説明

金属管の冷間抽伸装置及び抽伸用治具

【課題】グリッパー装置により抽伸用治具を疵つけることなく確実に把持でき、繰り返し使用しても欠片を生じさせずに抽伸加工できる金属管の冷間抽伸装置を提供する。
【解決手段】素管1の口絞り部2内周に係合して軸部21を引き抜き方向に突出させ、この軸部21をグリッパー装置30で把持して牽引する冷間抽伸装置において、グリッパー装置30のグリッパー部材33a,33bを、軸心に対し引き抜き方向に向かって外側に拡開するテーパ状ガイド面32a,32bに沿って摺動可能に設け、各グリッパー部材33a,33bの把持面部34a,34bを引き抜き方向に向かって外側への傾斜面とし、抽伸用治具の軸部21に把持面部の傾斜に対応する傾斜把持部23を設け、グリッパー部材33a,33bの把持面部34a,34bにより抽伸用治具20の傾斜把持部23を線接触又は面接触で把持して牽引できるように設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダー装置の円筒状チューブその他の各種機械に使用される鋼管等の金属管の冷間抽伸装置及び抽伸用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、油圧ショベル等の建設機械に用いられている油圧シリンダーや空圧シリンダー等のシリンダー装置の円筒状チューブには、機械構造用鋼管が使用され、該鋼管の素管に冷間引き抜きによる抽伸加工が施されることによって、内周面及び内径が高精度に仕上げられている。
【0003】
かかる金属管の冷間引き抜きによる抽伸加工は、予め、前記鋼管等の金属製の素管の一端部を、スエージングマシンや油圧プレス成型機等により縮径加工を施して絞り、グリッパー装置により把持可能な口絞り部を形成しておき、縮径成形するためのダイスに前記口絞り部を通して引き抜き側に突出させた状態で該口絞り部をグリッパー装置により把持し、該グリッパー装置により前記素管を牽引して、ダイス内を通して引き抜くことにより縮径及び減肉を含む抽伸加工を行うものである。
【0004】
前記の抽伸加工において、内周面及び内径の加工精度が要求される場合は、前記ダイスの内孔部において前記素管内に内周面を成形するプラグを配置しておいて、該ダイス内周面とプラグ外周面との間を通して抽伸加工を行い、所定の内外径、肉厚になるように加工する。前記口絞り部は抽伸加工後に切除される。
【0005】
ところで、前記素管の一端部の口絞り部を、ダイスに通して引き抜き側に突出させた状態でグリッパー装置により直に把持するものの場合は、加工後に切除することになる前記口絞り部を、ダイススタンドを含むダイス装置の引き抜き方向の幅寸法よりも相当長くする必要があり、棄て代が多くなる上、金属管の径が大きくなるほど、口絞りの縮径加工に手数がかかり、歩留り、能率面のロスが大きい。
【0006】
近年、前記素管の一端部における口絞り部を形成するための縮径加工を容易にして、かつ縮径加工の長さが短くて済むように、前記素管内に挿入でき、かつ一端部に前記口絞り部の内周に係合するように拡径した頭部を有する引き手としての棒体状の抽伸用治具を用い、該抽伸用治具を前記素管に挿入して前記頭部を前記口絞り部の内周に係合させた状態で、軸部を前記ダイスを通して引き抜き側に突出させておいて、該抽伸用治具の軸部をグリッパー装置により把持して引き抜き方向に牽引することにより、抽伸加工することが行われている(特許文献1)。
【特許文献1】特開昭60−166118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の引き手としての抽伸用治具を用いる場合は、グリッパー装置のグリッパー部材の把持面部に滑りを生じさせずに把持するために、通常、前記グリッパー部材に歯形が形成されている。そのため、前記抽伸用治具の軸部の外周には前記歯形のくい込みによる疵が生じることになり、この疵が繰り返し使用している間に大きくなりかつ欠け易くなって、欠片が発生する虞がある。そのため、抽伸加工後に前記抽伸用治具を抜き出す際に前記欠片が管内に残り、管内面を傷つける虞がある。また、次に加工する素管に挿入する際に前記欠片が管内に入り込み、これが抽伸加工時に管内周面とプラグとの間に挟まって管内面を傷つける虞もある。
【0008】
