説明

金属蒸着発熱体

【課題】スプラッシュの低減を可能としたボートを提供する。
【解決手段】二硼化チタンと窒化硼素及び/又は窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体からなり、金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の算術平均粗さ(Ra)の比が0.7〜1.3であるか、又は金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の最大高さ(Rmax)の比が0.7〜1.3であることを特徴とする金属蒸発発熱体である。この場合において、通電方向及び通電方向に対して垂直方向の算術平均粗さ(Ra)がいずれも2〜5μmであり、また通電方向及び通電方向に対して垂直方向の最大高さ(Rmax)がいずれも30〜60μmであること、算術平均粗さ(Ra)又は最大高さ(Rmax)の調整が、サンドブラスト処理によって行われていること、及び金属蒸発面にキャビティを有すること、の実施態様から選ばれた少なくとも一つを備えていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属蒸着発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属蒸発発熱体(以下、「ボート」ともいう。)としては、例えば二硼化チタン(以下、「TiB」ともいう。)と窒化ホウ素(以下、「BN」ともいう。)及び/又は窒化アルミニウム(以下、「AlN」ともいう。)を主成分とするセラミックス焼結体が知られており、上面にキャビティを形成させたものもある。市販品の一例に電気化学工業社製商品名「BNコンポジットEC」がある。使用方法の一例を示せば、通電加熱されたボート上面にアルミニウムなどの金属ワイヤーを連続的に供給しながら蒸発させ、その上部空間で、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のフィルムを巻き取りながらフィルム表面に金属を蒸着させ、金属蒸着フィルムを製造する方法である。蒸着フィルムは、食品包装材、フィルムコンデンサー等に用いられる。
【0003】
ボート寿命は、蒸着した金属の膜厚、膜厚分布、ピンホール数によって総合的に判断される。膜厚及び膜厚分布は、溶融金属に対するボートの耐食性に依存していることが知られているので、その更なる改善によって対応が可能である。一方、ピンホールについては、発生原因が複雑であるので対応が容易ではないが、原因の一つに、ボート上面における溶融金属のスプラッシュ(飛散)があることを本発明者は見いだしている。通電加熱方式でないルツボでは、ルツボ内に遮蔽板を設けてスプラッシュを低減することの提案(特許文献1)があるが、通電加熱方式のボートでは有効なスプラッシュの低減法はなく、またその提案もなかった。
【特許文献1】特開昭60−116769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、通電加熱方式に使用されるボートにあって、そのスプラッシュの低減を可能としたボートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、二硼化チタンと窒化硼素及び/又は窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体からなり、金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の算術平均粗さ(Ra)の比が0.7〜1.3であるか、又は金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の最大高さ(Rmax)の比が0.7〜1.3であることを特徴とする金属蒸発発熱体である。この場合において、通電方向及び通電方向に対して垂直方向の算術平均粗さ(Ra)がいずれも2〜5μmであり、また金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の最大高さ(Rmax)がいずれも30〜60μmであること、算術平均粗さ(Ra)又は最大高さ(Rmax)の調整が、サンドブラスト処理によって行われていること、更には金属蒸発面にキャビティを有すること、の実施態様から選ばれた少なくとも一つを備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、スプラッシュの低減を可能としたボート、特に通電加熱方式に使用されるボートが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のボートは、TiBとBN及び/又はAlNを必須成分とするセラミックス焼結体から構成されている。セラミックス焼結体は、TiBを35〜60質量%、BN及び/又はAlNを10〜65質量%含有することが好ましい。窒化珪素、アルミナ、シリカ、酸化チタン等の絶縁性物質や窒化チタン、炭化珪素、炭化クロム等の導電性物質は、合計で5質量%以内で含有させることができる。このようなセラミックス焼結体で構成されたボートは、溶融金属に対する耐食性が高いので、蒸着された金属の膜厚や膜厚分布が変化すること少なくなり、ボート寿命を延長させることができる。
