説明

金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む造影剤を用いるインビボ磁気共鳴イメージング方法

本発明は、造影剤を用いて患者の画像を得るためのイメージング方法であって、前記方法が、前記造影剤の適するイメージング方法に患者を供する工程を含み、前記造影剤が、(a)結合部分と、(b)前記造影剤が患者の体内のある部位を標的とすることを可能にする認識部分と、を含み、前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むイメージング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボイメージングの分野における磁性タンパク質、磁性ペプチド、及び磁性ポリペプチドの使用に関する。具体的には、本発明は、造影剤を用いるイメージング方法と、かかる方法で用いられる造影剤組成物とを提供する。本発明の技術は、インビボにおける解剖学的特徴、生理学的特徴、及び病理学的特徴の検出、局在化、及びイメージングを改善し、医療用イメージング分野とインビトロ診断分野とをつなげる。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴画像法(MRI)は、インビボイメージングの1種であり、獣医学及び医学の分野で広く用いられている。診断目的で最も多く用いられているが、治療の進行をモニタするため、及び研究目的でも用いられている。
【0003】
MRIは、核磁気共鳴の作用、即ち運動している荷電粒子に関連する定方向磁場(磁気モーメント)を使用する。MRIにより、身体の断層画像を得ることができ、その結果、体内の内部構造の3D画像を作製できる。
【0004】
MRI画像は、体内に存在する物質にのみ基づき得ることができる。しかし、より鮮明な画像を得るために、特に画像のコントラストを強くするために、イメージング前に造影剤を患者に投与することが多い。
【0005】
当該技術分野では、幾つかの造影剤が知られている。MRIを胃のイメージングに用いる場合、例えば水を用いてもよい。或いは、磁性を有する造影剤を用いてもよい。かかる例の1つは、常磁性造影剤ガドリニウムである。該造影剤は、血管組織(例えば、腫瘍)の検出に対する感受性が非常に高く、(例えば、脳卒中患者の)脳灌流を診断することを可能にする。しかし、近年、特に腎機能の低下している患者に対するガドリニウムを用いた造影剤の毒性について研究されている。該患者は、MRIが終了した後、血液透析を受ける必要がある。
【0006】
それにもかかわらず、ガドリニウムを用いた造影剤は、幾つかの研究法の対象となっている。非特許文献1は、ガドリニウムジエチレントリアミン五酢酸(Gd−DTPA)と抗細胞間接着分子1(ICAM−1)抗体とのバイオコンジュゲーションにより調製される炎症標的T(1)造影剤の設計について記載している。炎症特異的なT(1)強調は、マウス急性炎症モデルにおいてGd−DTPA−抗ICAM−1抗体を用いて画像化された。
【0007】
更に、非特許文献2は、HER−2/neu受容体を発現している腫瘍細胞をビオチン化抗HER−2/neu抗体で予め標識する、二成分ガドリニウムに基づくMR造影剤系について記載している。次いで、アビジン−ガドリニウム複合体が、ビオチン化受容体に特異的に結合し、MR画像において陽性T1コントラストが生じる。筆者らは、HER−2/neuトランスジェニックマウス由来の乳癌の実験モデルにおける該系の使用について記載している。
【0008】
造影剤の他の例は、超常磁性造影剤、例えば酸化鉄ナノ粒子である。該造影剤を用いて、肝臓及び消化管を画像化することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Choi et al.,(Mol Imaging,2007,6(2):75−84)
【非特許文献2】Artemov et al.,(Cancer Research,2003,63:2723−2727)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在利用可能な造影剤に代わる他の造影剤の開発が現在必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、造影剤を用いて患者の画像を得るためのイメージング方法であって、前記方法が、前記造影剤の適するイメージング方法に患者を供する工程を含み、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)前記造影剤が患者の体内のある部位を標的とすることを可能にする認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む方法を提供する。
【0012】
本発明らは、驚くべきことに、イメージング方法において上記で定義された造影剤を用いて、得られる画像のコントラストを強くすることができることを見出した。具体的には、前記造影剤は、前記造影剤が患者の体内のある部位を標的とすることを可能にする認識部分を含む。該認識部分により、該造影剤を患者に投与した後、造影剤が対象である特定の部位(1又は複数)を標的とすることが可能になる。磁性物質が局在化した領域は、インビボイメージングにより可視化される。非特異的であり、且つ上記生物学的認識機能を有しない造影剤を利用する先行技術の方法とは対照的である。
【0013】
本発明の方法の具体的な利点は、撮像された画像から得ることができる情報の量が増えることである。具体的には、撮像された画像から、追加的且つより詳細な診断情報を得ることが可能になる。例えば、特定の種類の腫瘍細胞に結合することができる認識部分を有する造影剤を用いると、撮像された画像において可視である任意の腫瘍の性質に関する追加情報が得られ、より高解像度の画像作製を補助することができる。
【0014】
また本発明は、本発明の方法において使用するのに好適な造影剤を提供する。具体的には、本発明は、イメージング方法において使用するのに好適な造影剤組成物であって、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記組成物が、任意的に、造影剤組成物で使用するのに好適な更なる成分を含有している造影剤組成物を提供する。
【0015】
また本発明は、患者の画像を得るための方法における造影剤の使用であって、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む使用を提供する。
【0016】
本明細書に記載される造影剤の更なる利点は、前記造影剤が含有している磁性物質又は磁化可能物質によるものである。具体的には、電磁石と、患者の体内のある部位の近辺に前記造影剤を運ぶのに好適な構成要素とを備えるデバイスを用いて、又は透析により、前記部位に前記造影剤を投与し、前記部位から前記造影剤を除去することができる。
【0017】
更に、前記造影剤の磁性は、前記造影剤の作製及び精製を容易にする。具体的には、前記造影剤は、親和性精製又は磁場精製などの確立されている技術を用いて容易に精製される。本発明の造影剤は、単純な化学的手順を用いて磁化又は消磁することができるという利点を有する。
【0018】
次に、以下の図面を参照して一例として本発明をより詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の造影剤を作製するために、適切な遺伝子をベクターにクローニングする方法を示す。最終的な造影剤中の磁化可能タンパク質ユニットの数は、必要に応じて多コピーの適切な遺伝子を含むことにより制御できる。この例では、抗体のV領域及びV領域の遺伝子のみが含まれているため、完全な抗体ではなく、抗体のscFv部分が、最終的な好ましいキメラタンパク質に含まれる。
【図2】図2は、IgGなどの抗体の構造を単純化して概略的に示す。パパインなどの酵素を用いてプロテアーゼ処理した後、抗体は、ヒンジ領域の近くで3つの部分に分解される。抗体のエフェクタ機能部(ヒンジ、C2、及びC3)は、X線回折分析のために結晶化することが比較的容易であるため、この部分は結晶化可能断片(Fc)領域として知られている。抗体の抗原結合部は、抗体断片(Fab)として知られている。酵素分解後、Fab断片は、ヒンジ領域で連結してF(ab)断片を形成する場合もある。他の抗体は、Fc領域内のドメイン数が異なる場合もあり、またヒンジ領域に変異が存在する場合もある。
【図3】図3は、scFv−フェリチン融合タンパク質の構造を示す。
【図4】図4は、scFv−MT2融合タンパク質の構造を示す。
【図5】図5は、scFv断片の構造を示す。
【図6】図6は、cDNAライブラリの構築方法を示す。組織サンプルからcDNAライブラリを構築するために、mRNAを抽出し、cDNAに逆転写し、プラスミドベクターにライゲーションする。次いで、これらベクターを用いて細菌細胞を形質転換する。形質転換された細胞は、必要になるまで凍結保存する。適切な培地で増殖させることにより凍結細胞を増やしてもよい。次いで、プラスミドを精製する。次いで、更に分析するために特異的プライマー対を用いて対象遺伝子をPCRで増幅させてもよい。
【図7a】図7aは、フェリチン重(H)鎖遺伝子及びフェリチン軽(L)鎖遺伝子のPCR増幅産物を示す。
【図7b】図7bは、フェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子のオーバーラップPCR産物を示す
【図7c】図7cは、コロニーPCRの結果を示し、配列決定のためにクローン1、3、及び4が選択された。
【図8a】図8aは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのPCR増幅産物(矢印)を示すゲルである。
【図8b】図8bは、抗フィブロネクチンscFvと、フェリチン重鎖及びフェリチン軽鎖ポリジーンとのオーバーラップPCR産物を示すゲルである。
【図9】図9は、scFv:フェリチン融合コンストラクトとライゲーションされたプラスミドを用いて形質転換された多くのクローンのPCRによるスクリーニング結果を示すゲルである。
【図10】図10は、細胞可溶化物のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットを示す。記号:1.フェリチンで2時間誘導、2.フェリチンで3時間誘導、3.フェリチンで4時間誘導、4.ベンチマーク(Invitrogen)プロテインラダー。
【図11】図11は、ヒト肝臓ライブラリ由来のMT2のPCR増幅産物を示すゲルである。
【図12】図12は、scFv:MT2コンストラクトを含むプラスミドで形質転換されたクローンのコロニー分析結果を示す。
【図13】図13は、scFv:MT2(矢印)のクマシーゲル及びウエスタンブロットを示す。
【図14】図14は、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のクマシーブルー染色ゲル及びウエスタンブロットの写真を示す。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【図15a】図15aは、MT2融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図15b】図15bは、フェリチン融合タンパク質の結合のSPR分析から得られたセンサグラムを重ねたものである。
