説明

金属基材のためのコーティング組成物

加工し、上塗りすることを意図している金属、好ましくは鋼の基材をコーティングするために適したコーティング組成物であって、i)亜鉛粉末および/または亜鉛合金、ならびにii)シラン化合物(複数可)とコロイダルシリカ粒子との合計乾燥重量を基準にして、6〜40wt%の1種または複数のシラン化合物で改質されたコロイダルシリカ粒子を含む改質シリカゾルであり、前記シラン化合物(複数可)をシリカゾルに、1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たりシラン20分子以下の速度で加えることにより得ることが可能な改質シリカゾルを含む、コーティング組成物。このコーティング組成物は、比較的長いポットライフ、良好な白錆耐性、および良好な膜特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材、例えば、鋼基材のコーティングのために使用することができるコーティング組成物に関する。特に、本発明は、後で強熱工程により加工されて上塗りされることになっている半完成鋼材のためのコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような半完成鋼材は、造船産業において、および採油プラットホームなどの大規模な構造物の製作のために使用される。それらは、例えば、厚さ6〜75mmの鋼板、棒、桁、および補強部材として使用される種々の鋼部分を含む。最も重要な強熱工程は溶接であり、実質的に全ての半完成鋼材は溶接される。他の重要な強熱工程は切断、例えば酸素燃料炎切断、プラズマ切断またはレーザ切断、および鋼が熱せられている間に曲げて成形される熱整形(heat fairing)である。これらの鋼材は、貯蔵および建設中にしばしば風雨に曝されるので、それらは、鋼による建設前に、鋼の腐食を避けるために「ショッププライマー」または「建設前コーティング」と称されるコーティングで通常コートされる。例えば、船は、防食塗料で完全にコーティングされる。これにより、上塗りしなければならない、または鋼の腐食生成物を除去しなければならないという問題は、回避される。大部分の大型造船所においては、ショッププライマーは、鋼が、例えば、予熱され、黒皮および腐食生成物を除去するためにショットブラストまたはグリットブラストされ、ショッププライムされて乾燥ブースに通される生産ラインで実施される数種の処理の一つとして塗布される。あるいは、ショッププライマーは、鋼が造船所または他の建設現場に配送される前に、取引の塗装業者(trade coater)または鋼供給業者が塗布することもできる。
【0003】
ショッププライマーの主要な目的は、建設中に一時的に腐食防止をすることであるが、ショッププライマーは除去する必要がなく、製作中およびその後も鋼上に留められることが、造船業者には好ましい。したがって、ショッププライマーでコートされた鋼は、ショッププライマーを除去せずに溶接可能であり、且つ船舶および他の鋼構造物に一般的に使用されるタイプの保護防食コーティング剤で上塗り可能で、プライマーとその後塗布されるコーティングとの間の接着が良好なことが必要である。ショッププライムされた鋼は、好ましくは、溶接の品質または溶接工程の速度にいかなる有意の有害な影響もなく溶接可能となるべきであり、且つショッププライマーが、整形中または鋼の反対面の溶接中に、加熱された区域でその防食性を保持するのに十分耐熱性を有すべきである。
【0004】
現在利用可能な商業的に成功しているショッププライマーは、予備加水分解(pre-hydrolysed)されたテトラエチルオルトシリケートバインダーおよび亜鉛粉末を主成分とする溶媒担持コーティング剤である。そのようなコーティング剤は、塗料バインダーを安定化して、製品が、薄い、通常厚さ約20ミクロンの膜として、塗布されることが可能になるように、大きな比率の揮発性有機溶媒、通常1リットル当たり約650グラムを含む。揮発性有機溶媒の放出は、環境に有害であり得るので、多くの国で法律により規制されている。揮発性有機溶媒の放出がないかまたは非常に少ないショッププライマーの例は、US−A−4,888,056およびJP−A−7−70476に記載されている。
【0005】
JP−A−06−200188はショッププライマーコーティング剤に関するもので、アルカリケイ酸塩型バインダー水溶液の使用の可能性に言及している。アルカリ金属ケイ酸塩水溶液および亜鉛粉末を含むコーティング剤は、GB−A−1226360、GB−A−1007481、GB−A−997094、US−A−4,230,496、およびJP−A−55−106271においても提案されている。防食コーティング剤のためのアルカリケイ酸塩バインダーは、US−A−3,522,066、US−A−3,620,784、US−A−4,162,169、およびUS−A−4,479,824でも言及されている。EP−A−295834においては、アルカリ金属ケイ酸塩と少量のコロイダルシリカとの混合物、充填剤としてのAl粉末、および強化剤としての金属粉末を含むコーティング剤が言及されている。アルカリケイ酸塩バインダー水溶液および亜鉛粉末を主成分とするプライマーコーティングは、適切な腐食防止を与えることができて、それらが覆う鋼表面が溶接されることを可能にするが、それらは上塗りされるときに問題を起こす。ケイ酸塩水溶液は、ケイ酸塩を溶液中に保持するために必要な大量のアルカリ金属カチオンを含み、これらのイオンは、乾燥した後もなおコーティング中に存在する。これら大量のアルカリ金属イオンを含むプライマーコーティングが、任意の従来の有機コーティングで上塗りされて水中に浸漬されると、ブリスタリング(コーティングの局所的層間剥離)が生ずる。この問題は、コーティングがショッププライマーの塗布後しばらく屋外で風雨に曝されるか、または上塗りに先だって洗浄されると軽減されるが、そのような工程は、現在の高生産性の造船所における使用には適さない。
【0006】
