説明

金属硫化物の塩素浸出方法

【課題】設備コストや作業負荷をかけることなく効率的に塩素浸出反応を促進させて、高い浸出率でニッケル混合硫化物から金属成分を浸出させることができる金属硫化物の塩素浸出方法を提供する。
【解決手段】金属硫化物を原料として、銅イオンを含む塩化物溶液中で塩素浸出する金属硫化物の塩素浸出方法であって、塩化物溶液中の塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整して塩素浸出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばニッケルやコバルトなどを含む金属硫化物から塩素ガスによりニッケルやコバルトなどの金属成分を浸出させる金属硫化物の塩素浸出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル、コバルトなどを含む金属硫化物からニッケル、コバルトなどの金属を回収する湿式製錬方法としては、ニッケル、コバルト、銅及び硫黄を含む金属硫化物から、金属を浸出させ、得られた浸出液から不純物を除去した後、電解採取により金属を回収する方法が実用化されている。
【0003】
金属硫化物から金属を浸出させる方法としては、例えば特許文献1に記載の技術のように、1価銅イオンを含む塩化物浴中にて、金属硫化物を含むスラリーに塩素ガスを吹き込んで金属を酸化浸出させる塩素浸出方法がある。
【0004】
しかしながら、従来の塩素浸出方法では、発生する塩素浸出残渣中のニッケル品位は10%前後もあり、この分が金属の湿式製錬における回収ロスになっており、またその浸出残渣に含まれるニッケル品位の変動も激しいことが問題であった。
【0005】
その要因としては、塩素浸出反応の反応時間、単粒時間、原料の反応性などが挙げられる。そのため、反応槽の増設による滞留時間の延長や、粉砕処理などを行うことにより金属硫化物原料を細粒化するなどの粉体特性を調整する方法(例えば特許文献2参照)によって、塩素浸出反応を改善する提案がなされている。しかしながら、設備投資や作業負荷などの観点からすると、現状設備のまま、設備コストや作業負荷をかけることなく効率的に浸出反応を促進させて塩素浸出反応を改善することが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平07−91599号公報
【特許文献2】特開2008−156713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、設備コストや作業負荷をかけることなく効率的に塩素浸出反応を促進させて、高い浸出率で金属硫化物から金属成分を浸出させることができる金属硫化物の塩素浸出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、塩化物溶液中における金属硫化物の塩素浸出反応において、塩化物溶液中の塩濃度を所定の範囲に調整し、沸点を上昇させて反応温度を高めることによって、高い浸出率で金属成分を浸出できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る金属硫化物の塩素浸出方法は、金属硫化物を原料として、銅イオンを含む塩化物溶液中で塩素浸出する金属硫化物の塩素浸出方法であって、上記塩化物溶液中の塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整して塩素浸出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、塩化物溶液中の塩濃度を所定の範囲に調整することにより、反応槽の増設や原料の粒径調節ための粉砕処理などを行うことなく、塩素浸出反応を効果的に促進させることができ、ニッケル混合硫化物などの金属硫化物からニッケルやコバルトなどの金属成分を高い浸出率でかつ効率的に浸出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】塩素浸出反応温度に対する塩素浸出残渣中のニッケル品位の関係を示すグラフである。
【図2】塩素浸出反応温度に対する塩(ニッケル及び銅)濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る金属硫化物の塩素浸出方法の具体的な実施形態(以下、本実施の形態という)について、図面を参考にして詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲において適宜変更することができる。
【0013】
本実施の形態に係る金属硫化物の塩素浸出方法は、銅イオンを含む塩化物溶液中で金属硫化物を塩素浸出する方法であって、その塩化物溶液中の塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整して塩素浸出することを特徴とする。
【0014】