【図16】図16は、本発明で用いるために作製されたマグネトフェリチンの磁性を示す。
【図17】図17は、作製中のフェリチン濃度及びマグネトフェリチン濃度を示す。記号:MF;マグネトフェリチン、ft;フロースルー、前;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析前、後;Macs(登録商標)カラムで濃縮されたマグネトフェリチンの透析後。
【図18】図18は、scFv:フェリチン及び熱処理したscFv:フェリチンのフィブロネクチンに対する結合を示す。
【図19a】図19aは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。濃縮後もモノクローナル抗フェリチン抗体はタンパク質を認識する。
【図19b】図19bは、磁化された融合タンパク質に対してVarioskan Flash機器を用いて記録した吸光度測定値を示す。磁化抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質は、その標的抗原に対する結合能を保持する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上記のように、本発明は、造影剤を用いて患者の画像を得るためのイメージング方法であって、前記方法が、前記造影剤の適するイメージング方法に患者を供する工程を含み、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)前記造影剤が患者の体内のある部位を標的とすることを可能にする認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含む方法に関する。
【0021】
本発明の1つの態様では、前記方法は、患者に前記造影剤を投与する工程を更に含む。
【0022】
本発明のイメージング方法は、磁気共鳴画像法(MRI)であってもよい。また、核磁気共鳴法(NMR)又は電子スピン共鳴法(ESR)であってもよい。
【0023】
本発明の好ましい態様では、イメージング方法は、磁気共鳴画像法である。磁気共鳴画像法は、当該技術分野で周知である。通常、磁気共鳴画像法は、患者に造影剤を投与する工程と、磁気共鳴画像化システム内に患者を配置する工程と、前記システムを用いて少なくとも1枚の患者の身体画像を得る工程とを含む。一般的に用いられている磁場強度は、0.3テスラ〜3テスラである。しかし、本発明の方法は、当該技術分野において印加される磁場強度の全範囲、即ち最高約20テスラまでを用いてもよい。
【0024】
同様に、本発明の方法は、拡散強調画像法(DWI)などの、他の特殊なMRI技術と共に用いてもよい。
【0025】
磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する結合部分は、毒性ではなく、前記物質に結合することができ、且つ前記認識部分に付着することができる限り、特に限定されない。結合部分は、金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチド(又はかかるタンパク質、ポリペプチド、若しくはペプチドの金属結合ドメイン)を含む。前記結合部分は、粒子又は集合体などの形態である磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する(又は特異的若しくは非特異的に付着する)ことができる。
【0026】
これら粒子又は集合体は、典型的には100,000未満、より好ましくは10,000未満、最も好ましくは5,000未満の、部分全体(又は各部分)に結合している原子、イオン若しくは分子、又は部分全体(又は各部分)に内封されている原子、イオン若しくは分子を有する。最も好ましい物質は、最高3,000の原子、イオン若しくは分子、特に約2,000以下の原子、イオン若しくは分子、又は500以下の原子、イオン若しくは分子に結合することができる。
【0027】
本発明で使用される1つの具体例では、結合部分は、8nm(8×10−9m)の無機コアからなるフェリチン(24個のサブユニットのタンパク質シェル)の金属要素を含む。各コアは、約2,000個のFe原子を含む。別の例では、Streptococcus mutans由来のDpr(12個のサブユニットのシェル)は、480個のFe原子を含む9nmのシェルからなる。更なる例では、ラクトフェリンは、2個のFe原子と結合し、ヘムに結合している鉄を含む(コア内の鉄分子に結合するフェリチンとは対照的である)。メタロチオネイン−2(MT)は、7個の二価遷移金属に結合する。MT中の亜鉛イオンは、Mn2+及びCd2+に置換されて、室温で磁性を有するタンパク質を作製する。MTは、1以上の更なる金属結合部位を更に組み込むよう改変されてもよく、これによりMn、Cd MTタンパク質の磁性が増加する。
【0028】
これら結合環境によって、単一部分に結合している又は単一部分に内封されている物質の総体積は、典型的には1×10nmを超えない(物質の粒子又は集合体の平均直径が約58nm以下であることを表す)。該物質は、1×10nm以下の総体積を有し得ることがより好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約27nm以下であることを表す)。該物質は、1×10nm以下の総体積を有し得ることが更により好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が約13nm以下であることを表す)。該物質は、100nm以下の総体積を有し得ることが最も好ましい(物質の粒子又は集合体の平均直径が6nm以下であることを表す)。しかし、粒子のサイズは、体積の代わりに平均直径により決定することもできる。したがって、本発明では、結合している粒子の平均直径は、50nm以下、40nm以下、30nm以下、20nm以下が好ましく、10nm以下が最も好ましい。この状況において、平均とは、全粒子の直径の合計を粒子数で除した数を意味する。
【0029】
本発明の特に好ましい実施形態では、磁性物質又は磁化可能物質は、常磁性であり、より強力な磁石の影響下でのみ磁性を示す。常磁性物質を使用する利点は、スキャンするまでの間、造影剤の凝集を防げられるという点である。
【0030】
典型的には、結合部分は、1以上の遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンの少なくともいずれか、又は遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンを含む任意の化合物を結合乃至内封する。遷移金属イオン、及びランタニド金属イオンとしては、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上のイオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
本発明のより好ましい実施形態では、前記1種以上の金属イオンは、Fe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Cd2+、Zn2+、Gd3+、及びNi2+のうちのいずれか1種以上を含む。本発明で用いるための最も好ましいイオンは、Fe2+イオン、Fe3+イオン、Cd2+イオン、Mn2+イオン、Gd3+イオン、Co2+イオン、及びCo3+イオンである。典型的には、これらイオンは、鉄の場合ラクトフェリン、トランスフェリン、及びフェリチンに結合し、カドミウム及びマンガンの場合メタロチオネイン−2に結合する。Fe2+の結合は、酸性条件を用いることにより促進されることが好ましく、一方Fe3+の結合は、中性条件又はアルカリ性条件を用いることにより促進されることが好ましい。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、金属結合部分は、ラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン(アポフェリチン)、メタロチオネイン(MT1又はMT2)、第二鉄イオン結合タンパク質(例えばHaemophilus influenzae由来のFBP)、フラタキシン、及びシデロホア(細菌膜を貫通して鉄を輸送する機能を有する非常に小さなタンパク質)から選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む。
【0033】
<金属結合タンパク質>
文献に記載されている金属結合タンパク質の数は、未だに増加し続けている。多くのタンパク質が、リン酸第二鉄オキシ水酸化物又はヘムとして鉄(Fe)を貯蔵しているため、磁化法が複雑になる。フェリチンなどのタンパク質は、かご状構造内に数千の鉄イオンを貯蔵することができる。
【0034】
フェリチン内の内因性鉄は常磁性ではないため、典型的には、タンパク質に損傷を与えることなしに該内因性鉄を除去し、常磁性形態に置換することが必要である。メタロチオネインII(MT2)などの他の金属結合タンパク質は、緩い格子配置中にフェリチンよりも少ない数の金属イオンを保持しているため、フェリチンよりも金属イオンの除去及び置換が容易である場合がある。
【0035】
<フェリチン>
フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaの大きなタンパク質である。該タンパク質は、鉄を包む大きな空洞(直径8nm)からなる。該空洞は、非共有結合により保持されている4へリックスバンドルに折り畳まれた24個のフェリチンポリペプチドの自発性集合により形成される。鉄及び酸素は、生理学的条件下で不溶性錆及び可溶性ラジカルを形成する。鉄イオンの溶解度は、10−18Mである。フェリチンは、10−4Mの濃度で細胞内に鉄イオンを貯蔵することができる。
【0036】
フェリチンのアミノ酸配列、延いては二次構造及び三次構造は、動物と植物との間で保存されている。該配列は、細菌で見出されている配列とは異なるが、タンパク質の構造は細菌においても同じである。胚致死を引き起こす遺伝子欠失突然変異マウスを用いた研究から分かるように、フェリチンは、生存に必須の役割を有している。フェリチンは、嫌気性細菌でも発見されている。
【0037】
フェリチンは、8個のFe輸送孔と、12個のミネラル核形成部位と、第二鉄及び酸素からミネラル前駆体を生成する最高24個のオキシダーゼ部位とを有する大きな多機能性タンパク質である。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。最高4,000個の鉄が、フェリチンタンパク質の中心に局在し得る。
【0038】
フェリチン内に貯蔵されている鉄は、通常酸化鉄フェリハイドライト水和物(5Fe・9HO)の形態である。フェリハイドライトコアをフェリ磁性酸化鉄、即ちマグネタイト(Fe)に置換してもよい。これは、チオグリコール酸を用いて鉄を除去し、アポフェリチンを生成することにより達成され得る。次いで、空気又は他の酸化剤を導入することにより、酸化を緩徐に制御しながら、アルゴン又は他の不活性ガス下でFe(II)溶液を徐々に添加する。
