説明

金属板の接合構造

【課題】安定的な接合を効率的に行うことで高い品質を保障することができる金属板の接合構造を提供すること。
【解決手段】少なくとも、融点の高い第1金属板部材11と、第1金属板部材11とは異なる異種であって融点の低い第2金属板部材12とを接合する金属板の接合構造であって、第1金属板部材11の厚さよりも大きい長さの突出ピン61を有する回転工具60を用い、上部に配置される第1金属板部材11に、機械加工により、突出ピン61が進行する空隙部13を予め形成しておき、第1金属板部材11に第2金属板部材12を重ね合わせてから、回転工具60の突出ピン61の進行に伴って第1金属板部材11と第2金属板部材12とを摩擦撹拌接合した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転工具を用いた摩擦撹拌接合法(Friction Stir Welding所謂FSW)により接合する金属板の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属板の接合構造として、先端部に突出部をもつ円筒形状の回転治具を、重ね合わされた第1材料と第2材料の最外表面に押し付けて摩擦撹拌接合したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図8に示すように、特許文献1に開示された金属板の接合構造は、アルミニウム合金製の板材や予め3次元形状にプレス成形された材料の接合に適用されるものであって、重ね合わされた第1材料101と第2材料102を受け部材111上に置き、第1材料101の最外表面に、円筒形状の回転治具112の突出部113を押圧する。回転治具112は、10〜15mm程度の直径φ1であり、突出部113は、5〜7.5mm程度の直径φ2であり、接合部分103が8〜9mm程度の直径φ3になり、突出部113は、長さX1が接合部分103の深さX2の80〜90%になる。
【0004】
【特許文献1】特開2001−314983号公報(図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に開示された従来の金属板の接合構造においては、第1材料101が、融点660℃のアルミニウム合金製であって、第2材料102が、融点1083℃の銅合金製であると、回転工具112の突出部113の押圧によってアルミニウム合金製の第1材料101が摩擦撹拌され、それにより発生する熱により銅合金製の第2材料102との境界面104に拡散層が生ずることで接合されるものの、発熱のばらつきに起因して撹拌接合における強度のばらつきが生ずる虞があり、その結果、不安定な接合となり得る。
【0006】
また、このような従来の金属板の接合構造として、回転治具の突出部の長さを長くすることで、第2材料に食い込ませるようにしたものも提案されているが、摩擦撹拌時の発生熱がアルミニウム合金の融点を超えやすいために、溶けたアルミニウム材料が回転工具の回転に伴って飛び散り、その結果、空隙ができて接合不良となる。
【0007】
また、このような従来の金属板の接合構造として、アルミニウム合金製の第1材料の上に銅合金製の第2材料を重ね合わせ、上記と同様にして長さの長い突出部をもつ回転工具を用いて摩擦撹拌接合をするようにしたものも提案されているが、銅合金が展性を有するために、銅合金が突出部の先端部まで伸びて薄肉膜を形成してしまうので、アルミニウム合金材料との撹拌を行い難くなり、その結果、安定した接合を行えないばかりか、作業工数を多く必要とするという問題点がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、安定的な接合を効率的に行うことで高い品質を保障することができる金属板の接合構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1)本発明に係る金属板の接合構造は、少なくとも、融点の高い第1金属板部材と、該第1金属板部材とは異なる異種であって融点の低い第2金属板部材とを接合する金属板の接合構造であって、
前記第1金属板部材の厚さよりも大きい長さの突出ピンを有する回転工具を用い、上部に配置される前記第1金属板部材に、機械加工により、該突出ピンが進行する空隙部を予め形成しておき、該第1金属板部材に前記第2金属板部材を重ね合わせてから、該回転工具の前記突出ピンの進行に伴って前記第1金属板部材と前記第2金属板部材とを摩擦撹拌接合したことを特徴とする。