もう一つの発展は水性シリカゾルバインダーを含むショッププライマーの使用である。シリカゾルは、水溶液中の離散的なコロイドサイズの非晶質シリカ粒子の安定な分散液である。シリカゾルは、通常、約7〜11の範囲のpHで安定である。約pH7未満では、シリカ粒子上の負の電荷が、凝集を防止するには低すぎ、約pH11を超えるとシリカは溶解し始める。シリカ粒子上の負の表面電荷は、粒子周囲に電気二重層を形成する可溶性の(アルカリ金属)塩により中和されている。
【0007】
シリカゾルは、前に論じたアルカリ金属ケイ酸塩型バインダーとは、後者がアルカリ金属イオンに中和された非晶質シリカの離散的コロイドサイズ粒子を含まない点で異なる。アルカリ金属ケイ酸塩は、そうではなくて、アルカリ金属とケイ酸塩との反応生成物であり、明澄透明な溶液を形成する。
シリカゾルは、そのシリカ粒子が離散的であるのに対して、ヒドロゲル中のシリカ粒子はネットワークを形成しているという点において、シリカヒドロゲルとは異なる。
【0008】
アルカリ金属含有率が非常に低い水性シリカゾルは、市販されているが、一般に25nmを超える従来使用されている大きいゾルを主成分とするコーティングは、接着、粘着、硬度ならびに摩耗および水に対する耐性に関して、(初期)膜強度が通常、非常に弱い。コーティングのこれらの劣った物理的性質のために、取扱いまたはさらなる加工中に損傷を受けやすくなる。このことが、多大なコストのかかる重要なコーティング修復が必要になる可能性をもたらす。
【0009】
シリカゾルコーティングに対して提案された改善は、水不混和性の有機アミンの添加(US−A−3,320,082)、水溶性アクリルアミドポリマーの添加(GB−A−1541022)、第四級アンモニウムまたはアルカリ金属ケイ酸塩の添加(GB−A−1485169)、ならびに粘土材料および/またはAlなどの金属酸化物および二リン酸アルミニウムおよび/またはケイ酸エチルの添加(JP−A−55−100921)である。しかしながら、そのようなコーティングでは、アルカリ金属ケイ酸塩を主成分とするコーティングと同様な物理的性質は達成されていない。従来使用されている通常25nmを超える大きいシリカゾルを主成分とするコーティングは、上塗りされ/浸漬されたときに低いレベルのブリスタリングを示す。水溶性塩含有率および浸透圧は低いが、その劣った物理的性質のために、コーティングはブリスタリング開始/成長に対する耐性をほとんど示さないので、ブリスタリングはまだ起こり得る。
【0010】
WO00/055260、WO00/055261、WO02/022745、WO02/022746、およびWO03/022940において、SiO/MO(Mはアルカリ金属およびアンモニウムイオンの合計を表す)を少なくとも6:1の比で有する水性シリカゾルを含むショッププライマーが開示されている。WO03/022940のショッププライマーは、さらにシランカップリング剤を含むこともある。
【0011】
これらのコーティング剤は、塗布されると、硬度などの膜特性の急速な発現を示して、硬化したコーティングは、良好な物理的性質(例えば、上塗りされ/浸漬されたときのブリスタリング開始/成長に対する良好な耐性)を有する。しかしながら、これら既知のコーティング組成物について、ポットライフは通常数時間に限られる。特定の組成物については、アルミナ改質シリカゾルを使用して、ポットライフを延長することができる。アルミナ改質のレベルが高いほど、結果としてポットライフは長くなる。
【0012】
上記既知のショッププライマーに関連するさらなる問題は、白錆形成に対するそれらの低い耐性である。白錆は、亜鉛を含むコーティング表面上の、柔らかくて白いふわふわした非保護的な亜鉛腐食生成物(例えば、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛および/またはヒドロキシ炭酸亜鉛)のかなりの体積の蓄積である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
6〜40wt%の1種または複数のシラン化合物で改質されたシリカゾルを使用することにより、比較的長いポットライフ、良好な白錆耐性、および良好な膜特性を有するコーティング組成物を得られることが、今や見出された。
【0014】
シラン化合物が、1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たりシラン20分子以下の速度で、シリカゾルに加えられるときだけ、適当な改質が得られることがさらに見出された。
【発明を実施するための形態】
【0015】
それ故、本発明は、加工し、上塗りすることを意図している金属、好ましくは鋼の基材のコーティングに適したコーティング組成物に関し、前記組成物は(i)亜鉛粉末および/または亜鉛合金、および(ii)シラン化合物(複数可)とコロイダルシリカ粒子との合計乾燥重量を基準にして6〜40wt%の1種または複数のシラン化合物で改質されたコロイダルシリカ粒子を含む改質シリカゾルを含み、前記シラン化合物(複数可)をシリカゾルに、1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たりシラン20分子以下の速度で加えることにより得ることができる。
【0016】
シラン改質シリカゾルにおいて、シラン基は、コロイダルシリカ粒子の表面に、共有結合で結合されていることが見出された。
【0017】
シラン改質シリカゾルの調製は、公害もなく、分散液を扱う工程作業者に対する健康問題もなく実施することができる。
【0018】
異なったレベルのシラン改質を用いる試験は、6wt%未満のシランによるシリカゾルの改質は、白錆耐性を改善しないが、40wt%を超えるシランの使用は実用上不可能であることを示した。
【0019】
好ましい実施形態において、シリカゾルは、少なくとも8wt%、より好ましくは少なくとも14wt%のシラン化合物(複数可)で改質される。使用されるべきシラン化合物の好ましい最大量は18wt%である。それより高いレベルのシラン改質では、膜特性の低下が観察されるからである。
【0020】