【0039】
<メタロチオネインII>
メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。これらタンパク質は、全ての真核生物で見出され、強力な金属結合能及びレドックス能を有している。MT−1及びMT−2は、様々な金属、薬剤、及び炎症メディエータにより肝臓において急速に誘導される。MT−2の機能としては、亜鉛(Zn)のホメオスタシス、重金属(特にカドミウム)及び酸化体による損傷からの保護、並びに代謝制御が挙げられる。
【0040】
MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0041】
Changらは、7つの亜鉛(Zn2+)イオンを、マンガン(Mn2+)イオン及びカドミウム(Cd2+)イオンに置換する方法について記載している。得られたタンパク質は、室温で磁性ヒステリシスループを呈することが示された。これは、タンパク質が常磁性であることを示唆する。
【0042】
Toyamaらは、ヒトMT2を操作して更なる金属結合部位を構築した。これは、MT2の常磁性機能を潜在的に高めることができ、また本発明で使用することができる。
【0043】
幾つかの実施形態では、本発明の造影剤は、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する結合部分を複数含んでいてもよい。造影剤の磁性を制御するために、かかる部分の数を制御してもよい。典型的には、かかる実施形態では、造影剤は、2個〜100個の磁性物質又は磁化可能物質の結合部分、好ましくは2個〜50個の該部分、最も好ましくは2個〜20個の該部分を含んでいてもよい。最終的なキメラタンパク質では、金属結合タンパク質の各コピーは、可動性のために非荷電アミノ酸リンカー配列により次の金属結合タンパク質に付着していてもよい。
【0044】
更なる実施形態では、(電)磁性を調整するために、タンパク質/ペプチド結合部分にグリコシル化又はリン酸化などの修飾を行ってもよい。
【0045】
本発明の方法では、造影剤は、患者の体内の標的に結合することができる認識部分も含む。使用可能な標的の例は、癌腫/腫瘍、嚢胞(子宮内膜症性嚢胞など)、良性腫瘍、心血管斑、神経斑(アルツハイマー病で見られるもの、神経原線維濃縮体、及びβ−アミロイド斑など)、血管新生が生じている身体領域、アポトーシス及び壊死が生じている身体領域、血栓、例えば関節リウマチ及び糖尿病における炎症領域、並びに例えば細菌/真菌感染症などの感染性疾患の被感染身体領域である。具体的には、本発明の方法は、小さく且つ検出が困難な癌腫、及び他の方法では検出できない発生初期の二次性腫瘍を画像化することができる。細胞内ターゲティングも可能である。核局在化シグナルを認識部分として用いて、造影剤に核を標的とさせることができる。或いは、造影剤がゴルジ体又は細胞膜の内側を標的とするよう認識部分を選択してもよい。
【0046】
具体的には、認識部分は、腫瘍細胞の表面上で発現している抗原を認識することができる。一部の腫瘍は、該腫瘍表面上で様々な抗原を発現する。したがって、ベクターは、腫瘍細胞表面上の少なくとも2種の異なる抗原を認識し、結合する少なくとも2種の認識部分を含むことが特に好ましい。他の方法では、ベクターは、受容体の架橋及び複合体の内在化を達成するために少なくとも2種の認識部分を含む。
【0047】
上記標的に結合できる認識部分は、標的に対する結合に適している限り、それ自体いずれの種類の物質又は分子であってもよい。一般的に、認識部分は、抗体、抗体断片、受容体、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、ペプチド模倣体、核酸、オリゴヌクレオチド、及びアプタマーから選択される。本発明のより好ましい実施形態では、認識部分は、抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、T細胞受容体断片、アビジン、及びストレプトアビジンから選択される。認識部分は、抗体の単鎖可変部(sc−Fv)から選択されることが最も好ましい。
【0048】
抗体は、外来抗原の認識に関与し、脊椎動物で発現する免疫グロブリン分子である。抗体は、Bリンパ球又はB細胞として知られている特殊な種類の細胞により産生される。個々のB細胞が生成するのは1種の抗体のみであり、該抗体は単一エピトープを標的とする。B細胞が抗原に遭遇すると、該抗原を認識し、分裂し、抗体産生細胞(又は形質細胞)に分化する。
【0049】
大部分の抗体の基本構造は、2種の異なる種類の4本のポリペプチド鎖から構成される(図2)。小(軽)鎖の分子質量は、25キロダルトン(kDa)であり、大(重)鎖の分子質量は、50kDa〜70kDaである。軽鎖は、1個の可変(V)領域と1個の定常(C)領域とを有する。重鎖は、1個の可変領域(V)と抗体のクラスによって3個〜4個の定常(C)領域とを有する。重鎖の第1定常領域及び第2定常領域は、様々な長さのヒンジ領域によって隔てられている。2本の重鎖は、ジスルフィド架橋を介してヒンジ領域で連結されている。ヒンジ領域の下の重鎖領域は、Fc領域(結晶化可能断片)としても知られている。ヒンジ領域の上の軽鎖及び重鎖複合体は、Fab(抗体断片)領域として知られており、2個の抗体結合部位を合わせてF(ab)領域として知られている。重鎖の定常領域は、補体カスケードの分子及び細胞表面上の抗体受容体を含む免疫系の他の構成要素に結合することができる。抗体の軽鎖及び重鎖は、多くの場合ジスルフィド架橋により連結している複合体を形成し、該複合体は、可変末端で所定のエピトープに結合することができる(図2)。
【0050】
抗体の可変遺伝子は、突然変異、体細胞組み換え(遺伝子シャフリングとしても知られている)、遺伝子変換、及びヌクレオチド付加事象により形成される。
【0051】
定常領域を含まない抗体の抗原結合部を、単離に用いることができる。これは、例えば固形腫瘍への穿通に対する適応性の高い認識部分の設計に役立つ場合がある。Vドメイン及びVドメインは、Fv断片として細胞内で発現し得る。或いは、該2個のドメインは、小さなアミノ酸の短い鎖により連結されて、単鎖Fv断片(scFv)として知られている、分子量約25kDaの単一ポリペプチドを形成し得る(図5を参照)。リンカーは、scFvの結合及びスカフォールド領域に干渉しないセリン及びグリシンなどの少数のアミノ酸から構成される。
【0052】
scFv抗体は、以下を含む膨大な数の標的に対して産生され得る:
1.ウイルス:Torrance et al.2006.Oriented immobilisation of engineered single−chain antibodies to develop biosensors for virus detection.J Virol Methods.134(1−2)164−70
2.C型肝炎ウイルス:Gal−Tanamy et al.2005.HCV NS3 serine protease−neutralizing single−chain antibodies isolated by a novel genetic screen.J Mol Biol.347(5):991−1003)及びLi and Allain.2005.Chimeric monoclonal antibodies to hypervariable region 1 of hepatitis C virus.J Gen Virol.86(6)1709−16
3.癌:Holliger and Hudson.Engineered antibody fragments and the rise of single domains.Nat Biotechnol.23(9)1126−36。
【0053】
造影剤中において、認識部分は結合部分に付着する。「付着する」とは、本発明の状況では、特異的結合及び非特異的結合を含む任意の種類の付着を意味し、また認識部分によって結合部分が内封されることをも含む。
【0054】
本発明の特に好ましい態様では、結合部分及び認識部分は、融合タンパク質の形態で付着している。本発明の状況では、融合タンパク質は、単一の組み換えタンパク質として発現しているタンパク質である。ベクターにおける融合タンパク質の使用は、多くの更なる利点を有する。造影剤中の融合タンパク質の認識腕部(例えばscFv)の配向が制御されるため、該融合タンパク質の標的に結合しやすくなる。また融合タンパク質は、単一融合タンパク質に複数の認識部分を組み込める可能性を高める。これら認識部位は、同じ標的に対するものであってもよく、異なる標的に対するものであってもよい。2以上の認識部分が存在する場合、磁性物質上の認識部分の空間構成を規定し、制御することができるため、立体障害及びランダムな結合により引き起こされる問題が減少する。融合タンパク質中の各認識部分を注意深く間隔をあけて配置すると(例えば発現系に核酸スペーサを組み込むことにより)、完成タンパク質の三次構造を制御して、空間的に選択された領域における認識部分をタンパク質表面全域に分散させることができる。融合タンパク質の結合部分と認識部分とは、リンカーにより隔てられていることが好ましい。リンカーの長さは、15アミノ酸残基未満が典型的であり、10アミノ酸残基未満が好ましく、5アミノ酸残基未満が最も好ましい。融合タンパク質を使用する更なる利点は、造影剤の各粒子中の認識部分の数を指定することができ、該認識部分の数が造影剤の全分子で同一になるという点である。
【0055】
更に、結合部分が、集合して粒子を形成する幾つかのサブユニットで構成されている場合、異なるサブユニットを用いてもよい。この方法では、一部のサブユニットが認識部分に付着し、他のサブユニットは認識部分に付着しない不均一な粒子を得ることができる。したがって、造影剤に含まれる認識部分の数は、様々な比のサブユニットを用いることにより制御することができる。これら粒子を作製して、立体障害の問題を避け、造影剤と標的とをより効率的に結合させることができる。
【0056】
融合タンパク質を用いる本発明の実施形態は、造影剤が、複数のフェリチンサブユニットである結合部分を含み、該サブユニットが、集合して、粒子の外表面上に認識部分が存在する粒子を形成するものである。かかる粒子は、磁性物質又は磁化可能物質を内封していてもよい。
【0057】
本発明の造影剤は、必要に応じて造影剤を破壊することができるように、結合部分と認識部分との間、認識部分内、又は結合部分が集合粒子である場合は粒子のサブユニット間に特異的切断部位を所望により組み込んでもよい。これは、具体的には、造影剤に特異的プロテアーゼ切断部位を組み込むことにより達成され得る。
【0058】
例えば、特定のプロテアーゼの切断部位をもたらす、ある長さのアミノ酸残基により結合部分のサブユニットを連結してもよい。使用中、造影剤がプロテアーゼに曝露されると、該造影剤は分解され、内封されていた磁性物質又は磁化可能物質を放出する。特定の細胞種又は組織においてのみ認識される特異的切断部位を用いてもよく、これにより選択的分解が行われる。或いは、切断部位は、プロテアーゼの作用により認識部分の上方のセグメントを除去して、異なる特異性を有する第2の認識部分を「露出させる」ことができるように、認識部分内に存在してもよい。