【0010】
上記1)に記載の発明によれば、回転工具の進行により突出ピンが強度の低い空隙部を介して進行することで摩擦が生じ、融点の高い第1金属板部材が発熱して軟化することで軟化層が形成される。その後に第2金属板部材に達した突出ピンによって融点の低い第2金属板部材に第2金属板部材の材料による軟化層が形成される。そして、軟化した第2金属板部材の材料が、軟化した第1金属板部材の材料と活発に撹拌反応されることで、第2金属板部材の材料と第1金属板部材の材料とでもって接合域が形成される。これにより、突出ピンの進行によって拡大した空隙部の表面に、酸化被膜のない第1金属板部材の材料による新生面ができる。従って、第1金属板部材の新生面と軟化した第2金属板部材の材料とにより強固な金属接合が創生されるので、安定的な接合を効率的に行うことで高い品質を保障することができる。また、融点の高い第1金属板部材の材料による薄肉膜が形成されないので、接合作業が短時間となり、省エネルギー化を図ることができる。また、発熱量を少なくできるので、母材への熱による悪影響を軽減できるので、歪みによる変形や、溶接を用いる場合に発生し得るぜい弱部のないものを得ることができる。
【0011】
2)また、本発明に係る金属板の接合構造は、上記1)に記載の金属板の接合構造において、前記空隙部が、前記突出ピンの外径に同等または外径よりも小さい機械加工孔であることを特徴とする。
【0012】
上記2)に記載の発明によれば、突出ピンが、その外径に同等または外径よりも小さく強度の低い機械加工孔に誘導されて進行することで、機械加工孔により進行中の軟化材料の飛び散り現象を防止することで、発熱のばらつきを積極的に阻止して接合強度のばらつきを抑制することができる。
【0013】
3)また、本発明に係る金属板の接合構造は、上記1)に記載の金属板の接合構造において、前記空隙部が、前記第1金属板部材の板厚を薄くするように、該第1金属板部材の前記第2金属板部材側に形成された開口孔であることを特徴とする。
【0014】
上記3)に記載の発明によれば、開口孔により板厚が薄くなっていて強度の低い部分から突出ピンが進行した際に、開口孔により進行中の軟化材料の飛び散り現象を防止することで、発熱のばらつきを積極的に阻止して接合強度のばらつきを抑制することができる。
【0015】
4)また、本発明に係る金属板の接合構造は、上記1)に記載の金属板の接合構造において、前記空隙部が、前記第1金属板部材の表面から前記第2金属板部材に向けて切除したスリット孔であることを特徴とする。
【0016】
上記4)に記載の発明によれば、強度の低いスリット孔を介して突出ピンが進行した際に、スリット孔により進行中の軟化材料の飛び散り現象を防止することで、発熱のばらつきを積極的に阻止して接合強度のばらつきを抑制することができる。
【0017】
5)また、本発明に係る金属板の接合構造は、上記1)〜4)のいずれか一項に記載の金属板の接合構造において、前記第1金属板部材及び前記第2金属板部材に機械的結合部が形成され、前記空隙部が、該機械的結合部に設けられていることを特徴とする。
【0018】
上記5)に記載の発明によれば、第1金属板部材と第2金属板部材とに相反する方向の外力が与えられたとしても、摩擦撹拌接合を行う部位とは異なる機械的結合部の位置がその外力に耐えることができるために、外力により破壊せずに導電特性が損なわれることがない。
【発明の効果】
【0019】
本発明の金属板の接合構造によれば、強度のばらつきにより不安定な接合となりうる、空隙ができて接合不良となる、作業工数を多く必要とする、という問題を解決でき、これにより、安定的な接合を効率的に行うことで高い品質を保障することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る複数の好適な実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は本発明の金属板の接合構造の第1実施形態を用いた第1接合行程の断面図、図2は金属板の接合構造の第1実施形態を用いた第2接合行程の断面図、図3は金属板の接合構造の第1実施形態を用いた接合部材の断面図である。
