例えば、溶出ステップにおいて被処理物に含まれる2種以上の金属を溶融塩に溶出させた後、析出ステップにおいて陰極電位を制御し、所望の金属を析出させるようにしてもよい。或いは、溶出ステップ及び析出ステップを繰り返し行うことも可能である。回収用電極30での析出物は、単元素金属に限定されず、溶融塩に溶出した2種以上の金属イオンを還元析出させた合金であってもよいし、溶融塩に溶出した1種以上の金属イオンを還元して陰極材料と合金化させたもので良い。
【0032】
このように、本実施形態の金属回収装置1によれば、陽極溶解用電極20及び回収用電極30に加えて、新規な中間電極40を設けることにより、被処理物から溶融塩への金属の陽極溶出と、溶出した金属イオンの析出とを、独立した別工程で行うことができ、陽極溶解用電極20での陽極溶出条件及び回収用電極30での析出条件を個別に精密に制御することができる。したがって、従来のように電解浴となる溶融塩の組成や温度等について複雑な調整が不要であり、被処理物から金属を容易に回収することができる。
【0033】
また、中間電極40に供給される水素及び塩化水素の混合ガスは、被処理物wから溶融塩への金属の陽極溶出時に中間電極40で塩化水素ガスが消費され、混合割合が変化するが、溶出した金属イオンの析出時に再び塩化水素ガスが生成されて、混合割合が元の状態に戻る。したがって、必要最小量の水素ガス及び塩化水素ガスを密室内に封入して、クローズドサイクルでの利用により金属の回収作業を繰り返し行うことができるので、有害な塩素ガスが外部に放出されるのを効果的に防止することができる。電極部材44内の溶融塩の浴面の高さは、塩化水素ガスの消費または生成によるガス室42の内圧変化により変動するため、ガス室42に封入するガスの量を多くして圧力変化を小さくするか、或いは、電極部材44として高さが大きいものを使用し、浴面の高さが変化しても電極部材44が常に溶融塩に接しているようにすることが好ましい。また、中間電極40を上下動させて、ガス室42の内圧変化に対応させることも可能である。
【0034】
本実施形態においては、被処理物が2種の金属A,Bからなる合金の場合を例に説明したが、被処理物が3種以上の金属を含む場合も、陽極電位又は陰極電位を適宜制御して、所望の金属または合金を陽極溶解用電極20に残留させるか、或いは、回収用電極30に金属または合金として析出することにより、上記と同様に金属回収を行うことができる。
また、本実施形態においては、中間電極40への供給ガスとして、水素及び塩化水素の混合ガスを使用しているが、陽極溶解用電極20と中間電極40との間の通電時に、陰イオンを生成して溶融塩中に供給できるものであればよく、溶融塩mの種類に応じて、塩素ガスや臭素ガスといった他のガスを使用することもできる。例えば、臭素ガス(Br2)や臭化水素(HBr)を用いる場合は、臭化物系の溶融塩(LiBr−KBrなど)を用いるのが好ましい。
【0035】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明の中間電極は、陽極と中間電極との間の通電時、及び、中間電極と陰極との間の通電時における酸化還元反応により、中間電極と溶融塩との間で、もしくは中間電極内部で物質を可逆的に受け渡し可能な構成であればよく、必ずしも本実施形態の構成に限定されるものではない。
【0036】
例えば、図4に示すように、中間電極140を、導電性の電極本体142と、電極本体142を被覆するイオン導電性の固体電解質144とを備えた構成にすることができる。尚、図4において、中間電極140以外の構成は図1と同じであるため、図1と同様の構成部分については同一の符号を付して、詳細な説明を省略する(図5以下の図面においても同様)。
【0037】
イオン導電性の固体電解質144は、2次電池などで広く用いられているリチウムイオン導電性固体電解質を好ましく用いることができ、本実施形態においては、Li2O−SiO2−La2O3などとして例示されるリチウムイオン導電性ガラスを使用している。固体電解質144は、高温での高い導電性と耐久性、熱衝撃への耐性などが十分な材料が好ましく、ガラス以外に、セラミックスや高分子材料などであってもよい。
【0038】
また、電極本体142は、固体電解質144の電荷担体と同種の陽イオンを還元した金属材料を含んでおり、本実施形態においては、液状のリチウム金属からなる。
【0039】
このような中間電極140を備える金属回収装置によれば、中間電極140が陰極として機能するように陽極溶解用電極20と中間電極140との間に通電する溶出ステップにおいて、図5に示すように、LiCl−KClの溶融塩中に含まれるリチウムイオンが中間電極140において還元され、生成したリチウム金属が固体電解質144の内側に取り込まれる。すなわち、陽極溶解用電極20及び中間電極140では、以下の反応が起こる。
【0040】
陽極溶解用電極20(陽極): AB → B+A(I)+e−
中間電極(陰極)140: Li+ +e− → Li
次に、中間電極140が陽極として機能するように中間電極140と回収用電極30との間に通電する析出ステップにおいて、図6に示すように、電極本体142のリチウム金属がイオンとなり、固体電解質144を介して溶融塩中に供給される。すなわち、中間電極140及び回収用電極30では、以下の反応が起こる。
【0041】
中間電極(陽極)140: Li → Li+ +e−
回収用電極(陰極)30: A(I)+e− → A
固体電解質144は、電極本体142と外部の溶融塩mとを隔離しつつ、電荷担体である陽イオンの双方向の通過が可能であればよく、電極本体142や溶融塩の種類に応じて適宜選択可能である。例えば、リチウムイオン以外のアルカリ金属(例えば、Na+イオン導電性のβアルミナなど)を電荷担体とするものを、固体電解質144として使用することもできる。
【0042】
