説明

金属粒子複合体の製造方法

【課題】数ナノメートルオーダーの金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体を製造可能な方法を提供する。
【解決手段】溶媒中に塩基性化合物と金属塩微粒子を含むスラリーを調製する工程と、前記スラリーにメソポーラス材料の原料となるアルコキシドを混合して、金属塩微粒子とメソポーラス材料が複合化した複合体を形成させる工程と、前記複合体を酸素含有ガス雰囲気下で焼成して、金属酸化物複合体を形成させる工程と、前記金属酸化物複合体を還元して、金属粒子複合体を形成させる工程とを有する方法により金属粒子複合体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属微粒子とメソポーラス材料との複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メソポーラスシリカに代表されるメソポーラス材料は、直径1〜50nmの細孔を有する材料である。代表的なメソポーラスシリカは、大きさの揃った直径数ナノメートルで円筒状の均質な細孔が蜂の巣のように規則的に並んだ構造を有している。このような細孔(ナノ空間)を有する材料と触媒活性を持つ材料を組み合わせることにより高性能な触媒となることが期待される。
【0003】
特許文献1には、メソポーラスシリカのような多孔体の細孔表面に、二酸化チタンのような光触媒活性を持つ光触媒物質と、有機基とが固定されている光触媒複合体が開示されている。この場合、光触媒物質の粒子径は、当然にメソポーラスシリカの細孔径より小さくなる。
【0004】
一方、酸化チタンの微結晶粒子をメソポーラスシリカに直接埋め込んだ新しい複合体の合成も検討されている(非特許文献1)。この場合、メソポーラスシリカと、その細孔径より大きい酸化チタンが複合化されたことになる。そして、この複合体は、ノニルフェノールを高速かつ分子選択的に分解することができる。通常の酸化チタンは、分子選択性を示さないことから、メソポーラスシリカとの複合化によって分子選択的な吸着能を示した結果と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−270734号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Inumaru et al, Chem.Commun.,(2005)2131
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、金属粒子をメソポーラスシリカ等のメソポーラス材料に直接埋め込んだ複合体を得ることは、原料の調製上困難であった。特に、数ナノメートルオーダーの細かい金属粒子をメソポーラス材料に直接埋め込んだ複合体を製造可能な方法は、これまで知られていない。金属粒子は、触媒として、例えば、自動車の排ガス浄化用をはじめとする環境保全用途、石油精製、石油化学、医薬、香料、食品などの化学用途等様々な目的に使用されている。化学用途では、水素化、脱水素、酸化、カルボニル化、ヒドロホルミル化等の各種化学反応により、様々な化合物が合成されている。化合物の合成方法は、工業的に確立できたものも多いが、開発途上のものも多く、工業化に向けての開発が進められている。基質選択性が必要な場合、逐次反応や副反応が起きてしまう場合、触媒を改良しても合成が難しい場合もあるが、メソポーラス材料などで反応場を制御することで、その合成可能になることが考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、数ナノメートルオーダーの金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体を製造可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属粒子複合体の製造方法は、
溶媒中に塩基性化合物と金属塩微粒子を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーにメソポーラス材料の原料となるアルコキシドを混合して、金属塩微粒子とメソポーラス材料が複合化した複合体を形成させる工程と、
前記複合体を酸素含有ガス雰囲気下で焼成して、金属酸化物複合体を形成させる工程と、
前記金属酸化物複合体を還元して、金属粒子複合体を形成させる工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、数ナノメートルオーダーの金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の金属粒子複合体のTEM測定結果である。
【図2】実施例1の金属粒子複合体のXRD測定結果(低角側)である。
【図3】実施例1の金属粒子複合体のXRD測定結果(高角側)である。
【図4】比較例1の金属粒子複合体のTEM測定結果である。
【図5】比較例1の金属粒子複合体のXRD測定結果(低角側)である。
【図6】比較例1の金属粒子複合体のXRD測定結果(高角側)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<金属粒子複合体>