【0022】
図1に示すように、本発明の金属板の接合構造の第1実施形態は、融点の高い第1金属板部材11と、融点の低い第2金属板部材12と、を母材として用い、突出ピン61を有する回転工具60と、回転工具受62と、を使って摩擦撹拌接合を行うことで、接合部材(図3に示す)10を製造する。
【0023】
第1金属板部材11は、各種金属材料の中でも高い融点例えば1083℃の銅、銅合金等を用いた軟質金属製の板部材であって、例えば10mmの厚さを有し、接合を行う所定の位置に、図1中の上下に貫通した空隙部であって強度を低くするための丸孔形状の機械加工孔13が予め形成されている。機械加工孔13は、第1金属板部材11を貫通しているために、第1金属板部材11の厚さt1と同じ深さL1を有し、この深さL1は、突出ピン61のショルダー部63からの突出長さL2よりも短い。また、機械加工孔13は、回転工具60に有する突出ピン61の外径D1よりも小さい内径d1を有する。機械加工孔13は、ドリル等の、既存の機械加工工具によって形成される。
【0024】
第2金属板部材12は、各種金属材料の中でも低い融点例えば660℃のアルミニウム、アルミニウム合金等を用いた硬質金属製の板部材であって、例えば10mmの厚さを有する。
【0025】
回転工具60は、丸棒形状の突出ピン61がショルダー部63から突出形成されており、不図示の回転駆動機構と同じく不図示の圧力発生機構とに接続されているために、それらが駆動されることで、回転しながら下方に向けて押圧下降される。
【0026】
回転工具受62は、上面に形成された平面の部材載置面64を有し、部材載置面64の上方に回転工具60が配置される。
【0027】
この第1接合行程においては、回転工具受62の部材載置面64上に、第1金属板部材11を上にして第1金属板部材11と第2金属板部材12とが重ね合わされて置かれ、回転工具61が例えば1500rpmの回転数で回転されながら、突出ピン61が第1金属板部材11の機械加工孔13に向けて下降される。そして、突出ピン61が第1金属板部材11の機械加工孔13を拡大しながら第1金属板部材11を押圧する。
【0028】
図2に示すように、第1接合行程の後に行われる第2接合行程においては、突出ピン61が機械加工孔13内を押圧進行することで、突出ピン61と第1金属板部材11とに摩擦が生じ、その摩擦によって、融点の高い第1金属板部材11の材料が軟化して突出ピン61の周りに軟化層14が形成される。このとき、軟化した第1金属板部材11の材料は、機械加工孔13内に収まって飛び散ることはない。
【0029】
突出ピン61の進行はさらに進み、突出ピン61の突出長さL2が第1金属板部材11の厚さt1よりも大きいために、突出ピン61は、機械加工孔13を貫通して第2金属板部材12に達する。第2金属板部材12に達した突出ピン61は、第2金属板部材12との間に摩擦が生じ、その摩擦によって、融点の低い第2金属板部材12の材料が軟化することで突出ピン61の周りに軟化層15が形成される。このとき、突出ピン61は回転を続けているために、第2金属板部材12の材料からなる軟化層15の軟化材料が突出ピン61に沿って上昇する。
【0030】
突出ピン61に沿って上昇した第2金属板部材12の材料からなる軟化材料は、既に軟化中の第1金属板部材11の軟化材料に混ざり、突出ピン61の回転動力を与えられることで活発に撹拌反応されて、両金属材料による接合域16が形成される。
【0031】
図3に示すように、予め定められた時間が経過することで、突出ピン61は、下降を停止して復帰位置に向けて上昇される。それにより、撹拌された第2金属板部材11の材料と、第1金属板部材12の材料との中心に機械加工孔13よりも内径の大きい接合孔17が形成され、この接合孔17の表面に、酸化被膜のない第1金属板部材11の材料による新生面18が創生され、この新生面18と、軟化した第2金属板部材12の材料と、により強固な接合がなされた接合部材10が製造される。
【0032】
