説明

金属帯の冷間圧延方法

【課題】ソリューション型のクーラントを用いた金属帯の冷間圧延において、圧延油エマルションと同程度の潤滑性能を確保することが可能な冷間圧延方法を提供する。
【解決手段】金属帯表面にクーラントを供給しながら該金属帯を冷間圧延する方法において、供給するクーラントを平均分子量が500〜5000であるポリアルキレングリコールを2.0〜30.0質量%含有するものとし、ロールバイトから500mm以上、圧延ライン上流側の位置で金属帯表面に上記クーラントを供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属帯の冷間圧延方法に係り、水溶性クーラント(ソリューション型クーラント)を使用して適切な潤滑状態に制御する冷間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延では、圧延ロールと金属帯の潤滑および冷却の2つの性能が重要である。潤滑は、ワークロールと金属帯との間(ロールバイト)の摩擦係数を下げて、圧延荷重を低減するために必要な性能である。また、冷却は、ロールバイトでの摩擦発熱や加工発熱による圧延ロールや金属帯の過度な温度上昇を防止するために必要な性能である。
これらの潤滑・冷却性能を発揮させるために、鋼板等の金属帯の冷間圧延においては、不水溶性油剤基油である鉱物油、天然油脂、合成エステル等に界面活性剤を含む圧延油を水に希釈したエマルションが、クーラントとして広く用いられている。このエマルションは、O/W型(水中油滴型)のエマルションとして使用され、例えば、上記の圧延油と水とを予め混合・攪拌することにより、圧延油を平均粒径が5〜15μm程度の油滴として1〜10質量%程度含有するエマルション(以下、圧延油エマルションともいう)とし、クーラントタンクから金属帯やロールバイトに供給される。
【0003】
圧延油エマルションを、金属帯やロールバイトにスプレー等により供給すると、金属帯表面から水が排除され且つ油膜を形成し(このような現象をプレートアウトという)、この油膜がロールバイトにおける潤滑性能を向上させる。また、ロールバイトに形成される油膜が厚いと、摩擦係数低減効果や耐焼付き性などの潤滑性能は向上し、たとえ硬質な金属帯であっても高圧下の圧延が可能となる。
【0004】
しかしながら、圧延油エマルションを用いた冷間圧延は、潤滑性能を確保する上では有効であるものの、圧延油エマルションの劣化腐敗、スラッジ発生、圧延設備の汚れ、冷却効果の低下等の問題が避けられない。
圧延油の使用量ならびに廃液量の低減化を図るため、クーラントタンクから金属帯やロールバイトに供給された圧延油エマルションは循環使用されることが多いが、圧延油エマルションには冷間圧延によって発生する摩耗粉等が混入し、また、加工熱により加熱される。そのため、循環使用される圧延油エマルションは、乳化状態等が経時的に変化し、その特性が劣化する。また、油分を栄養源とする微生物が発生することにより、圧延油エマルションが腐敗する場合がある。
【0005】
更に、圧延油エマルションを、スプレー等により金属帯やロールバイトに供給すると、圧延油エマルションに摩耗粉等が混入してスラッジを発生するとともに、スプレーした圧延油エマルションやスラッジが圧延設備およびその周辺に飛散して付着する。そのため、圧延設備およびその周辺を定期的に洗浄する必要があるが、付着し時間が経過した圧延油エマルションやスラッジは粘性が高いため、圧延設備等から容易に洗浄することができず、作業環境の悪化を招く。
【0006】
圧延油エマルション以外の冷間圧延用のクーラントとしては、例えば特許文献1に開示されているようなソリューション型のクーラントが知られている。ソリューション型のクーラントは、潤滑成分が水に溶解したものであるため、摩耗粉等と分離し易い。すなわち、冷間圧延によって発生する摩耗粉等がソリューション型のクーラントに混入しても、クーラントと摩耗粉等とは容易に分離するため、スラッジの発生が抑制され且つクーラントの安定性に優れる。また、ソリューション型のクーラントは、圧延油エマルションに比べて粘性が低く流動性を有するため、洗浄性能に優れており、圧延により発生する摩耗粉や余分な潤滑剤を洗い流す作用を有し、圧延後の金属帯表面に残留する潤滑成分を極めて少なくすることもできる。