シラン添加速度は、好ましくは、1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たり少なくとも0.01、より好ましくは少なくとも0.1、さらにより好ましくは少なくとも0.5、最も好ましくは少なくとも1シラン分子(複数可)である。シラン添加速度は、1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たり20以下、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、さらにより好ましくは5以下、さらにより好ましくは3以下、最も好ましくは2以下のシラン分子である。好ましい速度は、添加中シリカゾルに適用される温度(温度が高いほど速い添加が可能になる)、およびシラン化合物の型(メトキシシランのような易加水分解性シランでは、エトキシシランのようなより加水分解し難いシランより速い添加が可能になる)に依存する。
【0021】
コロイダルシリカの表面積は、G.W.Sears、Analytical Chemistry、28巻(12号)、1981〜1983ページ(1956年)に記載されている滴定法により測定される。
【0022】
理論に拘泥しないが、シランのこの遅い添加の、改質シリカゾルの発現特性に対する正の効果は、シラン化合物が自己縮合した疑似ゾル粒子またはシリカゲルを生ずる能力の減少、およびそれ故ゾル粒子表面と反応する能力の増大に、多分起因する。
【0023】
WO03/022940も、ショッププライマー中のシラン化合物の存在を開示していることに注目すべきである。しかしながら、この文書によれば、シラン化合物はコーティング組成物に単に添加されるだけである。シラン化合物は、本発明により必要とされるほど、ゆっくりとはシリカゾルに添加されない。
【0024】
シラン化合物(複数可)のシリカゾルへの添加は、通常少なくとも20分、好ましくは、少なくとも30分かかる。それは、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下、最も好ましくは2時間以下を要する。
【0025】
シラン化合物(複数可)をコロイドゾルに添加後、約1秒から約30分、好ましくは約1分から約10分、混合を継続することが好ましい。
【0026】
添加は、好ましくは、連続的に且つ20〜100℃の範囲内の任意の適当な温度で実施されるが、30℃を超える温度が好ましい。より好ましくは、この温度は、35〜95℃、さらにより好ましくは50〜75℃、最も好ましくは60〜70℃の範囲内である。
【0027】
シラン化合物(複数可)のシリカゾルへの連続的添加は、シリカ含有率がゾルの総重量を基準にして約80wt%以下の高濃度の、シラン改質シリカゾルを調製するときに、特に重要なことがある。しかしながら、シリカ含有率は、約20〜約80wt%、好ましくは約25〜約70wt%、最も好ましくは約30〜約60wt%であることが適当である。
【0028】
シラン改質シリカゾル中に存在するシラン化合物(複数可)の、好ましくは少なくとも60wt%、より好ましくは少なくとも約75wt%、さらにより好ましくは少なくとも約90wt%、最も好ましくは少なくとも約95wt%が、例えば共有結合または水素結合により、コロイダルシリカ粒子の表面に結合(bound)または連結(link)している。その値は29Si−NMRにより決定することができる。
【0029】
好ましくは、シラン化合物(複数可)は、シリカゾルと混合する前に、好ましくは水により80℃以下の温度で希釈され、シラン化合物(複数可)と水との予備混合物を形成する。シラン化合物(複数可)と水との予備混合物は、予備加水分解シラン(pre-hydrolysed silane)と称することもできる。シラン化合物(複数可)は、約1:8から約8:1、好ましくは約3:1から約1:3、最も好ましくは約1.5:1から約1:1.5の重量比で水により希釈されることが適当である。その結果生ずるシラン水溶液は、実質的に透明で安定であり、コロイダルシリカ粒子と容易に混合する。「安定な」は、室温、すなわち約15〜約35℃の温度における普通の貯蔵で、好ましくは少なくとも約2カ月、より好ましくは少なくとも約4カ月、最も好ましくは少なくとも約5カ月の期間内に実質的にゲル化も沈殿もしない、安定な化合物、混合物または分散液を意味する。シラン改質シリカゾルおよびそのようなゾルを主成分とするコーティング組成物も、それ自体安定である。シラン改質シリカゾルは、好ましくは少なくとも6カ月、理想的には少なくとも12カ月の貯蔵寿命を有する。
【0030】
シラン改質シリカゾルを調製するために使用される、シリカゾル中に存在するコロイダルシリカ粒子は、例えば、十分な純度を有する、沈殿シリカ、ミクロシリカ(シリカヒューム)、焼成シリカ(ヒュームドシリカ)またはシリカゲルおよびそれらの混合物から誘導することができる。シラン改質シリカゾルおよびシラン改質シリカゾルを調製するために使用されるシリカゾルは、アミン、アルミニウム、および/またはホウ素など他の要素を含むことができる。これらの要素は、コロイダルシリカ粒子中または粒子上に、および/または連続的相中、すなわち分散する液体中に存在し得る。ホウ素改質シリカゾルは、例えば、US2,630,410に記載されている。アルミナ改質シリカ粒子は、Al含有率が約0.05〜約3wt%、好ましくは約0.1〜約2wt%であることが適当である。アルミナ改質ゾルにおいては、コロイダルシリカ粒子の表面が、粒子に結合したアルミン酸ナトリウムにより改質されている。アルミナ改質シリカゾルを調製する手順は、例えば、K.Ralph Iler、The Chemistry of Silica、407〜409ページ、John Wiley & Sons(1979年)およびUS5,368,833にさらに記載されている。
【0031】
シラン改質シリカゾルを調製するために使用される、シリカゾル中に存在するコロイダルシリカ粒子は、シラン改質前に、Searsにより記載された滴定方法を使用する比表面積測定(参考文献については上記を参照されたい)から定量される平均粒子直径が、100nm未満、特に約3〜約22nm、好ましくは約3〜約16nm、最も好ましくは約5〜約12nmの範囲であることが適当である。コロイダルシリカ粒子は、シラン改質前に、約20〜約1,500m/g、好ましくは約50〜約900m/g、より好ましくは約70〜約600m/g、最も好ましくは約200〜約500m/gの表面積を有することが適当である。コロイダルシリカ粒子は、粒子サイズ分布が狭い、すなわち平均粒子サイズからの相対標準偏差が小さいことが好ましい。この相対標準偏差は、標準偏差の数平均粒子サイズに対する比である。相対標準偏差は、好ましくは、数基準で約60%未満、より好ましくは、数基準で約30%未満、最も好ましくは、数基準で約15%未満である。