また、前記のようにグリッパー部材の歯形による疵が生じることで、抽伸用治具の耐久性を損ない、比較的早期に把持状態が不安定になったり偏心したりして使用できなくなり、不経済であると言う問題もある。
【0009】
本発明は、前記の問題を解消するためになしたもので、グリッパー装置による抽伸用治具の把持形態を改良して、該抽伸用治具を疵つけることなく確実に把持でき、繰り返し使用しても欠片を生じさせずに引き抜きによる抽伸加工を施すことができる冷間抽伸装置及び抽伸用治具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一端部を口絞り部として縮径加工した金属製の素管を通して外周面を成形するダイス装置と、一端側に拡径した頭部を有し、前記素管に挿入されて前記口絞り部内周に前記頭部が係合した状態で軸部が引き抜き方向に突出せしめられる棒体状の抽伸用治具と、前記ダイス装置の引き抜き方向前方側で前記抽伸用治具を把持するグリッパー装置とを備え、前記グリッパー装置により前記抽伸用治具を把持して引き抜き方向に牽引し前記素管をダイス装置を通して抽伸加工する金属管の冷間抽伸装置において、前記グリッパー装置は、グリッパーケース内において軸心に対し引き抜き方向に向かって拡開するテーパ状のガイド面に沿って摺動可能に保持された複数のグリッパー部材を有し、該各グリッパー部材の把持面部が引き抜き方向に向かって軸心に対し外側への傾斜面をなし、また、前記抽伸用治具には、前記把持面部の傾斜に対応したテーパ状の傾斜面をなす傾斜把持部が設けられており、前記グリッパー部材の把持面部により傾斜面で前記抽伸用治具の傾斜把持部を把持するように設けられてなることを特徴とする。
【0011】
この冷間抽伸加工装置によれば、鋼管等の金属製の素管の冷間抽伸加工は、次のようにして行なわれる。加工対象の金属製の素管の一端部には、予め、縮径加工した口絞り部を形成しておく。この口絞り部の口径は、抽伸用治具の軸部を挿通できる程度とする。例えば、素管の内径の1/3〜2/3程度の口径とする。この金属製の素管の前記口絞り部とは反対側の端部から前記抽伸用治具を挿入し前記頭部を前記口絞り部の内周面に係合させて軸部を突出させておく。
【0012】
こうして、前記素管を抽伸装置のダイス装置に供給して前記抽伸用治具の軸部を前記ダイス装置のダイス孔に通して引き抜き方向に突出させ、この軸部をグリッパー装置のグリッパー部材により把持する。この際、前記グリッパー部材の傾斜面よりなる把持面部を、前記抽伸用治具の軸部に有する傾斜把持部、特に引き抜き方向に向かって外側に傾斜した傾斜把持部を把持し、引き抜き方向に係合させる。この状態で、前記グリッパー装置を適宜駆動手段により引き抜き方向に移動させて前記抽伸用治具を牽引し、該抽伸用治具の頭部に係合している前記素管を、前記ダイス装置のダイス孔を通して引き抜くことにより、所定の抽伸加工が行なわれる。
【0013】
特に、この際、前記グリッパー装置のグリッパー部材の把持面部、及び前記抽伸用治具の傾斜把持部が、対応した傾斜面をなして線接触又は面接触で軸方向に引き抜き方向に係合することになるために、前記把持状態での引き抜き荷重を受けても、傾斜把持部の外周面に従来のグリッパー部材のような歯形のくい込みによる疵がつくことがない。しかも、前記グリッパー部材がグリッパーケース内のテーパ状ガイド面に沿って移動可能に設けられているため、前記の引き抜き方向の牽引作用に伴って該グリッパー部材による把持力が強くなり、傾斜面で軸方向にも係合していることもあって、引き抜き時に把持状態が緩むことがない。
【0014】
前記の抽伸加工装置において、前記グリッパーケース内には、断面V形をなす二つの把持面部をそれぞれ有する一対のグリッパー部材が、相対向してかつ前記テーパ状ガイド面に沿って移動可能に配置され、両グリッパー部材の各二つの把持面部がそれぞれ前記抽伸用治具の傾斜把持部の傾斜に対応した傾斜面をなし、線接触もしくは面接触で前記傾斜把持部を把持するように設けられてなるものが好ましい。これにより、抽伸用治具の傾斜把持部を周囲四個所で接点にして安定性よく把持でき、かつ該抽伸用治具の径が多少変化しても、安定性よく把持できることになる。
【0015】
