説明

金属曲がり管の製造方法

【課題】接続対象物にOリングを介して接続される金属曲がり管を製造するに際し、直管の端部に近接して曲げ半径が極めて小さい曲折部を形成しても、端部のプレス加工によるヘタリ等を防止することによってOリング溝の形成が可能となり、接続対象物からの立ち上がり高さをさらに低くできる金属曲がり管の製造方法を提供する。
【解決手段】直管の端部に近接する部位を曲げて、曲げ半径が極めて小さい曲折部10を形成する。次に、前記端部を斜めに切断して、曲折部10の外側曲部10bに連なる側が内側曲部10aに連なる側よりも長く突き出た切断端部19’を形成する。そして、この切断端部19’を当該切断端部19’の管軸方向にプレス加工して、肉厚がほぼ一定の円筒状の拡管部21を形成する。最後に、この拡管部21の外周面を転造加工してOリング溝を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体流通用の金属曲がり管の製造技術に関し、特にカーエアコン等に接続される冷媒流通用配管として最適な金属曲がり管の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、図6に示すような、金属曲がり管(冷媒配管)を備えた冷媒配管継手が提案されている(特許文献1参照)。この冷媒配管接続継手1は、接続対象物2にボルト3で固定される固定ブロック4と、この固定ブロック4に挿通されて支持された金属曲がり管5とからなり、金属曲がり管5はL字形に曲げられている。そして、リングシール部11と、曲折部10の少なくとも内側曲部10aとが固定ブロック4に収容された状態で、固定ブロック4と金属曲がり管5とが固定されている。これにより、固定ブロック4の接続面と冷媒配管5との寸法、つまり冷媒配管接続継手1の高さh1が低く設けられるとするものである。また、金属曲がり管5の端部19に設けられたOリング溝12にOリング13が装着され、この端部19が接続対象物2の内部通路9に嵌着され、Oリング13を介して密着した状態となっている。これにより、金属曲がり管5と接続対象物2の接続部位におけるシール性が確保されている。
【0003】
ところで、近年エンジンルーム内への各種機器の設置がますます過密化しているため、冷媒配管接続継手1の高さ(接続対象物2からの金属曲がり管5の立ち上がり高さ)h1をさらに低くした、よりコンパクトな冷媒配管接続継手の開発が必要となった。
【0004】
上記課題に対処すべく本発明者らは、上記従来技術2の冷媒配管接続継手1をさらに改良するため、金属曲がり管5の曲折部10の内側曲部10aの曲げ半径を略0にまで小さくするとともに、金属曲がり管5のリングシール部11および固定ブロック4のリング収容部17を省略することにより、冷媒配管接続継手1の高さ(接続対象物2からの金属曲がり管5の立ち上がり高さ)h1を可及的に低くすることを試みた。
【0005】
しかるに、上記固定後、端部19にOリング溝12を形成しようとしたが、以下の問題が発生した。すなわち、Oリング溝12形成のために予め端部19を軸方向にプレス加工して形状を整える必要があるが、このプレス加工により加工部位にヘタリ等が発生し、Oリング溝12を形成することができなかった。
【0006】
このため、冷媒配管接続継手(接続対象物2からの金属曲がり管5の立ち上がり高さ)1の高さh1をさらに低くした、よりコンパクトな冷媒配管接続継手を得ることができない状況にあった。
【特許文献1】特開平7−12283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、直管の端部に近接して曲げ半径が極めて小さい曲折部を形成しても、端部のプレス加工によるヘタリ等を防止することによって所定のOリング溝の形成が可能となり、接続対象物からの立ち上がり高さをさらに低くできる金属曲がり管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記ヘタリ等の原因を調査した結果、上記内側曲部10aの曲げ半径を略0にまで小さくした曲げ加工により、曲折部10の内側曲部10aと外側曲部10bとで管の肉厚が大きく異なり、この影響が曲折部10に連なる直管部位である端部19にまで及ぶためであることを突き止めた。すなわち、曲率を小さくして管を曲げた場合、図4に示すように、曲折部10の内側曲部10a側は圧縮力が加わるため管の内側に余肉が集まって厚肉となり、曲折部10の外側曲部10b側は引っ張り力が加わるため薄肉となっている。そして、この肉厚の相違は曲折部10だけでなく、曲折部10に連なる直管部位である端部19にまでも及んでいる。このため、この状態のままでプレス加工により端部19をその管軸方向に圧縮して拡管部21に成形すると、図5に示すように、厚肉である内側曲部10a側で拡管部21の付け根に接する固定ブロックの部位4aにヘタリが発生したり、拡管部21の付け根近傍に肉盛りが発生することがわかった。
【0009】
なお、上記従来技術ではプレス加工時に上記のようなヘタリ等が発生する問題は生じなかったが、この理由は以下のように考えられる。すなわち、上記従来技術のものは、曲折部10の曲率が本発明のものより大きく両側曲部10a,10bの肉厚差がもともと少ないことに加え、曲折部10に近接した位置にリングシール部11を形成してからプレス加工を施すので、本発明のものに比べ曲折部10から遠く離れた、肉厚差の影響の少ない部位をプレス加工することになり、上記ヘタリ等が生じなかったためと考えられる。
【0010】
この調査結果に基づき、プレス加工時に上記のようなヘタリ等を生じさせないためには、圧縮成形後の内側曲部10aと外側曲部10bの肉厚差ができるだけ少なくなるようにすればよいと考え、鋭意検討の結果、以下の発明を完成するに至った。
【0011】
請求項1に記載の発明は、接続対象物の内部通路にOリングを介して接続される金属曲がり管の製造方法であって、直管の端部に近接する部位を曲げて、内側曲部の曲げ半径が略0のL字形の曲折部を形成する曲げ工程と、前記端部を斜めに切断して、前記曲折部の外側曲部に連なる側が内側曲部に連なる側よりも長く突き出た切断端部を形成する切断工程と、前記切断端部を当該切断端部の管軸方向にプレス加工して、肉厚がほぼ一定の円筒状のプレス端部を形成するプレス加工工程と、前記プレス端部の外周面に、前記Oリングを装着するOリング溝を形成する溝形成工程と、を備えたことを特徴とする金属曲がり管の製造方法である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記切断端部の端面が、当該切断端部の管軸に垂直な面に対して 3〜15°傾斜している請求項1に記載の金属曲がり管の製造方法である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記金属曲がり配管が、冷媒回路に用いられるものである請求項1または2に記載の金属曲がり管の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、端部に近接して曲げ半径が極めて小さい曲折部を形成しても、この端部を斜めに切断してからプレス加工することによって加工部位の肉厚をほぼ一定にすることが可能となり、加工部位のヘタリ等を防止できるようになった。この結果、端部に所定のOリング溝を形成することが可能となり、冷媒配管接続継手の高さをさらに低くできる金属曲がり管を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
〔金属曲がり管の構造〕
図1に本発明の製造方法で製造した金属曲がり管を例示する。本例は、金属曲がり管を、冷媒配管接続継手を構成する冷媒配管に適用した例を示すものである。(a)は冷媒配管接続継手の側面図、(b)は冷媒配管接続継手の上面図である。なお、上記図6に示した従来の冷媒配管接続継手と同一の部品および部位には同一の符号を付した。冷媒配管接続継手1は、カーエアコンの冷媒回路を接続する際に用いられるもので、接続対象物としてのエアコン機器2に接続具としてのボルト3によって固定される固定ブロック4と、この固定ブロック4に端部側が挿通された状態で支持される金属曲がり管としての冷媒配管5とからなる。なお、エアコン機器2は、冷媒配管5と連通する内部通路9を備え、固定ブロック4をエアコン機器2に固定することによって、冷媒配管5と内部通路9とが接続される。
【0017】
冷媒配管5は、アルミニウム製の管で、内部通路9と接続される側に、内側の曲げ半径が略0(3mm以下程度)のL字形に曲げられた曲折部10を備える。つまり、冷媒配管5は、内部通路9と接続される側が、エルボ形状に形成されている。冷媒配管5は、円環状に凹んだOリング溝12を備え、このOリング溝12内にはシール用のOリング13が装着される。
【0018】
固定ブロック4は、アルミニウム製のブロック体で、ボルト3を挿通するボルト挿通穴15を備えるとともに、冷媒配管5の接続端部19側を挿通する管挿通穴16を備える。この管挿通穴16は、冷媒配管5の曲折部10の内側曲部10aを覆う曲折収容部18が設けられている。
【0019】
上述したように、上記従来技術では冷媒配管5にリングシール部11を設け、このリングシール部11を固定ブロック4に設けたリング収容部17に収容することにより固定ブロック4と冷媒配管5とを固定していたが、本発明では、リングシール部11およびリング収容部17を省略した。
【0020】
〔金属曲がり管の製造方法〕
次に、上記金属曲がり管(冷媒配管)5の製造方法について、冷媒配管接続継手1全体の製造方法の説明の中で説明する。まず、押出成形されたアルミニウム製の冷媒配管5の端部に近接した部位を、極小曲率でパイプを曲げ加工する曲げ加工装置(特開平8−323425号公報参照)を用いて、内側の曲げ半径が略0のL字形のエルボ形状に形成する。
【0021】
一方、ボルト挿通穴15および管挿通穴16を有するアルミニウム製の固定ブロック4を押出し材からの切削によって形成する。
【0022】
次に、固定ブロック4の管挿通穴16内に冷媒配管5の端部を挿通し、曲折収容部18に内側曲部10aを嵌め込む。
【0023】
次に、固定ブロック4から突出した冷媒配管5の端部19を斜めに切断して、図2に示すように、前記曲折部の外側曲部10bに連なる側が内側曲部10aに連なる側よりも長く突き出るようにする。この切断後の端部19を切断端部19’と呼ぶ。
【0024】
そして、プレス加工により、端面が斜めの切断端部19’を当該切断端部19’の管軸方向に圧縮して、図3に示すように、円筒状の拡管部21に成形する。上記斜め切断により予め切断端部19’の肉薄側を長く、肉厚側を短くしているので、圧縮成形後の肉厚が内側曲部10aと外側曲部10bとで差が少なくなり、全周でほぼ肉厚一定の拡管部21が得られるため、材料供給の過度の過不足が発生することがなく、上記ヘタリ等が発生することがない。
【0025】
端部19を斜めに切断する切断面(切断端部19’の端面)の適正な傾きαの度合いは、曲げ加工後の内側曲部10aと外側曲部10bの肉厚の差、曲折部から切断面までの距離等によって変化しうるが、例えば、切断端部19’の管軸に垂直な面に対して3〜15°傾斜させることが好ましい。すなわち、上記傾斜角度が3°未満では、外側曲部10bと内側曲部10aとの曲折部10からの突き出し長さの差が小さすぎて、上記曲げ加工後の両側曲部10a,10bの肉厚差を解消しきれずに、厚肉である内側曲部10a側で材料が余ってしまい、圧縮成形時に内側曲部10a側に上記ヘタリ等の発生の可能性が残る。一方、上記傾斜角度が15°を超えると、上記突き出し長さの差が大きくなりすぎて、上記肉厚差を解消するのに必要な量を超えてしまい、かえって内側曲部10a側で材料が不足し、内側曲部10a側に切断面の形状残り等の発生の可能性が高まるためである。
【0026】
次いで、拡管部21の外周面に転造加工によりOリング溝12を形成する。その後、Oリング溝12内にOリング13を装着して、冷媒配管接続継手1が完成する。
【0027】
〔変形例〕
上記実施の形態では、金属曲げ管(冷媒配管)5および固定ブロック4の材質としてアルミニウムを例示したが、アルミニウム合金、銅、黄銅、ステンレスなど他の材質を用いてもよい。また、冷媒配管5と固定ブロック4の材質は必ずしも同じ材質に限られるものではなく、異なる材質としてもよい。また、Oリング溝12は転造加工により形成したが、切削加工やプレス加工により形成してもよい。また、接続具3としてボルトを例示したが、ネジや嵌め合わせによって係合する係合構造など、他の手段を用いてもよい。また、固定ブロック4を押出し材からの切削によって形成する例を示したが、プレス冷鍛加工技術やダイカスト技術によって形成してもよい。冷媒配管接続継手1をカーエアコンの冷媒回路の接続に用いる例を示したが、ルームエアコン、冷凍機の冷媒回路の接続にも用いることができる。したがって、接続対象物2としてエアコン機器を例示したが、冷凍機にも用いることができる。
【実施例】
【0028】
