説明

金属材料の接着方法及び金属材料用接着層

【課題】金属材料の表面に設けた有機系薄膜の接着性を極めて簡便な方法で改善することにより、金属材料の表面外観を損なうことなく、各種酸水溶液で処理した場合と同等以上の接着性を金属材料に付与する接着方法の提供。
【解決手段】電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜2を表面に備える金属材料4の前記ポリアクリル酸の薄膜面に接着剤3を塗布して、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜を表面に備える金属材料の前記ポリアクリル酸の薄膜面と接着することを特徴とする金属材料の接着方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の接着方法に関し、更に詳しくは金属材料表面に特定のポリアクリル酸薄膜を形成し、この薄膜に対し、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射することにより接着剤との親和性を改善し、接着剤により金属材料を強固に接着する方法及び金属材料用接着層に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄、ステンレス、銅などの金属材料は、その優れた耐食性や表面外観を活かし広い分野で利用されている。
例えば、建築構造材や各種部品等として使用するとき、これらの金属材料は相互に、或いは他の部材と接合されるが、従来、構造用用途に使用される鉄、ステンレス、銅などの金属材料は溶接を用いて接合することが大半である。
しかし、溶接接合では、溶接された鉄板の表面に溶接痕が残り、条件によっては十分な接合強度が得られないこともある。また、溶接痕や溶接歪みを除去するため、多大な時間及び労力がかかる板金加工が必要となる。しかも、この板金工程は、騒音発生等によって非常に作業環境を悪化させることから、作業者にとって敬遠されている。
【0003】
この溶接接合に代わる方法として、接着剤を用いて金属材料を接合する接着法が注目されている。
接着法では、溶接工法にみられる板金工程が不要であり、しかも接合部の応力分散も大きく信頼性も高いが、金属材料の場合では、接着接合界面の耐水性が低く、金属材料の接着部を高温高湿雰囲気に曝すと、錆などの発生を伴い接着力が短期間で大きく低下する問題が生じている。
【0004】
このような状態に対応して、鉄の場合は、予め鉄材を燐酸亜鉛およびクロム酸処理することにより改善され、自動車などの車体組立工程等で実用化されている。
また、ステンレスの場合では、予めステンレスを酸で活性化処理することにより改善される。なかでも、硫酸・蓚酸混合水溶液でステンレス表面を処理すると、最も優れた接着性が発現することが知られており、航空機の組立工程等で実用化されている。
さらに、銅の場合では、予め銅を酸で活性化処理することにより改善される。なかでも、硝酸水溶液で銅表面を処理するとき、優れた接着性が発現することが知られており、組立工程等で実用化されている。
【0005】
しかし、これらの処理においても、各金属材料においても種々の問題が残るのが実情である。
鉄の場合では、クロム酸排水が生じることから、環境破壊の観点から、その利用は厳しく規制されている。ステンレスの場合でも酸処理でステンレス表面を活性化させるとき、ステンレス表面にスマットが発生し、このスマットは、重クロム酸・硫酸混合水溶液でステンレス表面を再度処理することにより除去されるが、この脱スマット処理は、クロム含有排水が生じることから、環境破壊の観点において厳しく規制されている。一方、銅の場合でも、ステンレスと同様で、酸処理で銅表面を活性化させるとき、銅表面にスマットが発生し、酸水溶液で銅表面を再度処理することで、このスマットは除去されるが、脱スマット処理は、酸性排水が生じることから、同じく環境破壊の観点から厳しい規制を受けている。
【0006】
このような状況下で、近年、予め金属材料表面を有機系薄膜でプライマー塗装し、接着性を高める方法が試みられている。
例えば、特許文献1には、酸性リン酸エステル及び/又はその塩と水を含む水性プライマーで金属板を処理することが提案され、また、特許文献2にはシラン系カップリング剤で金属表面を処理することで、フッ素系塗膜との密着性を改善できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−93211号公報