更に、クーラントが圧延設備およびその周辺に飛散した場合であっても、圧延油エマルションとは異なり粘性が低いため、容易に除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−60468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ソリューション型のクーラントを用いた冷間圧延では、圧延油エマルションを用いた場合に比べて潤滑性能が著しく劣り、金属帯の冷間圧延を行うに際し、圧延荷重を十分に低減することができない。そのため、ソリューション型のクーラントを用いた冷間圧延は、調質圧延等の軽圧下圧延には適用可能であるものの、通常のタンデム圧延等、高圧下圧延を伴う冷間圧延へ適用した場合、ロールバイトにおける潤滑性能が不十分となり、荷重低減効果が得られず、金属帯とロールとの焼付き疵(欠陥)が発生して冷間圧延機の安定操業が困難であった。
【0009】
本発明は、上記した課題を有利に解決するものであり、ソリューション型のクーラントを用いた場合であっても、圧延油エマルションと同程度の潤滑性能を発揮し、安定した圧延操業を実現するための冷間圧延方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、ソリューション型のクーラントを用いた冷間圧延において、潤滑性能向上を図る手段について鋭意検討した。その結果、所定の潤滑剤が水溶液に溶解したソリューション型のクーラントを用い、クーラント供給位置の適正化を図ることにより、ソリューション型のクーラントを用いた場合に見られる有利な効果を維持しつつ、圧延油エマルションを用いた場合と同程度の潤滑性能が得られることを知見した。
【0011】
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
(1)金属帯表面にクーラントを供給しながら該金属帯を冷間圧延する方法において、平均分子量が500〜5000であるポリアルキレングリコールを2.0〜30.0質量%含有するクーラントを、ロールバイトから500mm以上、圧延ライン上流側に位置する上流クーラント供給位置で金属帯表面に供給することを特徴とする金属帯の冷間圧延方法。
(2)(1)において、前記上流クーラント供給位置で前記クーラントを金属帯表面に供給するとともに、圧延条件に応じて、前記クーラントをロールバイトに供給することを特徴とする金属帯の冷間圧延方法。
(3)(1)または(2)において、前記上流クーラント供給位置で前記クーラントを金属帯表面に供給するに際し、前記クーラントを、金属帯の圧延方向とは逆方向に噴射することを特徴とする金属帯の冷間圧延方法。
(4)(1)ないし(3)において、前記上流クーラント供給位置の圧延ライン下流側であり且つロールバイトの圧延ライン上流側において、圧縮空気を金属帯表面に向けて噴射することを特徴とする金属帯の冷間圧延方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属帯の冷間圧延において、ソリューション型のクーラントを用いた場合であっても、十分な潤滑性能が発揮される。そのため、圧延油エマルションを用いた場合において問題とされたスラッジ発生や圧延設備の汚れを起こすことなく、圧延油エマルションと同様に薄鋼板等の高圧下圧延が可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施に供されるクーラント供給設備の一例を示す図である。
【図2】圧延速度と圧延荷重との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、タンデム圧延機、リバース圧延機等、通常公知の冷間圧延をはじめ、あらゆる冷間圧延を対象とする。また、本発明において冷間圧延の対象となる金属帯は、主として普通鋼、高炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄系材料からなる薄鋼板であるが、アルミニウム、銅等、非鉄金属からなる金属帯の冷間圧延に適用することもできる。
【0015】
クーラントとは、冷間加工における加工発熱や摩擦発熱に起因する金属帯や圧延ロールの温度上昇を抑制し、圧延ロールと金属帯表面が焼付くヒートスクラッチ等の欠陥を防止するための冷却液であるが、冷間圧延においては冷却性能だけでなく、潤滑性能をも併せ持ったものを意味する。