以上説明したように、金属板の接合構造の第1実施形態によれば、回転工具60の進行により突出ピン61が強度の低い機械加工孔13を介して進行することで摩擦が生じ、融点の高い第1金属板部材11が発熱して軟化することで軟化層14が形成される。その後に第2金属板部材12に達した突出ピン61によって融点の低い第2金属板部材12に第2金属板部材12の材料による軟化層15が形成される。そして、軟化した第2金属板部材12の材料が、軟化した第1金属板部材11の材料と活発に撹拌反応されることで、第2金属板部材12の材料と第1金属板部材11の材料とでもって接合域16が形成される。これにより、突出ピン61の進行によって拡大した接合孔17の表面に、酸化被膜のない第1金属板部材11の材料による新生面18が形成される。その結果、第1金属板部材11の新生面18と軟化した第2金属板部材12の材料とにより強固な金属接合が創生されるので、安定的な接合を効率的に行うことで高い品質を保障することができる。
【0033】
また、金属板の接合構造の第1実施形態によれば、融点の高い第1金属板部材11の材料による薄肉膜が形成されないので、接合作業が短時間となり、省エネルギー化を図ることができる。
【0034】
また、金属板の接合構造の第1実施形態によれば、発熱量を少なくできるので、母材への熱による悪影響を軽減できるので、歪みによる変形や、溶接を用いる場合に発生しうるぜい弱部のない接合部材10を得ることができる。
【0035】
また、金属板の接合構造の第1実施形態によれば、突出ピン61が、その外径D1よりも小さい内径d1であって強度の低い機械加工孔13に誘導されて進行することで、機械加工孔13により進行中の軟化材料の飛び散り現象を防止することで、発熱のばらつきを積極的に阻止して接合強度のばらつきを抑制することができる。
【0036】
(第2実施形態)
次に、図4を参照して、本発明の金属板の接合構造の第2実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態において上述した金属板の接合構造の第1実施形態と重複する構成要素や機能的に同様な構成要素については、図中に同一符号あるいは相当符号を付すことによって説明を簡略化あるいは省略する。
【0037】
図4は本発明の金属板の接合構造の第2実施形態を用いた第1接合行程の断面図である。
【0038】
図4に示すように、本発明の金属板の接合構造の第2実施形態は、第1実施形態に用いた機械加工孔に代えて、第1金属板部材11の所定位置において第2金属板部材12側に開口孔31を形成している。開口孔31は、半球形状のドーム型であるために、第1金属板部材11の所定位置に板厚が薄く強度の弱い薄肉部32が形成される。
【0039】
この第1接合行程においては、第1金属板部材11の薄肉部32に向けて突出ピン61が回転しながら下降され、突出ピン61が第1金属板部材11の薄肉部32に誘導されながら第1金属板部材11を押圧する。そして、突出ピン61と第1金属板部材11とに摩擦が生じ、融点の高い第1金属板部材11の材料が軟化して突出ピン61の周りに軟化層(図2参照)14が形成される。このとき、軟化した第1金属板部材11の材料は、開口孔31内に収まって飛び散ることはない。
【0040】
突出ピン61の進行はさらに進み、開口孔31を通過して第2金属板部材12に達した突出ピン61は、第2金属板部材12との間に摩擦が生じ、その摩擦によって、融点の低い第2金属板部材12の材料が軟化することで突出ピン61の周りに軟化層(図2参照)15が形成される。このとき、突出ピン61は回転を続けているために、第2金属板部材12の材料からなる軟化層15の軟化材料が突出ピン61に沿って上昇する。
【0041】
突出ピン61に沿って上昇した第2金属板部材12の材料からなる軟化材料は、既に軟化中の第1金属板部材11の軟化材料に混ざり、突出ピン61の回転動力を与えられることで活発に撹拌反応されることで、両金属材料による接合域(図2参照)16が形成される。
【0042】
予め定められた時間が経過することで、突出ピン61は、下降を停止して復帰位置に向けて上昇される。それにより、撹拌された第2金属板部材11の材料と、第1金属板部材12の材料との中心に接合孔(図3参照)17が形成され、この接合孔17の表面に、酸化被膜のない第1金属板部材11の材料による新生面(図3参照)18が創生され、この新生面18と、軟化した第2金属板部材12の材料と、により強固な接合がなされた接合部材(図3参照)10が製造される。
【0043】