【特許文献2】特公平6−57872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、リン酸エステルやシラン系カップリング剤を使用した表面処理によって、接着剤に対する金属材料の親和性の向上は確かに認められるが、リン酸亜鉛およびクロム酸シーリングによる処理と同等の接着性を得ることは難しい。そのため、接着した金属材料の接着強度及び耐久性が劣り、長期に安定した接着構造体としての使用には限界がある。
【0009】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたもので、金属材料の表面に設けた有機系薄膜の接着性を極めて簡便な方法で改善することにより、金属材料の表面外観を損なうことなく、各種酸水溶液で処理した場合と同等以上の接着性を金属材料に付与する接着方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達成するために、本発明に係る金属材料の接着方法の第一の発明は、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜を表面に備える金属材料におけるポリアクリル酸の薄膜面に接着剤を塗布して、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜を備える金属材料のポリアクリル酸の薄膜面と接着する金属材料の接着方法である。
【0011】
この第一の発明において、金属材料は鉄、ステンレス、銅から選ばれる一種であることが好ましく、更に、ポリアクリル酸の薄膜の形成に用いるポリアクリル酸の分子量は5,000〜250,000であることが好ましく、また、ポリアクリル酸の薄膜は濃度0.1〜2.0重量%のポリアクリル酸水溶液を塗布して形成されることが好ましい。さらに、使用する接着剤は、ラジカル重合型接着剤であることが好ましい。
【0012】
本発明の第二の発明は、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜、接着剤、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜の順に積層された3層から構成される金属材料用接着層である。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ポリアクリル酸の薄膜の金属材料表面に対する強固な結合力と電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成したラジカルの接着剤成分に対する化学結合力とを利用して、各種酸処理に匹敵する高い剪断接着強度で金属板を接着していることから、得られた接着部は、耐湿性が良好であり、高い接着強度を長期間にわたって保持する。
さらに、本発明の接着方法によれば、たとえば金属材料を建築構造体として組み立てる際に有害な公害物質や作業環境の悪化を生じることなく、簡単な施工で強度的に優れた構造体を得ることができ、産業上顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の金属材料の接着方法を示す模式断面図で、3層からなる金属材料接着層を用いた金属材料の接着方法である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の金属材料の接着方法は、図1に示すように金属材料1表面にポリアクリル酸の薄膜を形成し、このポリアクリル酸の薄膜に電子線またはγ線のいずれかの放射線を照射してラジカルを生成させ、ラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜2aを形成した後に、接着剤3をポリアクリル酸の薄膜2aの表面に設ける。次いで、その接着剤3の表面と、電子線またはγ線のいずれかの放射線が照射された、ラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜2bが設けられている被接着物金属材料4のポリアクリル酸の薄膜面とを接着するものである。
接着層11は、ラジカルを含むポリアルカリ酸の薄膜2a、接着剤3、ラジカルを含むポリアルカリ酸の薄膜2bの3層からなり、ラジカルを含むポリアルカリ酸の薄膜2a、2bは、ポリアルカリ酸の薄膜に電子線またはγ線を放射することにより形成される。
【0016】
この金属材料表面へのポリアクリル酸の薄膜の形成は、ポリアクリル酸の浸漬,塗布などにより金属材料の表面にポリアクリル酸水溶液を接触させることにより行われる。
使用するポリアクリル酸としては、分子量5,000〜250,000のものが好ましく、分子量が5,000に満たないポリアクリル酸では、金属材料表面に吸着されたポリアクリル酸の高分子鎖が末端の分子運動によって離脱する恐れある。逆に分子量250,000を超えるポリアクリル酸では、水溶性が低下し、金属材料表面に薄膜を均一に形成することが困難になる。