前記の抽伸装置において、前記グリッパー部材は、進退手段の作動により前記グリッパーケースのテーパ状ガイド面に沿って移動可能に設けられ、該進退手段により、抽伸加工の開始までに前記抽伸用治具の進入側に進出移動して前記把持面部が抽伸用治具の傾斜把持部に当接した状態に保持されるとともに、抽伸加工後に前記抽伸用治具の進入側とは反対側に後退して、前記傾斜把持部から離脱するように設けられてなるものが好ましい。これにより、前記グリッパー装置による前記抽伸用治具の把持及び離脱作用が確実に行なわれる。前記の進退手段としては、種々の進退運動機構を利用できるが、実施上はエアシリンダー装置が好適に用いられる。
【0016】
また、本発明は、前記の冷間抽伸装置に用いる抽伸用治具として、前記金属製の素管の一端部に形成された口絞り部に挿通できる軸部と、該軸部の一端部において前記金属管の内径より径小かつ前記口絞り部の口径より径大で前記口絞り部の内周に係合し得るように拡径形成された頭部とを有し、前記軸部には、前記口絞り部の口径より径小範囲内において引き抜き方向に向かって軸心に対し外側に傾斜した傾斜把持部が設けられてなることを特徴とする。
【0017】
この抽伸用治具を用いることにより、本発明の冷間抽伸装置による冷間抽伸加工を容易に実施することができる。
【発明の効果】
【0018】
上記したように、本発明の金属管の冷間抽伸装置及び抽伸用治具によれば、グリッパー装置のグリッパー部材による抽伸用治具の把持形態を改良し、抽伸用治具の軸部におけるテーパ状の傾斜把持部を、これと対応した傾斜面をなすグリッパー部材の把持面部で線接触もしくは面接触で軸方向に係合させて確実に把持でき、繰り返し使用しても従来のグリッパー部材の歯形による疵や欠片を生じさせずに冷間抽伸加工を施すことができる。またそのため、従来のような欠片による管内周面の損傷を防止できるとともに、抽伸用治具自体の耐久性も高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0020】
図1は本発明の金属管の冷間抽伸装置の実施例を示す装置全体の概略図、図2A及び図2Bは抽伸用治具の斜視図と側面図であり、図3はグリッパー装置の縦断面図、図4は同グリッパー装置の正面図、図5は同グリッパー装置の上部を切欠した平面図である。図6及び図7は引き抜きによる抽伸加工状態の説明図、図8は抽伸加工時の一部の拡大断面図、である。
【0021】
本発明に係る抽伸装置は、例えば油圧ショベル等の建設機械に具備される油圧や空圧シリンダー等のシリンダー装置の円筒状チューブに使用する金属管を冷間引き抜きにより抽伸加工するものであって、図1に示すように、基本的に、一端部を口絞り部2として縮径加工した機械構造用鋼管等の加工対象となる金属製の素管1を通して外周面を縮径成形するダイス装置10と、該ダイス装置10のダイス孔12内で前記素管1内に配置されて管内周面を成形するプラグ15と、一端側に径大の頭部22を有し、前記素管1に挿通されて前記口絞り部2内周に係合した状態で軸部21が引き抜き方向に突出せしめられる抽伸用治具20と、前記抽伸用治具20の軸部21を把持するグリッパー装置30とを備えてなり、前記グリッパー装置30により前記抽伸用治具20を把持した状態で引き抜き方向に牽引し、前記素管1を前記ダイス装置10を通して引き抜き抽伸加工するものである。
【0022】
前記加工対象の前記鋼管等の金属製の素管1の一端部には、予めスエージングマシンや油圧プレス成型機等により縮径加工を施し、前記抽伸用治具20の頭部22が係合可能な口絞り部2を形成しておく。この素管1は、前記ダイス装置10の供給側において供給支持台(図示せず)上に引き抜き方向に摺動可能に上載して、前記口絞り部2の端部をダイス装置10と対向させて設置する。
【0023】
また、前記抽伸加工に使用する抽伸用治具20は、図2に示すように、前記素管1の口絞り部2の口径より径小で該口絞り部2を通すことができる軸部21と、該軸部21の一端部に前記素管1の内径より径小かつ前記口絞り部2の口径より径大で該口絞り部2の内周部に軸方向に係合できるように拡径形成された頭部22を有する棒体状をなしている。この抽伸用治具20の前記軸部21には、前記頭部22とは反対側の端部の側に先端側ほど径大となるテーパ状の傾斜面をなす傾斜把持部23が設けられており、該傾斜把持部23を後述するグリッパー装置30のグリッパー部材により軸方向の線接触又は面接触により把持できるように設けられている。この傾斜把持部23のテーパ面の傾斜角度は、通常2°〜10°の範囲、好ましくは3°〜7°の範囲が好ましい。もちろん前記以外の傾斜角度での実施も可能である。