本発明で製造する金属粒子複合体は、金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体である。金属粒子複合体は、金属粒子の表面の一部がメソポーラス材料で被覆されていなくても構わないが、金属粒子の表面が、実質的に完全にメソポーラス材料で被覆されていることが好ましく、完全にメソポーラス材料で被覆されていることが好ましい。
【0013】
金属粒子を構成する金属の例としては、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、アンチモン、タリウム、鉛、テルル、ビスマス等の卑金属;ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金等の貴金属が挙げられる。なかでも、貴金属が好ましい。金属は、1種でもよく、2種以上でもよく、2種以上の複合物でもよい。2種以上の金属として卑金属と貴金属を用いた場合には、貴金属の含有率が50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0014】
また、金属粒子複合体中の金属粒子の安定性を高める観点から、金属粒子の平均粒子径は、メソポーラス材料の細孔直径より大きいことが好ましく、具体的には1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。一方で、触媒性能の観点から、金属粒子の平均粒子径は、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。特に、本発明の方法を用いることで、金属粒子の平均粒子径が2〜10nmの金属粒子複合体が得られやすい。なお、平均粒子径とは、メディアン径を意味する。この平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)などにより測定することができる。
【0015】
メソポーラス材料の例としては、メソポーラスシリカ、メソポーラスアルミナ、メソポーラスチタニア、メソポーラスジルコニアが挙げられる。なかでも、合成が容易なメソポーラスシリカまたはメソポーラスアルミナが好ましく、メソポーラスシリカがより好ましい。メソポーラス材料は、1種でもよく、2種以上でもよく、2種以上の複合材料でもよい。
【0016】
金属粒子複合体中の金属粒子の含有率は、触媒機能を十分に発揮させるためには多い方が好ましい。具体的には、0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、金属粒子複合体中の金属粒子の含有率は、材料費の観点および金属粒子複合体中の金属粒子の安定性を高める観点から、少ない方が好ましい。具体的には98質量%以下が好ましく、95質量%以下がより好ましく、90質量%以下がさらに好ましい。
【0017】
金属粒子複合体の細孔特性に関しては、形成するメソポーラス材料の細孔特性を制御することで適宜調整することができる。金属粒子複合体の比表面積は、10〜500m2/gが好ましく、50〜100m2/gがより好ましい。金属粒子複合体の細孔容積は、0.1〜2.0ml/gが好ましく、0.2〜1.5ml/gがより好ましい。金属粒子複合体の細孔直径(メソポーラス材料の細孔直径)は、1〜50nmが好ましく、2〜10nmがより好ましい。これらの細孔特性は、窒素ガス吸着法により得られたデータをBJHプロットすることで算出できる。
【0018】
上記の金属粒子複合体では、金属粒子の結晶相の変化(相転移)・粒子成長・金属粒子間の融合・表面積の低下などが抑制され、金属粒子の安定化を図ることができる。この技術は、金属粒子を使用するあらゆる分野で利用することができる。特に、活性成分である金属粒子の安定化が重要な触媒分野で好適に利用することができる。
【0019】
<金属粒子複合体の製造方法>
本発明の製造方法では、まず、溶媒中に塩基性化合物と金属塩微粒子を含むスラリーを調製する。
【0020】
金属塩微粒子は、金属粒子複合体を構成する金属の塩を含有する。金属塩微粒子は非水溶性であることが好ましい。金属塩微粒子に含まれる金属塩の例としては、炭酸水素塩、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、水酸化物塩が挙げられる。なかでも、炭酸水素塩、水酸化物塩が好ましい。金属塩微粒子に含まれる金属塩は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0021】
金属塩微粒子の平均粒子径は、金属粒子複合体を形成した場合に触媒反応としての利用を考慮すると、0.5〜10000nmが好ましく、1nm〜5000nmがより好ましい。
【0022】
金属塩微粒子は、後述する方法で合成することができる。
【0023】
溶媒としては、水または有機溶媒を用いることができる。有機溶媒の例としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類:ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシドが挙げられる。有機溶媒は、1種でもよく、2種以上でもよい。2種以上の有機溶媒を用いる場合、その溶媒は均一な状態であることが好ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0024】
また、水と有機溶媒の混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒に含まれる有機溶媒は、アルコール類、ケトン類が好ましい。混合溶媒中の水の含有率は、2〜70質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましい。混合溶媒は、均一な状態であることが好ましいが、不均一な状態であっても差し支えない。
【0025】
塩基性化合物の例としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なかでも、取り扱いの面からアンモニアが好ましい。
【0026】
溶媒中に塩基性化合物と金属塩微粒子を含むスラリーを調製する際に、これらを混合する順序としては、例えば、溶媒と金属塩微粒子を混合した後に塩基性化合物を混合する方法、溶媒と塩基性化合物を混合した後に金属塩微粒子を混合する方法、金属塩微粒子と塩基性化合物を混合した後に溶媒を混合する方法、溶媒と金属塩微粒子と塩基性化合物を同時に混合する方法などが挙げられるが、その方法は特に限定されない。なかでも、溶媒と金属塩微粒子を混合した後に塩基性化合物を混合してスラリーを調製する方法が好ましい。また、調製されたスラリー中の金属塩微粒子は、分散した状態であることが好ましい。
【0027】
金属塩微粒子の量は、溶媒100質量部に対して、0.01〜30質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。金属塩微粒子の量を0.01質量部以上とすることで、触媒として用いた場合の活性を向上させることができる。また、金属塩微粒子の量を30質量部以下とすることで、金属塩微粒子の接合を抑えることができる。
【0028】
上記のスラリーのpHは、10.0以上が好ましく、11.0以上がより好ましく、11.5以上が特に好ましい。塩基性化合物の添加量は、スラリーのpHが所望の範囲になるように決められる。
【0029】
次いで、上記のスラリーにメソポーラス材料の原料となるアルコキシドを混合して、金属塩微粒子とメソポーラス材料が複合化した複合体を得る。すなわち、金属塩微粒子の表面にメソポーラス材料を生成させる。ここで、スラリーとアルコキシドとを混合する方法は特に限定されないが、スラリーを激しく攪拌しながらアルコキシドを一気に加える方法が好ましい。
【0030】
金属塩微粒子の表面にメソポーラス材料を生成させるためには、上記のスラリー中で、アルコキシドを用いてメソポーラス材料が生成する反応を行えばよい。アルコキシドとしては、生成させるメソポーラス材料を構成する元素(酸素以外)のアルコキシドを用いることができる。例えば、メソポーラスシリカを生成させるためには、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のケイ素のアルコキシドを用いることができる。また、メソポーラスアルミナを生成させるためには、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムイソブトキシド等のアルミニウムのアルコキシドを用いることができる。アルコキシドは、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0031】
メソポーラス材料を生成させる反応としては、スラリー中に界面活性剤を含ませておき、その界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法を利用することが好ましい。スラリー中に界面活性剤を含ませておく方法としては、例えば前記スラリーを調製した後に界面活性剤を加える方法、前記スラリーの調製過程で界面活性剤を加える方法などが挙げられるが、その方法は特に限定されない。なかでも、溶媒に界面活性剤を加えておき、この溶媒を用いて前記スラリーを調製する方法が好ましい。ゾルゲル法では、界面活性剤の種類を変更することで、細孔の大きさ、形状、充填構造を制御することができる。界面活性剤は、水溶性であることが好ましい。界面活性剤としては、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができるが、カチオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0032】
カチオン系界面活性剤の例としては、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩が挙げられる。好ましくは、下記一般式(1)で表されるアルキル第4級アンモニウム塩である。
【0033】
(R1NR232+- (1)
式(1)において、R1はCn2n+1または(CH2mp2p+1、R2はメチル、エチルまたはベンジル、R3はメチルまたはエチル、Xはハロゲンまたは水酸基、nは8〜20の整数、mは2〜6の整数、pは2〜18の整数である。Xのハロゲンとしては、塩素または臭素原子が好ましい。
【0034】
アルキル第4級アンモニウム塩の例としては、n−ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、n−ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、3−パーフルオロオクチルプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、3−パーフルオロオクチルプロピルトリメチルアンモニウムブロミド、3−パーフルオロヘキシルプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、6−パーフルオロオクチルヘキシルトリメチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0035】
スラリー中の界面活性剤の濃度は、使用した溶媒における臨界ミセル濃度以上の濃度であればよく、0.0001mol/l以上が好ましく、0.001mol/l以上がより好ましい。界面活性剤を臨界ミセル濃度以上の濃度で溶媒に溶解させると、ミセルを形成し、さらにそのミセルが充填構造となり、メソポーラスシリカの構造が生成する。アルコキシドが共存する場合は、臨界ミセル濃度以下でもメソポーラス材料が生成する場合があるので、適宜適当な濃度が選択される。
【0036】
界面活性剤のミセルを膨張させる物質(以下、膨張剤)を添加することで、より大きな細孔のメソポーラス材料を得ることができる。膨張剤を添加する時期は、メソポーラス材料が固体成分として析出する前であればよく、界面活性剤の添加の前後がより好ましい。膨張剤は、あらかじめ溶媒に溶解または分散した状態で加えてもよく、直接合成溶液に加えてもよい。膨張剤としては、ミセルの疎水部に侵入するため疎水性を持つ物質が好ましく、なかでも芳香族化合物、炭化水素化合物、疎水基の大きいアルコール等がより好ましく、メシチレン、炭素数2〜20のアルカン,炭素数4以上のアルコールが特に好ましい。炭素数2〜20のアルカンとしては、例えばn−トリデカンが挙げられる。添加する膨張剤の量は、メソポーラス構造を破壊する量より少なければよく、界面活性剤に対し1000質量%以下が好ましく、5〜200質量%がより好ましい。
【0037】
コロイド結晶が存在する状態で、溶媒中にアルコキシドを加え、必要に応じて触媒を加えることで、コロイド結晶の隙間でゾルゲル反応が進行し、メソポーラス材料のゲル骨格が生成する。アルコキシドを加える前の溶媒のpHは、メソポーラス材料を合成するのに適したpHであればよく、pHを調節する時期は、メソポーラス材料が固体成分として析出する前であれば特に限定されない。
【0038】
メソポーラス材料を生成させる反応は、例えば、20〜80℃で2〜10時間程度行うことができる。または、オートクレーブを用いて100〜200℃で反応を行うこともできる。
【0039】
次いで、得られた複合体を酸素含有ガス雰囲気下で焼成して、金属酸化物複合体を形成させる。金属酸化物複合体に含まれる金属酸化物は、金属塩微粒子に含まれる金属塩が酸化物になったものである。焼成は、例えば、300〜600℃で2〜10時間程度行うことができる。
【0040】
この焼成により、膨張剤や鋳型として用いた界面活性剤、金属塩の金属以外の成分を分解除去することもできる。ただし、溶媒抽出で膨張剤や鋳型として用いた界面活性剤を除去してもよい。溶媒抽出は、例えば、20〜90℃、10分〜96時間、1〜10回行うことができる。また、抽出溶媒としては、例えば、イオン交換水、アルコール、エーテル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの極性溶媒のほか,超臨界二酸化炭素など抽出力の強い溶媒が使用できる。
【0041】
次いで、得られた金属酸化物複合体を還元して、金属粒子複合体を形成させる。
【0042】
還元剤の例としては、エチレングリコール、ホルムアルデヒド、水素、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、エチレン、プロピレン等が挙げられる。なかでも、エチレングリコール、水素、ホルムアルデヒドが好ましい。還元剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。還元剤の使用量は、使用した金属塩微粒子原料100質量部に対して100〜30000質量部が好ましく、200〜2000質量部がより好ましい。
【0043】
以上の方法により、数ナノメートルオーダーの金属粒子の表面がメソポーラス材料で被覆されている複合体を得ることができる。
【0044】
<金属塩微粒子の合成方法>
金属塩微粒子は、金属塩微粒子原料が溶媒に溶解または分散した溶液またはスラリーに、沈殿剤を混合することで得ることができる。
【0045】
金属塩微粒子原料としては、金属のハロゲン化物、金属の有機酸塩、金属の無機酸塩、金属錯体が挙げられる。金属のハロゲン化物を構成するハロゲン元素の例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。金属の有機酸塩を構成する有機酸の例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸が挙げられる。金属の無機酸塩を構成する無機酸の例としては、硫酸、硝酸、炭酸が挙げられる。金属錯体の例としては、アンミン錯体、アセチルアセトナト錯体などが挙げられる。なかでも、金属のハロゲン化物、金属の無機酸塩が好ましく、金属の無機酸塩がより好ましく、金属の硝酸塩がさらに好ましい。金属塩微粒子原料は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0046】
沈殿剤の種類は特に限定されず、溶媒中の金属塩微粒子原料を沈殿させるものであればよい。沈殿剤の例としては、尿素、シアヌル酸、アルキル置換尿素、チオ尿素等が挙げられる。なかでも、尿素が好ましい。沈殿剤は、1種でもよく、2種以上でもよい。混合する沈殿剤の量は、金属塩微粒子原料100質量部に対して10〜150質量部が好ましく、20〜100質量部がより好ましい。
【0047】
金属塩微粒子原料と沈殿剤との混合にあたっては、加熱することができる。混合の条件は、例えば、50℃〜90℃で、1〜48時間程度とすることができる。
【0048】
得られる金属塩微粒子の平均粒子径は、用いる金属塩微粒子原料にもよるが、用いる沈殿剤で制御可能である。
【実施例】
【0049】
<Pd塩微粒子(Pd(HCO32)の調製>
イオン交換水10gに硝酸Pd水溶液(Pd23.51質量%)0.8507g(Pdで0.2g)を溶解させ、その溶液に沈殿剤として尿素0.4528gを溶解し、80℃で2h攪拌することで、Pd塩微粒子(Pd(HCO32)のスラリーを得た。
【0050】
<実施例1>
界面活性剤としてのヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド0.8986gをイオン交換水100gに加温しながら溶解させた。この溶液に、Pd源としてのPd塩微粒子(Pd(HCO32)のスラリーを混合し、さらにアンモニア水を加えてpHを11.8に調整した。得られたスラリーを激しく攪拌しながら、テトラエトキシシラン3.472gを一気に加えて、1時間攪拌した。生成物をろ過し、イオン交換水で洗浄した後、一晩100℃で乾燥した。そして、その生成物を540℃で6時間焼成して界面活性剤を除去した。その後、エチレングリコール中80℃で2時間還元処理を行った。
【0051】
以上の方法により実施例1の金属粒子複合体(Pd含有率:16.7質量%)を得た。実施例1の金属粒子複合体のTEM測定結果を図1に示し、XRD測定結果(低角側)を図2に、XRD測定結果(高角側)を図3に示す。
【0052】
図1のTEM写真から、Pd粒子の表面がメソポーラスシリカに被覆されている金属粒子複合体が形成していることがわかる。このときのPd粒子径は約5nmである。図2のXRD測定結果(低角側)より、メソポーラスシリカのヘキサゴナル構造特有のピークが検出されたことから、金属粒子複合体にメソポーラス構造が形成されていることがわかる。図3のXRD測定結果(高角側)より、Pd金属特有のピークが認められることから、金属粒子複合体中にPdが存在することがわかる。また、ピークは後述の図4で示すものよりブロードで、結晶子径が小さいことが示唆される。
【0053】
<比較例1>
市販のPdO粉末(三津和薬品株式会社)を15分ボールミルで粉砕したものをPd源として用いた以外は、実施例1と同様の方法で金属粒子複合体を得た。比較例1の金属粒子複合体のTEM測定結果を図4に示し、XRD測定結果(低角側)を図5に、XRD測定結果(高角側)を図6に示す。
【0054】
図4のTEM写真から、Pd粒子の表面がメソポーラスシリカに被覆されている金属粒子複合体が形成していることがわかる。しかし、このときのPd粒子径は約10nm以上である。図5のXRD測定結果(低角側)より、メソポーラスシリカのヘキサゴナル構造特有のピークが検出されたことから、金属粒子複合体にメソポーラス構造が形成されたことがわかる。図6のXRD測定結果(高角側)より、Pd特有のピークが認められることから、金属粒子複合体中にPdが存在することがわかる。また、ピークは前述の図3で示すものよりかなりシャープで、結晶子径が大きいことが示唆される。
【0055】
以上の結果より、本発明によれば、数ナノメートルオーダーの金属粒子をメソポーラスシリカに直接埋め込んだ金属粒子複合体を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に塩基性化合物と金属塩微粒子を含むスラリーを調製する工程と、
前記スラリーにメソポーラス材料の原料となるアルコキシドを混合して、金属塩微粒子とメソポーラス材料が複合化した複合体を形成させる工程と、
前記複合体を酸素含有ガス雰囲気下で焼成して、金属酸化物複合体を形成させる工程と、
前記金属酸化物複合体を還元して、金属粒子複合体を形成させる工程と、
を有することを特徴とする金属粒子複合体の製造方法。
【請求項2】
前記スラリーに界面活性剤を含ませておき、前記複合体を酸素含有ガス雰囲気下で焼成する際に前記界面活性剤を分解除去することを特徴とする請求項1に記載の金属粒子複合体の製造方法。
【請求項3】
金属塩微粒子原料が溶媒に溶解または分散した溶液またはスラリーに、沈殿剤を混合して、前記金属塩微粒子を得る工程をさらに有することを特徴とする請求項1または2に記載の金属粒子複合体の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−253436(P2010−253436A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109251(P2009−109251)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.社団法人日本化学会 日本化学会第89春季年会 講演予稿集I 521頁 平成21年3月13日 2.社団法人日本化学会 日本化学会第89春季年会 平成21年3月27日
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】