冷間圧延では圧延油エマルションを用いるのが一般的であるが、本発明では、潤滑剤が水に溶解するソリューション型のクーラントを対象とする。先述のとおり、ソリューション型のクーラントによると、圧延油エマルションが抱える劣化腐敗、スラッジ発生、圧延設備の汚れ等の問題を有利に解決できるためである。
【0016】
本発明で用いるクーラントは、水溶液中に、潤滑剤としてポリアルキレングリコールを含有するものである。
ポリアルキレングリコールは、ポリグリコール、ポリエーテル、ポリアルキレンオキサイドとも呼ばれ、エチレンオキシド(EO)やプロピレンオキシド(PO)などのアルキレンオキシド(AO)を、開環重合させることにより得られる重合物である。この重合物は、主としてブレーキ液や難燃性作動油等に使用されている合成潤滑剤であって、その重合度やアルキル基等を変化させることによって、各種の粘度グレードに調整可能であり、水溶性のものから非水溶性のものまで、幅広い特徴を有する重合物を得ることができるものである。
【0017】
本発明においては、上記ポリアルキレングリコールの平均分子量を500〜5000とする。平均分子量が500未満と小さいと金属帯表面への潤滑剤付着量が少なくなるため潤滑性能が不足し、一方、平均分子量が5000超と大きすぎるとロールバイトへ導入される潤滑剤の量が過剰となり、スリップが発生して安定した圧延ができなくなるためである。好ましい平均分子量は1000〜2500である。
【0018】
なお、本発明におけるポリアルキレングリコールの種類は特に限定されず、例えば、オキシプロピレン単位からなるブロック部分の両端にオキシエチレン単位からなるブロック部分が結合された構造を有するもの(ノーマルブロック型共重合体)や、オキシエチレン単位からなるブロック部分の両端に、オキシプロピレン単位からなるブロック部分が結合された構造を有するもの(リバースブロック型共重合体)など、種々のポリアルキレングリコールを用いることができる。
【0019】
本発明のクーラントは、上記ポリアルキレングリコールを2.0〜30.0質量%含有する水溶液とする。潤滑剤としてのポリアルキレングリコール濃度が2.0質量%未満と低くなると、冷間圧延に必要な潤滑性能を十分に確保することができないためである。一方、ポリアルキレングリコール濃度が高まるにつれて潤滑性能は向上するが、その濃度が30.0質量%超と過剰になると潤滑剤の消費量が増加して経済的に不利となる。そのため、ポリアルキレングリコール濃度は30.0質量%以下とする。好ましくは10.0〜20.0質量%である。
【0020】
クーラントには、上記ポリアルキレングリコール以外の添加成分として、潤滑性能の向上を目的としたカルボン酸またはその塩を適宜添加してもよい。また、酸化防止剤、極圧添加剤、水溶性防錆剤等を添加することもできる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等を用いることができる。極圧添加剤としては、塩素化油脂、塩素化脂肪酸エステル等の塩素化化合物、硫化油脂、アルキルポリサルファイド等の合成硫黄化合物やリン化合物、有機金属塩化合物等を用いることができる。水溶性防錆剤としては、脂肪族モノカルボン酸等の脂肪酸類に、塩基性物質としてアルカノールアミン等を加えたものを用いることができる。更に、必要に応じて防腐剤や界面活性剤を添加したものを用いてもよい。なお、クーラント中に含有されるポリアルキレングリコール以外の前記添加成分は、合計で0.1〜5.0質量%程度とすることが好ましい。より好ましくは0.2〜2.0質量%程度である。
【0021】
本発明においては、上記クーラントを、ロールバイトから500mm以上、圧延ライン上流側に位置する上流クーラント供給位置で金属帯表面に供給する。圧延ライン上流側の位置で、金属帯表面にクーラントを供給するのは、クーラント中の潤滑成分であるポリアルキレングリコールを、ロールバイト部に達する前の金属帯表面に付着させることにより、ロールバイトにおいて十分な潤滑膜を形成させ、潤滑性能を確保するためである。
【0022】