【0024】
前記ダイス装置10は、前記素管1を縮径加工し外周面を成形する鋼材等の硬金属材よりなるダイス11がダイススタンド(図示省略)上に支持されてなり、ダイス11のダイス孔12は、前記素管1の進入側の部分がテーパー状に拡開して進入側に開口しており、引き抜き側の部分は抽伸加工により得ようとする内径を有している。13は前記ダイス11の裏面(引き抜き側)に配された引き抜き時の荷重を受けるダイス当板である。ダイススタンドを含むダイス装置10の引き抜き方向の幅寸法は、加工対象の素管1の外径が大きく、かつ引き抜き力が大きい大型のものほど大きくなる。前記抽伸用治具20の軸部21の長さは、前記ダイス装置10の引き抜き方向の幅寸法より長くし、前記ダイス孔12を貫通して前記傾斜把持部23を引き抜き側(グリッパー装置による把持側)に突出させることができるように設定される。
【0025】
前記プラグ15は、前記ダイス孔12内の入り口側の位置で前記素管1内に配置されて、素管1の内周面を所定径に成形するように設けられており、図1に示すように、前記素管1の口絞り部2とは反対側の端部から挿入される支持棒16の先端部に支持されて、前記ダイス孔12の入り口側の位置に配置される。前記素管1には、前記抽伸用治具20を口絞り部2に挿入配置した後、前記プラグ15が後端側から挿入配置される。
【0026】
前記グリッパー装置30は、グリッパーケース31内に複数、例えば図のように左右一対のグリッパー部材33a,33bが、装置軸心(引き抜き中心)に対して引き抜き方向に向かって外側に拡開するテーパ状ガイド面32a,32bに沿って摺動可能に保持されている。図の場合、左右一対のグリッパー部材33a,33bは、断面V形をなす二つの把持面部34a、34a及び34b,34bをそれぞれ有し、該把持面部34a、34a及び34b,34bが装置軸心を中心に対向して配置されるとともに、それぞれの外側面が前記テーパ状ガイド面32a,32bに沿って、かつ上下両端部のフランジ縁35a,35bが前記ガイド面32a,32bの上下端部に沿って形成されたガイド溝36a,36bに摺動可能に嵌合して、前記ガイド面32a,32bに沿って移動するように設けられている。なお、断面V形をなす二つの把持面部34a、34a間及び34b,34b間のV形の谷にあたる屈曲連続部位は、図のように断面円弧状の曲面とするのが好ましい。
【0027】
前記両グリッパー部材33a,33bは、それぞれグリッパーケース31内において引き抜き方向(前後方向)にスライド可能に配された移動部材37に、幅方向に変位可能に係合連結されており、該移動部材37に進退手段としてのエアシリンダー38が連結され、該エアシリンダー38の進退作動により前記移動部材37がスライド移動するのに伴って、前記グリッパーケース31内でテーパ状ガイド面32a,32bに沿って移動するようになっている。
【0028】
図示する実施例の場合、前記両グリッパー部材33a,33bを、前記移動部材37に幅方向に変位可能に係合連結する手段として、両グリッパー部材33a,33bのケース内奥側の端部上側に幅方向の係合溝39a,39bが形成され、前記移動部材37の上部から延設された鉤状の係合端部37aが前記係合溝39a,39bに嵌合係止することにより、両グリッパー部材33a,33bが移動部材37に対し幅方向に変位可能に連結されている。前期の係合連結手段としては、両グリッパー装置33a,33bの幅方向の変位を許容できる他の種々の構造による実施が可能である。例えば、移動部材37に幅方向に配した軸に両グリッパー装置を摺動可能に係合させることもできる。
【0029】
前記グリッパー部材33a,33bの把持面部34a、34a及び34b,34bは、それぞれ引き抜き方向に向かって装置軸心に対し外側への傾斜面をなし、特には、前記抽伸用治具20の軸部21におけるテーパ状の傾斜把持部23に対応した同じ傾斜角度αの傾斜面をなしており、該把持面部34a、34a及び34b,34bにより前記抽伸用治具20の傾斜把持部23を線接触又は面接触で把持できるように設けられている。
【0030】