金属硫化物とは、ニッケルやコバルト、銅などの金属混合物を含有する硫化物であり、例えば、低品位ラテライト鉱石などのニッケル酸化鉱から、高温高圧下で硫酸浸出することによって産出されたニッケル混合硫化物などが挙げられる。このニッケル混合硫化物など金属硫化物は、例えば硫酸浸出などによって産出された後、塩化物溶液中にてレパルプ処理されてスラリーとなる。塩素浸出処理においては、このスラリーとなった金属硫化物を原料として浸出処理が行われる。なお、以下では、主として、金属硫化物としてニッケル混合硫化物を用いる場合を例示して説明する。
【0015】
ここで、例えばニッケルやコバルトなどの非鉄金属の湿式精錬法では、ニッケル混合硫化物を原料として、ニッケル、コバルト、銅などの金属の大部分を塩素浸出し、浸出して得られた溶液から金属不純物を除去した後に、電解採取によって電気ニッケルや電気コバルトを製造する。具体的に、これらの金属の湿式精錬プロセスは、原料であるニッケル混合硫化物から金属成分を塩素で浸出する塩素浸出工程と、浸出液に含まれる銅を固定除去するセメンテーション工程と、銅が除去された溶液から不純物成分を除去する浄液工程と、不純物を除去した溶液を用いてニッケルやコバルトなどの金属を電解採取する電解工程とを有している。
【0016】
この金属を電解採取する製錬プロセスにおいて、ニッケル混合硫化物を塩素浸出する塩素浸出工程では、上述したように、ニッケル混合硫化物を原料として、その原料を含有する塩化物溶液(スラリー)中に塩素ガスを吹き込み、ニッケルや銅などの金属成分を銅イオンを含む塩化物溶液中で酸化浸出する。そして、塩素浸出工程では、塩素浸出液としての銅を含有する塩化ニッケル溶液(以下、含銅塩化ニッケル溶液ともいう)を生成する。
【0017】
具体的には、この塩素浸出工程におけるニッケル混合硫化物の浸出処理では、例えば下記の(1)〜(3)式に示す反応が生じる。
Cl+2Cu→2Cl+2Cu2+ ・・・(1)
NiS+2Cu2+→Ni2++S+2Cu ・・・(2)
CuS+2Cu2+→4Cu+S ・・・(3)
【0018】
すなわち、上記式に示されるように、塩素浸出処理においては、原料としてのニッケル混合硫化物のスラリーが送液されると、ニッケル混合硫化物中に含まれる硫化ニッケル及び硫化銅などの金属成分を、塩素ガスにより酸化された2価銅イオンによって酸化浸出し、塩素浸出液としての含銅塩化ニッケル溶液を生成する。なお、このようにして塩素浸出処理によって生成した塩素浸出液は、セメンテーション工程において浸出液中の銅が固定除去される。一方で、この塩素浸出処理では、硫黄を主成分とした塩素浸出残渣が固相に残存する。
【0019】
ここで、浸出反応に供される塩化物溶液中において、ニッケルなどの電解採取される金属の濃度(塩濃度)が上昇すると、モル沸点上昇により沸点が上昇することとなる。すると、浸出反応は、塩化物溶液の沸点付近の反応温度で管理するため、沸点上昇に伴って浸出反応の反応温度が上昇する。
【0020】
図1に、ニッケル混合硫化物(ニッケル:48%、硫黄:32%、コバルト:3%、銅:8%)の塩素浸出反応における反応温度に対する浸出残渣中のニッケル品位の関係を示す。この図1に示すグラフから分かるように、反応温度が109℃付近では浸出残渣中のニッケル品位のばらつきが非常に大きく、浸出残渣中に最大20%を超えるニッケルが残存する。これに対し、反応温度が110℃以上、より好ましくは112℃以上では浸出残渣中のニッケル品位が10%より小さい範囲となっており高い浸出率で浸出できることが分かる。つまり、沸点を上昇させて反応温度を上昇させることによって、高い浸出率でニッケルを浸出できることが分かる。
【0021】
また、図2に、ニッケル混合硫化物塩素浸出反応における塩濃度と塩素浸出反応の反応温度との関係を示す。なお、ニッケル混合硫化物を原料とした場合において、この塩濃度とは、塩素浸出処理により主に浸出される金属成分であるニッケルの濃度と銅の濃度の合計濃度とすることができる。この図2に示すグラフから分かるように、上述した高い浸出率で金属成分の浸出を可能とする110℃以上、より好ましく112℃以上の反応温度で浸出反応を生じさせるためには、塩濃度を約270g/L以上とすることが必要であることが分かる。
【0022】
そこで、本実施の形態においては、金属硫化物の塩素浸出処理において、上述のようにその塩化物溶液中の塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整して塩素浸出する。金属硫化物としてニッケル混合硫化物を原料とした場合には、塩化物溶液中の塩濃度とはニッケル及び銅の合計濃度とすることができる。このようにして塩化物溶液中の塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整して塩素浸出することによって、モル沸点上昇により沸点が上昇することとなり、その沸点上昇に伴って浸出反応の反応温度が上昇し、浸出反応が促進されて、高い浸出率で金属成分を浸出させることができる。
【0023】