【0032】
シラン改質シリカゾルを調製するために使用される、シリカゾル中に存在するコロイダルシリカ粒子は、水性液体中に、好ましくは、水性シリカゾルを形成させるような、例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、もしくはリチウム、水酸化第四級アンモニウム、またはアルカノールアミンなどの水溶性有機アミン、あるいはそれらの混合物から生ずる安定化カチオンの存在下に分散されるのが適当である。それ以外のどのような溶媒も含まない水性シリカゾルが、好ましく使用される。コロイダルシリカ粒子は負に荷電していることが好ましい。ゾル中のシリカ含有率は、約20〜約80wt%、好ましくは約25〜約70wt%、最も好ましくは約30〜約60wt%であることが適当である。シラン改質に先立つシリカゾルのpHは、好ましくは、少なくとも約7、より好ましくは少なくとも約7.5であり、且つそれは好ましくは11未満、より好ましくは約10.5未満である。しかしながら、アルミナ改質シリカゾルについては、pHは、約1〜約12、好ましくは約3.5〜約11であることが適当である。
【0033】
シリカゾルは、凝塊形成が低レベルであることが好ましい。これは、ゾルのS値を確認することにより決定することができる。S値は、J.Phys.Chem.60巻(1956年)、955〜975ページにIler & Daltonにより記載されているようにして測定し計算することができる。シリカゾルのシリカ含有率、分散相の体積、密度および粘度は、S値に影響する。低いS値は、高度の粒子凝集または粒子間引力を表すとみなすことができる。本発明によるコーティング組成物を調製するために使用されるシリカゾルは、20〜100%、好ましくは30〜90%、さらにより好ましくは50〜85%のS値を有し得る。
【0034】
シラン改質シリカゾルの調製に適したシラン化合物には、トリス−(トリメトキシ)シラン、オクチルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン;トリス−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレートなどのイソシアネートシラン;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス−(3−[トリエトキシシリル]プロピル)ポリスルフィド、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン;エポキシ基、グリシドキシおよび/またはグリシドキシプロピル基を含むシラン類(エポキシシラン)、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)ヘキシルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリエトキシシランなど;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス−(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシランなどビニル基を含むシラン類;γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、オクチルトリメチルオキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、ジメチルジメチルオキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、i−ブチルトリエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルジメチルエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルシリルクロリド、ビニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシリザン、およびそれらの混合物が含まれる。US4,927,749は、本発明において使用され得る、さらに適当なシラン化合物を開示している。しかしながら、最も好ましいシラン化合物は、エポキシシラン類およびグリシドキシまたはグリシドキシプロピル基を含むシラン化合物、特にγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランおよび/またはγ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランである。
【0035】
本発明によるコーティング組成物中に存在するシラン改質シリカゾルは、Mでアルカリ金属とアンモニウムイオンとの合計を表して、好ましくは少なくとも6:1、より好ましくは少なくとも10:1、さらにより好ましくは少なくとも25:1、最も好ましくは少なくとも40:1のSiO/MOモル比を有し、200:1以上のSiO/MOモル比を有してもよい。さらに、異なるSiO/MOモル比を有する2種以上のシリカゾルのブレンドを使用することも可能である。ブレンドは、好ましくは少なくとも6:1、より好ましくは少なくとも10:1、さらにより好ましくは少なくとも25:1、最も好ましくは少なくとも40:1のSiO/MOモル比を有する。ゾルは、水酸化ナトリウム、カリウム、もしくはリチウムなどのアルカリ化合物、水酸化第四級アンモニウム、またはアルカノールアミンなどの水溶性有機アミンにより安定化することができる。
【0036】