前記把持面部34a、34a及び34b,34b及び抽伸用治具20の傾斜把持部23の軸心に対する傾斜角度αは、前記把持面部34a,34bが傾斜把持部23に軸方向に滑りなく係合できる角度であればよく、例えば5°前後が好ましい。前記傾斜角度αが大きくなりすぎると、傾斜把持部23の最大径が大きくなって素管1の口絞り部2を通せなくなり、また傾斜角度αが小さいと滑りが生じ、所定の引き抜き力を付与できないことになる。
【0031】
また、前記各グリッパー部材33a,33b同士間の間隔を拡開、収縮させるための前記テーパ状ガイド面32a,32bの軸心に対する傾斜角度βは10°〜25°、好ましくは15°前後とする。
【0032】
前記グリッパー装置30は、グリッパーケース31を含む装置全体が、引き抜き方向に延びるレール(図3における符号40)に沿って移動可能に設置されており、大きな引き抜き力を得ることができる油圧力などの駆動手段(図示省略)により、前記レール40に沿って移動することにより抽伸加工を行うように設けられる。この引き抜き力は加工対象の金属管によっても異なるが、大型のものは数百トンにもなる。
【0033】
前記の抽伸装置による鋼管等の金属管の冷間抽伸加工は、次のようにして行われる。
【0034】
先ず、加工対象の金属製の素管1の一端部には、予め、スエージングマシン、プレス成形機等により縮径加工した口絞り部2を形成しておく。この口絞り部2の口径は、使用する抽伸用治具20の傾斜把持部23を含む軸部21を挿通できて、且つ頭部21が内周に係合する程度とし、例えば、前記素管1の内径の1/3〜2/3程度の口径とする。
【0035】
前記の金属製の素管1を、抽伸装置における供給支持台(図示せず)上に前記口絞り部2をダイス装置10と対向させて載置する。この素管1には、前記口絞り部2とは反対側の端部から前記抽伸用治具20を軸部21を先にして挿入して、頭部22を前記口絞り部2の内周に係合させるとともに、前記軸部21を前記口絞り部2から突出させておく。また、管内周面を成形するプラグ15を、前記素管1の口絞り部2とは反対側の端部から挿入する。前記プラグ15の挿入を利用して前記抽伸用治具20を押し込むようにしてもよい。
【0036】
そして、前記の素管1を例えば前記プラグ15の支持台16により押動する等の手段により、前記抽伸用治具20の軸部21をダイス装置10のダイス孔12に通して引き抜き側に突出させる(図1)。こうして、グリッパー装置30をダイス装置10側に移動させて、前記軸部21の端部側をグリッパー装置30に進入させ、この状態で、該グリッパー装置30のグリッパー部材32a,32bを、進退手段であるエアシリンダー38の作動により移動部材37を介してグリッパー装置30の正面側に押動変位させることによりテーパ状ガイド面32a,32bに沿って内方に変位させて、内側の把持面部34a,34bを、前記抽伸用治具20の軸部21に有する傾斜把持部23、つまり引き抜き方向に向かって外側に傾斜した傾斜把持部23に当接させて把持状態にし、該把持面部34a,34bと傾斜把持部23の傾斜面により軸方向に係合させる(図6)。
【0037】
そして、前記グリッパー装置30の全体を適宜駆動手段により引き抜き方向に移動させて、前記抽伸用治具20を牽引することにより、該抽伸用治具20の頭部22に係合している前記素管1を牽引し、前記ダイス装置10のダイス孔12を通して引き抜くことにより、抽伸加工を行う(図7及び図8)。
【0038】
この際、前記グリッパー部材32a,32bがグリッパーケース31内のテーパ状ガイド面33a,33bに沿って移動可能に設けられているため、グリッパー装置30の移動により前記グリッパー部材32a,32bによる把持力が、前記の引き抜き方向の牽引作用に伴って増大して強くなり、しかも傾斜面で軸方向にも係合しているために、引き抜き時に把持状態が緩むこともなく、引き抜き力を確実に付与できる。
【0039】
しかも、前記グリッパー装置30のグリッパー部材32a,32bの把持面部34a,34bと、前記抽伸用治具20の傾斜把持部23が、対応した傾斜面をなして線接触又は面接触で軸方向(引き抜き方向)に係合しているために、前記把持状態での引き抜き荷重を受けても、傾斜把持部23の外周面に従来のグリッパー部材のような歯形による疵がつくことがない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の冷間抽伸装置及び抽伸用治具は、油圧ショベル等の建設機械に用いられている油圧シリンダーや空圧シリンダー等のシリンダー装置の円筒状チューブ、その他の各種機械設備に使用される金属管を抽伸加工するのに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の金属管の冷間抽伸装置の実施例を示す装置全体の概略図である。