塩濃度が270g/Lより低い場合には、図1及び図2に示したように、浸出反応の反応温度が十分に上昇せず浸出反応が維持されなくなり、高い浸出率で浸出できない。一方で、塩濃度の上限については、約350g/L以下とすることが好ましく、320g/L以下とすることがより好ましい。塩濃度を350g/Lより高い場合には、塩化物溶液が過飽和状態となり、反応槽内に金属塩化物が析出し、還元ガス吹き込み管などの配管に詰まりが発生し、安定した操業が行えなくなる可能性がある。また、浸出液中に銅などの不純物が相対的に多くなり、電気ニッケル製造プロセスにおいて不純物除去処理の負荷が大きくなる可能性がある。したがって、塩化物溶液中の塩濃度は、270g/L以上350g/L以下に調整する。また、より好ましくは270g/L以上320g/L以下に調整することにより、より効率的にかつ効果的に高い浸出率で金属成分を浸出させることができる。
【0024】
塩化物溶液中の塩濃度の調整方法としては、特に限定されないが、以下の方法により調整することができる。
【0025】
例えば、塩素浸出に供されるニッケル混合硫化物を含有するスラリー濃度を濃縮することによって調整することができる。塩素浸出処理の原料となるニッケル混合硫化物は、上述のように、例えば、ニッケル酸化鉱を硫酸浸出することにより得られ、その原料を電気ニッケル製造プロセスの電解工程を経て得られる塩化ニッケル溶液によってレパルプ処理されてスラリー化される。塩素浸出処理においては、このスラリー化したニッケル混合硫化物を含む塩化物溶液に塩素ガスを吹き込むことによって行われる。したがって、このニッケル混合硫化物をスラリー化するに際して、塩化ニッケル溶液の量を低減させ、ニッケル混合硫化物の濃度を濃縮することによって、塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整することができる。
【0026】
また、塩濃度の調整方法として、塩化物溶液を濃縮させて溶液中の塩濃度を調整するようにしてもよい。具体的には、高圧蒸気などによって外熱を供給するようにし、塩化物溶液中の水分を蒸発させて溶液を濃縮することによって塩濃度を調整することもできる。または、塩化物溶液をオートクレーブなどの高温加圧反応容器に投入し、高圧又は高温高圧にすることよって溶液を濃縮し塩濃度を調整することもできる。
【0027】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る金属硫化物の塩素浸出方法は、塩化物溶液中の塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整し、この塩化物溶液中で金属硫化物の塩素浸出を行う。
【0028】
このような塩素浸出方法によれば、塩素浸出反応を効果的に促進させることができ、ニッケル混合硫化物などの金属硫化物からニッケルやコバルトなどの金属成分の浸出ロスを低減させて高い浸出率で金属成分を浸出させることができる。また、金属成分の浸出ロスが低減できることにより、塩素浸出残渣を繰り返し処理する量も低減させることができ、より効率的な操業を行うことができる。
【0029】
また、従来のように、反槽槽を増設させることやニッケル混合硫化物などの金属硫化物を粉砕機などで粉砕して粒径調整するなどの処理を行う必要がなく、簡便にかつ効率的に、金属硫化物から高い浸出率で金属成分を浸出させることができる
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
先ず、ニッケル混合硫化物(ニッケル:48%、硫黄:32%、コバルト:3%、銅:8%)と塩化ニッケル水溶液(ニッケルイオン:80g/L、塩化物イオン:110g/L)とを混合してスラリーを作った。
【0032】
次に、容量120Lの反応槽3槽を直列につなげた装置を用い、作成したスラリーを装置内の銅濃度が40g/Lであり、ニッケルイオン濃度が230g/L、したがって塩(ニッケル及び銅)濃度として270g/Lとなるように、装置の第1槽目に供給して塩素浸出処理を行った。なお、各反応槽への塩素ガスの供給は、各反応槽内の溶液の酸化還元電位が450〜610mVになるように調節した。
【0033】
その結果、反応槽内の反応温度は110℃となっており、浸出残渣のニッケル品位は10%、浸出率は99.8%とニッケルが十分浸出していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属硫化物を原料として、銅イオンを含む塩化物溶液中で塩素浸出する金属硫化物の塩素浸出方法であって、
上記塩化物溶液中の塩濃度を270g/L以上350g/L以下に調整して塩素浸出することを特徴とするニッケル混合硫化物の塩素浸出方法。
【請求項2】
上記塩濃度範囲に調整して、塩素浸出反応温度を112℃以上115℃以下にすることを特徴とする請求項1記載のニッケル混合硫化物の塩素浸出方法。
【請求項3】
上記金属硫化物は、ニッケル酸化鉱の湿式製錬法により得られたニッケル混合硫化物であることを特徴とする請求項1又は2記載の金属硫化物の塩素浸出方法。
【請求項4】
上記塩濃度は、上記塩化物溶液中におけるニッケル及び銅の合計濃度であることを特徴とする請求項3記載の金属硫化物の塩素浸出方法。

【図1】
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【図2】
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