【0008】
セラミックス焼結体は、TiBとBN及び/又はAlNとを含み、必要に応じて焼結助剤を含ませた原料粉末を成型した後、焼結することによって製造することができる。
【0009】
TiB粉末としては、金属チタンの直接硼化反応、チタニア等の酸化物の還元反応などの方法によって製造されたものが用いられ、平均粒子径は5〜20μmであることが好ましい。
【0010】
BN粉末としては、六方晶窒化硼素粉末、アモルファス窒化硼素粉末又はこれらの混合粉末を用いることが好ましい。BN粉末は、硼砂と尿素の混合物をアンモニア雰囲気中、800℃以上で加熱する方法、硼酸又は酸化硼素と燐酸カルシウムの混合物をアンモニウム、ジシアンジアミド等の含窒素化合物を1300℃以上に加熱する方法などによって製造することができる。得られたBN粉末を、窒素雰囲気中で加熱し結晶性を高めてから使用することもできる。BN粉末の平均粒子径は、10μm以下、特に5μm以下であることが好ましい。
【0011】
AlN粉末は、直接窒化法、アルミナ還元法などで製造されたものが用いられ、平均粒子径は10μm以下、特に8μm以下であることが好ましい。
【0012】
焼結助剤としては、アルカリ土類金属酸化物、希土類元素酸化物及び加熱によってこれらの酸化物となる化合物から選ばれた一種又は二種以上の粉末が用いられる。具体的には、CaO、MgO、SrO、BaO、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなど、更にはCa(OH)等の水酸化物や、MgCO等の炭酸塩等、加熱によってこれらの酸化物となる化合物などを例示することができる。焼結助剤の平均粒子径は5μm以下、特に1μm以下であることが好ましい。
【0013】
原料粉末は、好ましくは造粒してから成形・焼結される。焼結方法の一例を示せば、0.5〜200MPaの一軸加圧又は冷間等方圧加圧した後に、1700〜2200℃の温度で常圧焼結するか、又は1650〜2000℃、1〜100MPaのホットプレス又は熱間等方圧プレスである。
【0014】
焼結は、原料粉末の成型体を、黒鉛製容器、BN製容器又はBNで内張した容器等に収納して行うことが望ましく、特にホットプレス法では、黒鉛製又はBN製のスリーブ、BNで内張されたスリーブを用いることが望ましい。
【0015】
ボートは、セラミックス焼結体を適宜形状に機械加工することによって製造することができる。ボート形状の一例を示せば、全体寸法が、長さ80〜180mm×幅16〜50mm×厚み6.5〜11mmであり、キャビティを有するものにあってはその寸法が、長さ70mm〜170mm×幅12〜46mm×深さ0.5〜2.5mmである。長さ方向が通電方向となる。
【0016】
本発明のボートで採用されたスプラッシュの低減法は、金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の算術平均粗さ(以下、「Ra」ともいう。)の比を0.7〜1.3とするか、又は金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の最大高さ(以下、「Rmax」ともいう。)の比を0.7〜1.3としたこと、すなわち金属蒸発面の全体を粗面にしてできるだけ均一面にしたことである。これによって、スプラッシュの著大な低減効果を発現したことは全くの驚きである。従来のボートは、セラミックス焼結体をフライス盤加工、ダイヤモンドホイル等の機械加工を行って製造されたいたので、一方向あるいは特定方向に加工傷が残ってしまい、Raの比が6.0程度、Rmaxの比が2.5程度であったものである。
【0017】
本発明において、Raの比が0.7未満であるか、又はRmaxの比が0.7未満であると、通電方向の溶融金属の濡れ広がりが不十分となり、溶融金属に覆われていない部分が局所加熱されてスプラッシュが増加する傾向がある。一方、Raの比が1.3をこえるか、又はRmaxの比が1.3をこえると、溶融金属の濡れ広がりが旺盛となり、ボート端部の電極に溶融金属が到達し易くなり、これまたスプラッシュが増加する傾向となる。
【0018】
Raの比が0.7〜1.3又はRmaxの比が0.7〜1.3の範囲にあっても、通電方向のRaと、通電方向に対して垂直方向のRaとをいずれも2〜5μmとし、また通電方向のRmaxと、通電方向に対して垂直方向のRmaxとをいずれも30〜60μmとすることによって、一段とスプラッシュの低減効果を助長させることができる。
【0019】
Ra又はRmaxの調整は、サンドブラスト処理によって行われていることが好ましい。サンドブラスト処理条件の好ましい一例を示せば、アルミナ砥粒を用い、加工圧力0.1〜0.5MPa、処理時間1〜10分である。
【0020】
本発明のボートは、セラミックス焼結体の上面を溶融金属の蒸発面としてなるものであるが、金属蒸発面にキャビティを有させたものは溶融金属の這い上がりが小さくなるので好ましい。キャビティは、例えば機械加工、ウォータージェット等によって加工して形成することができる。
【0021】