【0059】
<融合タンパク質の設計>
本発明では、融合タンパク質は、抗フィブロネクチンマウスモノクローナルIgG1抗体由来の可変領域を用いて設計されて、scFvドメインを産生することができる。フェリチンの重鎖及び軽鎖又はMT2遺伝子を用いて、抗体の磁性ドメインを産生することもできる。抗フィブロネクチン抗体の可変ドメイン遺伝子は市販されており、典型的にはプラスミドベクターにクローニングされて、scFvとして発現する。scFvは、以下の順序で翻訳され得る:
ATG開始コドン:(発現のための)リーダー配列:重鎖:グリシンセリンリンカー:軽鎖。
【0060】
<プラスミド作製>
ヒトフェリチンの重鎖及び軽鎖又はヒトMT2の遺伝子は、ヒトライブラリから得、適切に設計されたプライマーを用いてクローニングされ、末端に終止コドンを有する抗体軽鎖の3’末端において抗フィブロネクチンscFvプラスミドベクターに挿入することができる。フェリチンの重鎖及び軽鎖の3’末端に融合している遺伝子は、表面上ではなくフェリチン分子内で発現する場合がある。したがって、scFvフェリチン融合コンストラクトは、フェリチン重鎖のN末端(5’末端に対応する)にscFvを有する。scFvと、フェリチン又はMT2との融合タンパク質は、典型的には、終止コドンの前のタンパク質のC末端にヒスチジンタグ(6つのヒスチジン残基からなる)を有する。該ヒスチジンタグにより、ウエスタンブロッティングなどの用途においてタンパク質を検出することが可能になり、金属親和性カラム(ニッケルカラムなど)、又は金属結合機能が干渉する場合は他のタグ(例えばGST、β−ガラクトシダーゼ、HA、GFP)を用いて精製を行うことが可能になる。プラスミドを作製した後、遺伝子の配列を確認して、突然変異が生じていないことを保証することができる。
【0061】
図3bは、例示的なフェリチン融合タンパク質を図示する。scFv重鎖及び軽鎖は、それぞれ最初の2本の矢印により表されている。
【0062】
以下に記載する配列番号1の配列を用いた。
【化1】

【0063】
scFv重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列をイタリック体で表し、重鎖に下線を引く。太字のアミノ酸は、可変ドメインのCDR領域を表す。2箇所のグリシン/セリンリンカーを小文字で表す。2番目のグリシン/セリンリンカーは、標準文字で表されるフェリチンの重鎖及び軽鎖配列に隣接している。フェリチンについても重鎖に下線を引く。
【0064】
図4bは、例示的なMT2融合タンパク質を図示する。その配列を以下の配列番号2に表す。
【化2】

【0065】
scFv配列をイタリック体で表し、重鎖に下線を引く。CDRを太字で強調する。2箇所のリンカーを小文字で表す。2番目のリンカーは、標準文字で表されるメタロチオネイン配列に隣接している。
【0066】
scFv−フェリチン及びscFv−MT2融合タンパク質は、大腸菌株中で発現することができる。これは、典型的には、1つ又は他の数の融合タンパク質をコードするプラスミドを含む感受性大腸菌細胞を形質転換することにより達成される。発現プラスミドは、典型的には、細菌の翻訳及び発現のためのエレメントと、発現を高めるためのエンハンサ配列とを含む。しかし、融合タンパク質は、哺乳類発現系で発現することが好ましい。
【0067】
またプラスミドは、抗生物質耐性に関する配列を含んでいることが好ましい。抗生物質を含有している寒天栄養培地に細菌細胞を播種したとき、プラスミドを含んでいない細胞は分裂しない。プラスミドを含んでいる細胞は、個別のコロニーに増殖することができる。コロニー中の各細胞は、単一細胞又は「クローン」に由来する(したがって、このプロセスはクローニングとして知られている)。
【0068】
プレートからクローンを取り、抗生物質を含有している液体培地中で増殖させることができる。融合タンパク質の発現は、一般的に、誘導物質(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトプレノシド、即ちIPTG)の添加により開始される。回収する前に、限られた時間細胞をインキュベートしてもよい。尿素を用いて細胞を溶解させ、例えばSDS−PAGE及びウエスタンブロッティングなどにより溶解物を分析してもよい。
【0069】
<タンパク質の検出及び精製>
クローンのタンパク質発現プロファイルは、SDS−PAGE(ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動)及びウエスタンブロッティングを用いて評価することができる。これらアッセイでは、タンパク質を化学的に変性させる(β−メルカプトエタノールなどの化学物質を用いて硫黄結合を切断することにより、及び/又は結合内の静電電荷を失わせるSDSを添加することにより)。ゲルの最上部のウェルに細胞溶解物を添加する。次いで、ゲルに電流(DC)を印加すると、タンパク質はそのサイズに応じてゲル中を移動する。次いで、色素でゲルを染色することによりタンパク質を可視化する。(再度電流を用いることにより)分離されたタンパク質をニトロセルロース膜に転写し、特定のタンパク質をプローブとして反応させる。特定の酵素連結抗体をシート上でインキュベートし、基質(比色物質、発光物質、又は蛍光物質)を添加してタンパク質を可視化する。
【0070】
通常、最も発現量の多いクローンをラージスケール(1リットル)で増殖させる。上記のように細胞を誘導し、回収する。
【0071】
回収した細胞を溶解させ、例えば金属親和性クロマトグラフィーを用いてタンパク質を精製する。必要に応じて、フィブロネクチン親和性カラムを含む他の精製法を用いてもよい。
【0072】
<フェリチン及びscFv−フェリチンの磁化>
フェリチン中の鉄は、常磁性ではない。鉄は、通常Fe(III)の形態である。常磁性フェリチンを作製するために、タンパク質に損傷を与えることなしにフェリチン(最終的には、融合タンパク質)中の鉄を除去し、次いで鉄を常磁性形態(Fe(II))に置換した。
【0073】
酸化鉄には幾つかの形態が存在し、これら形態が全て等しい磁性を有する訳ではない。例えばFeO、Fe、及びFeである。マグネタイト又は磁鉄鉱としても知られている酸化鉄(Fe)、即ち四酸化三鉄が、最も磁性の強い形態である。
【0074】
造影剤は、例えば局所投与、経腸投与、又は非経口投与など、当該技術分野で知られているいずれの方法で患者に投与してもよい。好適な投与方法の例は、静脈内注入、皮下注入、筋肉内注入、腹腔内注入、吸入、又は摂取である。
【0075】
しかし、造影剤中に磁性物質又は磁化可能物質が存在することにより、特定の物理的手段を用いて身体の特定の領域に造影剤を導くことが可能になる。具体的には、電磁石と、体内への挿入に好適なエレメントとを備えるデバイス、例えば片方の端部に電磁石を備えるカテーテルを用いてもよい。電磁石のスイッチを入れている間、造影剤はカテーテルに付いている。カテーテルを体内に挿入し、例えば血栓の疑いのある領域などの対象部位に移動させる。一旦カテーテルが適切な位置に配置されると、電磁石のスイッチを切り、造影剤を近辺に放出させる。
【0076】
同様に、一旦撮像を行った後、前記デバイスを用いて患者の身体から造影剤を除去する、又は実質的に除去することができる。具体的には、(例えば、高解離定数を有するscFvを用いて)結合親和性/親和力が制御可能である場合、免疫細胞又は小さな腫瘍などの「遊離」細胞に造影剤が結合している場所で除去を行うことができる、又は透析が用いられる。
【0077】
また本発明は、少なくとも2種の造影剤を用いて患者の画像を1枚以上得るためのイメージング方法であって、各造影剤が異なる結合部分及び/又は異なる認識部分を含むイメージング方法を提供する。
【0078】
具体的には、かかる方法における各造影剤の磁性は、用いられる他の造影剤と区別することができる。これは、各造影剤が他の造影剤とは異なる磁性物質又は磁化可能物質の組み合わせを有する及び/又は各造影剤が一種類の磁性物質又は磁化可能物質を他の造影剤とは異なる量で有することにより、達成される。典型的には、造影剤は、それぞれ同種(例えばFe)であるが、異なる量存在する磁性物質を有する。幾つかの実施形態では、他の造影剤とは異なる組み合わせの磁性物質(例えばFe及びCo;Fe及びMn;Co及びMnなど)を使用して、各造影剤が他の標識とは異なる性質を有することを保証できる。該組み合わせは、各造影剤が単一物質を有するが、各物質は各造影剤によって異なる(例えばFe;Co;Mnなど)セットを含む。
【0079】
実際には、特定の強度の磁場を用いて撮像された画像において各造影剤を別個に特定できるように、各造影剤が異なる磁性タンパク質/ポリペプチド/ペプチドを含む。したがって、2種の異なる造影剤を一緒に用いて、患者の体内の各造影剤の位置を1回のイメージングセッションで特定することができる。
【0080】
また本発明は、イメージング方法で用いるための製品に関する。具体的には、本発明は、イメージング方法において使用するのに好適な造影剤組成物であって、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が、磁性物質又は磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記組成物が、任意的に、造影剤組成物で使用するのに好適な更なる成分を含有している造影剤組成物を提供する。
【0081】
好ましい実施形態では、更なる成分は、賦形剤、担体、溶媒、希釈剤、アジュバント、及びバッファから選択される。
【実施例】
【0082】
次に、一例として以下の実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0083】
(実施例1:インビボイメージング方法)
本発明の方法を以下に記載のように用いて、癌患者の治療中の固形腫瘍の大きさ及び広がりをモニタすることができると考えられる。
【0084】
常磁性粒子を内封しているフェリチン結合部分と、認識部分とを含む融合タンパク質を作製する。具体的には、前記認識部分は、腫瘍細胞表面上で発現している受容体に対して特異的な抗体に由来するscFv部である。かかる融合タンパク質は、当該技術分野で周知である組み換え技術により作製できる。
【0085】
医療用途に好適な薬剤処方においては、融合タンパク質は、患者の身体の腫瘍近辺に注入される。短時間後、患者を磁気共鳴撮像機内に配置し、腫瘍の存在する身体領域から画像を収集する。
【0086】
以下の実験の詳細は、融合タンパク質の認識部分及び結合部分を作製し得る方法について示す。
【0087】
(実施例2:融合タンパク質の設計及び作製)
本発明を例証するために、市販のマウス抗フィブロネクチン抗体を用いて、融合タンパク質を設計した。短い可動性リンカーによりMT2又はフェリチンのいずれかに遺伝的に連結している抗フィブロネクチンscFvからなる融合タンパク質を作製した。この実施例は、融合タンパク質の構築、該融合タンパク質の特徴付け及び単離について詳述する。
【0088】