上記において、金属帯表面に付着しなかったクーラントの一部は、ロールバイト部に達する前に金属帯表面から流れ落ちる。しかしながら、上流クーラント供給位置とロールバイトとの距離が近すぎると、金属帯表面に付着しなかったクーラントは、金属帯表面から殆ど流れ落ちることなくロールバイト入口に到達し、金属帯と圧延ロールの移動方向に引きずられてロールバイト入口に滞留する。このような場合、ソリューション型クーラント特有の高い洗浄効果を有するがゆえ、ロールバイト入口に滞留したクーラントが、金属帯表面に付着した潤滑成分(潤滑膜)を洗い流してしまう。したがって、本発明においては、ロールバイトと上流クーラント供給位置との距離を500mm以上とする。また、好ましくは、1000mm以上である。なお、ロールバイトと上流クーラント供給位置との距離が大きくなりすぎると、上流クーラント供給位置とロールバイトの間にデフレクタロール等の補助ロールが設置されているため、補助ロールが上流クーラント供給位置とロールバイトの間に入ってしまい、この補助ロールと金属帯表面との接触により、金属帯表面の潤滑膜が補助ロールに移着することがある。よって、ロールバイトと上流クーラント供給位置との距離は、実用上2000mm以下とすることが好ましい。
【0023】
先述のとおり、ロールバイトの上流側で、ソリューション型クーラントの潤滑成分(ポリアルキレングリコール)を金属帯表面に付着させることにより、潤滑性能を確保することが可能となる。しかしながら、金属帯表面に付着させる潤滑成分(ポリアルキレングリコール)の適正量は、圧延条件に依存する。例えば、高い圧延荷重を要する高圧下または高速圧延では十分な潤滑性能を確保する必要があるため、潤滑成分の付着量を多くすることが好ましいが、低荷重圧延を行う場合には、潤滑成分の付着量が多くなると、過潤滑に起因したスリップが生じて圧延が不安定となるおそれがある。
【0024】
上記問題を解決する上では、本発明において、上流クーラント供給位置で前記クーラントを金属帯表面に供給するとともに、圧延条件に応じて、クーラントをロールバイトに供給することが有効である。先述のとおり、ソリューション型クーラントは優れた洗浄性能を有するため、クーラントをロールバイトに供給すると、ロールバイト入口にクーラント溜りが形成され、金属帯表面に付着した潤滑成分(ポリアルキレングリコール)が洗い流される。そのため、ロールバイトの上流側で金属帯表面に付着する潤滑成分の付着量が過剰となった場合であっても、クーラントをロールバイトに供給することにより、過潤滑を防止することができる。
【0025】
すなわち、潤滑性能を向上させて圧延荷重を低減したい圧延条件下においては、クーラントをロールバイトに供給することなく圧延を行い、過潤滑を防止するために潤滑性能を低減したい圧延条件下においては、クーラントをロールバイトに供給する。このように、本発明においては、上流クーラント供給位置で前記クーラントを金属帯表面に供給するとともに、圧延条件に応じて、クーラントをロールバイトに供給することにより、圧延条件に応じた冷間圧延機操業の安定化が可能となる。
【0026】
圧延条件の指標としては、上記した圧延荷重や、先進率のように、圧延中の潤滑状態を推定できる指標を用いることができる。例えば、圧延荷重を指標とするに際しては、圧延荷重が所望の値よりも高い場合には、上流クーラント供給位置でのクーラント供給のみを行い、圧延荷重が所望の値よりも低い場合には、上流クーラント供給位置でのクーラント供給に加えてロールバイトでのクーラント供給を行う。また、先進率を指標とするに際しては、先進率が所望の値よりも高い場合には、上流クーラント供給位置でのクーラント供給のみを行い、先進率が所望の値よりも低い場合には、上流クーラント供給位置でのクーラント供給に加えてロールバイトでのクーラント供給を行う。また、これら以外の指標として、圧延中のロールバイトにおける摩擦係数を実測する圧延荷重から逆算しながら、摩擦係数の大小に応じてクーラントをロールバイトに供給するか否かを決定してもよい。
【0027】
なお、本発明においては、ロールバイトへのクーラント供給量を変更することにより、或いは、上流クーラント供給位置でのクーラント供給量を変更することにより、金属帯表面に付着する潤滑成分を所望の付着量に調整することもできる。また、ロールバイトへのクーラント供給量を変更するとともに、上流クーラント供給位置でのクーラント供給量を変更することによっても、金属帯表面に付着する潤滑成分を所望の付着量に調整することもできる。
【0028】
更に、本発明においては、上流クーラント供給位置でクーラントを金属帯表面に供給するに際し、前記クーラントを、金属帯の圧延方向とは逆方向に噴射することが好ましい。上記の如く逆方向に噴射すると、クーラント供給後、金属帯の上面に滞留したクーラントが、ロールバイト入口に到達し難くなり、金属帯表面に形成された潤滑膜を洗い落とし難くするためである。