【0017】
好適なポリアクリル酸の薄膜を金属材料表面に形成するため、ポリアクリル酸の濃度は、0.1〜2.0重量%、好ましくは0.2〜2.0重量%の水溶液として調製するのが良い。この濃度が0.1重量%より低いと、金属材料表面をポリアクリル酸の薄膜で均一に被覆することが難しく、逆に2.0重量%を超える濃度では、生成した薄膜中に存在する過剰のカルボキシル基相互の水素結合が水によって容易に解離し、接着性が低下するためである。
【0018】
このポリアクリル酸水溶液は、浸漬,スプレー,ロールコータなどの公知の方法によって金属材料の表面に塗布される。
なお、形成した薄膜中に水分が含まれていると、残留水分が接着剤とポリアクリル酸の薄膜との接着界面を可塑化し、接着性を低下させる原因となるため、金属材料表面に形成されたポリアクリル酸の薄膜を乾燥すると良く、通常、薄膜中の水分を除去するために100℃以上の温度で加熱乾燥する。
【0019】
次に、乾燥処理されたポリアクリル酸の薄膜に電子線またはγ線のいずれかの放射線を照射して、ポリアクリル酸の薄膜表面を活性化して薄膜内にラジカルを生成する。このラジカルの存在が接着剤に対する親和性を大きく向上させる働きを担うものである。
【0020】
一般に、電子線またはγ線のいずれかの放射線は、非常に高エネルギーであることから、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射を受けたポリアクリル酸の薄膜は、そのポリアクリル酸分子に含まれるC−C結合、C−H結合、C−O結合などが破壊され、反応活性の高いラジカルが発生する。
この発生したラジカルは、例えばラジカル重合型の第2世代アクリル系接着剤(SGA)を用いた金属材料の接着時の硬化過程で接着剤中のラジカル重合性モノマーと共重合することにより化学結合を形成する。その結果、ポリアクリル酸の薄膜と第2世代アクリル系接着剤(SGA)との接着界面が強固なものとなる。
【0021】
本発明は、この点において、電子線照射により金属板の表面を活性化させる特開平5−17882号公報の発明とは異なり、金属材料表面に形成したポリアクリル酸の薄膜の接着性を改善するもので、この改質されたポリアクリル酸の薄膜を介して金属材料が接着されるため、金属材料表面を電子線照射により改質して得られる接着性に比べて非常に高く、従来技術の酸処理した場合に匹敵する接着強度を得るものである。
【0022】
なお、ポリアクリル酸は、カルボキシル基が金属表面に強く吸着される傾向を示すことが知られているが、一方、通常金属材料の表面は酸化物で覆われており、最表面は大気中の水分により水和したFe−OH形、Cr−OH形、Cu−OH形などの水酸基層になっていることから、ポリアクリル酸のカルボキシル基は、この表面水酸基層と水素結合し、更に表面水酸基層にプロトンを供与してカルバニオンとなる。そして、プロトン化した表面水酸基層との間に、酸塩基相互作用に由来する強固な結合を形成するものと見られる。
【0023】
したがって、ポリアクリル酸の薄膜は、金属材料表面に対する強い吸着性と電子線またはγ線のいずれかの放射線照射による接着剤成分に対する高い化学結合性との組み合わせにより、金属材料の接着性を飛躍的に向上させることができるようになる。このようなポリアクリル酸の薄膜の作用は、ポリアクリル酸の薄膜の形成に先立ち、金属材料表面を脱脂・酸洗等によって清浄化しておくとき更に顕著なものとなる。
【0024】
このようにして接着性が改善された金属材料は、適宜の接着剤で接着され、剪断接着強度が非常に高く、かつ水分吸収による劣化も少ない接着部が得られる。
使用する接着剤としては、ラジカル重合型接着剤が好ましく、アクリル系活性エネルギー線硬化型接着剤、更にはエポキシ系,ポリウレタン系,ポリエステル系接着剤などが掲げられる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。
表1の実施例1〜9及び比較例1〜11は、各実施例、各比較例毎に金属材料及び被接着物金属材料として板厚1.6mmの冷間圧延鉄鋼板から幅25mm及び長さ100mmの試験片を切り出し、それらの試験片を、室温でアセトン浸漬により3分間脱脂(アセトン脱脂)した後、室温で10%塩酸水溶液浸漬により3分間酸洗して蒸留水を用いて洗浄し、以下の条件によるポリアクリル酸の薄膜の形成に供した。
【0026】
ポリアクリル酸の薄膜の形成は、ポリアクリル酸の薄膜を形成するためのポリアクリル酸水溶液として、分子量135,000のポリアクリル酸(関東化学社製)を表1に示した濃度で調製したものを使用し、このポリアクリル酸水溶液に試験片を1分間浸漬し、引き上げた後、110℃で3分間乾燥させてポリアクリル酸の薄膜を形成し、ポリアクリル酸の薄膜付き試験片を作製した。