シラン改質シリカゾルへの添加において、本発明によるコーティング組成物は、未改質シリカゾルまたはアルミナ改質シリカゾルを含むことができる。しかしながら、未改質シリカゾルの量は、適当なポットライフおよび低い白錆形成を維持するために十分低くすべきである。それに加えてまたはそれとは別に、コーティング組成物は、少量のケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウムリチウム、またはケイ酸カリウムなどのアルカリ金属ケイ酸塩、ケイ酸アンモニウム、または第四級アンモニウムケイ酸塩を含むことができる。適当なゾルとケイ酸塩とのブレンドまたは混合物の他の例は、US4,902,442に見出すことができる。アルカリ金属またはアンモニウムケイ酸塩の添加は、コーティング組成物の初期膜形成性を向上させ得るが、アルカリ金属ケイ酸塩の量は、バインダーゾルのSiO/MOが、少なくとも6:1、好ましくは少なくとも8:1であり、より好ましくは15:1を超え、さらにより好ましくは25:1を超え、最も好ましくは40:1を超えるように十分低くすべきである。本出願の目的にとって、少量のアルカリ金属ケイ酸塩とは、組成物中のアルカリ金属ケイ酸塩とシラン改質シリカゾルとの重量比が、0.5未満、好ましくは0.25未満、より好ましくは0.1未満であることを意味する。
【0037】
本発明によるコーティング組成物は、溶解または分散した有機樹脂を含むこともできる。有機樹脂は、好ましくは、ラテックス、例えば、スチレンブタジエンコポリマーラテックス、スチレンアクリル系コポリマーラテックス、酢酸ビニルエチレンコポリマーラテックス、ポリビニルブチラール分散液、シリコーン/シロキサン分散液、またはアクリル系ラテックス分散液である。使用できる適当なラテックス分散液の例には、XZ94770およびXZ94755(両方ともDow Chemicalsから)、Airflex(登録商標)500、Airflex(登録商標)EP3333DEV、Airflex(登録商標)CEF52、およびFlexcryl(登録商標)SAF34(全てAir Productsから)、Primal(登録商標)E−330DFおよびPrimal(登録商標)MV23LO(両方ともRohm and Haasから)、ならびにSilres(登録商標)MP42E、Silres(登録商標)M50E、およびSLM43164(全てWacker Chemicalsから)が挙げられる。アクリルアミドポリマーなどの水溶性ポリマーは、使用することはできるが、あまり好ましくはない。有機樹脂は、コーティング組成物中に、膜形成性成分の固体含有物を基準にして、好ましくは30wt%以下、より好ましくは、2〜15wt%の量で存在する。膜形成性成分の固体含有物は、乾燥有機樹脂および乾燥シリカゾルを含み、Zn粉末またはZn合金などの顔料は含まない。有機樹脂の量が多くなると、その後の溶接中に溶接空隙が生じ得る。有機樹脂の添加により、硬化したコーティングの、クロスハッチテストで測定した接着/粘着が、向上することが見出された。
【0038】
本発明によるコーティング組成物は、亜鉛粉末および/または亜鉛合金をさらに含む。
【0039】
適当な亜鉛粉末は、好ましくは、2〜12ミクロンの体積平均の平均粒子サイズを有し、そのような亜鉛粉末は、2〜8ミクロンの平均粒子サイズを有する亜鉛末として市販されている製品であることが最も好ましい。亜鉛は、電気化学的機構により鋼を保護して、亜鉛腐食生成物の保護層も形成することができ、コーティングにより与えられる防食を増強する。亜鉛の全部または一部は、亜鉛合金により置き換えることができる。
【0040】
コーティング中の亜鉛粉末および/または合金の量は、乾燥膜基準で、通常コーティングの少なくとも10体積%であり、90体積%にまですることができる。亜鉛粉末および/または合金は、コーティングの着色の実質的に全てであることが可能であり、または例えば、乾燥膜基準で、コーティングの70体積%まで、例えば、25〜55体積%を構成することができ、コーティングは、補助的腐食防止剤、例えば、US5,246,488に記載されたモリブデン酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩、またはバナジン酸塩、KR8101300に詳述された超微細二酸化チタン、および/または酸化亜鉛、および/または充填剤(シリカ、焼成粘土、ケイ酸アルミナ、タルク、バライト、雲母状酸化鉄、導電性増量剤(例えば、リン鉄)、または雲母など)も含む。コーティング中の亜鉛粉末および/または合金の量は、乾燥膜基準で、好ましくは35体積%と60体積%の間、より好ましくは、40体積%と50体積%の間である。湿式コーティング組成物においては、亜鉛粉末および/または合金の量は、コーティング組成物の総重量を基準にして、好ましくは35wt%と60wt%の間、より好ましくは、40〜50wt%である。
【0041】
コーティング組成物の固体含有率は、通常、少なくとも15体積%、好ましくは15〜40体積%の範囲内、より好ましくは20〜35体積%の範囲内にある。体積固体含有率は、コーティング組成物中に存在する全固体成分を基準にして計算される理論値である。乾燥膜厚さが40ミクロン未満、好ましくは12ミクロンと25〜30ミクロンとの間のコーティングをするために、コーティング組成物は、スプレー塗布器、特に、エアレススプレー、または大容量低圧(HVLP)スプレー塗布器などの従来のコーティング塗布器により容易に塗布できるような粘度を有することが好ましい。
【0042】
本発明によるコーティング組成物のpHは、好ましくは8〜11.5の範囲内、より好ましくは9〜11の範囲内にある。本発明者らは膜特性に対するpHの効果を説明するいかなる理論にも拘束されることは欲しないが、pHが上昇すると、結果として、溶液中のシリカイオンおよび/またはケイ酸イオンの量が増大するように思われる。このことは、コーティング組成物の塗布後、その場でゲル補強の効果をあげる可能性があるように思われる。それに加えて、pH調整により、ポットライフが少し延長される効果がある。市販で入手できるシリカゾルが使用されるときは、pHの高いゾルを選択することができ、および/またはゾルのpHを調整することができる。pHは、例えば、希硫酸もしくは水酸化ナトリウムを添加することにより、またはジメチルアミノエタノール(DMAE)などのpHに影響するポットライフ延長剤を添加することにより調整することができる。例えば、市販で入手できる22nmのシリカゾルのpHは、通常、約8.5〜9である。これらのゾルのpHを10〜11に上昇させると、コーティング特性の発現速度が顕著に向上する。