【0029】
更に、本発明においては、上流クーラント供給位置の圧延ライン下流側であり且つロールバイトの圧延ライン上流側において、圧縮空気を金属帯表面に向けて噴射することが好ましい。これにより、金属帯の上面に滞留しているクーラントを吹き飛ばして、ロールバイト入口にクーラントが到達せず、金属帯表面に形成された潤滑膜を洗い落とすことを防止することができるからである。更に、圧縮空気の好ましい噴射方向は、金属帯の圧延方向とは逆に傾斜させた方向である。
【0030】
本発明の実施に供されるクーラント供給設備の一例を図1に示す。金属帯1は、ペイオフリール(図示せず)から払い出されて図中の矢印方向に搬送され、圧延ロール(ワークロール3a,バックアップロール3b)を有する冷間圧延機2によって圧延される。冷間圧延機2のロールバイト入側には、クーラントを上方からロールバイトに供給するためのスプレーノズル4aと、クーラントを下方からロールバイトに供給するためのスプレーノズル4bが設置されている。そして、スプレーノズル4a,4bの圧延ライン上流側(上流クーラント供給位置)には、クーラントを上方から金属帯1に供給するためのスプレーノズル5aと、クーラントを下方から金属帯1に供給するためのスプレーノズル5bが設置されている。また、スプレーノズル5a,5bは、スプレー噴射方向を自在に変更できるものとする。なお、スプレーノズル4a,4bも、スプレー噴射方向を自在に変更できるものが好ましい。
【0031】
スプレーノズル5a,5bは、供給ポンプ10を管路に配置した配管11によって、クーラントタンク7に接続されている。供給ポンプ10を駆動させると、クーラント7に貯蔵されたクーラント7aは配管11を介してスプレーノズル5a,5bへ送出され、上流クーラント供給位置においてクーラント7aが金属帯1に供給される。同様に、スプレーノズル4a,4bは、供給ポンプ12を管路に配置した配管13によって、クーラントタンク7に接続されており、供給ポンプ12を駆動させると、クーラント7に貯蔵されたクーラント7aは配管13を介してスプレーノズル4a,4bへ送出され、クーラント7aがロールバイトに供給される。
【0032】
スプレーノズル4a,4b,5a,5bの各々に送出されるクーラント流量は、ポンプ回転数や流量調整弁(図示せず)の弁開度を制御することにより調整される。本発明では、上流クーラント供給位置においてスプレーノズル5a,5bから金属帯1にクーラント7aを供給することを必須とする一方、スプレーノズル4a,4bからロールバイトへのクーラント7aの供給は、圧延条件に応じて任意に行うものである。よって、ロールバイトへのクーラント7aの供給を行う場合には、流量調整弁を開いてポンプ12を駆動し、ロールバイトへのクーラント7aの供給を行わない場合には、ポンプ12を駆動させず、流量調整弁を閉じる。
【0033】
なお、図1においてはクーラント供給手段をスプレーノズル4a,4b,5a,5bとしているが、クーラント供給手段はこれに限定されない。すなわち、本発明においては、金属帯幅方向全域に亘りクーラントを供給することができるものであれば、その他公知のクーラント供給手段を用いることができる。また、図1においては共通のクーラントタンク7に貯蔵されたクーラント7aをスプレーノズル4a,4bとスプレーノズル5a,5bに送出しているが、スプレーノズル4a,4bに送出するクーラントとスプレーノズル5a,5bに送出するクーラントとを、別々のクーラントタンクに貯蔵しても構わない。
【0034】
更に、図1において、上流クーラント供給位置に設置したスプレーノズル5a,5bの圧延ライン下流側であり且つロールバイトの圧延ライン上流側において、圧縮空気を金属帯表面に向けて噴射する空気噴射ノズルを必要に応じて設けることができる。また、タンデム圧延機を用いて本発明を実施する場合には、クーラントを供給する上記スプレーノズル4a,4b,5a,5b、並びに空気噴射ノズルは、各スタンドに配置するのが好ましい。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
4段式圧延機に、図1に示すクーラント供給設備を設けてソリューション型クーラントを供給しながら冷間圧延を行い、圧延荷重を測定した。