また、電極本体142は、固体電解質144を介して溶融塩mとの間で電荷の受け渡しが可能であればよく、前記の実施形態に限定されない。例えば、図7に示すように、中間電極240が、リチウムガラス容器からなる固体電解質244に、溶融塩mとは異なる電極内溶融塩242aを内包し、電極内溶融塩242aに、固体状の金属材料からなる内蔵電極242bを浸漬させた構成にすることができる。例えば、溶融塩mとしてLiCl−KClを使用する場合、電極内溶融塩242aとしては、LiCl−KClにXClやYClなどが添加された(すなわち、後述するXのイオンやYのイオンを含む)ものを使用することができる。
【0043】
すなわち、図7に示す構成における中間電極240は、電極本体242が、電極内溶融塩242a及び内蔵電極242bを備えている。
【0044】
図7に示す金属回収装置によれば、図8(a)に示すように、溶解ステップにおいて、電極内溶融塩242aの中に含まれるイオンが内蔵電極242b上で還元されて、より低次のイオンとなって電極内溶融塩242a中に供給される。そして、図8(b)に示すように、析出ステップにおいて、この低次のイオンが酸化されてもとのイオンに戻る。すなわち、中間電極240の内部において、以下の反応が生じる。
【0045】
(溶解ステップ)内蔵電極(陰極) X(II) +e− → X(I)
(析出ステップ)内蔵電極(陽極) X(I) → X(II) +e−
電解槽10内の溶融塩mに含まれるリチウムイオン(陽イオン)は、溶融塩mと電極内溶融塩242aとの間で電荷のバランスを取るために、陽極溶解ステップにおいては、図8(a)に示すように、電解槽10内の溶融塩mから電極内溶融塩242aへと移動し、析出ステップにおいては、図8(b)に示すように、電極内溶融塩242aから電解槽10内の溶融塩mへと移動する。
【0046】
このように、電極内溶融塩242a中に含まれる、価数の異なる二つのイオン間の酸化還元反応を利用することにより、図1に示す金属回収装置と同様の効果を奏することができる。電極内溶融塩242aの酸化還元対としては、Fe(III)/Fe(II)やCu(II)/Cu(I)などが挙げられる。また、内蔵電極242bは、酸化還元反応が可逆的に生じるものであれば限定されない。
【0047】
上記の金属回収方法において、電極内溶融塩242a中での均化・不均化反応(例えば、2Fe(III)+Fe⇔3Fe(II))が懸念される場合には、図9(a)に示すように、溶解ステップにおいて、電極内溶融塩242aの中に含まれるイオンを内蔵電極242b上で陰極還元して金属として析出させ、図9(b)に示すように、析出ステップにおいて、析出金属を酸化(陽極溶解)させてもとのイオンに戻すようにしてもよい。この場合の中間電極240の内部における反応は、以下のとおりである。
【0048】
(溶解ステップ)内蔵電極(陰極) Y(I) +e− → Y
(析出ステップ)内蔵電極(陽極) Y → Y(I) +e−
このように、溶融塩中に含まれる、価数の異なる二つのイオン間の酸化還元反応を用いる代わりに、金属の陰極析出及び陽極溶解を利用することによっても、図1に示す金属回収装置と同様の効果を奏することができる。
【0049】
この場合の電極内溶融塩242aとしては、例えば、Fe(II)/Fe(Feの析出・溶解)や、Ag(I)/Ag(Agの析出/溶解)などが考えられ、内蔵電極242bには、十分な大きさ(すなわち、陽極溶出して無くならない量)のFe棒やAg板を使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 金属回収装置
10 電解槽
20 陽極溶解用電極
22 保持部
30 回収用電極
40 中間電極
42 ガス室
44 電極部材
46 直流電源
48 スイッチング素子
140 中間電極
142 電極本体
144 固体電解質
240 中間電極
242 電極本体
242a 電極内溶融塩
242b 内蔵電極
w 被処理物
m 溶融塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に含まれる金属を回収する金属回収装置であって、
溶融塩を貯留可能な電解槽と、
前記電解槽内に配置される陽極溶解用電極、回収用電極及び中間電極とを備え、
前記陽極溶解用電極は、被処理物を保持する保持部を有し、
前記中間電極は、イオン導電性の固体電解質と、該固体電解質の内側に設置された電極本体とを備え、
前記電解槽内に溶融塩が貯留された状態で、前記陽極溶解用電極及び前記中間電極がそれぞれ陽極及び陰極として機能するように、前記陽極溶解用電極と前記中間電極との間に通電することにより、前記固体電解質の電荷担体と同種である溶融塩中に含まれる陽イオンを前記固体電解質の内側に取り込み、被処理物に含まれる金属を溶融塩中に陽極溶出させ、
通電終了後、前記中間電極及び前記回収用電極がそれぞれ陽極及び陰極として機能するように、前記中間電極と前記回収用電極との間に通電することにより、前記固体電解質の内側から前記固体電解質を介して溶融塩中に陽イオンを供給し、前記溶融塩に溶出した金属イオンを前記回収用電極に金属または合金として析出させる金属回収装置。
【請求項2】
前記中間電極の前記固体電解質は、リチウムイオン導電性ガラスである請求項1に記載の金属回収装置。
【請求項3】
前記電極本体は、前記固体電解質の電荷担体と同種の陽イオンを還元した金属材料を含む請求項1または2に記載の金属回収装置。
【請求項4】
前記電極本体は、固体状の内蔵電極と、該内蔵電極が浸漬される電極内溶融塩とを備える請求項1または2に記載の金属回収装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−19057(P2013−19057A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−242730(P2012−242730)
【出願日】平成24年11月2日(2012.11.2)
【分割の表示】特願2008−86605(P2008−86605)の分割
【原出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(506360310)アイ’エムセップ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】