【0043】
場合により、コーティング組成物は、当業者に周知のさらなる添加剤、例えば、チキソトロピー剤および/または流動性調節剤(有機粘土、キサンタンガム、セルロース増粘剤、ポリエーテル尿素ポリウレタン、(焼成)シリカ、アクリルなど)、消泡剤(特に、ラテックス改質剤が存在するとき)、および、場合により、クロム酸塩(例えば、重クロム酸ナトリウム)または第三級アミン(例えば、トリエチルアミンまたはジメチルアミノエタノール)などの補助ポットライフ延長剤を含むことができる。好ましいチキソトロピー剤および/または流動性調節剤には、ケイ酸ナトリウムマグネシウム(有機粘土)であるBentone(登録商標)EW(Elementisから)、含水ケイ酸アルミニウムであるBentolite(登録商標)WH(Rockwoodから)、含水ケイ酸ナトリウムマグネシウムリチウムであるLaponite(登録商標)RD(Rockwoodから)、焼成シリカであるHDK(登録商標)−N20(Wacker Chemieから)、および特許のあるアクリル系水中分散液であるRheolate(登録商標)425(Elementisから)が含まれる。好ましい消泡剤には、Foamaster(登録商標)NDW(Cognisから)、Tego Foamex(登録商標)88(Tego Chemieから)、およびDapro(登録商標)1760(Elementisから)が含まれる。他の理由でコーティング組成物中に存在してもよい他の化合物が、補助ポットライフ延長剤としても作用し得ることが見出された。例えば、防食顔料のMolywhiteを添加すると、ポットライフを少し延長することができる。好ましい補助ポットライフ延長剤は、第三級アミンであり、それは、ポットライフ延長のためにクロム酸塩を含まない選択肢を提供する。
【0044】
コーティング組成物の顔料体積濃度(PVC)は、40%と75%の間であることが好ましい。大きい平均粒子サイズのシリカゾルを含むコーティング組成物は、それより小さい平均粒子サイズのシリカゾルを含むコーティング組成物より低いPVCを必要とする。75%を超えるPVCでは膜特性が低下し、40%未満では、効果的な長期の、すなわち少なくとも6カ月の腐食防止を実現するには亜鉛が不十分である。
【0045】
顔料体積濃度(PVC)は、乾燥塗料膜中の顔料の体積百分率である。本明細書に関しては、顔料は、膜形成性成分以外の任意の固体成分と定義される。シリカゾルおよび有機樹脂は、膜形成性成分とみなされる。臨界顔料体積濃度(CPVC)は、顔料表面に完全に吸着されたバインダー層を実現し、且つ最密充填系中の粒子間の全ての間隙を満たすために丁度十分なバインダーがある顔料体積濃度と、通常、定義される。臨界顔料体積濃度は、粘性塊を形成させるために丁度十分なアマニ油を乾燥顔料に浸潤させることにより決定することができる。この方法により、「吸油量」として知られる値が得られ、その値から臨界顔料体積濃度を計算することができる。吸油量を測定する方法は、英国標準規格3483(BS3483)に記載されている。
【0046】
本発明によるコーティング組成物は、2つの(または3つ以上の)パックシステムとして提供することができ、2つの(または3つ以上の)パックの内容物は、コーティング塗布前に徹底的に混合される。第1パックは、シリカゾル、ならびに第2パック中に場合により存在する有機樹脂、亜鉛粉末および/または合金を、乾燥形態で含むことができる。このことは、亜鉛粉末および/または合金が、貯蔵中に水と反応することを防止する。
【0047】
コーティング組成物をその塗布直前に、例えば、コーティング組成物の全ての原料を塗布直前に加えて徹底的に混合することにより、調製することも可能である。そのような方法は、コーティング組成物中の成分のオンライン混合と称することもできる。
【0048】
コーティング組成物の塗布層の膜特性の発現は、コーティングの膜強度を増大させる溶液で基材を処理することができる後処理法により促進することができる。その場合、好ましい方法は以下の通りである:金属基材を本発明によるコーティング組成物でプライマーコートして、プライマーコーティングが、乾燥した感触になる程度に乾燥した後、それを膜強化溶液で処理する。プライマーコーティングの膜強度を増大させるそのような溶液は、通常、無機塩の水溶液または反応性ケイ素含有基を有する物質の溶液であってよい。
【0049】
プライマーコーティングに場合により適用される膜強度増強溶液の量は、通常、標準的乾燥膜厚さ(15〜20μm)で塗布されたコーティングに対して、プライマーコート表面1平方メートル当たり0.005〜0.2リットル(L/m)、好ましくは、0.01〜0.08リットル(L/m)の範囲内である。そのような量の溶液は、噴霧により便利に塗布することができる。言うまでもないが、コーティングを塗布し過ぎた場合、すなわち乾燥膜厚さ>20μmであれば、後処理溶液の濃度または体積を増加すべきである。
【0050】
場合により適用される膜強度増強溶液が、無機塩の水溶液であるとき、その濃度は、通常少なくとも0.01M、好ましくは少なくとも0.03Mである。無機塩溶液の濃度は、0.5Mもしくは1Mまで、またはそれより高くさえできる。無機塩は、アルカリ金属またはアンモニウム塩などの1価カチオン、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、銅(II)もしくは鉄(II)などの2価カチオン、アルミニウムもしくはセリウム(III)などの3価カチオン、またはセリウム(IV)などの4価カチオン、およびハロゲン化物、例えば、フッ化物、塩化物もしくは臭化物、または硝酸塩などの1価アニオン、または硫酸塩もしくはリン酸塩などの多価アニオンの塩であってよい。上記の塩の混合物も使用することができる。効果的であることが見出された無機塩溶液の例は、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸鉄、硫酸セリウム(IV)、硫酸銅、塩化ナトリウム、および塩化カリウムであるが、塩化物は、鋼基材の腐食を促進する傾向のゆえに好ましいとは思われない。硫酸亜鉛または硫酸アルミニウムの使用は好ましい。無機塩溶液の重量濃度は、好ましくは、0.5〜20重量%の範囲内である。