冷間圧延は、板厚0.23mmの炭素鋼コイルを被圧延材とし、ワークロール径:φ550mm、ワークロール素材:5%Cr鍛鋼、ワークロール表面粗さRa:0.1μm、圧下率:20%の1パス圧延とし、圧延速度:1200mpmで冷間圧延を行った。
【0036】
用いたソリューション型クーラントに含有されたポリアルキレングリコールの種類、平均分子量を表1に示す。クーラントは、表1に示す各種ポリアルキレングリコールを、表1に示す濃度(クーラント中のポリアルキレングリコール含有量(質量%))で水に溶解させ、温度65℃に加熱し、上流クーラント供給位置および/またはロールバイトにおいて、表1に示す条件にて供給した。また、一部の実施例においては、上流クーラント供給位置とロールバイトとの間にエアパージノズルを配置し、表1に示す条件で圧縮空気を金属帯表面に向けて噴射した。
【0037】
なお、表1に記載の「上流クーラント供給位置での供給流量」はスプレーノズル5a,5b各々から供給されるクーラントの供給流量であり、「ロールバイトへの供給流量」はスプレーノズル4a,4b各々より供給されるクーラントの供給流量である。すなわち、表1の「No.10」では、スプレーノズル5a,5bのそれぞれから流量:0.4L/minのクーラントが供給され、スプレーノズル4a,4bのそれぞれから流量:1.2L/minのクーラントが供給される。
【0038】
【表1】

【0039】
一方、本発明の効果を確認するために、冷間圧延において通常使用されている圧延油エマルションを用いて冷間圧延を行った。使用した圧延油エマルションは、合成エステル60%、天然油脂30%、高級脂肪酸5%から構成された基油に、ノニオン系界面活性剤2%および極圧添加剤等3%を含む原液を、濃度2〜10%で65℃の水に希釈して、攪拌機によって攪拌し、エマルション平均粒径が8μmになるように調整したものである。このようにして得られた圧延油エマルションを、ノズルからのスプレー流量:1.2L/minの条件下でロールバイトにのみ供給した。上記以外は、ソリューション型のクーラントを用いた場合と同様の条件で冷間圧延を行った。
【0040】
上記圧延油エマルションを用いて冷間圧延を行った結果、鋼板(炭素鋼の被圧延材)の単位幅あたりの圧延荷重は4.9〜5.0kN/mmであった。したがって、ソリューション型のクーラントを用いた実施例において、圧延荷重が5.0kN/mm以下であれば十分な潤滑性能を有するものと評価した。評価結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
表2から明らかであるように、本発明例では、ソリューション型のクーラントを用いた場合であっても、圧延油エマルションを用いた場合と同等の潤滑性能を具えていることが確認された。
(実施例2)
4段式圧延機に、図1に示すクーラント供給設備を設けてソリューション型クーラントを供給しながら冷間圧延を行い、圧延速度に対する圧延荷重の変化を調査した。
【0043】
冷間圧延は、板厚0.23mmの炭素鋼コイルを被圧延材とし、ワークロール径:φ550mm、ワークロール素材:3%Cr鍛鋼、ワークロール表面粗さRa:0.1μm、圧下率:20%の1パス圧延とし、表3に示すように圧延速度を250〜1350mpmの範囲で変化させて冷間圧延を行った。
用いたソリューション型クーラントに含有されたポリアルキレングリコールは、平均分子量:1100、25℃における動粘度:196mm2/sであり、このポリアルキレングリコールを濃度が10.0質量%となるように水に溶解してクーラントとした。なお、クーラントに含有されるポリアルキレングリコール以外の成分として、防錆添加剤を5.0質量%添加している。
【0044】
以上のようにして得られたクーラントを温度65℃に加熱し、上流クーラント供給位置(ロールバイトからの距離:2000mm)および/またはロールバイトにおいて、表3に示す条件にて供給した。また、一部の実施例においては、上流クーラント供給位置とロールバイトとの間にエアパージノズルを配置し、表3に示す条件で圧縮空気を金属帯表面に向けて噴射した。なお、表3に記載の「上流クーラント供給位置での供給流量」はスプレーノズル5a,5b各々から供給されるクーラントの供給流量であり、「ロールバイトへの供給流量」はスプレーノズル4a,4b各々より供給されるクーラントの供給流量である。
【0045】
