金属材料中の析出物および/または介在物の分析方法
【課題】金属材料中に含まれるナノメートルサイズの微細な析出物等を大きさ別に分別した上で、正確に定量分析する方法を提供する。
【解決手段】金属試料を、電解液中で電解する電解ステップと、前記電解液から取り出した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬する浸漬ステップと、前記分散性を有する溶液に分離された析出物等を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより1回以上ろ過する分別ステップと、1以上のフィルタにそれぞれ捕集された析出物等またはフィルタを通過した析出物等のうち、1以上を分析する分析ステップとを有することを特徴とする金属材料中の析出物等の分析方法;ここで、直孔とは、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔のことをいう。
【解決手段】金属試料を、電解液中で電解する電解ステップと、前記電解液から取り出した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬する浸漬ステップと、前記分散性を有する溶液に分離された析出物等を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより1回以上ろ過する分別ステップと、1以上のフィルタにそれぞれ捕集された析出物等またはフィルタを通過した析出物等のうち、1以上を分析する分析ステップとを有することを特徴とする金属材料中の析出物等の分析方法;ここで、直孔とは、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔のことをいう。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属材料中の析出物および/または介在物(以下、析出物等という)の分析方法、特にナノメートルサイズの微細な析出物等を大きさ別に正確に定量分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料中に存在する析出物等は、その形態、大きさ、ならびに分布によっては材料の諸特性、例えば、機械的性質や電磁気的性質などに大きな影響を及ぼす。特に、鉄鋼の分野においては、近年、析出物等を利用して鋼材の特性を向上させる技術が著しく発展し、それに伴って製造工程における析出物等の制御が重要になってきている。
【0003】
一般に、鋼材に含有される析出物等には、大きさや組成によって、特性を向上させるもの、特性を低下させるもの、あるいは特性に寄与しないものがあるが、所望の特性の鋼材を製造するためには、一定の大きさや組成の析出物等を安定して生成させることが重要となる。例えば、析出強化型高張力鋼板では、微細な析出物等を生成させて鋼板の高張力化が図られているが、最近では、サブナノメートルからナノメートルサイズの極めて微細な析出物等の制御が行われている。そのため、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等に対して、大きさ別に含有される元素やその量を分析できる方法が強く求められている。
【0004】
鋼材中の析出物等を定量する技術として、非特許文献1には、酸分解法、ハロゲン法、電解法などが挙げられており、特に、図1に示した手順で行われる電解法が優れていることが示されている。この電解法では、電解液中で鉄マトリックスを溶解させ、電解液中に分離された析出物等を回収する固液分離手段として、フィルタを用い、比較的小さな析出物等の凝集と比較的大きな析出物等によるフィルタ孔の閉塞とを組み合わせて、すなわち、比較的大きな析出物等によるフィルタ孔閉塞により、凝集した比較的小さな析出物等をフィルタ上に堆積させてケークろ過(堆積した析出物等自身がさらにフィルタとして作用するろ過機構)が機能されて、全ての析出物等が回収される。そのため、析出物等の総量を分析することは可能であるが、析出物等の大きさ別に関する知見を得ることはできない。
【0005】
一方、析出物等を大きさ別に分けて定量する技術は、非特許文献1に記載の方法を土台として幾つか提案されているが、いずれも析出物等の凝集解消やケーク層(フィルタ上の析出物等の堆積層)の形成防止を主眼としている。例えば、特許文献1には、鋼材中の非金属介在物を化学的に液体中に分離し、ろ過時に、金属フィルタを用いて効果的に超音波を付与して、非金属介在物の凝集解消とケーク層の形成防止を図り、非金属介在物を大きさ別に分別する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1の技術は、数ミクロンメートル以上の粗大な非金属介在物に対しては有効な手法だが、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの極めて微細な析出物等に適用するには問題がある。これは、微細な粒子ほど液体中で強い凝集性を示すため、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等の凝集体に対しては、超音波を付与してもその凝集を解消させることが難しく、また、超音波の効果を十分に発揮させるためのナノメートルからサブミクロンメートルサイズのフィルタ孔を有する金属フィルタが存在しないためである。特許文献2には、フィルタ孔径1μm以下の有機質フィルタを用い、超音波振動を付与して1μm以下の析出物等を分別する技術が開示されている。しかし、特許文献2の技術では、特許文献1の場合と同様、超音波による1μm以下の微細な析出物等の凝集解消は困難である。また、有機質フィルタは金属フィルタと違い、材質的に超音波の伝播や反射が不十分なため、フィルタ孔の閉塞を超音波振動によって解消させることができず、前述のフィルタ上にケーク層が形成され、フィルタ孔径通りの析出物の分別がなされない。非特許文献2には、フィルタ孔径の異なるフィルタを用い、ろ過を2回して、銅合金中の析出物等を大きさ別に分別する技術が開示されている。しかし、非特許文献2の技術でも、析出物等の凝集やケーク層の形成に関する問題が解決されておらず、大きさ別の分析を精度良く行うことができない。
【特許文献1】特公昭53-37595号公報
【特許文献2】特開昭58-119383号公報
【非特許文献1】日本鉄鋼協会「鉄鋼便覧第四版(CD-RM)」第四巻2編3.5
【非特許文献2】日本金属学会「まてりあ」第45巻第1号52頁(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来技術においては、析出物等の凝集とケーク層の形成の問題があり、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズ(特に、大きさ1μm以下、より望ましくは大きさ200nm以下)の析出物等を、大きさ別に正確に定量分析することができない。
【0007】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたもので、金属材料中に含まれるナノメートルサイズの微細な析出物等を大きさ別に分別した上で、正確に定量分析する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
図1に示した非特許文献1に開示される電解抽出法は、鉄マトリクスを溶解することで、鋼中析出物等を安定的に回収することができる方法であり、析出物等を回収し分析する標準的な方法(以下、標準法という)とみなされている。そして、前述した特許文献1、2は、この標準法に基づいている。しかし、標準法をはじめとする従来の方法では、上述したようにさまざまな問題がある。そこで、本発明者らは、従来の標準法にとらわれない方法を発明すべく、鋭意研究を行った。以下に、得られた知見を示す。
【0009】
上述の標準法の問題点を整理すると、分離された析出物等の分散媒として析出物等に対して分散性の低いメタノールを用いていること、および全量回収に適した閉塞しやすいフィルタを用いていることに根本的な問題点があり、これにより微細な析出物等を大きさ別に分別することが妨げられていたものと推測される。つまり、析出物等に対して分散性の低いメタノールを分散媒としているため、微細な析出物等は容易に凝集してしまい、超音波などの物理的作用を与えたとしても、その凝集を完全に解消させることは不可能であり、その上、閉塞しやすいフィルタを用いれば、凝集した析出物等がフィルタ孔を閉塞してケーク層が形成されやすくなるので、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等を大きさ別に分別することが困難になると考えられる。
【0010】
そこで、本発明者らは、先ず、析出物等の凝集を解消するために、析出物等の分散媒について検討したところ、水溶液系分散媒(以下、分散性を有する溶液という)による電気化学的作用によって、大きさ1μm以下の析出物等に対しても分散性を付与できることを見出した。
【0011】
しかし、標準法で用いられている電解液の主成分は分散性の低いメタノールであるので、析出物等に分散性を付与するためには、析出物等を電解液から分散性を有する溶液へ移す必要がある。そのためには、析出物等と電解液とを分離させる固液分離操作が必要となる。そこで、従来の標準法にしたがい、電解液中の析出物等と分散媒(具体的にはメタノール)中に分離した析出物等とを回収するために行われている固液分離手段としての「ろ過」操作を行ったところ、ろ過によって析出物等の一部(特に、大きさ200nm以下のサブナノメートルからナノメートルサイズの微細なもの)が失われる可能性があることがわかった。
【0012】
この結果を踏まえて、従来から行われている標準法以外の固液分離手段を得るべく、鋼材試料を用いてさらに検討した。その結果、電解中および/または電解後は、ほぼ全ての析出物等が鋼材試料に付着したままの状態であることを知見した。これは従来にない全く新しい知見であり、この知見から、電解中および/または電解後に鋼材試料の残部を電解液から取り出せば、容易に固液分離を実現できることになる。そして、凝集の問題解決のための上記知見を組み合わせて、分散性を有する溶液中に析出物等を分離すれば、析出物等の凝集を解消できることになる。この付着現象の詳細については不明であるが、電解中および/または電解後における鋼材試料と析出物等の電気的作用によるものと推測される。
【0013】