【0051】
場合により適用される膜強度増強溶液が反応性ケイ素含有基を有する物質の水溶液であるとき、それは活性なケイ素含有基を有する物質としてケイ酸塩を含むことができる。膜強度増強溶液は、アルカリ金属ケイ酸塩溶液、例えば、ケイ酸カリウムもしくはケイ酸リチウム、またはケイ酸アンモニウム溶液であってよく、あるいはそれは、シリコン酸アルカリ金属塩、例えば、アルキルシリコン酸塩溶液であってもよい。そのような溶液の好ましい濃度は、0.5〜20wt%の範囲内にある。
【0052】
コーティング組成物塗布層の膜特性の発現は、別法として、随意選択で後処理されたコート基材を水中に浸漬することにより、または随意選択で後処理されたコート基材を相対湿度が少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%の雰囲気中で調湿することにより促進することができる。好ましくは、金属基材は、本発明によるコーティング組成物でプライマーコートされ、プライマーコーティングが乾燥した感触になる程度に乾燥した後、基材は、水中に浸漬されるか、または別法では、相対湿度が少なくとも80%、より好ましくは少なくとも50%の雰囲気中に保たれる。あるいは、金属基材が、本発明によるコーティング組成物でプライマーコートされ、且つプライマーコーティングが乾燥した感触になる程度に乾燥した後、基材は、最初に膜強化溶液で処理され、次に水中に浸漬されるか、または別法で、相対湿度が少なくとも80%、より好ましくは少なくとも50%の雰囲気中に保たれる。
【0053】
膜特性の急速な発現が問題にならないときは、後処理していないコーティングを低い相対湿度、例えば、25%と50%の間の相対湿度で乾燥させることが可能である。コーティング特性の発現の進行は遅くなるであろうが、最終的には良好なコーティング特性が得られる。
【0054】
本発明によるコーティング組成物は、風雨に曝されたときを含めて、ある範囲のエポキシプライマーで、良好な上塗り特性を有する。
【実施例】
【0055】
本発明によるコーティング組成物は、以下のようにして調製した。
【0056】
最初のステップでは、1,000gのSilquestA−187(グリシドキシ含有エポキシシラン、GE Siliconesから)を、約50〜70gの予備加水分解されたシランの3Lビーカー内残液に加えることにより、予備加水分解されたシランを調製した。1,000gの脱イオン水を穏やかに攪拌しながら加えた。この攪拌を約1時間継続した。予備加水分解されたシランの透明な混合物が得られた。
【0057】
シランの加水分解中に熱が発生して、約5〜10℃の温度上昇が起こった。シランの自己縮合を防止するために、予備混合物の温度を35℃未満に保った。この自己縮合は、濁度の増大として観察することができる。予備混合物のpHは中性すなわち約7であった。予備混合物は、通常2カ月間安定であった。
【0058】
次のステップでは、5,000gのBindzil 30/360(未改質の7nmシリカゾル、Akzo Nobel(Eka Chemicals)から)を、5Lのガラス製反応器中で60℃に加熱することにより、改質シリカゾルを調製した。シラン改質の所望の程度に応じた量の予備混合物をゾルに、よく攪拌しながら2.2分子/nm/時の速度で加えた。添加が終了した後、混合物を5Lのプラスチック製ドラムに流し込み、放置して(約30分)室温に冷却した。
【0059】
シリカゾルに加えたシランの量の合計は、乾燥重量基準でシリカゾル当たりのシランとして2wt%と20wt%の間で変化した。
【0060】
シランとゾルとの反応中に、pHは約0.5単位だけ上昇した。ゾルの比表面積の急激な減少(G.W.Sears、Analytical Chemistry、28巻(12号)、1981〜1983ページ(1956年)に記載されている滴定法により測定した)が観察され、シランとゾル上のシラノール表面基との反応を示した。
【0061】
生成したシラン改質シリカゾルを、以下のコーティング組成物を得るために、他のコーティング原料と混合した。
【0062】
【表A】

【0063】
シラン改質の程度が異なるコーティング組成物のポットライフを測定するために、コーティング組成物を鋼基材に塗布して、23℃、60%RH(相対湿度)で貯蔵した。原料の混合と基材への塗布との間の時間間隔を変えて行った。塗布の24時間後に、コーティングを、それらの耐摩耗性について試験した(湿式二重摩擦試験;WDR)。
【0064】
湿式二重摩擦試験において、コートされた表面を2滴の水で濡らして、次にそれを脱脂綿綿棒で軽い圧力をかけて擦る。1往復が1回の二重摩擦である。結果は、コーティングが除去されるまでの二重摩擦の回数として表される。コーティングが100回の二重摩擦でも残っていれば、最終的な乾燥膜厚さ(dft)を初期値と比較する。乾燥膜厚さの減少が25%を超えれば、結果は>100と表される。乾燥膜厚さの減少が25%未満であれば、結果は>>100と表される。
【0065】
試験結果を表1に掲載する。
【0066】
2種の組成物を対照として使用した。(i)シラン改質がない以外は同じシリカゾルを含む組成物、および(ii)WO03/022940による組成物で、この場合、SilquestA−187(14wt%のシラン改質に相当する量で)を、未改質シリカゾルであるBentoneo(登録商標)EWとXZ94770ラテックスとの混合物に、低速で攪拌しながら1分未満で残らず加え(添加速度:シラン約60〜100分子/nm/時)、その後混合物をそのまま24時間置いてから他の化合物に混合した。後半の手順で、可視的に混濁したゾルが生じた(おそらくは、シランの自己縮合またはゾル粒子の架橋フロック形成に帰せられる)。
【0067】
【表1】

【0068】
これらの結果は、本発明によるコーティング組成物が、24時間を超えるポットライフを有し、良好な膜特性を示すことを示している。シランなしの対照組成物およびシランが非常に急速に加えられた対照組成物は、ポットライフが有意に短かった。
【0069】
14%のシランを急速に加えた対照組成物は、貯蔵して特性が向上するか(シランがゾル表面とゆっくり反応することによって)否かを見るために、シラン添加の2週間および4週間後に同じ試験を行った。しかしながら、結果は、反対のことが起こったことを示す。すなわち、下の表2に示すように、ゾルは、貯蔵中に安定性が低下した。
【0070】
【表2】

【0071】
白錆耐性は、コートされた基材を凝結室中で45℃の水浴上に45°の角度で24時間保つことによる極端な条件下で測定した。この試験中、コートされた基材上に水蒸気が凝結して、凝結した水が基材に沿って滑り、水浴中に戻る。
【0072】
24時間後に、コートされた基材を、白錆形成について視覚で検査した。白錆のレベルは、白錆で覆われた表面積の百分率を表す。結果を表3に示す。未改質シリカゾル含有コーティングでコートされた基材を対照として使用した。
【0073】
【表3】

【0074】
この表は、本発明による組成物が改善された白錆耐性を示すことを示している。最良の結果は、14〜20wt%のシラン化合物で改質されたシリカゾルで得られた。5カ月間の戸外曝露後でさえ、これらのコーティング上に白錆は観察されなかった。
【0075】
しかしながら、20wt%シラン化合物で改質されたシリカゾルを含むコーティング組成物は、膜特性の低下による、コーティング組成物の基材からの脱落に明らかに基づく赤錆形成の傾向があった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工され、上塗りされることを意図されている金属、好ましくは鋼の基材をコーティングするために適したコーティング組成物であって、(i)亜鉛粉末および/または亜鉛合金、ならびに(ii)シラン化合物(複数可)とコロイダルシリカ粒子との合計乾燥重量を基準にして、6〜40wt%の1種または複数のシラン化合物で改質されたコロイダルシリカ粒子を含む改質シリカゾルであり、前記シラン化合物(複数可)をシリカゾルに、1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たりシラン20分子以下の速度で加えることにより得ることが可能な改質シリカゾルを含む、コーティング組成物。
【請求項2】
シラン化合物(複数可)が、シリカゾルに1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たりシラン5分子以下の速度で加えられる、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
シラン化合物(複数可)が、シリカゾルに少なくとも50℃の温度で加えられる、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
シリカゾルが、8〜18wt%の1種または複数のシラン化合物で改質された、請求項1または2に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
シリカゾル中に存在するシラン化合物の少なくとも60wt%が、コロイダルシリカ粒子の表面に結合または連結している、前記請求項のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
シリカゾルがアルミナでさらに改質された、前記請求項のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
1種または複数のシラン化合物で改質されたシリカゾルが、少なくとも6:1のSiO/MOモル比(Mは、アルカリ金属およびアンモニウムイオンの合計を表す)を有する、前記請求項のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
1種または複数のシラン化合物で改質されたシリカゾル中のコロイダルシリカ粒子が、3nmと22nmの間の平均粒子直径を有する、前記請求項のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
シラン化合物がエポキシ官能性シラン化合物である、前記請求項のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
膜形成性成分の固体含有物を基準にして30wt%までの有機樹脂をさらに含む、前記請求項のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
9〜11の範囲内のpHを有する、前記請求項のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
(i)少なくとも1種の予備加水分解シラン化合物を、シリカゾルに、1時間につきコロイダルシリカ表面1nm当たりシラン20分子以下の速度で加えて、シラン改質シリカゾルを形成するステップ、および
(ii)亜鉛および/または亜鉛合金ならびに場合により他の成分を、シラン改質シリカゾルに加えるステップ
を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のコーティング組成物の調製方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のコーティング組成物でコートされた金属基材。

【公表番号】特表2010−525094(P2010−525094A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503484(P2010−503484)
【出願日】平成20年4月16日(2008.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/054573
【国際公開番号】WO2008/128932
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(500286643)アクゾ ノーベル コーティングス インターナショナル ビー ヴィ (67)
【Fターム(参考)】