表3において、「本発明例A」は、圧延速度:900mpm未満の場合は上流クーラント供給位置でのみクーラントを供給し、圧延速度:900mpm以上の場合は上流クーラント供給位置とロールバイトの双方でクーラントを供給した発明例である。また、「本発明例B」は、圧延速度:900mpm未満、900mpm以上の何れの場合においても、上流クーラント供給位置でのみクーラントを供給した発明例である。一方、「比較例」は、ロールバイトのみにクーラントを供給したものである。
【0046】
【表3】

【0047】
圧延速度と測定された圧延荷重との関係を図2に示す。
図2から明らかであるように、ロールバイトのみにクーラントを供給した「比較例」では、圧延速度の増加とともに圧延荷重が増加しており、すなわち、圧延速度の増加に伴い潤滑不足の状態となっている。これは、ロールバイトに供給されたクーラントが、ロールバイトに滞留することで、ロールバイトにおける潤滑成分の付着を阻害するためである。
【0048】
一方、「本発明例B」では、ロールバイトから所望の距離だけ離れた上流クーラント供給位置でクーラントを供給しているため、上流クーラント供給位置で金属帯表面に潤滑成分が付着するとともに、金属帯に付着しなかったクーラントはロールバイトに到達する前に金属帯表面から流れ落ちる。そのため、ロールバイト入口におけるクーラントの滞留が効果的に抑制され、圧延速度が増加しても圧延荷重は比較的安定して推移しており、上記比較例に比べて圧延操業が安定化している。但し、圧延速度が900mpm以上になると、圧延荷重の低下が見られ、過潤滑の傾向が懸念される。これは、圧延速度の増加に伴い圧延ロールの表面温度が上昇し、ロールバイト入口での潤滑膜の付着性が促進されることで、ロールバイト内での潤滑膜が過大になっているためと推測される。
【0049】
これに対し、「本発明例A」では、圧延速度:900mpm以上の場合において、上流クーラント供給位置とロールバイトの双方でクーラントを供給しているため、ロールバイト入口での潤滑成分の洗い流し効果が促進され、圧延速度が900mpm以上になった場合においても過潤滑が効果的に抑制されている。
すなわち、「本発明例A」では、圧延条件(圧延速度)に応じてロールバイトへのクーラント供給を行っているため、圧延速度が増加した場合であっても圧延荷重が安定して推移しており、上記比較例、更には本発明例Bに比べて圧延操業の安定性が格段に向上している。
【符号の説明】
【0050】
1 … 金属帯
2 … 冷間圧延機
3a … ワークロール
3b … バックアップロール
4a,4b … ロールバイトにクーラントを供給するスプレーノズル
5a,5b … 上流クーラント供給位置のスプレーノズル
7 … クーラントタンク
7a … クーラント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯表面にクーラントを供給しながら該金属帯を冷間圧延する方法において、平均分子量が500〜5000であるポリアルキレングリコールを2.0〜30.0質量%含有するクーラントを、ロールバイトから500mm以上、圧延ライン上流側に位置する上流クーラント供給位置で金属帯表面に供給することを特徴とする金属帯の冷間圧延方法。
【請求項2】
前記上流クーラント供給位置で前記クーラントを金属帯表面に供給するとともに、圧延条件に応じて、前記クーラントをロールバイトに供給することを特徴とする請求項1に記載の金属帯の冷間圧延方法。
【請求項3】
前記上流クーラント供給位置で前記クーラントを金属帯表面に供給するに際し、前記クーラントを、金属帯の圧延方向とは逆方向に噴射することを特徴とする請求項1または2に記載の金属帯の冷間圧延方法。
【請求項4】
前記上流クーラント供給位置の圧延ライン下流側であり且つロールバイトの圧延ライン上流側において、圧縮空気を金属帯表面に向けて噴射することを特徴とする請求項1ないし3に記載の金属帯の冷間圧延方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−200877(P2011−200877A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68449(P2010−68449)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】