【0027】
次に、そのポリアクリル酸の薄膜付き試験片(以下、薄膜付き試験片と称す)を2枚1組として低エネルギー型電子線加速器にセットし、乾燥後の表面に窒素雰囲気下、加速電圧160KeVで、所定線量の電子線を照射し、電子線照射試験片を作製した。その電子線照射後の2枚の電子線照射試験片は、直ちにSGA(電気化学工業株式会社製 ハードロックC355)を接着剤としてラップ幅12.5mmで、2枚の電子線照射試験片を接着した。接着部を7日間室温で完全に硬化させた後に供試材として、以下の試験に供した。
【0028】
また電子線照射の場合と同様に薄膜付き試験片を、Co60を線源とするγ線照射設備を用いて、窒素雰囲気下で所定線量のγ線を照射してγ線照射試験片を作製し、そのγ線照射後の2枚のγ線照射試験片を接着、硬化させて供試材を作製し、以下の試験に供した。
【0029】
初期剪断接着強度は、JIS−K6850に準拠して測定した。さらに、接着部の耐湿性の評価は、接着して作製した供試材を60℃,相対湿度98%以上の雰囲気に60日間暴露した後、同様に剪断接着強度を測定した。電子線照射、γ線照射の場合の測定結果を併せて表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
従来例として、表2に実施例と同じ冷間圧延鉄鋼板を用い、従来法であるリン酸エステルプライマーでの浸漬処理を施した試験片(従来例1)、γ−グリシドオキシプロピルリメトキシシラン1%水溶液を使用して浸漬法でシランカップリング剤処理を行った試験片(従来例2)、リン酸亜鉛処理液(60℃)に10分浸漬した後、クロム酸水溶液でシーリング処理し、水洗、乾燥した試験片(従来例3)を用いて、実施例と同様に2枚を接着して供試材を作製し、その初期剪断接着強度、および接着部の耐湿性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表1から明らかなように、ポリアクリル酸水溶液処理と電子線照射の併用、またはポリアクリル酸水溶液処理とγ線照射の併用による接着は、その剪断接着強度が上昇し、特に耐湿性が大きく向上していることが判る。これは、ポリアクリル酸の薄膜が、冷間圧延鉄鋼板の表面に強く吸着されると共に電子線照射またはγ線照射によって接着剤成分と化学結合することに起因するものであると推察される。
【0034】
また、表1から、ポリアクリル酸水溶液の濃度は0.1〜2.0重量%が必要で0.2〜2.0重量%が好ましいことが判る。一方、電子線照射量の影響に関しては5kGyでも十分な効果が得られるが、10kGy以上の照射で、より効果の高い接着性の改善効果が得られている。
【0035】
一方、γ線照射量の影響に関しては、2kGyでも十分な効果が得られるが、5kGy以上の照射で、より効果の高い接着性の改善効果が得られている。
さらに表1からは、従来法に従って鋼板を接着したときの結果を示す表2と対比すると、本実施例の接着性の改善が顕著なものであることが示される。
【0036】
表3の実施例21〜29及び比較例21〜31は、各実施例、各比較例毎に金属材料及び被接着物金属材料として板厚1.6mmのSUS304ステンレス鋼板から幅25mm及び長さ100mmの試験片を切り出し、その金属材料試験片を室温でアセトン浸漬により試験片を3分間脱脂(アセトン脱脂)した。その後室温で10%塩酸水溶液浸漬により3分間酸洗し、蒸留水で洗浄し、ポリアクリル酸の薄膜の形成を行った。
【0037】
このポリアクリル酸の薄膜を形成するためのポリアクリル酸水溶液としては、分子量135,000のポリアクリル酸(関東化学社製)を表3に示した濃度で調製したものを使用し、このポリアクリル酸水溶液に2枚の試験片を1分間浸漬し、引き上げた後、110℃で3分間乾燥させてポリアクリル酸の薄膜が形成されたポリアクリル酸の薄膜付き試験片(以下薄膜付き試験片と称す)を作製した。
【0038】
その薄膜付き試験片を、低エネルギー型電子線加速器に2枚1組としてセットし、乾燥後の表面に窒素雰囲気下、加速電圧160KeVで、所定線量の電子線を照射して電子線照射試験片を作製した。電子線照射後の2枚の電子線照射試験片を、直ちにSGA(電気化学工業株式会社製 ハードロックC355)を接着剤としてラップ幅12.5mmで、2枚の電子線照射試験片を接着した。接着部を7日間室温で完全に硬化させた後に供試材として、以下の試験に供した。
【0039】
また、電子線照射の場合と同様に薄膜付き試験片を、Co60を線源とするγ線照射設備を用いて、窒素雰囲気下で所定線量のγ線を照射してγ線照射試験片を作製し、そのγ線照射後の2枚のγ線照射試験片を接着、硬化させて供試材を作製し、以下の試験に供した。
【0040】
初期剪断接着強度は、JIS−K6850に準拠して測定した。さらに、接着部の耐湿性の評価は、接着して作製した供試材を60℃、相対湿度98%以上の雰囲気に60日間暴露した後、同様に剪断接着強度を測定した。電子線照射、γ線照射の場合の測定結果を併せて表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
従来例として、表4に実施例21〜29と同じSUS304ステンレス鋼板を用い、従来法であるリン酸エステルプライマーでの浸漬処理を施した試験片(従来例21)、γ−グリシドオキシプロピルリメトキシシラン1%水溶液を使用して浸漬法でシランカップリング剤処理を行った試験片(従来例22)、硫酸10部−シュウ酸10部の混合水溶液(60℃)に10分浸漬した後、重クロム酸混液で処理し、水洗した試験片(従来例23)を用いて、実施例と同様に2枚を接着して供試材を作製し、その初期剪断接着強度、および接着部の耐湿性の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0043】
【表4】

【0044】
表3から明らかなように、本実施例が示すポリアクリル酸水溶液処理と電子線照射、あるいはポリアクリル酸水溶液処理とγ腺照射を併用すると、剪断接着強度が上昇し、特に耐湿性が大きく向上していることが判る。
これは、ポリアクリル酸の薄膜がステンレス鋼板の表面に強く吸着されると共に、電子線照射またはγ腺照射によって接着剤成分と化学結合することに起因するものであると推察される。さらに表3からは、ポリアクリル酸水溶液の濃度は0.1〜2.0重量%が必要で、0.2〜2.0重量%が好ましいことが判る。
【0045】
一方、電子線照射量の影響に関しては5kGyでも十分な効果が得られるが、10kGy以上の照射で、より効果の高い接着性の改善効果が得られている。
【0046】
また、γ線照射量の影響に関しては2kGyでも十分な効果が得られるが、5kGy以上の照射で、より効果の高い接着性の改善効果が得られている。
さらに表3からは、従来法に従ってステンレス鋼板を接着したときの結果を示す表4と対比するときに、本実施例の接着性の改善が顕著なものであることが示されている。
【0047】
表5の実施例41〜49及び比較例41〜51は、各実施例、各比較例毎に金属材料及び被接着物金属材料として板厚1.6mmの圧延銅板から幅25mm及び長さ100mmの試験片を切り出し、その圧延銅板料試験片を室温でアセトン浸漬により試験片を3分間脱脂(アセトン脱脂)した。その後、室温で10%塩酸水溶液浸漬により3分間酸洗して蒸留水で洗浄し、ポリアクリル酸の薄膜の形成を行った。
【0048】
このポリアクリル酸の薄膜を形成するためのポリアクリル酸水溶液として、分子量90000のポリアクリル酸を表5に示した濃度で調製したものを使用し、このポリアクリル酸水溶液に試験片を1分間浸漬し、引き上げた後、110℃で3分間乾燥させてポリアクリル酸の薄膜を形成した。そのポリアクリル酸の薄膜付き試験片を低エネルギー型電子線加速器にセットし、乾燥後の表面に窒素雰囲気下で、加速電圧160KeVで、所定線量の電子線を照射して電子線照射試験片を作製した。電子線照射後の電子線照射試験片を、直ちにSGA(電気化学工業株式会社製 ハードロックC355)を接着剤としてラップ幅12.5mmで、2枚の電子線照射試験片を接着した。その接着部を7日間室温で完全に硬化させた後に供試材として、以下の試験に供した。
【0049】
また、電子線照射の場合と同様に薄膜付き試験片を、Co60を線源とするγ線照射設備を用いて、窒素雰囲気下で所定線量のγ線を照射してγ線照射試験片を作製し、そのγ線照射後の2枚のγ線照射試験片を接着、硬化させて供試材を作製し、以下の試験に供した。
【0050】
初期剪断接着強度は、JIS−K6850に準拠して測定した。さらに、接着部の耐湿性の評価は、接着して作製した供試材を60℃,相対湿度98%以上の雰囲気に60日間暴露した後、同様に剪断接着強度を測定した。電子線照射、γ線照射の場合の測定結果を併せて測定結果を表5に示す。
【0051】
【表5】

【0052】
従来例として、表6に実施例41〜49と同じ圧延銅板を用い、従来法であるリン酸エステルプライマーでの浸漬処理を施した試験片(従来例41)、γ−グリシドオキシプロピルリメトキシシラン1%水溶液を使用して浸漬法でシランカップリング剤処理を行った試験片(従来例42)、硝酸20部の水溶液(60℃)に10分浸漬した後、塩酸水溶液で処理し、水洗した試験片(従来例43)を用いて、実施例と同様に2枚を接着して供試材を作製し、その初期剪断接着強度、接着部の耐湿性の評価を行った。その結果を表6に示す。
【0053】
【表6】

【0054】
表5から明らかなように、本実施例に従ってポリアクリル酸水溶液処理と電子線照射の併用、またはポリアクリル酸水溶液処理とγ線照射の併用をすることにより、剪断接着強度が上昇し、特に耐湿性が大きく向上していることが判る。これは、ポリアクリル酸の薄膜が銅板の表面に強く吸着されると共に、電子線照射またはγ線照射によって接着剤成分と化学結合することに起因するものであると推察される。さらに表5から、ポリアクリル酸水溶液の濃度は0.1〜2.0重量%が必要で、0.2〜2.0重量%が好ましいことが判る。
【0055】
他方、電子線照射量は5kGyでも十分な効果が得られるが、10kGy以上の照射で、より効果の高い接着性の改善効果が得られている。
【0056】
また、γ線照射量の影響に関しては2kGyでも十分な効果が得られるが、5kGy以上の照射で、より効果の高い接着性の改善効果が得られている。
さらに、表5からは、従来法に従って圧延銅板を接着したときの結果を示す表6と対比するとき、本実施例の接着性の改善が顕著なものであることが判る。
【0057】
表7の実施例61〜63及び比較例61〜62は、前述の実施例8と同様に圧延鉄鋼板を試験片とし、その表面に形成するポリアクリル酸薄膜を下記に示す分子量のポリアクリル酸(和光純薬製)を使用する以外は同様に処理したものである。その測定結果を表7に併せて示す。
【0058】
【表7】

【0059】
表7から判るように、ポリアクリル酸の薄膜を形成するためのポリアクリル酸の分子量は5,000〜250,000、さらに25,000から250,000が、より好ましく、この範囲において、金属材料にポリアクリル酸水溶液処理と電子線照射またはγ線照射を併用した場合、剪断接着強度が上昇し、特に優れた耐湿性を得ることができる。
【0060】
なお、実施例では、接着層11を構成するラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜2が両者共に電子線放射により形成された場合、あるいはγ線放射により形成された場合によるものであったが、一方を電子線放射により形成した薄膜、他方をγ線放射により形成した薄膜の場合、あるいは一方をγ線放射により形成した薄膜、他方を電子線放射により形成した薄膜の場合においても、実施例と同等のせん断強度および耐湿性が得られることは明白である。
【符号の説明】
【0061】
1 金属材料
2a、2b ラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜
3 接着剤
4 被接着物金属材料
11 接着層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜を表面に備える金属材料の前記ポリアクリル酸の薄膜面に接着剤を塗布して、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜を表面に備える金属材料の前記ポリアクリル酸の薄膜面と接着することを特徴とする金属材料の接着方法。
【請求項2】
前記金属材料が、鉄、ステンレス、銅から選ばれる一種であることを特徴とする請求項1に記載の金属材料の接着方法。
【請求項3】
前記ポリアクリル酸が、分子量5,000〜250,000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属材料の接着方法。
【請求項4】
前記ポリアクリル酸の薄膜が、濃度0.1〜2.0重量%のポリアクリル酸水溶液を塗布して形成されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の金属材料の接着方法。
【請求項5】
前記接着剤が、ラジカル重合型接着剤であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の金属材料の接着方法。
【請求項6】
電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜、接着剤、電子線またはγ線のいずれかの放射線照射により生成されたラジカルを含むポリアクリル酸の薄膜の順に積層された3層から構成されることを特徴とする金属材料用接着層。

【図1】
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【公開番号】特開2010−168535(P2010−168535A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181004(P2009−181004)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】