抗フィブロネクチンフェリチン又はMT2融合タンパク質の設計は、マウス抗フィブロネクチン抗体のV遺伝子及びV遺伝子のベクターへのクローニングに基づいていた。該V遺伝子及びV遺伝子は、小さな非荷電アミノ酸から構成される短い可動性リンカーにより連結されていた。V遺伝子の3’末端の直後において、別の短い可動性リンカーがフェリチン遺伝子又はMT2遺伝子のいずれかにつながっていた。両方の融合タンパク質は、ニッケルカラムで精製するための6−ヒスチジン領域を有していた。融合タンパク質の翻訳は、フェリチン軽鎖遺伝子又はMT2遺伝子の3’末端に挿入されている終止コドンで終結した。これらエレメントを全て含むプラスミドベクターを用いて、発現用細菌を形質転換した。
【0089】
フェリチン及びMT2遺伝子は、cDNAライブラリから入手した。cDNAライブラリは、細胞又は組織からmRNAを得、逆転写酵素として知られている酵素を用いて該mRNAをcDNAに逆転写し、各個別のcDNAをプラスミドベクターにクローニングすることにより形成される(図6を参照)。
【0090】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の作製>
<<背景>>
フェリチンは、直径12nm、分子量480kDaのタンパク質である。該タンパク質は、鉄を包む大きな空洞(直径8nm)からなる。該空洞は、非共有結合により保持されている4へリックスバンドルに折り畳まれた24個のフェリチンポリペプチドの自発性集合により形成される。フェリチンのアミノ酸配列、延いては二次構造及び三次構造は、動物と植物との間で保存されている。細菌のタンパク質構造は、真核生物と同じであるが、配列は異なる。脊椎動物では、2種のサブユニット(重鎖(H)及び軽鎖(L))がフェリチンを形成しており、それぞれのサブユニットが触媒活性(H)オキシダーゼ部位及び触媒不活性(L)オキシダーゼ部位を有している。重鎖と軽鎖との比は、要件によって変化する。融合タンパク質の構築で用いられるフェリチン重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列は、以下の通りである。
フェリチン重鎖(分子量21,096.5Da):
MTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNES(配列番号3)
フェリチン軽鎖(分子量20,019.6Da):
MSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号4)
【0091】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とフェリチン重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):
LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTSRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMTTASTSQVRQNYHQDSEAAINRQINLELYASYVYLSMSYYFDRDDVALKNFAKYFLHQSHEEREHAKLMKLQNQRGGRIFLQDIKKPDCDDWESGLNAMECALHLEKNVNQSLLELHKLATDKNDPHLCDFIETHYLNEQVKAIKELGDHVTNLRKMGAPESGLAEYLFDKHTLGDSDNESMSSQIRQNYSTDVEAAVNSLVNLYLQASYTYLSLGFYFDRDDVALEGVSHFFRELAEEKREGYERLLKMQNQRGGRALFQDIKKPAEDEWGKTPDAMKAAMALEKKLNQALLDLHALGSARTDPHLCDFLETHFLDEEVKLIKKMGDHLTNLHRLGGPEAGLGEYLFERLTLKHD(配列番号1)
ポリペプチド構成要素の分子量は、65.550kDaであった。
【0092】
<<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからフェリチン重鎖遺伝子及びフェリチン軽鎖遺伝子を増幅させた(図7aを参照)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜540bp)であった。オーバーラップPCRを用いてこれらPCR産物を用いてライゲーションした(図7b−PCR産物は、予想されたサイズである)。
【0093】
オーバーラップPCR産物をゲル精製し、配列解析のために配列決定ベクターにライゲーションした。これは、フェリチン重鎖及び軽鎖がオーバーラップしている遺伝子を含む配列決定ベクターで細菌を形質転換することを含む。次いで、形質転換された細菌を抗生物質含有プレート上に広げ、クローンを分離させた。細胞を一晩インキュベートして、コロニーを形成させた。次いで、個々のクローンをプレートから取り、液体培地中で増殖させた。各クローン由来のプラスミドを単離し、PCRを用いて分析した(図7c)。クローン4が、予想される配列を含んでいることが見出された。したがって、この後の全ての更なる研究では、このクローン由来のDNAを用いた。
【0094】
マウス抗ヒトフィブロネクチン抗体の可変重鎖及び軽鎖遺伝子を、モノクローナルハイブリドーマからPCRで増幅させた。これら遺伝子は、可動性リンカー領域により既に連結され、scFVを形成していた。PCRを用いてこのscFv遺伝子融合体を増幅させた。フェリチンポリジーンオーバーラップ産物と並んで、このscFv遺伝子融合体増幅産物を図8aのDNAゲルに見出すことができる。明らかなバンドをゲルから切り出し、DNAを精製した。次いで、これを更なるオーバーラップPCRで用いて、scFv及びフェリチンポリジーンを複合体化させた(図8b)。矢印で示すバンドは、scFv:フェリチン融合体の予想されるサイズのバンドである。これを切り出し、更に使用するためにDNAを精製した。
【0095】
これを行うために用いられたプライマーは、プラスミドにライゲーションするために、エンドヌクレアーゼ(二本鎖DNAの特定の配列を切断することができる酵素)でDNAを切断できる配列を含んでいた。
【0096】
ゲル精製後、制限酵素(エンドヌクレアーゼ)BamHI及びEcoRIを用いて、scFv:フェリチンPCR産物を切断した。次いで、精製された切断産物を2つの発現ベクター:pRSET及びpET26bにクローニングした。上記の通りクローンを単離し、陽性クローンを同定するためのPCRの結果を図9に見出すことができる。
【0097】
配列解析のために、プラスミドpRSETを含むセットからコロニー3〜5、及び7と、プラスミドpET26bを含むセットからコロニー6を選択した。
【0098】
得られたデータは、pRSETのクローン4及び5と、pET26bのクローン6が、scFv:フェリチンコンストラクトを含んでいることを示した。pRSETのクローン4をタンパク質発現に用いた。
【0099】
<<抗フィブロネクチンscFv:フェリチン融合タンパク質の発現>>
融合タンパク質の発現を確認するために、LBブロス(Luria−Bertaniブロス:1リットル当たり10gのトリプトン、5gの酵母抽出物、10gのNaCl)中で5mLの培養物3つを増殖させた。様々な時間、IPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトプレノシド)を用いて細胞のタンパク質発現を誘導した。次いで8Mの尿素で培養物を溶解させ、SDS−PAGEを用いて分析した。クマシーブルーを用いてゲル中のタンパク質内容物を染色した(結果は図10を参照)。抗ポリヒスチジン抗体を用いてウエスタンブロットを実施し、融合タンパク質を特異的に同定した(図10)。
【0100】
接種の2時間後、3時間後、及び4時間後の時点で誘導を行った。
【0101】
ブロット中に見られるバンドは、融合タンパク質が発現しており、且つ抗ヒスチジン抗体を用いて該融合タンパク質を検出できることを示した。ポリペプチドのサイズは、約75kDa〜約85kDaであった。発現量は比較的多く、クマシーブルーで染色したゲル中に見られる非常に暗いバンドに対応する融合タンパク質のバンドと比べて高発現していることは明らかであった。接種の3時間後に誘導することにより、比較的高水準の発現が得られたため、これを次の発現のために用いた。
【0102】
<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質の作製>
<<背景>>
メタロチオネインは、細胞内に存在する低分子量のシステインリッチなタンパク質である。これらタンパク質は、全ての真核生物で見出され、強力な金属結合能及びレドックス能を有している。MT−1及びMT−2は、様々な金属、薬剤、及び炎症メディエータにより肝臓において急速に誘導される。MT2は、カルボキシル(α−ドメイン)末端及びアミノ(β−ドメイン)末端において2つの金属結合クラスタを介して7つの二価遷移金属に結合する。20個のシステイン残基が、結合プロセスに関与している。
【0103】
MT2の配列は、以下の通りである:
MDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号5)。
【0104】
抗フィブロネクチンscFvアミノ酸配列と合わせた、融合タンパク質の単一ポリペプチドの予測配列は、以下の通りである(抗体重鎖遺伝子と抗体軽鎖遺伝子との間、及び抗体軽鎖とMT2重鎖との間のリンカー配列を小文字で強調する):LVQPGGSLRLSCAASGFTFSSFSMSWVRQAPGKGLEWVSSISGSSGTTYYADSVKGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCAKPFPYFDYWGQGTLVTVSSGDgssggsggASTGEIVLTQSPGTLSLSPGERATLSCRASQSVSSSFLAWYQQKPGQAPRLLIYYASSRATGIPDRFSGSGSGTDFTLTISRLEPEDFAVYYCQQTGRIPPTFGQGTKVEIKsgggMDPNCSCAAGDSCTCAGSCKCKECKCTSCKKSCCSCCPVGCAKCAQGCICKGASDKCSCCAPGSAGGSGGDSMAEVQLLE(配列番号2)。
【0105】
<<抗フィブロネクチン:MT2融合タンパク質遺伝子の組立>>
PCRを用いてヒト肝臓cDNAライブラリからメタロチオネインII遺伝子を増幅させた(図11)。PCR産物は、予想されたサイズ(〜200bp)であった。
【0106】
BglII制限酵素を用いてPCR産物を切断し、既に切断されているプラスミド(Xa因子ベクター)にライゲーションした。
【0107】
選択されたクローンのコロニーPCRにより、選択された全てのクローンのバンドが見られた(図12)。配列解析のためにクローン2、4、及び9を選択した。更なる研究ではクローン9を用いた。
【0108】
<<抗フィブロネクチンscFv:MT2融合タンパク質の発現>>
scFv:MT2融合タンパク質の発現を確認するために、フェリチン融合タンパク質のように、様々な時点において(IPTGで)誘導されたLBブロス中で5mLの培養物を3つ増殖させた。8Mの尿素を用いて培養物を溶解させ、クマシーブルーで染色したSDS−PAGEゲルを用いて分析し、抗ヒスチジン抗体を用いてブロットした(図13)。接種の4時間後に誘導された細胞は、僅かに多いタンパク質を産生した(両方のゲルのレーン3)。これら増殖条件を後のタンパク質発現で用いた。