このように、鋼材試料に付着した析出物等を、分散性を有する溶液中で電気化学的作用によって高度に分散させることで、析出物等の凝集を解消することができる。その結果、特許文献1や2のように、溶媒(水やメタノールを含む)中での超音波という物理的作用をろ過の際に付与することは必要でなくなり、超音波の使用が妨げていた脆弱な材質や構造のフィルタやメタノールの使用が妨げていた非水溶媒溶解性フィルタの適用も可能となる。
【0014】
なお、本発明においては、本発明の範囲が金属試料の残部に付着した析出物等のみを分析する場合に限定されない。すなわち、金属試料の残部に付着した析出物等に加え、何らかの理由で電解液に含まれた析出物等の分析結果を加えることもできる。これにより、分析値がより正確になる場合もある。
【0015】
次に、本発明者らは、ケーク層の形成を防止するために、フィルタについて検討を重ねた結果、フィルタ孔の形状と空隙率がケーク層の形成に密接に関係していることを見出した。
【0016】
析出物等を大きさ別に分別する場合には、析出物等がフィルタ孔を通過することを促進できる空隙率の高いフィルタを用いる方が有利である。しかしながら、空隙率の高いフィルタを用いただけでは、フィルタ孔径以下の大きさの析出物等がフィルタに補足され、析出物等を正確に分別することができなった。そこで、さらに検討を行った結果、空隙率に加えて、フィルタ孔には、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔(以下、直孔という)を有することが必要なことを見出した。直孔ではないフィルタ孔の場合には、デプスろ過(フィルタ表面ではなく、フィルタ孔内部で粒子を補足するろ過機構)が機能したり、実際のフィルタ孔径の分布が広くなり、本来通過すべき微細な析出物等がフィルタに補足されてしまうものと考えられる。
【0017】
以上より、直孔を有し、空隙率の高いフィルタを用いることが、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等を分別するために効果的である。このような直孔を有し、空隙率が高いフィルタとしては、一般的にガラス質やセラミックスなどでできたフィルタを挙げられる。こうしたフィルタは、その多孔性と引き換えに、構造上脆弱であるため、これまで超音波を利用したろ過には用いられてなかった。このような知見は、発明者らが析出物等の分散方法と組み合わせることで、新たに見出したものである。なお、金属などでできたフィルタであっても、上記の要件を満たすフィルタであれば、本発明に適用可能であるが、現状では、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズのフィルタ孔径を有するものは工業的に実現されていない。
【0018】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、金属試料を、電解液中で電解する電解ステップと、前記電解液から取り出した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬する浸漬ステップと、前記分散性を有する溶液に分離された析出物等を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより1回以上ろ過する分別ステップと、1以上のフィルタにそれぞれ捕集された析出物等またはフィルタを通過した析出物等のうち、1以上を分析する分析ステップと、を有することを特徴とする金属材料中の析出物等の分析方法を提供する。
【0019】
本発明の分析方法は、分析ステップにおいて、大きさが1μm未満の析出物等を分析する場合に、特に効果的である。また、分析ステップにおいて、金属試料の残部に付着した析出物等を分析することが好ましい。さらに、分散性を有する溶液は、分析対象の析出物等に対するゼータ電位の絶対値が30mV以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金属材料中に存在する微細な析出物等(特に、大きさ1μm以下、より望ましくは大きさ200nm以下)を損失並びに凝集させることなく分離できるので、析出物等を大きさ別に精度良く分析できる。本発明の分析方法で得られた分析結果は、金属材料の諸性質に関する新たな知見となり、不良品発生の原因解明や新材料の開発等に有益な示唆を与えることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の分析方法の特徴は、電解後の析出物等が付着した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬し、試料に付着した析出物等を凝集させずに分離することと、分散性を有する溶液中に分離された析出物等を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより分別し、分析することにある。そこで、鋼材試料を例にとって、析出物等を分離するための分散性を有する溶液を最適化する手順と、分離された析出物等を分別し、分析する手順について、以下に詳述する。
【0022】
1) 分散性を有する溶液の最適化手順
図2に、分散性を有する溶液を最適化する場合の操作フローを示す。分散性を有する溶液の最適化は、図2に示すステップ(1)〜(6)にしたがって行われ、各ステップでは、次のようなことが具体的に行われる。
ステップ(1):鋼材を適当な大きさに加工して、電解用の試料とする。
ステップ(2):電解液とは異なりかつ分散性を有する溶液を、析出物等の分離用として電解液とは別に準備する。ここで、電解用試料の表面に付着した析出物等を分散性溶液中に分散させるには、電解液の半分以下の液量で充分である。なお、分散性を有する溶液の分散剤については、後述する。
ステップ(3):試料を所定量だけ電解する。ここで、所定量とは、適宜設定されるものであり、後述するゼータ電位の測定や元素分析を行える程度の量のことである。また、電解は、図3に示すような電解装置7により行える。この電解装置7は、試料1の固定用治具2、電極3、電解液6、電解液6を入れる為のビーカー4、および電流を供給する定電流電源5を備えている。固定用治具2は定電流電源5の陽極に、電極3は定電流電源5の陰極に接続される。試料1は、固定用治具2に接続され、電解液6中に浸漬される。電極3は、電解液6に浸漬されると共に、電解液6中に浸漬された試料1の表面を覆うように配置される。普通鋼材の試料には、固定用治具2として、永久磁石を用いるのが最も簡便である。ただし、永久磁石は電解液6に接触して溶解するおそれがあるので、電解液6と接触しやすい箇所、図3の2a部に白金板を使用する。電極3も同様に、電解液6による溶解を防ぐために、白金板を用いる。試料1の電解は、定電流電源5より電極3へ電荷を供給することで行う。試料の電解量はクーロン量に比例するので、電流が一定であれば電解時間で決まる。
ステップ(4):電解されずに残った試料を電解液から取り外し、ステップ(2)で準備した分散性を有する溶液中に浸漬して、試料に付着している析出物等を分散性を有する溶液中に分離する。このとき、試料に付着している析出物等を、より効率よく剥離して分散性を有する溶液中に分離するために、試料を分散性を有する溶液中に浸漬したままで超音波を付与することが好ましい。そして、試料を分散性を有する溶液から取り出すが、取り出しの際には、分散性を有する溶液と同一の溶液で試料を洗浄することが好ましい。
ステップ(5):ステップ(4)後の析出物等が分離された分散性を有する溶液のゼータ電位を計測する。
ステップ(6):ステップ(5)で計測したゼータ電位の絶対値が30mVに満たない場合には、分散剤の種類や濃度を変えてステップ(2)から(6)までを繰り返す。一方、ゼータ電位の絶対値が30mV以上に達した場合に、分散性を有する溶液が最適化されたとする。
【0023】
なお、図2においては、ゼータ電位を測定し、ゼータ電位が30mV以上に達した場合に、その時の分散剤と濃度を、対象析出物等に対する分散性溶液の最適条件と決定したが、本発明の分析方法においては、析出物等が分散性を有する溶液中で凝集することなく十分に分散していれば問題ないので、分散性を有する溶液の最適化の指標としては、ゼータ電位に限定されるものではない。また、分散性を有する溶液とゼータ電位に関して、詳細は後述する。
【0024】
2) 分離された析出物等の分別、分析手順
図4に、分散性を有する溶液に分離された析出物等を大きさ別に分別し、分析する操作フローを示す。析出物等の分別、分析は、図4に示すステップ(7)〜(9)にしたがって行われ、各ステップでは、次のようなことが具体的に行われる。
ステップ(7):図2の操作で最適化された分散性を有する溶液を用い、図2と同様なステップ(1)〜(4)により析出物等を分散性を有する溶液に分離する。
ステップ(8):析出物等を含む分散性を有する溶液を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタでろ過して、フィルタ上に捕集された残渣とろ液を回収する。析出物等を(n+1)の区分の大きさに分別する場合には、n個のフィルタ孔径の異なるフィルタを用い、フィルタ孔径の大きいフィルタからフィルタ孔径の小さいフィルタで順次n回ろ過を行って、各回ごとに捕集されたフィルタ上の残渣とn回目のろ液を回収する。
ステップ(9):ステップ(8)の操作で得られたフィルタ上に捕集された残渣とろ液を、それぞれ酸で溶解し、元素分析を行い、大きさ別に分別された析出物等に含有される元素の含有率を測定する。この場合、得られた残渣とろ液を全て元素分析する必要は無く、必要とする大きさの箇所のみ分析すればよい。この点では、複数段ろ過を行っても、分析は、最後に得られたろ液(最も微細な大きさの析出物等を含むことが期待できる)のみ分析しても良いし、途中段の残渣を1つのみ分析しても良い。
【0025】
以上のべた本発明の分析方法は、様々な金属材料中の析出物等の分析に適用することができ、特に、大きさ1μm以下の析出物等を多く含んだ鋼材に対して好適であり、大きさ200nm以下の析出物等を多く含んだ鋼材に対してはより好適である。
【0026】
3) 分散性を有する溶液について