金属板の接合構造の第2実施形態によれば、開口孔31により第1金属板部材11に板厚が薄く強度が低い薄肉部32から突出ピン61が進行した際に、開口孔31により進行中の軟化材料の飛び散り現象を防止することで、発熱のばらつきを積極的に阻止して接合強度のばらつきを抑制することができる。
【0044】
(第3実施形態)
次に、図5を参照して、本発明の金属板の接合構造の第3実施形態について説明する。なお、
【0045】
図5は本発明の金属板の接合構造の第3実施形態を用いた第1接合行程の断面図である。
【0046】
図5に示すように、本発明の金属板の接合構造の第3実施形態は、第2実施形態に用いた開口孔に代えて、スリット孔41を形成している。スリット孔41は、第1金属板部材11の幅寸法の中央位置に、幅寸法よりも小さく、わずかな隙間寸法を有して貫通状に切除されている。
【0047】
金属板の接合構造の第3実施形態によれば、強度の低いスリット孔41を介して突出ピン61が進行した際に、スリット孔41により進行中の軟化材料の飛び散り現象を防止することで、発熱のばらつきを積極的に阻止して接合強度のばらつきを抑制することができる。
【0048】
(第4実施形態)
次に、図6及び図7を参照して、本発明の金属板の接合構造の第4実施形態について説明する。
【0049】
図6は本発明の金属板の接合構造の第4実施形態を用いた第1接合行程の断面図、図7は金属板の接合構造の第4実施形態を用いた第2接合行程の断面図である。
【0050】
図6に示すように、本発明の金属板の接合構造の第4実施形態は、第1金属板部材11と第2金属板部材12とを重ね合わせたうえで、両者の所定位置にプレス加工によって有底の円筒形状にされた機械的結合部51,52が形成され、第1金属板部材11の機械的結合部51の底部54に強度を低くするための機械加工孔53が形成される。そして、回転工具60の突出ピン61の外径が機械的結合部51,52の内径よりもわずかに小さくなっており、突出ピン61の先端部に、球面形状をなして突出していて両機械的結合部51,52の底部54,55に押し当てられる撹拌助長部65が形成されており、回転工具受62の部材載置部64に、両機械的結合部51,52を収容する凹部66が形成されている。
【0051】
この第1接合行程においては、それぞれが機械的結合部51,52で機械的に結合されている第1,第2金属板部材11,12が回転工具受62の凹部66内に収容され、回転工具60が、例えば1500rpmの回転数で回転されながら、回転工具60の突出ピン61の撹拌助長部65が第1金属板部材11の機械的結合部51を押圧する。
【0052】
図7に示すように、第2接合行程においては、突出ピン61の撹拌助長部65と第1金属板部材11の底部54とに摩擦が生じ、その摩擦によって、融点の高い第1金属板部材11の底部54を主として材料が軟化して突出ピン61の周りに軟化層14が形成される。このとき、機械加工孔53が予め形成されていることにより第1金属板部材11に対する突出ピン61の進行が容易に進む。
【0053】
突出ピン61の進行はさらに進み、撹拌助長部65の突出長さが第1金属板部材11の底部の厚さよりも大きいために、撹拌助長部65は、機械加工孔53を貫通して第2金属板部材12の底部55に達する。第2金属板部材12の底部55に達した撹拌助長部65は、第2金属板部材12の底部55との間に摩擦が生じ、その摩擦によって、融点の低い第2金属板部材12の材料が軟化することで撹拌助長部65の周りに軟化層15が形成される。このとき、突出ピン61は回転を続けているために、第2金属板部材12の材料からなる軟化層15の軟化材料が撹拌助長部65に沿って上昇する。
【0054】
撹拌助長部65に沿って上昇した第2金属板部材12の材料からなる軟化材料は、既に軟化中の第1金属板部材11の軟化材料に混ざり、撹拌助長部65の回転動力を与えられることで活発に撹拌反応されて、両金属材料による接合域16が形成される。
【0055】
そして、突出ピン61は、下降を停止して復帰位置に向けて上昇されるために、撹拌された第2金属板部材11の材料と、第1金属板部材12の材料との中心に機械加工孔53よりも内径の大きい接合孔56が形成され、この接合孔56の表面に、酸化被膜のない第1金属板部材11の材料による新生面18が創生され、この新生面18と、軟化した第2金属板部材12の材料と、により強固な接合がなされた接合部材10が製造される。
【0056】