Raの測定は、キャビティを有しないボートにあっては、ボート上面において、中心部と、端部から1mm内側の四隅との合計5カ所において走査距離を例えば4mmで測定し、その平均値をRaとする。キャビティを有するボートにあっては、キャビティ上面の中心部と、キャビティ加工面端部から1mm内側の四隅との合計5カ所において走査距離を例えば4mmで測定し、その平均値をRaとする。一方、Rmaxについても同様に測定した。測定は市販の表面粗さ計(例えば東京精密測機社製「サーフコム」)を用いて測定する。
【0022】
本発明のボートを用いて金属を蒸発させるには、1×10−1〜1×10−3Paの真空下、ボートを温度1450〜1650℃に抵抗加熱し、その上面に金属ワイヤーを1〜12g/分の速度で供給する。フィルムの巻き取り速度の一例は1〜15m/秒である。
【実施例】
【0023】
実施例1
TiB末(平均粒子径8.8μm、純度99.9質量%以上)44質量%、BN粉末(平均粒子径1.3μm、純度99質量%以上)55質量%及び酸化ストロンチウム粉末(平均粒子径 7μm)1質量%の原料粉末を、窒素雰囲気下、ボールミルで1時間混合して調製した。これを黒鉛ダイスに充填し、温度1850℃のホットプレス焼結をしてセラミックス焼結体(相対密度95.5%、直径200mm×高さ12mm)を製造し、その上面をアルミナ砥粒(100メッシュ)を用いた加工圧力0.25MPa、5分間のサンドブラスト処理をしてボートを作製した。
【0024】
実施例2
セラミックス焼結体上面中央部に、長さ120mm×幅27mm×深さ1mmのキャビティをダイヤモンドホイルを用いて形成させた後、3分間のブラスト処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0025】
実施例3、4
ブラスト処理時間を10分間としたこと(実施例3)、加工圧力を0.30MPaとしたこと(実施例4)以外は、実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0026】
比較例1
サンドブラスト処理を行わなかったこと以外は実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0027】
比較例2
キャビティ加工時にダイヤモンドホイルの研削砥粒番手を変えたこと、そしてサンドブラスト処理を行わなかったこと以外は実施例2と同様にしてボートを製造した。
【0028】
比較例3
加工圧力を0.05MPaとしたこと以外は実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0029】
比較例4
ブラスト処理時間を0.5分間としたこと以外は実施例1と同様にしてボートを製造した。
【0030】
得られたボートについて、上記に従いRa(走査距離は4mm)とRmaxを測定した。また、スプラッシュ数を以下の方法で測定した。それらの結果を表1に示す。
【0031】
スプラッシュ数の測定
ボートの17.5cm上空に100×100mmのSUS板を9枚設置し、5×10−1Pa以下の真空下で1550℃にボートを加熱しながら、ボート上面に5g/分の速度で1分間アルミニウムワイヤーを連続的に供給した。SUS板を取り出し、その表面を光学顕微鏡で観察して直径0.3mm以上のスプラッシュの数を数えた。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のボートは、例えばフイルム等に金属を蒸着するための通電加熱方式ボートとして用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二硼化チタンと窒化硼素及び/又は窒化アルミニウムを主成分とするセラミックス焼結体からなり、金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の算術平均粗さ(Ra)の比が0.7〜1.3であるか、又は金属蒸発面の通電方向に対する垂直方向の最大高さ(Rmax)の比が0.7〜1.3であることを特徴とする金属蒸発発熱体。
【請求項2】
通電方向及び通電方向に対する垂直方向の算術平均粗さ(Ra)がいずれも2〜5μmであり、また通電方向及び通電方向に対する垂直方向の最大高さ(Rmax)がいずれも30〜60μmであることを特徴とする請求項1に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項3】
算術平均粗さ(Ra)又は最大高さ(Rmax)の調整が、サンドブラスト処理によって行われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属蒸発発熱体。
【請求項4】
金属蒸発面にキャビティを有することを特徴とする請求項1〜3に記載のいずれかの金属蒸着発熱体。

【公開番号】特開2007−84871(P2007−84871A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274198(P2005−274198)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】