上記ステップ(2)における分散性を有する溶液について補足する。用いる分散性を有する溶液としては、現状では大きさが1μm以下の微細な析出物等を凝集させずに分離できるものがない。そこで、大きさが1μm以上の粒子等に使用されている分散剤の水溶液を検討したところ、分散剤の種類と濃度と、析出物等の組成、大きさおよび溶液中の析出物等の密度との間に明確な相関は得られなかった。例えば、分散剤としては、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、正リン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどが好適であるが、分散剤が適切な濃度を超えると析出物等が凝集するという知見が得られた。
【0027】
以上より、分散性を有する溶液を最適化するにあたっては、析出物等の性状や密度あるいはその後の分析手法に応じて分散剤の種類や濃度を適宜最適化することとする。
【0028】
分散性を有する溶液の最適化の指標として、ゼータ電位を用いた理由は、上記のような分散剤を含有した水溶液を用いる場合は、析出物等の表面電荷と分散性には密接な相関があり、ゼータ電位計などを利用して析出物等表面の電荷状態を把握すると、最適な分散性溶液の条件(分散剤の種類や適切な添加濃度等)を確定することができることがわかった。つまり、析出物等が小さくなるほど、液中での凝集が起こりやすくなるため、適切な分散剤を適切な濃度で添加することで、析出物等表面に電荷が付与され互いに反発して凝集が防止されると考えられる。この結果より、分散性溶液の種類・濃度の決定に際して、ゼータ電位の値を指標として用いることは、簡便な方法でありながら、確実に最適な分散性溶液の条件(分散剤の種類や適切な添加濃度等)を確定することができるという点から望ましいと思われる。そして、開発者らは検討を重ねた結果、ゼータ電位の場合は、析出物等を分散させる観点からはその絶対値が大きければ大きいほど好ましいことが分かった。さらに析出物等の分析においては、概ね絶対値で30mV程度以上の値が得られれば、凝集が防止でき、正確な分析が行えることがわかった。
【0029】
以上より、析出物等の分離用の分散性溶液の種類や濃度を決定するに際しては、ゼータ電位の値を指標として用いることが好ましく、分散性を有する溶液は、分析対象である析出物等に対するゼータ電位の絶対値が30mV以上であることが好ましい。
【0030】
4) フィルタについて
上記ステップ(8)におけるフィルタついて補足する。本発明の主眼とする析出物等の大きさ別分別には、フィルタ孔径以上の析出物等とフィルタ孔径未満の析出物等を確実に分別できることが必要である。そのためには、上述したように、フィルタの空隙率が4%以上であり、かつフィルタ孔には直孔を有することが必要である。空隙率が4%未満だと、粗大粒子や凝集粒子による孔の閉塞が著しくなるため、本発明には不適である。空隙率は高いほど本発明には好適で、望ましくは15%以上で、より望ましくは45%以上である。但し、単に空隙率が高いだけでは充分ではない。空隙率4%以上に加えて、孔形状が、ほぼ一定の孔径でフィルタの表面から裏面へほぼ直線的に貫通した形状の直孔を有することが十分条件である。孔径が一定でないものは、析出物等のサイズ分離分解能が低く、本発明には適さない。本発明の作用効果を発揮させる上では、フィルタの空隙率が大きいほど好ましい。しかし、直孔の場合には、90%程度より空隙率を大きくすることが困難である。平面に同じ大きさの円(孔)を配置したときには孔の占める割合が90%強で最大となるためである。したがって、フィルタ強度の確保も考慮して空隙率90%以下とすることが好ましい。なお、空隙率の算出方法としては、一例として次式(1)のようなものがある。
空隙率=(フィルタ体積-フィルタ重量/比重)/フィルタ体積×100(%)・・・(1)
【実施例1】
【0031】
図2に示すステップ(1)から(6)の手順に従って、析出物等中のチタン含有率とゼータ電位の関係を調べた。各操作の具体的な条件は、以下に示す通りであるが、本発明は下記の具体的な条件に制限されるものではない。
【0032】
質量%で、C:0.09%、Si:0.12%、Mn:1.00%、P:0.010%、S:0.003%、Ti:0.18%、N:0.0039%を含有するチタンを添加した炭素鋼を、図3に示す電解装置を用い、約300mlの10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン-1質量%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)中で電解した。そして、電解後に残った炭素鋼を、分散性を有する溶液である0〜2000mg/lの範囲に濃度を7水準変化させたヘキサメタリン酸ナトリウム(以下、SHMPと呼ぶ。)水溶液に浸漬し、析出物等を分離し、各濃度でのゼータ電位をゼータ電位計で測定した。その結果、図5に示すように、SHMPの濃度増加に従ってゼータ電位の絶対値が増加していることがわかる。なお、分散性を有する溶液としてピロリン酸ナトリウム水溶液を用いても、図5と同様の傾向が得られた。このように、分散剤の種類や濃度により、ゼータ電位を制御できることがわかる。
【0033】
次に、直孔を有し、電子顕微鏡観察から求めた空隙率が47%で、フィルタ孔径が100nmのフィルタを用い、図4のステップ(7)〜(9)の操作を行い、100nm以上の大きさ(本実施例1では、フィルタを通過せずにフィルタ上に捕集された析出物等を、大きさ100nm以上と定義した。)の析出物等中のチタン含有率(鋼全体に対する割合)を求めた。その結果、図6に示すように、ゼータ電位の絶対値が30mV未満の場合は、ゼータ電位の絶対値が小さいほど、析出物等の凝集が進み、見掛け上析出物中のチタン含有率が高くなり、ゼータ電位の絶対値が30mV以上になると、析出物等中のチタン含有率は一定となり、析出物等の分散性が良好であることがわかる。
【0034】
なお、本発明の分析方法においては、析出物等が分散性を有する溶液中で凝集することなく十分に分散していれば問題ないので、分散性を有する溶液の最適化の指標としては、ゼータ電位に限定されるものではない。
【実施例2】
【0035】
ここでは、粒径既知の金コロイド粒子を使用して分析した例を具体的に説明する。
【0036】
市販されている20、30、40、50、60、80nmの粒径の異なる6種類の金コロイド溶液の一定量を、表1に示す3種類のフィルタA、B、Cを用いてろ過した。得られたろ液を乾燥後、残留物を王水中で加熱溶解して、ICP質量分析装置で金濃度を分析して、それぞれのフィルタを透過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量を測定した。また、それぞれの金コロイド溶液5mlを、ろ過せずに乾燥して、上記同様に金濃度を測定し、それぞれの金コロイド溶液の金コロイド基準量とした。それぞれのフィルタを通過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量をそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド基準量で除して、フィルタ通過率を算出した。なお、表1に示すフィルタの空隙率は、フィルタAおよびBについては電子顕微鏡観察により求めた値で、フィルタCについてはカタログより引用した値である。
【0037】
図7に、金コロイド粒径とフィルタ通過率の関係を示す。金コロイド粒径が40nm以下では、いずれのフィルタを用いても良好なフィルタ通過率を示す。しかし、金コロイド粒径が40nmを越えると、フィルタによってフィルタ通過率の挙動が異なってくる。すなわち、直孔を有し、空隙率が47%のフィルタAでは、金コロイド粒径によらず、ほぼ100%のフィルタ通過率が得られる。直孔を有し、空隙率が4%と低いフィルタBでは、金コロイド粒径が大きくなるにしたがい、フィルタ通過率が低下するが、80%以上の高いフィルタ通過率が得られる。一方、直孔でない、すなわち非直孔のフィルタ孔からなり、空隙率が70%と高いフィルタCでは、金コロイド粒径が大きくなるしたがい、フィルタ通過率が著しく低下する。フィルタBでは、空隙率が低いため粒子同士の物理的干渉がフィルタ孔の閉塞を引き起こして、フィルタ通過率がやや低下したと考えられるが、この程度の閉塞が起きても、実際の析出物等の分析精度には支障がない。また、フィルタCでは、空隙率が高いものの、非直孔のフィルタ孔からなっているため、孔径分布が広くなり、大きさ別の分別能が大きく低下しており、実際の析出物等の分析精度を悪化させる。
【0038】
【表1】
【0039】
なお、空隙率が4%未満の場合は、粗大な析出物等や析出物等の凝集によりフィルタ孔の閉塞が著しくなる。また、空隙率は高いほど望ましく、45%以上が特に望ましい。
【実施例3】
【0040】
ここでは、粒径既知の金コロイド粒子を使用して分析した別の例を具体的に説明する。
【0041】
市販されている20、30、40、50、60、80、100、150nmの粒径の異なる8種類の金コロイド溶液の一定量を、表2に示す3種類のフィルタD、E、Fを用いてろ過した。得られたろ液を乾燥後、残留物を王水中で加熱溶解して、ICP質量分析装置で金濃度を分析して、それぞれのフィルタを透過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量を測定した。また、それぞれの金コロイド溶液5mlを、ろ過せずに乾燥して、上記同様に金濃度を測定し、それぞれの金コロイド溶液の金コロイド基準量とした。それぞれのフィルタを通過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量をそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド基準量で除して、フィルタ通過率を算出した。なお、表2に示すフィルタの空隙率は、フィルタDおよびEについては電子顕微鏡観察により求めた値で、フィルタFについてはカタログより引用した値である。
【0042】
図8に、金コロイド粒径とフィルタ通過率の関係を示す。金コロイド粒径が60nm以下では、いずれのフィルタを用いても良好なフィルタ通過率を示す。しかし、金コロイド粒径が60nmを越えると、フィルタによってフィルタ通過率の挙動が異なってくる。すなわち、直孔を有し、空隙率が50%のフィルタDでは、金コロイド粒径によらず、ほぼ100%のフィルタ通過率が得られる。直孔を有し、空隙率が15%とやや低いフィルタEでは、金コロイド粒径が大きくなるにしたがいフィルタ通過率は少し低下するが、90%以上の高いフィルタ通過率が得られる。一方、直孔でない、すなわち非直孔のフィルタ孔からなり、空隙率が75%と高いフィルタFでは、金コロイド粒径が大きくなるしたがい、フィルタ通過率が著しく低下する。フィルタEでは、フィルタBと同様に、空隙率が低いため粒子同士の物理的干渉がフィルタ孔の閉塞を引き起こして、フィルタ通過率がやや低下したと考えられるが、この程度の閉塞が起きても、実際の析出物等の分析精度には支障がない。また、フィルタFでは、フィルタCと同様に、空隙率が高いものの、非直孔のフィルタ孔かからなっているため、孔径分布が広くなり、大きさ別の分別能が大きく低下しており、実際の析出物等の分析精度を悪化させる。