金属板の接合構造の第4実施形態によれば、回転工具60の進行により突出ピン61の撹拌助長部65が機械加工孔53を介して進行することで摩擦が生じ、融点の高い第1金属板部材11が発熱して軟化することで軟化層14が形成される。その後に融点の低い第2金属板部材12に第2金属板部材12の材料による軟化層15が形成される。そして、軟化した第2金属板部材12の材料が、軟化した第1金属板部材11の材料と活発に撹拌反応されることで、酸化被膜のない第1金属板部材11の材料による新生面18が形成される。その結果、第1金属板部材11の新生面18と軟化した第2金属板部材12の材料とにより強固な金属接合が創生されるので、安定的な接合を効率的に行うことで高い品質を保障することができる。
【0057】
また、金属板の接合構造の第4実施形態によれば、例え、第1金属板部材11と第2金属板部材12とに相反する方向の外力が与えられたとしても、摩擦撹拌接合が行われた部位とは異なる位置における機械的結合部51,52がその外力に耐えることができるために、外力により破壊せずに導電特性が損なわれることがない。
【0058】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。例えば、第1金属板部材及び第2金属板部材の厚さは加工の容易性を考慮して選択されるために限定されない。
【0059】
また、機械加工孔は、第1実施形態における突出ピンの外径に同等であっても良く、第4実施形態における撹拌助長部の外径に同等または外径よりも小さくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の金属板の接合構造の第1実施形態を用いた第1接合行程の断面図である。
【図2】金属板の接合構造の第1実施形態を用いた第2接合行程の断面図である。
【図3】金属板の接合構造の第1実施形態を用いた接合部材の断面図である。
【図4】本発明の金属板の接合構造の第2実施形態を用いた第1接合行程の断面図である。
【図5】本発明の金属板の接合構造の第3実施形態を用いた第1接合行程の断面図である。
【図6】本発明の金属板の接合構造の第4実施形態を用いた第1接合行程の断面図である。
【図7】金属板の接合構造の第4実施形態を用いた第2接合行程の断面図である。
【図8】従来の金属板の接合構造の正面図である。
【符号の説明】
【0061】
10 接合部材
11 第1金属板部材
12 第2金属板部材
13,53 機械加工孔(空隙部)
31 開口孔(空隙部)
41 スリット孔(空隙部)
61 突出ピン
60 回転工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも融点の高い第1金属板部材と、該第1金属板部材とは異なる異種であって融点の低い第2金属板部材とを接合する金属板の接合構造であって、
前記第1金属板部材の厚さよりも大きい長さの突出ピンを有する回転工具を用い、上部に配置される前記第1金属板部材に、機械加工により、該突出ピンが進行する空隙部を予め形成しておき、該第1金属板部材に前記第2金属板部材を重ね合わせてから、該回転工具の前記突出ピンの進行に伴って前記第1金属板部材と前記第2金属板部材とを摩擦撹拌接合したことを特徴とする金属板の接合構造。
【請求項2】
前記空隙部が、前記突出ピンの外径に同等または外径よりも小さい機械加工孔であることを特徴とする請求項1に記載した金属板の接合構造。
【請求項3】
前記空隙部が、前記第1金属板部材の板厚を小さくするように、該第1金属板部材の前記第2金属板部材側に形成された開口孔であることを特徴とする請求項1に記載した金属板の接合構造。
【請求項4】
前記空隙部が、前記第1金属板部材の表面から前記第2金属板部材に向けて切除したスリット孔であることを特徴とする請求項1に記載した金属板の接合構造。
【請求項5】
前記第1金属板部材及び前記第2金属板部材に機械的結合部が形成され、前記空隙部が、該機械的結合部に設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載した金属板の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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