【0109】
<<融合タンパク質の精製>>
封入体を単離し、洗浄し、再可溶化させることによる可溶性タンパク質の単離を行った。
【0110】
プロトコルの完了には約1週間かかった。クマシーブルーで染色されたゲルの写真と、再可溶化されたscFv:フェリチン融合タンパク質及びscFv:MT2融合タンパク質のウエスタンブロットの写真とを、図14中に見出すことができる。融合タンパク質を丸で囲んだ。両方のゲルのレーン2がフェリチンであり、両方のゲルのレーン3がMT2である。レーン1は、タンパク質分子量ラダーである。
【0111】
これから、融合タンパク質がうまく発現し、濃縮されていることが分かる。磁化プロトコル及び更なる実験でこれらタンパク質を用いた。
【0112】
(実施例3:SPR分析)
SensiQ機器(ICX Nomadics)を用いる表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイにおいて、抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質及び抗フィブロネクチンMT2融合タンパク質の封入体調製物を用いた。
【0113】
これら実験では、フィブロネクチンペプチドをカルボキシルチップ表面にカップリングさせた。次いで、融合タンパク質調製物をチップ上に流し、会合速度(K)及び解離速度(K)を測定した。
【0114】
<分析用融合タンパク質サンプル>
以下の表2及び表3に記載されるランニングバッファ中で0.0013μM〜0.133μMの濃度の融合タンパク質のサンプルを6種作製した。
【表2】

【表3】

【0115】
<メタロチオネイン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのメタロチオネイン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0116】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(K、K)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図15aに示す。0.00503s−1のKに対し、2.289×10−9MのKが得られた(Kは2.197×10−1−1)。
【0117】
<フェリチン>
サンプル(サイクル1〜6)=0.0013μM〜0.133μMのフェリチン融合タンパク質20μL
アッセイラン=Mab&Glyアッセイサイクル(上記の通り)
【0118】
SensiQ Qdat分析ソフトウェア、及び動態パラメータ(K、K)を算出するためのデータに適合したモデルを用いて上記サイクルのセンサグラムを重ねた。Kの最良推定値は、データの解離部分にのみモデルを適合させることにより得られた。結果を図15bに示す。0.00535s−1のKに対し、6.538×10−10MのKが得られた(Kは8.183×10−1−1)。
【0119】
<結果>
上記実験データから、フィブロネクチンのエキストラドメインB(aa16〜42)抗原が、うまくSensiQチップ上にコーティングされたことが分かった。予想通り、75kDaのメタロチオネイン融合タンパク質及び270kDaのフェリチン融合タンパク質の両方が、抗原を特異的に認識し、結合した。融合タンパク質と抗原との相互作用に関する動態データを推定し、両方の融合タンパク質の動態データが類似しており、大部分の抗体/抗原相互作用の範囲である10−8M〜10−10Mと比べて、両方の融合タンパク質について予想される範囲であること、即ち、Kが10−9Mの範囲であることを見出した。
【0120】
したがって、この機器を用いて得られた値は、比較的親和性の高い抗体の結合親和性に匹敵する結合親和性を示唆する。更に、得られたデータは、融合タンパク質が、抗原に対する複数の結合部位を有することを示唆する。このことは、フェリチン融合タンパク質については予想されていた。しかし、MT2融合タンパク質については予想されておらず、MT2融合タンパク質は、二量体又はより高次の多量体タンパク質を形成しているため、結合親和力が増加していることが示唆された。
【0121】
(実施例4:フェリチンの磁化)
フェリチンは、通常水和酸化鉄(III)を含む。常磁性フェリチンを作製するために、より強い磁性を有するマグネタイト(Fe)にこれらイオンを置換した。この実験に用いられる方法には、制御条件下でアポフェリチンの鉄イオンを添加し、これらイオンを酸化させることが含まれていた。
【0122】
<材料>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma A3641)
【0123】
<方法>
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱し、MeNを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加し、0.07M溶液を作製した。使用前に鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0124】
AMPSOバッファ(1リットル)を、1時間Nで脱気した。3.0mLのアポフェリチン(66mg/mL)をAMPSOバッファに添加し、該溶液を更に30分間脱気した。1リットルの容器中のAMPSO/アポフェリチン溶液を、65℃に予め加熱しておいた水浴中に入れた。該溶液中からN供給管を取り出し、該溶液の表面上に浮かせて該溶液を嫌気条件下に維持した。硫酸アンモニウム鉄の最初の添加により、溶液中に存在する可能性のある任意の残留酸素イオンを除去する。
【0125】
0.1Mの硫酸アンモニウム鉄及びTMAバッファのアリコートを以下のように15分間に1回添加した。
添加1回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL
添加2回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加3回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加4回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄600μL及びTMA400μL
添加5回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加6回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加7回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
添加8回目 0.1Mの硫酸アンモニウム鉄900μL及びTMA600μL
【0126】
Fe及びTMAの後半の添加時には、溶液の色が淡黄色から暗茶色に変化し、暗色沈殿が全体に分散した。この溶液を、この時点から「マグネトフェリチン」と呼ぶ。
【0127】
強いネオジムのリング状磁石を瓶に押しつけた状態で、マグネトフェリチン溶液を一晩室温でインキュベートした。次の日、図16の写真から分かるように、暗色固体物質が磁石に引き寄せられていた。
【0128】
<マグネトフェリチンの濃縮>
500mLのマグネトフェリチン溶液を、磁石上の5つのMacs(登録商標)LSカラムに通した(約100mLのマグネトフェリチンが各カラムを通過した)。カラムを通過した溶液(「フロースルー」と呼ばれる)をDuran瓶に回収した。磁石からカラムを取り外し、3mLのPBSを添加し、供給されているプランジャを用いることにより、3mLのPBSを用いて捕捉された物質を各カラムから溶出し、各カラムから約4.5mLを得た。後で分析するために、約1mLを2℃〜8℃で保存した(「透析前濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶出された溶液の残り(〜20mL)を4℃で一晩5リットルのPBSで透析し、過剰のFe及びTMAを除去した(「透析後濃縮マグネトフェリチン」と呼ぶ)。溶液の色の変化を記録した。マグネトフェリチンは元来暗茶色であったが、フロースルーは淡黄色になり、Macs(登録商標)カラムで濃縮された物質は、暗茶色〜黒色であった。
【0129】
透析管(Medicell International Ltd.、分画分子量12〜14,000ダルトン、〜15cm)をRO水中で10分間インキュベートし、管を柔らかくした。磁性的に単離して濃縮したマグネトフェリチンを透析管に移し、一晩撹拌しながら2℃〜8℃で5リットルのPBS中にてインキュベートした。2℃〜8℃で透析を続けながら、PBS溶液を3回交換し、次の日は2時間間隔で交換した。
【0130】
<マグネトフェリチンの分析>
磁石を用いて単離された磁性タンパク質の量を比較するために、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を実施した。
【0131】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL RO水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・ウマ脾臓アポフェリチン(Sigma Aldrich A3641)
・ウサギ抗ウマフェリチン抗体(Sigma Aldrich F6136)
・ヤギ抗ウサギ抗体(Sigma A3687)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0132】
<<方法>>
マグネトフェリチンを定量するために、アポフェリチンの希釈液(50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.25μg/mL、3.125μg/mL、及び1.5625μg/mL)を作製した。
【0133】
マグネトフェリチン(未精製)、透析前濃縮マグネトフェリチン、透析後マグネトフェリチン、及びフロースルーを、以下のように炭酸塩バッファで希釈した。
マグネトフェリチン、透析前、及び透析後の希釈:
100倍希釈、200倍希釈、400倍希釈、800倍希釈、1,600倍希釈、3,200倍希釈、6,400倍希釈、及び12,800倍希釈
フロースルー:
10倍希釈、20倍希釈、40倍希釈、80倍希釈、160倍希釈、320倍希釈、640倍希釈、及び1,280倍希釈
【0134】
100μLの各溶液を、二連でマイクロタイタープレートのウェルに添加した。炭酸塩バッファ(100μL)を陰性対照として2つのウェルに添加した。プレートを4℃で一晩インキュベートした。次の日、溶液を軽くはじき飛ばし(flicked off)、室温で1時間、200μLの1質量%BSAを用いてブロッキングした。1ウェル当たり300μLのPBSで3回洗浄した後、ウェルを軽く叩いて乾かし、10μg/mLの抗ウマフェリチン抗体100μLを添加した。これを室温で1時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。AP複合体化抗ウサギ抗体を、7.43μg/mLの濃度になるようPBSで3,500倍に希釈し、室温で1時間インキュベートした。抗体複合体を除去し、上記のようにウェルを洗浄した。AP基質(100μL)を各ウェルに添加し、15分間顕色させた後、停止液を添加した。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher)を用いて吸光度を記録した。
【0135】
Macs(登録商標)カラムは、フロースルー中に見出されたマグネトフェリチンの量の35倍のマグネトフェリチンを保持しており、これはタンパク質の磁化が成功したことを示す。
【0136】
<アポフェリチンの作製/ウマ脾臓フェリチンの鉱質除去>
<<材料>>
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・チオグリコール酸(Sigma T6750)
・ウマ脾臓フェリチン(Sigma 96701)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0137】
<<方法>>
透析管をRO水中で10分間柔らかくした。0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ10mLを、切り取った透析管中のウマ脾臓フェリチン(125mg/mL)1mLに添加した。1時間窒素パージしておいた0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(〜800mL)中に透析袋を移した。チオグリコール酸(2mL)をバッファに添加し、2時間窒素パージを続けた。更なる1mLのチオグリコール酸を酢酸ナトリウムバッファに添加し、その後更に30分間窒素パージを行った。酢酸ナトリウムバッファ(800mL)を交換し、窒素パージを続けた。フェリチン溶液が無色になるまで、鉱質除去手順を繰り返した。窒素パージを停止し、撹拌しながら1時間PBS(2L)でアポフェリチン溶液を透析した。PBSを交換し(3リットル)、一晩2℃〜8℃にてPBSでアポフェリチン溶液を透析した。
【0138】
<<結果>>
フェリチン溶液の色は、手順中に淡茶色から無色に変化し、これは鉄が除去されたことを示す。
【0139】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質に対する熱処理の分析>
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)
・1質量%のウシ血清アルブミン(BSA(Celliance 82−045−2))−PBS溶液
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNCカタログ番号:468667)
【0140】
<<方法>>
100μL(100μg/mL)のscFv:フェリチンを薄壁PCRチューブに移し、60℃で30分間サーモサイクラー内にて加熱した。
【0141】
マイクロタイタープレートのウェルを、炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈したフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてプレートをブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBSでプレートを3回洗浄した。scFv:フェリチン融合タンパク質及び熱処理したscFv:フェリチン融合タンパク質を、33μg/mL(各100μL)の濃度でウェルに添加した。フェリチン融合タンパク質を室温で2時間インキュベートした後、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積で各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を希釈し(50μL+950μLのPBS)、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。全てのウェルに基質を添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した。
【0142】
scFv:フェリチンは、フィブロネクチンに対する結合能を保持しており、60℃で30分間加熱した後も抗ヒトフェリチンモノクローナル抗体により検出可能である(図18)。
【0143】
<抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質の鉱質除去>
<<材料>>
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ
・チオグリコール酸(70%w/w Sigma T6750)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
【0144】
<<方法>>
scFv:フェリチン融合タンパク質を、−20℃から室温に解凍した。100μg/mLの該融合タンパク質を9mL、柔らかくした透析管に分注した。該融合タンパク質を収容している管を、合計1mLの酢酸ナトリウムバッファですすぎ、これを9mLのタンパク質に添加した(0.9mg/mL溶液が得られた)。800mLの酢酸ナトリウムバッファを15分間窒素パージした後、透析袋を入れた。次いで、溶液を更に2時間パージした。窒素パージを続けていたバッファに、2mLのチオグリコール酸を添加した。更に2時間後、1mLのチオグリコール酸を更に添加した。バッファを交換し(3mLのチオグリコール酸を含有している予めパージした酢酸ナトリウムバッファ800mL)、窒素下で1時間透析を続けた。次いで、室温(N無)の2リットルのPBSに透析袋を移し、次いで3リットルのPBS中に移して4℃にて一晩放置した。次いで、鉱質除去された融合タンパク質を用いて、以下のように鉄添加及び制御酸化により常磁性融合タンパク質を作製した。
【0145】
<磁性scFv:フェリチンの作製>
<<材料>>
・逆浸透水(RO水)
・50mMのN−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(AMPSO)バッファ(pH8.6)(Sigma A6659)
・0.1Mの酢酸ナトリウムバッファ(pH4.5)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mMのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)(Sigma 317594)
・0.1Mの硫酸アンモニウム鉄(II)
【0146】
トリメチルアミン−N−オキシド(TMA)をオーブン内で30分間80℃に加熱して、MeNを除去した後、室温まで冷却した。114mgのTMAを15mLのRO水に添加して、0.07Mの溶液を作製した。使用前に、鉄及びTMA溶液を15分間窒素パージした。
【0147】
窒素下で撹拌しながら室温で2時間、1リットルのAMPSOバッファを用いて、透析袋(上に詳述した)内に収容されている鉱質除去された融合タンパク質を透析した。鉱質除去されたscFv:フェリチン(〜10mL)を三角フラスコに移した。窒素パージして残留酸素を除去しながら、鉱質除去されたタンパク質溶液に18μLの鉄溶液を添加した。25分後、15μLの鉄及び10μLのTMAを添加した。
【0148】
次いで、以下に記載する量の鉄及びTMAバッファを15分間隔で添加した。
添加3回目 鉄30μL+TMA20μL
添加4回目 鉄15μL+TMA10μL
添加5回目 鉄15μL+TMA10μL
添加6回目 鉄15μL+TMA10μL
【0149】
磁化されたタンパク質を、Macs(登録商標)LSカラムに通した。フロースルーをもう1度通過させ、捕捉効率を高めた。磁石からカラムを取り外し、1mLのPBSを添加し、プランジャを用いることにより、磁化されたタンパク質をカラムから溶出した(溶出液 約2mL)。これは、カラム上でタンパク質が2倍希釈されたことを表す。
【0150】
以下に詳述するような分析のために、溶出されたタンパク質及び対照をマイクロタイタープレートにコーティングした。
【0151】
<ELISAによるscFv:マグネトフェリチン融合タンパク質の分析>
磁化された融合タンパク質が、抗フェリチンモノクローナル抗体に対する結合能を保持しているかどうかを確認するために、酵素結合免疫吸着アッセイを行った。
【0152】
<<材料>>
・炭酸塩バッファ(0.159gの炭酸ナトリウム及び0.3gの重炭酸ナトリウムの100mL水溶液、pH9.6)
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(10mLのリン酸塩、140mMのNaCl、pH7.4)
・フィブロネクチンペプチド
・抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)
・抗ヒトフェリチンマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz SC51887)
・抗マウスアルカリホスファターゼ抗体(Sigma A3562)
・基質液体安定性フェノールフタレインリン酸塩
・停止液(212gの炭酸ナトリウム、110.5gの3−(シクロヘキシルアミノ)−1−プロパンスルホン酸(CAPS)、217gのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、80gの水酸化ナトリウム、5リットルになるまで水)
・Maxisorbマイクロタイタープレート(NUNC Cat:468667)
【0153】
<<方法>>
−融合タンパク質によるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで3倍希釈したscFv:フェリチン(未処理)、scFv:マグネトフェリチン、Macs(登録商標)カラムから溶出されたscFv:マグネトフェリチン、及びフロースルーでウェルをコーティングした。プレートを週末の間4℃でインキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、室温で1時間1質量%BSA−PBS溶液を用いてブロッキングした。これを軽くはじき飛ばし、PBS(各洗浄につき300μL/ウェル)を用いてプレートを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で1時間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図19aを参照)。
【0154】
−フィブロネクチンによるウェルのコーティング−