【0043】
【表2】
【0044】
上記実施例2および3の結果から、析出物を大きさごとに分別するためのフィルタとしては、直孔で空隙率が4%以上のものが必要であり、好ましくは15%以上で、さらにより好ましくは45%以上であることがわかる。
【実施例4】
【0045】
この実施例では、直孔型フィルタ(空隙率47%および4%)を用いた本発明の分析方法(発明例)、直孔型フィルタに代えて非直孔型フィルタを用いた分析方法(比較例1)、特許文献2による方法(比較例2)および非特許文献1による方法(比較例3)を用いて、鋼中から分離した析出物等をろ過して分析した例を具体的に説明する。
【0046】
(発明例)
表3に示す成分を有する炭素鋼から20mm×50mm×1mmの大きさに切り出した試料1〜4を、図3に示す電解装置を用い、約300mlの10%AA系電解液中で約0.5gを電流密度20mA/平方cmで定電流電解した。その後、試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、別の容器に準備した分散性を有する溶液である濃度500mg/lのSHMP水溶液約100ml中に浸漬し、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中で剥離し、SHMP水溶液中に分離した。試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出し、同じSHMP水溶液と純水で洗浄してから乾燥し、天秤で試料重量を測定した。そして、電解前の試料重量から測定した試料重量を差し引いて電解重量を求めた。
【0047】
次に、表1に示すフィルタAを装着した吸引ろ過器で、試料表面に付着した析出物等を分離後のSHMP水溶液と、粒径60nmの金コロイド溶液1mlを濃度500mg/lのSHMP水溶液)50mlに添加した金コロイド入りSHMP水溶液とを順にろ過した。フィルタ上に捕集された残渣を、フィルタとともに硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置で分析して、残渣中のチタン絶対量を測定した。この残渣中のチタン絶対量を電解重量で除して、フィルタAを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率を求めた。また、フィルタAを通過したろ液を、80℃のホットプレート上で加温して乾燥させ、乾燥後に残った乾燥残留物を、硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置またはICP質量分析装置で、ろ液中のチタンおよび金の絶対量を測定した。このろ液中のチタン絶対量を電解重量で除して、フィルタAを通過した析出物等におけるチタン含有率を求めた。同時に、金の絶対量を基準金量で除して、フィルタAにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。ここで、基準金量とは、フィルタAでろ過する前の金コロイド入りSHMP水溶液を乾燥後、王水分解したものをICP質量分析装置で測定して金の絶対量のことである。
【0048】
同様な操作を、表1に示すフィルタBを用いて行い、フィルタBを通過しなかった析出物におけるチタン含有率、フィルタBを透過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタBにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。
【0049】
(比較例1)
発明例と同様な操作を、表1に示すフィルタCを用いて行い、フィルタCを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率、フィルタCを通過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタCにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。
【0050】
(比較例2)
試料表面に付着した析出物等を分離するための分散性を有する溶液として、SHMP水溶液の代わりにメタノールを用い、表1のフィルタCを用いて、発明例と同様な操作を行い、フィルタCを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率、フィルタCを通過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタCにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。なお、金コロイドのフィルタ通過率を求めるに際しては、発明例と同様、金コロイド入りSHMP水溶液を用いて行った。
【0051】
(比較例3)
比較例2と同様な操作を、フィルタCの代わりに表1のフィルタBを用いて行い、フィルタBを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率、フィルタBを通過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタBにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。
【0052】
試料1の結果を図9に、試料2の結果を図10に、試料3の結果を図11に、試料4の結果を図12に示す。また、鋼の炭素量と金コロイドのフィルタ通過率の関係を図13に示す。
【0053】
鋼中のTiを含む析出物等の量は炭素量に関係があるので、成分以外が同一の製造条件の場合、試料4が最も析出物等が多く、試料3、試料2、試料1の順で析出物等が少なくなると見なすことができる。つまり、試料4のTiを含む析出物等を分析した場合が最もケーク層が形成されやすく、反対に試料1が最も少なくなる。ケーク層が形成されると析出物等の大きさ別分別結果に誤差が生じるが、続いてろ過された金コロイドのフィルタ通過率にも影響が生じるはずである。これら点を考慮して、以下に結果を説明する。
【0054】
図9〜12から、フィルタを通過した微細な析出物等のチタン含有率は、いずれの試料においても、発明例の方が比較例よりも高く、その傾向は析出物等が多くなる炭素量の多い試料3(図11)や試料4(図12)で顕著であることがわかる。特に、試料4においては、比較例1〜3では、フィルタを通過した析出物等がほとんど検出されてない。比較例1〜3の結果は、図13の金コロイドのフィルタ通過率が総じて低いことから、いずれの試料においても、析出物等の凝集が進んだり、ケーク層が形成されて分別が確実に行われなかったと推察される。したがって、比較例1〜3の析出物等のチタン含有率は正確な値とはいい難い。
【0055】
フィルタAを用いた発明例では、図13の金コロイドのフィルタ通過率がいずれの試料においても90%以上と高いので、ケーク層が形成されずに、適正に析出物等の大きさ別に分別が行われたと推察される。したがって、フィルタAを用いた発明例の析出物等のチタン含有率は正確な値といえる。また、フィルタBを用いた発明例では、図13の金コロイドのフィルタ通過率が試料3、4で低いが、試料1、2では比較的高いことから、炭素量が低く析出物等が少ない試料1、2では、ケーク層が形成されずに、適正に析出物等の大きさ別に分別が行われ、析出物等のチタン含有率は正確な値といえる。また、フィルタ通過率が低い試料3、4でも、通過率が0ではないので、若干精度は落ちるが、析出物等のチタン含有率は正しい値といえる
【0056】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】非特許文献1に記載の電解法の操作フローを示す図である。
【図2】本発明である分散性を有する溶液を最適化する操作フローの一例を示す図である。
【図3】本発明である析出物等の分析方法で用いる電解装置の一例を模式的に示す図である。
【図4】本発明である析出物等の分析方法の操作フローの一例を示す図である。
【図5】ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液濃度とゼータ電位の絶対値との関係を示す図である。
【図6】ゼータ電位の絶対値と析出物等中のチタン含有率との関係を示す図である。
【図7】実施例2における金コロイド粒径とフィルタ通過率との関係を示す図である。
【図8】実施例3における金コロイド粒径とフィルタ通過率との関係を示す図である。
【図9】発明例と比較例における試料1に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図10】発明例と比較例における試料2に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図11】発明例と比較例における試料3に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図12】発明例と比較例における試料4に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図13】鋼の炭素量と金コロイドのフィルタ通過率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 試料
2、2a 固定用治具
3 電極
4 ビーカー
5 定電流電源
6 電解液
7 電解装置
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属材料中の析出物および/または介在物(以下、析出物等という)の分析方法、特にナノメートルサイズの微細な析出物等を大きさ別に正確に定量分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料中に存在する析出物等は、その形態、大きさ、ならびに分布によっては材料の諸特性、例えば、機械的性質や電磁気的性質などに大きな影響を及ぼす。特に、鉄鋼の分野においては、近年、析出物等を利用して鋼材の特性を向上させる技術が著しく発展し、それに伴って製造工程における析出物等の制御が重要になってきている。
【0003】
一般に、鋼材に含有される析出物等には、大きさや組成によって、特性を向上させるもの、特性を低下させるもの、あるいは特性に寄与しないものがあるが、所望の特性の鋼材を製造するためには、一定の大きさや組成の析出物等を安定して生成させることが重要となる。例えば、析出強化型高張力鋼板では、微細な析出物等を生成させて鋼板の高張力化が図られているが、最近では、サブナノメートルからナノメートルサイズの極めて微細な析出物等の制御が行われている。そのため、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等に対して、大きさ別に含有される元素やその量を分析できる方法が強く求められている。
【0004】
鋼材中の析出物等を定量する技術として、非特許文献1には、酸分解法、ハロゲン法、電解法などが挙げられており、特に、図1に示した手順で行われる電解法が優れていることが示されている。この電解法では、電解液中で鉄マトリックスを溶解させ、電解液中に分離された析出物等を回収する固液分離手段として、フィルタを用い、比較的小さな析出物等の凝集と比較的大きな析出物等によるフィルタ孔の閉塞とを組み合わせて、すなわち、比較的大きな析出物等によるフィルタ孔閉塞により、凝集した比較的小さな析出物等をフィルタ上に堆積させてケークろ過(堆積した析出物等自身がさらにフィルタとして作用するろ過機構)が機能されて、全ての析出物等が回収される。そのため、析出物等の総量を分析することは可能であるが、析出物等の大きさ別に関する知見を得ることはできない。
【0005】
一方、析出物等を大きさ別に分けて定量する技術は、非特許文献1に記載の方法を土台として幾つか提案されているが、いずれも析出物等の凝集解消やケーク層(フィルタ上の析出物等の堆積層)の形成防止を主眼としている。例えば、特許文献1には、鋼材中の非金属介在物を化学的に液体中に分離し、ろ過時に、金属フィルタを用いて効果的に超音波を付与して、非金属介在物の凝集解消とケーク層の形成防止を図り、非金属介在物を大きさ別に分別する技術が開示されている。しかしながら、特許文献1の技術は、数ミクロンメートル以上の粗大な非金属介在物に対しては有効な手法だが、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの極めて微細な析出物等に適用するには問題がある。これは、微細な粒子ほど液体中で強い凝集性を示すため、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等の凝集体に対しては、超音波を付与してもその凝集を解消させることが難しく、また、超音波の効果を十分に発揮させるためのナノメートルからサブミクロンメートルサイズのフィルタ孔を有する金属フィルタが存在しないためである。特許文献2には、フィルタ孔径1μm以下の有機質フィルタを用い、超音波振動を付与して1μm以下の析出物等を分別する技術が開示されている。しかし、特許文献2の技術では、特許文献1の場合と同様、超音波による1μm以下の微細な析出物等の凝集解消は困難である。また、有機質フィルタは金属フィルタと違い、材質的に超音波の伝播や反射が不十分なため、フィルタ孔の閉塞を超音波振動によって解消させることができず、前述のフィルタ上にケーク層が形成され、フィルタ孔径通りの析出物の分別がなされない。非特許文献2には、フィルタ孔径の異なるフィルタを用い、ろ過を2回して、銅合金中の析出物等を大きさ別に分別する技術が開示されている。しかし、非特許文献2の技術でも、析出物等の凝集やケーク層の形成に関する問題が解決されておらず、大きさ別の分析を精度良く行うことができない。
【特許文献1】特公昭53-37595号公報
【特許文献2】特開昭58-119383号公報
【非特許文献1】日本鉄鋼協会「鉄鋼便覧第四版(CD-RM)」第四巻2編3.5
【非特許文献2】日本金属学会「まてりあ」第45巻第1号52頁(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、従来技術においては、析出物等の凝集とケーク層の形成の問題があり、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズ(特に、大きさ1μm以下、より望ましくは大きさ200nm以下)の析出物等を、大きさ別に正確に定量分析することができない。
【0007】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたもので、金属材料中に含まれるナノメートルサイズの微細な析出物等を大きさ別に分別した上で、正確に定量分析する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
図1に示した非特許文献1に開示される電解抽出法は、鉄マトリクスを溶解することで、鋼中析出物等を安定的に回収することができる方法であり、析出物等を回収し分析する標準的な方法(以下、標準法という)とみなされている。そして、前述した特許文献1、2は、この標準法に基づいている。しかし、標準法をはじめとする従来の方法では、上述したようにさまざまな問題がある。そこで、本発明者らは、従来の標準法にとらわれない方法を発明すべく、鋭意研究を行った。以下に、得られた知見を示す。
【0009】
上述の標準法の問題点を整理すると、分離された析出物等の分散媒として析出物等に対して分散性の低いメタノールを用いていること、および全量回収に適した閉塞しやすいフィルタを用いていることに根本的な問題点があり、これにより微細な析出物等を大きさ別に分別することが妨げられていたものと推測される。つまり、析出物等に対して分散性の低いメタノールを分散媒としているため、微細な析出物等は容易に凝集してしまい、超音波などの物理的作用を与えたとしても、その凝集を完全に解消させることは不可能であり、その上、閉塞しやすいフィルタを用いれば、凝集した析出物等がフィルタ孔を閉塞してケーク層が形成されやすくなるので、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等を大きさ別に分別することが困難になると考えられる。
【0010】
そこで、本発明者らは、先ず、析出物等の凝集を解消するために、析出物等の分散媒について検討したところ、水溶液系分散媒(以下、分散性を有する溶液という)による電気化学的作用によって、大きさ1μm以下の析出物等に対しても分散性を付与できることを見出した。
【0011】
しかし、標準法で用いられている電解液の主成分は分散性の低いメタノールであるので、析出物等に分散性を付与するためには、析出物等を電解液から分散性を有する溶液へ移す必要がある。そのためには、析出物等と電解液とを分離させる固液分離操作が必要となる。そこで、従来の標準法にしたがい、電解液中の析出物等と分散媒(具体的にはメタノール)中に分離した析出物等とを回収するために行われている固液分離手段としての「ろ過」操作を行ったところ、ろ過によって析出物等の一部(特に、大きさ200nm以下のサブナノメートルからナノメートルサイズの微細なもの)が失われる可能性があることがわかった。
【0012】
この結果を踏まえて、従来から行われている標準法以外の固液分離手段を得るべく、鋼材試料を用いてさらに検討した。その結果、電解中および/または電解後は、ほぼ全ての析出物等が鋼材試料に付着したままの状態であることを知見した。これは従来にない全く新しい知見であり、この知見から、電解中および/または電解後に鋼材試料の残部を電解液から取り出せば、容易に固液分離を実現できることになる。そして、凝集の問題解決のための上記知見を組み合わせて、分散性を有する溶液中に析出物等を分離すれば、析出物等の凝集を解消できることになる。この付着現象の詳細については不明であるが、電解中および/または電解後における鋼材試料と析出物等の電気的作用によるものと推測される。
【0013】
このように、鋼材試料に付着した析出物等を、分散性を有する溶液中で電気化学的作用によって高度に分散させることで、析出物等の凝集を解消することができる。その結果、特許文献1や2のように、溶媒(水やメタノールを含む)中での超音波という物理的作用をろ過の際に付与することは必要でなくなり、超音波の使用が妨げていた脆弱な材質や構造のフィルタやメタノールの使用が妨げていた非水溶媒溶解性フィルタの適用も可能となる。
【0014】
なお、本発明においては、本発明の範囲が金属試料の残部に付着した析出物等のみを分析する場合に限定されない。すなわち、金属試料の残部に付着した析出物等に加え、何らかの理由で電解液に含まれた析出物等の分析結果を加えることもできる。これにより、分析値がより正確になる場合もある。
【0015】
次に、本発明者らは、ケーク層の形成を防止するために、フィルタについて検討を重ねた結果、フィルタ孔の形状と空隙率がケーク層の形成に密接に関係していることを見出した。
【0016】
析出物等を大きさ別に分別する場合には、析出物等がフィルタ孔を通過することを促進できる空隙率の高いフィルタを用いる方が有利である。しかしながら、空隙率の高いフィルタを用いただけでは、フィルタ孔径以下の大きさの析出物等がフィルタに補足され、析出物等を正確に分別することができなった。そこで、さらに検討を行った結果、空隙率に加えて、フィルタ孔には、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔(以下、直孔という)を有することが必要なことを見出した。直孔ではないフィルタ孔の場合には、デプスろ過(フィルタ表面ではなく、フィルタ孔内部で粒子を補足するろ過機構)が機能したり、実際のフィルタ孔径の分布が広くなり、本来通過すべき微細な析出物等がフィルタに補足されてしまうものと考えられる。
【0017】
以上より、直孔を有し、空隙率の高いフィルタを用いることが、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズの析出物等を分別するために効果的である。このような直孔を有し、空隙率が高いフィルタとしては、一般的にガラス質やセラミックスなどでできたフィルタを挙げられる。こうしたフィルタは、その多孔性と引き換えに、構造上脆弱であるため、これまで超音波を利用したろ過には用いられてなかった。このような知見は、発明者らが析出物等の分散方法と組み合わせることで、新たに見出したものである。なお、金属などでできたフィルタであっても、上記の要件を満たすフィルタであれば、本発明に適用可能であるが、現状では、ナノメートルからサブミクロンメートルサイズのフィルタ孔径を有するものは工業的に実現されていない。
【0018】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、金属試料を、電解液中で電解する電解ステップと、前記電解液から取り出した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬する浸漬ステップと、前記分散性を有する溶液に分離された析出物等を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより1回以上ろ過する分別ステップと、1以上のフィルタにそれぞれ捕集された析出物等またはフィルタを通過した析出物等のうち、1以上を分析する分析ステップと、を有することを特徴とする金属材料中の析出物等の分析方法を提供する。
【0019】
本発明の分析方法は、分析ステップにおいて、大きさが1μm未満の析出物等を分析する場合に、特に効果的である。また、分析ステップにおいて、金属試料の残部に付着した析出物等を分析することが好ましい。さらに、分散性を有する溶液は、分析対象の析出物等に対するゼータ電位の絶対値が30mV以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、金属材料中に存在する微細な析出物等(特に、大きさ1μm以下、より望ましくは大きさ200nm以下)を損失並びに凝集させることなく分離できるので、析出物等を大きさ別に精度良く分析できる。本発明の分析方法で得られた分析結果は、金属材料の諸性質に関する新たな知見となり、不良品発生の原因解明や新材料の開発等に有益な示唆を与えることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の分析方法の特徴は、電解後の析出物等が付着した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬し、試料に付着した析出物等を凝集させずに分離することと、分散性を有する溶液中に分離された析出物等を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより分別し、分析することにある。そこで、鋼材試料を例にとって、析出物等を分離するための分散性を有する溶液を最適化する手順と、分離された析出物等を分別し、分析する手順について、以下に詳述する。
【0022】
1) 分散性を有する溶液の最適化手順
図2に、分散性を有する溶液を最適化する場合の操作フローを示す。分散性を有する溶液の最適化は、図2に示すステップ(1)〜(6)にしたがって行われ、各ステップでは、次のようなことが具体的に行われる。
ステップ(1):鋼材を適当な大きさに加工して、電解用の試料とする。
ステップ(2):電解液とは異なりかつ分散性を有する溶液を、析出物等の分離用として電解液とは別に準備する。ここで、電解用試料の表面に付着した析出物等を分散性溶液中に分散させるには、電解液の半分以下の液量で充分である。なお、分散性を有する溶液の分散剤については、後述する。
ステップ(3):試料を所定量だけ電解する。ここで、所定量とは、適宜設定されるものであり、後述するゼータ電位の測定や元素分析を行える程度の量のことである。また、電解は、図3に示すような電解装置7により行える。この電解装置7は、試料1の固定用治具2、電極3、電解液6、電解液6を入れる為のビーカー4、および電流を供給する定電流電源5を備えている。固定用治具2は定電流電源5の陽極に、電極3は定電流電源5の陰極に接続される。試料1は、固定用治具2に接続され、電解液6中に浸漬される。電極3は、電解液6に浸漬されると共に、電解液6中に浸漬された試料1の表面を覆うように配置される。普通鋼材の試料には、固定用治具2として、永久磁石を用いるのが最も簡便である。ただし、永久磁石は電解液6に接触して溶解するおそれがあるので、電解液6と接触しやすい箇所、図3の2a部に白金板を使用する。電極3も同様に、電解液6による溶解を防ぐために、白金板を用いる。試料1の電解は、定電流電源5より電極3へ電荷を供給することで行う。試料の電解量はクーロン量に比例するので、電流が一定であれば電解時間で決まる。
ステップ(4):電解されずに残った試料を電解液から取り外し、ステップ(2)で準備した分散性を有する溶液中に浸漬して、試料に付着している析出物等を分散性を有する溶液中に分離する。このとき、試料に付着している析出物等を、より効率よく剥離して分散性を有する溶液中に分離するために、試料を分散性を有する溶液中に浸漬したままで超音波を付与することが好ましい。そして、試料を分散性を有する溶液から取り出すが、取り出しの際には、分散性を有する溶液と同一の溶液で試料を洗浄することが好ましい。
ステップ(5):ステップ(4)後の析出物等が分離された分散性を有する溶液のゼータ電位を計測する。
ステップ(6):ステップ(5)で計測したゼータ電位の絶対値が30mVに満たない場合には、分散剤の種類や濃度を変えてステップ(2)から(6)までを繰り返す。一方、ゼータ電位の絶対値が30mV以上に達した場合に、分散性を有する溶液が最適化されたとする。
【0023】
なお、図2においては、ゼータ電位を測定し、ゼータ電位が30mV以上に達した場合に、その時の分散剤と濃度を、対象析出物等に対する分散性溶液の最適条件と決定したが、本発明の分析方法においては、析出物等が分散性を有する溶液中で凝集することなく十分に分散していれば問題ないので、分散性を有する溶液の最適化の指標としては、ゼータ電位に限定されるものではない。また、分散性を有する溶液とゼータ電位に関して、詳細は後述する。
【0024】
2) 分離された析出物等の分別、分析手順
図4に、分散性を有する溶液に分離された析出物等を大きさ別に分別し、分析する操作フローを示す。析出物等の分別、分析は、図4に示すステップ(7)〜(9)にしたがって行われ、各ステップでは、次のようなことが具体的に行われる。
ステップ(7):図2の操作で最適化された分散性を有する溶液を用い、図2と同様なステップ(1)〜(4)により析出物等を分散性を有する溶液に分離する。
ステップ(8):析出物等を含む分散性を有する溶液を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタでろ過して、フィルタ上に捕集された残渣とろ液を回収する。析出物等を(n+1)の区分の大きさに分別する場合には、n個のフィルタ孔径の異なるフィルタを用い、フィルタ孔径の大きいフィルタからフィルタ孔径の小さいフィルタで順次n回ろ過を行って、各回ごとに捕集されたフィルタ上の残渣とn回目のろ液を回収する。
ステップ(9):ステップ(8)の操作で得られたフィルタ上に捕集された残渣とろ液を、それぞれ酸で溶解し、元素分析を行い、大きさ別に分別された析出物等に含有される元素の含有率を測定する。この場合、得られた残渣とろ液を全て元素分析する必要は無く、必要とする大きさの箇所のみ分析すればよい。この点では、複数段ろ過を行っても、分析は、最後に得られたろ液(最も微細な大きさの析出物等を含むことが期待できる)のみ分析しても良いし、途中段の残渣を1つのみ分析しても良い。
【0025】
以上のべた本発明の分析方法は、様々な金属材料中の析出物等の分析に適用することができ、特に、大きさ1μm以下の析出物等を多く含んだ鋼材に対して好適であり、大きさ200nm以下の析出物等を多く含んだ鋼材に対してはより好適である。
【0026】
3) 分散性を有する溶液について
上記ステップ(2)における分散性を有する溶液について補足する。用いる分散性を有する溶液としては、現状では大きさが1μm以下の微細な析出物等を凝集させずに分離できるものがない。そこで、大きさが1μm以上の粒子等に使用されている分散剤の水溶液を検討したところ、分散剤の種類と濃度と、析出物等の組成、大きさおよび溶液中の析出物等の密度との間に明確な相関は得られなかった。例えば、分散剤としては、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、正リン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウムなどが好適であるが、分散剤が適切な濃度を超えると析出物等が凝集するという知見が得られた。
【0027】
以上より、分散性を有する溶液を最適化するにあたっては、析出物等の性状や密度あるいはその後の分析手法に応じて分散剤の種類や濃度を適宜最適化することとする。
【0028】
分散性を有する溶液の最適化の指標として、ゼータ電位を用いた理由は、上記のような分散剤を含有した水溶液を用いる場合は、析出物等の表面電荷と分散性には密接な相関があり、ゼータ電位計などを利用して析出物等表面の電荷状態を把握すると、最適な分散性溶液の条件(分散剤の種類や適切な添加濃度等)を確定することができることがわかった。つまり、析出物等が小さくなるほど、液中での凝集が起こりやすくなるため、適切な分散剤を適切な濃度で添加することで、析出物等表面に電荷が付与され互いに反発して凝集が防止されると考えられる。この結果より、分散性溶液の種類・濃度の決定に際して、ゼータ電位の値を指標として用いることは、簡便な方法でありながら、確実に最適な分散性溶液の条件(分散剤の種類や適切な添加濃度等)を確定することができるという点から望ましいと思われる。そして、開発者らは検討を重ねた結果、ゼータ電位の場合は、析出物等を分散させる観点からはその絶対値が大きければ大きいほど好ましいことが分かった。さらに析出物等の分析においては、概ね絶対値で30mV程度以上の値が得られれば、凝集が防止でき、正確な分析が行えることがわかった。
【0029】
以上より、析出物等の分離用の分散性溶液の種類や濃度を決定するに際しては、ゼータ電位の値を指標として用いることが好ましく、分散性を有する溶液は、分析対象である析出物等に対するゼータ電位の絶対値が30mV以上であることが好ましい。
【0030】
4) フィルタについて
上記ステップ(8)におけるフィルタついて補足する。本発明の主眼とする析出物等の大きさ別分別には、フィルタ孔径以上の析出物等とフィルタ孔径未満の析出物等を確実に分別できることが必要である。そのためには、上述したように、フィルタの空隙率が4%以上であり、かつフィルタ孔には直孔を有することが必要である。空隙率が4%未満だと、粗大粒子や凝集粒子による孔の閉塞が著しくなるため、本発明には不適である。空隙率は高いほど本発明には好適で、望ましくは15%以上で、より望ましくは45%以上である。但し、単に空隙率が高いだけでは充分ではない。空隙率4%以上に加えて、孔形状が、ほぼ一定の孔径でフィルタの表面から裏面へほぼ直線的に貫通した形状の直孔を有することが十分条件である。孔径が一定でないものは、析出物等のサイズ分離分解能が低く、本発明には適さない。本発明の作用効果を発揮させる上では、フィルタの空隙率が大きいほど好ましい。しかし、直孔の場合には、90%程度より空隙率を大きくすることが困難である。平面に同じ大きさの円(孔)を配置したときには孔の占める割合が90%強で最大となるためである。したがって、フィルタ強度の確保も考慮して空隙率90%以下とすることが好ましい。なお、空隙率の算出方法としては、一例として次式(1)のようなものがある。
空隙率=(フィルタ体積-フィルタ重量/比重)/フィルタ体積×100(%)・・・(1)
【実施例1】
【0031】
図2に示すステップ(1)から(6)の手順に従って、析出物等中のチタン含有率とゼータ電位の関係を調べた。各操作の具体的な条件は、以下に示す通りであるが、本発明は下記の具体的な条件に制限されるものではない。
【0032】
質量%で、C:0.09%、Si:0.12%、Mn:1.00%、P:0.010%、S:0.003%、Ti:0.18%、N:0.0039%を含有するチタンを添加した炭素鋼を、図3に示す電解装置を用い、約300mlの10%AA系電解液(10vol%アセチルアセトン-1質量%塩化テトラメチルアンモニウム-メタノール)中で電解した。そして、電解後に残った炭素鋼を、分散性を有する溶液である0〜2000mg/lの範囲に濃度を7水準変化させたヘキサメタリン酸ナトリウム(以下、SHMPと呼ぶ。)水溶液に浸漬し、析出物等を分離し、各濃度でのゼータ電位をゼータ電位計で測定した。その結果、図5に示すように、SHMPの濃度増加に従ってゼータ電位の絶対値が増加していることがわかる。なお、分散性を有する溶液としてピロリン酸ナトリウム水溶液を用いても、図5と同様の傾向が得られた。このように、分散剤の種類や濃度により、ゼータ電位を制御できることがわかる。
【0033】
次に、直孔を有し、電子顕微鏡観察から求めた空隙率が47%で、フィルタ孔径が100nmのフィルタを用い、図4のステップ(7)〜(9)の操作を行い、100nm以上の大きさ(本実施例1では、フィルタを通過せずにフィルタ上に捕集された析出物等を、大きさ100nm以上と定義した。)の析出物等中のチタン含有率(鋼全体に対する割合)を求めた。その結果、図6に示すように、ゼータ電位の絶対値が30mV未満の場合は、ゼータ電位の絶対値が小さいほど、析出物等の凝集が進み、見掛け上析出物中のチタン含有率が高くなり、ゼータ電位の絶対値が30mV以上になると、析出物等中のチタン含有率は一定となり、析出物等の分散性が良好であることがわかる。
【0034】
なお、本発明の分析方法においては、析出物等が分散性を有する溶液中で凝集することなく十分に分散していれば問題ないので、分散性を有する溶液の最適化の指標としては、ゼータ電位に限定されるものではない。
【実施例2】
【0035】
ここでは、粒径既知の金コロイド粒子を使用して分析した例を具体的に説明する。
【0036】
市販されている20、30、40、50、60、80nmの粒径の異なる6種類の金コロイド溶液の一定量を、表1に示す3種類のフィルタA、B、Cを用いてろ過した。得られたろ液を乾燥後、残留物を王水中で加熱溶解して、ICP質量分析装置で金濃度を分析して、それぞれのフィルタを透過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量を測定した。また、それぞれの金コロイド溶液5mlを、ろ過せずに乾燥して、上記同様に金濃度を測定し、それぞれの金コロイド溶液の金コロイド基準量とした。それぞれのフィルタを通過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量をそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド基準量で除して、フィルタ通過率を算出した。なお、表1に示すフィルタの空隙率は、フィルタAおよびBについては電子顕微鏡観察により求めた値で、フィルタCについてはカタログより引用した値である。
【0037】
図7に、金コロイド粒径とフィルタ通過率の関係を示す。金コロイド粒径が40nm以下では、いずれのフィルタを用いても良好なフィルタ通過率を示す。しかし、金コロイド粒径が40nmを越えると、フィルタによってフィルタ通過率の挙動が異なってくる。すなわち、直孔を有し、空隙率が47%のフィルタAでは、金コロイド粒径によらず、ほぼ100%のフィルタ通過率が得られる。直孔を有し、空隙率が4%と低いフィルタBでは、金コロイド粒径が大きくなるにしたがい、フィルタ通過率が低下するが、80%以上の高いフィルタ通過率が得られる。一方、直孔でない、すなわち非直孔のフィルタ孔からなり、空隙率が70%と高いフィルタCでは、金コロイド粒径が大きくなるしたがい、フィルタ通過率が著しく低下する。フィルタBでは、空隙率が低いため粒子同士の物理的干渉がフィルタ孔の閉塞を引き起こして、フィルタ通過率がやや低下したと考えられるが、この程度の閉塞が起きても、実際の析出物等の分析精度には支障がない。また、フィルタCでは、空隙率が高いものの、非直孔のフィルタ孔からなっているため、孔径分布が広くなり、大きさ別の分別能が大きく低下しており、実際の析出物等の分析精度を悪化させる。
【0038】
【表1】
【0039】
なお、空隙率が4%未満の場合は、粗大な析出物等や析出物等の凝集によりフィルタ孔の閉塞が著しくなる。また、空隙率は高いほど望ましく、45%以上が特に望ましい。
【実施例3】
【0040】
ここでは、粒径既知の金コロイド粒子を使用して分析した別の例を具体的に説明する。
【0041】
市販されている20、30、40、50、60、80、100、150nmの粒径の異なる8種類の金コロイド溶液の一定量を、表2に示す3種類のフィルタD、E、Fを用いてろ過した。得られたろ液を乾燥後、残留物を王水中で加熱溶解して、ICP質量分析装置で金濃度を分析して、それぞれのフィルタを透過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量を測定した。また、それぞれの金コロイド溶液5mlを、ろ過せずに乾燥して、上記同様に金濃度を測定し、それぞれの金コロイド溶液の金コロイド基準量とした。それぞれのフィルタを通過したそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド量をそれぞれの金コロイド溶液中の金コロイド基準量で除して、フィルタ通過率を算出した。なお、表2に示すフィルタの空隙率は、フィルタDおよびEについては電子顕微鏡観察により求めた値で、フィルタFについてはカタログより引用した値である。
【0042】
図8に、金コロイド粒径とフィルタ通過率の関係を示す。金コロイド粒径が60nm以下では、いずれのフィルタを用いても良好なフィルタ通過率を示す。しかし、金コロイド粒径が60nmを越えると、フィルタによってフィルタ通過率の挙動が異なってくる。すなわち、直孔を有し、空隙率が50%のフィルタDでは、金コロイド粒径によらず、ほぼ100%のフィルタ通過率が得られる。直孔を有し、空隙率が15%とやや低いフィルタEでは、金コロイド粒径が大きくなるにしたがいフィルタ通過率は少し低下するが、90%以上の高いフィルタ通過率が得られる。一方、直孔でない、すなわち非直孔のフィルタ孔からなり、空隙率が75%と高いフィルタFでは、金コロイド粒径が大きくなるしたがい、フィルタ通過率が著しく低下する。フィルタEでは、フィルタBと同様に、空隙率が低いため粒子同士の物理的干渉がフィルタ孔の閉塞を引き起こして、フィルタ通過率がやや低下したと考えられるが、この程度の閉塞が起きても、実際の析出物等の分析精度には支障がない。また、フィルタFでは、フィルタCと同様に、空隙率が高いものの、非直孔のフィルタ孔かからなっているため、孔径分布が広くなり、大きさ別の分別能が大きく低下しており、実際の析出物等の分析精度を悪化させる。
【0043】
【表2】
【0044】
上記実施例2および3の結果から、析出物を大きさごとに分別するためのフィルタとしては、直孔で空隙率が4%以上のものが必要であり、好ましくは15%以上で、さらにより好ましくは45%以上であることがわかる。
【実施例4】
【0045】
この実施例では、直孔型フィルタ(空隙率47%および4%)を用いた本発明の分析方法(発明例)、直孔型フィルタに代えて非直孔型フィルタを用いた分析方法(比較例1)、特許文献2による方法(比較例2)および非特許文献1による方法(比較例3)を用いて、鋼中から分離した析出物等をろ過して分析した例を具体的に説明する。
【0046】
(発明例)
表3に示す成分を有する炭素鋼から20mm×50mm×1mmの大きさに切り出した試料1〜4を、図3に示す電解装置を用い、約300mlの10%AA系電解液中で約0.5gを電流密度20mA/平方cmで定電流電解した。その後、試料を電解液中から静かに引き上げて取り出し、別の容器に準備した分散性を有する溶液である濃度500mg/lのSHMP水溶液約100ml中に浸漬し、超音波振動を与えて試料表面に付着した析出物等を容器中で剥離し、SHMP水溶液中に分離した。試料表面が金属光沢を呈したら超音波振動を停止し、試料を容器から取り出し、同じSHMP水溶液と純水で洗浄してから乾燥し、天秤で試料重量を測定した。そして、電解前の試料重量から測定した試料重量を差し引いて電解重量を求めた。
【0047】