【図2A】抽伸用治具の斜視図である。
【図2B】抽伸用治具の側面図である。
【図3】グリッパー装置の縦断面図である。
【図4】同グリッパー装置の正面図である。
【図5】同グリッパー装置の上部を切欠した平面図である。
【図6】引き抜きによる抽伸加工状態の説明図である。
【図7】引き抜きによる抽伸加工状態の説明図である。
【図8】同上の抽伸加工時の一部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0042】
A…抽伸装置、1…素管、2…口絞り部、10…ダイス装置、11…ダイス、12…ダイス孔、13…ホルダー、15…プラグ、16…支持棒、20…抽伸用治具、21…軸部、22…頭部、23…傾斜把持部、30…グリッパー装置、31…グリッパーケース、32a,32b…グリッパー部材、33a,33b…テーパー状ガイド面、34a,34b…把持面部、35a,35b…フランジ縁、36a,36b…ガイド溝、37…移動部材、38…エアシリンダー、40…レール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部を口絞り部として縮径加工した金属製の素管を通して外周面を成形するダイス装置と、一端側に拡径した頭部を有し、前記素管に挿入されて前記口絞り部内周に前記頭部が係合した状態で軸部が引き抜き方向に突出せしめられる棒体状の抽伸用治具と、前記ダイス装置の引き抜き方向前方側で前記抽伸用治具を把持するグリッパー装置とを備え、前記グリッパー装置により前記抽伸用治具を把持して引き抜き方向に牽引し前記素管をダイス装置を通して抽伸加工する金属管の冷間抽伸装置において、
前記グリッパー装置は、グリッパーケース内において軸心に対し引き抜き方向に向かって拡開するテーパ状のガイド面に沿って摺動可能に保持された複数のグリッパー部材を有し、該各グリッパー部材の把持面部が引き抜き方向に向かって軸心に対し外側への傾斜面をなし、また、前記抽伸用治具には、前記把持面部の傾斜に対応したテーパ状の傾斜面をなす傾斜把持部が設けられており、前記グリッパー部材の把持面部により傾斜面で前記抽伸用治具の傾斜把持部を把持するように設けられてなることを特徴とする金属管の冷間抽伸装置。
【請求項2】
前記グリッパーケース内には、断面V形をなす二つの把持面部をそれぞれ有する一対のグリッパー部材が、相対向してかつ前記テーパ状ガイド面に沿って移動可能に配置され、両グリッパー部材の各二つの把持面部がそれぞれ前記抽伸用治具の傾斜把持部の傾斜に対応した傾斜面をなし、線接触もしくは面接触で前記傾斜把持部を把持するように設けられてなる請求項1に記載の金属管の冷間抽伸装置。
【請求項3】
前記グリッパー部材は、進退手段の作動により前記グリッパーケースのテーパ状のガイド面に沿って移動可能に設けられ、該進退手段により、抽伸加工の開始までに前記抽伸用治具の進入側に進出移動して前記把持面部が抽伸用治具の傾斜把持部に当接した状態に保持されるとともに、抽伸加工後に前記抽伸用治具の進入側とは反対側に後退して、前記傾斜把持部から離脱するように設けられてなる請求項1又は2に記載の金属管の冷間抽伸装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属管の冷間抽伸装置に使用する抽伸用治具であって、前記金属製の素管の一端部に形成された口絞り部に挿通できる軸部と、該軸部の一端部において前記金属管の内径より径小かつ前記口絞り部の口径より径大で前記口絞り部の内周に係合し得るように拡径形成された頭部とを有し、前記軸部には、前記口絞り部の口径より径小範囲内において引き抜き方向に向かって軸心に対し外側に傾斜した傾斜把持部が設けられてなることを特徴とする抽伸用治具。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate