説明

金属缶の製造方法及び金属缶

【課題】 VOCの排出濃度を削減でき、かつ外面塗料の使用量の削減した金属缶の製造方法
【解決手段】
薄い金属板をカッピング加工し、胴部を深絞り及びアイアニング加工し、1次洗浄・乾燥を経て、ベースコート塗料を塗装し、印刷工程、外面塗装工程等を経て、ネッキング加工し、2次洗浄・乾燥等が施される金属缶の製造方法において、
前記外面塗装工程において、水性外面塗料を用いることを特徴とする金属缶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属缶の製造方法及び金属缶に関し、さらに詳しくは、ねじ付金属缶、マキシキャップ用金属缶又はDI缶等の製造工程において、揮発性有機化合物(以下「VOC」という)の排出濃度を削減でき、かつ外面塗料の使用量の削減により、製造コストの低減化を図ることができる金属缶の製造方法及び金属缶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属缶用の外面塗料としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂又はポリエステル樹脂等を主体として、アミノ樹脂、フェノール樹脂などの硬化剤、触媒を配合した塗料が多く用いられている。又、近年キャップの再栓可能性の要求から、ねじ付金属缶が開発され市場に流出している。
【0003】
このようなねじ付金属缶は、例えばアルミニウム等の薄い金属板をカッピングし、さらに深絞り及びアイアニング加工した缶体に、ベースコート(加工度の高い部位には、サイズコート)が塗装され、焼付け乾燥され、その上に印刷インキにより所望の模様、文字等が印刷される。そして、その上に保護層として外面塗料が塗装される。次にネッキング加工により口部及び肩部が形成され、さらに、口部の外周にねじ加工が施されることにより、ねじ付金属缶が製造されている。この製造工程に用いられる外面塗料としては、溶剤系塗料と水性系塗料があり、例えば、溶剤系塗料の文献としては文献1があり、水性系塗料としては文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−16486号公報
【特許文献2】特開2008−7627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の溶剤系塗料を用いた金属缶の製造工程(特に乾燥工程)においては、溶剤系塗料からVOCが多く発生するという欠点があり、環境問題の側面において、大きな問題となっていた。 VOCは土壌や地下水を汚染し、大気中に放出されると光化学反応によりオキシダント等の発生に関与し、大気を汚染して人体に悪影響を及ぼすことが懸念されている。近年、改正大気汚染防止法に排出基準値が規定され、企業にとっては、VOC排出規制基準をクリアする対策を講じる必要に迫られている。そこで、従来の溶剤系塗料に代わる塗料が要求され、VOC削減のさらなる向上が望まれていた。金属缶の製造工程において、外面印刷に使用されるインキは、すでに水性塗料が使用されているが、トップコートの外面塗料は溶剤系塗料が多く、これが金属缶の製造工程におけるVOC濃度を高くしている要因となっていた。
【0006】
又外面塗装工程においては、外面塗料の薄肉化による外面塗料の使用量削減及び製造コスト低減化が要請されていた。さらに、従来ねじ付金属缶等の製造工程における加工度が高い、ネッキング工程及びねじ成形工程において、従来の水性外面塗料は、これらの成形工程において外面塗膜の亀裂や剥離対策に対して不十分であった。この発明は、このような課題に着目してなされたものであり、金属缶の製造工程において、VOCの削減を図ることができ、かつ金属缶の製造工程において、塗料の使用量を削減でき、製造コストの低減化を図ることができるとともに、加工度の高い部分に、より効果的な水性外面塗料を使用した、金属缶の製造方法及び金属缶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するため、請求項1記載の発明の解決手段は、薄い金属板をカッピング加工し、胴部を深絞り及びアイアニング加工し、1次洗浄・乾燥を経て、ベースコート塗料を塗装し、印刷工程、外面塗装工程等を経て、ネッキング加工し、2次洗浄・乾燥等が施される金属缶の製造方法において、前記外面塗装工程において、水性外面塗料を用いることを特徴とする金属缶の製造方法である。
【0008】
この課題を解決するため、請求項2記載の発明の解決手段は、本発明に係る製造方法の製造工程に、ねじ成形工程が導入されることを特徴とする金属缶の製造方法である。
【0009】
この課題を解決するため、請求項3記載の発明の解決手段は、前記水性外面塗料として、不揮発分と溶剤分と水分とから構成される缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料であって、
(a)前記不揮発分は、固形分が40〜50重量%である親水性ポリエステル樹脂とアミノ樹脂系硬化剤から成り、(b)前記溶剤分は、30〜40重量%である親水性有機溶剤から成り、(c)前記水分は、15〜20重量%であることを特徴とする缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料を用いることを特徴とする金属缶の製造方法である。
【0010】
この課題を解決するため、請求項4記載の発明の解決手段は、前記缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料の不揮発分に、適宜エポキシ樹脂、フェノール樹脂、レベリング剤、各種ワックス又は硬化促進剤を配合することを特徴とする金属缶の製造方法である。
【0011】
この課題を解決するため、請求項5記載の発明の解決手段は、前記缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料の溶剤分に、適宜炭化水素系又はエステル系の溶剤を配合することを特徴とする金属容器の製造方法である。
【0012】
この課題を解決するため、請求項6記載の発明の解決手段は、上記製造方法で製造されたことを特徴とする金属缶である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る金属缶の製造方法によれば、金属缶の製造工程において、VOCの大幅な削減を図ることができる効果を有する。又金属缶の製造工程において、塗料の使用量の削減により、製造コストの低減化を図ることができる効果を奏する。さらに、加工度の高い部位の製造工程において、塗膜の割れ、剥離をより効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る金属容器の製造方法において、各製造工程を示す図面。
【図2】本発明に係る金属容器の製造方法において、各製造工程を示す図面。
【図3】本発明に係る金属容器の製造方法において、ねじ成形工程を示す図面。
【図4】本発明に係る金属容器の製造方法において、ネッキング加工工程、ねじ成形工程及びカール成形工程で用いられるネッキングマシンを示した側面図。
【図5】本発明に係る金属容器の製造方法で製造された金属容器の実施態様を示した正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施例の一例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1〜図2は、本発明の実施例1を示すねじ付金属缶の製造方法の製造工程を示した図面である。本発明に係る製造工程において使用される水性外面塗料を用いて、ねじ付金属缶を製造した場合、通常の生産条件下での外面乾燥炉排風機からの排気中におけるVOC濃度を、約35〜40%削減可能となる。これは、大幅に溶剤分が削減できるという利点に結び付く。又外面塗料の使用量の削減については、従来溶剤型塗料に比較して、硬化性、反応性に優れるため、途膜硬度が上昇することにより、従来より薄い塗膜でも、外面途膜の物性、実用性を満足することができる。そして、ねじ部の滑性が向上する。
【0017】
又、ねじ成形性、ねじ部の滑性以外に、本発明に係る金属缶の製造方法においては、耐溶剤性、耐水性及び光沢が良好である。又従来の水性塗料と比較すると、ポリエステル樹脂の親水性向上により、高分子量化が可能であり、それに伴い加工密着性が向上する。又ポリエステル樹脂の親水性向上に伴い、逆に塗膜の耐水性が低下する傾向はあるが、アミノ樹脂比率をあげることにより塗膜の硬化性が向上した。
【0018】
本発明に係る水性外面塗料の実施例として、不揮発分と溶剤分と水分とから構成される缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料であって、(a)前記不揮発分は、固形分が40〜50重量%である親水性ポリエステル樹脂とアミノ樹脂系硬化剤から成り、(b)前記溶剤分は、30〜40重量%である親水性有機溶剤から成り、(c)前記水分は、15〜20重量%であることを特徴とする缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料を用いることを特徴とする金属缶の製造方法である。不揮発分は、主に親水性ポリエステル樹脂とアミノ樹脂系硬化剤から成るが、必要に応じて、エポキシ樹脂、フェノール樹脂の添加やレベリング剤や各種ワックス、硬化促進剤等の添加剤を配合することもできる。又溶剤分は、親水性有機溶剤であり、水と分離することなく混合できる有機溶剤が主成分であるが、アルコール系、ケトン系、グリコールエーテル系等、必要に応じて炭化水素系やエステル系溶剤を併用することも可能である。
【0019】
次に、本発明に係る製造方法を図面に基づいて順次説明する。図1(a)〜(g)及び図2(h)〜(m)は、本発明に係るねじ付金属缶の製造工程を示した図面である。まず、図1(a)に示すように、アルミニュウムの板材を深しぼり成形し(カッピング工程)、図1(b)で、胴部を再絞り成形及び胴部にしごき加工を施し、胴部を薄くした後(アイアニング工程)、図1(c)の口部先端のトリミング加工を経て(トリミング工程)、図1(d)の1次洗浄・乾燥工程を経る。次に、図1(e)でベースコートを塗装し(ベースコート工程)、次に図1(f)の印刷を経て、その上に外面塗装が施され、その後乾燥工程を経る。さらに、図1(g)の内面塗装・焼付工程を経て、図2(h)の口部及び肩部の外径を絞るネッキング加工工程に入る。ネッキング加工工程では、図4に示すネッキングマシン5が用いられる。次いで、図2(j)及び図3は、ねじ成形駒2を内側及び外側から金属缶1の口部2に当接して、口部2にねじ部2aを施す工程である(ねじ成形工程)。次に、口部先端のカール成形工程及び2次洗浄・乾燥工程を経て、製品である、ねじ付金属缶1が製造される。
【0020】
具体的に個々の製造工程において、上記塗料を使用した場合の利点について説明する。次に示す製造工程においては、特に本発明の効果が顕著である。図2(f)に示す印刷、外面塗装及び乾燥工程において、上記塗料を用いた場合、VOCの大幅な削減を図ることができる(表1参照)と共に、図2(j)のねじ成形工程において、金属缶のねじ部の塗膜の微小な割れを防止できるので、図2(l)の2次洗浄、乾燥工程において、金属缶のねじ部の塗膜の微小な割れの間に洗浄の水が入り、その後の乾燥により塗膜が剥離するのを完全に防止することができる。又、図1(f)に示すように、外面塗装工程において、上記水性塗料を塗装した場合、大幅な塗料の削減を図ることができる(表2参照)。さらに、図2(h)、(i)のネッキング加工工程、図2(j)及び図3のねじ成形工程において、従来公知の水性塗料と比較すると、本発明に係る金属缶の製造方法の製造工程に用いられる水性外面塗料は、絞り加工における塗膜の加工密着性により優れ、加工の際の塗膜の割れ、剥離が防止できる。又塗膜硬度の向上により、各工程間における搬送トラブルを減少でき、又ねじ部の滑性向上により、キャッピング後の開栓性が向上する。
【0021】
図3は、図2(j)ねじ成形工程を詳細に記載した図面である。図3に示すように、ねじ成形駒3を内側及び外側から、金属缶1の口部2に当接して、口部2にねじ部2aが形成され、図4は、図2(h)、(i)、(j)及び(k)の工程で用いられるネッキングマシン4の概略図であり、図5(a)〜図5(d)は、本発明に係る金属缶の製造方法により製造される金属缶の実施態様である。図5(a)は、ねじ付金属缶1、図5(b)は、首部にストレート部を有するねじ付金属缶10であり、図5(c)は、口部にマキシキャップが打栓される金属容器20、図5(d)は、通常のDI缶30である。
【0022】
A.次に、本発明に係る金属缶の製造工程におけるVOCの排出状況を、従来と比較評価した表1を以下に示す。
・水性外面塗料の組成;不揮発分:45%、溶剤分:35%、水分:20%
・測定場所;本発明に係る金属缶の製造工程において、VOCの排出規制が課せられた
製造工程の外面乾燥炉排風機
・測定方法;環境省告示第61号による方法(ピトー管法)
・分析方法;VOC計(GC−FID)による方法
【表1】

上記から、水性外面塗料組成中の水分が20%の場合、揮発分(溶剤分+水分)中の
水分量が36%となり、溶剤分が大幅に削減でき、又塗料使用量の削減による相乗効果により、表1に示すように、VOCの排出濃度を38.1%削減できた。平均で353ppmCであった。
B.本発明に係る金属缶の製造工程における外面塗料の使用量に関するデータを表2に示す。
・測定場所;本発明に係る金属缶の外面塗装工程
・測定方法;重量測定
【表2】

上記から、溶剤型塗料が、概ね70〜80mg/100cm2の塗膜量で塗装されるのに対して、水性外面塗料の場合は、概ね40〜50mg/100cm2の塗膜量で要求物性をクリアでき、塗料使用量を15.6%削減できた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明に係る金属缶の製造方法及び金属缶によれば、VOCの排出濃度を削減でき、かつ外面塗料の使用量の削減により、製造コストの低減化を図ることができるので、環境面及びコスト面において優れる。したがって、ビール、清涼飲料、健康飲料及び食品等の内容物を充填する金属缶の製造方法及び金属缶として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 金属缶
2 口部
3 ねじ成形駒
10 ストレート部を有するねじ付金属缶
20 マキシキャップが打栓される金属容器
30 DI缶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄い金属板をカッピング加工し、胴部を深絞り及びアイアニング加工し、1次洗浄・乾燥を経て、ベースコート塗料を塗装し、印刷工程、外面塗装工程等を経て、ネッキング加工し、2次洗浄・乾燥等が施される金属缶の製造方法において、
前記外面塗装工程において、水性外面塗料を用いることを特徴とする金属缶の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、ねじ成形工程が導入されることを特徴とする金属缶の製造方法。
【請求項3】
前記水性外面塗料として、不揮発分と溶剤分と水分とから構成される缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料であって、
(a)前記不揮発分は、固形分が40〜50重量%である親水性ポリエステル樹脂とアミノ樹脂系硬化剤から成り、
(b)前記溶剤分は、30〜40重量%である親水性有機溶剤から成り、
(c)前記水分は、15〜20重量%であることを特徴とする缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の金属缶の製造方法。
【請求項4】
前記缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料の不揮発分に、適宜エポキシ樹脂、フェノール樹脂、レベリング剤、各種ワックス又は硬化促進剤を配合することを特徴とする請求項3記載の金属缶の製造方法。
【請求項5】
前記缶外面用ポリエステル樹脂系水性塗料の溶剤分に、適宜炭化水素系又はエステル系の溶剤を配合することを特徴とする請求項3記載の金属容器の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5記載の製造方法で製造されたことを特徴とする金属缶。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−152923(P2011−152923A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13980(P2010−13980)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【出願人】(000238614)武内プレス工業株式会社 (72)
【Fターム(参考)】