次に、表1に示すフィルタAを装着した吸引ろ過器で、試料表面に付着した析出物等を分離後のSHMP水溶液と、粒径60nmの金コロイド溶液1mlを濃度500mg/lのSHMP水溶液)50mlに添加した金コロイド入りSHMP水溶液とを順にろ過した。フィルタ上に捕集された残渣を、フィルタとともに硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置で分析して、残渣中のチタン絶対量を測定した。この残渣中のチタン絶対量を電解重量で除して、フィルタAを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率を求めた。また、フィルタAを通過したろ液を、80℃のホットプレート上で加温して乾燥させ、乾燥後に残った乾燥残留物を、硝酸、過塩素酸並びに硫酸の混合溶液で加熱溶解した後、ICP発光分光分析装置またはICP質量分析装置で、ろ液中のチタンおよび金の絶対量を測定した。このろ液中のチタン絶対量を電解重量で除して、フィルタAを通過した析出物等におけるチタン含有率を求めた。同時に、金の絶対量を基準金量で除して、フィルタAにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。ここで、基準金量とは、フィルタAでろ過する前の金コロイド入りSHMP水溶液を乾燥後、王水分解したものをICP質量分析装置で測定して金の絶対量のことである。
【0048】
同様な操作を、表1に示すフィルタBを用いて行い、フィルタBを通過しなかった析出物におけるチタン含有率、フィルタBを透過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタBにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。
【0049】
(比較例1)
発明例と同様な操作を、表1に示すフィルタCを用いて行い、フィルタCを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率、フィルタCを通過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタCにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。
【0050】
(比較例2)
試料表面に付着した析出物等を分離するための分散性を有する溶液として、SHMP水溶液の代わりにメタノールを用い、表1のフィルタCを用いて、発明例と同様な操作を行い、フィルタCを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率、フィルタCを通過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタCにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。なお、金コロイドのフィルタ通過率を求めるに際しては、発明例と同様、金コロイド入りSHMP水溶液を用いて行った。
【0051】
(比較例3)
比較例2と同様な操作を、フィルタCの代わりに表1のフィルタBを用いて行い、フィルタBを通過しなかった析出物等におけるチタン含有率、フィルタBを通過した析出物等におけるチタン含有率およびフィルタBにおける金コロイドのフィルタ通過率を求めた。
【0052】
試料1の結果を図9に、試料2の結果を図10に、試料3の結果を図11に、試料4の結果を図12に示す。また、鋼の炭素量と金コロイドのフィルタ通過率の関係を図13に示す。
【0053】
鋼中のTiを含む析出物等の量は炭素量に関係があるので、成分以外が同一の製造条件の場合、試料4が最も析出物等が多く、試料3、試料2、試料1の順で析出物等が少なくなると見なすことができる。つまり、試料4のTiを含む析出物等を分析した場合が最もケーク層が形成されやすく、反対に試料1が最も少なくなる。ケーク層が形成されると析出物等の大きさ別分別結果に誤差が生じるが、続いてろ過された金コロイドのフィルタ通過率にも影響が生じるはずである。これら点を考慮して、以下に結果を説明する。
【0054】
図9〜12から、フィルタを通過した微細な析出物等のチタン含有率は、いずれの試料においても、発明例の方が比較例よりも高く、その傾向は析出物等が多くなる炭素量の多い試料3(図11)や試料4(図12)で顕著であることがわかる。特に、試料4においては、比較例1〜3では、フィルタを通過した析出物等がほとんど検出されてない。比較例1〜3の結果は、図13の金コロイドのフィルタ通過率が総じて低いことから、いずれの試料においても、析出物等の凝集が進んだり、ケーク層が形成されて分別が確実に行われなかったと推察される。したがって、比較例1〜3の析出物等のチタン含有率は正確な値とはいい難い。
【0055】
フィルタAを用いた発明例では、図13の金コロイドのフィルタ通過率がいずれの試料においても90%以上と高いので、ケーク層が形成されずに、適正に析出物等の大きさ別に分別が行われたと推察される。したがって、フィルタAを用いた発明例の析出物等のチタン含有率は正確な値といえる。また、フィルタBを用いた発明例では、図13の金コロイドのフィルタ通過率が試料3、4で低いが、試料1、2では比較的高いことから、炭素量が低く析出物等が少ない試料1、2では、ケーク層が形成されずに、適正に析出物等の大きさ別に分別が行われ、析出物等のチタン含有率は正確な値といえる。また、フィルタ通過率が低い試料3、4でも、通過率が0ではないので、若干精度は落ちるが、析出物等のチタン含有率は正しい値といえる
【0056】
【表3】
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】非特許文献1に記載の電解法の操作フローを示す図である。
【図2】本発明である分散性を有する溶液を最適化する操作フローの一例を示す図である。
【図3】本発明である析出物等の分析方法で用いる電解装置の一例を模式的に示す図である。
【図4】本発明である析出物等の分析方法の操作フローの一例を示す図である。
【図5】ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液濃度とゼータ電位の絶対値との関係を示す図である。
【図6】ゼータ電位の絶対値と析出物等中のチタン含有率との関係を示す図である。
【図7】実施例2における金コロイド粒径とフィルタ通過率との関係を示す図である。
【図8】実施例3における金コロイド粒径とフィルタ通過率との関係を示す図である。
【図9】発明例と比較例における試料1に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図10】発明例と比較例における試料2に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図11】発明例と比較例における試料3に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図12】発明例と比較例における試料4に含まれる析出物等中のチタン含有率を示す図である。
【図13】鋼の炭素量と金コロイドのフィルタ通過率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 試料
2、2a 固定用治具
3 電極
4 ビーカー
5 定電流電源
6 電解液
7 電解装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属試料を、電解液中で電解する電解ステップと、
前記電解液から取り出した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬する浸漬ステップと、
前記分散性を有する溶液に分離された析出物および/または介在物(以下、析出物等という)を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより1回以上ろ過する分別ステップと、
1以上のフィルタにそれぞれ捕集された析出物等またはフィルタを通過した析出物等のうち、1以上を分析する分析ステップと、
を有することを特徴とする金属材料中の析出物等の分析方法;ここで、直孔とは、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔のことをいう。
【請求項2】
分析ステップにおいて、大きさが1μm未満の析出物等を分析することを特徴とする請求項1に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。
【請求項3】
分析ステップにおいて、金属試料の残部に付着した析出物等を分析することを特徴とする請求項1または2に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。
【請求項4】
分散性を有する溶液は、分析対象の析出物等に対するゼータ電位の絶対値が30mV以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。
【請求項1】
金属試料を、電解液中で電解する電解ステップと、
前記電解液から取り出した金属試料の残部を、分散性を有する溶液に浸漬する浸漬ステップと、
前記分散性を有する溶液に分離された析出物および/または介在物(以下、析出物等という)を、直孔を有し、かつ空隙率が4%以上のフィルタにより1回以上ろ過する分別ステップと、
1以上のフィルタにそれぞれ捕集された析出物等またはフィルタを通過した析出物等のうち、1以上を分析する分析ステップと、
を有することを特徴とする金属材料中の析出物等の分析方法;ここで、直孔とは、一定の開口形状でフィルタ面を貫通しているフィルタ孔のことをいう。
【請求項2】
分析ステップにおいて、大きさが1μm未満の析出物等を分析することを特徴とする請求項1に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。
【請求項3】
分析ステップにおいて、金属試料の残部に付着した析出物等を分析することを特徴とする請求項1または2に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。
【請求項4】
分散性を有する溶液は、分析対象の析出物等に対するゼータ電位の絶対値が30mV以上であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の金属材料中の析出物等の分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−127791(P2010−127791A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303356(P2008−303356)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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