炭酸塩バッファで15μg/mLに希釈した100μLのフィブロネクチンペプチド(1.5mg/mLで供給)で、マイクロタイタープレートのウェルをコーティングした。該プレートを2℃〜8℃で一晩インキュベートした。過剰の溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。二連で適切なウェル(100μL)に、scFv:フェリチン融合タンパク質を未希釈で添加した。次いで、プレートを室温で1時間インキュベートした。溶液を軽くはじき飛ばし、300μLのPBSでウェルを3回洗浄した。マウス抗フェリチン抗体を20μg/mLの濃度で添加し、100μLの体積を各ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。これを、上記のように除去し、ウェルを洗浄した。ヤギ抗マウスAP複合体化抗体を10μg/mLに希釈し、100μLの体積を全てのウェルに添加した。これを室温で1時間インキュベートし、上記のように除去した。基質を全てのウェルに添加し、室温で45分間インキュベートし、停止液を用いて反応を停止させた。Varioskan Flash機器(Thermo Fisher Electron)を用いて吸光度を記録した(図19bを参照)。
【0155】
磁化された融合タンパク質をMacs(登録商標)カラムにより濃縮しても、該タンパク質は、依然としてモノクローナル抗フェリチン抗体により認識された。これは、抗フィブロネクチン−フェリチン融合タンパク質が、磁化されても構造的完全性を保持していたことを示す。また上記データは、磁化された抗フィブロネクチンフェリチン融合タンパク質が、その標的抗原に対する結合能を保持していることも示す。したがって、二機能性単鎖融合タンパク質は両方共磁化可能であり、標的に選択的に結合し得ることが示される。
【0156】
(実施例5:血小板の単離及びFACS分析)
抗フィブロネクチン:フェリチン融合タンパク質(scFv:フェリチン)が、フィブロネクチンを発現している血小板を他の種類の細胞から選択する能力を示すために実験を行った。
【0157】
大部分の細胞を定着させるために3日間4℃でEDTAバキュテナー内に保存していた血液サンプル由来の血漿を、30分間空気に曝露して、血小板を活性化させた。上記のように磁化されたscFv:フェリチン100μLを、10μLの該血漿と混合した。磁性融合タンパク質/血漿混合物を室温で30分間インキュベートした後(10μLを分析用に残した)、磁化され、且つ予め平衡化されているLS MACSカラム(Miltenyi Biotec)に通した。フロースルーを分析用に残した。市販のプランジャを用いてカラムから結合画分を溶出した。該画分をPBSで500μLに希釈し、蛍光活性化細胞選別(FACS)により前方散乱及び側方散乱を用いて分析した。
【0158】
結果を表4に示す。FACS分析では、設定されている数の事象(例えば10,000回)を記録するまでサンプルが分析されることを認識すべきである。したがって、サンプルの体積は、細胞の濃度によって大きく変動し得る。細胞濃度の高いサンプルを、細胞の多くが除去されているサンプルと比較するとき、これは特に重要である。細胞除去又は単離手順の効率を計算するとき、このサンプル体積の差を補正することが必要である。これを表4で行う。
【表4】

【0159】
この最適化されていない手順により、リンパ球に対してほぼ100%の選択性を有しながら、利用可能な血小板の90%が捕捉されたことが分かる。これは、scFv:フェリチンタンパク質のフィブロネクチンに結合する能力が血小板表面上で示されたことを示す。
【0160】
顕微鏡による目視検査の結果(結果は図示しない)がFACS分析の結果と相関していたことは、融合タンパク質が血小板に結合し、大きな粒状集合体の形成を導くことを示す。
【0161】
(実施例6:更なるプロトコル)
<scFv:MT2融合タンパク質の磁化>
scFv−MT2融合タンパク質は、亜鉛イオンをマンガンイオン及びカドミウムイオンに置換することにより磁化できる。これを行う方法は、必要に応じて最適化してもよい。これを達成する方法としては、必要に応じて既に公開されているプロトコルを変更した透析を用いて、透析した後置換を行うことにより亜鉛を枯渇させることが挙げられる。
【0162】
詳細には、これらプロトコルは以下の通りである。
1. 5mgのMT2を5mLのバッファ(4.5Mの尿素、10mMのトリス塩基、0.1Mのジチオスレイトール(DTT)、0.1質量%のマンニトール、及び0.5mMのPefabloc、pH11)を溶解させて、タンパク質の金属イオンを取り除く。
2. 同バッファで1時間透析する。
3. バッファ1(10mMのトリス塩基、2Mの尿素、0.1MのDTT、0.1質量%のマンニトール、0.5μMのPefabloc、及び1mMのCd2+/Mn2+、pH11)で72時間透析することにより、タンパク質を再度折り畳む。
4. 透析バッファをバッファ2に交換し(尿素の濃度が1Mであることを除いて上記の通り)、24時間透析する。
5. 透析バッファを、尿素を含有していない上記バッファに交換する。24時間透析する。
6. 工程5のように、透析バッファをpH8.8のバッファに交換する。24時間透析する。
7. 工程6のように、透析バッファをマンニトールを含有していないバッファに交換し、上記のように透析する。
8. 工程7のように、バッファをCd2+/Mn2+を含有しているバッファに交換し、24時間透析する。
【0163】
結合性は、フェリチン融合タンパク質について実施例3に記載したように評価することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤を用いて患者の画像を得るためのイメージング方法であって、前記方法が、前記造影剤の適するイメージング方法に患者を供する工程を含み、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)前記造影剤が患者の体内のある部位を標的とすることを可能にする認識部分と、
を含み、
前記結合部分が磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とするイメージング方法。
【請求項2】
造影剤を患者に投与する工程を更に含む請求項1に記載のイメージング方法。
【請求項3】
磁気共鳴画像法、核磁気共鳴法、又は電子スピン共鳴法である請求項1から2のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項4】
磁性物質又は磁化可能物質が常磁性物質である請求項1から3のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項5】
造影剤が結合部分と認識部分とを含む融合タンパク質を含有している請求項1から4のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項6】
造影剤の結合部分がラクトフェリン、トランスフェリン、フェリチン、鉄結合タンパク質、フラタキシン、シデロホア、及びメタロチオネインから選択されるタンパク質又はタンパク質の金属結合ドメインを含む請求項1から5のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項7】
造影剤の磁性物質又は磁化可能物質が遷移金属原子、ランタニド金属原子、遷移金属イオン、ランタニド金属イオン、並びに遷移金属イオン及びランタニド金属イオンを含む化合物の少なくともいずれかである請求項1から6のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項8】
遷移金属イオン及びランタニド金属イオンの少なくともいずれかが、Fe、Co、Ni、Mn、Cr、Cu、Zn、Cd、Y、Gd、Dy、又はEuのうちのいずれか1種以上を含む請求項7に記載のイメージング方法。
【請求項9】
1種以上の金属イオンがFe2+、Fe3+、Co2+、Co3+、Mn2+、Mn3+、Mn4+、Ni2+、Zn2+、Gd3+、及びCd2+のうちのいずれか1種以上を含む請求項8に記載のイメージング方法。
【請求項10】
造影剤の認識部分が細胞、細胞の構成要素、心血管斑、神経斑、血管新生が生じている領域、アポトーシスが生じている領域、及び血栓から選択される標的に結合することができる請求項1から9のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項11】
造影剤の認識部分が抗体、抗体断片、受容体断片、タンパク質、ポリペプチド、核酸、及びアプタマーから選択される請求項1から10のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項12】
認識部分が抗体の可変ポリペプチド鎖(Fv)、T細胞受容体、T細胞受容体断片、アビジン、ストレプトアビジン、及びヘパリンから選択される請求項11に記載のイメージング方法。
【請求項13】
認識部分が抗体の単鎖可変部(sc−Fv)から選択される請求項12に記載のイメージング方法。
【請求項14】
2種以上の造影剤を用い、各造影剤が、用いられる他の全ての造影剤と異なる磁性を有する請求項1から13のいずれかに記載のイメージング方法。
【請求項15】
イメージング方法において使用するのに好適な造影剤組成物であって、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含み、
前記組成物が任意的に、造影剤組成物で使用するのに好適な更なる成分を含有していることを特徴とする造影剤組成物。
【請求項16】
更なる成分が賦形剤、担体、溶媒、希釈剤、アジュバント、及びバッファから選択される請求項15に記載の造影剤組成物。
【請求項17】
造影剤が請求項1及び4から13のいずれかに記載のイメージング方法で用いられる造影剤である請求項15から16のいずれかに記載の造影剤組成物。
【請求項18】
患者の画像を得るための方法における造影剤の使用であって、前記造影剤が、
(a)結合部分と、
(b)認識部分と、
を含み、
前記結合部分が磁性物質若しくは磁化可能物質を結合乃至内封する金属結合タンパク質、ポリペプチド、又はペプチドを含むことを特徴とする使用。
【請求項19】
造影剤が請求項1及び4から13のいずれかに記載のイメージング方法で用いられる造影剤である請求項18に記載の使用。

【図15a】
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【図15b】
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【図17】
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【図18】
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【図19a】
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【図19b】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【公表番号】特表2011−519843(P2011−519843A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506736(P2011−506736)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/055320
【国際公開番号】WO2009/133203
【国際公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(507194084)アイティーアイ・スコットランド・リミテッド (30)
【Fターム(参考)】