上記実施の形態で説明した製造方法により冷媒配管接続継手1を製造した。金属曲がり管(冷媒配管)5は、外径12mm、肉厚1.75mmのアルミニウム製パイプの端部から約21mmの位置を前記曲げ加工装置(株式会社オプトン製)を用いて、内側の曲げ半径が略0のL字形のエルボ形状に形成した。固定ブロック4は、切削加工により、図1に示すような、1個のボルト挿通穴15、1個の管挿通穴16を有するアルミニウム製のブロック形状に形成した。
【0029】
そして、この固定ブロック4に冷媒配管5を嵌め込んだ。
【0030】
次に、図2に示すように、固定ブロック4の底面から下方に突出した冷媒配管5の端部19を、切断後の固定ブロック4の底面からの突き出し長さLを12.5mmとし、傾斜角度αを2〜20°の範囲で種々変化させて斜めに切断し切断端部19’を形成した。次いで、これら各切断端部19’をプレス加工して拡管部21を形成した。
【0031】
プレス加工後の各冷媒配管5を半割れに切断してその拡管部21近傍の断面をマクロ観察し、ヘタリ、肉盛り、および切断面の形状残りの発生の有無を調査した。
【0032】
断面観察の一例を図7および図8に示す。また、調査結果を表1に示す。切断面の傾斜角度αが2°(3°未満)の場合は、図7に示すように、内側曲部10a側において、拡管部21の付け根と接する固定ブロックの部位4aにヘタリの発生が見られるとともに、拡管部21の付け根近傍に肉盛りの発生が見られた。一方、切断面の傾斜角度αが20°(15°超え)の場合は、図8に示すように、内側曲部10a側に切断面の形状が残った状態となり、所定の形状・寸法が得られなかった。しかしながら、切断面の傾斜角度αが3〜15°の範囲においてはいずれの部位にもヘタリ、肉盛り、および切断面の形状残りの発生は見られなかった。


【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の製造方法で製造した金属曲がり管の一例を示す図であり、(a)は側面図、(b)は上面図である。
【図2】実施形態における、金属曲がり管の端部を切断した後の切断端部近傍の断面図である。
【図3】実施形態における、金属曲がり管の切断端部をプレス加工した後の拡管部近傍の断面図である。
【図4】曲げ加工後の金属曲がり管の曲折部近傍の断面図である。
【図5】比較例におけるプレス加工後の金属曲がり管の曲折部近傍の断面図である。
【図6】従来技術の冷媒配管接続継手の側面図である。
【図7】実施例における、α=2°の場合の冷媒配管接続継手の側面図である。
【図8】実施例における、α=20°の場合の冷媒配管接続継手の側面図である。
【符号の説明】
【0034】
2…接続対象物(エアコン機器)
5…金属曲がり管(冷媒配管)
9…内部通路
10…曲折部
10a…内側曲部
10b…外側曲部
13…Oリング
19…端部
19’…切断端部
21…拡管部
α…切断面の傾斜角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
接続対象物の内部通路にOリングを介して接続される金属曲がり管の製造方法であって、
直管の端部に近接する部位を曲げて、内側曲部の曲げ半径が略0のL字形の曲折部を形成する曲げ工程と、
前記端部を斜めに切断して、前記曲折部の外側曲部に連なる側が内側曲部に連なる側よりも長く突き出た切断端部を形成する切断工程と、
前記切断端部を当該切断端部の管軸方向にプレス加工して、肉厚がほぼ一定の円筒状のプレス端部を形成するプレス加工工程と、
前記プレス端部の外周面に、前記Oリングを装着するOリング溝を形成する溝形成工程と、
を備えたことを特徴とする金属曲がり管の製造方法。
【請求項2】
前記切断端部の端面が、当該切断端部の管軸に垂直な面に対して3〜15°傾斜している請求項1に記載の金属曲がり管の製造方法。
【請求項3】
前記金属曲がり管が、冷媒回路に用いられるものである請求項1または2に記載の金属曲がり管の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−110603(P2006−110603A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301657(P2004−301657)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(000233619)株式会社ニチリン (69)
【出願人】(592037217)サン・ライズ工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】